SpaceXのFalcon 9ロケット、洋上のドローン艀への軟着陸についに成功

2016-04-09-spacex-autonomous

昨夜、東部標準時午後4時43分、イーロン・マスクの宇宙企業、SpaceXは(ISS(国際宇宙ステーション)への補給物資を搭載した衛星を無事に打ち上げた。同時にSpace Xはこの打ち上げで使用されたロケット・ブースターを洋上を自律航行するドローン艀に垂直に軟着陸させることについに成功した。

SpaceXはこれ以前に4回、ドローン艀への使用済みブースターの垂直着陸を試みているが、すべて失敗に終わっていた。Space Xは昨年12月にブースターの垂直着陸を成功させているが、この時は洋上の艀ではなく、Falcon 9を打ち上げたずっと安定した地上基地が用いられた。

今回の航行する艀への軟着陸はしたがってまったくレベルが異なる成功といえる。地上プラットフォームに比べて洋上を自動航行する艀への軟着陸が本質的に困難な事業であることはもちろんだ。

SpaceXは航行する艀への着陸を選んだが、この場合ロケットは着陸にあたった大きな水平移動速度を確保しなければならない。しかしSpace Xのロケットが最大打ち上げ能力を発揮するためにはブースターの洋上への着陸が必須となる(この場合、地上基地に戻るためにはブースターは余分の燃料を必要とする)。

SpaceX first stage landing on Of Course I Still Love You

SpaceXの1段目(ブースター)が自動航行艀、Of Course I Still Love Youに着陸する

こうした点から、ある種のミッションにおいては洋上着陸がブースターの回収の唯一の手段だった。

今回、SpaceXが用いたドローン艀は2013年に亡くなったSF作家、イアン・バンクスの作品に登場する船に敬意を表して“Of Course I Still Love You”と名付けられている。

SpaceX's autonomous drone ship / Image courtesy of SpaceX

SpaceXのドローン艀の画像( SpaceX提供)

しかしブースターの軟着陸は再利用への第一歩にすぎない。打ち上げ費用の大幅削減を実現するためには同じブースターが大きな手間なしに繰り返し利用できなければならない。

その意味で今回のブースター軟着陸の意味はビデオを見ただけで正確に判断するのは難しい。このブースターが次の打ち上げに利用できるか、そのためにどの程度のコストがかかるかは今後の詳しい分析に待たねばならないだろう。

ロケットの回収は大きな関心を集めたが、今回のロケット打ち上げの目的はあくまで7000ポンド〔3.2トン〕の貴重な補給物資をISSに届けることにあった。Space XはNASAとの間で20回の物資補給ミッションの実施を契約しており、今回はその8回目にあたる。

BEAM inflation on the ISS / Image courtesy of NASA

ISSに付加される膨張式BEAM居住区(画像NASA提供)

今回の補給物資で特筆すべきなのはBigelow Aerospace製のコムボートのように膨張させる宇宙居住区、BEAM (Bigelow Expandable Activity Module)だ。BEAMを搭載したDragonカプセルは現在ISSに接近中であり、日曜朝に到着するはずだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

SpaceXが国際宇宙ステーション向けにBigelow社のゴムボート式居住区を打ち上げる

2016-03-30-bigelow-beam

国際宇宙ステーション(ISS)への次回の物資補給に際して、SpaceXはBigelow Aerospaceが製作した膨張式の居住区を打ち上げる計画だ。4月8日に予定されているFalcon 9ロケットには「ビゲロー拡張式活動モジュール(Bigelow Expandable Activity Module, BEAM)が折り畳んだ状態で搭載される。宇宙ステーションの適切なノードに固定され、空気によって膨らませることができれば、ISSに新しい居住区が追加されることになる。

The space station's Canadarm placing BEAM onto Node 3 / Courtesy of NASA

ISSのロボットアームがBEAMをNode 3に取り付ける(想像図) / NASA

SpaceXのDragonカプセルは打ち上げから数日後にISSにドッキングする。つまり4月の中旬にISSのロボット・アームがBEAMモジュールをつかみ、Dragonの荷物室から引き出してISSのノード3に取り付ける。BEAMの膨張作業は5月の終わりか6月初めに予定されている。正確な日時はクルーの作業日程より決定される。完全に膨張するとBEAMの内部空間は折り畳まれた状態の10倍になる。

