オックスフォード大からスピンアウトした英QuantrolOxは機械学習で量子ビットを制御する

2021年にオックスフォード大学からスピンアウトした新しいスタートアップ、QuantrolOxは、量子コンピュータ内部の量子ビットを機械学習(ML)で制御しようとしている。オックスフォード大学のAndrew Briggs(アンドリュー・ブリッグス)教授、テック起業家のVishal Chatrath(ヴィシャール・チャトラス)氏、同社のチーフサイエンティストのNatalia Ares(ナタリア・アレス)博士、量子技術責任者のDominic Lennon(ドミニク・レノン)博士が共同で設立した同社は西ヨーロッパ時間2月23日、Nielsen VenturesとHoxton Venturesが主導して140万ポンド(約2億1700万円)のシードラウンドを調達したと発表した。Voima Ventures、Remus Capital、Arm(アーム)の共同創業者であるHermann Hauser(ハーマン・ハウザー)博士、Laurent Caraffa(ローラン・カラファ)氏もこのラウンドに投資している。

同社の技術はテクノロジー非依存型で、標準的な量子コンピューティング技術のすべてに適用できる。QuantrolOxのシステムは、手動調整の代わりに、量子ビットの調整、安定化、最適化を大幅に高速化することができるというものだ。QuantrolOxのCEOであるチャトラス氏は、既存の方法はスケーラブルではないと主張し、特にこれらのマシンが改良され続ける限りはそうだと語る。

「ある米国の投資家と話していた時のことです。彼は、量子コンピュータが有用であるために収益を得るのを待つ必要はないという点で、我々は量子業界のスコップやつるはしのようなものだと言いました」とチャトラス氏。「5個の量子ビットから、願わくば数百万個の量子ビットになっていく中で、デバイス特性評価と量子ビットの調整を行うために、毎日私たちのソフトウェアが必要になります」。

同社は当面は、固体量子ビットに焦点を当てるという。フィンランドの研究所との緊密な連携など、同社がアクセスできるシステムであることも理由の1つだが、同社はそのパートナーシップについてはまだ公表する準備ができていない。すべての機械学習の問題と同様に、QuantrolOxは効果的な機械学習モデルを構築するために十分なデータを収集する必要がある。

チャトラス氏も述べているように、我々はまだ量子コンピューティングの非常に初期の段階にいる。しかし、QuantrolOxのようなツールが研究者のデバイステストのプロセスを加速するのに役立つなら、それは業界全体にとって恩恵となる。業界ではすでに多くの企業が、同社の制御ソフトウエアの利用を打診していると同氏は指摘した。

同社は現在7人の正社員を擁しているが、近い将来、さらに10人程度を採用する予定だという。だがチャトラス氏は、今後2年間で人数がそれ以上増えることはないだろうと述べている。「ニッチな分野に特化しているため、大きなチームは必要ありません」と彼はいう。「フルスタックにするつもりはありません。スタックの上位には行きたくないし、スタックの下位はハードウェアですから、そこにも行けません。当社がフォーカスしているのは非常に狭いエリアです」。

今のところQuantrolOxは、量子コンピュータの開発者とより多くのパートナーシップを構築することに注力している。チームは物理的なマシンだけでなく、これらのシステムと統合できるように、それらを制御するソースコードにもアクセスする必要があるため、かなり深いパートナーシップとなるからだ。

もちろん、今の業界には標準規格がほとんどないという問題があり、チャトラス氏はそれを痛感している。「量子産業が成功するためには、我々のようにある特定の分野に超特化したスタートアップがたくさん必要です。超特化した企業でなければ、規模の経済が得られないからです」と彼はいう。「フルスタックの(1つですべてなし得るという)ストーリーを語るのは、遅かれ早かれ止めなければならないと思います。人々は、企業のエコシステムを構築し始める必要があります」。

画像クレジット:hh5800 / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Den Nakano)

