次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

次世代型mRNA創薬の実用化に向けた名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology設立

名古屋大学は3月18日、メッセンジャーRNA(mRNA)の製造、分子設計・医学に関する知見、AI、データサイエンス、シンセティックバイオロジー(合成生物学)などの最先端技術を融合し、次世代型mRNA創薬を目指す名古屋大学発スタートアップCrafton Biotechnology(クラフトンバイオロジー)を3月1日に設立したと発表した。国産mRNAワクチンの速やかな供給をはじめ、がんや遺伝子病の治療、再生医療にも応用されるmRNA創薬に取り組むという。

Crafton Biotechnologyは、名古屋大学、京都府立医科大学、早稲田大学、理化学研究所、横浜市立大学の共同研究を実用化することを目的に設立された。10年以上にわたりmRNAワクチンと医薬品の開発に取り組んできた名古屋大学大学院理学研究科の阿部洋教授と京都府立医科大学大学院医学研究科医系化学の内田智士准教授らが、AI、データサイエンスを専門とする早稲田大学の浜田道昭教授、シンセティックバイオロジーを専門とし進化分子工学の手法を採り入れた次世代mRNAの製造法と設計法を開発する理化学研究所の清水義宏チームリーダー、さらに、副反応の少ないmRNAワクチンの開発を進める京都府立医科大学大学院医学研究科麻酔科学の佐和貞治教授と横浜市立大学眼科学の柳靖雄教授らが連携し、「強固なベンチャーエコシステム」を構築するという。そのとりまとめを行うのが、代表取締役を務める名古屋大学大学院理学研究科の金承鶴特任教授。そのほか、安倍洋教授が最高科学責任者、内田智士准教授が最高医療責任者に就任した。名古屋大学インキュベーション施設に拠点を置き、各研究機関の技術をライセンス化して一元的に集約。mRNA技術の事業基盤を確立し開発を促進する。

同社は数年以内に国内でmRNAを製造できる体制を整備し、安定供給を目指す。また独自の創薬技術を整備して、新型コロナウイルスに限らず、感染症のパンデミック時に独自開発したmRNAワクチンの迅速な供給を可能にすると話す。また、治療技術の海外依存度が大変に高くなっている現在、医薬品産業における日本の国際競争力を高める上で非常に重要な「ワクチンを超えた医薬品としてのmRNAの応用」として、がんや遺伝性疾患、再生医療への応用にも取り組むとしている。

植物由来肉を人工脂肪でおいしく満足できるものにするYali Bio

Yali Bioのチーム。左から3人目がCEOのユーリン・ルー氏(画像クレジット:Yali Bio)

フードテックの企業にとっては人の食習慣を変えることが重要だが、特に代替肉製品の場合は、味も匂いも食感も本物の肉のようでないと多くの人は満足しないため、なかなか難しい。

Yali Bioは、この問題を解決したと称する企業の1つで、同社はそのために、植物由来の食肉や乳製品のための人工脂肪(designer fats)を開発した。同社は現在、代替食肉の味を良くするための顧客特注の脂肪を生産するプラットフォームを作っている。

その加工技術を支えるものは、合成生物学とゲノミクスのツール、およびディープラーニングの技術で、それらによって作られる脂肪は、現在植物性の蛋白質に使われているココナッツなどの油脂よりもサステナブルだ。しかもその味や質感は、動物性脂肪を模倣している、とCEOのYulin Lu(ユーリン・ルー)氏は主張している。

ルー氏とチーフサイエンティストのPeng Xu氏は、カリフォルニアで同社を2021年に創業した。ルー氏はフードテックの前歴があり、Impossible FoodsやEat Justの躍進をこれらの企業の社員として見てきた。Peng氏は合成生物学が専門で、微生物を利用するシステムで脂質を開発してきた。

「明らかに現在は、製品の質と消費者体験が伸び悩みの段階にある。食肉は成功したブランドもあるが、そこから先がない。人びとが好む高級肉はいろいろな種類があるが、その代替製品に共通して欠けているのが製品の質を高める脂肪だ」とルー氏はいう。

彼によると、今はほとんどの植物由来の食肉が、脂肪に代わるものとしてココナッツオイルを使っているらめ、食品企業はどうしても風味添加物を使うことになり、消費者の好みに合わない製品を作っている。しかしYali Bioの技術は、非常に多種類の機能性脂肪を作ることができ「市場の鍵」を開けることができる。それまでその市場は、製品の質と消費者体験に限界があった。

顧客が必要とする脂肪を作れるようになった同社は、今度はそれらの人工的な脂肪を製品中に効率的に利用できる生産システムに取り組んでいる。これまで他社が使っていた方法の中には、動物の細胞や脂肪組織を使うものもある。

しかしYali Bioが採用したのは、微生物を利用する精密発酵という技術だ。独自の技術で微生物の菌株のライブラリを作り、それらをすべてテストした。次の段階は、発酵器の中で菌株を活動させ発酵工程をデモンストレーションするパイロット事業だ。それにより、小規模ないし中規模でも生産できることを証明する。

これらのステップをすべてこなしていくには、資本が少々必要だ。ルー氏はアクセラレーター事業を半年受講し、その間に新しい実験室を作った。そのとき同社はEssential Capitalがリードするシードラウンドで390万ドル(約4億5000万円)を調達した。このラウンドには新旧さまざまな投資家が参加し、それらはThird Kind Venture Capital、S2G Ventures、CRCM Ventures、FTW Ventures、そしてFirst-in Venturesなどだ。エンジェル投資家として、Stephanie Sher(ステファニー・シャー)氏とJohn Goldsmith(ジョン・ゴールドスミス)氏が参加した。Yali Bioのこれまでの総調達額は500万ドル(約5億8000万円)になる。

