Googleが利用していた法律事務所Fragomenがデータ漏洩を認める、被害者数は不明

移民関連の法律事務所であるFragomen, Del Rey, Bernsen & Loewyは、Google(グーグル)の現役社員と元社員の個人情報に関わるデータ漏洩を確認した。

ニューヨークの同事務所は、企業に対して従業員が法的に米国国内で働いてもよい人物であるかを審査確認するサービスを提供している。

米国で事業を展開するすべての企業は、従業員が合法的に就労を許可されており、より厳しい移民規則の対象とならないことを確認するために、すべての従業員のフォームI-9ファイルを管理することを義務付けられている。しかし、フォームI-9ファイルには、パスポート、IDカード、運転免許証などの政府文書やその他の個人を特定できるデータなど、多くの機密情報が含まれていることがあり、ハッカーやID窃盗団の標的となっている。

同法律事務所によると、同法律事務所によると、2020年9月に不正な第三者がグーグルの現役社員と元社員の「限られた数」の個人情報を含むファイルにアクセスしていたことが判明したという。

カリフォルニア州司法長官室宛の通告書によると、Fragomenはアクセスされたデータの種類や、被害に遭ったグーグル社員の数を明らかにしていない。侵害の影響を受けたカリフォルニア州の住民が500人以上いる企業は、同州の司法長官事務所に通知書を提出する必要がある。

Fragomenの広報担当者であるMichael McNamara(マイケル・マクナマラ)氏も、侵害の被害を受けたグーグル社員の数を明かさなかった。

一方、グーグルの広報担当者は、コメントの求めに応じなかった。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:Google移民

画像クレジット:U.S. Citizenship & Immigration Services/file photo

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

代替食材はもういらない。アジア系姉妹が本格アジア料理の「スターター」を販売

米国に移民してきた人たちにとって、代替品には複雑な思いがあったり、有り難く感じたり、またはしばしばその両方であったりもする。だからこそ、 Vanessa(バネッサ)とKim(キム)のPham(ファム)姉妹は、Omsom(オムソム)を立ち上げた。家で本格アジア料理を作るための「スターター」セットを販売するシードステージの食品スタートアップだ。スターターには、ソース、スパイス、香料が含まれ、これを買えば30分以内に料理が仕上がると2人の共同創設者は話している。

「私たちアジア系米国人は、メディアや文化の中で大きな声で主張できるようになってきましたが、それに比べて、食料品店のエスニック食材コーナーへ行くと、アジアの味がどれほど他のものに置き換えられているかかがよくわかります」とバネッサは私に話した。

エスニック食材コーナーの存在そのものがアメリカに根付く「他者化」の文化の表れだとする批判を呼んでいる。コンサルティング企業 Bain & Company(ベイン・アンド・カンパニー)に勤めていたバネッサと、Frontline Ventures(フロントライン・ベンチャーズ)やDorm Room Fund NYC(ドーム・ルーム・ファンド・ニューヨークシティー)といったベンチャー投資企業に勤めていたキムにとってそれは、姉妹でOmsomを設立しようと決意させるのに十分な理由となった。

「エスニック食材コーナーは、めちゃくちゃ遅れています」とバネッサ。「風味は薄められていて、そもそもブランディングもデザインもステレオタイプ的です。ひとつの料理を煮詰めて惨めなビン1本に詰め込むなんてこと、できますか?」。

エスニック食材コーナーは国際コーナーと呼ばれることもあるが、大抵、永遠に使い切らないタイ風ペーストが置かれている。少し先に進むと、電子レンジで温めるパッケージに入った脂肪分過多のバターチキンがある。そして瓶詰め食材の棚には、世界でもっとも多様な料理が「カレーソース」という名前でひとつの瓶に押し込まれている。

食料品店に並ぶ代替食品の進歩は悲しいほど遅れているが、創設者姉妹はそれを変えられると楽観している。そのブランド名(ベトナム語で「利かん坊」)に秘められた味付けから現時点の資本化テーブルに至るまで、Omsomもまた、語られるべき移民文化の物語のひとつだ。これが彼女たちの話だ。

Omsomは、金額は未公開ながらプレシード資金を元手に、本日創業した。このアーリーステージのスタートアップのオーナーシップグループは、Girls Who Code(ガールズ・フー・コード)の創設者Reshma Saujani(レシュマ・ソウジャニ)氏、Better Food Ventures(ベター・フード・ベンチャーズ)のパートナーBrita Rosenheim(ブリタ・ローゼンハイム)氏など、半数が有色人種の女性で占められている。また、従来型ではないニッチな分野を目指す起業家に特化した投資会社Unpopular Ventures(アンポピュラー・ベンチャーズ)の創設者でありパートナーのPeter Livingston(ピーター・リビングストン)氏も出資している。

リビングストン氏は、Omsomが今までにないカテゴリーをカバーする企業であることから、実際にはまったく「フードテックの投資家」ではないにも関わらず投資したと話している。

「産業としてのベンチャー投資は、大変に同族的で、小さな地域に固まり、自分に近い人に投資したがり、同じテーマを持つ少数に投資する傾向があります」とリビングストン氏。「歴史的に、エスニックフードに必要な食材は、ほとんどベンチャー投資のカテゴリーにはなく、そこに私は好機の匂いを感じました」。

サウジャニ氏は、自身の投資を「彼女たちと、ほとんど見向きもされなかった市場のための製品への賭け」と語り、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響でレストランが店を閉じ、人々は家で料理せざるを得なくなった現状を踏まえて「今の状況が、食糧棚の常備品への消費者の食欲をますます高めています」と話している。

お袋の味

「母親の食材」で本格的な料理を再現するのは容易なことではない。そこでファム姉妹は食材探しと料理人との協力に重点き、レシピの研究開発に1年間を費やした。

姉妹は、3組のシェフとチームを組んだ。Madame Vo(マダム・ボー)のJimmy Ly(ジミー・リー)氏、Jeepney(ジープニー)のNicole Ponseca(ニコル・ポンセカ)氏、Fish Cheeks(フィッシュ・チークス)のChat(チャット)とOhm(オーム)のSuansilphong(スアンシルフォン)兄弟だ。彼らは、売り上げに応じて段階的にロイヤリティーを受け取る。

「私たちは、材料の90%はアジア固有の食材であり、アジアから直接仕入れることに決めています」とバネッサ氏。「正式な唐辛子を手に入れるためだけにも全力を尽くしました」。

正統であることの他にも、ファム姉妹には克服しなければならない誤解があった。それは、みんな大好きな中華風オレンジチキンやクリームたっぷりバターチキンのように、米国人の好みに合わせた外国料理の脂っこくてジャンクなイメージだ。

各国の文化の代表とされがちなこれらの人気料理は、たとえばインド文化を受け継ぐ移民家族が毎日食べているであろう料理よりも数段不健康にできていることが多い。Omsomはそこを、保存料もブドウ糖果糖液糖も使わずに1年間保存可能な料理を提供することでひっくり返そうとしている。それは「自然食品チェーン店に並んでもおかしくない、健康に気を遣いたいユーザーに受け入れられる」ものだ。

今、ファム姉妹に残る課題は、このパンデミックの最中に妥協のない料理を約束どおり配達する手段の確保だけだ。人々が家に閉じ込められ、いろいろな料理を試したいと考えている社会の様子を、彼女たちは嬉しい変化だと見ている。

「私たちは、ほとんど白人ばかりのボストン南部の郊外で育ったため、私たちの食事のことを少し恥ずかしく思ってました」とキム・ファム氏は話す。「しかし、有色人種の女性として自己を確立しようと努力し始めたとき、自分のアイデンティティーへの関わりの第一段階として食事を使うことにしたのです」。

「家から離れて、いつものとおりベトナム語を使わずにいましたが、私は食事に意識が向くようになりました」と彼女。「たった1杯のフォーにでもです」。

キム(左)とバネッサ(右)のファム姉妹

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(翻訳:金井哲夫)

米国務省は入国ビザ申請にSNSアカウントまで求めはじめた

米国時間5月31日、ほぼすべての米国ビザ申請者は、通常の申請プロセスとして、ソーシャルメディアのユーザー名、これまでに使ったすべての電子メールアドレス、および電話番号を提出するという要件を、米国務省が施行しはじめた。この新たな要件は、最大1500万人もの米国への渡航者に影響を与える可能性がある。これは、トランプ政権下における入国審査の厳格化の広範な拡大の結果だ。

AP通信の報告によれば、この変更は、当初2018年3月に提案されたもので、国務省は、単に追加情報の記入を求めるために申請書のフォームを更新したに過ぎないという。

「ビザの申請を審査する際には、国家安全保障が最優先事項であり、米国に入国しようとするすべての渡航者と移民は詳細なセキュリティ審査を受けることになる」と同省はAP通信に対して述べている。「我々は、審査プロセスを改善するための方法の発見に常に取り組んでいる。それによって米国市民を保護しつつ、合法的な合衆国への渡航を担保している」。

