ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの萌芽から開花の時期に発現する遺伝子群とその発現量の変化(発表論文データより)。各グラフの縦軸は遺伝子の発現量に相当する。萌芽から開花までに働く様々な遺伝子の発現変動を全体像としてまとめたことで、正確な開花日予測が可能となった

かずさDNA研究所は2月18日、ソメイヨシノの遺伝子発現に基づく開花予測技術を開発したと発表した。ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR法により、開花前に特徴的に発現量が増加する遺伝子を捉え、正確に開花日を予測できる。これは、かずさDNA研究所(白澤健太氏)、島根大学(江角智也准教授)、京都府立大学(板井章浩教授)による共同研究。サクラと同じバラ科のナシやモモをはじめとする、様々な果樹の開花予測に応用できるという。

ソメイヨシノの開花予測は、現在は「温度変換日数法」によって行われている。冬に休眠した花芽が「休眠打破」により成長を開始した日から、特別な公式によって弾き出された日数を経過すると開花するという予測方法だが、それでは桜前線のように、大きな範囲での予測となる。そこで研究グループは、気温の上昇にともない発現する開花に関連した遺伝子を特定し、発現量をモニターできれば、各地のお花見スポットやソメイヨシノ1本1本の開花日予測が正確に行えるようになると考えた。

ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラを掛け合わて作られた品種のため、2つのゲノム(2倍体)を持つなどゲノム構成が複雑で、これまで解析が難しかったのだが、同研究グループでは2019年にソメイヨシノのゲノム配列の解読を成功させ、新たな開花予測手法の開発に取り組んできた。

その結果、開花1カ月前までに器官発達に関わる遺伝子が働き、開花2〜3週間前までに細胞壁の構築・伸展または分解に関する遺伝子、糖の代謝や必要な物質の輸送に関する遺伝子が順番に働き始め、さらに、おしべやめしべの発達に関する遺伝子が働くことがわかった。どれもが、花器官の組織や細胞の劇的な肥大、花柄(かへい)の成長などの形態変化に関係するものだ。そこから、開花前10〜20日、また0〜10日前に特徴的に発現する遺伝子を選び出し、ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)法によりその発現量を測定し、開花日を予測できるようにした。リアルタイムPCR法とは、DNA断片を増幅するためのサーマルサイクラーと、DNA量をモニターするための分光蛍光光度計を一体化した専用の装置を用いて、DNA断片の増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法。新型コロナウイルスの陽性確認PCRにも用いられている。

今回発表の技術は、サクラと同じバラ科のナシやモモなどの果樹にも応用が可能とのこと。開花後の受粉の管理などを計画的に行う必要のあるこれらの果樹は、気候変動により難しくなっている開花予測の精度を高めることで、安定して高品質な果実を得られるようになると、研究グループは話している。

芝浦工業大学が植物固有の触覚センサーとなるタンパク質を世界で初めて特定

芝浦工業大学が植物固有の触覚センサーとなるタンパク質を世界で初めて特定

芝浦工業大学の吉村建二郎教授たちからなる研究チームは10月18日、MCA1とMCA2タンパク質が植物の触覚センサーとして働くことを世界で初めて証明したと発表した。これまで植物には機械的刺激(力学的刺激)を感じるメカニズムがあり、その触覚センサーの候補はいくつか挙げられていたが、特定はされていなかった。この発見は、学術的に高く評価されるべきものと研究チームは考えている。

植物は移動が困難なため、風や害虫や障害物などによる機械的な刺激に敏感に反応して対処するメカニズムが備わっていると考えられてきた。その触覚センサーの候補として、2007年に東京芸術大学の飯田秀利教授らがシロイヌナズナのMCA1とMCA2というタンパク質を発表していたが、決定的な証拠は得られていなかった。

飯田教授の研究では、細胞膜上にあるMCA1とMCA2は、機械的な刺激によって細胞膜が伸ばされると、細胞内にカルシウムイオン(Ca2+)を取り込む働きがあることがわかったのだが、MCA1とMCA2が直接刺激を感じているのか、別のタンパク質が刺激を感じてその情報をMCA1とMCA2に伝えているのかが区別できずにいた。それを確かめるためには、脂質人工膜上にMCA1とMCA2を組み込んで、カルシウムイオンの透過を電気生理学的に調べる必要があった。

そこで、電気生理学的研究において世界の第一人者である芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科の吉村建二郎教授を加えた、東京学芸大学の飯田和子研究員、飯田秀利名誉教授からなる研究チームは、人工合成したMCA2を脂質人工膜上に組み込み実験したところ、人工膜を引っ張ったときにMCA2がカルシウムイオンを通す確率が上がることを突き止めた。さらに、脂質人工膜内へのカルシウムイオンの流入も分光学的に証明できた。