資金の一部は実験室の建設に投じられるが、他にも、合成生物学の部門や製品開発、パートナー選び、マーケティング、新規雇用などにもお金が必要だ。求める人材は、製品開発や食品科学、発酵などの方面で、年内に約12名が欲しいとのこと。

ルー氏によると、Yali Bioの技術も他の技術と同じく、本番稼働までに時間がかかる。例えば細胞培養を使う方法は7年前に最初の波が興ったが、現在でもパイロット段階の企業が少なくない。それらは、わずかな量の製品をレストランに卸している程度だ。Eat Justのようなスタートアップも、The EVERY Coのような食品メーカーも、今では細胞培養ではなく精密発酵を利用している。

ルー氏はさらに「今のチームでできることには限界があるため、もっと人を増やしてバイオテックの研究開発企業から具体的な製品のある企業に変わっていかなければなりません。精密発酵のデモを行い、他の技術よりも製品やサンプルを速く作ることができることを知ってもらいたい。その他、規制の問題や最終製品の形状、技術の複雑性といった難しいポイントはありますが、2〜3年後には製品を出したい」という。

Essential CapitalのマネージングパートナーEdward Shenderovich(エドワード・シェンデロビッチ)氏によると、代替食品への投資は初めてという投資家が多く、特に合成生物学の食品への応用という新しい技術はまだよく知られていない。

彼によると現在は第四次農業革命の前夜だという。これまでの農業はコスト低減と増産と質の向上を追ってきた。しかし、第四次はバイオの生産技術が引っ張り、サプライチェーンと価値の創造機会に大きな変化が訪れる。

「動物をベースとする農業から、バイオ生産による動物を使わない農業への移行を可能にするものなら、どんなものでも追究する価値があります。Yulinは、植物由来の発酵食品や培養食品の採用に立ちふさがる重要な難問を特定しています。培養肉の多くはタンパク質だけですが、脂肪も欲しい。脂肪は悪者扱いされてきましたが、現在、見直されつつあります」とシェンデロビッチ氏はいう。

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

「豆のないコーヒー」を分子合成技術で生み出すCompound Foods、環境や生産農家にも配慮

Compound Foodsの創業者でCEOのマリセル・センツ氏(画像クレジット:Compound Foods)

米国人の80%が毎日コーヒーを飲むといわれている。Compound Foodsの創業者でCEOのMaricel Saenz(マリセル・センツ)氏もその1人だが、彼女はコーヒーだけでなく、環境も愛している。

コスタリカで生まれて今はベイエリアの起業家である彼女は、気候変動が世界中のコーヒー生産農家に与えている影響にも関心がある。農産物を温室効果ガスの排出量の多さで順位をつけると、コーヒーは第5位になる。そこで彼女は、おいしいだけでなく持続可能性のあるコーヒーを作りたいと思った。

「気温の上昇と不規則な降雨が収穫量減少の原因です。同じ産地で、以前と同じような収穫量を望むことはできません。品質も悪くなってます。コスタリカの農家は農地を売って高地に移動しています。専門家の予測では、現在の農地の50%が20年後には使えなくなります」とセンツ氏はTechCrunchの取材に対して答えている。

2020年に創業されたCompound Foodsは、コーヒー豆を使わずに、合成生物学を利用して分子を取り出し、コーヒーを作る。センツ氏によると、同社はコーヒー、特に良質なコーヒーの組成を知るために多くの時間を費やし、味と香りの関係を突き止めようとした。

コーヒー豆が入っていなくても、公式な規制上の定義がないため、同社はそれを「コーヒー」と呼ぶことができる、とセンツ氏はいう。

センツ氏によると、カップ1杯のコーヒーを作るために140リットルの水が消費されているというが、同社は持続可能な原料を使い、大量の水を使わない科学的な方法で基本的な配合を生み出した。また同社は、コスタリカやチョコレート風味のブラジルコーヒーなど、世界各地の味と香りを再現できる人工コーヒーの作り方にも挑戦している。

Compound Foodsは450万ドル(約5億円)のシード資金を発表し、総調達額が530万ドル(約5億8000万円)になった。同社の支援者は、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏の気候ファンドLowercarbon CapitalやSVLC、Humboldt Fund、Collaborative Fund、Maple VC、Petri Bioそしてエンジェル投資家のNick Green(ニック・グリーン)氏(Thrive MarketのCEO)などとなる。

センツ氏は、新たな資金を配合の改良とブランドの拡張に充てて、年内を予定しているソフトローンチに備えたいと述べている。

この分野にも別の技術による競合もある。たとえばシアトルのAtomoは「種子がコーヒー豆に似ている果実や植物」を使っているという。

Compound Foodsは、コーヒー愛好家を雇用してその技術を磨き、今後はマーケティングとプロダクトとビジネス担当のチームを作りたい、とのことだ。

そしてセンツ氏は、コーヒーと競合するつもりはないと明言している。

「コーヒーは好きだし、農家のこともよく知っている。私たちが提供するのは、あくまでも代替製品です。私たちはそれを別の方法で作り、将来は火星でも飲めるようにしたいと考えています。その宇宙旅行は、コーヒー農家や業界の人たちとご一緒したいですね」とセンツ氏は語る。

関連記事
バルミューダが「最良のコーヒー体験」とうたう「BALMUDA The Brew」ティザーサイト公開、9月8日に詳細発表
無料「コーヒー診断」で好みのコーヒー豆を届けるサブスク「PostCoffee」運営元が1.5億円を調達
わずか2分でコールドブリューが楽しめるOsmaのハイテクコーヒーメーカー
原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)