インテルとボーイングという米国を支える2本の大黒柱は政府から延命処置を受けるも予後に暗雲

Intel(インテル)とBoeing(ボーイング)。米国工業界を支える2本の大黒柱だ。

Intelは世界最高水準のチップをいくつも製造し、数十年にわたってコンピューターの性能を限界まで高めつつ、時価総額2000億ドル(約21兆2000億円)という組織を維持し、11万人の従業員の生活を支えてきた。一方、Boeing747型機の引退(The New York Times記事)を経てもなお、航空業界のグローバルリーダーの地位を保ち続け、660億ドル(約7兆円)の収益で、900億ドル(約9兆5300億円)の時価総額と15万3000人を超える従業員を支えている。

だが古代ローマの石の柱と同様、これらの柱もかつての機能を支える単なる骨組みと化してしまった。風雨に浸食され、疲労し、崩れかけている。どう見ても、前の世代で頑張ってきたように米国の経済を支え続けるのは無理なようだ。今後もイノベーションの先陣を切って走り続けられるように、米国のこの極めて重要な産業を支持していくのはもう難しい。

この数十年の長きにわたり、米国は産業空洞化の嵐に吹きつけられてきた。まずそれは繊維、消費者向けの小型機器、家電品といった軽いものから始まったのだが韓国、ドイツ、台湾、中国、タイ、トルコなどの輸出主導型の国々が高度な能力を持つようになり、その製造の幅を拡大し、海外にどんどん進出するようになった。

今や、米国工業界の例外主義の象徴である絶対にして最強の二本柱は、根深い脅威にさらされている。とりわけインテルは、最悪の立場にある。次世代の7ナノメートルノードの製品化は2021年に持ち越される(BBC NEWS記事)こと、さらに一部の製造を外注に回すという残念なニュースが報じられると、ウォールストリートに荒波が立ち、わずか2週間でインテルの株価は20%も下落した。台湾のファウンドリー業者であるTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)の技術は、インテルよりも数年進んでいる(Financial Times記事)と信じるアナリストも増えている。

かたやボーイングは、2018年10月に最初の墜落事故を起こした737 MAXの大失敗がいまだ尾を引いている。それだけでも十分にこの企業を弱体化させている(The New York Times記事)が、そこに新型コロナウイルス(CNBC記事)と、国際運輸の崩壊(BBC記事)が追い打ちをかけた。ボーイングの前途は、2年前の予測をはるかに上回る危機に見舞われている。

このスローモーションの大惨事への米国最初の対処策が、経済支援という昔ながらの政策危機ツールだった。インテルは米国の半導体産業の死を最も明確に表しているが、これはインテルに限った話ではない。この穴を埋めようと、米連邦議会は半導体業界に対して大きな奨励策を打ち出した。2週間前、テキサス州選出の共和党のJohn Cornyn(ジョン・コーニン)上院議員は、2020年度の防衛予算法案の補正案に、超党派の幅広い支持(米国議会資料)を得た。これにより、米国のチップ産業推進のために数十億ドル(数千億円)の資金とインセンティブが供与されることになる。

それに対してボーイングは、民間投資家による負債コンソーシアムに資金運用を依頼する(Bloomberg記事)前に、600億ドル(約6兆4000億円)の経済支援を政府に求めていた。だが、ボーイングは米国政府から別の形の支援(Mother Jones記事)も受けている。同社の収益の3分の1は防衛関連だ。つまり、ペンタゴンに大きく支えられているわけだ。製造業者への政府の経済支援は、2020年もまったく問題なく進められることになる。

だが、これの企業へ潤沢な資金を投入したところで、内部に広がる腐食を止めることはできない。どちらも激しい国際競争によって優位性を削り取られてゆく中、企業文化はエンジニアリング中心から利潤最大化型へと転向している。繰り返しになるが、ボーイングはインテルよりはまだ安全だ。Airbus(エアバス)は、イノベーションにおいて以前からそれほど優れていたわけでなく、A380型機のような戦略ミス(BBC記事)もあった。中国の機体メーカーであるCommercial Aircraft Corporation(中国商用飛機)は着実に進歩はいているものの、まだ第一線で戦える企業ではない(Reuters記事)。

