ホテル経営分析の空が「MagicPrice」を大幅リニューアル、他業界にも“PriceTech”展開目指す

空の代表取締役、松村大貴氏

ホテル・旅館向けにAIを使った市場分析と料金設定支援サービスを提供する空(そら)はホテルや旅館などに自動で最適な宿泊料金を提示するBtoBサービス「MagicPrice」を大幅にリニューアルする。同社は12月13日より新しいMagicPriceの利用の申し込みを受け付けており、提供開始は2019年2月頃を予定している。

同社のホテル業界向け市場分析サービス「ホテル番付」とMagicPriceは名称が統合される。ホテル番付は2019年2月よりMagicPriceのライトプランとして提供。MagicPriceのスタンダードプランは旧MagicPriceの機能に加えてこれまでホテル番付として提供してきた競合ホテルの分析機能が備わっている。

また「シンプルでわかりやすいデザイン」と「料金提案AIの改善」も新しいMagicPriceの大きな特徴だ。ホテル従業員の誰にでも使いやすいようUI/UXを一新するほか、今後はカスタマーサクセスにも注力していく。

代表取締役の松村大貴氏は12月12日に開かれた会見にて、“PriceTech”という造語を使い、“世界中の価格を最適化する”というこれまでと同じミッションのもと、MagicPriceをホテル業界だけでなく「他の業界に広げていく」と話した。

同氏いわく、名称を変更する理由は二つあるという。一つは市場分析を行っていたホテル番付とより網羅的に料金設定全体をサポートするMagicPriceを連動させ、より包括的にホテルの料金設定全体を支援していく事業に進化させるため。また「料金設定をするサービスなのでホテル番付よりもMagicPriceのほうが名称として適している」と同氏は話した。

もう一つの理由は、MagicPriceを今後様々な業界にサービス展開していくときに「コアとなるブランド名」にするため。確かに、MagicPriceという名前にはホテルの要素は入っていない。

「(ホテル業界以外においても)価格最適化のニーズはかなり多く残っている。MagicPriceというサービスで様々な業界に展開していくことを見越している。造語なので初耳だと思うが、空はこれから“PriceTech”というテーマを広げていく会社になることを目指す。FinTechやHealthTechのように、PriceTechも新しいビジネスカテゴリーになるのでは」(松村氏)

松村氏は2018年7月に資金調達をした際にはTechCrunch Japanの取材に対し「ホテル以外の旅行業界やイベントチケット、さらに飲食・小売業についても話があり、適用範囲は限りなく広いと考えている。各業界のすばらしい企業と組み、新規事業として展開することも狙っていく」と話していた。

2015年に設立された空のサービスを利用したホテルは累計2000軒以上。サービス導入後に実施したアンケート調査では顧客満足度は91%となっていたという。

空は「TechCrunch Tokyo 2017」にて開催されたピッチバトル「スタートアップバトル」の優勝き企業だ。名称は変わるものの、同イベントでピッチされたホテル番付がどのような業界に展開されていくのか、今後も目が離せない。

イベントから1年が経過し、松村氏は「最近では空も“ホテル向けのサービス”というよりは“プライシングの支援企業”として認知・認識されるようになってきた」と話している。

「様々なサービスなどの価格はより自由に、流動的になっていくのでは。今後は価格設定においてテクノロジーの活用が進んでいくと考えている」(松村氏)

TC Tokyo 2017バトル優勝「ホテル番付」、ベストウェスタンホテル系列10施設に導入

ホテル業界向けの市場分析サービス「ホテル番付」を提供するは11月1日、ベストウェスタンホテル系列の10施設へのホテル番付導入決定を発表した。

ホテル番付は、周辺ホテル・施設の客室価格や販売室数などをユーザーの代わりに自動で調査・分析。必要なタイミングで報告・提案してくれる、ホテルの客室価格決定のための市場分析サービスだ。

今回、ホテル番付を導入するのは、世界110の国と地域に広がるベストウェスタンブランドのホテルを、日本で展開する価値開発。同社が運営する以下の10施設にホテル番付の導入が決定している。

  • ベストウェスタン札幌大通公園
  • ベストウェスタンプラスホテルフィーノ千歳
  • ベストウェスタン山形エアポート
  • ベストウェスタンthe japonais米沢
  • ベストウェスタンホテルフィーノ東京秋葉原
  • ベストウェスタンホテル名古屋
  • ベストウェスタンホテルフィーノ大阪心斎橋
  • ベストウェスタン大阪塚本
  • ベストウェスタン沖縄恩納ビーチ
  • ベストウェスタン沖縄幸喜ビーチ

ベストウェスタンでは運営ホテル数が増加する中で、担当者が複数ホテルのプライシングを担当しており、負担が大きくなっていたという。適正価格の設定は職人技的な部分もあって、人材育成も難しい業務。価値開発は、ホテル番付について「マーケットの動きを素早く可視化でき、時間短縮・売り上げ改善チャンスの発見に役立っている。各施設でホテル番付の無料体験をし、現場のスタッフも活用してくれたので、全面的に導入を決めた」とコメントしている。