Illustration of NASA's TransHab design / Image courtesy of NASA

INASAの当初のTransHab宇宙居住区のデザイン(キャンセルされた) / NASA

Bigelow Aerospace社は15年前にRobert Bigelowによって創立された。BigelowはBudget Suites of Americaというリゾートホテル事業で財をなした。NASAはTransHab in 2000という膨張式宇宙居住カプセルを開発していたが、議会の財政緊縮策によってキャンセルを余儀なくされた。このときBigelowはゴムボート式に膨らませる宇宙コテージの特許をNASAから買い取った。

しかし膨張式宇宙モジュールのアイディアはこれよもずっと早く、60年代初期にすでに生まれていた。事実、NASAの最初の通信衛星、エコー1号はこの風船デザインの産物だ。しかし当時のテクノロジーで得られる素材は通信衛星はともかく、居住区に用いられるような水準にまったく達していなかった。

NASA's first communications satellite, Echo / Image courtesy of NASA

NASAの最初の通信衛星、Echo-1 / NASA

その後の目覚ましい発達により、有人の宇宙任務に耐える素材が現れた。Bigelow Aerospaceは、観光客み魅力的な軌道上の宇宙ホテル建設のために設立された。同社は2006年にGenesis 1、 2007年にGenesis 2という実証用無人モジュールの打ち上げに成功した。両モジュールとも現在も軌道を周回中だ。

残念ながらBigelow Aerospaceは時代に先んじ過ぎていた。居心地よく滞在できる完璧な宇宙ホテルの製造と打ち上げに成功したものの、肝心の人間を軌道上に送る事業は予想どおりに拡大せず、室料を払ってホテルに滞在する顧客は現れなかった。そのため今年に入って150人のBigelow Aerospaceの社員のうち30人から50人がレイオフされた。民間有人宇宙旅行を可能にする機体は2017年から2018年にならなければ実用化しないと予想されている。

そこで当面Bigelow AerospaceはNASAとの契約に活路を見出している。同社は2013年にBEAMモジュールをISSに提供することを含む1780万ドルの契約をNASAと結んでいる。

BEAM inflation on the ISS / Image courtesy of NASA

ISSに取り付けられたBEAMが膨張する/ 画像: NASA

一見すると膨張式居住区は微小なデブリの衝突で風船のように「パチンと弾ける」のではないかと不安になる。しかし居住区は最新の柔軟な素材による多重構造となっているため、こうしたMMODと呼ばれる微小天体および軌道周回デブリ(MMOD)に対して十分な盾としての能力がある。

NASAのBEAMプロジェクトの代表の一人、Rajib Dasguptaは「今回のISSでのテストは、BEAが将来の有人宇宙ミッションで利用できるかどうかを決める重要なステップとなる」と述べた。【略】

BEAMのISSでのテストとは別個にNASAはBigelow AerospaceとB330膨張式モジュールの実験に関する契約を結んでいる。NASAはこのモジュールが月および火星への有人宇宙飛行に役立つことを期待している。

Bigelow Aerospace's B330 module with 330 cubic meters of internal space / Image courtesy of Bigelow Aerospace

Bigelow AerospaceのB330モジュールは330立法メートルの内部空間を持つ/ 画像:Bigelow Aerospace

〔日本版〕記事中に写真が掲載されているエコー1号通信衛星は1963年11月に翌年の東京オリンピックの世界中継の準備のために太平洋を越えたテレビ映像の中継実験を行った。この最初の中継でケネディー大統領暗殺のニュースがNHKを通じて放映され、日本の視聴者に大きな衝撃を与えた。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

アインシュタインが予言した重力波、米中心のLIGOチームが史上初めて観測に成功

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「われわれは重力波を観測した」と LIGOラボのエグゼクティブ・ディレクター、デビッド・ライツィー教授

今日(米国時間2/11)、科学者チームが史上初めて重力波の観測に成功したと発表した。

重力波は宇宙の時空に遍在する「さざ波」のようなものだ。驚くべきなのは、100年前にアルバート・アインシュタインが重力波の存在を予言していたにもかかわらず、現在まで誰もその探知に成功できなかった点だ。

