英国でMeta集団訴訟、競争法違反で約3520億円求める

Facebook / Meta(フェイスブック / メタ)が数年にわたり英国でソーシャルネットワークでの支配力を乱用していたとして、強力な訴訟ファンドの支援を受けた競争法の専門家が、同社に対し競争法違反で数十億ドルの集団訴訟を起こす。原告側が勝訴すれば、Facebookは31億ドル(約3520億円)の損害賠償金を英国ユーザーに支払わなければならなくなる。

集団訴訟は、Facebookの親会社であるMetaを相手取っていて、現地時間1月12日にロンドンにある英国の競争審判所に訴状が提出された。

この訴訟では、4400万人の英国のユーザーが2015年から2019年の間にデータを搾取され、Facebookはそうしたユーザーに賠償金を支払うべきだと主張するという異例のアプローチを取っている。Facebookの支配により、事実上、他に実行可能なソーシャルプラットフォームがなかったユーザーの個人データやプライベートデータをFacebookはすべて奪い、その見返りとしてユーザーが得たのは、実質的に友人や家族に赤ちゃんや子猫の写真を投稿できることだけだったと主張している。

ライザ・ロブダール・ゴームセン博士

この訴訟は、国際競争法の専門家であるLiza Lovdahl Gormsen(ライザ・ロブダール・ゴームセン)博士(写真上)が主導している。ロブダール・ゴームセン氏は、Facebookの市場支配について英国議会で意見を述べ、それに関する法的な学術論文も執筆した。

ロブダール・ゴームセン氏の訴えは、Facebook(最近Metaに社名変更した)が英国のFacebookユーザーに対して「不当な価格」を設定したという考えに基づいている。

Facebookにアクセスを許可するために設定された「価格」は、英国ユーザーの非常に貴重な個人データの放棄であり、その見返りとして、Facebookが巨額の収益を上げる一方で、ユーザーは単にFacebookのソーシャルネットワークプラットフォームへの「無料」アクセスを得ただけで、金銭的補償はなかった。

この主張で重要なのは、Facebookがユーザーのデータを自社プラットフォームに閉じ込めることによってだけでなく、Facebookピクセルで他のウェブサイトでもユーザー追跡し、ユーザーに関する深い「ソーシャルグラフ」データを生成することによって英国ユーザーを「囲い込んだ」ということだ。

ユーザープロフィールがCambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)スキャンダルのような論争の中で何度も再浮上し、その市場利用を実証したことがロブダール・ゴームセン氏の主張を支えている。

ロブダール・ゴームセン氏の弁護士であるQuinn Emanuel Urquhart & Sullivan(クイン・エマニュエル・アークハート&サリバン)法律事務所は、Metaに書面でこの主張を通知している。ロブダール・ゴームセン氏は、影響を受ける人々、すなわち2015年10月1日から2019年12月31日の間に少なくとも1回はFacebookを利用した英国に居住するすべての人の代表を務める。

この「オプトアウト」集団訴訟は、Metaに対するこの種のものとしてはイングランドおよびウェールズでは初だ。オプトアウト訴訟であるため、Facebookの400万人の英国ユーザーは、損害賠償を求めるために積極的に訴訟に参加する必要はなく、訴訟からオプトアウトすることを選ばない限り、訴訟に加わることになる。

この訴訟に対する資金援助は、世界最大の訴訟資金提供者の1つであるInsworth(インスワース)が行っている。Quinn EmanuelとInnsworthは、過去にこの種の消費者集団訴訟を起こした実績がある。

Metaに関してはより広い背景があり、同社は米国での消費者集団訴訟、世界中での規制措置にも直面している。米連邦取引委員会(FTC)が起こした反トラスト訴訟ではInstagram(インスタグラム)とWhatsApp(ワッツアップ)のプラットフォームから分離される可能性がある。

ロブダール・ゴームセン氏は声明の中で、次のように述べている。「登場してからの17年で、Facebookは英国で友人や家族と確実に1カ所でつながることができる唯一のソーシャルネットワークとなりました。しかし、Facebookには暗い面がありました。市場支配力を乱用し、英国の人々に不当な利用規約を課し、個人情報を搾取していました。私は、Facebookにデータを搾取された4400万人の英国人のために、数十億ポンド(数千億円)の損害賠償を確保すべく、この裁判を起こします」。

筆者はロブダール・ゴームセン氏と電話で話したが、その際、Twitter(ツイッター)やMyspace(マイスペース)のような他のソーシャルネットワークが利用可能だったとFacebookは主張することができるかどうか尋ねた。

「TwitterやSnapchat(スナップチャット)などでは、人々は家族や友人と同じようにつながることができないと思います。Facebookはかなりユニークなやり方をしています」。

今回の訴訟は、Facebookピクセルが他のウェブサイトにも遍在していることにも基づいている。それがこの訴訟でどのような意味を持つのか、筆者は尋ねた。

「自分がFacebookのユーザーだと想像してください。自分のデータがFacebook.comで利用されることは承知しているかもしれません。しかし、ピクセルは、あなたがサードパーティのウェブサイトを利用するときに意味を持ちます。そのサードパーティのウェブサイトはもちろんFacebookとは何の関係もありません。つまり、Facebookは、あなたが実際にサインアップしたという以上に、ずっとたくさんのあなたのデータポイントを作り出しているのです」とロブダール・ゴームセン氏は述べた。

ユーザーは設定の奥深いところでFacebookのプラットフォームから自分自身を削除することは可能だが、実際には、ユーザーの大多数は削除方法がわからず、それが可能であることさえ知らない、と同氏は主張している。

ロブダール・ゴームセン氏は、英国国際比較法研究所(BIICL)の上級研究員、競争法フォーラムのディレクター、国際競争ネットワークの非政府顧問、Journal of Antitrust Enforcement(OUP)の諮問委員会の委員を務めている。

TechCrunchはFacebookにコメントを求めたが、記事公開時点では回答はなかった。

画像クレジット:Dr Liza Lovdahl Gormsen

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】ビッグテックはビジネスが苦手なのか?中小の知的財産権を侵害する大手

Google(グーグル)は2021年8月、Sonos(ソノス)との法廷闘争で大きな敗北を喫し、米国際貿易委員会の判事はグーグルがSonosのオーディオ技術特許5件を侵害したと判断した。この判決が支持されれば、Googleは数億ドル(数百億円)を支払うことになり、PixelスマートフォンからNestスピーカーに至るまで、あらゆるものを取り込むことが禁止されるかもしれない。

これは些細な展開ではない。ビッグテックがより規模の小さい企業から知的財産を盗むのを阻止しようとする一連の訴訟や苦情の最新事例である。

ここ数年、ビッグテック企業が小規模なライバル企業の知的財産権を侵害するケースが増えている。こうした小規模な企業は反撃を開始しており、今やビッグテック企業は裁判所から命じられる数百億ドル(数兆円)の損害賠償と訴訟費用に直面する可能性がある。

もしビッグテックの幹部たちが無謀な侵害を続けるなら、彼らの会社は取り返しのつかない財政的、評判上の損害を受けることになる。競合他社の知的財産を盗むことはもはや単に非倫理的なだけではない。それはビジネス上の決定があまりにも悲惨なほど近視眼的であり、経営者の株主に対する受託者責任の侵害にあたることはほぼ間違いない。

長い間、Apple(アップル)のような巨大テクノロジー企業は、対抗する資金力や法的な武器を持たない小規模な競合他社を自由に餌食にすることができると考えていた。だが、もはやそうではない。

小規模企業は訴訟にコストをかける価値があると判断し、大きな勝利を収めている。この1年間に行われた3つ訴訟だけでも、陪審は小規模企業に10億ドル(約1133億円)以上の賠償金を認めている。8月にAppleは4G技術を侵害したとしてPanOptis(パンオプティス)に3億ドル(約340億円)を支払うよう命じられた。また2020年には、VPNの特許を保有するVirnetX(バーネットX)に10億ドルの損害賠償を支払うよう裁判所から命じられている。

Appleだけではない。2020年10月、連邦裁判所はCisco(シスコ)に対し、サイバーセキュリティとソフトウェアを手がけるCentripetal Networks(セントリペタル・ネットワークス)に20億ドル(約2266億円)近くを支払うよう命じた。この裁判の判事は、Ciscoの行為を「典型的な侵害を超えた意図的な不正行為の悪質な事例」と呼んだ。

知的財産権の盗用は、ビッグテックの収益に大きな影響を与える可能性がある。これらの企業は数千億ドル(数十兆円)、場合によっては数兆ドル(数百兆円)の時価総額を誇っているが、裁判所が命令した巨額の支払いを積み上げるのは好ましいことではない。

例えば、Ciscoのペイアウトは年間売上の4%を占めている。Appleは最近、さらに10億ドルの損害賠償を支払うことなく、日本企業と和解した。また、英国の裁判所で特許侵害に対する70億ドル(約7921億円)の支払いを受け入れる代わりに、(強要されれば)英国市場から撤退する可能性があると警告した。

しかし大企業が知的財産権の盗用による罰金を免れることができたとしても、その結果としての評判へのダメージは相当なものになる。

米議会の委員会は、反トラスト法違反やプライバシー侵害に関する公聴会のために、幹部を定期的に議場に引き入れている。消費者はますますFacebook(フェイスブック)、Google、Apple、Amazon(アマゾン)を嫌悪するようになっている、あるいはもっと深刻だ。もし政治家や顧客が、これらの企業の利益が継続的な特許侵害にかかっていることを知れば、企業の評判は打撃を受けるであろう。

結局のところ、ビッグテックの経営陣は株主に対して法的な受託者責任を負っている。特許裁判にともなうリスクに目をつぶっている経営陣、つまり自分たちの会社を莫大な法的リスクや評判リスクにさらしている経営陣は、最終的には彼らの道徳的に疑問のある決定が株価に反映されていることに気づくだろう。

一方、株主、一般社員、その他の利害関係者は、経営陣の責任を問うべきである。最大の機関投資家の利益のためにも、Appleなどに圧力をかけて係争中の訴訟を解決させ、小規模ベンダーとライセンス契約を締結させることが必要だ。

ビッグテックが知的財産法の範囲内で活動を開始すれば、セクター全体を持続的な成功に導くであろう。

ペルーの経済学者Hernando de Soto(エルナンド・デ・ソト)氏が著書「The Mystery of Capital」で指摘しているように、社会の経済的繁栄は知的財産権を含む財産権の保護と保全に大きく依存している。

財産権の保護が強い社会は、人々が自分のアイデアに投資することを奨励する。逆に、財産権の保護が弱い社会はそのような投資を抑制し、イノベーションも抑制される。

米国のテクノロジーセクターも例外ではない。消費者と株主は、規模の大小を問わず、企業の繁栄を望むべきだ。より小規模な企業では、入力ソフトウェア、アプリケーション、ハードウェアを開発しており、最終的には消費者向け製品になることが多い。

しかし、大企業が小さな企業を虐げ、お金を払わずに最高のアイデアを略奪すると、小さな企業はイノベーションへのインセンティブを失ってしまう。

ビッグテックは特許の盗用をやめる時を迎えている。

編集部注:本稿の執筆者Andrew Langer(アンドリュー・ランガー)氏はInstitute for Libertyのプレジデント。

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(文:Andrew Langer、翻訳:Dragonfly)