Y CombinatorのW20デモデーに参加したスタートアップ(ハードウェア、ロボット、AI、開発者向けツール)

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に対する懸念が高まる中、Y Combinator(Yコンビネーター)はこれまで慣れ親しんできた2日間にわたる米国サンフランシスコでの会合からイベントの開催方式を切り替え、デモデーのウェブサイトを通じて、招待された投資家とメディアにクラス全体を同時公開する方法で開催することを決定した。

さらに驚きなのが、投資家の動きが加速してきた事実を受け、YCがデモデー開催日を1週間前倒しにしたことだ。このため、デモデーのウェブサイトに録画したプレゼンを掲載するというプランは変更せざるをえなくなり、各事業は代わりにスライドに事業概要、今後の見通し、チームの経歴などの説明をまとめてプレゼンを行った。急速に進化する投資環境と相まって、この新たなスタイルがこのクラスにどのように影響するかは今のところはわからない。

プレゼンやウェブサイトのほか、場合によっては以前の記事から収集した情報をもとに、我々が集めたそれぞれのクラスの各事業のメモをまとめてみた。

読みやすさを優先し、全事業をすべて羅列するのではなくカテゴリー別にまとめている。これらの企業は、ハードウェア、ロボット工学、AI、機械学習、開発者用のツールを手掛けている企業である。そのほかのカテゴリー(バイオテック、コンシューマー、フィンテックなど)に関してはこちらから読むことができる。

AIおよび機械学習

Datasaur
自動修正、自動提案、キーボードのホットキーなどを使用して、人間がマシンデータのデータセットをより正確かつ効率的にラベル付けできるようにするためのツール。個人のデータラベラーは無料、20名以下のラベラーからなるチームには月100ドル(約1万1000円)、それより規模の大きいチームには個別の使用料が適用される。

1build
建設会社向けの、データによる作業費用自動見積もり。ユーザーが作業計画をアップロードすると、1buildは正確な入札額を「数分で」準備できるとしている。同社は、60万ドル(約6600万円)を超える収益を予測しており、Amazon、スターバックス、セブンイレブンなどの大企業の見積もりは完了していると述べた。

Zumo Labs
ゲームエンジンを用いて、コンピューターのビジョンシステム向けに、事前にラベル付けされたトレーニングデータを作成する。同社は、現実世界の写真やビデオからデータを収集するのではなく、データを合成することにより、より迅速で安価に、またプライバシーの問題なく、大量のデータセットを作成できると述べている。

Teleo
既存の建設機械を改造して、オペレーターが遠隔操作できるサービスを提供。Teleoは3ヶ月前の創設以来「完全に機能する遠隔操作ローダー」を作ってきたと述べ、建設会社に、一台につき毎月定額で料金を課す予定でいる。この企業の共同創設者はHardware Engineeringの元責任者であり、またLyftのProduct Managerのディレクターでもあった。どちらの会社もGoogleのStreet Viewチームに関与していた。

Turing Labs Inc.
石鹸やデオドラントなどの消費者向け製品について、様々な配合率を試す自動化されたシミュレーションテスト。研究開発チームにとって、家庭用製品や化粧品に関する作業は、数ヶ月に及ぶことがある。Turingは、このプロセスを支援するAIエンジン(薬の開発に使用されるのと同様のAIエンジン)を開発し、数ヶ月を数日に短縮する。Turingはすでに世界でも有数のCPG企業と取引を行っている。Turingについて以前書かれた記事はこちら

Segmed
SegmedはAIによる医学研究のためのデータセットを構築している。研究者がそれぞれ個別に病院や画像施設と提携する必要を省き、Segmedがこれらの組織と提携して(現在50以上)データの標準化、ラベル付け、匿名化を行う。

Ardis AI
Ardis AIは、人間と同じように文章を読み理解するテクノロジーである、汎用人工知能の構築を目指している。Ardis AIは、ニューラルネットワーク、記号推論、新たな自然言語処理技術とを組み合わせることで、データの抽出やラベル付けを行うチームを雇用することを望まない企業にサービスを提供可能。