機械的刺激は、古くから農業で応用されてきた。そのひとつが麦踏みだ。この発見により、植物の成長をよりよく制御できるようになり、農作物の収穫量を増やすことにもつながるものと期待されている。

【コラム】山火事が日常になりつつある今、植生管理にもっとITを活用すべきだ

山火事はギリシャ、トルコからオーストラリアそしてカリフォルニアと、世界中で日常の出来事になりつつある。

火災の原因は、タバコの吸い殻、キャンプファイヤーの消し忘れから落雷までさまざまあり、カリフォルニア州で特に多いのが送電線の破損によるものだ。

Dixie Fire(ディキシー・ファイア)は現地時間7月13日、Pacific Gas and Electric Company(PG&E、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の送電線に木が倒れたことで発火し、カリフォルニア州史上最大の単一火災となった。

PG&Eは、2015年、2017年の山火事、および2018年にバラダイスの町全体を破壊した山火事、通称Camp Fire(キャンプファイヤー)を巡る数々の訴訟によって増え続ける負債に直面し、チャプター・イレブン(連邦破産法第11章)を申請し、数百億ドル(数兆円)にのぼる追加の火災補償を免れようとした。

PG&Eは、山火事のすべての主要被害者グループと255億ドル(約2兆8327億円)の示談、および取締役の入れ替えを約束して倒産を免れた。

現在、PG&Eの植生管理プロトコルは、年間を通じた従来手法による樹木伐採を行っている。土地・住宅の所有者が検査の予告を受けた後、検査員が枝切りあるいは撤去が必要な樹木に手作業で印をつける。印をつけられた木々が適切な処置を受けるまでには4~6週間かかる。

破産にともなう組織再編計画の一環として、California Public Utilities Commission(カリフォルニア州公共事業委員会)はPG&Eの統治と運営を強化するための対策を複数制定した。その1つが、山火事のリスクを減らすためのEnhanced Vegetation Management(EVM / 拡張植生管理)プログラムだ。

これは、PG&Eが植生管理計画を継続するだけではなく、枯れたり枯れそうな樹木、張り出した枝、あるいは高く伸びすぎた樹木による潜在リスクの責任を負うことを意味している。同社の主要目標は、2021年末までに2400マイル(約3860km)分のEVMのうち1800マイル(約2900km)を完了することだ。

委員会は山火事リスクの高い上位20%の地域に焦点を絞り、Circuit Protection Zones(サーキット・プロテクション・ゾーン)を設定した。この上位20%をリスクが1~3%、4~10%、および11~20%の区域に分け、トップの1~3%が1800 EVMマイルの中心に位置づけられる。この1~3%だけで推定2422マイル(約3900km)を占めている。

ディキシー・ファイアーの出火元をSan Francisco Chronicle(サンフランシスコ・クロニクル)紙やGoogleマップ、PG&E提供の地図などの情報源を元に比較してみると、ディキシー・ファイアーの近くにはCPZのリスク11~20%の地域しかなかったことがわかる。2021年PG&Eがディキシー・ファイアー地域でEVMプログラムを実施する可能性は非常に低い。

カリフォルニア州の干ばつは以前にも増して厳しく長期に渡っている。どれが最大のリスク要因であるかに賭けている余裕はない。この場合、情報へのアクセスと一連の作業のスピードが規模と一致している必要がある。

我々が所属するSpacept(スペースプト)では、ディキシー・ファイアーの原因となった植生危険要因を突き止めるために当社のツールを使用できるかどうかを検討している。植生の異常増殖を発見できれば将来の山火事防止に役立つとともに公共事業の信頼性を高めることができる。

これを確かめるために、我々はSPOT(スポット)衛星の6月15日のデータを元に、San Francisco Chronicleが特定した地域を可能性の高い出火元として集中的に調べた。この山火事はDixie Road(ディキシー・ロード)のFeather River Canyon(フェザー川渓谷)付近から始まったことが報告されている。

画像クレジット:Spacept

次に当社のTree Detector(ツリー・ディテクター)を衛星写真に適用し、PG&Eが送電線周辺で伐採した道筋に木や植生の侵入がないかを調べた。

画像クレジット:Spacept

Tree Detectorはその送電線経路における一定レベルの異常増殖を検出した。その一部を拡大し、送電線の経路と植生を示すマスクを設定することで、危険増殖地帯の画像を生成した。

画像クレジット:Spacept

画像の青で示された部分は送電線経路の伐採された区域を表し、赤は高い木と植生の密度を、オレンジ色は中程度の植生密度を表わしている。

高さ40フィート(12メートル)以下の樹木境界線は送電線から15フィート(4.5メートル)以内にあってはならないというPG&Eの推奨を踏まえると、この地域にはその規則が守られていない高懸念地帯がいくつかあることがわかる。将来、PG&Eや他の電力会社は、このような異常増殖を事前に察知し、該当する地域に植生管理リソースを割り当てるためにSpaceptのような衛星に基づくソリューションを使うことができるだろう。

カリフォルニア州のように特に山火事の頻度が高く破壊的な場所では、山火事の数が少しでも減ることが、重要エコシステムとインフラストラクチャーの破壊防止につながる。そして関連する企業を数十億ドルの訴訟から救う。

点検を実施するためのスケーラビリティーと運用の障壁を越えるためには、経営における洞察力の改善が必要だ。衛星分析は実行可能な先見的取り組みであり、植生管理のための結果を取得するまでの時間を短縮する。

編集部注:本稿の執筆者Elijah Priwer(エリジャー・プライワー)氏はカリフォルニア大学バークレー校の機械工学科学生で、航空工学、人工知能、および宇宙物理学に興味を持っている。

Rita Rosiek(リタ・ロジーク)氏はニューヨーク拠点のコピーライター / マーケターで、業務範囲はスタートアップや新興技術にわたる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Elijah Priwer、Rita Rosiek、翻訳:Nob Takahashi / facebook

花き産業の世界的独占の打破を目指すColvinはB2Bによる中間業者排除に向かう

サプライチェーンには今、とても興味深いことが起こっており、しかもそれはずっと続いている。ただしパンデミックがそれを加速したことも事実だ。テクノロジーのスタートアップたちは、またまた中間業者を排除しようとしているが、今回はサプライチェーンのレベルでだ。彼らにとっての商機は、サプライチェーンをプラットフォームで置換することにある。いうなればそれは「サプライチェーンのプラットフォーム化」だ。

最新例の1つであるColvinは、花き産業のためのプラットフォームで、今回はEurazeoのリードで4500万ユーロ(約58億6000万円)のシリーズCを調達した。Eurazeoは知る人ぞ知るフランスのプライベート・エクイティおよびベンチャーキャピタル企業で、これまでFarfetchやGlovo、ManoManoなどのマーケットプレイスに投資している。他に、同じくフランスのアグテックとフードテックのVCであるCapagroがこの投資に参加した。

D2Cのブランドとしてローンチし、今でもそうであるColvinは最近、プロを狙ったB2Bのカテゴリーも作った。

Colvinの共同創業者であるSergi Bastardas(セルギ・バスターダス)氏によると「2020年はColvinにとって加速の年で、今後の成長のペースを確定したという意味で転機でもありました。Colvinの目標は、花き産業のデジタルトランスフォーメーションをグローバルなレベルでリードしていくことです」という。

Eurazeoの投資ディレクターChloé Giard(クロエ・ジャルド)氏は、次のように話す。

フラワーデリバリーの市場におけるColvinの軌跡はずば抜けています。彼らは、急速な成長と利益が両立することを証明し、しかも市場を地球レベルで拡大しています。これは、花き産業の未来を築こうとする彼らの意欲の、第一歩にすぎません。AnkorstoreやChoco、Sennderなどの例に見られるように、ますます多くのB2Bカテゴリーがオンライン化している今日は、花きの卸売市場に新たなスタンダードを導入する天恵の好機です。Colvinはこの業界における長年の経験と専門的技能とスケーラブルなサプライチェーン、および信頼に足る生産者たちのグローバルなネットワークを生かして、この数十億ドル(数千億円)規模の市場機会を掴もうとしています。

電話インタビューで、バスターダス氏は「オランダには花きと植物の市場の独占体制があります。世界の花きと植物のおよそ65%は、オランダにある巨大なオークションを物理的に通過しなければなりません。それらが、どこで栽培されたかは問われません。この状態が長期に維持されているのは、業界がデジタル化されていないからです。それが、私たちが解決しようとしている問題です。ステークホルダーたちを、もっとダイレクトに結びつけなければなりません」という。

彼によると、同社は生産者と顧客をB2Cのプラットフォームで結びつけた。「今度はB2Bのソリューションを構築して、卸と小売など生産者同士を結びつけ、不必要な中間業者をテクノロジーの力で回避しなければなりません」。

あなたは業界の邪魔者になりますね、と尋ねたら彼は「確かにそうですね。中間業者たちは今、私たちに対して頭にきているからね」と答えた。

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カテゴリー:その他
タグ:Colvin資金調達フランス観葉植物B2B

画像クレジット:Colvin

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)