東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学(杉本諭教授)と東芝の研究グループは2月24日、電気自動車などに使用する小型モーター向けとして、高性能で安価に生産が可能な等方性ボンド磁石を開発したと発表した。レアアースの使用量はネオジムボンド磁石の約半分でありながら、性能は同等。耐熱性はネオジムボンド磁石よりも高い。

等方性とは、全方位に磁力が均一な磁石のこと。ボンド磁石とは、磁石粉末を樹脂やゴムに混ぜて成形した磁石のことをいう。そのため等方性ボンド磁石は、着磁方向が自由に選べ、形状の自由度や寸法精度が高く、製造工程が簡略で生産性が高いといった特徴を持つ。研究グループが開発した磁石も、これらの利点を備えている。

日本の総消費電力の過半数は、モーターが占めているといわれている(産総研「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」)。一般にモーターの効率は、磁石の性能が上がれば高くなる。その要になるのがレアアースを使用した強力な磁石だ。現在、そのレアアースとして使われているのはネオジムが圧倒的に多いのだが、それは特定国からの輸入依存度が高く、資源リスクが心配されている。そこで研究グループは、ネオジムを採掘する際の副産物であり、余剰資源となっているサマリウムに着目し、ネオジムへの依存度を減らす研究に取り組んだ。

研究グループが開発したサマリウムを使った等方性ボンド磁石の製造方法は、サマリウムと鉄に、適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解した後、急冷凝固させ、適切な熱処理を行うことで「高鉄濃度な化合物結晶の境目にニオブとホウ素を濃縮させる」というものだ。これにより、従来のネオジム合金に含まれるネオジムの量が13原子%なのに対して、このサマリウム鉄系合金に含まれるサマリウムは6原子%と、レアアースの量は約半分となった。永久磁石の単位体積あたりの磁気エネルギーを示す磁束密度と磁界の積の最大値、最大エネルギー積は、摂氏20度で98kJ/m3と、ネオジムボンド磁石と同等だった。永久磁石の強度を示す残留磁束密度も摂氏20度で0.82テスラと、これもネオジムボンド磁石と同等だった。さらに、摂氏1度あたりの残留磁束密度の低下率は0.06%とネオジムボンド磁石の半分で、高い耐熱性が示された。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

余剰資源として今後も増え続けるであろうサマリウムを利用することに加え、使用するレアアースの量を半分にできるこの技術は、「資源リスクの低減と各種モーターのサプライチェーンの強靭化に貢献します」と研究グループは話す。今後は、磁石メーカーと連携し、量産化を見据えた低コストで安定した生産技術の開発を進め、さらなる性能向上を目指すとしている。また同磁石を各種モーター製品に適用していくためのモーター設計の最適化についても検討する予定。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学(杉本諭教授)と東芝の研究グループは2月24日、電気自動車などに使用する小型モーター向けとして、高性能で安価に生産が可能な等方性ボンド磁石を開発したと発表した。レアアースの使用量はネオジムボンド磁石の約半分でありながら、性能は同等。耐熱性はネオジムボンド磁石よりも高い。

等方性とは、全方位に磁力が均一な磁石のこと。ボンド磁石とは、磁石粉末を樹脂やゴムに混ぜて成形した磁石のことをいう。そのため等方性ボンド磁石は、着磁方向が自由に選べ、形状の自由度や寸法精度が高く、製造工程が簡略で生産性が高いといった特徴を持つ。研究グループが開発した磁石も、これらの利点を備えている。

日本の総消費電力の過半数は、モーターが占めているといわれている(産総研「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」)。一般にモーターの効率は、磁石の性能が上がれば高くなる。その要になるのがレアアースを使用した強力な磁石だ。現在、そのレアアースとして使われているのはネオジムが圧倒的に多いのだが、それは特定国からの輸入依存度が高く、資源リスクが心配されている。そこで研究グループは、ネオジムを採掘する際の副産物であり、余剰資源となっているサマリウムに着目し、ネオジムへの依存度を減らす研究に取り組んだ。

研究グループが開発したサマリウムを使った等方性ボンド磁石の製造方法は、サマリウムと鉄に、適正な量のコバルト、ニオブ、ホウ素を加えた合金を溶解した後、急冷凝固させ、適切な熱処理を行うことで「高鉄濃度な化合物結晶の境目にニオブとホウ素を濃縮させる」というものだ。これにより、従来のネオジム合金に含まれるネオジムの量が13原子%なのに対して、このサマリウム鉄系合金に含まれるサマリウムは6原子%と、レアアースの量は約半分となった。永久磁石の単位体積あたりの磁気エネルギーを示す磁束密度と磁界の積の最大値、最大エネルギー積は、摂氏20度で98kJ/m3と、ネオジムボンド磁石と同等だった。永久磁石の強度を示す残留磁束密度も摂氏20度で0.82テスラと、これもネオジムボンド磁石と同等だった。さらに、摂氏1度あたりの残留磁束密度の低下率は0.06%とネオジムボンド磁石の半分で、高い耐熱性が示された。