過去においては、電子メール、電話番号、ソーシャルメディアのアカウントなどを含む拡張された審査情報は、要注意人物と認定された人にだけ必要とされるものだった。主に、テロリストの活動が盛んな地域を訪れたことのあるような人々だ。AP通信によれば、年間約6万5000人の申請者がこのカテゴリに分類されていたという。

国務省がこうした申請内容の変更を最初に通知した際には、71万人の移民ビザ申請と、ビジネスマンや学生など、1400万人の一時渡航者のビザ申請に影響するものと見積もっていた。

ビザ申請フォームに加えられた質問には、ソーシャルメディアのプラットフォームを記載する欄が設けられた。申請者は過去5年間について、自分が使ったアカウント名を明らかにする必要がある。このフォームは、やはり申請者が過去5年間に使用した電話番号と電子メールアドレスの記入も求めている。さらに海外渡航歴や、国外追放のステータス、および家族がテロ活動に関与したことがあるかどうかも書かなければならない。

こうした移民に対する新たな障壁は、高いスキルを持った労働力を獲得するための競争が、これまでで最も激しくなっているのと時を同じくして設けられたことになる。そして、OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、米国はもはや高いスキルを持った労働者や、起業家にとって最高の目的地ではなくなっているのだ。

OECDのデータによれば、より多くの移民が、カナダ、ノルウェー、スイス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドに向かい、そこで定住して、ビジネスを始めたり、仕事を探すようになっているという。

こうした動きは予想外のことではないが、中国との緊張が高まり続けている中、米国にとって重大な影響を及ぼす可能性がある。

エコノミスト誌が5月16日付けの記事で指摘したように、入国管理に障壁を設けることは、米国にとって完全に誤った方策だ。

米国は現状にあぐらをかいている場合ではない。量子コンピュータ、人工知能、およびその他の技術は、民主主義政権下の科学者によってしか発展させられない、などといった物理法則はない。独裁政権は民主主義政権よりも不安定だという傾向があるとしても、習近平主席は、党の支配を確実なものとし、中国の威力を世界に向けて発動しようとしている。それもあり、米国が中国に対して行動しなければならない、というのは、共和党と民主党が同意できる非常に少ない信念の1つであるはずだ。しかし、どうやって?

まずはじめに、米国は自らの強みをみすみす手放すことをやめて、むしろ強化する必要がある。移民は、イノベーションにとって不可欠な存在であることを考えれば、合法的な移民に対してもトランプ政権が設けている障壁は自滅的だ。そして、幸いにも科学に対する支出を削減しようとする議案自体は議会によって否決されたが、その意図にそぐわない科学を頻繁に軽視するような態度は、自己破壊を招くだけだ。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

シリコンバレーに移民がもっと必要なわけ

【編集部注】筆者Henrique Dubugrasはスタートアップにコーポレートクジットを提供する10億ドル企業Brexの創業者だ。

私のスタートアップの本部近くにあるサンフランシスコ入国管理局で「移民はここでは歓迎されている!」と叫ぶ抗議の声を聞いた時、かなり微妙なトピックをなんとシンプルなフレーズで表しているのだろうと感じた。移民起業家である私にはそう思えた。

ブラジルで育ったからか、移民法案に関する米国人の議論のニュアンスについて私はさほど詳しくない。しかし、ここサンフランシスコでは移民が仕事を生み出し、地元経済を刺激しているということは知っている。移民の起業家として、私はあらゆる要件を満たそうと試みたし、実際にこの国での私の存在価値を証明した。

私のテックスタートアップBrexは短期間に多くのことを成し遂げた。中でも偉業は、わずか1年で企業価値10億ドルとなったことだ。しかし、移民によって立ち上げられたスタートアップにも関わらずそのような高成長を達成した、のではなく、移民だったからこそできたことなのだ。グローバルブランド構築に向けた我々の成長や働き方の鍵となっているのが国際色豊かな人材の蓄積であり、これなしには今日の成功はなかっただろう。

Brexの話はこれくらいにして、シリコンバレーで最も成長しているスタートアップの共通点は何だろうか。そうした企業は移民によって運営されているということだ。実際、ベイエリアのSTEMテック労働者の57%が移民であるばかりでなく、米国の企業創業者の25%が移民だ。 SUN MicrosystemsやGoogleの創業者から、シリコンバレーで最も悪名高いツイッターユーザーであるTeslaのElon Muskまで、シリコンバレーでは移民の起業家はあげるときりがない。

移民はシリコンバレーで最初のマイクロチップを作っただけでなく、彼らはそうした企業を今日知られているテック大企業へと育て上げた。結局、10億ドルスタートアップの50%以上が移民によって創業され、そうしたスタートアップの多くがH-1Bビザを保有する移民によるものだ。

反直感的に聞こえるかもしれないが、移民は多くの仕事を作り出し、経済を強いものにした。シンクタンクNational Foundation of American Policy(NFAP)の研究で、移民が立ち上げた10億ドル企業が過去2年間で従業員の数を倍増させたことが明らかになっている。研究によると、「WeWorkは2016年から2018年にかけて従業員数を1200人から6000人にし、Houzzも過去2年間で800人から1800人に増やし、Cloudflareの従業員は225人から715人になった」という。

Brexでも同じような成長がみられた。1年の間に我々は70人を雇用し、雇用創出に600万ドルを投資した。我々のスタートアップだけではない。Inc.が最近報じたが、「[NFAPによる]レポートによると、移民が築いたユニコーンスタートアップ50社の合計企業価値は2480億ドルで、平均1200もの雇用を生み出した」という。

我々の成功の基礎原動力となっているのは国際色豊かな人材だ。主要人材の多くはウルグアイやメキシコといった南米中からきている人たちだ。事実、社員の42%が移民で、6%が移民の子供だ。多くの研究で、人種などのバラエティに富むチームは生産的で、チームワークがいいことがわかっている。しかしそれは、国際色豊かな人材に賭けるべき理由の一部にすぎない。それぞれの国から来ている優秀な人と働くと、それが作用してクリエイティブなアイデアがわき出るようになり、そして協調的になり、快適なゾーンからさらに一歩前に推し出してくれる。よりベストな状態へとあなたを駆り立てるのだ。

移民がこの国にもたらしたポジティブな貢献を考えると、移民政策はさほど制限的ではなかったと考えるかもしれない。しかしながら、そうではない。私が直面している難題の一つは、ペースの速い、競争の激しいマーケットでイノベーションを続けるために経験のある、適切なエンジニアやデザイナーを雇用することだ。

これはテック業界では世界共通の課題だ。過去10年間、ソフトウェアエンジニアは米国において十分に確保するのが最も難しい職業だった。経営者は優秀な人材やエンジニアにはマーケットレートに10〜20%上乗せした額を喜んで払う。しかし、私は2022年までに米国ではエンジニア200万人が不足すると予想している。イノベーションを起こす人材なくしてどうやってイノベーションをリードできるというだろうか。

問題をより深刻にさせているのは、優秀な移民への機会とビザのタイプがかなり少ないことだ。これは雇用の成長、知識の共有、そしてこの国におけるテクノロジーの躍進を妨げている。そして、制限の多いビザの法律を緩やかなものにしなければ優秀な人材を他の国にとられてしまうリスクがある。

今年H1-Bビザの申請が始まったが、このビザは取得が難しくなり、海外の人材を獲得するのは費用がかかるものになった。だからといって今が海外の優秀な人材を見捨てるときというわけではなく、あなたのスタートアップにとって競争面でアドバンテージをもたらすような専門性の高い労働力に投資をするときなのだ。

すでに、エンジニアの人材が急激にカナダに向かっている傾向があり、2017年には40%上昇した。トロント、ベルリン、シンガポールは急速にテックハブとして成長していて、多くの人がそうした都市が成長、人材、最新テクノロジーの開発面ですぐに米国をしのぐようになることを恐れている。

米国拠点のテック企業は2018年に3510億ドル売上げた。米国はこの大きな売上ソースを失うことはできない。ハーバード・ビジネススクールの教授でThe Gift of Global Talent: How Migration Shapes Business, Economy & Societyの著者であるWilliam R. Kerrは、「あなたがいかに経済的に成功するかは、活発な人材を惹きつけ、発展させ、そして取り込むあなたの能力に左右されることを今日のナレッジエコノミーは示している」としている。

移民は、シリコンバレーを今日のような原動力となるものにした。高度な技術を持つ人材の流入を厳しく制限することは誰の益にもならない。移民は、米国が世界でも最良のテックハブを築くのを手伝ってきたーいま、スタートアップは我々のテクノロジーや経済、地域社会が成長し続けられるよう、国際人材に投資するときだ。

