設立10周年を前に黒字化を達成した元Nokiaスタッフが企業したJolla、モバイル以外の展開も視野に

約10年前、Nokia(ノキア)のスタッフ数人が、Google(グーグル)のAndroidに代わるLinuxベースのモバイルOSを開発するために設立したフィンランドのスタートアップ企業Jolla(ヨーラ)。現在Sailfish OSを手がける同社は、現地時間8月25日、黒字化を達成したことを発表した。

モバイルOSのライセンス事業を行っているJollaは、2020年を事業の「ターニングポイント」と位置づけていた。売上高は前年同期比53%増、EBITDAマージン(利払い前・税引き前・減価償却前利益を売上高で割った比率。経営効率を示す)は34%となった。

Jollaは、新しいライセンス製品(AppSupport for Linux Platforms)の提供を開始したばかりだ。この製品は、その名の通り、Linuxプラットフォームに一般的なAndroidアプリケーションとの互換性をスタンドアロンで提供するもので、顧客はSailfish OSのフルライセンスを取得する必要はない(もちろん、Sailfish OSは2013年からAndroidアプリケーションに対応している)。

Jollaによると、AppSupportは初期の段階から、自社のインフォテインメントシステム(情報と娯楽を提供するシステムの総称)を開発するためのソリューションを探している自動車会社の「強い」関心を集めているという。AppSupportがあれば、Googleの自動車向けサービスを使わずに、車載のLinux互換プラットフォームでAndroidアプリケーションを実行できる、というのがその理由だ。多くの自動車メーカーがAndroidを採用しているが、Jollaが提供する「Googleフリー」の選択肢には、さらに多くのメーカーが興味を持ちそうだ。

車載のLinuxシステムにもさまざまなユースケースが考えられる。例えばIoTデバイスで人気の高いアプリケーションを実行できるようにして顧客に付加価値を提供する、といった幅広い需要が期待できる。

CEOで共同創業者のSami Pienimäki(サミ・ピエニマキ)氏は次のように話す。「Jollaは順調に成長しています。2020年、正式に黒字化できたことをうれしく思っています」。

ピエニマキ氏は「資産や会社が全体的に成熟してきたことで、顧客が増え始めています。私たちは少し前から成長に注力し始めました」と述べ、同氏のトレードマークでもある控えめな表現で好調な数字の理由を説明する。「Jollaは10月に設立10周年を迎えますが、ここまで長い道のりでした。この過程で、私たちは着実に効率性を高め、収益を向上させることができました」。

「2019年から2020年にかけて、私たちの収益は50%以上伸び、540万ユーロ(約7億円)となりました。同時に運用コストベースもかなり安定してきたので、それらが相まって収益性を高めることができました」。

消費者向けのモバイルOS市場は、ここ数年、GoogleのAndroidとApple(アップル)のiOSにほぼ独占されているが、JollaはオープンソースのSailfish OSを政府や企業にライセンス供与し、Googleの関与を必要としない、ニーズに合った代替プラットフォームとして提供している。

意外かもしれないが、ロシアは同社が早くから参入した市場の1つである。

関連記事
ロシア政府がJollaのSailfish OSを初のAndroid代替OSとして認可
ファーウェイがAndroidに代わるスマホ向けHarmonyOSを正式発表

近年では、地政学的な緊張が技術プラットフォームにもおよび、場合によっては外国企業による米国の技術へのアクセスが(破廉恥にも)禁止されるなど、デジタル主権の主張が強まり、特に(米国以外の)独立したモバイルOSプラットフォームプロバイダーの必要性が高まっている。

これに関連して、6月には中国のHuawei(ファーウェイ)が、Androidに代わる独自のスマートフォン「HarmonyOS」を発表している。

ピエニマキ氏はこの動きを歓迎し、Sailfish OSが活躍する市場の妥当性を示しているとしている。

HarmonyOSがSailfishのパイを奪ってしまうのではないかという質問に対し、同氏は次のように答える。「私は、HuaweiがHarmonyOSの価値提案や技術を出してきたことを、必ずしも競合するものとは考えていません。むしろ、市場にはAndroid以外の何かへの要求があることを証明しているのだと思います」。

「Huaweiは彼らの市場を開拓し、私たちも私たちの市場を開拓しています。両者の戦略とメッセージは、お互いにしっかりとサポートし合えていると思います」。

Jollaは、数年前からSailfishの中国進出に取り組んできたが、この事業は現段階ではまだ進行中である。しかし、ピエニマキ氏によれば、Huaweiの動きは、極東地域におけるAndroid代替製品のライセンス事業拡大という目標を妨げるものではないという。

