スタートアップが表計算ソフトを使わない財務モデルの構築を支援するFinmark

Finmark(フィンマーク)の創業者であるRami Essaid(ラミ・エサイード)氏は、以前のスタートアップを設立した際に、正確な財務モデルを構築することがいかに難しいかを身をもって体験した。2019年にそのスタートアップであるDistil Networks(ディスティル・ネットワークス)をImperva(インパーバ)に売却したとき、彼はその助けとなる新会社を作ることに決めた。

2020年7月に創業したFinmarkは、企業がExcel(エクセル)を使わずに高度な財務モデルを構築するための手助けを行う。「私たちには、収益化前からIPO前までのスタートアップ企業が財務モデルを構築し、Excelから脱却することを支援するという命題がありました」と、エサイード氏は説明する。

エサイード氏によれば、彼らは当初、まだ資金調達をしていない、あるいはシードラウンド資金を獲得したばかりの、本当にアーリーステージの企業に集中していたという。このような企業を標的市場にしていたことには理由があった。財務モデルがそれほど高度でないため、Finmarkが最初の製品をより早く構築することができたからだ。

このアプローチはうまくいった。エサイード氏によると、1000社以上の企業がこの製品を使用しており、そのうち約3分の1が有料顧客だという。この初期の成功を受けて、彼らはより複雑なモデリングを必要とする収益が500万ドル(約5億8000万円)から7500万ドル(約87億円)の中規模企業へと市場を拡大していった。

「このようにして、我々はいくつかの取引を成立させることができ、より大規模な企業も何社か引き入れることができました。より高度な機能を製品に組み込む作業も続けています。企業の創業者が、誰の助けも借りずに、社内に優秀な財務担当者がいなくても、財務管理を簡単に行えるようにすることに、引き続き取り組んでいます」と、エサイード氏は語る。

Finmarkは2021年、Y Combinator(ワイコンビネーター)を卒業し、同社のサービスを必要とする多くのスタートアップ企業にアクセスできるようになったため、彼らの意見を取り入れて製品を改良することが可能になった。

現在、同社は他のインキュベーターやベンチャーキャピタルと協力して、3カ月から12カ月の間、プログラムを無料または割引価格で提供している。これが利用者の増加と製品の認知度向上に貢献している。

同社はまた、初期段階の企業が資金不足に陥らないように、より正確な財務モデルを構築する方法を理解するために役立つコンテンツの作成にも多くの資金を投入した。エサイード氏は、スタートアップ企業が失敗する主な理由を次のように指摘する。

「スタートアップ企業が失敗する一番の理由は、資金が尽きてしまうことです。しかし、実際に活動を停止するスタートアップはほとんどありませんよね?残された時間がわかれば、より多くの選択肢を得ることができます。このようなことを理解し、資金不足に陥らないように戦略的に計画することが、スタートアップを成功させるための重要な要素だと、私は思います」。

Finmarkはすでに35人ほどの従業員を擁しており、エサイード氏は急速にチームを強化している。同氏には他のスタートアップ企業での経験があったため、そのネットワークを活用して、知り合いや信頼できる人を見つけることができたが、さらに多様性を持たせたいとも考えている。

「前回お話した後、(多様性について)よく考えてみました。現在この会社にとってすばらしいことの1つは、リモートで会社を設立していることです。そのため、以前サンフランシスコに本社を置いていたときよりも、全国の多様な人材にアクセスすることができます」と、エサイード氏は語った。

同社は今回、シード資金の一部として650万ドル(約7億5000万円)を調達した。このラウンドは、American Express(アメリカン・エキスプレス)が主導し、既存投資家のDraper and Associates(ドレイパー・アンド・アソシエイツ)、Bessemer Venture Partners(ベッセマー・ベンチャー・パートナーズ)、IDEAfund(アイデアファンド)が参加した。以前、同社は最初のシード投資ラウンドで、500万ドル(約5億8000万円)を調達している。

画像クレジット:Rudzhan Nagiev / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

トーマツが会社・勘定科目単位で不正を検知するAIモデルを開発、今後2年間で監査先100社以上のリスク評価手続に活用

トーマツが会社・勘定科目単位で不正を検知するAI・機械学習モデルを開発、今後2年間で監査先100社以上のリスク評価手続に活用

デロイト トーマツ グループの有限責任監査法人トーマツは1月7日、過去の不適切な財務データをAIに学習させることで、会社、勘定科目単位で不正を検知する不正検知モデルを開発し、2022年1月から本格導入を開始すると発表した。また、これまで活用してきた仕訳分析モデル異常検知モデル(2017年8月特許取得済)と組み合わせて、不正リスク評価から、対応手続の立案まで網羅的にAI・アナリティクスを活用するアプローチを確立した。不正検知モデルの開発などAIの活用を通じて、AI・データドリブンによる監査の高度化を目指す。

2015年以降、不適切会計が明らかになった企業の数は増加しており、コロナ禍による業績不振も勘案すると、今後もこの傾向は続くと考えられるという。不正の発生は、企業に大きな損失をもたらすものであり、いかに不正リスクを抑えるかが急務の課題と指摘している。

従来監査人は、監査先の財務データに対し、異常とみなす基準値や予算との比較、前期からの趨勢把握などによって、監査で重点的にフォローするグループ会社や勘定科目を選別していた。一方、今回同社が開発した不正検知モデルでは、上場企業の過去の不正の傾向をAI・機械学習モデルに学習させているため、監査人は監査先から財務データを入手し、不正検知モデルにデータを投入することで、予測モデルによる不正スコアの計算のもと、不正リスクが高い会社、勘定科目および財務指標を識別する。これにより、監査人は不正リスクの分析を効率的に行うとともに、従来識別しえなかった不正パターンの識別が行えるという。不正検知モデルで検知された不正の兆候に基づいて監査人が監査先企業との議論をより深化させることで、企業のガバナンス向上に貢献するとしている。

トーマツでは、不正検知モデルを一部活用した監査に着手しており、すでに10社超の上場会社の監査において、主に子会社のリスク評価手続に活用している。さらに、今後2年間で100社以上の監査先のリスク評価手続に活用することを目指しているという。また、不正検知モデルの更なる性能向上に向けて、監査先の同意を得た場合には当該監査先の財務情報をモデルの学習に用いることでモデルの精度を向上させることや、市況データのバリエーションを増やすことで、特に海外子会社に対するリスク評価の精度向上を予定している。

今回開発した不正検知モデルでは、予測性能に優れる勾配ブースティング技術を採用し、2005年以降に公表された有価証券報告書および訂正報告書に含まれる財務諸表と為替レート、物価指数などの市況データをAIに学習させて、複数の財務指標から不正企業と正常企業との相違性を見出し、その結果を不正企業との近似度として0~1の間でスコアリングする。

また、どの指標がスコアに影響しているのか、会社別の各指標の時系列推移や、指標値の算定に使用した勘定科目の実数値を詳細に確認できるため、AIが算出したスコアがなぜ高いのかを説明することが可能という。あわせて、不正リスクが高いと評価された企業と類似した不正シナリオを持つ過去の不正企業を参照できる仕組みも構築している。

これにより、これまで活用してきた仕訳分析モデルや異常検知モデルと組み合わせて、より広範な観点から不正の兆候を把握するリスク評価から、不正リスクの高い仕訳や取引に対して個別・詳細に分析を行い、リスク対応手続の立案まで網羅的にAI・アナリティクスを活用するアプローチを確立した。トーマツが会社・勘定科目単位で不正を検知するAIモデルを開発、今後2年間で監査先100社以上のリスク評価手続に活用

財務データのフローを自動化するフィンテック「LiveFlow」がYCやKlarna創業者からシードで約4億円調達

CTOのエバン・オブライエン氏、CEOのラッセ・カルカー氏、COOのアニータ・コイミュール氏(画像クレジット:LiveFlow)

フィンテックのスタートアップ「LiveFlow(ライブフロー)」は、Moonfire Venturesがリードし、Y Combinator(YC、Yコンビネータ)、Seedcamp、WndrCoが出資したシードラウンドで、350万ドル(約4億円)を調達した。また今ラウンドには、Klarna(クラーナ)の共同創業者であるVictor Jacobsson(ビクター・ヤコブソン)氏、元Google(グーグル)の製品担当VPであるBradley Horowitz(ブラッドリー・ホロウィッツ)氏、元Airbnb国際展開担当VPのOliver Jung(オリバー・ユング)氏、Peakonの創業者兼CEOのPhillip Chambers(フィリップ・チェンバース)氏などが参加した。

LiveFlowは、会計サービス、銀行、決済プラットフォームからのリアルタイムデータをカスタムレポートに同期させることで、ワークフローの自動化、企業アカウントの統合、全社的なコラボレーションを可能にする。

CEOのLasse Kalkar(ラッセ・カルカー)氏、Anita Koimur(アニータ・コイミュール)COO(元Revolut)、Evan O’Brien(エバン・オブライエン)CTO(元Web Summit)によって約1年前に設立されたLiveFlowは、Ascent CFO、CFO Minded、TinyCFOなどの会計事務所や、Y Combinator発のスタートアップ企業など、ほとんどの顧客を米国内に抱えている。

LiveFlowの共同設立者兼CEOであるカルカー氏はこう語る。「以前、勤めていた会社では、財務報告書を手作業でまとめることにフラストレーションを感じていました。LiveFlowのアイデアはそこから生まれたのです」。

Moonfire Venturesの創設者兼マネージングパートナーのMattias Ljungman(マティアス・リュングマン)氏は次のように述べている。「LiveFlowは、レポート作成プロセスを自動化・合理化することで重要なサービスを提供し、企業がビジネスをよりよく管理するために必要な可視性とリアルタイムの情報を提供します」。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

SaaSやFinTechサービスのデータ連携が可能な財務会計領域iPaaS「ActRecipe」のアスタリストが5800万円調達

複数SaaSやFinTechサービスのデータ統合・連携が可能な財務会計領域特化クラウド「ActRecipe」(アクトレシピ)を提供するアスタリストは11月8日、第三者割当増資などによる総額5800万円の資金調達の実施を発表した。引受先はEast Venturesをはじめとする複数の投資家。調達した資金は、主にサービスの機能拡充や利用企業数拡大のために活用する。これにより、既存の契約企業やSaaSを利用している企業に新たな価値を提供し、アスタリストのさらなる成長につなげるとしている。

ActRecipeは、データ統合・内部統制に向けたiPaaS(integration Platform-as-a-Service。クラウド統合プラットフォーム)として2019年8月にサービスローンチ。2020年6月には電子決済代行業者の登録を完了したことで、銀行APIを通じてSaaSから銀行への自動送金や入出金明細の自動取得を行なう取り組みも開始した。

2013年11月設立のアスタリストは、「”Create time through innovation” (イノベーションによって時間を創る)」をミッションとするスタートアップ。ITの活用により企業の生産性向上や内部統制強化を支援する事業を行なっている。現在はActRecipeに注力しており、SaaSやFinTechサービスのさらなる活用とDXの推進を目指している。

 

「財務のためのIFTTT」、中小企業向け財務自動化プラットフォームを手がけるAurelia

財務自動化プラットフォームのAurelia(アウレリア)は、Blossom Capital(ブロッサム・キャピタル)の主導で300万ドル(約3億3000万円)のシード資金を調達した。

自らを「財務のためのIFTTT(イフト)」と称するAureliaは、銀行口座と財務ツールの統合を望む中小企業を対象としている。キャッシュフローや税金などの管理を強化し、通常は手作業で行われる作業を、コードの知識がなくても自動化することができると、同社は述べている。

今回の投資ラウンドに参加したエンジェル投資家は、Checkout.com(チェックアウト・ドットコム)の創業者兼CEOであるGuillaume Pousaz(ギヨーム・ポサーズ)氏が自身の投資会社であるZinal Growth(ジナール・グロース)を通じて出資している他、GoCardless(ゴーカードレス)の元COO兼CROだったErez Mathan(エレズ・マサン)氏などが含まれる。

Aureliaは、Transferwise(トランスファーワイズ)の主要エンジニアの1人でだったSebastian Trif(セバスチャン・トリフ)氏と、Jasper August Toes(ジャスパー・オーガスト・トーズ)氏によって設立された。

「事業のすべてを把握しようとするフィンテック系アプリや銀行はたくさんありますが、多くの中小企業は自社の財務状況を新しい製品に移すことに乗り気ではありません」とトリフ氏はいう。

Blossom Capitalの創業者であるOphelia Brown(オフェリア・ブラウン)氏は、次のように述べている。「私たち自身が中小企業の経営者であるため、中小企業にとって財務や会計を管理することがいかに苦痛であり、困難であるかを身をもって知っています。適切なソリューションを何年も探していた私たちは、その場でAureliaに出資を決めました」。

トリフ氏は次のように付け加えた。「機能ごとに見ると、当社はXero(ゼロ)やQuickbooks(クイックブックス)などの会計ソフト上に搭載されているプラグインのパックと競合しています。また、Tide(タイド)、Revolut for Business(レボリュート・フォー・ビジネス)、Wise for Business(ワイズ・フォー・ビジネス)など、より機能が限定されたスマートな中小企業向け銀行業務ソリューションとも競合しています」。

Aureliaのベータ版プラットフォームは現在、エストニア、ルーマニア、ドイツ、英国で稼働中だ。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)