イメージクレジット: BRYAN R. SMITH/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

難民とNGOのためのテクノロジーを主体にした革新的な25のプロジェクト

2015年9月から簡単なFacebookグループとして質素にスタートしたTechfugeesは、あれからずいぶん成長した。その目的は、技術者たちに難民の窮状を真剣に考えてもらい、彼らのイノベーション、スタートアップ精神、デザイン的思考を動員して難民救済のための新しい、スケーラブルな解決策を創造することにあった。現在、Techfugeesは、Joséphine GoubeをCEOとする国際非営利団体として、ロンドンとパリにまたがって会員を擁している。ソーシャルメディアにわずかな記事しか載せていなかった団体としては、悪くないだろう。

当時、Techfugeesが開発したプロジェクトは、技術者を難問に引きずり込む、非常にラジカルで、ときとして奇異にも見られるところに魅力があった。しかし、スマートフォンを握りしめて戦火や自然災害から逃れて来た難民たちを見るにつけ、技術界の支援は、彼らが直面している一筋縄ではいかない大きな問題の、ほんの一部しか解決できていないことを実感する。

Techfugeesは、全世界におよそ1万8000人のイノベーターを抱えるコミュニティーに発展した。ソーシャルメディア、または世界中で開かれているTechfugeesの何百というイベントを通じて、独自のプロジェクトや企業の支援を受けている。イベントの中には、30回を超えるハッカソンや、先日パリで第2回大会が開かれた、年に一度のGlobal Summitもある。このサミットには、社会起業家、エンジニア、デザイナー、人道主義者、政策立案者、研究者、インパクト投資家など500名以上の参加者があり、その多くは難民の経歴を持つ。登壇者たちは、移民の状態から新しい居住地に落ち着くまでの間に役立つ、さまざまな技術の使い方について話し合った。

気候変動の影響で
2050年には1億4300万人が
難民となる

今年のプログラムは、権利と情報へのアクセス、データの倫理、社会的受容、気候変動による移民という、大きく4つの問題に分けられていた。最後のひとつは、2018年の現在、もっとも急ぐべき課題になっている。World Bankが今年の初めに発表した調査結果によると、気候変動の影響で2050年には1億4300万人が難民となり、人道上の大きな問題が持ち上がるという。

他の一般的なスタートアップのカンファレンスと同じく、Techfugeesでも同様のプログラムを開催している。The Techfugees Global Challenges Competition(Techfugees世界チャレンジ・コンペ)だ。故郷を追われた人たちの要求に応えて、テクノロジーを核とした製品やサービスを作るというもので、Techfugeesの8つの基本理念を踏まえ、Techfugeesが提示する5つの分野、権利と情報へのアクセス、健康、教育、雇用、社会受容性のいずれかに対応することが参加条件だ。今年は、世界52カ国からの数百件を超える応募の中から、専門家による国際審査員会が25のファイナリストが選ばれ、国際審査委員とサミットの観客の前でピッチを行った。

優勝した5つのチームは以下のとおりだ(彼ら自身による解説を添える)。

Integreat(ドイツ)

「Integreatは、利用者である街の新規移住者と、コンテンツ提供者である行政の両方の特別なニーズに応じて作られる情報アプリとウェブサイトです。新規移住者にはモバイルガイドとして機能します。多言語対応、オフライン対応で無料です。移住してきたばかりの人たちに、彼らの言葉で、必要な情報を適格にできるだけ早く伝えることは可能でしょうか? インターネットにアクセスできなくても、複雑な書類を書かなくてもよい方法はあるでしょうか? それを可能にするのがIntegreatです。新しい住民に、多言語で、必要なすべての情報を手渡すことができます。これは、都市、地域、団体にとって、国を追われたり移民としてやって来た人たちを街に順応させるための総合的なサービス・エコシステムです」

Shifra
(オーストラリア/アメリカ)
「Shifraは命を救うモバイルヘルスの仲介のみならず、社会的、文化的、地理的障壁によって質の高い医療を受けられない数多くの難民の体験を、難民自身から調査するプロジェクトでもあります。Shifraのウェブアプリは、質の高いリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)を受けやすくするようデザインされています。また、地域ごとの根拠のある健康情報を、言葉や医療の知識に差があるコミュニティーに向けて、複数の言語で提供します。さらにShifraは、敬意を持って安全な治療を行ってくれる、信頼できる診療所の紹介も行います。私たちは、各地の医療ネットワークと協力して、Shifra利用者の匿名のトレンドデータから発見された保健上の問題点をもとに、既存の医療サービスを改善してゆきます」

Antura and the Letters
(シリア、レバノン、ヨルダン、トルコ、イラク、エジプト)
「Antura and the Lettersは、シリアの子どもたちにアラビア語の読み方を教え、精神的健康を改善させるための楽しいモバイルゲームです。難民が持っているスマートフォンは旧式なものが多く、インターネット接続もままならない状態であることを考慮し、このゲームは古いデバイス(2010年、2011年からのもの)でも走るように作られています。ダウンロードするデータ量も少なく(Android版で80メガバイト以下)、インターネットに接続していなくても遊べます。Antura and the Lettersは完全に無料でオープンソースです。……他の言語にも簡単に対応できるようになっています。世界中の、できるだけ多くの子どもたちに届けて、彼らの役に立つ。まさにそれが、私たちの次なる目標です」

TaQadam
(レバノン)
「機械学習と人工知能の時代では、データ処理やアノテーション(意味付け)を行う人たちが新しいプログラマーとなります。ロボットからドローン、自律走行車両、Eコマースに至るまで、市場での人工知能のための視覚技術の需要が激増しています。AIを利用した画像認識システムでは、人の手による画像アノテーション、つまりデータトレーニングが重要な柱となります。今日のデータが明日のAI製品を生みます。AIイノベーションの世界では、最先端の技術よりも、最先端のデータのほうが重視されることが多くなりますが、データ技術者の就業時間の8割が、AIモデルのための高品質な画像データの調達と準備に費やされています。TaQadamは、画像認識AIを使用し、データを柱とする企業のための画像アノテーションを最適化します。また、オンデマンドで、バーティカルに対応した、高品質の画像アノテーションを提供します。APIとクラウド・アーキテクチャーを駆使し、シンプルで確実な方法により、高精度の画像データセットを構築します。そこでは、専門技能の訓練を重ねたTaQadamのチームの人間的洞察力が簡単に利用できます。TaQadamは、用途に応じた専門チームを派遣し、クライアントと共にAIを構築するという、市場では珍しいサービスです。TaQadamのAndroidアプリでは、ゲーミフィケーションやモバイルを使いやすくする工夫を施し、アノテーションの実績を、若い世代にフィットするよう変換します。私たちは、未来の仕事を創造しています。それは使いやすく、柔軟で、流動性に対応でき、コミュニティーを構築し、しかも楽しいものになります」

Refugees Are
(世界)
「Refugees Areは、ニュースで伝えられる難民の世論を、次の方法でマッピングしています。
1 – GDELT(オープンソースのニュース・データセット)から、日々の難民関連のニュースを抽出する。
2 – 記事から位置を抽出する。
3 – 感情分析によって、記事を、肯定的、否定的、中立的に分類する。
4 – LSA(潜在意味解析)を使って難民関連の記事を抽出する。
5 – 難民の間でもっともよく使われる言葉を抽出する。
6 – 一般の人にわかりやすい形で、それを視覚化する。
7 – 難民の間で広がっている否定的なニュースを、難民自身が判断できるようにする。


そして最後に、審査員特別賞を受賞したMohajer Appだ。イランに住むアフガニスタン難民に対して、非常に困難な状況下にも関わらず、目覚ましい支援を行った。

The Mohajer App
Android / IOS
(イラン、アメリカ、カナダ、イギリス)
「Mohajer Appは、イランに暮らすアフガニスタン難民の要望に応えるために、彼らのコミュニティーと共同で作り上げました。開発は、有償またはボランティアの、難民の権利を養護する弁護士、支援者、科学技術者が行っています。Mohajerには2つの機能があります。「Get Informed」は、イランの移民政策、イランに住むアフガニスタン人の権利、または健康、教育、差別対策などに関する情報を提供するものです。利用者が自分たちの要求を訴えるごとに、この項目は増えてゆきます。このセクションには、私たちが、直接、認証した支援グループのリストも含まれています。「Submit Report」は、利用者が、イランで暮らすアフガニスタン人としての日々の体験を共有し、出来事や体験を話し合うことで、より大きなコミュニティーが抱える問題解決を手助けするというものです。このアプリの情報は、オフラインでも見ることができるので、インターネットになかなか接続できない人たちも利用できます」

ピッチを行った25組のうちの、残りのグループも紹介しよう。説明は彼ら自身が書いたものだ。

課題 1 – 権利と情報へのアクセス

TikkTalk
(ノルウェー)
「Tikk Talkは、通訳を必要とするあらゆる人のための、オープンな通訳マーケットプレースです。このプラットフォームでは、現在のところ、通訳者全体の8割が自動的に割り振られていて、従来型の代理店よりも事務処理にかかるコストを削減できています。またこのプラットフォームは、どの人たちから見ても完全に透明化されていて、よりよい選択ができるようになっています。この技術により、通訳者は主導権を持ち、自分が受けたい仕事を選び、自分の報酬を自分で決めることができます。Helse Førde(パートナーとなっている病院)では、これまで通訳者のうち有資格者は24パーセントしか使うことができませんでしたが、TikkTalk導入後は99パーセント、有資格通訳者が使えるようになりました」

Refugee Info Bus 
(イギリス、フランス、ギリシャ)
「Refugee Info Busの使命は単純です。ヨーロッパで進行中の難民危機の最前線に立ち、北フランスまたはギリシャに向かう、あるいは到着したばかりの難民たちに、移民に関する法律の情報と無料のWi-Fiを提供することです。最初のRefugee Info Bus(難民情報バス)は、中古で買った馬の運搬用トレーラーを掃除して、モバイルオフィスとWiFiホットスポットに改造し、北フランスに住む難民と住居を探している亡命者たちにサービスを提供したところから始まりました。1年も経たないうちに、イギリスとフランスの亡命制度に該当する人たちは、私たちのWi-Fiを9万1000回利用し、5万人以上の個人を対象にした1000回以上のワークショップに参加しました」

Refugee.Info
(ギリシャ、ブルガリア、ハンガリー、セルビア)
「2016年の中ごろ、Refugee.Infoは、その年の3月にヨーロッパが国境を閉じたことで劇的に変化した利用者のニーズと好みに応えるため、ソーシャルメディアに足場を移しました。それ以降の情報を、Refugee.infoは現地のジャーナリストを雇って収集し、検証しました。また、コンテンツのプロを使ってソーシャルメディア向けにその情報を最適化して流し、民間セクターのコンテンツ・マーケティングの原則に従い、投資利益率を高めました。現在、ギリシャ、イタリア、バルカン諸国の難民は、私たちのページにメッセージを送ると、即座に担当者から返事がもらえるようになっています。担当者は、ジャーナリストや弁護士たちと協力して、自身のウェブページやブログからの情報を発信しています」

課題 2 – 健康

Connect 2 Drs
(メキシコ)
「Connect2Drsのプラットフォームは、そもそもひとつのターゲット市場として民間セクターで頑張る目的で作られました。今でもそうなのですが、障害を負ったり、治療を受けられずに家で苦痛緩和剤を使って耐えているメキシコ人(強制送還された人や難民も含む)が不当に扱われたり、適正な健康保険に入れないことなどがあり、そうした人たちの救済がメインの目的となりました」

Doctor-X
(ヨルダン)
「Doctor-Xは、病歴を記録するための多言語のモバイルアプリとウェブサイトです。それぞれの難民が個人アカウントを持ち、医師が対処したとき、その人の情報を、医師同士で伝わる言葉で更新します。その難民が別の国に移動して医療処置が必要になったときのために、プログラムは5つの言語に対応しています」

Iryo
(ヨルダン)
「これまで、難民キャンプの医療スタッフはExcelのスプレッドシートを使って患者の記録を付けていました。しかも、医療スタッフは入れ替わりが激しいため、Excelの操作で混乱が生じたり、ファイルの互換性が保たれないなどの問題がありました。Iryoは、正確な病歴を残すことができます。データは、ローカルのサーバー、患者のモバイル端末、Iryoのクライドの3箇所に分散されるため、新しい難民キャンプで暮らすことになった場合でも、Iryoシステムが稼働していれば、医師はその人の記録を見ることができます」

MedShr
(イギリス、世界)
「MedShrは、ピア・トゥ・ピアの学習と医療教育を目的として、医師と医療の専門家が臨床例を共有し話し合えるように開発されたシステムです。このネットワークは、医療の専門家が臨床例について議論するための、非公開の専門的なもので、認証によって保護されています。患者の情報は見ることができません。すべての臨床例は匿名で、会員はモバイルアプリを使って患者の了解をとり、画像をシェアできます。それだけでなく、すべての画像とメディアはクラウドに厳重に保管され、利用者のデバイスには保存できない仕組みになっています。さらに重要なこととして、MedShrの会員は、それぞれの臨床例を閲覧できる人、それについて議論できる人を指定することができます」

課題 3 – 教育

edSeed
(アメリカ、ガザ、レバノン)
「edSeedは子どもたちの物語です。これをアメリカの支援者に伝えて親近感を持ってもらい、ネットワークへの参加、政策課題に取り組む難民の高等教育のためのネットワーク作り、生徒たちの指導を促します」

Paper Airplanes
(アメリカ、トルコ、レバノン、ヨルダン、サウジアラビア、エジプト、イラク、パレスチナ)
「Paper Airplanes(PA)は、ビデオ会議技術を使い、中東および北アフリカの紛争の被害を受けた青年や十代の若者たちに、無料でピア・トゥ・ピアの言語教育と職業訓練を行う非営利団体です。こうした若者たちに、教育または職業上の目標を追求し、最終的には生活を立て直せるように支援しています。PAは、大人、子どもを問わず、英語とトルコ語を教えています。市民ジャーナリストにはジャーナリズムを、女性には初歩のプログラミング技術も教えています。仮想コミュニケーション技術を使用した教育をライブで届けることができるため、PAは、国内で住む場所を追われた、または難民となった子どもたちや、シリア国内の子どもたち(生徒のおよそ半数)、若い女性、女の子、MENA地区の僻地に暮らす人々を含め、これがなければ接触できなかったであろう、サービスを受けられない人々にも手を差し伸べることができます。さらに、選定された青少年交流プログラムの参加者にコンピューター・タブレットを提供したり、PAの卒業資格を持つ子どもたちにIELTSやTOEFLの受験費用を負担する奨学金を支給しています」

Power.Coders
(スイス)
「Powercodersは、難民のための3カ月間の集中的なコンピューター・プログラミング教室を開き、ITインターンシップに送り出すことで支援を行っています。総合的なトレーニングとインターンシップにより、私たちの教室の卒業生は、1年足らずの間に以前よりもずっと有利な立場でスイスのIT企業に就職でき、仕事を続けています。その数は、少なくありません。この教育プログラムは、難民がこの国に順応して社会人として生きてゆくための課題に特化しており、インターシップの職業紹介率はほぼ100パーセント、社会への順応度は80パーセントを達成しています」

RefgueeEd.Hub
(ギリシャ)
「RefugeeEd.Hubは、全世界の難民に向けて、生活向上を目指す実践的な教育を提供するオープンソースのオンライン・データベースです。RefugeeEd.Hubは、知識を生み出し、世界で、または地元で難民の教育を支援している出資者たちとの協力関係を深めて、難民や住むところを追われた人たちの教育の質を高めることを目指しています。RefugeeEd.Hubは、教育改革者、各国の機関、世界的な開発業者、教育基金、政府、政策立案者に現場での活動を報告し、彼らを支援します」

課題 4 – 雇用

Bitae Technologies
(アメリカ、ヨルダン)
「Bitae Technologiesは、難民や移民などの世界で移動を余儀なくされた人々の才能を伸ばし、その技能と経験を、安全に保護され認証されたデジタル履歴書に記すことで、正式な教育を受けられず、就職も困難な難民やその他の弱い立場の人たちを支援します。Bitaeは、不公式学習とその成果を、難民の就職機会に結びつけます。私たちのプラットフォームは、難民の不公式学習の状況と技能を記録、保存し、検証します。それをもとに、教室、ワークショップ、インターンシップの成績や技能をまとめた「デジタル・バックパック」を作り、その上の教育や就職に役立てます。Bitaeは、モバイルおよびブロックチェーン技術を活用して、政府、国際組織、NGO、教育機関、雇用主に、包括的で安全で透明な方法により、彼らの不公式教育の成績と技能を示せるようにします。デジタル・バックパックには、技能を認定する記章の作成、参考資料の請求や送付、技能のマッチング、技能の評価という4つの主要機能があります。既存のツールを使用したこのプラットフォームでは、ブロックチェーンに裏付けされた信頼できる記章を作り、保管し、共有することができます」