「中国市場では一般的に健全な競争が行われ、常に競合するソリューション、激しく競合するソリューションが存在しています。Huaweiはその中の1つであり、私たちもこの非常に大きく難しい市場にSailfish OSを提供できることをうれしく思います」。

「私たちは中国で良い関係を築いており、中国市場に参入するために現地のパートナーと一緒に仕事をしています」とピエニマキ氏は続ける。「Huaweiのような大企業がこの機会を認識することは非常に良いことだと思っています。これにより、業界全体が形成され、Androidを選択せざるを得ない状況は解消されました。他に選択肢があるのですから」。

Jollaによると、AppSupportについては、自動車業界が「このようなソリューションを積極的に探している」という。同社は「デジタルコックピットは自動車メーカーにとって他社と差別化するための重要な要素」と指摘し、自動車メーカー自体がコントロールできる戦略的に重要な要素であると主張する。

「ここ数年、この分野はポジティブな状況にあります。Tesla(テスラ)のような新規参入企業が自動車業界を揺るがしたことで、従来のメーカーはコックピットでどうやってユーザーに楽しんでもらうか、という点について、これまでとは異なる考え方をする必要に迫られています」とピエニマキ氏。

「この数年間の多額の投資により、この業界は急速な発展を遂げてきました。しかし同時に、私たちは、私たちの限られたリソースの中で、この技術のチャンスがどこにあるのかを学んでいるところだということを強調しておきたいと思います。(Sailfish OSは)自動車分野での利用が多いのですが、他の分野、たとえばIoTや重工業などでも可能性があると考えています。私たちはオープンに機会を探っています。でも、ご存じの通り、自動車は今とてもホットな分野ですからね」。

「世界には一般的なLinuxベースのOSが数多く存在していますが、私たちはそれらのOSに優れた付加技術を提供することで、厳選されたアプリケーションを利用できるようにしています。例えばSpotifyやNetflix、あるいは特定の分野に特化した通信ソリューションなどが考えられます」。

「そのようなアプリケーションの多くは、当然ながらiOSとAndroidの両方のプラットフォームで利用できます。そして、それらのアプリケーションを単に存在させるだけでなく、Linuxプラットフォーム上で独立して実行することができれば、多くの関心を集めることができます」。

Jollaはもう1つの展開として、AppSupportの販売促進とSailfishライセンスビジネスのさらなる成長のために、2000万ユーロ(約26億円)を目標とした新たな成長ステージの資金調達の準備を進めている。

ヨーロッパは現在もモバイルOSライセンスビジネスの最大の市場であり、Sailfishの成長の可能性が見込まれている。また、ピエニマキ氏は、アフリカの一部の地域でも「良い展開」が見られると述べている。中国への進出をあきらめたわけでもない。

この資金調達ラウンドは2021年の夏に投資家に公開され、まだクローズされていないが、Jollaは資金調達を成功させる自信があるという。

「私たちはJollaストーリーの次の章を迎えようとしています。そのためには新しい機会を探る必要があり、そのための資本が必要で、私たちはそれを探しています。投資家サイドには現在資金が豊富にあります。一緒に仕事をしている投資銀行と私たちは、そこに勝機を見出しています」とピエニマキ氏。

「この状況であれば、投資家には必ず興味を持ってもらえると思います。Sailfish OSとAppSupportの技術への投資、さらには市場開拓のための投資を獲得して、市場の多くのユーザーに私たちの技術を利用してもらえるはずです」。

画像クレジット:Jolla

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

GoogleがフィーチャーフォンOSのKaiOSに2200万ドルを投資

Googleは、検索、地図、音声アシスタントのようなGoogleサービスを、新興市場のさらなる10億人のインターネットユーザーに提供するという目標の実現に向けて、スタートアップ投資を強化しようとしている。今回Googleは、2200万ドルの投資をKaiOS社に対して行った。同社はフィーチャーフォン向けの同名のOSを開発している会社で、そのOSは多くのネイティブアプリやスマートフォンのようなサービスを搭載している。投資の一環として、今年の初めにKaiOS搭載のNokia携帯向けGoogleアプリを発表して以来、KaiOSは検索、地図、YouTubeそして音声アシスタントなどのGoogleサービスを、より多くのKaiOSデバイスに統合しようとしている。