これは業界の方針が間違っていたのではなく、米国の産業政策が目を覆いたくなるほど無能だったということだ。

台湾は、その半導体の卓越性を国の経済の要と位置づけた(Harvard Business School記事)。韓国は、K-POPや韓流ドラマといった文化製品を政府の最優先産業に定め(American Affairs記事)、今では世界中で大きな伸びを見せている。なかでも中国が経済発展の基盤として主要産業を支援していることはよく知られているところであり、この3年間は大成功を収めた。例を挙げればキリがない。

その違いは何なのだろう?ひと言でいえば戦略だ。どの成功例を見ても、政府がインセンティブと政策変更によって新規産業の立ち上げを支援し、さらにこれらの産業が、与えたインセンティブに対して確実に利益を戻してくれることになる他に類のない知的財産を築き上げられるように仕向けている。

それに引き換え米国は、常に最悪のタイミングで資金のばらまきを行っている。新規産業の創出を奨励せず、倒れかけた産業に駆け寄り、荒れ地や枯れ木林に現金の肥料をばらまいているのだ。

チップ産業を立て直そうと議会が数十億ドル(数千億円)を投入する一方で、トランプ政権は7500万ドル(約80億円)の量子コンピューター戦略(THE HILL記事)を発表した。米国を高度なコンピューターの開拓に駆り立てようという狙いだ。中国は5G無線技術に数十億ドルを投資している(Bloomberg記事)が、それに対して米国が拠出したのは、農村部の無線通信テストベッドに数十万ドル(数千万円)だ

経済超大国である米国は、単純にあらゆるものが世界最高で、国民は望めば最高の職業に就けるのが当たり前という世界に生きてきた。産業は崩壊することもある。政府の政策はうまくいかないこともある。学校も大学は、教育がまるで非効率になってしまうこともある。だが、この巨大な産業界に太刀打ちできる国など今までほとんどなかったため、そんな問題を気にする者はいなかった。

今や、多くの国々が工業製品や文化製品で大きな競争力を持つようになった。競争力が付いただけではない。彼らはその分野の勝利を確実にするために、全力で当たってくる。台湾はさまざまな不確定要素のために半導体ではあまりうまくいっていないが、素晴らしいのは経済のグローバル化や中国の台頭といった変化を乗り越えるべく、その得意分野を最優先させるよう経済、教育システム、政府を全体的に動かしたところだ。

もちろん、今でも資金や才能を備えた巨大企業であるインテルとボーイングには、まだチャンスがある。しかし米国の製造業界で倒れていった企業の歴史をひとつずつ振り返ると、不吉なデジャブを感じざるを得ない。あのとき、私たちはやり方を間違えた。果たして私たちには、それを正しくやれる素質があるのだろうか?

画像クレジット:Douglas Sacha / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

勝者総取りの労働経済でいいのか?9億円を賭けたPandoの挑戦

今は勝者総取り経済の時代だ。労働市場はますます宝くじ化し、そこではまったく同じスタートラインから出発したはずなのに、ひと握りの「スーパースター」従業員だけが、同僚と比べて格段に高額な報酬を手にしている。

テック業界では、2人のJavaScriptエンジニアが単にそれぞれ別のスタートアップに就職したというだけの理由で、報酬に数十億ドル(数千億円)もの差が生じることがある。この極端な収入格差は、法律や金融といった職業にも伝播し、私のジャーナリスト仲間の間にすら及んできている。

Charlie Olson(チャーリー・オルソン)氏とEric Lax(エリック・ラックス)氏にとって、この力学は本能的に受け入れられないものだった。「自分の未来は100パーセント自分のものです。しかしひとたび職業人生が始まるや、仕事のリスクか報酬かの選択に拘束されるようになります」とオルソン氏はいう。宝くじに当たれば報酬は青天井だ。だがそれ以外の大多数にはセイフティーネットすらない。スーパースターの座を勝ち取るべく全力でレースを戦おうとしても、自分を守ってくれる保険もない。