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

東北大学と東芝、半分のレアアース量でネオジムボンド磁石と同等の磁力を持つサマリウム鉄系等方性ボンド磁石を開発

余剰資源として今後も増え続けるであろうサマリウムを利用することに加え、使用するレアアースの量を半分にできるこの技術は、「資源リスクの低減と各種モーターのサプライチェーンの強靭化に貢献します」と研究グループは話す。今後は、磁石メーカーと連携し、量産化を見据えた低コストで安定した生産技術の開発を進め、さらなる性能向上を目指すとしている。また同磁石を各種モーター製品に適用していくためのモーター設計の最適化についても検討する予定。

株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

東芝は1月14日、株式取引業務をユースケースとする量子暗号技術の有効性と実用性に関する検証実験を、野村ホールディングス野村證券情報通信研究機構(NICT)、日本電気(NEC)と共同で実施したことを発表した。これは、実際の株式取引で標準的に使われている伝送フォーマット「FIX」に準拠し、金融取引の模擬環境において、データの高秘匿性、低遅延性、大量伝送の耐性を検証した国内で初めての試みだ。結果として、量子暗号化を適用しても従来のシステムと遜色のない通信速度が維持できること、大量の株式発注でも暗号鍵が枯渇しないことがわかった。

コンピューターによる株式のアルゴリズム取引が普及したことで、国内の証券取引所における1日の取引高は3兆円を超えるほどに拡大した。取引処理の遅延が機械損失につながるため、注文応答時間がミリ秒未満の通信ネットワーク基盤も提供されている。今後、5G・Beyond 5Gからさらに高速な通信技術が普及すると、さらなる高速化、大容量化、低遅延化が求められる。加えてサイバー攻撃の増加にともない、金融機関におけるセキュリティー対策の一層の強化が求められる。そのため、「理論上いかなる計算能力を持つ第三者でも解読できないことが保証されている唯一の暗号通信方式」である量子暗号通信の金融分野への適用が欠かせない。

共同検証にあたり、NICTが量子鍵配送(QKD。Quantum Key Distribution)装置を導入して構築した試験用通信ネットワーク環境「Tokyo QKD Network」上に投資家と証券会社を模した金融取引の模擬環境を整備。野村ホールディングスと野村證券が、FIXプロトコルに準拠した模擬データを生成するアプリケーションを開発した。

使用した暗号化方式は、ワンタイムパッド(OTP)方式と高度暗号化標準(AES)方式の弱点に対する対応を施した「高速OTP」と「SW-AES」、そしてNECが開発した回線暗号装置「COMCIPHER-Q」の3つ。それぞれの方式の違いによる影響について検証が行われた。株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

その結果、量子暗号通信を適用しても従来のシステムと比較して遜色のない通信速度が維持できること、大量の株式取引が発生しても暗号鍵を枯渇させることなく高秘匿と高速暗号通信が実現できることが確認された。もし、鍵の枯渇が懸念される場合には、鍵消費量の少ない方式に切り替えることで、ビジネスの継続性を維持できる。暗号化レベルや暗号通信速度などで顧客ニーズに対応できる柔軟な提案が可能になるという。

今後は、1週間程度の連続稼働と、システム障害時にシステムの切り替えが遅延なくできるかを、2021年度末までにテストするとのことだ。株式取引業務をユースケースに、量子暗号通信による膨大な金融取引データの高秘匿・低遅延伝送の検証実験を実施

東芝、タンデム型太陽電池向けの透過型Cu2O太陽電池で世界最高レベルの発電効率8.4%を達成

東芝、タンデム型太陽電池向けの透過型Cu2O太陽電池で世界最高レベルの発電効率8.4%を達成

東芝は12月22日、透過型亜酸化銅(Cu2O)太陽電池の発電層の不純物を抑制して、世界最高の発電効率8.4%を達成したことを発表した。これは、2つの太陽電池を積層するタンデム型で、光を透過する上層(トップセル)に使われるもの。発電効率25%の高効率シリコン(Si)太陽電池を下層(ボトムセル)にして組み合わせたCu2O/Siタンデム型太陽電池では、発電効率は合計で27.4%となり、Si太陽電池の世界最高効率26.7%を超える。電気自動車(EV)に搭載すれば、充電なしの航続距離は1日あたり約35kmになると試算されている。