KaiOSのCEOであるSebastien Codevilleは発表の中で次のように述べている「今回の資金は、KaiOSを搭載したスマートフィーチャーフォンの開発の加速を行い、国際的な開発を促進します。このことで特に新興市場で、今だにインターネットにアクセスできない膨大な数の人びとが、接続を行えるようになるのです」。

私たちの現在のモバイル世界はスマートフォンによって支配されている:昨年には約16億台が販売された。しかし、フィーチャーフォンも引き続き売られ続けている。2017年には約4億5000万〜5億台が出荷されたと推定されている。そして、現在それらの売り上げは、彼らの強力ないとこたち(スマートフォン)よりも、実際に速いスピードで成長している。

KaiOSを搭載した携帯電話は、明らかに後者のカテゴリーで活躍している。そしてまだフィーチャーフォンが影響力を持つ市場では、勢いを増しているのだ。インドではAppleのiOSを追い抜いて、Android端末に続く2番目に人気のある端末になっている。KaiOS社によれば、現在までに4000万台以上のKaiOS携帯電話が出荷されているそうである。

GoogleのKaiOSへの投資は、将来的にはスマートフォンへと移行する可能性のあるフィーチャーフォンユーザーたちに、そのサービスを紹介する手段とみなすことができる。しかし、これらのユーザーがフィーチャーフォンカテゴリに留まっていたとしても、これらのユーザーに対してしっかり行えることもある。フィーチャーフォンカテゴリは、進化しより機能的になり続けているのだ。

「Googleと協力して、より多くの携帯端末にサービスを提供できることを嬉しく思っています 」と、KaiOSのCEOであるCodeville語る。「手頃な価格の携帯電話上にインテリジェントな音声アシスタントを搭載することは、本当に革命的です。なぜならそれはキーパッドによる限界を打ち破る手助けをしてくれるからです」。

KaiOSを実行するNokiaデバイス

KaiOSは、米国で2017年に始まったプロジェクトだが、それはMozillaの失敗したFirefox OS実験の焼け跡の上に構築されたものだ。これはLinuxコードベースから分岐したものである。Firefox OSは、HTML5を利用する低コストスマートフォンの、新しい波の礎となることが意図されていた。それらのデバイスやより広範なエコシステムは、実際に立ち上がることはなかったが、KaiOSは健闘してきた。

KaiOSは、Nokia社(HMD)、Micromax社、Alcatel社などのOEMメーカーが提供する携帯電話で動作し、SprintやAT&Tなどの通信事業者と協力し、北米、欧州、アジアにオフィスを構えている。しかし、これまでで最も重要な展開は、手頃な価格の4Gデータパッケージでインドの市場を破壊的に変革した挑戦的電話会社のReliance Jioによるものである。

Reliance Jioは独自のKaiOS端末を提供し、低コストのデータパッケージと組み合せることにより、インドの携帯電話市場におけるKaiOSのシェアは、15%に急増したと伝えられており、AppleのiOSを追い越してAndroidに次ぐ第2位になった(Jio自身のデバイスが、インドのフィーチャーフォンの数を実際に増加させていて、同国では大きな影響力を持っている)。

インドのような高成長市場での市場シェアだけでも、Googleの関心を引くのに十分だったようだ。

「デスクトップ、スマートフォン、フィーチャーフォンのいずれを使用していても、誰もがGoogleのアプリケーションやサービスを利用できるようにしたい」とGoogleのNext Billion Users(次の10億人)部門の製品管理担当副社長、Anjali Joshiは声明で述べている。「JioPhonesの成功に続いて、KaiOSと協力しながら、世界中のフィーチャーフォンユーザーたちによる情報へのアクセスを、さらに向上させることができることを大変うれしく思っています」。

さらに、 Next Billionビジネスユニットは、新興市場のインターネットユーザーのニーズにGoogle体験とサービスを適合させる作業を行っている。そうしたものには、ローカルアプリ便利な公衆Wi-Fiプログラムなどの新しいサービスも含まれている。

GoogleはAndroidスマートフォンプラットフォームの開発を続けてはいるが、他のプラットフォームへのサービス拡張も提唱してきた。それはKaiOSの場合も同じである。

2月にKaiOSは、新しいNokia 8110フィーチャーフォンに、Google Search、Google Maps、Google Voice Assistantを追加することを発表した。これはGoogleの投資の一環として、全てのモデルに対して拡大されるGoogleとの契約のようだ。

はっきりさせておきたいのは、KaiOSで提供されるのはGoogleサービスだけではないということだ。今年の初めにはTwitterやFacebook向けのアプリを追加し、またより基本的なHTML-5ウェブアプリも含む専用のKaiOSアプリも提供している(WhatsAppもやがて提供されるということだ)。

KaiOSへのGoogleの投資は、Googleの2つの投資部門GVとCapitalGが関わる、直接的なスタートアップ取引の最新のものである。GoogleはコンシェルジュサービスDunzoもサポートしており、ヨーロッパ、中東、アフリカでの新興企業への投資あるいは買収をにらんで、キャリアであるOrangeと提携を行っている。

[原文へ]
(翻訳:sako)

ロシア政府がJollaのSailfish OSを初のAndroid代替OSとして認可

jolla-app-grid-2-fixed

残り少ない独立系モバイルOSプラットフォームのひとつである、JollaのSailfish OSの未来が少しずつ見え始めてきた。他社へのライセンシングを目的に、Sailfish OSのコアコードの開発・保守を行っている、フィンランド生まれのJollaは、本日同OSがロシア政府および企業で利用されるために必要となる認証を取得したと発表したのだ。

近年ロシア政府は、AndroidとAppleのiOSの複占市場となっているモバイルOS界で、2つのOSを代替できるようなシステムの開発を奨励しようとしており、SailfishとTizenがその候補に挙げられていた。現状では、SailfishがTizenよりも、Androidの代替OSとして優位に立っているようだ。

さらにロシア政府は、海外製モバイルOSへの依存度を抜本的に減らしたいと語っている。具体的には、2015年の段階でAndroidとiOSが市場の95%を占めているところ、2025年までにはこの数字を50%以下にしたいと考えているのだ。

Sailfishがロシアの認証を取得する前に、今年に入ってからOpen Mobile Platform (OMP)と言う新たな会社が、ロシア国内の市場向けにSailfishプラットフォームのカスタマイズ版を開発する目的で、同OSのライセンスを購入していた。つまり、ロシアにとって極めて重要な”Androidの代替OS”は、現在Sailfishをもとに開発が進められているのだ。

OMP CEOのPavel Eygesは声明の中で「私たちは、オープンソースベースで作られ、他のOSに依存していないSailfish OSこそが未来のモバイルOSプラットフォームだと考えています。このOSは、ロシア以外の地域でも活躍できる可能性を秘めています。Sailfish OS RUSは、さまざまな人の参画やパートナーシップの上に成り立っており、ロシアを新たな高みに導くようなイニシアティブに向けて、私たちは積極的にパートナーやディベロッパーコミュニティに協力を働きかけていきます」と語っている。

他の独立系OSとは違って、SailfishはAndroidアプリと互換性を持っているため、MozillaのFirefox OSなど、なかなかユーザーが増えないOSに比べ、利用できるアプリの数において優位に立っている。なお、TizenでもいくつかのAndroidアプリが使えるようになっている。

Jollaは、TechCrunchの取材に対し、同社の投資家に今回Sailfishのライセンスを購入したOMPが含まれていることを認めた。そのため、昨年シリーズCを期間内にクローズできずトラブルに見舞われた(その後復活した同社は、今年の5月に再度資金調達を行い、1200万ドルを無事調達した)Jollaは、今後間違いなくB2Bのビジネスに注力せざるを得なくなる。

つまり今後Jollaは、インドのIntexのように、消費者に対してSailfishが搭載されたデバイスを販売している企業にOSをライセンスすることよりも、企業や政府に対してデバイスを販売している企業へのライセンシングに注力していくことになる。世界的にみれば、消費者向けデバイスにおけるAndroidの支配率はかなり高く、企業や政府の方が、データ・セキュリティについて専門的かつ差し迫った問題を持っている上、政府のサービスインテグレーションに対するニーズなどを考慮すると、この戦略にも納得がいく。

さらにJollaは、最近Sailfishが、ロシアのソフトウェアやデータベースに関する統一登録簿に追加されたと話す。これにより、今後ロシア政府やロシアの公企業は、モバイルデバイス関連のプロジェクトを行う際に、SailfishをOSとして利用することができるのだ。

Jolla会長のAntti Saarnioは、この登録プロセスに2015年の春から1年半近くかかったと語る。「登録プロセスは大がかりかつ長期に渡り、私たちもかなり力を入れてきました。まずは、ロシア情報技術・通信省が作成した代替モバイルOSの長いリストからスタートし、その後数が絞られていった結果、最終的に2つのOSが技術分析の対象となりました。ひとつがTizenで、もうひとつが私たちのSailfish OSでした」

「数ヶ月間におよぶ徹底的な技術審査を終え、彼らはようやくSailfish OSをコラボレーションの相手に選んだのです。その後、ロシア政府がSailfishベースでありながらも、独立したOSを利用できるように、Sailfishのロシア版のようなものを、私たちは現地企業と共同開発しました」

「ロシア政府は、監査・認証のプロセスを経た国家ソフトウェアのリストを持っているんですが、現在のところSailfishだけが、モバイルOSとしてそのリストに含まれています」と彼は付け加える。

ロシア版のOSは、Sailfishの派生物にはならないとSaarinoは強調する。むしろこのモデルは、ライセンシングパートナーのニーズにあわせて、Jollaがそれぞれのバージョンを開発するための土台となるものなのだ。ただし、コアコードは全てのバージョンで同じものが使われることになる。

同時にJollaは、拠点をロシアへ移し、アメリカ以外のひとつの国でだけ、AndroidとiOSに太刀打ちできるようなOSを開発するつもりもない。同社は、フィンランドにヘッドクオーターを置き続け、現在ロシアで取り組んでいるようなプロジェクトを、他のBRICs諸国へも展開していきたいと話しているのだ。

「私たちの使命は、OSをさまざまな目的に適合させ、その効率性を保つことです」とJollaのCEO兼共同ファウンダーであるSami Pienimäkiは話す。

「基本的に、私たちはSailfishをオープンソースのままにして、(ライセンス先に対して)常に最新のバージョンを提供しようとしています。ここでのJollaの責務かつ役目は、Sailfishの派生OSをつくらずに、ライセンス先企業とのコラボレーションを通じてのみ、Sailfishのカスタマイズ版を開発するよう徹底することです。私たちは、このモデルが他の市場でも成功すると信じています」と彼は付け加える。

「Jollaがロシアで成し遂げたのは、国家に対して自社のコードをベースにした独立モバイルOSを、自分たちのリリース方法で提供するという実例を作ったことです。私たちが知る限り、このような例は現在世界中で他には存在しません」とさらにSaarnioは続ける。

「世界中にはたくさんの国家が存在しますが、私はそのうちの多くが自分たち専用のサービスを求めていると考えています。そして、相手がロシアであるかそれ以外の国であるかに関わらず、実際に彼らにサービスを提供する方法について、少なくとも私たちにはノウハウがあります。今後は新たな顧客や国にアプローチして、ロシアで構築したモデルを他国で再現していきたいと考えています」

Sailfishは、大企業の支配が及ぼない独立系かつオープンなOSであるため、目的に応じてコラボレーションやカスタマイズをするのに最適です

「ある国が、自分たちのデータを管理するために、独自のモバイルOSを必要としているとしましょう。そして、彼らは既にクラウドソリューションなどへ投資しているとした場合、彼らの頭の中にすぐに疑問が浮かんできます。『それじゃ、専用のモバイルOSの開発には、どのくらい時間がかかって、いくらぐらいの資金が必要になるんだ?』これは普通であれば、答えるのが大変難しい問題ですが、今の私たちであれば、半年でここまでできると回答することができます。既にロシアでの実施例があり、予算感も把握しています。そのため、ロシアでのパイロットテストが完了すれば、私たちの顧客候補となる国は、具体的な情報をもとに判断を下すことができるんです」

2015年2月に、ロシアの情報技術・通信大臣であるNikolai Nikiforovは、「グローバルITエコシステムの非独占化」を求める発言をし、国内のディベロッパーが、SamusungのTizenとJollaのSailfishをサポートするよう、両社のプラットフォームへのアプリの移植に対して助成金を交付していた。

さらに同年5月、Nikiforovは、Jollaの株主にフィンランド、ロシア、中国の投資家が含まれていることに触れながら、Sailfishのことを”ほぼ国際企業”だと表現していた。

「私たちは、オープンなOSをベースとした、クローズドなモバイルプラットフォームを独自に開発する必要があると考えています。そのような構想をサポートする準備はできていますし、きっとBRICs諸国のパートナーもその計画に賛同してくれることでしょう。インド、ブラジル、南アフリカの戦略投資家も、いずれSailfishに参加することを私たちは願っています」と彼は当時語っていた。

また、フィンランドとロシアの物理的な距離がロシア政府の好感につながり、SailfishがTizenに勝つ要因のひとつとなった可能性も高い。

「Sailfishは、大企業の支配が及ぼない独立系かつオープンなOSであるため、目的に応じてコラボレーションやカスタマイズをするのに最適です」とPienimäkiは、Sailfishが選ばれた理由について話す。