Pandoの創設者エリック・ラックス氏とチャーリー・オルソン氏(画像クレジット:Pando)

2人の創設者は、スタンフォード大学経済大学院の在学中に出会い、周囲の仲間たちを監察するようになった。そのうち何人かは、数年のうちのビジネス界のスーパースターになるかもしれない。彼らは、いくつものアイデアを検討したが、いつも決まってひとつのアイデアに帰結した。職業人生のためのプール型の保険というアイデアだ。

彼らの考えは、2017年中ごろにサンフランシスコを拠点とするPando(パンド)として実を結んだ。まさにそんな職業人生のための保険プールを、仕事仲間のグループで構築できるプラットフォームだ。「私たちは、グループのメンバーが集まっていっしょにプールを選び、グループを選び、グループの各メンバーが、まだどうなるかわからない将来の収入から一定の割合を仲間のために提供することに同意してもらうというマーケットプレイスを作りました」とオルソン氏は説明する。

つまり、例えばビジネススクールの1人の学生の成績が、他の大勢の同級生と書類上は似ていたとする。統計的に、そのうちの1人が仕事で大成功するが、今のところそれが誰なのかはわからない。そこで彼らがつながって、将来の報酬を共有できるようにするというのがPandoの狙いだ。

支払いのルールは、そのプールのメンバー間で決めるのだが、Pandoはこれを製品化するにあたり新しくガイドラインを設定した。そこには通常、収入という経済的なハードルがあるため、収入が特定の閾値以下の場合は支払う必要はない。収入が閾値を上回ったメンバーは、大きなプールなら収入額の1〜2パーセント前後、小さなプールなら収入額の7〜10パーセント前後の割合で資金提供を行う。プールに集められたお金は、すべてのメンバーに公平に分配される。

Pandoは当初、プロ野球選手のグループでプールを作るという顧客プロファイルに注力していた。新聞紙面を飾る巨額契約金を獲得した選手とは対照的に、野球選手の多くは世間に注目されることもなく、それでもメジャーリーグで一発当てようと希望を抱き、最低の賃金で頑張っている。「無一文で球界を離れるか、大金を手にするかのどちらかです」とオルソン氏はいう。

この場合は、野球チーム内の極端な給与の差を緩和できると同時に、人々の関心を集めることもできる。「人々が手を結んで経済的な協力関係を築くという誘因のもとにグループを作るという考え方は、お互いに成功を願う本当の動機になります」とオルソン氏は話す。Pandoの標準的なプールのサイズは5.7人。野球選手の場合は、プールの対象となるのは各選手がチームから直接受け取る契約金だが、コマーシャル契約料などの副収入は含まれない。

ここまででほぼ理解できたが、1つだけ釈然としない点がある。意欲と才能のある人間に収入の一部を提供するようにPandoはどうやって説得するかだ。結局、メジャーリーグを目指す者は、自分が次のA-Rod(アレックス・ロドリゲス)になるという野望を持っているはずだし、次なるFacebook(フェイスブック)を立ち上げようという者は、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)を目指さないわけがない。

オルソン氏は2つのことを指摘した。1つはデータだ。それは、1つの分野での成果の分布と、収入を確保したいという人間の欲求を緩和させるプールの必要性を示している。2つめの指摘は、将来の家計を自分のたった1つの職業に依存するよりも、利益が出ているポートフォリオを持つことのほうが、いつだって望ましいという点だ。

「Warren Buffett(ウォーレン・バフェット)は自信家ですが、それでも彼が投資した企業のポートフォリオを持っています。ベンチャー投資企業は成功する企業を選ぶ自分たちの目を信じていますが、それでもポートフォリオ戦略にたった1つの投資先しなかいなんてことはありえません」とオルソン氏。「エージェントがあなたを高く評価していたとしても、彼は安定したクライアントを多く抱えていて、最も稼ぐ人から利益を得ています。それでもあなたは、自分の利益を丸ごと独り占めしようと思っているのは、あなただけかも知れません」。そうした根拠と、プールの協調的な感覚が決め手になると彼はいう。

