テキサス大寒波から学ぶ3つのエネルギー革新

本稿の著者Micah Kotch(ミカ・コッチ)氏はURBAN-Xのマネージング・ディレクターだ。

ーーー

気候変動の総合的危機に対する個別なソリューションがいくつも登場している。非常用ディーゼル発電機、Tesla(テスラ)のPowerwall、地下シェルターの「Prepper」などがある。しかし、現代文明が依存しているインフラストラクチャーは相互につながり、相互に依存している。エネルギー、輸送、食料、水、ごみのシステムは、気候による緊急時に対していずれも脆弱だ。私たちのエネルギーインフラ危機を救う唯一の孤立したソリューションは存在しない。

2005年のHurricane Catarina(ハリケーン・カタリナ)、2012年の巨大暴風雨SANDY(サンディ)、2020年のカリフォルニアの山火事、そして最近のテキサス大寒波以来、大多数の米国市民はいかにインフラが脆弱であるかを認識しただけでなく、それを適切に規制しその復旧に投資することがいかに重要であるかを思い知らされた。

今必要なのは、インフラを考える際の発想の転換だ。具体的には、リスクをどう評価するか、維持をどう考えるか、気候の現実に沿った政策をどう作るかだ。テキサスの大寒波は、異例の寒波に備えていなかった電気・ガスインフラを壊滅状態にした。もし私たちがインフラへの緊急な(超党派?)投資を、特に異常気象が当たり前になりつつある今行わなければ、この惨劇は今後も続くばかりだ(そして最前線の人たちは特に重荷を背負う)。

テキサスの記録的暴風から1カ月が過ぎ、焦点は生活を取り戻そうとしている数百万の住民を助けることに正しく向けられている。しかし、短期的未来に目を向けには電気自動車への転換点の兆しが見える現在、この国のエネルギーインフラと公共事業の大転換というツケを払うことを優先しなくてはならない。

エネルギー貯蔵の重要性

テキサス州の電気の75%が化石燃料とウランから生まれており、州内で起きた停電の約80%がこれらのシステムに起因していた。同州と国は、時代遅れの発電、通信、および配送技術に依存しすぎている。2030年までにエネルギー貯蔵のコストが75ドル/kWhまで下がると期待されていることから「需要管理」およびグリッドを「(排除しようとするのではなく)支える」分散エネルギー源に今以上に重点を置くことが必要だ。小規模なクリーンエネルギー発電と家庭内貯蔵電力を蓄積、集約することで、2021年は「バーチャル発電所」が全潜在能力を発揮する年になるかもしれない。政策立案者は、家庭のメーターの内側に設置する新たな分散エネルギーリソースを普及させるための刺激策と報奨金制度を施行させるべきであり、カリフォルニア州の自家発電奨励プログラムはその一例となる。

労働力開発への投資

エネルギー大転換が成功するためには、労働力開発が中心的要素になる必要がある。石炭、石油、ガスからクリーンエネルギー源へと移行するためには、企業と政府(国から市レベルまで)は、労働者がソーラー、電気自動車、バッテリーストレージなどの新興分野の高賃金職に就くための再教育に投資すべきだ。エネルギー効率(エネルギー大転換で最も手をつけやすいところ)に関して、都市は株価に基づく労働力開発プログラムを建物エネルギーベンチマーキング条件と結びつける機会を利用するべきだ。

これらのポリシーは、この国のエネルギーシステムの効率と老朽化する建物の利用率を高めてより生産的な経済を作るだけでなく、 21世紀の成長産業における雇用の拡大と労働の専門化にもつながる。 Rewiring Americaの分析によると、国の野心的な脱炭素宣言によって、今後15年の間に2500万の高賃金職が生まれるという。

信頼性のためにマイクログリッドをつくる

マイクログリッド(小規模発電網)は、主要グリッドと繋ぐことも切り離すこともできる。非常時だけでなく、日常の「青空」運用の日々にも運用することで、マイクログリッドは主要グリッドが停止した際に途切れなく電力を供給できる。そして、主要グリッドにつなげた場合、グリッドの制約とエネルギーコストを減らす。かつては軍事基地と大学だけの領域だったマイクログリッドは年間15%成長し2022年の米国市場は180億ドルに達する

グリッドの回復力と信頼性の高い電力源を確保のためには、重要インフラ施設を近隣の住宅と商業負荷と結びつけるコミュニティ規模のマイクログリッドに勝るソリューションはない。実現性調査と高度な設計に資金提供し、コミュニティがゼロコストで高品質な建設プロジェクト実施できるようにすることは、ニューヨーク州が NYプライズ・イニシアティブでやったように、コミュニティをエネルギー計画に参加させ、民間セクターを低炭素の回復力あるエネルギーシステムの構築に携わらせる有効な方法であることが実証されている。