メルセデス・ベンツが買収したYASAの革新的な新型モーターはEV業界を変える

革新的な「axial-flux motor(アキシャルフラックス、軸方向磁束)」モーターを開発した英国の電気モータースタートアップ企業であるYASA(かつてはYokeless And Segmented Armature、ヨークレス・アンド・セグメンテッド・アーマチュアという名称だった)が、Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)に買収されたのは2021年7月のことだった。この買収は、発表された情報が少なかったため、それほどマスコミの注目を集めたわけではなかった。しかし今後、YASAは注目する価値のある存在となるだろう。

2009年にオックスフォード大学からスピンアウトしたYASAは、メルセデス・ベンツの電気自動車専用プラットフォーム「AMG.EA」用の超高性能電気モーターを開発することになる。YASAは完全子会社として英国に留まり、メルセデス・ベンツの他、Ferrari(フェラーリ)などの既存顧客にもサービスを提供していく。また、YASAのブランド、従業員、施設、所在地もオックスフォードにそのまま残る。

YASAの軸方向磁束モーターは、その効率性、高出力密度、小型・軽量であることが、EV業界の関心を集めた。

対照的に、今日の市販EVでは「ラジアル」電気モーターを使った設計が一般的だ。テスラでさえラジアル型モーターを採用しているが、ラジアル型モーターは40年以上前のレガシー技術であり、技術革新の余地はほとんどない。

しかし、YASAのアキシャルフラックス型は、セグメントが非常に薄いため、それらを組み合わせて強力な単一のドライブユニットにすることができる。これによって、他の電気モーターに比べて重量は3分の1になり、より効率に優れ、出力密度はテスラの3倍にもなる。

YASAの創業者でCTO(最高技術責任者)を務めるTim Woolmer(ティム・ウールマー)氏は、電気モーターの設計にこのような新しいアプローチを考案した人物だ。TechCrunchは、同氏にインタビューして次の展開を探った。

TC:これまでの歩みを教えてください。

TW:私たちが12年前に始めた時の検討事項は「電気自動車を加速させよう」「電気自動車をより早く普及させるためにできることをしよう」というものでした。私たちは今、20年にわたる革命の10年目に入っています。10年後に販売される新車は、間違いなくすべて電気自動車になるでしょう。技術者にとって、革命の時代ほどエキサイティングなものはありません。なぜなら、そこで重要なのは技術革新のスピードだからです。私たちにとってエキサイティングなのは、革新を加速させることです。それこそがメルセデスとのパートナーシップで興味深いところです。

TC:あなたが考え出したモーターは、何が違っていたのですか?

TW:私が博士号を取得した当初は、白紙の状態から始めました。その時に考えたことは、10年後、15年後の電気自動車産業が必要とし、我々がそれに応えることができるものは何か、というものでした。それはより軽く、より効率的で、大量生産ができるものです。2000年代には、軸方向磁束モーターはあまり一般的ではありませんでしたが、軸方向磁束モーターの技術に新しい素材を使ったいくつかの小さな工夫を組み合わせることで、私はYASA(Yokeless And Segmented Armature)と呼ばれる新しい設計に辿り着いたのです。これは軸方向磁束型の軽量な配列を、さらに半分にまで軽量化したものです。これにはローターの直径が大きくなるという利点もあります。つまり、基本的にトルクは力×直径なので、直径が大きくなれば同じ力でもより大きなトルクを得ることができます。直径を2倍にすれば、同じ材料で2倍のトルクが得られるということです。これが軸方向磁束型の利点です。

TC:メルセデスによる買収は完了しましたが、次は何をするのですか?

TW:私たちは基本的に完全子会社です。メルセデスの産業化する組織力を活用していくつもりです。しかし、重要なことは、自動車業界で技術がどのように拡散していくのかを見ると、まずはフェラーリのような高級車から始まり、それから大衆車に降りてきて、そのあと大量生産されて拡がっていくということです。この分野において、メルセデスは産業化に関して世界的に進んでいる企業です。今回のパートナーシップの背景には、そのような考え方があります。

TC:ここから先は、他にどのようなことができるのでしょうか?