同社は2017年の秋に正式に発足し、Ulu Ventures、Pear VC、Avalon、Nimble Ventures、Stanford StartX Fundから330万ドル(約3億5000万円)のシード投資を受け取っている。そして米国時間6月9日の朝、2019年に850万ドル(約9億1000万円)のシリーズA投資を獲得していたことを発表した。これはCore Innovation CapitalのKathleen Utecht(キャサリン・ユーテクト)氏が主導し、Slow VCと、そのシード投資家たちが参加している。

Pandoのスタッフ(画像クレジット:Pando)

この資金を使い、Pandoは当初のターゲットであるプロスポーツ選手から、ビジネススクールの学生、起業家、ハイリスクで高収入な職種を目指す若者たちにもターゲットの範囲を広げてきた。

まだ初期段階であり、勝者総取りの労働経済への移行は崩しがたいトレンドであるものの、Pandoはこの問題に新しい流れを示している。そしてそれは、思いやりのある革新的なプラットフォームだ。

関連記事:LeverEdge wants to get you and your friends a volume discount on student loans(未訳記事)

画像クレジット:Robert Daly / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

第二のサブプライム問題にテック業界が関係するかもしれない理由

【編集部注】執筆者のMike LovanovはTarget Globalのパートナー。

2016年10月に、Lending ClubProsperというアメリカの2大ソーシャルレンディングプラットフォームで、低グレードローンの利上げが発表された。この施策は、Lending Clubのコンプライアンス問題や、ソーシャルレンディング業界全般に対する風当たりの厳しさといった背景を受けて、両社がプラットフォーム上に資金を継続的に集めることを目的に実施されたものだった。

しかしLending Clubが発表した通り、貸し主からの安定的な資金供給という狙いだけでなく、特にハイリスクなローンでの貸し倒れ増加が利上げの背景にはある。

ソーシャルレンディングプラットフォーム各社は、10月だけでなく実は昨年中に何度金利を変更していた。金融危機後にアメリカを含む世界各地で見られた、経済活発化を目的とする利下げの動きが落ち着き、まず2015年12月にFRB(連邦準備制度理事会)がアメリカ経済の安定化を理由に利上げを発表したことを受けて、ソーシャルレンディング各社もローンの利上げに踏み切った。当時Lending Clubは、FRBの利上げ幅に合わせ、新規ローンの金利を平均0.25%上げ、その後もLending ClubとProsperの両社は何度か金利の変更を行っていた。

以下の表には、Lending ClubとProsperの金利の推移が示されている。上位層のローン金利に関しては、Lending Clubが微増、Prosperが微減傾向にあるものの、上位層と下位層のローン金利差については、両者とも拡大傾向にあることがわかる。もっとも変化が大きかったのが、Lending Clubのハイリスクローンの金利で、2015年12月から0.2%しか金利が動いていないAグレードのものに比べ、Fグレードのローン金利は6%以上も上昇している。

金利
Lending Clubローングレード 2015/12以前 2015/12 2016/04 2016/06 2016/10 金利推移
A 6.9% 7.0% 6.7% 7.1% 7.0% 0.2%
B 9.8% 9.9% 10.0% 10.3% 10.7% 0.9%
C 13.1% 13.4% 13.6% 14.0% 14.3% 1.2%
D 16.8% 17.1% 17.9% 18.8% 18.8% 2.1%
E 19.1% 19.9% 22.9% 24.1% 24.5% 5.4%
F 23.4% 23.6% 25.7% 26.6% 29.6% 6.3%
G 27.5% 27.6% 29.3% 29.3% 30.9% 3.4%

 

金利
Prosperローングレード 2016/02以前 2016/02 2016/05 2016/09 2016/10 金利推移
AA 6.7% 6.9% 6.9% 6.8% 6.3% -0.4%
A 9.0% 9.2% 9.2% 9.2% 8.5% -0.5%
B 11.8% 12.2% 12.2% 12.2% 11.5% -0.3%
C 15.6% 16.3% 17.1% 17.2% 16.4% 0.8%
D 20.4% 21.7% 23.0% 23.0% 23.2% 2.8%
E 25.0% 26.8% 28.0% 28.3% 29.0% 4.0%
HR 29.9% 31.2% 31.1% 31.4% 31.9% 2.0%