予測不能性と複雑さが急速に高まり、テクノロジーは居場所を見つけたが、それは単なる個別の安全策や偽りの安心感としてではない。テクノロジーは、リスクを高精度で計算し、システムの回復力を高め、インフラの耐久性を改善し、コミュニティの人々同士のつながりを深めるために使われるべきだ。緊急時もそうでない時も。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:コラムテキサス自然災害電力網エネルギー貯蔵エネルギー

画像クレジット:

原文へ

(文:Micah Kotch、翻訳:Nob Takahashi / facebook

台湾の水不足でわかるテックへの気候変動の脅威

前代未聞の干ばつに直面している台湾のチップメーカーへの給水能力について台湾政府が週末に出した声明は、気候変動がテック産業の基盤にとって直接の脅威であることをはっきりと示している。

Bloombergが報じたように、台湾の蔡英文総統は現地時間3月7日、56年の歴史で最悪の干ばつに直面している市民や事業所への給水能力についてFacebookに投稿した

総統は台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)のような企業による半導体製造を停止させないだけの十分な貯水量は確保される、と述べた。

チップはテック産業の基礎であり、チップ製造の混乱は世界経済に悲惨な結果をもたらす可能性がある。チップ供給の逼迫はすでにGeneral Motors(ゼネラル・モーターズ)やVolkswagen(フォルクスワーゲン)といった自動車メーカーの生産停止を招き、チップ製造施設の稼働は限界に近づいている。

バイデン政権は、米国各地で製造プラント停止を引き起こしている現在も続くチップ不足を解決するために2021年2月に大統領令を出した際に、米国が半導体製造供給を強化する必要があると強調した。

「台湾の水不足、そして半導体への影響はあらゆるテクノロジー投資家、創業者、全ベンチャーエコシステムへの警鐘です。はっきりとした複雑性理論であり、産業マーケットで広く急速に展開されているスケーラブルでデータを活用しているソリューションはコース修正で唯一の望みであることを示しています」とエネルギー専門の投資会社Blue Bear Capitalのパートナー、Vaughn Blake(ヴォーン・ブレイク)氏は書いた。

台湾の水危機と半導体産業への大きな影響は目新しいものではない。そうした問題は2016年のハーバードビジネススクールのケーススタディ分析でも取り上げられた。そしてTSMCはすでに水の消費を解決するために取り組んでいる。

TSMCは2016年には水の浄化とリサイクルの改善に取り組んでいた。これは1日あたり200万〜900万ガロンの水を消費する産業にとっては必要不可欠だ(Intelだけで2015年に90億ガロンの水を使用した)。ハーバードのケーススタディによると、少なくともTSMCの製造施設の一部は90%という率で工業廃水リサイクルをなんとか達成した。

しかしムーアの法則によってそのサイズは小さくなり、製造工程におけるさらなる正確さとより少ない不純物に対する需要が増えるにつれ、製造施設での水使用は増えている。次世代チップはおそらく1.5倍の水を消費し、これは、増加分を埋め合わせるためにリサイクル改善が必要とされることを意味する。

スタートアップはコストを下げ、ますますエネルギー集約的になっている排水リサイクルと脱塩のパフォーマンスを改善する方策を探す必要がある。

一部の企業はそうした方策を実践している。量子ベースの水処理テクノロジーを開発したと主張している英国のBlue Bosonのような企業もある。同社の主張はサイエンスフィクションのように聞こえるが、同社ウェブサイトは世界で最も優れた研究だとうたっている。同じく英国企業である漏れ検知のFidoは水が浪費されている可能性がある箇所を追跡する。そしてPontic TechnologyとMicronicは水と液体の減菌システムを開発している米国企業だ。

浄水のスタートアップNumixは工業生産の要である重金属を排除することを目的としている。そしてロサンゼルスのDivining Labsは水使用のためにより多くのリソースを集めるため、雨水流出を予測・管理を向上させるのに人工知能を使っている。

「『その人の給料が理解していないことに基づくとき、その人に何かを理解させるのは難しい』とUpton Sinclair(アプトン・シンクレア)氏はいう」とブレイク氏は述べている。「さて、そこにいるすべての創業者と投資家のみなさん、当分の間、すべてのテクノロジーは気候対策のもののようだが、技術がまったくないということにならないように」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:TSMC台湾災害気候変動半導体

画像クレジット:Usis / Getty Images

原文へ

(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

テキサスの大寒波はテック企業の移転を阻むか

オースティンは穏やかな冬の気候で知られているが、米国時間2月12日、テキサス州に大寒波が襲来し、氷点下の気温が1週間以上続いた。同州の何百万人にもおよぶ住民が停電や断水、またはその両方の影響を受けるという州全体での災害となった。