Agnoris
Agnoris はレストランの店頭でのPOSデータを分析し、価格設定、デリバリーメニュー、スタッフ配置の変更について提案を行う。Agnorisは、レストランの場所ごとに年間3600ドル(約39万円)で、利益を20%上げることができると述べている。同社は、創設者がレストランを開業した際、そのレストランが繁盛したものの損失がでていたため、マージンを改善するための機械学習ツールを構築し、現在、そのソフトウェアを飲食店に販売している、という経緯がある。

Froglabs
太陽光や風力を使ったエネルギー生産、配送の遅れ、人員不足、販売需要、食糧が入手可能かを予測するために、天気予報AIを企業に提供している。何ペタバイトもの気象データを処理して、企業における物流の中断を防ぎ、経費の節約につなげる。同社は、インターネットビーム気象バルーンを使ったProject Loonを立ち上げた古参Google社員によって設立され、現在はeコマース、小売、ライドシェア、レストラン、イベント企画会社と取引している。

PillarPlus
PillarPlusは建設プロジェクトの青写真設計段階を自動化するプラットフォームである。同プラットフォームは、建築家または請負業者から設計を取得し、機械、火、電気、配管の詳細を綿密に計画し、部品コストやプロジェクトコストを推定する。これらのステップには本来なら数ヶ月の作業を必要とする。

Glisten
Glistenはコンピュータービジョンと機械学習テクノロジーを用いて従来のものより優れたより一貫性のあるデータセットをeコマース企業向けに開発している。最初の製品は、希薄な製品データを取り込み充実させるAIベースのツールである。Glistenについて以前書かれた記事はこちら

nextmv
Nextmvにより、顧客は独自の物流アルゴリズムを自動で生成することができ、輸送用車両を最適化し、内部でルートを管理できる。

Visual One
動きを検出するセキュリティカメラは、必ずしも有害とは言えない動きを誤検知することがある。Visual Oneは、検出した特定の動きだけを「読み取る」、ホームセキュリティと一体になったAIプラットフォームを構築した。ユーザーはアラートをカスタマイズし、気になる動きに関する通知のみを受けるようすることができる。同社のソフトウェアで、家具にダメージを与えるペット、荷物を持ち去ろうとしている泥棒、幼児の危険な行動などをチェックできる。Visual Oneについて以前書かれた記事はこちら

PostEra
ここでのアイデアは「サービスとしての医療化学サービス」である。PostEraのプラットフォームを用いると、従来の研究開発室で行うよりも高速かつ低コストで分子を設計および合成できるため、創薬プロセスで新しい組み合わせをテストするために必要な研究時間を短縮できる。

ハードウェアおよびロボット工学

Cyberdontics
ロボット工学は、da VinciのメーカーであるIntuitiveなどの企業のおかげで、すでに手術に革命をもたらしている。Cyberdonticsは同様のことを口腔手術で行うことを意図し、まずは費用や時間がかさむ治療の1つであるクラウンをターゲットにしている。同社は、ロボットを使用すると、通常2時間の治療を15分で行うことができ、費用はたった140ドル(約1万5000円)で済むとしている。

Avion
Avionはアフリカの奥地の人々に焦点を当て、ドローンを用いた配送システムを構築している。中央ハブに接続された中長距離を飛ぶ医療用ドローンを使用する計画だ。当該ドローンはハイブリッドの自律型で、垂直離陸機能を備えており、5 kgの荷物を150kmまで運ぶことができる。

SOMATIC
トイレ清掃業は「つまらなく」「汚い」仕事とされ、自動化が待たれる主要な業種である。Somaticは、VRを介してトイレを掃除するように訓練された大型ロボットを製作している。ロボットはトイレ表面にスプレーを掛けて拭き、またドアを開けたりエレベーターで昇降する能力がある。SOMATICについて以前書かれた記事はこちら

RoboTire
車のサービスショップの待合室に座ったことのある人なら誰でも、そのプロセスにどれほど時間がかかるかを知っている。RoboTireは、タイヤ4本にかかる待ち時間を60分から10分に短縮することを約束している。同社は米国の複数箇所でこのテクノロジーのパイロット版を開始している。RoboTireについて以前書かれた記事はこちら

Morphle
古くなったアナログ顕微鏡に代わるシステムとして設計されたMorphleのシステムは、画像処理を向上させるためロボットオートメーションを用いている。同スタートアップ企業のシステムは高価なシステム以上に高解像度の画像を処理し、失敗率もはるかに低い。Morphleはインドの研究所に当該システムの販売を始めている。

Daedalus
DaedalusはOpenAIの元エンジニアによって創設され、CNCを手始めとして、人間によるプログラミング無しで工業用ロボットを運用できる自律ソフトウェアを製作している。同社は金属加工市場における生産性を最大5倍改善できると予測している。

Exosonic
Exosonicは大音量の衝撃音波を出さない、地上を飛行可能な超音速民間航空機を製造している。同社の目標は3時間でサンフランシスコとニューヨーク市を飛ぶ飛行機を作ることである。同社のCEOはロッキード・マーティン社でNASAの低爆音のX-59航空機製造に携わった経験を持つ。Exosonicは現在主要な航空会社と国防総省の2つのグループからの趣意書に加えて、米空軍との間に30万ドル(約3300万円)の契約を結んでいる。

Nimbus
Nimbusは、連続的に起業を行ってきたシリアル起業家によってミシガン州アナーバー市に設立された。同社は都市トランスポーテーション向けの次世代車両プラットフォームを製作している。創設者であるLihang Nong氏は、かつて燃料注入システムを開発するPicoSprayを立ち上げた人物である。現在「より快適な乗り心地を確保しながら、スペースとエネルギーの点で今現在の自動車よりも数倍の効率性を持つ自動車を実現できるか」という疑問に答えようとしている。

UrbanKisaan
UrbanKisaan はインドに拠点を置く垂直式農業事業を行う企業であり、家庭に予約購入による生鮮食品を提供している。同社の積み重ねられた水耕テーブル式農場は、従来の農場のわずか1%の土地しか必要としないため、都市近郊で運営でき、しかも農薬を必要としない。健康的な食品を求める中産階級が増えつつある市場において、UrbanKisaanは農場から直接家庭に届けるシステムによって、品質と利益をコントロール可能である。

Talyn Air
SpaceXの元エンジニア2名が、乗客および貨物用の長距離飛行で垂直離着陸機能を持つ電動式航空機(eVTOL)を開発した。同スタートアップ企業は、離陸と着陸の際に特製の翼付きドローンで中空に留まることの可能な電動式固定翼航空機を開発した。創設者によると、このアプローチにより当該航空機は競合他社航空機の3倍である350マイル(560km)を飛行することができる。

開発者向けツール

BuildBuddy
2人の元Google社員が、GoogleのBazelソフトウェア上にオープンソースのUIと機能セットを構築することで、「Googleスタイル」の開発環境を全ての人に届けたいと考えて創業。同社は、このソリューションによって構築時間が最大10倍スピードアップすると述べている。個人の開発者は無料で使用できるほか、チームの規模や必要な機能に応じて1人あたり4ドル(約440円)から49ドル(5400円)までの使用料が適用される。

Dataline
広告ブロックツールを使用しているユーザーからの分析データを、ウェブサイトに収集させることを意図している。同社は、広告ブロッカーを使用しているほとんどのユーザーが注意を払っているのはディスプレイ広告やクロスサイトトラッキングであり、ファーストパーティによる分析は「付随的な被害」として打撃を受けると述べている。Datalineは、サブドメインで実行される「スマートプロキシ」として機能することにより、ほとんどの広告ブロックシステムを回避する(現時点では、おそらく)。

Cortex
最新のオンラインソフトウェアアプリケーションの多くは、無数の独立した目的別のツール、つまり「マイクロサービス」により駆動されている。Cortexはアプリのマイクロサービスを監視し、1つが故障した場合に適切な人物(Datadog / Slack / PagerDutyなどに接続する)に自動的に通知する。

apitracker
ウェブサイトが正常に読み込まれているように見えても、それを機能させるために使用されているAPIに問題があり、はっきりとはわからない形で問題が発生している場合がある。Apitrackerは…APIを追跡する。Apitrackerは使用されているAPIを監視し、そのうちの1つに不具合が発生した時点で警告を発し、それらの全体的な性能についてのインサイトを提供する。

Freshpaint
Freshpaintの「自動追跡」システムは、サイト全体のすべてのページビューとクリック数などを収集し、開発チームが各イベントの手動トラッカーを作成することなく、Google AnalyticsやFacebook Pixelなどのツールに遡及的に割り込ませることができる。ベースプランは月毎のユーザーが3000人未満のサイトでは無料、最大50000人のサイトは300ドル(約33000円)、それ以上のサイトは個別の価格が適用される。

Datree
企業はDatreeを用いてコードベースのルールとセキュリティポシリーを設定し、それらのルールを確実に守った上で、コードをマージすることができる。開発者一人に付き28ドル(約3000円)(個人/オープンソースプロジェクトは無料)の使用料が課されており、現在までに最大で23000ドル(約250万円)の収益を上げた。Datreeについて以前書かれた記事はこちら

fly.io
ユーザーに物理的により近いサーバーにアプリを展開し、レンテンシーを低減し、ユーザーエクスペリエンスを改善する。アプリの人気が特定の都市で高まった場合、Flyがそれを検出し、それに応じてリソースをスケーリングする。

Sweeps
Sweepsは一行のコードを用いて、ウェブサイトが使用しているサードパーティーのツールをより効率よく読み込むことにより、ウェブサイトを40%高速化できると述べている。同社チームは、Sweepsのテクノロジーによりスピードが改善されるだけでなく、SEOも改善されるとしている。

Orbiter
OrbiterはSlackと組み合わされたリアルタイムの自動監視およびアラートシステムで、より優れた顧客サービスと収益管理を保証する。

Release
製品のリリースは一筋縄ではいかない。Release はステージング管理ツールキットを提供している。このツールキットはプルリクエストがあるたびにステージング環境を構築し、より速く/より協調的な開発サイクルを可能にする。

Signadot
Signadotは近年のスタートアップ企業が自らのアプリケーションやサービスを駆動するのに使用しているマイクロサービスを監視し管理するソフトウェアであり、エンドユーザーに明らかになる前に問題にフラグをたてることが期待されている。

Raycast
Raycastは開発者および開発者が使用する多くのツール向けユニバーサルコマンドバーである。ユーザーはJira、GitHub、Slackなどのアプリを統合し、フォームやタスクを完了するために「超人的」なアプローチをとることが可能だ。チームは、エンジニアがエンジニアリングと無関係の作業を迅速にこなすのを支援する方法として当該ツールを提案している。

Cotter
Cotterは電話番号ベースのログインプラットフォームを構築している。同社の創設者によると、このプラットフォームは、SMSベースのOTPの利便性を備えたワークフローでユーザーのデバイスを認証するもので、セキュリティの問題も無い。同スタートアップ企業は、電子メールの利用が少なく、ログイン方法として電子メールの利便性が低い開発途上国の顧客をターゲットとして考えている。

ditto
Dittoの創設者は、製品やワークフローを説明するのに使用するコピーをチームがより入念に計画できるよう、言葉向けのFigmaを作りたいと考えている。スタンフォード大学のルームメイトであるJolena Ma氏とJessica Ouyang氏により制作されたコラボレーションツールは現在の80社を超すユーザーに使用されている。

Scout
GitHubワークフロー内における機械学習実験向けの継続的統合および展開ツールキット。

ToDesktop
ToDesktopはデスクトップアプリケーションの公開ニーズを自動化するサービスを設計してきた。当該サービスはWindows、Mac、Linuxで使用でき、ネイティブインストーラー、自動更新、コードサイニング、クラッシュレポートを提供する。開発者向けのインフラストラクチャや構成は必要としない。

DeepSource
DeepSourceは開発者がPythonやGoにおけるバグリスク、アンチパターン、パフォーマンス問題、セキュリティの欠陥をチェックするためのコードレビューツールである。

Flowbot
FlowbotはPythonでのコーディングのための自然言語、オートコンプリート検索ツールである。これは、Python開発者が、自分が考えている正確な機能を思い出せないときに、平易な英語で入力できるようにするツールである。Flowbotはドキュメントを掘り下げ、コンテキストを検討して、開発者が探していると思われるコードを見つける。

PostHog
PostHogは開発者にユーザーが実際にどのように彼らの製品を使用しているかを理解できるようにするソフトウェアサービスである。これは、オープンソースプログラマー向けの製品分析ツールキットである。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。