 

両社が金利を変更した結果、ニュースではこのテーマについてさまざまな議論がなされ、中にはローン金利の変化が景気後退の前兆ではないかと考える人までいた。しかし、国全体の景況を表すひとつの指標である金融市場を見てみると、クレジットスプレッドは薄く、株価も上昇しており、景気が後退している様子はない。失業率や鉱工業生産指数、稼働率といったその他の指標も、安定しているだけでなく、過去数年だけ見ればむしろ改善さえしている。

その一方で、Seeking Alphaの記事のように、景気が後退しつつあることを示す説得力のある意見も存在する。アメリカの消費者行動について深く分析している当該記事では、市場が消費力を過大評価しており、実際は弱っている消費力のせいで2017年Q1にはアメリカが不況に突入すると記されている。この記事の著者は、上位20〜40%にあたる高所得者層が、全体の消費の大半を支えているため、失業率と平均時給の関連についての誤解が生じていると主張しているのだ。

2013年以降アメリカの所得者の上位40%が、所得増加額の84%、そして借入増加額の34%を占めているため、消費者全体で見たときの所得に対する借入率が減少し、小売売上高が上昇した。というのも、彼らが消費額全体の65%を占めていたからだ。同記事では、この上位層における消費額の減少が不況につながるとされており、歴史的に見ても、中間・下位層の家計の悪化を追うような形で、上位層にも不景気が広がっていくことがわかっている。

ソフトウェア開発やITサービスといったテクノロジー関連の仕事をしている人が、大半の富を手に入れるようになる。

私自身は、アメリカが2017年Q1に不況に突入するとは思っていないが、所得格差や貧困層における借入額の増加は確かに気になる問題だ。

不況論を唱える人たちの主張は、提示されている証拠からも正しいように思えるが、私たちは、貸し倒れの増加や異なるローングレード間での金利幅の拡大には、もっと深い理由があるのではないかと考えている。つまり、そのような現象につながるような、経済における根本的な変化が現在起きているのではないかと私たちは考えているのだ。

テクノロジーが普及するにつれて、労働集約的な仕事はコンピューターや機械が行うようになってきている。時給制で働くことの多い単純労働者の需要は減り、そのような仕事の数自体も減少している。かつては手作業で行われていたような仕事の大半で、機械が人間に取って代わり、各業界での労働者間の競争は激化している。

この主張の正当性は、最近のデータを見れば簡単に証明することができる。Forresterの最近の調査では、ロボットやAI、機械学習、自動化といったコグニティブ・テクノロジーによって、2025年までにアメリカ国内の仕事の7%が失われる(16%の職が無くなり、関連産業で9%の仕事が新たに生まれる)と予測されている。

実際のところ、私たちは新たな機械時代に既に突入しようとしている。例えば、人件費や燃料費、事故件数を減らすために自動運転技術が導入されようとしているが、これは同時に、バスやタクシーやトラックのドライバーにとっては悪夢のような動きだ。さらにNPRのデータによれば、2014年時点のアメリカでもっとも多い職業はトラックドライバーだった。つまり、自動運転技術が業界全体に普及するにはまだ数年かかるかもしれないが、ドライバーの仕事が自動化されると、経済全体にも大きなダメージが生まれるのだ。

2016年の終わりには、410万人以上の人々が車の運転を職業とし、そのうち350万人以上がドライバーの仕事をフルタイムで行っていた。運転の自動化によって、彼ら全員が職を代えることを余儀なくされるばかりか、ソフトウェアやテクノロジーの世界に彼らが簡単に入れはしないということは明らかだ。

経済全体に関する話でいえば、2015年12月に労働省労働統計局が、主な産業分類ごとの就業者数に関するレポートを発表した。同局は過去のデータに基いて算出した、各産業の就業者数の長期的な予測についてレポート内に記している。その結果は以下のグラフの通りだ。サービス産業の就業者数は増加し、全体の大半を占め続けると予測されている一方、就業者数が減少傾向にある製造業の状況は将来的にも大して変わらないとされている。この調査からも、労働集約的な業界での労働者間の競争が激しさを増していることがわかる。

