極域の観測網構築に向けた、安価な汎用ドローンによる高精度気象観測を実現

極域の観測網構築に向けた、安価な汎用ドローンによる高精度気象観測を実現

国立極地研究所は1月24日、安価な汎用ドローンを使った高精度な気象観測の実験に成功したと発表した。コストのかかるラジオゾンデに代えて、安価な汎用ドローンによる高層気象観測が高頻度で数多くの地点で行えれば、気象の予測精度は向上する。

北極での天気予報の精度の低さが、日本を含む中緯度域の台風進路の予測や寒波予測に影響しているという。それらの地域で観測頻度を高め観測箇所を増やすことが効果的であることはわかっているが、高層気象観測の手法として代表的なラジオゾンデ観測には、それなりのコストがかかるために、長期にわたって観察頻度や観察箇所を増やすことはできない。それに対してドローンは、「対流圏下層の大気に比較的容易にアクセスできる観測手段」として有望視されている。ただ、気象観測専用ドローンも高価であり、運用面を考慮すると費用対効果は決して高くない。

そこで、国立極地研究所の猪上淳准教授と、北見工業大学の佐藤和敏助教からなる研究グループは、民間会社でも入手しやすい汎用ドローン「Mavic2 Enterprise Dual」にIntermet製気象センサー「iMet-XQ2」を取り付けることを考案した。ただし、汎用ドローンを使うにあたっては、気象センサーがドローン自体による排熱などの影響を受けないよう工夫が必要となる。

ドローン底面側の気温・風速分布を調査するための室内実験。北見工業大学の体育館において、2020年10月26日・29日に実施(室内気温は約15度)。(a)アルミフレームに固定したドローンのプロペラを回転させながら気温を計測、(b)ドローン底部5cm付近の気温(色)と風速(等値線)、(c)赤外線カメラで撮影したドローン底部の熱画像

ドローン底面側の気温・風速分布を調査するための室内実験。北見工業大学の体育館において、2020年10月26日・29日に実施(室内気温は約15度)。(a)アルミフレームに固定したドローンのプロペラを回転させながら気温を計測、(b)ドローン底部5cm付近の気温(色)と風速(等値線)、(c)赤外線カメラで撮影したドローン底部の熱画像

研究グループは、まず屋内実験で、ドローンのバッテリーやモーターからの排熱の影響を受けず、ローターからの風が当たり通気がよい場所を特定し、そこにXQ2を配置した。さらに、XQ2の太陽放射による影響を排除し、雲粒、雨、雪の付着も軽減する放射シールドを開発し装着した。

そして屋外実験で、気象観測専用ドローン2機種も加え、10回分のラジオゾンデの観測データとの比較を行った。それによると、研究グループが開発した手法が、ラジオゾンデの観測データにもっとも近い値を示した(対地高度500m以下)。

実験に使用した気象センサーを搭載した汎用ドローン(DJI製「Mavic 2 Enterprise Dual」)。右前アームに気温、気圧、湿度、GPS位置情報を測定・記録できる気象データロガー(Intermet製「iMet-XQ2」)を取り付け、センサーには今回の研究で開発した放射シールドを装着。また、頂部にはエアロゾル粒子カウンターとパラシュートを搭載。写真撮影:国立極地研究所 猪上淳准教授

実験に使用した気象センサーを搭載した汎用ドローン(DJI製「Mavic 2 Enterprise Dual」)。右前アームに気温、気圧、湿度、GPS位置情報を測定・記録できる気象データロガー(Intermet製「iMet-XQ2」)を取り付け、センサーには今回の研究で開発した放射シールドを装着。また、頂部にはエアロゾル粒子カウンターとパラシュートを搭載

さらにこのドローンを使って、寒冷域での観測も試みた。日本でもっとも寒い町として知られる厳冬期の北海道陸別町で、気温マイナス20度以下の早朝、晴れた明け方に上空にいくほど気温が高くなる接地逆転層の観測に成功。また同時に搭載したエアロゾルカウンターは、日の出の数時間後までエアロゾル粒子の濃度が気温逆転層内で高い状態を観測し、極地特有の環境の計測も可能であることを示した。

今後は小型風速計を搭載するなど、「より総合的な気象観測が可能なシステム」を追求するという。国内のドローン開発の進展に伴い、観測データや通信の情報漏洩対策を講じたよりセキュアな国産ドローンにこの観測手法を適用することも視野に入れている。

また、ドローンには機体自身の高度の限界や、航空法による飛行制限などの問題があるため、専門家を交えた議論が必要だとも研究グループは話している。


画像クレジット:国立極地研究所 猪上淳准教授

宇宙で発生した電磁波が地上に伝わる5万キロにおよぶ「通り道」が世界で初めて解明される

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

金沢大学理工研究域電子情報通信学系松田昇也准教授らからなる国際研究チームは12月10日、複数の科学衛星と地上観測拠点で同時観測された電磁波とプラズマ粒子データなどから、電磁波の通り道の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へ伝わる仕組みを解明したと発表した

地球周辺の宇宙空間では、自然発生した電磁波が地球を取り巻く放射線帯を形成したりオーロラを光らせるなどの物理現象を引き起こしているが、1つの衛星や観測地点からの観測では、電磁波の伝搬経路全体を三次元的に捉えることができなかった。そこで研究グループは、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」、アメリカの科学衛星「Van Allen Probes」、そして日本が世界に展開する地上観測拠点「PWING 誘導磁力計ネットワーク」とカナダが北米に展開する「CARISMA 誘導磁力計ネットワーク」を連携させて、同時に観測を行った。

それにより、宇宙空間の特定の場所で電磁波(イオン波)が生まれ、その一部だけが宇宙の遠く離れた場所や地上に届いていることがわかり、そのおよそ5万キロの旅の途中で宇宙のプラズマ環境変動を引き起こし、やがて地上に到達していることを解明した。

宇宙空間には冷たいプラズマが存在し、それが電磁波によって温められると、地上の大気の寒暖の変化のように、宇宙の環境が変化する。特に大規模な太陽フレアによる宇宙嵐が起きると大量の電磁波が発生し、人工衛星の故障、宇宙飛行士の放射線被曝、地上の送電網の障害など、多くの影響をもたらす。電磁波の通り道がわかれば、プラズマ環境変化が様々な場所で同時に発生する仕組みもわかる。

イオン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果

だがそれを解明するには、イオン波が発生している時間帯の、2つの科学衛星と2つの地上観測拠点の位置関係が大変に重要になる。研究グループは、そのタイミングを予測しつつイオン波の観測を続けたところ、2019年4月18日に4つの拠点でのイオン波の同時観測が達成され、同一のイオン波が地磁気赤道から地上に伝搬する「電磁波の通り道」が同定された。それによると、イオン波は5万キロの距離を移動するが、経路の断面はその1/1000ほどと小さい、細長いストロー状であり、広い宇宙空間で、きわめて局所的に伝搬経路が形成されていることもわかった。

あらせ、Van Allen Probesの衛星軌道と地上観測拠点の位置関係

「電磁波の通り道」が解明され、電磁波がどこで発生し、どう伝わるかがわかったことで、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上が期待されるという。同研究グループは「地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明へと歩みを進めていきたい」と話している。

この研究には、金沢大学の他、名古屋大学、東北大学、コロラド大学、ミネソタ大学、JAXA宇宙科学研究所、京都大学、九州工業大学、ロスアラモス国立研究所、ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、アルバータ大学などが参加している。