現在、高効率なタンデム型太陽電池にはガリウムヒ素半導体を使ったものがあり、30%台の発電効率が報告されているが、製造コストはSi太陽電池の数百倍から数千倍にものぼる。これに対してCu2O太陽電池は、どこにでもある銅と酸素が主原料であるため、製造コストは非常に低くできる。

透過型Cu2O太陽電池は、短波長光を吸収して発電し、長波長光は透過する。その下に置かれたボトムセルのSi太陽電池は、その長波長光を吸収して発電する。そのため短波長から長波長までの光を発電に使うことができ、限られた設置面積でも低コストで効率よく発電できる太陽電池となる。

もともと透過型Cu2O太陽電池は、2019年に東芝が世界で初めて開発したもの。透過型Cu2O太陽電池単独(トップセル)では10%の発電効率を目指している。しかし、Cu2Oは半導体結晶としての性質により、結晶中に酸化銅や銅といった不純物が生成されやすく、それが発電効率と透過率の双方の低下原因になっていた。そこで東芝は、X線回折法を用いて、Cu2O発電層に含まれる微量の酸化銅や銅を検出し、不純物の量を精密に数値化した。そして、この2つの不純物が最小化する成膜プロセス条件を特定し、光透過性と発電特性の双方に優れた透過型Cu2O太陽電池の開発を成功させた。

今回開発された透過型Cu2O太陽電池と、発電効率25%のSi太陽電池を組み合わせてCu2O/Siタンデム型太陽電池を作り、例えばEVに搭載した場合(車載設置面積を3.33m2と仮定)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の試算方法に従えば、充電なしの航続距離は1日あたり35kmとなる。もし、発電効率が30%に達すれば40kmに達する。また、蓄電池に電力を補充し続ければ、充電なしでの長距離走行も夢ではない。

電気自動車(EV)へのCu2O/Siタンデム型太陽電池搭載イメージ

電気自動車(EV)へのCu2O/Siタンデム型太陽電池搭載イメージ

発電効率10%を目指す透過型Cu2O太陽電池の開発はNEDOの委託事業だが、これとは別に、東芝は東芝エネルギーシステムズと共同で、量産タイプのSi太陽電池と同じサイズの大型Cu2O太陽電池の開発を開始したという。2023年度を目標に外部評価用サンプルの供給を開始し、2025年度を目標に実用サイズのCu2O/Siタンデム型太陽電池の製造技術の完成を目指すとしている。

東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した複数写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発

東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発

東芝は11月22日、ズームレンズと一般的な単眼カメラ(一眼レフカメラ)で撮影位置などの条件を変えて撮影した写真のみから、遠隔地にある対象物のサイズを3次元計測できる技術を世界で初めて開発したことを発表した。インフラ点検などにおいて、高所や傾斜地など危険な場所に近づくことなく計測が可能になる。

国内のインフラ設備の平均年齢が35年を超えるなど、道路・橋・トンネルといったインフラの老朽化が問題となり、早急な対応が求められているが、効率的な工事を行うには、補修箇所の正確なサイズ計測が重要となる。だが、高所や斜面など危険な場所では目視による計測が難しい。そこで東芝は、危険な箇所に近づくことなく、遠くからズームレンズで撮影した写真から簡単にサイズ計測ができるAI技術を開発した。異なる位置から撮影された複数の写真(多視点画像)から割り出された相対的な奥行き情報と、画像のボケ情報を組み合わせ、スケール情報と焦点距離を未知パラメータとする最適化問題を解くことで、撮影画像のみでサイズの絶対値がわかるというものだ。

カメラの画像でサイズが計測できるアプリはスマートフォンにも搭載されている。これには、多視点画像から得られた相対値に絶対値を与えるジャイロセンサーと、あらかじめ学習されたAIモデルが必要となる。そのため、学習の範囲を超える遠距離となると精度が落ちてしまう。

東芝が開発したシステムでは、7m離れたひび割れのサイズを高精度に計測できた。屋外の11カ所で、5〜7m離れた対象物のサイズを計測したところ、サイズ誤差は3.8%に抑えられた。この精度は、公益社団法人日本コンクリート工学会が定めるコンクリートのひび割れ補修指針に基づく数値シミュレーションで「高精度の補修の必要性を判別できる」と確認された。さらに、2mm以下のひびのサイズの絶対値の計測も行えた。

この技術は、インフラ点検のみならず、製造、物流、医療など、カメラによるサイズ計測が行われる分野に応用ができると東芝では話している。今後も様々なカメラやレンズを使った実証実験を進め、早期の実用化を目指すということだ。東芝、ズームレンズと単眼カメラで撮影した写真のみで遠隔地にある対象物のサイズ計測が可能なAIを開発