現在、我々が生物学と農業の分野で直面している問題の多くは、実は以前、人間ではないある生物体が経験していたものである。自然界のどこかには、科学者や生物工学者が再現するのに悪戦苦闘しているプロセスを、自然かつ効率的に実行してしまう微生物が存在している。Pluton Biosciences(プルトンバイオサイエンス)は、そうした微生物またはそれに類する生命体を見つける方法を開発したという。同社はすでに、アンチモスキート(蚊の駆除)および二酸化炭素隔離の手法をデモしており、その他のデモも準備中である。
地球上には、動物および植物の体内外、および土中に、科学でも解明されていないバクテリアやその他の微生物が存在している。人間が培養して制御できるようになった乳酸菌や大腸菌といったひと握りの微生物は革新的な変化をもたらし、さまざまな新しい食品が生まれ、さまざまな発見がなされ、産業プロセスが実現された。そうした微生物は、人類にとって極めて有益ではあるが、ほとんど無限に存在する微生物種のわずか一握りに過ぎない。
「微生物は1兆種類存在しており、人類が利用しているのはわずか数個に過ぎません」とPlutonの創業者兼CEOであるBarry Goldman(バリー・ゴールドマン)氏はいう。ゴールドマン氏は、Monsanto(モンサント)で約20年間、この未知の微生物たちを利用する方法を考えていた。「私たちは地球上の生物の計り知れないほどの多種多様性を利用して大きな問題を解決しようと試みています。自然に答えを見つけてもらおうというわけです」。
もちろん、地球が保有しているこうした未開拓の知的財産を何とか見つけ出して活用することを考えたのはゴールドマン氏が最初ではない。実際、Plutonのアプローチは驚くほど保守的なものだ。基本的には、微生物が大量に含まれている土やその他の媒体を一握り持ち帰って、何かおもしろいことが行われていないか調べるというものだ。
なんとも曖昧なやり方だと思われたかもしれない。実際にその通りだ。だが、体系的に行えば、土は膨大な微生物の供給源となるのだ。しかし、問題は、文字通り土を掘り起こして次のペニシリンを見つけ出そうとしていた頃は「その中から単一の生命体を特定したり、シーケンス解析(同定)することは決してできませんでした」とゴールドマン氏は説明する。1立方センチの土の中で微生物が抗生物質を生成したり、窒素固定を行ったり、インシュリン生成効果を発揮していることはわかっていた。そうした作用は計測できたからだ。だが、それらの微生物を分離するツールはなかった。
この微生物を分離するという次の段階は、研究者たちが数十年前に放置してしまい、まったく進んでいなかった。Plutonはその壁を突破したのだという。
「中核となる技術は、個別に生育させる方法はわかっていないが、その作用をテストすることはできる有機体の小集団を形成するというものです」とCEOのSteve Slater(スティーブ・スレーター)氏はいう。「この方法で、現在培養も、そしてもちろんシーケンス解析もできていない微生物の99.999%を生育させることが可能です」。
ゴールドマン氏とスレーター氏がこのプラットフォームの具体的な内容について話したがらないのは理解できるが、彼らの初期の成功は、このアプローチの有効性を証明しており、660万ドル(約7億4000万円)のシードラウンドが実施されたことから、投資家たちも納得していることが伺われる(PlutonはIlluminaのアクセラレーターが選択したスタートアップの成功ケースの1つだ)。
「鍵は、二酸化炭素の隔離、害虫や菌の殺傷など、関心のある表現型(遺伝子型の一部が目に見えるかたちで現れる生物組織の特質)をすべて選び出す方法を知ることです。そうすれば、その特定の作用を持つ有機体または遺伝子のセットをすぐに特定できます」とスレーター氏は説明する。独自のプロセスにより、彼らはこの分離プロセスを実行し、関心のある生命体のシーケンス解析を実行できる。
この「微生物マイニングエンジン」の有効性を証明するため、彼らは、蚊に効く天然の殺虫剤を探すことにしたという。蚊はもちろん、多くの地域で重大な驚異となっている。「蚊を殺す作用のある同定されていない新しい微生物を見つけることができるかと自問してみました。それは可能でした。しかも実に単純でした。実際数カ月で見つけることができました。バリーの家の裏庭で採取した土から見つかったのです」。
このような発見が創業者の極めて身近な所に眠っているのは驚くべきことだと思う人は、微生物の生物多様性の程度を過小評価しているかもしれない。これは、我々があまり注意を払わないような「驚くべき科学的事実」の1つであり、ショベル一杯の土には、何億兆の未知の有機体や百万の種が含まれているといったことは、よく耳にする話だ。私達はそうしたことを理解して「そう、生命はどこにでも存在する。すごいことだ」と思う。
耐抗生物質バクテリアの生物膜。棒状バクテリアと球状バクテリア。大腸菌、シュードモナス菌、ヒト(型)結核菌、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA。3Dイラストレーション(画像クレジット:Dr_Microbe/Getty Images)
だが、これらは、ゲノムがわずかに異なるだけの生命体ではない。バクテリアなどの微生物は驚くほど多様性に富み迅速に変化する。そうして、我々が存在することさえ知らなかった多様性の隙間をあっという間に埋めることで、植物の果糖製造の過程で捨てられた微粒子を食べたり、表面下のちょっとした暖かみや腐食有機物を利用して生き延びる方法を見つける。こうしたさまざまな生命体はいずれも、人類の食糧生産、薬品製造、農業などを一変させる可能性のある新しい化学経路を独自に発達させている可能性が高い。
Plutonが心配しているのは農業だ。農業分野は、他の分野と同様、CO2排出量を削減する方法を探している(動機はいくつもある)。PlutonはBayer AGと提携して土壌添加剤の開発に取り組んでいる。これが成功すれば、すでに存在する可能性が高い有機微生物の作用を単純に増幅させるだけで、さまざまなことを成し遂げられる可能性がある。
Plutonは次のように説明する。「私たちの概念実証研究によれば、微生物を適切に組み合わせて、種まきと収穫時にスプレー散布すれば、0.4ヘクタールの農地で年あたり約2トンのCO2を空中から除去できます。同時に、土中の栄養分も補給できます」。
蚊の駆除剤も商用化可能だ。また、害虫が耐性を獲得してしまっている現在市場に出ている殺虫剤よりも効果的な天然由来の殺虫剤も実現できる。
同じ方向性で製品開発に取り組んでいる企業は他にもある。Pivot Biosciences(ピボットバイオサイエンス)は、基本的に土中の微生物に肥料を作らせるために膨大な資金を調達した。Hexagon Bio(ヘキサゴンバイオ)も薬品の開発に使える自然に存在する微分子を特定するという同じような提案を行い資金を調達した。つまり、自然の金庫からは次々に財産が盗まれているが、財産が枯渇することはない。
「これが投資家に説明するのが最も難しい点です」とゴールドマン氏はいう。「1兆種というとてつもない多様性規模をどうすればわかってもらえるでしょうか」。
それでもPlutonは、シードラウンドで660万ドル調達したことからもわかるように、ある程度成功を収めているようだ。シードラウンドはオークランドのBetter Ventures(ベターベンチャーズ)が主導し、Grantham Foundation(グランサムファウンデーション)、Fall Line Capital(フォールラインキャピタル)、First In Ventures(ファーストインベンチャーズ)、Wing Venture Capital(ウイングベンチャーキャピタル)、およびYield Lab Institute(イールドラボインスティチュート)が参加した。今回調達した資金で、Plutonは、パートタイムから正規雇用への移行、ラボの設置などを実施して正規の会社として運営を開始できるはずだ。ゴールドマン氏の裏庭の生物多様性から抜け出すこと(実験施設の拡充)も考えているかもしれない。
画像クレジット:TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)