Human in the loop
(ブルガリア – 2017)
「Human in the Loopは、難民を雇い訓練して、コンピューター視覚技術系企業に画像アノテーション・サービスを提供する社会的企業です。現在、機械学習モデルのトレーニングにおいて、人が見ているようにコンピューターに画像を認識させるには、人の手による入力が不可欠であり、それがニッチな市場になっています。Human in the Loopは、成長を続ける『インパクト・ソーシング』企業のコミュニティーの一員として、この分野への、立場の弱い人たちの雇用を積極的に行っています。画像アノテーションという仕事には、特別な教育や専門技能は必要としませんが、これは、さらに高度な技術職への道を開き、フリーランスとしての技能も授けます。それは移民にとってはとても有利なことです。これにより、難民は意欲を持ち、堂々とした生活が送れるようになり、技能を高めることができます。そして彼らは、その技能を活かして、移動しながらでも遠隔作業によって仕事ができる『デジタル遊牧民』となるのです。Human in the Loopは、B2Bセールスを対象にした外部委託事業です。顧客は、コンピューター視覚技術、自律走行車両、ドローン、衛生画像といった業種の、機械学習モデルをトレーングしている企業です」

Rafiqi
(イギリス、ドイツ、ヨルダン)
「Rafiqiは、人工知能を活用して、その人にもっとも相応しい仕事が探せるようカスタマイズした形で難民をリアルタイムで結びつけ、生涯働ける職場に導くマッチングツールです。現在はまだ、定住難民がアクセスし、仕事、職業訓練、指導、学位取得などの幅広い機会を抽出し、企業、NGO、大学などの組織が自由にアクセスして難民の才能を選択できるプラットフォームはできていません。難民は、どの雇用者が彼らを求めているかを知りません。また、就いた仕事が彼らの能力を十分に発揮できないものだったりもします。ドイツやオランダには、難民のための職業マッチング・プログラムがありますが、その大半が手作業で、インテリジェンスという面では制限があります。それでは、幅広い経歴を持つ大勢の難民に対処できません。また、幅広い業種の中から彼らに相応しい雇用先を探すのも困難です」

Transformify Rebuild Lives Program
(世界、EU、イラク)
「Transformifyが推進するRebuild Lives Program(生活再建プログラム)は、難民の求職と給与の確保のために存在しています。また、HRテック、フィンテック、AIを活用した求人CRMを使って難民の技能向上のための専門分野に特化したEラーニングを提供しています。難民と雇用者を結び、難民が定住所や銀行口座を持っていなくても、給与が確実に受け取れるようにしています」

課題 5 – 社会受容性

PLACE
(フランス、ドイツ、イギリス)
「PLACEは、ヨーロッパの移民と難民のためのInnovation Labs(イノベーション研究所)を運営しています。これは、移民や難民をイノベーター、つまりヨーロッパ社会の問題解決法を生み出せる人材に変えるためのものです。1日から3日をかけて、デザイン思考的手法を使い、問題の特定、受益者の理解、解決策の開発、そして迅速なテストとプロトタイピングを、地元支援者のさまざまなコミュニティーとともに行うという、実践的な学習を行います。これを修了すると、イノベーターは、移民主導のイノベーションの多様性に期待し、その一員になりたいと希望する民間、行政、市民社会の賛同者で構成されるPLACE共同体を通じて、プロジェクトを実行できる機会を得ます。革新的な問題解決の他に、この研究所では、ヨーロッパの新しいリーダーのモデルも生み出します。移民主導のイノベーションのリーダーとなる動機と意思を持つイノベーターは、PLACE Catalystsとしての訓練を受けます。Catalyst(促進する人の意味)は、文化交流、資金調達、弁論、ネットワーク構築、研究所の運営について学びます。その後は、ヨーロッパ各地の研究所の管理者として、その技能を活かすことになります」

Register of Pledges
(アイルランド)
「Register of Pledgesプロジェクトのワークストリームは次のとおりです。赤十字が実施する人道支援(住居、物資、サービス)のデータベースの構築と、支援の管理、ワークフロー、報告のための事務処理。APIと翻訳インターフェイスを持つ人道データ・キャプチャー・システムの技術をオープンソース化してGithubで公開。サービス利用者の利益を最適化する独自の事例管理システムの改善とオープンソース化」

SchoolX
(イギリス、トルコ)
「SchoolXは、大学生、教育を受けた難民、引退した教師、その他の地域の有志からなる、ボランティア教師が難民に教育を施す共有経済モデルを目指しています。難民たちが直面している教育機会の制限に対処するために私たちが打ち出した解決策は、難民コミュニティーと地元コミュニティーから教師を募り、学習意欲を持つ生徒たちと彼らを結びつけることです。これらの教師の才能は、厳密で公式な教育に向けられます。この活動を通して、難民の教師を含むボランティアは、その労力に対する報酬を受け取ります。オンライン・プラットフォームという形のソリューションは、教育の基本原則ばかりでなく、教育学上の、そして精神および社会的な訓練のパッケージを教師に提供し、難民の子どもたちに対して、適切で、彼らに力を与える接し方を指導します。このオンライン・プラットフォームはまた、必要性、技能、能力、地理的な距離などの条件をもとに教師と生徒をマッチングさせるデータベースとしても機能し、対面式の柔軟な授業のアレンジを可能にします」

SPEAK
(ポルトガル、スペイン、イタリア、ドイツ)
「SPEAKは、Online2Offlineに基づく、クラウドソースによる言語と文化の交流ネットワークです。すべての処理はオンラインで管理され、独自開発のプラットフォームを通して、学習や体験の共有もオンラインで行われますが、利用者同士の関係を深めることも可能です。このモデルは、確実に効率を高めて固定費を縮小することができ、それによりSPEAKは、規模が拡大しても名目上のプログラム参加費用だけで維持できるようになっています。SPEAKは、相互支援ネットワークに参加しつつ、参加者の言語と文化的技能を拡大することで、彼らに力を与えます。言葉と文化を学び合うことで、SPEAKは、同じ街に暮らす難民、移民、地元の住民を結びつけます。移民と地元住民との橋渡しをするなかで、SPEAKコミュニティーの力により、参加者は職を紹介されたり、この街での最初の住居を借りたりできるようになります。平等を基本としたこのネットワークは、多文化コミュニティーを形成し、そこでは文化遺産が有効に活用されます。SPEAKのボランティアによるバディシステムは、自分の言語と文化を伝えたいという意思を持つすべての人に力を与え、『誰もが変化を生み出せる』という意識を持たせることで、より大きな地元社会への参加を後押しします。この取り組みは、コミュニティーと、SPEAKの平等で開放的な社会の価値を広めようとする意思によって支えられています」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

バッテリーの命が難民の命、スマホに依存する難民の実情

[著者:Ziad Reslan]

人間の寿命とバッテリーの寿命を同じに考える人は少ないと思うが、戦争や飢餓から逃れてきた大勢の難民たちにとっては、わずか1パーセントのバッテリー残量が、適時に適切な情報を与えてくれる生命線となる。それがなければ、生き残ることはできない。

現代のスマートフォンは、移住を余儀なくされた人たちの旅の必需品となっている。Google Mapを頼りに中央アジアの山岳地帯を歩いたり、WhatsAppで故郷の家族とつながったり、スマートフォンは難民のあり方を変えた。しかし、良いことばかりではない。

電子1個も無駄にできない

東ヨーロッパでは、ハンガリーから入国を拒否された難民たちが、セルビア側の国境沿いに建ち並ぶ廃ビルに身を寄せている。生活必需品はボランティアが運んでいるが、その中には、自動車のバッテリーを再利用したスマートフォン用の充電器も含まれている。

ハンガリー国境から2キロと離れていない廃ビルの中では、難民たちがひとつの自動車用バッテリーを取り囲み、スマートフォンに充電している。彼らはみな、スマートフォンのバッテリーの大切さをよく認識している。コンセントが使えない場所で充電を行うための、ポータブル充電器を欲しがる人も大勢いる。彼らは常に、どのアプリがいちばん電気を食うかを報告し合ったり、使っていないときはアプリを閉じるように声を掛け合ったりしている。

パキンスタンから逃れてこの建物で避難生活を送っているNashidは、この遠く離れた辺境の地でいちばん求められるのは、スマートホンに充電する方法だと話している。電気が自由に使えないため、バッテリーの充電はボランティアの訪問だけが頼りだ。次の訪問のときまでは、なんとかバッテリーを持たせるよう、さまざまな工夫を凝らしている。そのひとつに、夜寝るときと昼寝をするときは、かならず電源を切るというものがある。画面の明るさも最低に設定してある。空になったバッテリーを取り出して繰り返し振り続けると、数分間、スマートフォンが使えるようになるとも話していた。