空はホテル番付を2017年8月にリリースする前に、客室料金設定を効率化する「MagicPrice」をリリースしている。市場分析のみ行うホテル番付と、プライシングまでできるMagicPriceの2つの製品をラインアップする形だ。だが、最近ではホテル番付を優先してプロダクトアップデートを進めてきた。

先月もホテルニューオータニ系列施設での導入が決まるなど、続々と宿泊施設への導入が進むホテル番付。そんな中、クライアントからは「ホテル番付の持つ市場分析機能と、MagicPriceが持つプライシング機能を一貫してサポートするようなサービスがほしい」との声も上がっているそうだ。

ホテル番付のプロダクトアップデートが一段落し、軌道に乗り始めたこともあって、空では年内にもホテルのレベニューマネジメント業務を一貫して支援するような、上位サービスのローンチを予定しているという。

ホテル番付は、昨年開催されたTechCrunch Tokyo 2017 スタートアップバトルで最優秀賞を受賞したプロダクト。今年のTechCrunch Tokyo 2018では、空 代表取締役の松村大貴氏が、受賞以降のプロダクトアップデートやこの1年の事業の成長について紹介してくれる予定だ。

ホテルの市場分析・料金設定を支援する「ホテル番付」の空が1.7億円を調達

ホテル・旅館向けに、AIを使った市場分析と料金設定支援サービスを提供する空(そら)は7月12日、約1.7億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先はベンチャーユナイテッドふくおかフィナンシャルグループのVCであるFFGベンチャービジネスパートナーズ、エースタートマネックスベンチャーズ、ほか数名のエンジェル投資家。

空は2015年の設立以来、2016年7月にシードラウンドで数千万円の調達2017年10月に8000万円の調達を行っており、今回の調達は3回目、シリーズAラウンドに当たる。

空が最初にリリースしたプロダクトは、ホテルや旅館などに自動で最適な宿泊料金を提示するBtoBサービス「MagicPrice」だ。MagicPriceはホテルが持つ過去の宿泊予約データと、公開されている旅行予約サイトなどから得たデータを分析し、適正な宿泊料金を提案。ホテル側は自社の方針に合わせて日ごとの料金ランクを決定し、サイトコントローラー経由で予約サイトに自動で反映することができる。

MagicPriceに続いて2017年8月にリリースされたホテルの経営分析サービス「ホテル番付」はTechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルで最優秀賞を獲得した。空 代表取締役の松村大貴氏は「今回投資に参加したマネックスベンチャーズについては、スタートアップバトルで審査員だった松本大氏(マネックスグループ 代表執行役社長CEO)と会話したことがきっかけとなった」と話している。

ホテル番付は当初、ホテル業界向けの効果測定・経営分析ツールとして登場したが、2018年4月からはエージェント型サービスにリニューアル。旧バージョンでも予約サイトに公開されている価格・室数情報を自動収集し、周辺ホテルの市場分析データをユーザーに届ける機能を備えていたが、新バージョンでは分析結果に基づく気づきや提案を、必要なタイミングでユーザーへ通知するスタイルに変わった。

リニューアルに伴い、基本無料で追加機能の使える有料版を月額1万円で提供してきた料金体系も変更。月額8000円の基本料金に、ホテルの規模に応じて部屋数で課金する形となっている。

2018年4月現在、ホテル番付とMagicPriceを合わせた利用ホテル数は1500件。松村氏は「利用が増えたことでフィードバックを得て、プロダクトの質も上がっている」と話す。

「料金体系の変更もよい決断だった。顧客の売上だけでなく単価もアップしており、我々もSaaS事業では重要なカスタマーサクセスに投資できるようになった。ひとつひとつ、相手に合わせたサポートプランを用意でき、満足度も向上し、ビジネスとしても成長している」(松村氏)

ホテル番付のリリースから1年弱、プロダクトの内容について模索してきたという松村氏。「今、いい型にはまったところで、サービスをよりスケールさせたい」と資金調達の意図について語る。

「調達資金はもっとチームを強くするために投資していく。プロダクトに自信が付いたところで、新しい顧客も集めたい。投資の半分はプロダクト強化のための技術開発へ、残りはセールスやマーケティングに使い、より顧客満足度を上げていきたい」(松村氏)

また、かねてから取材に対し松村氏が述べていることだが、価格決定に関わる技術を活用して、ホテル業界以外への事業展開も検討しているとのこと。

松村氏は「ホテル業界にビジネスモデルが近い業界、つまり価格決定がビジネスの成否に大きく影響し、かつプライシングのソリューションがない業界というのはいろいろある。実は他業界からも問い合わせがあり、1つ1つをプロジェクトとして検討し、見定めた上で進出したい」と話している。

「具体的にはホテル以外の旅行業界やイベントチケット、さらに飲食・小売業についても話があり、適用範囲は限りなく広いと考えている。各業界のすばらしい企業と組み、新規事業として展開することも狙っていく」(松村氏)

データでホテルの適正価格を自動算出、「MagicPrice」運営の空が8000万円調達

データ分析を駆使してホテルの適正価格を算出する「MagicPrice」を提供する空(そら)は、500 Startups Japan大和企業投資日本政策金融公庫、および複数のエンジェル投資家から総額8000万円を調達した。

2016年7月に行ったシードラウンドを合わせ、同社の累計調達金額は約1億円になるという。

空が提供するMagicPriceはホテル向けに提供するBtoBサービス。宿泊予約データを分析することで、ホテルなどの適切な料金設定を可能にするツールだ。

適正価格の予測にはまず、特定の月や曜日ごとの過去の傾向を分析し、その日の「ベース価格」を算出する。その後、近隣ホテルの料金設定や近所でイベントがあるかなどの外部要因によってベース価格を加減し、最終的に適正価格を割り出すという仕組みだ。

MagicPriceは、年に数回の季節要因だけでなく、その時々に確定している予約数の数など、需給要因による適正価格の変動も加味して、それをリアルタイムで反映するという。また、外部のホテル予約サイトの宿泊料金をMagicPriceが自動で適正価格に設定する機能も備えられている。

空代表取締役の松村大貴氏は、「たとえば、現在と1週間後の価格は予約状況などの要因によって適正価格がまったく異なることもある。MagicPriceはホテルの料金設定を継続的に改善するためのサービスだ」と語る。

インプットするデータは2種類。ホテル側のシステムから取り込むデータと、外部Webサイトからのデータだ。

2017年3月、空はホテル予約システム開発大手のダイナテックと事業提携を結び、同社の予約システムとMagicPriceを統合した。これにより、ホテルがダイナテック製のシステムを使っている場合は過去の宿泊予約データをMagicPriceに取り込むことが可能になった。

そのほかにも、MagicPriceは外部の旅行予約サイトから過去の宿泊価格データを取得している。

2016年7月にリリースしたMagicPriceの料金は月額3〜6万円(ホテルの規模により変動)。これまでに顧客として獲得したホテルの数は数十社だ。

「改善」と「効果測定」

2017年8月、空はMagicPriceに続き、第2弾目サービスとなる「ホテル番付」をリリースした。

ホテル番付は、MagicPriceと同じくホテル業界に向けたBtoBサービス。1万軒以上のホテル業績データをもとに、現在の料金設定が本当に業績向上に結びついているのかを把握するための効果測定ツールだ。

例えば、あるホテルが宿泊料金を見直した結果、前年同期比で売上があがったとしよう。でも、それが適切な料金設定によるものなのかは分からない。たまたまインバウンド旅行者が多かったのかもしれないし、近くでイベントがあったのかもしれない。料金設定が業績向上の要因になったかどうかは、近隣にある他のホテルと業績を比べて見なければ分からないのだ。

ユーザーがホテル番付を利用することで、自社の業績データと他社のデータを分析し、宿泊料金の見直しが業績向上にどれだけ寄与しているか調べることが可能だ。

でも、SORAは1万軒ものホテルの業績データをどうやって取得しているのだろう。松村氏によれば、ホテル番付はネット上に公開されている各ホテルの価格情報と客数情報からそれぞれの業績を推定しているのだそうだ。

上の画像にもあるように、SORAは各ホテルの毎日の販売価格と残り室数を記録し、前日との差から最低でも◯◯室、◯◯円分は販売されたことを計算する。そして、それらの数字を足し合わせて、各ホテルの売上や稼働率の指標を算出しているという。

「MagicPriceがホテルの料金設定を改善するためのサービスだとしたら、ホテル番付はその効果を測定するためのサービス。いわば、アドテク業界のGoogleAnalyticsのようなものです」(松村氏)

ホテル番付は無料のサービスで、リリースから約1ヶ月に約500軒以上のホテルが同サービスを利用しているという。

「適正価格の算出技術」を軸に、各業界へ

ホテル業界向けのサービスを複数展開しているSORAだが、彼らが目指しているのは「ホテルスタートアップ」ではないという。

その社名の通り、2015年創業のSORAはもともと、航空チケットの適正価格を算出するサービスを考案するスタートアップだった。しかし松村氏は、ほんの数社がシェアの大半を握る航空業界を、スタートアップであるSORAの営業体力で突破するのは困難だと判断。

創業時のヒアリングから、中小規模の事業者が数多く存在し、スタートアップでもサービスを浸透させられる可能性の高いホテル業界にまずはターゲットを決めたのだそうだ。

「私たちはテクノロジーで世界中の料金ミスマッチをなくしたいと思っています」と松村氏はいう。

「ビッグデータ分析が可能になっただけでなく、料金表は紙からオンラインに変わった。つまり、料金を自由に何度でも変更することが可能になった。これまで固定されていた価格がすべて、日々変動する適正価格に置き換わる時代が来ると確信している」(松村氏)

写真右から3番目が空代表取締役の松村大貴氏。