TW:私たちは、高出力、低密度、軽量なモーターで、スポーツ性能と高度な産業化を両立させることができます。それによって私たちは、あらゆることに対応できる類まれな立場にあります。

将来の計画については語ろうとしなかったものの、ウールマー氏が電気自動車と電気モーターの分野で注目すべき人物であることは確かだ。メルセデスによる買収後、YASAは下のようなビデオを発表した。

画像クレジット:Oxford Mail

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

アストラゼネカの新型コロナワクチン治験で誤り、追加の治験実施へ

製薬会社AstraZeneca(アストラゼネカ)の新型コロナウイルスワクチンのフェーズ3臨床試験(治験)で、効果が高かったグループのワクチン投与量に誤りがあったことが明らかになり、同社のCEOはグローバルで追加の治験を行うとBloomberg(ブルームバーグ)に語った。AstraZenecaとパートナーのオックスフォード大学は、ワクチン2回分を投与したグループで62%の効果を、半回分の投与後に追加で1回分を投与したグループで90%の効果が確認されたとする暫定結果を発表していた。しかし後者については実際は、本来2回分を投与するはずのものを誤って1.5回分投与したにすぎなかったことに科学者が後で気づいた。

はっきりさせておくと、これはオックスフォード大学とAstraZenecaのワクチンに対する期待をくじくものではないはずだ。結果はかなり有望であり、追加の治験はアクシデントの半回分投与の結果が実際に意図的に行った時にも裏づけられることを証明するために行われる。追加の治験は米食品医薬品局(FDA)が米国内での使用を承認するのに必要な米国で計画されている治験の前に行われる見込みで、結果的にオックスフォード大のワクチンが米国で承認されるのにさらに時間がかかることになりそうだ。

AstraZenecaのCEOによると、安全性データを含めこれまでに行われた研究には米国以外の国からの参加者があったため、オックスフォード大のワクチンの米国外での展開はおそらく影響を受けない。

Moderna(モデルナ)とPfizer(ファイザー)のワクチン候補もフェーズ3治験でかなり高い効果を示した一方で、AstraZenecaのワクチンには非常に大きな期待が寄せられている。というのも、異なる手法を用いているAstraZenecaのワクチンは冷凍させるのではなく冷蔵庫の温度で管理・輸送でき、ModernaとPfizerが開発中の2つのワクチンに比べるとコストはわずかだからだ。

そのため、AstraZenecaのワクチンはコストや輸送インフラが大きな懸念事項となっている国への配布を含め、世界中のワクチン接種プログラムにとってかなり貴重なリソースとなっている。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:オックスフォード大学新型コロナウイルスCOVID-19ワクチン

画像クレジット:STEVE PARSONS/POOL/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

オックスフォード大学の新型コロナワクチンも効果を確認、安価で管理が容易なタイプ

製薬会社AstraZeneca(アストラゼネカ)と提携して開発しているオックスフォード大学の新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチンは、フェーズ3治験の予備結果で70.4%の効果が確認された。この数字には、2種の投与方法で得られたデータを含んでいる。1つのグループには2回分を投与し、効果は62%だった。もう1つのグループには半分の量を投与してから間を空けて1回分を追加投与し、効果は90%だった。

オックスフォード大学の治験結果は、Pfizer (ファイザー)やModerna(モデルナ)のもののように目を惹く高い効果ではないかもしれない。しかし、いくつかの理由で最も有望な要素を含んでいる。まず、2回に分けて投与する手法の効果が今後の結果や分析でも認められれば、オックスフォード大学のワクチンは使う量を抑えつつ、高い効果を得ることができることを意味する(効果がさほどなければフルに2回分の量を使用する理由はない)。

2つめに、オックスフォード大学のワクチンは通常の冷蔵庫の温度(摂氏1.6〜7.2度)で保存・輸送することができる。この点に関し、PfizerとModernaのワクチン候補はかなりの低温で管理される必要がある。通常の冷蔵庫温度での管理が可能なことは、輸送する際やクリニック・病院などで管理する際に特別な設備が必要ないということになる。