東ヨーロッパから西ヨーロッパを目指して旅する難民たちにとって、ハンガリーとセルビアの国境が最後の壁になっている。ハンガリーに入れさえすれば、そこはEU26カ国が加盟するシェンゲン圏なので、国境検査を受けることなく、西ヨーロッパ内の目的地に楽々と行くことができる。しかし反面、ハンガリー国境では警備が厳しくなり、入国がかなり難しい状態になっている。多くの難民たちは、ようやく国境を通れるようになるまでの間、何十回も拒否され押し返されている。

Nashidは、この8カ月間、セルビアからハンガリーへの入国を試み続けている。妻と2人の子どもを含む家族をパキスタンに残し、彼はヨーロッパに旅立った。彼によれば、WhatsAppを使って家族と、そしてパリに住む従兄弟と連絡を取り合っているという。パリは彼の最終目的地だ。バッテリーの制限はあるものの、ただ待つだけの日々の中で、スマートフォンがよい気晴らしの道具にもなっていると彼は言う。1曲か2曲、こっそり歌を聞いたり、ウルドゥー語の動画をYouTubeで見たりしているそうだ。

ひとつの旅に無数のアプリ

この数年間、セルビアは西ヨーロッパに渡ろうと試みる難民たちの、主要な経由地点という役割を担ってきた。セルビアの首都ベルグラードにあるRefugee Aid Miksalište Center(ミクサリステ難民救済センター)は、NGOによって1日24時間開かれていて、移動中の難民が立ち寄ってサービスが受けらるようになっている。一歩中に入ると、ここでも電源タップの周りに人が集まり、スマートフォンに充電をしている。また、無料Wi-Fiの設備もあるので、故郷の友人や家族と、ソーシャルメディアやSkypeを使って連絡を取り合っている。

スマートフォンに充電するために、電源タップの周りに集まるセルビアの難民たち(写真:Ziad Reslan)

難民が集まるたびに、同じ光景が繰り返される。今、世界中には、強制的に国を追い出された人たちが7000万人近くおり、避難場所を求めて何千キロメートルも旅をしなければならない状態にある。その半数以上が、シリア、アフガニスタン、南スーダンのわずか3カ国から逃げて来た人たちだ。強制的に国を追い出された人たちの中でも、突出して多いのがシリア人だ。アレッポから西ヨーロッパへ向かう途中のセルビアとハンガリーの国境地帯までだけで、平均して2200キロメートル以上もの距離を移動しなければならない。

方向を知るために、言葉を学ぶために、ちょっとした気晴らしに、スマートフォンは、難民たちにとって、何カ月間にもおよぶ過酷な旅を生き抜くための必需品となっている。少なくとも、故郷に残してきた愛する人たちと話ができることが、心の支えになる。

2015年夏、残虐な内戦から逃れて100万人のシリア人難民がヨーロッパに押し寄せるという難民危機が頂点に達したころ、FacebookとWhatsAppのチャットグループがいくつも立ち上がり、難民たちの間で旅の進行状況、どの仲介者が信用できるか、交渉費用はどれほどか、といった情報がリアルタイムで交わされるようになった。GPSピンを使って、Google Map上で安全なルートが示された。地中海で難民を乗せた船が沈没した際には、彼らのスマートフォンから送られたGPS信号によって沿岸警備隊に救われたということもあった。

難民たちは、ドイツ語、フランス語、英語などの言語学習アプリをスマートフォンにダウンロードし、目的地の生活に馴染めるようにと、移動中に勉強している。ブルガリア語、セルビア語、ハンガリー語で書かれた道路標識は、Google翻訳で読んでる。旅で家族と生き別れてしまった難民たちには、スマートフォンが家族とつながる唯一の手段だ。

強制的に国を追い出された難民たちの通信接続性を重視したUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、2016年にConnectivity for Refugees(難民のための接続性)イニシアチブを立ち上げた。これは、難民のためのインターネット接続の権利を支援するもので、難民へのデータ通信サービス提供の交渉、デバイスの購入援助、インターネット接続センターの設置、スマートフォンをフルに活用できるようにする訓練の提供などを行っている。開始から2年が経った今、UNHCRでは人員を増やし、先行して支援を行なっていた国々に加えて、ヨルダン、ギリシャ、チャド、マラウィ、タンザニア、ウガンダでも接続支援の計画を展開する予定だ。

難民の援助に力を入れるスタートアップもある。コロンビアで建築学を学ぶ2人の学生、Anna StorkとAndrea Sreshtaは、LuminAidを共同設立した。そこで彼らは、太陽電池で充電ができ、照明としても使える携帯電話用充電器PackLite Max 2-in-1を開発し、難民たちに無料で配っている。難民の収入の3分の1がインターネット接続のために費やされていると見積もったUNHCRは、難民たちが無料でデータ通信ができるよう、Phone Credit for Refugees(難民のための電話代クレジット)プログラムを開始した。そのほかにも、GeeCycleのように、世界中から中古のスマートフォンを回収して、紛争地帯から逃れてきた難民たちに配っている団体もある。

デマとの戦い

無料Wi-Fiや充電などのサービスを提供するRefugee Aid Miksališteの外では、セーブ・ザ・チルドレン・セルビアなどのNGOが活動している(写真:Ziad Reslan)

しかしスマートフォンは、難民の旅を良いものにするばかりではない。ソーシャルメディアの匿名の情報源に依存すれば、彼らの弱みに付け込んだ人身売買業者などの悪質な連中のもとに導かれてしまう恐れもある。親戚から入手した情報でさえ、結果的に間違っていたということもあり、悲惨な結果を招きかねない。

セーブ・ザ・チルドレン・セルビアの権利擁護マネージャーJelena Besedicは、アフガニスタンからバルカン諸国へ保護者なしに旅をする子どもが増えている原因に、デマがあると話している。セルビアで足止めを食っている、8歳ほどの幼い子どもたちの親は、子どもが無事に西ヨーロッパに入れたなら、親を呼び寄せる資格がもらえるという偽情報を信じていた。

難民の旅を楽にするという類のデマは、難民たちをどんどん危険な方向に導いてしまう。その結果は、目的地に到着したときに現実を知らされて絶望するだけだ。こうした偽情報に対処しようと、国際移住機関などの団体は、難民を送り出す国々に対して、西欧諸国へ旅立つことの危険性を周知させる情報キャンペーンを開始した。さらに、ハンガリーやイタリアのような国粋主義的な傾向を増している国々は、難民のスマートフォンに向けて、まずは自国に来ないように忠告するテキストメッセージを発信している。

難民が家族から感じる圧力は、ずっと以前からあっただろうが、スマートフォンを使うようになってからは、その圧力にひっきりなしに晒されることとなった。セルビアとハンガリーの国境地帯で足止めされているNashidは、パキスタンからフランスまでの約6500キロメートルにも及ぶ旅の途中で自分がどんな目に遭うかを知っていれば、決して出発しなかったと振り返っている。しかし、パキスタンにいた間も、パリの従兄弟から、とても簡単に入国できたこと、フランスには仕事がたくさんあることなどを伝えるメッセージが止むことなく送り続けられていた。そして、Nashidがパキスタンを出発すると、今度は妻と2人の子どもから、パリに着いたかどうかを絶え間なく尋ねられるようになった。そのため、故郷に帰るという考えを捨てざるを得なくなった。

この会話の最後に、Nashidは、WhatsAppで彼が知った噂の真偽を私に尋ねてきた。スマートフォンのバッテリーを100時間まで持たせることができる個人用のポータブル充電器があるというのは本当なのか? と。そんな充電器があれば、コンセントから何キロメートルも離れたこの場所で暮らす自分の人生が変わると、彼は語気を強めていた。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

Microsoftが、国境における移住家族の強制的な分離に「動揺している」と表明

米国移民関税執行局(ICE)とのクラウドコンピューティング契約に対するボイコットの声や従業員の反対意見が挙がる中で、Microsoft は同社が「国境で子どもたちが家族​​から強制的に分離されていることに動揺している」という声明を発表した。ICEは現在、米国とメキシコの国境において、移住者の両親を子供たちから分離する施策によって、共和党、民主党の双方から非難されている。

MicrosoftのICEへの関与に関する論争は、今年の初めに、同局がAzure Govementに対して運用許諾(ATO)を与えたことに由来している(ATOは官民様々な文脈で使われるが、基本はATOを得なければ組織内のPC等にソフトウェアをインストールしたり利用することはできない)。1月のブログ記事でMicrosoftは、ATOによりICEがクラウドベースの識別とアクセスサービスを提供することになり、「従業員が情報に基づいた意思決定を迅速に行うのを支援する」と語っていた。また、政府対応のクラウドコンピューティングソフトウェアを使用することで、ICEは「エッジデバイス上のデータを処理したり、深層学習機能を利用して顔の認識と識別を加速することができる」と述べていた。

ATOが与えられて既に6ヶ月が経過しているが、子連れで合法的に亡命を求める者も含む、家族分離に対する憤激が高まると共に、この件が再浮上してきたのだ。多くのソーシャルメディアのユーザーがMicrosoftのボイコットを呼びかけており、退職を検討している従業員もいる

しかし、Microsoftはその声明の中で、同社は「国境で家族から子どもたちを引き離す件に関わるいかなるプロジェクト」でもICEや合衆国税関国境警備局に協力しておらず、Azureがその目的に利用されているかどうかは把握していないと述べている。また同社は、トランプ政権に対して、政策を変更するように「強く要請して」いる。

Microsoftからの完全な声明は以下の通りである。TechCrunchは同社に対してさらなるコメントを求めている。

私たちがはっきりさせておきたいご質問にお答えします:Microsoftは米国移民関税執行局(ICE)もしくは合衆国税関国境警備局と、今回の国境における、家族から子どもたちを引き離すプロジェクトに関して、いかなる共同作業も行っておりません。また出回っている憶測に反して、私たちはAzureもしくはAzureサービスがこの目的に利用されているか否かを把握しておりません。企業としてMicrosoftは、国境において子供たちがその家族から強制的に分離されていることに動揺しています。家族が一緒にいることは、第二次世界大戦の終結以来、米国の政策と法律の基本的な信条となっています。企業として、Microsoftは、難民や移民である子どもたちがその両親と一緒にいることができるように、20年以上にわたって技術を法のルールと組み合わせるために努力を重ねてきました。私たちは今、その道を変えるのではなく、この高貴な伝統を守り続けなければなりません。私たちは、子供たちがこれ以上家族から引き離されないようにするために、現政権には政策の変更を、議会には立法を強く要請します。

[原文へ]
(翻訳:sako)

画像クレジット: JASON REDMOND/AFP / Getty Images

かつては誰もが移民だった―、移民の子孫の視点から見た現在のアメリカ

ここ数年の間、世界は怒りで溢れている。まともに見えた国がヨーロッパ大陸から自らを切り離し、慈悲深く見えた国境警察が怒りで震え、移民は仕事を奪い、人を殺し、ドラッグや暴力事件を持たらすような存在だと言われている。

何かが間違っている。

移民賛成派の意見として、全体の数を比較すれば、移民よりもアメリカ生まれの人の方が犯罪率が高いという事実が知られている。一方反対派からは、全てを決定づけるように見える複数の凶悪事件についての話を聞くことが多い。さらに、アメリカやイギリスの労働者の苦境についても知っておかなければいけない。移民は実際にその国で生まれた人から仕事を奪っているのだが、ホワイトカラーの人たちはその影響を理解できていないのだ。『Chaos Monkeys』の著者であるAntonio Garcia-Martinezが、その様子をうまくまとめている。

青い州(民主党支持者の多い州)の人たちが、トランプや国境沿いに壁を作るという彼の発言を支持する、労働者階級の赤い州(共和党支持者の多い州)の人たちを馬鹿にするのも当然だ。というのも、ホワイトカラーにはH1ビザと言う名の壁が既に存在し、彼らはこのビザのおかげで、インド工科大学や精華大学の卒業生と職探しで張り合わずにすんでいるのだ。FacebookやGoogleのオフィスの前に、まじめで実力のある中国人やインド人のエンジニアが大挙する様子を(アメリカのHome Depotの前に集まるメキシコ人の様子のように)想像してみてほしい。無料のスペアリブを頬張っている甘やかされた社内のアメリカ人よりも低い賃金で同じ仕事をする覚悟が彼らにあるとしたら、不法移民に対する社内のエンジニアの意見はどうなるだろうか?

赤い州の人々が求めているのは、青い州の人々に与えられているような、移民労働者の制限という保証なのだ。

いつものように、政治的な意見は先を見据えた理想ではなく、権力や私欲をもとに決められてしまう。ホワイトカラーは、既に自分たちが守られているからこそ、移民を受け入れることに賛成しているだけで、Home Depotの外に列をなすメキシコ人たちを自分たちの生活を脅かす存在として(正しく)認識しながら、ルイスビルやデモインで生活する、高卒の配管工や土木作業員のことなど気にかけていないのだ。

誰もが正しいようで、誰もが間違っている。移民労働者の苦境とは無縁のハイテク業界は、プログラマーや海外のデータセンターに関しては、政府の気前の良さに頼り切っている。本来であれば、Home Depotの前に停められたトラックの中にいる男性から、Uberに乗ってGolden Gate(サンフランシスコのベイエリアにある橋)を渡っている女性まで、全ての人が現状を吟味し、移民に手を差し伸べなければいけないはずだ。

究極的に言えば、移民は国に変化をもたらす必要不可欠な存在だ。人口は高齢化し、文化は変わり、新しいテクノロジーが昔の問題を解決していく。市民に受け入れられた健全な移民制度を通じて入国してきた熟練・非熟練労働者、難民、外国人居住者がその全ての変化において、私たちを支えてくれるのだ。自分たちの問題を外から来た人たちになすりつけるというのは、人類の大きな失敗であり、これは暗黒時代から何度も繰り返されてきた。私たちは、自分と違う人を恐れると同時に必要としているのだ。だからこそ”よそ者”に対する恐怖心を払拭しなければならない。

この問題を短期的に解決するために、私がアドバイスできることはひとつかふたつしかない。まずひとつめは、自分のルーツや生き方を見つめ直し、自分と同じ道を進んでいる人に手をさしのべるということだ。例えば、私の祖父母はポーランド人とハンガリー人だ。これまで私は、自分なりのやり方でこの2国を発展させるために全力を尽くしてきた。両国の経済や各業界のエコシステムは既にかなり発達しており、私の手助けなどいらないということは重々承知しているが、彼らは依然投資や世界からの注目を必要としているため、私にもできることがある。

世界中に起業家精神を広めるというのも問題の解決に役立つだろう。数週間前に私が出会った、デンバーを訪問中のキューバ人起業家グループは、アクセラレーターについて知るためBoomtownを訪れた。男性・女性の両方から成るこのグループは、逆境や政治的陰謀に立ち向かって、キューバにネットインフラを構築しようとしているのだ。彼らは若い企業の成長を支えるアクセラレーターの仕組みを気に入ったようで、恐らくこの経験から新たな可能性に気づくことができただろう。私はせめてもの手助けとして、彼らを5月に行われるDisruptに招待した。

キューバ出身の起業家たちと出会って1番驚いたのは、ザグレブやアラメダなど世界各地の起業家と彼らの間にはかなりの共通点があるということだ。全員が明確なビジョンを持ち、変革を起こすために努力する覚悟ができていた。全員が苦境に屈さず、前に進もうとしていた。彼らは仕事を奪うためにアメリカにいるのではなく、仕事を生み出すためにここにいる。彼らは国家を崩壊させようとしているのではなく、悪人を排除して、善者を支えようとしている。そして彼らは、母国と世界の問題の両方を解決しようとしているのだ。

彼らは移民ではなく人間だ。ある場所から別の場所へと移り住みながら、少々の悪とそれよりもずっと多くの善を移住先にもたらしている。彼らは歩みを止めず、諦めることもないため、受入国は移民を抑え込むのではなく、彼らのエネルギーを有効活用するべきなのだ。

数年前ピッツバーグで行われた結婚式に出席した際に、私がポーランド人の血をひいていると知った年上の友人からある話を聞いた。その話の主人公は、1900年頃にワルシャワからグダンスク経由でアメリカに移住してきた、当時8歳、10歳、14歳の少女3人。鍛冶工で酒飲みの父親と一緒に彼女たちは海を渡り、体調不良と寒さで震えながらニューヨークにたどり着いた。そこから一家は陸路で炭鉱で有名な地域へと進み、最終的にピッツバーグに住み着くことに。父親は鉱山で働き、娘たちは学校へ通っていたが、ある日娘たちが家に戻ると、そこには父の姿がなかった。

父親は娘たちを残してポーランドに戻っていたのだ。実は父親はポーランドから妻を連れてこようとしていたのだが、娘たちはなぜ父が書き置きも残さずにいなくなったのかわからず、残されたお金もすぐに底をつきそうな程だった。結局彼女たちは、裁縫や清掃の仕事をしながら、長女が次女の面倒を、次女が三女の面倒を見ながら生活を続け、時間の限り学校へも通った。移民で溢れる近所の人たちの助けもあり、彼女たちは徐々に自立していく。しかし、彼女たちが知らないうちに両親はポーランドで亡くなっていたため、両親宛の手紙が戻ってくることはなかった。森に住む少女たちの貧しく、不安に満ちた破滅的なこの物語は、バッドエンドを迎えようとしていた。

しかし、話はここから好転する。

彼女たちはそのまま成長を続けて結婚し、かつては隅に追いやられていた新しい世界で自分たちの生活を築くことができたのだ。ピッツバーグにあるKościół Matki Boskiejの洗礼盤に浸りながら泣き声をあげる赤ん坊のように、彼女たちは目の前で次々と起こる出来事にショックを受けながらも、生き抜くことができた。父親は(もっと娘たちのことを考えた去り方があったとは言えるが)アメリカであれば彼女たちが無事に生きていけるだろうと考え、ポーランドに残した妻を迎えに行ったのだった。娘たちが住む世界は、彼が去った世界ほどは危険にあふれておらず生存の確率はずっと高いと考えた父親は、移民の流れに娘たちを託し、それが功を奏した。

話の最後に「三女が僕の祖母なんだよ」と言った私の友人は、現在ピッツバーグでエンジニアとして働くアメリカ人だ。

かつては誰もが、遠い場所から何も持たずにアメリカにやってきた移民だったのだ。だからこそ私たちの後に続く人のことを怖がってはいけない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

スタートアップと移民をめぐる情報の真偽

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【編集部注】執筆者のDesmond Lim氏はQuickForceの創設者。

Uberがアメリカ各都市の移動手段に変化をもたらし、SpaceXがアメリカ国民に火星旅行を提供しようとしている。Oscar Health Insuranceが、健康保険をアメリカ国民にとって身近なものにし、ZocDocが医者のアポ取りを簡素化している。Razerが世界中のゲーマーから愛される製品をつくり、FanDuelは、スポーツファンが楽しめるファンタジースポーツのプラットフォームをつくり出した。これらの先進的企業の共通点に気づいただろうか?実は、創設者のうち最低ひとりが外国生まれの起業家なのだ。

ヴァージニア州アーリントンを拠点とする、無党派シンクタンクのアメリカ政策国家基金(the National Foundation for American Policy)のある調査によると、アメリカ国内の10億ドル規模のスタートアップのうち、51%(87社中44社)を移民が創設しており、さらに70%以上(87社中62社)で移民が重要なポストについている。

さらに同調査では、これらの企業が合計で6万5000以上もの雇用を生み出したことがわかっている。ここから、移民がアメリカの雇用創出や起業家精神、スタートアップのエコシステムに関して、大きな役割を担っていることが見てとれる。しかし、アメリカでは厳しい移民政策が敷かれており、「スタートアップビザ」に関する法案も未だ可決されていない。スタートアップビザに関しては、現在の情勢を考えると、段々法案可決が難しくなっているとさえ言える。

私は、最近修士課程を修了し、キャリアに関する様々なオプションについて模索する中で、自分で会社を立ち上げるか、スタートアップで働こうという決意を固めた。ほとんどの留学生のように、当初私は、アメリカに滞在し続けて起業やスタートアップでの勤務を行うことは不可能だという印象を持っていた。

私の友人の多くが、H-1Bビザのスポンサーとなり得るような信用力のある会社で勤務した方が良いだろうという思いから、AppleやGoogle、Facebookへ就職していった。さらに、毎年4月1日に行われるH-1Bビザの抽選システムのせいで、ビザを取得するチャンスは一度しかないとも聞いていた。

移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしい。

そのため、外国生まれの起業家精神溢れる人たちにとっての「安全策」は、スタートアップの道へ進む前に、大企業で数年間働くというものであった。学生によって運営され、学生が立ち上げたスタートアップへの投資を行うDorm Room Fundという投資ファンドも、留学生が自らの事業を続けたり、スタートアップに就職したりするのではなく、大企業への就職という選択肢に走る1番の理由は「移民問題」だと語っている。

しかし、私のメンターや移民問題に詳しい弁護士と話をしていくうちに、このような話のほとんどが嘘であり、次のSpaceXやUber、Palantirとなる企業の立ち上げや、スタートアップでの勤務を目指し、アメリカ滞在を決意した起業家たちにとって、以下のような都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について知っておくことが大切だと学んだ。

H-1Bビザの抽選結果は、勤めている企業のサイズやブランドで決まる

真実:私の経験からいって、FacebookやTeslaで働いているH-1Bビザの申請者に許可が下りる確率は、その他の条件が全く一緒だとして、社員5人のアーリーステージスタートアップで働く申請者と同じである。確かに、FacebookやTeslaの人事部の方が申請書の準備については頼りになるかもしれないが、重要な点は、抽選結果が全くのランダムで決まるため、勤務先のサイズやブランドに関わらず申請者全員にとって、H-1Bビザがおりる確率は同じだということだ。

H-1Bビザの申請は、オプショナルプラクティカルトレーニング(OPT)期間の一発勝負

真実:2016年3月11日にアメリカ合衆国国土安全保障省は、新たなルールを制定し、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Math)(略してSTEM)の学位を持っている一定数の留学生については、全学部の留学生に許可される12ヶ月のOPT期間に加えて、さらに24ヶ月間の延長が認められることとなった。これによって、1回目の申請でビザがおりなくても、2年目以降に再度申請のチャンスが与えられることになる。

さらに、申請期限が4月1日であることから、もしも学部4年生、または大学院の最終学年在籍中に就職先が決まれば、OPTがはじまる前にH-1Bビザの申請ができるので、実質的にビザ申請のチャンスが1回分増えることとなる。

アメリカに滞在するには、H-1Bビザしかオプションがない

真実:H-1Bの他にも、B-1、 O-1、 E-2、 J-1、 L-1、F-1など取得できるビザには様々な種類が存在する。B-1(商用ビザ)であれば、出張者として6ヶ月間アメリカに滞在が可能だ。また、もしも科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で、これまでの実績や評価をサポート材料に、申請者が卓越した能力を持っていることを証明できれば、O-1ビザがおりる可能性もある。また、新規・既存問わず、もしもアメリカ企業に多額の投資を行っていれば、E-2ビザが取得可能だ。L-1ビザは、同企業内での転勤者向けのビザで、母国で登記された会社の社員を、子会社設立のためにアメリカへ派遣する際などにぴったりだ。

抽選がH-1Bビザを取得するための唯一の方法

真実:H-1Bビザ取得には他の道もある。マサチューセッツ大学ボストン校のVenture Development Centerでは、the Massachusetts Global Entrepreneur-in-Residence (GEIR)というプログラムが提供されていて、外国生まれの起業家が、事業を継続しながらGEIRのメンターとして活動することで、発行上限無しのH-1Bビザを取得し、アメリカに滞在できるようサポートを行っている。GEIRプログラムは、2014年にマサチューセッツ大学とMassachusetts Technology Collaborativeの試験的プログラムとしてはじまった。さらに、シンガポールまたはチリ生まれの人については、H-1B1と呼ばれる非移民ビザ(永住を認めていないビザ)を取得でき、このビザが発行上限に達することはほとんどない。

外国人はアメリカで会社を設立できない

真実:私の会社の顧問弁護士から聞いた話によると、外国人でもアメリカで会社を設立することができる。実際、私と同じ大学にいた外国人の同級生たちの多くが、在学中もしくは卒業後に会社を登記している。しかし、労働に対して正当な報酬を受け取るためには、労働が許可されているビザをもっているか、OPT下になければならない。

自らが共同設立者のひとりである会社を通して、H-1Bやその他の非移民ビザの申請を行う際は、外国人が株式の過半数を保有することが認められていないため、牽制力のある取締役会や、申請者以外の主要株主の存在から、申請者が会社に対して支配権を持っていないということを証明しなければならない。

弁護士に法外な費用を払うことがビザ取得の唯一の手段

真実:アメリカに滞在して働きたいという外国人のための情報が、オンライン上でだんだん増えてきている。そのため、ビザ取得を目指す人は、オンライン上の情報にアクセスしたり、最近増えてきているClearpath ImmigrationLegal Heroなどの法律系スタートアップに相談することができる。

その他にもアメリカ国内には、外国人起業家をサポートし、彼らの野望を叶える手助けをしているスタートアップ関連プログラムがたくさん存在する。その中でも、ミッション重視の外国人起業家向けファンドであるUnshackledは、選別された外国人起業家の、労働ビザや永住権獲得に必要なスポンサーに関する問題対応のサポートを行っている。

アーリーステージスタートアップへの就職や起業を志す、熱意あふれる起業家たちにとって、自分のキャリアにおける次のステップにふさわしい場所を決める際には、移民政策に関する都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について理解することが重要だ。移民に関する情報は分かりづらい上に、オンライン上の情報は片手落ちであることが多い。しかし、ひとつだけ確かに言えるのは、もしもあなたが、自分のスタートアップのアイディアに真の情熱を持っているなら、移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしいということだ。

著者注:私は、最近ハーバード大学を卒業したシンガポール生まれの起業家です。私自身は弁護士ではなく、アーリーステージスタートアップにおける勤務経験のある起業家として、私の個人的な経験をもとにこの記事は書かれています。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter