そこでチェイスン氏は現在、ClassEDUという新会社の起業に取り組んでいる。同社の最初の製品は、率直に大望を示す、その名も「Class for Zoom」だ。この名称からもわかるように、Zoomへのサードパーティーのアドオンだが、完全に独立した会社だ。さらに、このアドオンは、生徒たちが参加しやすくリアルタイムで同期される授業を行いたい教師のために開発されている。
一方、チェイスン氏が「Class for Zoomの不人気な機能」と冗談交じりに語るのは、生徒が画面上でZoomをメインアプリとして使用しているかどうかを教師に情報を提供する機能だ。注意トラッキング機能は目新しいものではないが、一部の人はこのような監視を受け入れられないと感じるかもしれない。注意トラッキング機能を生徒が無効に設定することも可能だが、管理者はこの機能の使用を生徒に義務付けることができる。また、このプラットフォームを使用すれば、教師は試験中に生徒のデスクトップを監視して、不正行為を制限することも可能だ。
Class for Zoomが生徒のパソコンにアクセスできると聞いて、一部のユーザーは不快に思うかもしれない。Zoomは一部の学区でオンライン授業での使用を禁止されている。セキュリティ上の懸念があり、悪質な侵入者がミーティングをハッキングし不適切または不快なコンテンツをストリーミングする、いわゆるZoom爆撃が相次いだためだ。これを受けてZoomでは検証ツールや待合室などのセキュリティ対策を講じている。
チェイスン氏によると、Class for Zoomでは、生徒にトラッキング機能の使用を強制するのではなく、選択できるようにすることによって、情報へのアクセスのバランスを取っているという。
Zoomをより良いエクスペリエンスにしようとしているスタートアップは、Class for Zoomだけではない。ZoomのSDKが無料であることも手伝って、ここ数か月の間に、Zoom上で動くように開発された多くのツールがリリースされた。Macroは、430万ドル(約4億5300万円)を調達し、参加者の発言時間などのメトリックスをトラッキングするインターフェイスやメモ機能を追加し、Zoomでの通話に深みや分析機能を加えた。そのユーザーは、2万5000人を超える。Mmhmmは7月に、ユーザーの好きなビデオ会議プラットフォーム上で放送スタイルのビデオ会議エクスペリエンスを作成できるクリエイティブなデモを発表して話題になった。
当然、これらの製品に対する脅威の1つは、Zoomの気分次第で状況が一変するということだ。Zoomは、SDKとAPIのポリシーを少しいじるだけで、Class for Zoomを消し去ることもできる。しかし、チェイスン氏には、そうはならないだろうと楽観的になれる理由がある。
Class for Zoomは本日、GSV Ventures(GSVベンチャーズ)のDeborah Quazzo(デボラ・クアッツォ)氏とEmergence CapitalのSanti Subotovsky(サンティ・スボトフスキー)氏、およびZoomの現役員が共同でリードするシードラウンドで、プレローンチ段階(サービス開始前)に1600万ドル(約17億円)を調達したことを発表した。他の投資家には、Zoomの初期投資家であるMaven Partners(メイヴェン・パートナーズ)のJim Scheinman(ジム・シャインマン)氏、Zoomの名付け親として有名なBill Tai(ビル・タイ)氏、Zoomへの支援を最初に表明したAOLの共同創設者であり、Revolution(レボリューション)のCEOであるSteve Case(スティーブ・ケース)氏が含まれる。
Zoom投資家の関与がスタートアップを保護するための「保険」として機能するかと尋ねると、チェイスン氏はそのようには考えていない、と答えた。むしろ、Zoomは専門的に掘り下げていくよりもスケールの拡大に重点を置いている、と同氏は考えている。言い換えれば、ZoomはTwitterのような機能を組み込むつもりはなく、プラットフォームが開発者に親しみやすいという点で、多数のツールがその上で構築されているSalesforceに似ているということだ。第2に、Class for Zoomは、Zoomの認定再販業者であり、行政区にZoomを販売すると、手数料から収益を得られる。非公式および公式のパートナーシップは、チェイスン氏が安定性に賭けるのに十分な接着剤として機能しているようだ。
Class for Zoomのテクノロジーが今後もZoom専用のままであるかどうかについてチェイスン氏は、Zoomは「教育における事実上の業界標準」であるため、今後もZoomを主な焦点にしていくと語る。また、他のプラットフォームが追いついてきた場合は、さまざまなソフトウェアを試す用意はある、と同氏は言う。
Class for Zoomのケースでは、Macintoshコンピューターを使用する教師向けに第1イテレーションの製品がロールアウトされているが、費用が原因で一部の主要な所得層が漏れた可能性がある。生徒はソフトウェアなしでClass for Zoomで行われる授業を視聴することはできるが、ビュー、トラッキング、およびアクティビティ参加のための機能は使えないため、注意が必要だ。
チェイスン氏は、自分の3人の子どもたちが在宅学習を始めた隔離期間に入ってほんの数週間のころから、このスタートアップのアイデアを練り始めたという。数か月が経ってついにClass for Zoomがベータ版をリリースする準備が整い、本日、ウェイティングリストへの受付が始まる。チェイスン氏は1月までに、希望するすべての学校がアクセスできるようにしたいと考えている。
これらの企業主導の新たなオンライン大学システムは人々を学業成績や文化的調和の観点から精査し、誰を教育するか、そして究極的には誰を採用するかを決定する。そして、そのすべてで学生を直接彼ら自身のシステムで受け入れる。現在もこうした大学システムは存在している。例えば米国のNaval Academy (海軍士官学校)のようなシステムである。このシステムでは授業料が無料であるかわりに、学生は卒業後一定期間海軍で勤務する義務を負う。大学とグローバル企業が融合した一種の営利型ハイブリッドモデルが現れるかもしれないと考える人もいる。
テクノロジーは間違いなく役に立つ。ローマンは、Khan Academy Kids(カーン・アカデミー・キッズ)やLeapfrog(リープフロッグ)など数種類のアプリを活用して、仕事の電話やミーティングの時間を確保している。しかし、こうした対策は解決策というよりは一時しのぎのようなものだ、と彼は言う。彼によると、本当に役に立ったのは、あまりハイテクとは言えないものだった。