発見の報を伝えたのはアメリカに本拠を置く国際研究チーム、 レーザー干渉計重力波天文台(Laser Interferometer Gravitational Wave Observatory)(LIGO)で、この施設の設置目的は重力波の直接観測にあった。LIGOの科学者チームは世界で最も精密な観測装置を建設する必要があった。

1992年にスタートしたLIGOプロジェクトはNSF(National Science Foundation)がこれまでに手がけた中で最も高価な装置となった。

今朝のNSFの記者会見で、LIGOチームの責任者(Executive Director)、デビッド・ライツィー(David Reitze)カリフォルニア工科大学教授は「これは科学におけるムーンショット(アポロ計画)だった。そして、われれはいわば月着陸に成功した」と述べた。

LIGOはにはルイジアナ州とワシントン州に研究施設があり、それぞれの施設に重力波観測のためのトンネルが建設された。トンネルはL字型で、それぞれの腕が4kmあり、施設間は3000km離れている。重力波は進行につれて一つの方向の空間を圧縮し、それと直角な方向の空間を伸長する。LIGOはこのきわめて小さな変化を捉えるためにデザインされた。

Stretching of spacetime by a gravitational wave / Image courtesy of Wikicommons

重力波による時空の引き伸ばし/画像: Wikicommons

LIGOのトンネル内に置かれた一方の装置の距離が圧縮され、それと直角なもうひとつの装置の距離が伸長されたなら、それは重力波によるものだ。

Northern leg (x-arm) of LIGO interferometer on Hanford Reservation in Washington / Image courtesy of Wikicommons

北トンネル(x腕と呼ばれる)のレーザー干渉計。ワシントン州に設置されているLIGOハンフォード天文台 / 画像 Wikicommons

この微小な伸縮を測る「物差し」として用いられたのが、トンネル内を往復する光だ。光速は観測者の運動にかかわらず一定なので、光がトンネルの端に置かれた鏡に反射して返ってくる時間を計測することでその距離を精密に測定することができる。

重力波は質量が加速されるときに生じる。2015年9月14日にLIGOで観測された信号は2つのブラックホールが光速の約半分の速度で、加速しながら互いの周囲を回るときに発生する重力波として科学者チームが予測していたものと正確に一致していた。

しかしLIGOチームが現象を観測してから今回の発表まで半年もかかったのは、データから重力波以外のあらゆる原因によって生じるノイズを取り除く必要があったからだ。そして今朝のLIGOチームは、観測されたデータが重力波によるものだということに確信を抱いていた。

「2つのブラックホールが連星となり、合体するという現象をわれわれが史上初めて観測したというのは驚くべきことだ。われわれは宇宙にブラックホールの連星が存在することを直接の証拠を得た」とデビッド・ライツィー教授は述べた。

ライツィー教授によれば、観測された重力波を起こしたブラックホールの合体は13億年前に起きたという。つまり光速で進む重力波が地球まで届くのにそれだけかかるほど遠距離で起きた事象ということになる。

それぞれのブラックホールは太陽の30倍の質量があり、衝突時の相対速度が光速の半分にもなっていた。

重力波が観測できると実性されたことによりまったく新しい天文学の分野が開かれた。ライツィー教授は「今後科学者は宇宙を全くの方法で見ることができるようになる」と語った。

「宇宙が重力波を通してわれわれに語りかけてきたのはこれが初めてだ。これまでわれわれの耳には重力波の声が聞こえなかった。今日から重力波が何を語っているか聞くことができる」とデビッド・ライツィー教授は述べた。

今回の発表は科学界にとって記念碑的業績だ。LIGOは人類に重力波を検知するテクノロジーがあることを証明した。昨年9月に検知された信号もさることながら、このテクノロジーこそ、われわれにとって真に重要性を持つ。LIGOの科学者チームは、人類が宇宙を理解するためのまったく新しい方法を生み出した。この点がわれわれの前に広がるもっとも大きな可能性といえるだろう。

トップ画像: NASA/Tod Strohmayer (GSFC)/Dana Berry (Chandra X-Ray Observatory)

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NASAの有人火星探査計画、一歩進む―スーパー・グッピーがOrion探査機を空輸

2016-02-04-superguppy

昨日(米国時間2/2)、人間を火星に往復させるプロジェクトのためにNASAが開発中の宇宙探査機、Orionが組み立てを終わり、テストのためにケネディー宇宙センターに到着した。驚くべき点は、到着のつい数時間前までこの巨大な宇宙船はニューオーリンズにあるNASAのミックハウド組み立て施設内あったことだ

Orion宇宙船をルイジアナ州ニューオーリンズからフロリダ州ケープカナベラルまで運ぶためにNASAは所有するスーパー・グッピーを使った。 スーパー・グッピー輸送機の貨物室は高さと幅が25フィート〔7.6m〕、長さが111フィート〔33.8m〕ある。この巨人機は最大26トンの貨物を搭載することが可能で、NASAでは陸路、海路では時間がかかりすぎるとか、そもそも運ぶことが不可能な大型のパーツを空輸するのによく利用している。

スーパー・グッピーの歴史は長く、アポロ計画の時代にまでさかのぼる。1960年代にサターン5型ロケットの部品をカリフォルニアの組み立て施設からフロリダまで空輸していた。NASAはロケットをまるごと船に載せて、パナマ運河経由で運ぶこともできた。しかしこれは空輸に比べて数週間、場合によっては数ヶ月も余計に時間がかかるという大きな欠点があった。

Super Guppy with 2 supersonic jets / Image courtesy of NASA

実験用超音速機2機を輸送するスーパー・グッピー /画像:NASA

最近では国際宇宙ステーションの大型モジュールなどを運搬するのにスーパー・グッピーが用いられている。

World's largest heat shield in the Super Guppy / Image courtesy of NASA

世界最大の熱遮蔽装置を運ぶスーパー・グッピー / 画像:NASA

火星探査機Orionはまだ完成しているわけではないが、きわめて高価な貨物であることに変わりはない。この有人宇宙飛行モジュールはNASAの人間による火星探査計画の実現に不可欠の要素だ。完成したときにはOrionは(SLS=Space Launch System)の一部となり、ロケットの先端に取り付けられ4人の宇宙飛行士を載せて火星に向けて飛びたつことになる。

Orionの初期モデルは2014年に初飛行を実施している。EFT-1(Exploration Flight Test 1)と名付けられこのミッションでは、Orionは地表から3600マイル〔5800km〕の彼方まで飛行した。この高度は国際宇宙ステーションの軌道よりも15倍も遠い。

ミックハウド組立施設ではエンジニアがOrionの基本的なモジュールとなる与圧室の組み立てを終えた。そこでさらに現実的なテストを実施するためにOrion与圧モジュールをケネディー宇宙センターに運ぶ必要が生じたわけだ。

Orion pressure vessel at NASA's Michoud Assembly Facility / Image courtesy of NASA

Orion与圧室モジュール。NASAのミックハウド組立施設にて / 画像: NASA

Orionにはこの後さまざまなサブ・システムが取り付けられる。すべて順調に進めば、Orionには 2018年に2回目のフライトが待っている(SLSの一部としては最初のミッションとなる)。残念なことにこれは前回のEFT-1の飛行成功から4年も後のことになる。

公衆の意見はNASAの計画にとって非常に重要だ。〔大統領選で〕政権が変わる際には特にそうだ。大きな打ち上げイベントは公衆の関心を呼び起こすのに絶好のチャンスではある。しかし大型モジュールの打ち上げには多額のコストを要するのでNASAは慎重に計画しなければならない。

NASAの計画に大きな変更が加えられなければ、 Orionの最初の有人宇宙飛行は2023年に予定されている。NASAでは2030年代にOrionを使って火星に人間を送り込みたいとしている。

〔日本版〕スーパーグッピーはボーイング社最後の大型プロペラ旅客機、ボーイング377ストラトクルーザーをベースにしたターボプロップ広胴輸送機。初期のエアバスの組立で大型パーツを輸送していたことでも有名。詳細はこちらに

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NASA、オポチュニティの誕生日を祝う―火星探査機は12年目を迎えてなお稼働中