一方、テクノロジー業界の就業者数は急速に伸びている。非営利のIT業界団体であるCompTIAがまとめたCyberstates 2016と呼ばれるレポートでは、2015年のテクノロジー業界における就業者の増加数が、過去10年以上の間で最高となる20万人を記録し、アメリカ国内の同業界の就業者は670万人に達したとされている。

さらに同レポートによれば、2015年のテクノロジー業界の就業者数は前年と比較して3%増加しており、これはアメリカ全体の伸び率である2.1%を上回っている。中でもITサービスにおける就業者数が大きな増加を見せており、エンジニアリングサービス・研究開発・テスティングがそれに続いた。以下の表にその詳細が記載されている。

分野 2014 (千人) 2015 (千人) 増加率 増加数(千人)
テクノロジー関連製造 1134.7 1138.4 0.33% 3.7
通信・インターネットサービス 1289.0 1324.7 2.77% 35.7
ソフトウェア 310.9 316.2 1.70% 5.3
ITサービス 2129.1 2234.5 4.95% 105.4
研究開発、テスティング、エンジニアリングサービス 1659.0 1707.1 2.90% 48.1
業界合計 6522.7 6720.9 3.04% 198.2

 

就業者数と共に、テクノロジー業界の給与も増加傾向にある。2015年にDice.comが行った調査によれば、雇用者の72%はテクノロジー関連業務の社員を少なくとも10%増員したいと考えており、平均給与も2015年中に前年比で8%伸び、9万6370ドルに達した。この給与の伸び率は、他の業界を含めて考えてもこれまでにないほどの数字だった。ボーナスについても同様で、テクノロジー業界の就業者のうち、37%は平均で1万194ドルと、前年比で7%も多いボーナスを受け取っていた。

高給を狙えるスキルという点でも、テクノロジー関連が目立ち、特にビッグデータ解析の分野の給与がもっとも高かった。下記のグラフは、Diceが2015年10月・11月の2ヶ月間にわたって1万6301人を対象に行なったオンライン調査の結果をまとめたもので、オースティン在住のテクノロジー業界に務める人の給与が増加していることを示している。2007年から2015年の全体の給与の増加率は29%に達し、年平均成長率は3.7%だった。

以上の結論として、労働集約的な産業では、労働者間の競争が激化することで給与の伸びは望めないということが言えるだろう。さらに給与の伸びが停滞することで、労働集約的な仕事をしている人たちの信用力が低下することになる(これは既に起き始めている)。というのも、経済全体の調子が良くても、彼らの給与は増加しないからだ。

その一方で、テクノロジー業界では全く逆のことが起きている。労働者の給与は大幅に増加し、彼らの信用力もそれに伴って向上しているのだ。つまり、ソフトウェア開発やITサービスといったテクノロジー関連の仕事をしている人が大半の富を手にし、単純労働者は競争の激化に苦しみ、彼らのスキルも必要とされなくなるという、これまでになかったような大きな変化の波が現在起きつつあるのかもしれない。そして、両者の間にあるギャップはさらに広がり、経済的にも大きな問題が生じてくる可能性がある。

つまり今後、テクノロジー業界の就業者が消費額の大半を占める特権階級となり、単純労働者が取り残されてしまうようになる可能性が高いのだ。その結果、給与の伸びに悩む債務者がローンを返済できなくなるため、市場は貸し倒れのさらなる増加やローンのパフォーマンスの大幅な低下に備えていかなければならない。特に下位グレードのローンの扱いには細心の注意が必要になるだろう。

実際のところ、サブプライム層向けローンのパフォーマンスは既に低下し始めている。サブプライムローンを主要商品としていたCircleBack Lendingは、債権の証券化で予想よりも苦しみ、サブプライム層向け自動車ローンの貸し倒れが増加したことを受けて、事業をストップさせた。今後テクノロジー業界がさらに成長するにつれて、同じようなことが増えてくるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter