20の質問に答えて契約書を自動生成、「AI-CON ドラフト」がβ版公開――1.8億円の調達も

AI契約書レビューサービス「AI-CON レビュー」など、リーガルテック領域で複数のプロダクトを展開するGVA TECH。同社は9月3日、DBJキャピタルと西武しんきんキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、約1.8億円を調達したことを明らかにした。

合わせてAIを活用した“契約書の自動生成機能”を備える「AI-CON ドラフト」のβ版の提供を始めたことも発表している。

弁護士が作る“法務格差”を解消するためのプロダクト

4月にも紹介した通りGVA TECHは弁護士の山本俊氏が2017年1月に設立したスタートアップ。同社ではビジネスにおける法務格差の問題を解決するべく、テクノロジーを駆使した複数のプロダクトを開発する。

法務の専門部署がないような企業が契約を交わす場合、通常は時間とコストをかけて弁護士に確認を依頼するか、十分な確認をせずに契約を締結するかのどちらかが多い。特に初期のスタートアップにとっては少しでも余分なコストを削減したいところだけれど、専門家に確認せずに進めた結果「契約書に潜むリスクを見落とし、自社が不利な契約を締結してしまった」なんてこともありうる。

山本氏自身も弁護士として複数の企業をサポートする中で「一方にとって圧倒的に有利な契約内容」になっている契約書を目の当たりにしてきたという。

その解決策としてGVA TECHが4月にリリースしたのが、AIによって契約書のレビューを自動化するAI-CON レビューだ。同サービスでは契約書のファイルをアップロードすると、1営業日以内に条項のリスクを5段階で判定し、修正案も提案。目の前にある契約書が自分にとって有利なのか不利なのか、人間に変わってAIがチェックしてくれる(現在はAIで判定した結果を弁護士が目視でチェックしているという)。

契約書のレビューにAIを活用するプロダクトとしてはつい先日も「LegalForce」を紹介したけれど、細かい機能面やアウトプットの内容には違いがありそうだ。

条項のリスク判定画面

修正案のレコメンド画面

AI-CON レビューは現時点で業務委託契約や秘密保持契約、投資契約など10種類以上の契約書に対応。無料の登録者数は1000社を突破した。

山本氏によると今の所は法務リテラシーが高い層を中心に、大手企業からベンチャー・スタートアップまで幅広い企業で使われているそう。今後はレビューの精度を上げることで、法務に関する知見がないユーザーでもより使いやすいサービスにすることが目標だという。

「今のAI-CON レビューは統計情報を元に契約書の内容が有利か不利かを判断しているので、この情報を自社として呑むかどうかを別途判断する必要がある。Google翻訳で英語を訳すのに近いような状態で、それ(機械的に翻訳されたもの)をベースに修正すれば業務の効率化にも繋がるけれど、出てきたものを完全に信じて使うにはまだ精度の改善が必要だ」(山本氏)

今後は「事業性も理解したレビュー」についても実現したいそう。これは利用者の事業内容や会社のフェーズも踏まえて条文の内容チェックや修正案の提案をするもので、「ここまでいくと弁護士のヒアリングにも近く、かなり使えるものになるのではないか」と山本氏は話す。

質問に回答すれば自社に合った契約書が自動生成

そしてGVA TECHがレビュー業務と並行して変えようとしているのが、前工程にあたる契約書の作成業務だ。

同社では6月よりAI-CON ドラフトという名称で主にスタートアップやフリーランス向けに、17種類の契約書テンプレートを無料で公開。今回新たにAIを活用した契約書の自動生成機能を追加して、β版として提供を始める。

「AI-CON ドラフト」利用イメージ

質問に回答していく様子

同サービスは契約条件に関する簡単な質問に20個程度回答することで、条件に合った契約書のテンプレートが自動で生成される仕組み。山本氏いわく「契約書作成時の弁護士によるヒアリングに近い」流れになっていて、「弁護士のヒアリングするパターン(各質問および回答)と条文群を両方機械学習にかけて、最適なものをマッチングするようなイメージ」だという。

「たとえばNDA(秘密保持契約書)の場合でも、入退社に関わるもの、業務提携の前提になるもの、業務委託と一緒に結ぶものなど条件ごとに最適な内容は異なる。質問に対する回答に沿った形でカスタマイズされたNDAのフォーマットが作られるのが特徴だ」(山本氏)

自動生成機能についてはリリース時点で対応しているのは秘密保持契約書のみ。9月中旬にはシステム開発契約・保守契約、アドバイザリー・コンサルティング契約、コンテンツ制作契約などの業務委託契約全般に対応する予定で、年内には販売代理店契約書、売買契約書など約20種類の契約書をカバーする計画だ。

ビジネスモデルとしては作成する契約書1通ごとに料金が発生する仕組みを検討しているが、まずはβ版として利用者あたり1通のみ無料で提供する。

「意外と自分の取引実態に合った契約書を持っている人は少ない。たとえば契約書の雛形をネットでダウンロードしていたり、自分の手元にないので相手方にもらっていたような場合、自分にとって不利な内容だと知らずに毎回使い続けてしまっているようなこともある。特にそういった人たちが、少しでも自社の取引実態に合った意味のある契約書を使えるようにしたい」(山本氏)

まだ限定的ではあるものの、これまで手がけていた契約書のレビュー業務に加えてドラフトの作成業務にも対応範囲を広げたAI-CON。契約書に関する業務は大きく(1)ドラフト作成(2)レビュー(3)交渉(4)契約締結(5)管理というプロセスに分かれるが、「AI-CONでは合意形成までのプロセスを効率化したい」という思いがあるそうで、今後も「AI-CON ○○」のように同シリーズのプロダクトが増えていくようだ。

GVA TECHではこれまでエンジェル投資家とチームメンバーから約6500万円を集めているが、VCからの資金調達は今回が初めてとなる。

調達した資金は主にエンジニアや法務人材などの採用とプロダクト強化に用いる計画。まずは2019年の春頃を目処にAI-CONシリーズ全体での登録者数5000社の達成を目指すという。

弁護士が作るAI契約書レビューサービス「LegalForce」のオープンβ版が公開

法律事務所や企業の法務部門が日々担っている契約書のレビュー業務。従来はアナログな側面が強かったこの業務を、テクノロジーを用いることでスマートにしようとしているスタートアップがある。

4月にTechCrunchでも一度紹介したLegalForceがまさにその1社だ。森・濱田松本法律事務所で働いていた2人の弁護士が立ち上げた同社では、AI活用の契約書レビュー支援サービス「LegalForce」を開発。8月20日よりオープンβ版の提供を始める。

現在のLegalForceでできるのは「契約書の自動レビュー支援」と「契約書データベースの作成」の大きく2つ。これらによって契約書のリスクや抜け漏れを自動でピックアップすることに加え、社内に眠るナレッジを有効活用できるような環境を提供する。

自動レビュー支援機能はLegalForce上に契約書のワードファイルをアップロードした後、契約類型と自社の立場を選択すれば、リスクを抽出したり条項の抜け漏れを検出したりするものだ。

たとえば秘密保持契約書において「その他のアドバイザーに対して秘密情報を開示できる」という旨の記載があった場合。秘密情報を渡す側からすると比較的広い範囲の相手に開示されてしまう可能性があるため、そのリスクを自動でコメントしてくれる。

またLegalForceでは記載のある内容についてレビューするだけでなく、“本来は入れておいた方が望ましいけれど、現時点では契約書内に含まれていない内容”も抽出する。

「情報の抜け漏れのチェックはコンピュータが得意なこと。人間が全てきちんと抽出しようとすると、チェックリストを頭の中にインプットしておくか、Excelなどでリストを作って突合作業をする必要があった。ソフトウェアなら瞬時にできるので、抜け漏れをなくすと同時に作業時間の短縮も見込める」(LegalForce代表取締役の角田望氏)

現在対応しているのは秘密保持契約書のみだが、今後はニーズの多いものから順に類型を広げていく方針。またレビュー結果も現状はcsvでダウンロードする仕組みになっているが、9月末を目処にブラウザ上でそのまま表示できるようにアップデートする予定だという。

そしてLegalForceにはもうひとつ、契約書のデータベース機能が搭載されている。これは社内に眠っている契約書ファイルをアップロードすることで、各社独自のデータベースを作成できるというものだ。

LegalForceにアップした契約書は自動で条単位に分割されるため、キーワード単位で過去の条項を参照することが可能。たとえば「損害賠償」と検索すると、これまで作成した契約書の中から損害賠償に関する条項のみを探し出せる。

「契約書を作成していると、過去に作った契約書の条項を参考にしたい時がある。これを探そうと思うとエクスプローラーなどに溜まっているファイルをキーワードで検索し、その上でファイルをひとつひとつ開いて確認しないといけなかった。この手間を無くし、ダイレクトに欲しい条項にアクセスできるのが特徴だ」(角田氏)

LegalForceは4月からクローズドβ版の提供を開始。花王やサントリー、電通を始めとした複数の大手企業をプロダクトパートナーに迎え、実証実験を重ねてきた。

角田氏によるとすでに約1.5万件の契約書を分析しているそうで、今後はこれらのナレッジを蓄積しつつ、レビューやデータベースの検索精度を上げていくフェーズ。今回のオープンβ版を経て、2019年1月には正式版をリリースする計画だという。

なおAIを活用した契約書レビューサービスと言えば、こちらも以前紹介した「AI-CON」などがある。ただしAI-CONがスタートアップやフリーランサーも含めたエンドユーザーの利用も想定しているのに対し、LegalForceのターゲットは契約書をチェックする立場の法律事務所や企業の法務部門だ(角田氏によると、今のところエンドユーザーへの提供は考えていないとのこと)。

定型的な契約書レビュー業務を効率化することで、弁護士や法務部の担当者の負担を減らし、より高度な仕事にチャレンジできるようにサポートしていきたいという。

Wordの法務書類をワンクリックでクラウドに自動共有、履歴管理も自動化する「hubble」が先行リリース

Wordで作ったファイルを複数人で管理していると、やがていろいろな箇所にちらばっていき「最新版はどこにあるんだっけ」問題が発生する。TechCrunch読者のみなさんも、一度くらいはそのような体験があるかもしれない。

特に契約書など法務関連の書類は、IT系のベンチャーでもいまだにWordを使って作成することが多いと聞くから、その共有方法や管理方法はもっと改善できそうだ。

7月2日に先行リリースとなったリーガルテックサービス「hubble」を開発するRUCは、まさにその課題に取り組むスタートアップ。hubbleを通じてWordファイルの共有方法を変えることで、バックオフィスの業務効率の向上を目指している。

ローカルのWordを使いながら、クラウドの恩恵も受けられる

hubbleを使ってできることは大きく3つ。ローカルのWordファイルを従来よりも簡単に共有・管理できること、ドキュメントの編集履歴やコメント履歴を自動で記録(バージョン管理)できること、複数人で同時に並行編集できることだ。

hubbleではPC上で編集したWordを、保存ボタンひとつでクラウドに自動共有できる仕組みを構築。そのため毎回いちいちファイルをダウンロードしたり、アップロードしたりすることもなく、常に最新版がhubbleに残る。最大の特徴は「ローカルのWordを使っているけど、クラウドの恩恵も受けられる」(RUCのCEO早川晋平氏)ことだ。

「弁護士事務所や企業の法務部にヒアリングをしてみてもWordの文化が根強く、そこを一気に変えるのは難しい。GoogleドライブやDropboxのような使い勝手をいかにWordでも実現するかを追求してきた」(早川氏)

特に複数の契約書や法務書類を扱うようなフェーズの企業では、ファイルがチャットツールやGmailなど複数のチャネルに散らばってしまうことも多い。hubbleは特に難しい操作や面倒な作業なく、ファイルを保存さえすれば最新版が常に一箇所に集約されることがウリだ。

書類の作成や編集はなじみのあるWordを呼び出して実行。ファイルを保存すると最新版が自動でhublle上に共有され、ローカルには何も残らない

契約書や利用規約の作成過程を蓄積

早川氏によると現在クローズドな形で複数の企業(弁護士事務所や企業の法務部など)がhubbleを導入しているそう。そこでファイルの自動共有機能に加えて反響があるのが、バージョン管理機能だという。

hubbleではブランチと呼ばれるコピーのようなものを作ってファイルを作成し、そのファイルを原本(マスターブランチ)に統合するというフローを採用。毎回の変更履歴は編集者の名前とともに自動で記録されるため、必要に応じてこれまでの道のりを振り返ることもできるし、ファイルにコメントを入れることで変更の意図も確認できる。

たとえばサービスの利用規約を例に考えてみたい。複数人で利用規約を作る場合、メンバー間でその都度フィードバックしながら内容を磨いていくことが多いはずだ。法律の改正や機能の追加があった場合には、本文をアップデートすることもあるだろう。

その時に「誰が、どんな意図で編集したのか。どんなことを考慮する必要があるのか」といった情報が一箇所にまとめられていた方が、内容に手を加える際にもスムーズに進むはずだ。

「法務担当者が変更になってしまった場合、利用規約や契約書がなぜ現在の内容になっているのか、どのようなリスクがこれまで検討されてきたのかが新しい担当者にはわからない。hubbleを見れば作成過程をナレッジとして残すことができる」(早川氏)

変更部分(差分)もわかりやすい仕様になっている

それ、GitHubなら簡単にできるかも

RUCは2016年4月の設立。CEOの早川氏はもともと会計事務所の出身だ。ちょうどその頃にマネーフォワードやfreeeの手がけるプロダクトが界隈でも広がり、業務効率が大きく向上する場面を目の当たりにしたのだという。

「専門スキルのある会計士が領収書の入力に時間をかけているのはもったいない。専門家の方々が本来やるべき仕事により多くの時間を使えるように、その他の業務を簡単にするサービスを作りたいと考えた」(早川氏)

CTOの藤井克也氏がAI領域に詳しかったこともあり、最初は紙の書類をスキャンして保存すると、自動で整理してくれるプロダクトを考案。2017年7月にはANRI、TLM、CROOZ VENTURESから資金調達もして開発を進めていたが、データの不足などいくつかの課題もあり、そこから軌道修正をしてhubbleのアイデアに行き着いた。

hubbleのきっかけは、現在RECのCLO(最高法務責任者)で当時は同社の顧問弁護士だった酒井智也氏とのブレスト。酒井氏から「書類のバージョン管理に困っている」という話を聞いた早川氏が、「GitHubのような仕組みがあれば簡単にできるのに」と思ったことから具体的にプロジェクトが始まったのだという。ブランチの概念などはまさにGitHubからきたものだ。

数千万円の資金調達も実施、8月の正式リリースへ

RECでは2018年6月に既存株主のANRI、CROOZ VENTURESから数千万円を調達。まずは書類管理などに課題を抱えているようなステージの企業の法務部と、スタートアップ企業の2軸を中心にhubbleの導入を進めていく。

なんでもスタートアップに関しては、CLOの酒井氏が以前あるM&A案件に携わった時、事業は評価されているものの「契約書の管理などがきちんとされておらず、法務のリスクからバリエーションが下がってしまった」ことがあったそう。

将来のエグジットも見越して初期からhubbleを導入してもらうことで、「全ての法務書類がhubble上できちんと管理されている」という使い方を広げていきたいという意向もあるようだ。

本日より問い合わせベースで少しずつ企業への提供を開始。ユーザーの反応も見ながら、8月を目処にWeb上での正式リリースを予定している。機能面については現状のものに絞って強化しつつ、他サービスとのAPI連携に取り組みながら利便性の向上を目指す。

「(社員数が数名の)自分たちですら、ファイルがどこにいってしまったのか探すのに時間がかかるということはありがち。同じような課題を抱える企業のバックオフィスをサポートしていきたい。まずは契約書などの管理や内容調整ならhubbleという立ち位置の確立を目指していく」(早川氏)

クラウド契約サービス「Holmes」がMF KESSAIなどと連携ーー契約書に関わる“すべて”を楽に

契約書の作成から管理までを一括サポートするクラウドサービス「Holmes(ホームズ)」。同サービスを提供するリグシーは6月7日、電子署名サービスの「ドキュサイン」、およびマネーフォワードグループの「MF KESSAI」とのサービス連携を発表した。同サービスはこれにより、単なる“契約書のクラウド作成サービス”からの脱却を目指すという。

Holmesは、クラウド上で企業間の契約書の作成、締結、管理までを一括して行えるSaaSサービスだ。サービス上には弁護士が作成した様々なタイプのテンプレートが用意されているほか、それらの文言を自由に編集することでオリジナルの契約書を作成することが可能だ。

Holmesは契約書を軸にしたコラボレーションツールとしても機能する。契約書の修正やチェックの過程で社員同士がコメントなどを書き込めるほか、各部署間にまたがる承認フローなどもすべてサービス上で完結できる。2017年8月リリースのHolmesは、これまでに約150社の有料ユーザーを獲得。100人以上の従業員を抱える企業がその大半だという。

今回、リグシーがサービス連携を発表したドキュサインは、2003年設立の米国企業。同社が提供する電子署名サービスは約180ヶ国の37万社以上で導入されており、2018年4月にはNASDAQ証券取引所への上場も果たしている。

実は、これまでのHolmesにも独自の電子署名機能は搭載されていた。しかし、「これまでのHolmesでは、相手先に契約締結を依頼する際に自動で送られるメールが日本語にしか対応していないことが、グローバル契約において障害となっていた。また、Holmesのような新しいサービスを導入する際に必要な稟議が通り易くなるなど、ドキュサインの知名度が生かされる可能性もある」とリグシー代表取締役の笹原健太氏は話す。

今後、ユーザーはHolmes上でドキュサインの電子署名サービス選択することができ、英語やフランス語など多言語化された締結依頼メールが送られる。通常は年間契約が必要なドキュサインを、1通あたり600円という従量課金で利用できることもメリットだ。

そしてもう1つ、Holmesがこれまでの“契約書のクラウド作成サービス”からの進化を象徴する連携がある。マネーフォワードグループのMF KESSAIとの連携だ。

これまでもTechCrunch Japanに度々登場してきたMF KESSAIは、企業の与信審査から請求書発行、代金回収などの請求業務を代行するサービスだ。これまで、ユーザーがMF KESSAIを利用する場合、代金の支払日や請求先などのデータを手入力する必要があった。しかし、今回の連携によりHolmesで作成した契約書のデータを自動的にMF KESSAIに取り込むことが可能になる。

笹原氏はこの連携について、「営業にとって、契約書はゴール。でも、経理にとってはスタートになるもの。契約書は業務間をつなぐハブのような存在だ。契約書を作るのも楽だし、その後の関連業務もすべて楽になるというような世界観を今後つくって行きたい」と話す。

MF KESSAIとの連携もその世界観を構成する1つで、契約書を締結した後にやってくる請求業務をサービス連携によって楽にするという考え方だ。笹原氏によれば、リグシーは今後も他社との連携によって、AIによる契約書の自動作成・自動チェックサービスや、企業に溜まった紙の契約書をPDF化して保管するサービスなどを2018年夏頃をめどに提供していく予定だという。

リグシーは2017年3月の創業。同年10月には500 Startups Japanなどから数千万円規模の資金調達を実施している。

AIを用いて法務の仕事をスマートに——弁護士起業家が立ち上げたLegalForceが8000万円を調達

業界の課題を現場で体験した専門家が起業し、テクノロジーを駆使して新しいソリューションを提供する。近年のスタートアップをみるとそんなケースが増えたきたように思う。

今回紹介するLegalForceもそのひとつ。もともと森・濱田松本法律事務所で働いていた2人の弁護士が2017年4月に設立した、「テクノロジーの活用で企業法務の効率化」を目指すスタートアップだ。

同社は4月2日、京都大学イノベーションキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、京都大学学術情報メディアセンター/情報学研究科知能情報学専攻兼担 森信介教授を含む複数名の個人投資家から8000万円の資金調達を実施したことを明らかにした(資金調達は2018年2月〜3月にかけて実施)。

条文の内容をAIがレビューし、修正案を提案

LegalForceが現在開発を進めているのは、自然言語処理を用いた契約書レビュー支援サービス「LegalForce」。同サービスではAIやクラウドによって契約書のレビューにかかる負担と、それにまつわるコミュニケーションや情報管理の手間を削減する。

大きな特徴となりえるのがAIによる修正案のサジェスト機能だ。これは契約書内の条項を選択すると、過去の修正履歴やLegalForceのデータベースをもとに修正内容が提案されるというもの。イメージとしては「ここの箇所に漏れがあるので、○○のように修正してはどうですか?」といった具合だ。従来は担当者がフォルダを引っ張り出して、手作業で行っていた業務を自動化する試みとなる。

開発中のサジェスト画面のイメージ

LegalForce代表取締役の角田望氏によると、この機能はレビュー業務の効率化はもちろん、担当者が気づいていなかった要素を“発見”できるメリットもあるという。「すでに記載のある内容を修正することは、そこまで難易度は高くない。一方で『もともと書かれていないが、本来は書いておくべきこと』をゼロから発見することは難しい」(角田氏)

これまでであれば、担当者の経験や知識レベルに依存する部分もあっただろう。だからこそ過去のデータを基に、抜け漏れも含めてAIが修正案のチェックをサポートする利点も大きい。

ただ角田氏の話では「技術的にチャレンジングな領域」であり、同社の株主で自然言語処理技術の専門家の森教授と開発を重ねている段階だという。契約書は企業ごとに色があるため、ユーザーごとにデータを蓄積していき、個々に最適な提案をする必要もある。今後のステップとしては、企業の法務部や法律事務所とパートナーシップを組み、実証実験という形から始める方針だという。

法務担当者の負担を削減する業務支援サービス目指す

また上述した通り、LegalForceは契約書レビュー時のオペレーションを効率化する機能も備える。これは角田氏の言葉を借りると「(契約書に特化した)グーグルドキュメントとチャットワークを足したようなもの」に近い。

開発中の契約書レビュー画面のイメージ

ドキュメントの共有やステータスの管理、関連するコミュニケーションをクラウドに一元化。各条文ごとにチャット機能を備えることで、従来はWordのコメントやメール、ビジネスチャットで行っていたコミュニケーションをLegalForce上だけで完結できるようにする。

「実際に現場でレビューしていて、コミュニケーションの部分で課題を感じることが多かった。たとえばチャットでやりとりする場合は情報がどんどん流れてしまうし、メールでは話が混線してしまう。大事な内容を見落とす原因にもなるので、やりとりを一元化したいという思いがあった」(角田氏)

まずは4月末を目処にベータ版の公開、そして複数社との実証実験にも着手する予定。ベータ版にはAIを活用したサジェスト機能は搭載されず、正式版からの提供になるという。

「契約書×テクノロジー」といえば、弁護士ドットコムの「CloudSign(クラウドサイン)」やリグシーの「Holmes(ホームズ)」など契約書の作成や締結をスムーズにするサービスの印象が強い。LegalForceのようにレビュー支援に着目したサービスはあまりなかったように思う。

「弁護士や法務部の担当者に聞いても(レビューを含む)契約書業務が大変という話をよく聞く。なにより自分自身もそうだったので、自然言語処理の技術をはじめとするテクノロジーによってもっと便利にできるのではないかと感じていた。最近はAIというと『仕事を奪う』という文脈で捉えられることもあるが、そうではなく弁護士や法務担当者の負担を削減し、自分の価値を発揮できる仕事、クリエイティブな仕事により多くの時間を使ってもらえるような業務支援サービスを目指したい」(角田氏)

“商標登録”をもっと身近に、簡単に――弁理士が立ち上げたオンライン商標登録サービス「Cotobox」

重要なのはわかっているけど、ついつい後回しになりがち――初期のスタートアップにとって「商標登録」とはそんな存在なのかもしれない。

商標登録のためには事前の調査や書類作成が必要になり、実務の知識がない人にとってはハードルが高い。その一方で専門家に依頼するとなるとそれなりの費用がかかる。法律で義務づけられているわけでもないので、自然と優先度が低くなってしまっても不思議ではない。

ただ後々サービスを本格的に展開するにあたって、事前に商標登録をしていないことが余計な問題を招く可能性もある。サービスのネーミングやロゴはブランドの代名詞ともいえるものだから、事前に登録しておくにこしたことはないだろう。

Cotoboxが11月20日にベータ版の提供を開始した「Cotobox」は、まさにスタートアップの商標登録の負担を減らし自社ブランドの保護・育成をサポートするサービスだ。

商標の事前調査から書類作成、提出までをスムーズに

Cotoboxが取り組んでいるのは、ITを活用して商標の登録や管理をスムーズにすること。同サービスでは出願前の事前調査から書類作成までがオンライン上にて完結。作成した書類はそのまま弁理士が代理で特許庁に提出してくれるため、高度な専門知識がなくてもスピーディーに商標登録出願ができる。

無料の「商標サーチ」機能を使えば、気になるキーワードでどの区分なら商標が取れそうか検索できる

通常自力で商標登録出願を行う場合、まず時間を要するのが事前調査だ。自分が登録したい商標と同じものや紛らわしいものがすでに登録されていないか、そもそも登録することができる商標かどうかを調査する必要がある。

仮に上記の条件をクリアしていると判断した場合でもそこで終わりではない。商標を使用する商品またはサービス(商標法では役務という)を指定するとともに、「区分」を指定しなければいけない。区分とは商品・役務の権利範囲を決めるカテゴリーのようなもので、第1類から第45類までに分かれている。

商標の検索自体は特許情報プラットフォームを活用すればオンライン上でも無料でできるが、相応の時間がかかる上に区分とその内容を適切に選択するのは専門知識がなければ難しい。一方CotoboxではAIを活用することで、ユーザーが最適な区分とその内容を判断するサポートをしている。

専門知識がなくても4ステップで出願書類が完成

Cotoboxの場合、以下の4ステップで出願書類が完成する。

  1. 商標とタイプの選択
  2. 区分の選択
  3. 出願人情報の入力
  4. 入力情報の確認と支払い

上述したようにポイントとなるのが2つめの「区分の選択」だ。まず登録する商標とタイプを選択し、商品とサービスのどちらに使用するか(双方も可能)を決め、関連するキーワードを入れてみると……適切だと判断された区分およびその内容が、自動でいくつか表示される。

ユーザーはこのレコメンドされた内容を参考にしながらチェックボックスにチェックを入れることで、出願したい区分と小項目を決定できる。区分ごとに申請サービス料と特許庁費用がかかるため、チェックを入れた区分の数に応じて出願費用が自動で算出される仕組みだ。

あとは出願人の情報を登録して内容を確定すれば書類は完成。担当弁理士のチェックがすんだ後に最終確認を済ませれば、特許庁への出願となる。

「弁理士に依頼する場合、そもそも知り合いに弁理士がいないケースも多くファーストコンタクトを取るまでに時間がかかる。その後も細かいコミュニケーションを重ねていると出願までに1ヶ月ほど要することに加え、(印紙代を除いて)安くても10万円前後の費用が発生するためハードルが高かった」(Cotobox代表取締役CEOの五味和泰氏)

Cotoboxの場合は利用料金が一律でエコノミープランは出願時に5000円、登録時に1万5000円。提携弁護士のフルサポートを受けられるプレミアムプランは出願時に3万5000円、登録時に1万5000円となっている。この料金は区分を1つ指定した場合の価格で、別途印紙代が必要となる。

書類作成までの時間も削減され、クローズドでテストをした際には3分で出願準備が完了したユーザーもいたそうだ。

「大手企業だと知財部のような専門チームを設けている場合もあるが、リソースが限られる中小企業やスタートアップがそこまでやるのは難しい。結果的に後回しになって、後々相談を受けると商標が取れないということもよくある。自社のブランドになりうるネーミングやロゴを早く守ることは重要なので、(中小企業やスタートアップが商標登録をするまでの)ハードルを下げてもっと身近なものにしたい」(五味氏)

特許事務所に約10年勤務した後、アメリカ留学を経て起業

五味氏は特許事務所に約10年勤務した経験のある現役の弁理士だ。数年前に国際的な弁理士になる目的でアメリカのロースクールへ留学した際に、現地のスタートアップイベントなどにも参加。「自分が携わっている業務もペーパーワークが多く、効率が悪い。ITを使えば何かできるかもと考えた」(五味氏)ことがきっかけで、国内に戻った後2016年2月にCotoboxを創業した。

今後も当面は「商標」の領域でサービスを拡大していく予定。現地の弁理士と連携した海外商標への対応や、大企業向けに商標管理の機能などを拡張したサブスクリプションモデルの提供も検討していくという。