米国時間6月18日、Facebookは新しい暗号通貨システム、Libraと運営母体となるNPO、Libra Associationの設立を発表した。Libraのホワイトペーパーは他の暗号通貨ビジネスにも大きな反響を呼んでいる。ただし率直に表現すれば、LibraはBitcoinより銀行に近い。
メンバー限定のブロックチェーン
Libraはビザンチン・フォールト・トレランント性を組み込んでおり、マークルツリーによるハッシュ化を用いて取引記録の縮約を行うなど通常のBlockchainテクノロジーをベースとしている。
しかしBitcoinやEthereumなど現在ポピュラーな暗号通貨とは異なり、誰もが自宅で採掘のためのノードを動かすことができなるわけではない。Libra Association の正式メンバーだけがノードを持てる。現在ノード運営能力をもつメンバーは Vodafone、Mastercard、Visa、Stripe、Uber、Spotifyなど28社に限られている。
Libraは一見するとブロックチェーンだが本当に分散化されたブロックチェーンではない。取引内容を記録したレッジャーにアクセスできるのもLibra Associationの正式メンバーに限られる。Facebookないし運営協会のメンバーが公衆向けAPIを作れば別だが、 今のところLibraはオープンなプロダクトではない。
もちろん、Facebookはこの点を認識しており、5年以内に「誰もがノードを運営できるようにする」計画だと述べている。(略)
リセラーは事前認証が必要
Libraは安定した価値を提供するステーブルコインの一種だ。Libraは他種類の法定通貨や債権のバスケットとリンクしている。このためLibra Associationのメンバーが採掘ノードを稼働させて新たなLibraを創造する場合、非常に複雑な処理と監視が必要だ。また売却や保管は通貨や債権を金融機関が処理する方式に準ずる。
これと同様、ユーザーがLibraを米ドルと交換したい場合、Libra Associationは法定通貨の場合と同様売り注文を出さねばならない。
このため、Libraの売買にはLibra Associationに事前に認証されていなければならない。このためLibraのエコシステムにとってLibra Associationは運用の中心をなす規制団体となる。
これは暗号通貨の分散性の理想には反するものだ。消費者がLibraを利用して支払いを行いたいという場合、中小の金融機関は運営協会が認証したリセラーに仲介を以来する以外ない。Libra Associationはデジタルマネーに関するVISAやMastercardのような存在になる。
ただしUSDCなど他のステーブルコインも基本的に同様の考え方で運用されている。例えば、USDCを支払いサービスに利用したならまずCENTREコンソーシアムのメンバー資格を取得しなければならない。(略)
シャドー・バンキング
フランスのブルノ・ル・メール経済財務大臣が Europe 1のインタビューに答えて「Libraは(強制通用力を持った)法定通貨には絶対になり得ない」と強い口調で語った理由はここにある。 もちろんインフレ率の高い国ではステーブルコインであるLibraはヒットする可能がある。こうした場合、消費者だけでなく企業も取引に利用するようになるかもしれない。
しかし現在法定通貨を発行し、金融政策の舵取りをしている各国中央銀行はIMF(International Monetary Funds)のメンバーであり、営利企業の連合とは目的、性格が大きく異なる。
現在のLibra Associationのメンバーを考えれば。Libraが法定通貨に準ずる存在になる可能性はある。ベネズエラ、アルゼンチン、トルコ、南アフリカなど高インフレ率に悩まされている国で特にそうだ。しかしLibra Associationのメンバーは営利企業であり、金融政策の適切化を目的としていない。
EUは長年単一市場を目指してきたが、各国の予算、税制、金融政策に関して一致できたことは一度もない。同様に中国もシャドーバンキングの急激な拡大に伴い、金融におけるシステミックリスクに直面している。
Lbraは新たな巨大シャドーバンキングになる可能性があるため、各国政府は厳重な監視の必要性を感じている。民間企業の集合体であるLibra Associationはビジネス上の理由から一夜にして方針を変えかねない。例えば、Libraの価値を担保している信用紙幣と債権のバスケットからある国の信用紙幣を外す決定をするかもしれない。もし債権の売出しを始めたらどんな影響があるだろう?
要約すれば、Libra Associationが今後運営しようとしているのは準信用紙幣だ。すまり各国の金融当局とさまざまな面で激しい摩擦を予期しなければならない。安全なデジタルマネーを供給するというテクノロジー面だけでなく、いかにして金融政策との調和を図りながら組織を運営するかも困難な課題となるだろう。
画像:Getty Images
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