OMPのロシア版Sailfishには、カスタマイズの結果、追加でセキュリティ機能が搭載される予定だ。Sailfishのプラットフォーム自体は既にロシア語をサポートしているため、ローカリゼーションは必要ない。「現在私たちはセキュリティ機能の強化にあたっています。さらに、顧客のニーズに合わせてOSのセキュリティレベルを上げられるように、OS用のセキュリティ・イネイブラーの開発も進めています」とPienimäkiは言う。

Jollaは以前、セキュリティ機能を強化したSailfishのバージョンを開発するため、どこかの企業とパートナーシップを結ぶ意向を示していた。Pienimäkiは、OMPとの協業がその結果だと言う。

「私たちは顧客の望む機能を実現し、OS用のイネイブラーを開発し、ソースコードや、システムの透明性、ライセンシングモデルなどを提供していますが、最終的なソリューションの実装は、その地域ごとの規制やアルゴリズムなどを理解した、地元企業が行うことが多いです。さらに、地元に根づいたテクノロジーを利用するほうが好まれるということも理解できるため、その地域のテクノロジーとの統合についても、地元企業に一任しています」と彼は話す。

Sailfishを搭載したデバイスが、実際にロシア市場に投入される時期については、未だ明確になっていないが、Pienimäkiは2017年中には実現するだろうと話している。さらに彼は、市場に製品が出るまでの最初のステップとして、公企業でパイロットプロジェクトが行われる予定だと付け加えた。

intex_aqua_fish_01

またSaarnioは、長期的に見て、消費者もプライバシー機能が強化されたAndroidの代替OSを求めるようになると自信を持っているが、現段階では市場がSailfishを求めてはいないと認め、Indexが次の(上図のような)Sailfishデバイスを発売する予定もないと言っている。だからこそ、Jollaはビジネスモデルを、B2BやB2B2Gのライセンシングパートナシップモデルへと切り替えたのだ。

さらにJollaは、現在中国や南アフリカ政府ともSailfish導入に関する議論を進めている。

「中国はロシアよりも、交渉が難しい国です。しかし今回のロシアの例が、中国政府にとってかなり具体的なプロジェクト提案になると言え、さらに彼らは明らかにSailfishのようなソリューションを必要としています」とSaarnioは語る。

「さらに私たちは、他のBRICs諸国とも話を進めており、南アフリカとの議論や交渉も進行中です。しかしもちろん、普通の企業である私たちには、政治的な意図はありません。そのため、独立系OSの必要性や課題を持っている国であれば、どんな国とも喜んで議論をしていくつもりです」

また資金面に関し、Jollaは次の投資ラウンドを検討してはいるものの、新しいビジネスモデルのおかげで資金ニーズは減っているとSaarnioは話す。

「ライセンス先となる法人顧客へとターゲットを変更した結果、Jollaのキャッシュフローも増加しています。そのため、私たちはエクイティ過多の財務体質から脱却しました。しかし当然新たな資金は必要となるため、新しいライセンス先の獲得に努め、新たな顧客からの収益でキャッシュフローがポジティブになるよう願いながら、外部資金調達の計画も立てています」

また、JollaはSailfishを”オープンソース”と表現しているものの、プラットフォームの一部の要素は依然として公開されていない。同社によれば、この部分についても出来る限り公開しようとはしているものの、リソース不足から計画は思うように進んでいない。

「私たちは、プラットフォームの非公開箇所の公開に向けて努力を続けており、今はUIやアプリケーションのレイヤーを優先して、段階的に情報を公開していくつもりです。具体的な計画の詳細については、準備ができ次第発表します。いずれにせよ、私たちはこの課題に本気で取り組んでいきます」とPienimäkiは話す。

「私たちが採用している、ライセンス先企業とのコラボレーションモデルからも恐らく分かる通り、顧客もライセンシングとオープンソース、コラボレーションを組み合わせた形を望んでいます」

「オープンソースとは、実は私たちにとっての投資でもあるんです。ただソースコードを公開したからといって、みんながハッピーになるわけではありません。私たちがそのプロセスをサポートすることによって初めて、コミュニティ内の人たちが公開されたソースコードから意味のあるものを作ることができるんです」とSaarnioは語る。

「そして私たちのような企業にとって、これは大きな投資だと言えます。しかし、Jollaは今の道をこのまま進んでいくつもりでいると同時に、この投資が無駄になることがないよう、きちんとそのプロセスを管理しようとしています」

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter