自動運転車に何ができるか、については、本誌もこれまでさんざん書いてきたけど、ときには、できないことの方がおもしろいこともある。技術というものは、その能力とともに、限界を知ることもきわめて重要だ。というわけで今回は、このパフォーマンスアートから教訓をいただこう。
この“Autonomous trap 001”(自動運転の罠001号)は、とても分かりやすい。自動運転システムが最初に学ぶいちばん重要なことは、路上のマーキングの理解だ。これは車線の端だ、これはカープール専用車線だ、などなど。
アテネに住むイギリス人のJames Bridleが、コンテキスト(文脈、状況知)を欠く知識の限界を例示している。人工“知能”が氾濫する今の時代には、われわれはそんな不具な知識に、至るところでぶつかる。
スーパーで一山いくらで売ってるような人工知能は、路上のいちばん重要なルールは、車から遠い方の側にある点線〔上図で外側〕は絶対に横切ってはならない、だと知っている。しかしもちろん、その点線が近い側なら、横切ってもよい。
なお、この円はわざと塩で描かれている。塩の儀式的な意味は、“神聖な場所なのでそこから先へ行くな”、という意味だ。あるいは、精霊や悪霊を金縛りにするために、灰や塩をお供えした時代もある。人間をその場に金縛りにするために、塩と呪文を併用することもある。
この実験でも、点線という単純なシンボルが、ターゲットを金縛りにした。この‘知能’の作者に、救い出してもらうしかないね。それとも、祈祷師に頼んで点線の呪いを解いてもらうか。人間運転手が中にいるなら、モアベターだけど。
遠い未来には、自動化システムが世界を支配して、それらの内部情報や設計情報はとっくに失われているかもしれない(Horizon: Zero Dawnをプレイしてみよう)。そうすると、システムが、理解できないおかしな振る舞いをしても、われわれの愚かな子孫たちは原因も対策も分からないのだ。今回の実験の、自動運転車の“罠”も、そのひとつだろう。
自動運転車を急に停止させたり、片寄せさせたり、予期せぬ不具合が生じたりする、いろんな“罠”がありうるだろう。それらから、人間を守れるだろうか? 犯罪目的で人工知能騙しをやるなら、それはどんな犯行だろう? いずれにしても、奇怪な未来が待っているのだ。
とりあえず、BridleのVimeoやブログを今後もウォッチしよう。そのパフォーマンスはつねに、“進化途上”だから。