2016-01-29-opportunity-rover

今週、NASAは探査機オポチュニティの火星上での12年目を祝うことになる。驚くべき点は、このマーズ・ローバー探査機は火星の地表で90日だけもつように設計されていたという点だ。

誰一人予期できなかっが、火星の地表の気象が探査機の活動に驚くほど好都合だった。また運営チームが創造性を発揮してソフトウェアにいくつもの改良を加えたことなどにより、NASAは現在もオポチュニティを活動させ、映像を受け取っている。

地球から6ヶ月半の長い旅を経て、オポチュニティは火星大気に突入し、パラシュートを展開、ロケットの逆噴射と底部のエアバッグを併用して地表に安全に降り立った。これが2004年1月のことだった。

地球から6ヶ月半の長い旅を経て、オポチュニティは火星大気に突入し、パラシュートの展開、ロケットの逆噴射、底部のエアバッグを併用して地表に安全に降り立った。これが2004年1月のことだった。

NASAがローバー探査機は火星で90日しかもたないはずだと考えた理由の一つは、火星大気中の埃だった。この埃はオポチュニティのソーラー・パネルを短時間で覆い、発電機能を喪失させるはずだと推定されていた。

地球より50%も太陽より遠い火星上で太陽光で発電を行うのは埃がなくても十分に困難な課題だ。NASAはオポチュニティのソーラー・パネルを出来る限り大きくデザインして太陽光を吸収させようとしたが、それでも探査機の寿命は数十日、うまくいっても数ヶ月で、誰も年単位で作動を続けられるとは考えていなかった。

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火星の埃でオポチュニティのソーラーパネルが埃をかぶる/ 画像提供:NASA

しかし世の中に幸運というのは存在するもので、火星の大気中で起きる旋風のような現象、通称「ダスト・デビル」が探査機のソーラーパネルから埃を吹き飛ばして清掃してくれることが判明した。

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オポチュニティのソーラーパネルがダスト・デビルによって埃を吹き飛ばされる/画像提供:NASA

探査機の火星着陸後しばらくして、この現象はオポチュニティとNASAの運営チームにとって天与の機会であることが判明した。

しかし電力供給だけがNASAにとって問題であったわけではない。1年目に、活動中のオポチュニティは砂漠の砂に半分埋まってしまうという事態に遭遇した。
NASAのジェット推進研究所の専門家チームはオポチュニティのモックアップ〔実物大模型〕を作り、探査機を砂から抜け出させるためには車輪をどのように操作したらよいか、さまざまなシナリオをテストした。

こうしたハードウエア上の問題に加えて、ソフトウェアにも改良の必要が出てきた。NASAはきわめて遠距離からのリモート・アップデートにより資料探査、危険予知など探査機のさまざまな能力を改良した。

探査機を火星に送り込むというのはおそろしく金のかかるプロジェクトだ。もちろん人間を送り込むのに比べれば安いものだが、それでもNASAはオポチュニティを建造して火星に着陸させるのに4億ドルもの資金を必要とした。オポチュニティが当初の予定期間をはるかに超えてデータを収集し地球に送り続けていることは、NASAにとって同一のコストでより多量の貴重な情報を得られる機会を与えている。

NASAがオポチュニティを12年にわたって運用してきたことはエンジニアリングと創意工夫の勝利といっていいが、残念なことに 全員がそう考えているわけではない。NASAがオポチュニティを作動させるには年に1400万ドルかかる。また経年劣化によってオポチュニティの能力の低下も目立ってきた。

オポチュニティの資料収集分析装置のうち2つは故障により作動しない。一部の関節はときおりロックして動かなくなる。またフラッシュメモリの問題により、オポチュニティはときおり記憶喪失状態に陥る。

そうであっても、オポチュニティは偉大な科学的業績を挙げ続けている。近年、科学者は火星の古い地層を調べるためにオポチュニティを使っていくつもの巨大クレーターの内部を調査した。

オポチュニティはまた火星にはるか昔、水が液体として流れていたことを証明する上で決定的な役割を果たした。この事実から科学者は火星に生命が存在した時期があったはずだと推測するようになった。驚くべきことに、オポチュニティは人間の作った機械が他の惑星の地表で移動した距離の新記録を作った。

あちこちつぎはぎだらけになりながらも、オポチュニティは火星の厳しい環境の中で12年も作動を続け、まだ見ぬ火星の新しい映像を地球に送り続けている。オポチュニティはNASAにとって重要なシステムであるだけでなく、人類が火星を理解するための欠かせぬ資産だ。オポチュニティは今日も前進を続けている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ジェフ・ベゾスの宇宙ロケット、Blue Origin、再度の打ち上げ・地上回収に成功

2016-01-24-blue-origin-landing-1

昨日(米国時間1/22)、ジェフ・ベゾスが創立したBlue Originは何の予告もなくいきなりNew Shepherdロケットを打ち上げた。ロケットは宇宙を準軌道飛行した後、無事に地上に着陸することに成功した。この種のミッションに成功したのはBlue Originが史上初で、ジェフ・ベゾスはまたも歴史の1ページを書いたことになる。今回の飛行が特筆すべきなのは、打ち上げられたのが昨年11月に宇宙飛行したその同じロケットだという点だ。

地上への回収に成功したNew Shepardロケットはテキサス西部のBlue Originの実験場から発射され、無人のカプセルを高度101.7kmまで運んだ。ブースターロケットとカプセルは両方とも無事着陸に成功した。国際航空連盟が大気圏と宇宙との境界と認めているカーマン・ラインの高度は100kmだから、わずかではあるがそれを超えたことになる。

ブースターロケットは発射地点に戻り、逆噴射によってゆっくり着陸した。カプセルは3基の大型パラシュートを開き、逆噴射を併用して別な場所にこれも安全に着陸いた。

Blue Origin's New Shepard flight profile / Image courtesy of Blue Origin

Blue Origin’s New Shepard flight profile / Image courtesy of Blue Origin

New Shepherdの飛行のビデオは「「発射、着陸、繰り返し」とタイトルを付けられている。コンセプトは単純だが、これを実現しつつあるベゾスのBlue
Originやイーロン・マスクのSpaceXはまさに宇宙ビジネスに革命を起こしつつある。

昨年11月にBlue Originは今回使われたのと同じロケットを用いて同様の宇宙飛行を行い、カプセルは100.5kmの高度に達した。

New Shephardのカプセルは将来、ツーリストを有料で載せて準軌道を飛行する計画だ。リチャード・ブランソンのVirgin Galacticも同様の低層宇宙にツーリストを往復させようとしている。

Blue Originの公式ブログで、同社のファウンダー、ジェフ・ベゾスは、再度の打ち上げにはいくつかの部品の交換と同時にソフトウェアの大幅な改良が行われたことを明らかにした。

去る12月、イーロン・マスクのSpace XはFalcon 9ロケットで衛星を打ち上げた後、ロケット・ブースターを地上に着陸させることに成功している。ただしマスクを含む大勢の専門家が、ロケットの再利用に成功したといっても、衛星を打ち上げ可能な大型実用ロケット、Falcon 9と準軌道飛行を目的とした小型ロケットの間には大きな差異があることを指摘した。

Getting to space needs ~Mach 3, but GTO orbit requires ~Mach 30. The energy needed is the square, i.e. 9 units for space and 900 for orbit.

— Elon Musk (@elonmusk) November 24, 2015

宇宙高度に到達するだけならマッハ3でいいが、弾道飛行にはマッハ30が必要。エネルギーは2乗以上だ。つまり9に対して900のエネルギーが必要になる。 

しかしベゾスはNew ShephardはBlue Originが開発しようとしてブースターの中で最小のものだと述べた。つまりBlue Originには今後さらに大型の軌道カプセルの開発計画があるということだ。ベゾスはこう述べている。

われわれが軌道旅行ビジネスに参入してからすでに3年以上になる。計画している軌道カプセルは最小のモデルでも〔今回打ち上げられた〕New Shepherdの何倍も大きい。今年中にこの軌道飛行カプセルについて詳しいことが発表できるものと期待している。

【略】

過去3ヶ月の実績をみると、Blue OriginとSpace Xは宇宙ビジネスの革命に向けてすでに大きな前進を遂げた模様だ。

画像: Blue Origin

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

NASA、衝突すれば破壊的影響を与える地球近傍天体のモニターを正式に開始

2016-01-16-nasa-catalina-sky-survey

〔本記事の執筆者はEmily Calandrelli〕

先週、NASAは惑星防衛調整局(PDCO=Planetary Defense Coordination Office)と呼ばれる新組織を発足させたことを発表した。PDCOはもし地球に衝突すれば大災害をもたらすような地球近傍天体(NEO)を発見、追跡することを目的とする。必要があれば公衆に注意を促し、そうした天体との衝突を防止する方策を研究することも任務に含まれる。

太陽系のほとんどどの小惑星や彗星はごく小さく、その大部分は火星と木星の間の小惑星帯に集中しており、軌道は地球から遠く離れている。しかし中には地球に被害を与えるほど大きく、しかも地球の軌道と交差するような軌道をもつ天体も存在する。NASAはそういう存在に懸念を抱いている。NEOには地球に損害を与えそうな小惑星と彗星の双方が含まれる。

地球をNEOから守るために、PDCOには2つの役割が与えられている。一つは、NEOの捜索、発見だ。次に、もしNEOのうちに地球に被害を与える可能性があるものが発見された場合、他国やアメリカの関係機関の活動を含め、緊急対策を立案し調整することだ。

NASAは長年にわたってNEOから地球を防衛するテクノロジーを研究してきた。しかしこれまでのところ、大型NEOの進路を効果的に変えることができるような戦略は見出されていない。まして実用化の段階にはない。

それでもNASAは、欧州宇宙機関( European Space Agency)と協力して「もしこの方向が追求されるなら(つまり予算が認められるなら)、衝突防止策のデモを行うことができるだろう」としてきた。

もしNEOとの衝突が不可避と判明すれば、PDCOは連邦緊急事態管理庁(FEMA)、国防省などのアメリカ機関や国際機関と協力して対策の立案と実施の調整に当たることになる。

NEOとの衝突事態は比較的頻繁に起きている。しかし通常そういった天体はきわめて小さく、大気圏で燃え尽きてしまう。NASAはこうしたNEOとの衝突を下のようなチャートにまとめた。1994年から2013年の間に、NASAの推定では556回のいわゆるBOLIDE(爆発流星=小天体との衝突により明るく光る爆発現象)が起きている。

NASA NEO impact diagram

ほとんどのNEOとの衝突は無害だが、顕著な例外もある。 2013年にチェリャビンスク(地図ではロシアの大きな黄色い点で表示されている)付近で発生した大火球などがそうだ。恐ろしいのはNASAがチェリャビンスクに小天体が接近中であるとまったく気づかなかったことだ。なるほど小さい(直径19メートル程度)だったし、進路が太陽に近すぎたため発見が困難だったのだという。

しかしチェリャビンスク事件はあくまで例外であって、日々進歩しているテクノロジーをもってすれば現在はもっと小さい天体でもNASAは発見可能だという。これまでに1万3500個のNEOが発見されており、その95%は1998年以降、NASAが資金を提供したプロジェクトによって発見されたものだという。

PANSTARRS

The NEO-seeking Panoramic Survey Telescope and Rapid Response System (Pan-STARRS) telescope / Image Courtesy of NASA

【略】

チェリャビンスク付近に衝突した小惑星は直径わずか19メートルだったのにTNT0.5メガトン(50万トン)相当の爆発を起こした。チェリャビンスクはNASAの努力が地球の運命にとっていかに重要かを思いおこさせるものだ。

アメリカ政府も年とともに問題の重要性を認識し始めており、2016年にNASAはNEOの発見と防御方法の研究のために連邦予算から5000万ドルの資金を受け取る。2010年にこの予算の総額はわずか400万ドルに過ぎなかった。

大型小惑星との衝突は、ごく稀な事態ではあるものの、国家の安全保障に重大な影響を与える可能性がある。人類の存続にさえ影響があるかもしれない。深宇宙の暗闇に隠れているNEOをいち早く発見し、必要があればその進路を変えるテクノロジーが(十分な資金を供給されて)1日も早く確立されることを望むものだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+