死亡者や物的損害、経済活動の損失の正確な数字が出るには早過ぎるが、今回の災害は多方面で破滅的な影響を与え、その影響は長引くことだろう。オースティン地区では今週、病院でさえも断水となった。これは現状がいかに最悪かを示している。

私の家でも、断続的な停電になっている。2月17日には断水し、いつ回復するのか見当もつかなかった。私よりも困窮している人々は他にたくさんいると思う。ここでは同情を買うようなみじめな経験は割愛するが、トイレを流すために雪や氷を温めて使ったり、わずかに残っていたペットボトルの水を制限しながら飲んだり、配管の凍結や破裂を恐れながら生活した。少なくとも私の家ではこの数日間、暖をとれているが、未だに停電の家は多い。

その一方で過去数カ月(実際は何年間も)、オースティンは別のニュースで見出しを賑わせていた。非常に多くのテック企業や、あのElon Musk(イーロン・マスク)氏を含む創業者、投資家が本社を移動(Oracle)させている他、大きな工場(Tesla)やオフィス(Apple、Google、Facebook)を建築するか、完全な移転を考えているのだ。

州に所得税がないことと、住居 / 土地 / オフィスがベイエリアに比べると安価であることが多くの人を引き付けている理由だ。これは今に始まったことではないのだが、パンデミックによってリモートワークが奨励・強制される中でさらに加速したかたちだ。

このようなメリットによりテキサスは企業にとってかなり魅力的な州となったが、皮肉なことにこれは危機にも繋がってしまった。税金が少ないということは、まずインフラストラクチャに費やせる金額も少ないのだ。

だがそれだけではない。他の多くの州は、テキサス州で現在起こっている停電や断水を発生させることなく、氷点下の天候をしのいできている。The Washington Post(ワシントンポスト)で先に報道されたように、同州の電気料金の規制撤廃によって「電力会社が冬に備えることができるようなインセンティブを設けない発電の財政構造ができた。批評家によると、規制撤廃と自由市場によって、テキサスには信頼できるサービスよりも安い価格を強調した配電網ができてしまったとされている」。

マスク氏でさえTwitterで不満をあらわにしていた。

テキサスには、この新しい危機への対応、つまり準備不足と管理不行き届き(クルーズ上院議員、あなたのことです)の両方への批判が殺到したと言えるが、この1週間の事象により、テック企業と投資者の移転先の可能性としてのオースティンの魅力はなくなったのだろうか?これによって人々はここに引っ越したいと思わなくなるのだろうか?焼けつくような夏の熱さのためにここに引っ越したくなかった人々が、大寒波の影響を受けて、この街や州への扉をぴしゃりと閉めているのであれば、これもまた皮肉な話ではないだろうか?

この状況下、積極的なテック系レポーターなら誰でもするであろうことを、私もTwitterを使って行った。結果はほぼ予想どおりで、どちらサイドにもさまざまな熱い意見があった。

オースティン在住者からの、街を擁護し、危機的状況で住人がどのように一致団結したかを褒め称えるツイートが多く見られた。

そしてかつては住んでいたが状況にうんざりして失望した人からのツイートもあった。

また中には、テキサスへの引越しはもう決して検討しないとツイートした人や、準備不足に幻滅したとツイートした人もいた。

そしてここに住んではいないが、この災害は人々を遠ざけるには十分だったという考えを言い放った人や、自然災害はどこでも起こり得ると指摘した人もいた。

またこの災害は「カリフォルニアの人々を遠ざける」ための策略として計画されたとか、少なくともその効果はあったといったジョークも見られた。

私は東海岸、西海岸、湾岸で暮らしたことがある。それぞれにプラス面とマイナス面があり、またこの危機が人々のテキサスへの移住を止める抑止力になるとは思わない。しかしテキサスは電気料金の規制撤廃を決めた時点で、もっと十分に準備ができたはずだと私は思う。この街や州で暮らす人々が直面しているあらゆる苦労に心が痛み、今すぐにでも、新型コロナのパンデミックへの対応が唯一の危機であった「通常」に戻ることを願っている。こんなことを願う日がくるとは思ってもみなかったが。

コンピューター技術者の移住によって、将来、同様の災害を防げるかもしれない解決策ができることに期待したい。

関連記事:イーロン・マスク氏がカリフォルニアに愛想を尽かしてテキサスへ転居

カテゴリー:その他
タグ:テキサス自然災害

画像クレジット:Carlos Alfonso / Unsplash under a license.

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

山火事の消火活動を機械学習と過去データを駆使して効果的なものにするCornea

ありがたいことに、まだ山火事シーズンではない。米国西部の火事を予防したり対処したりするという、年々複雑にそして対応しにくいものになっているタスクにどう立ち向かうか、消防士や救急隊員が計画を立てる小休止の時間となっている。米国西部の山火事は近年、カリフォルニアなどの州にとって喫緊の課題だ。ほとんどが気候変動による高温、火花発生につながる朽ちつつある送電インフラ、木が生い茂る危険な地域や大火災につながる群葉によるものだ。

過酷な消防活動が何年も展開され、いくつかのスタートアップは消防をいかに改善できるかを模索している。そうしたスタートアップの1つがCornea(コーニー)だ。公共部門にフォーカスしているベンチャースタジオHangar(ハンガー)の一種のスピンアップだ。Hangarは2020年、政府をターゲットとした新しいスタートアップを立ち上げるために1500万ドル(約16億円)を調達した

関連記事:GovTechのスタートアップ育成するベンチャースタジオのHangarが15億円超を調達

Hangarにとって最初の企業の1つが数年前に登場したCorneaで、ポテンシャルという点で最も興味深い1社であり続けている。どこで消火活動を積極的に行い、炎が燃え盛る状況でいつ退却すべきか誘導して最前線の消防士たちをサポートできる機械学習に、地理、天候、歴史上重要な火事のデータを融合させるのがCorneaが取り組んでいることだ。

Corneaは2021年2つの主要プロダクトを立ち上げようとしている。1つは、消防士たちの間で「Suppression Difficulty Index(鎮圧困難インデックス)」として知られるものに関するより良い状況認識の提供にフォーカスしている。これらは本質的に、かなり特定の地理的ロケーションで消火の危険を消防士に伝える重要な地図だ。例えば特定のロケーションでは、風や水の状況が火を勢いづかせたり注意しなければ隊員を危険な目に合わせるかもしれない。

もう1つのプロダクトは「Potential Control Lines(潜在的制御ライン)」にフォーカスしている。これは防火帯やその他の活動が火を押し戻すかもしれないロケーションのことだ。植生、無数のその他データを使うことで、Corneaは消火活動でかなり成功を収められそうな場所を特定できる。

Corneaの消防責任者はTom Harbour(トム・ハーバー)氏で、同氏は以前、米森林局で火災対応責任者を10年務めた。「50年前、私は『なぜ』という言葉を知らないカルチャーの中で育ちました。現場での消防の決定では、ただ命令に従っていました」と同氏は話した。「頭の中で言葉が回っていました」。Corneaと同社が手がけているプロダクトで、我々は「『なぜ』を元に、目にしている情報を消防士が感じ取れるようにし始めました」。

ハーバー氏は、今日現場で最も一般的なツールは紙の地図とマーカーだと話す。というのも、単に「何も壊したりできないときに壊れないと知っているから」だ。Corneaのプロダクトは活動中の消防士をサポートするかもしれないが、どこに消火活動のリソースを向けるべきか戦略的決定を下す消防作戦センターにより大きな影響を及ぼす。

Hangarの創業者でマネジングパートナーのJosh Mendelsohn(ジョッシュ・メンデルゾーン)氏は、CorneaがHangarの投資テーマの中心にあると話す。「Corneaはこれらの大きなデータセットに取り組んで効果的に処理し、(消防士に)可能な限りシンプルに多くの分析的影響を与えることにフォーカスしています」と述べ「このマーケットでは最も良いユーザーエクスペリエンスはPDFであることも明らかになっています」と指摘した。

実際、このマーケットにおける大きな課題はエンタープライズのSaaSなどと比べて災害対応の他に類を見ないダイナミックさだ。「Corneaは顧客と話し、必要とされるかどうかを検証を行うプロセスを経なければなりませんでした」とメンデルゾーン氏は話した。「すべて必要だと感じますが、すぐさま影響を及ぼすために行動の変化を最小限にする正しいこととは何でしょうか」。消火に関して特に問題なのは、火災現場からチームへのフィードバックループだ。「火災は季節性であり、我々は漸進的に改善しなければなりませんでした」と同氏は述べた。

Corneaのチームは現在、3人のフルタイムとコンサルタントがいる。Hangarが同社のスタッフでCorneaのチームを支えている。Corneaは消火のサイエンスを深めるために連邦研究助成金を部分的に使っているプロダクトを構築した。そして2021年、このモデルを現場に持ってくるために森林局や州消防当局と協業することを願っている。「人間の対応能力には限界があります。そうしたモデルを効果的に使うことで消防士がさらに活動するのをサポートするために、限られたリソースをどのように使うのでしょうか」とメンデルゾーン氏は述べた。

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:Cornea自然災害機械学習

画像クレジット:David McNew / Getty Images

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Nariko Mizoguchi