オックスフォード大学のワクチンは、mRNAをベースとしたModernaやPfizerのワクチンとは異なるアプローチを取っている。mRNAベースの手法は、ウイルスを体内に入れることなくウイルスをブロックする作用のあるタンパク質を作るための設計図を提供するのにメッセンジャーRNAを使うというもので、人体への使用に関してはどちらかというと未知の技術だ。一方、オックスフォード大学が開発しているワクチン候補は、アデノウイルスワクチンだ。何十年もの間使われてすでに確立された技術であり、遺伝子を操作して通常の風邪のウイルスを弱体化させたものを注入し、人の自然免疫反応を引き起こす。

最後に、オックスフォード大学のワクチンは安い。これは部分的にはすでに試験・テストされたテクノロジーを使うためだ。確立されたサプライチェーンもあり、輸送・保管がしやすいというのも貢献している。

オックスフォード大学のフェーズ3のワクチン治験には2万4000人が参加し、2020年末までに6万人に増える見込みだ。安全性に関するデータではこれでまでのところリスクは特に見られなかった。暫定分析では131人のコロナ感染が認められたが、ワクチンを接種した人で重症化したり入院が必要になったりしたケースはなかった。

これは、はっきりと効果が認められる新型コロナワクチンのサプライチェーンの幅を広げる、有望なワクチンという素晴らしいニュースだ。可能な限り早く多くの人に接種できるという点において、複数の有効なワクチンを持つというだけでなく、複数の異なるタイプの効果的なワクチンを持つ方がはるかにいい。

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カテゴリー:バイオテック
タグ:オックスフォード大学新型コロナウイルスCOVID-19ワクチン

画像クレジット:STEVE PARSONS/POOL/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

5分以内に終わるオックスフォード大学の機械学習ベースの高精度新型コロナ検出技術

オックスフォード大学の物理学科の科学者たちが、SARS-CoV-2を高精度で検出できる新しいタイプの新型コロナウイルス試験法を開発した。患者から採取した検体から直接検査し、機械学習ベースのアプローチを用いて、試験供給の限界を回避に役立つ可能性がある。またこの検査は、抗体やウイルスの存在の兆候ではなく、実際のウイルス粒子を検出する場合にも利点がある。これらの兆候は必ずしも、活動的な感染性のある症状と相関しない。

オックスフォードの研究者たちが作り出した試験はまた、スピードの点でも大きな利点があり、検体の前処理を必要とせず5分以内に結果を出すことができる。これは、現在の新型コロナウイルスパンデミックに対処するためだけでなく、将来の世界的なウイルス感染の可能性に対処するためにも必要不可欠なものであり、大量検査を可能にする技術のひとつになり得ることを意味している。オックスフォード大学の手法は、多くのウイルスの脅威を検出するために比較的簡単に構成することができるため、実際にはそのためにも十分に設計されている。

これを可能にした技術は、採取したサンプルに含まれるウイルス粒子を、マーカーとなる短い蛍光色のDNA鎖で標識づけすることで実現している。顕微鏡でサンプルとラベル付けされたウイルスを画像化した後、チームが開発したアルゴリズム解析を用いて機械学習ソフトウェアが自動的にウイルスを識別し、物理的な表面構造、大きさ、個々の化学組成の違いにより、それぞれのウイルスが発する蛍光光の違いを利用してウイルスを識別する。

研究者らによると、この技術は検体収集装置、顕微鏡画像、蛍光体挿入ツール、コンピューターシステムを含めて、企業や音楽ホール、空港など、あらゆる場所で使用できるほど小型化できるという。現在の焦点は、すべてのコンポーネントを統合したデバイスの商業化を目的としたスピンアウト会社を設立することだ。

研究者は、起業し来年初めまでの製品開発をスタートを目指している。デバイスの実用認可と流通の整備にその後約半年かかるだろう。新しい診断デバイスの開発としてはタイトなスケジュールだが、パンデミックに直面してすでにスケジュールは変更されており、新型コロナウイルスは近い将来に消え去るとは考えづらいため今後続けられるだろう。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:オックスフォード大学新型コロナウイルス機械学習

画像クレジット:オックスフォード大学

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa