【特集】Apple vs Epic

大人気サバイバルシューティングゲームの「フォートナイト」を開発するEpic Games。同社は米国時間8月13日の朝、当該ゲームのアップデートを行った。このアップデートがプラットフォーマーであるAppleの逆鱗に触れることになる。Epic GamesはAppleのアプリマーケットプレイスであるApp Store上でフォートナイトを配信しているが、今回のアップデートによって、ユーザーはApp Storeを介することなく直接ゲーム内通貨をつかってバーチャルグッズを購入できるようになった。これは、このような取引に際してApple側に支払っていた手数料をスキップできるということを意味する。

Appleはこれに対応するために、App Storeからフォートナイトを即刻削除。一方のEpic Gamesは、テック業界の巨人に怖気付くことなく、反Appleキャンペーンを堂々と展開して真っ向勝負の構えを見せている。

今回のEpic Gamesによる謀反は、「コンテンツメーカーは強いプラットフォームに乗るしかない」というこれまでの通説を覆しうるものだ。果たして、3億5000万人ものユーザーを抱える“力を持ったコンテンツ”のフォートナイトにとっては、もはやプラットフォームという船は必要ないのだろうか。考えてみよう。

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【特集】揺れる中国企業

2018年、ファーウェイCEO任正非氏の娘で、同社CFOを務める孟晩舟氏がアメリカ合衆国司法省からの要請を受けたカナダの司法当局により、米国によるイランに対する制裁をくぐり抜けるため米金融機関に虚偽の説明をしたとしてバンクーバーで逮捕された。かねてより米国とファーウェイの間には火種がくすぶっていたが、この事件をきっかけに両者の亀裂は大きく広がった。2019年5月15日、アメリカのトランプ大統領は、米国企業が安全保障上の脅威がある外国企業から通信機器を調達することを禁止する大統領令に署名。この禁止措置対象リストにファーウェイの名前が書き込まれると、Google、インテル、クアルコムなどの企業がそれに追随してファーウェイとの商取引を一部停止すると報道された。

最近では、インド政府が大人気の動画配信アプリ「TikTok」を含む複数の中国製アプリの使用を禁止するなど、外国政府と中国企業による攻防はファーウェイに限ったことではない。今週の特集「揺れる中国企業」では、時系列に沿って過去のニュースを整理することで、外国政府からの“締め出し”に揺れる中国企業の現状を探る。

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【特集】激戦、動画配信サービス

動画配信サービスの代名詞「YouTube」が産声をあげたのは2005年のことだ。それから15年の間に、動画を作って配信する人を指す「YouTuber」という言葉が生まれ、スマートフォンで気軽に動画を楽しめる環境も整った。今、僕たちの生活には動画コンテンツが溢れている。しかし、そのYouTubeも安泰ではない。すでに、米国、英国、スペインの子どもたちはYouTubeに費やすのと同じ程度の時間を、中国発の動画配信サービス「TikTok」に費やしているという調査結果もある。

今週の特集では、ここ最近のニュースを振り返ることで、長きに渡って激戦を繰り広げる動画配信サービスの現状を追った。

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【特集】プライバシーと接触者追跡

新型コロナウイルスの脅威に対抗するために生まれた「接触者追跡アプリ」。簡単に説明すると、接触者追跡アプリは、これまでの接触履歴からウイルス感染のリスクが高い人を発見するとともに、その人と接触した人には通知を送るというアプリだ。しかし、各国がこの接触者追跡アプリの開発を進めるにつれて、世界中で「プライバシー」に対する意識が高まることにもなった。

今週の特集では、コロナ禍で注目を浴びた接触者追跡アプリに関連する記事を振り返るとともに、プライバシーについて扱ったコラム記事を通して、プライバシーについてもう一度考えてみよう。

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【特集】勃興するEdTech

「Education(教育)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた「EdTech」という言葉が生まれてから久しい。しかし、新型コロナウイルスの影響で、その言葉が今になってようやく脚光を浴びることとなった。学校が封鎖され、対面での授業の実施が困難になったこともあり、ビデオチャットによる遠隔授業など、テクノロジーを利用した教育に注目が集まったのだ。

スタートアップ業界では、すでにEdTechの精鋭たちが動き出している。フラッシュカードを中心にした教育サービスを展開するQuizlet(クイズレット)の企業価値は10億ドルとなり、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。つい先日の6月30日には、ソフトバンクの投資ファンド「ビジョン・ファンド」も出資をする、中国のオンライン学習サービス「Zuoyebang」が約800億円を調達したというニュースが舞い込んだ。今週の特集では、新型コロナウイルスによって勃興するEdTechの現状、そして、そもそも教育分野にテクノロジーを適応することの意義について探った。

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【特集】テック業界と人種差別

アフリカ系アメリカ人の黒人男性、ジョージ・フロイド氏が警察官の不適切な拘束方法によって殺害された事件をきっかけに、アメリカ全土で人種差別に対する問題意識が高まった。それはシリコンバレーを中心とする米国スタートアップやVCの世界でも例外ではない。

そして、僕たち日本人もこの問題を真剣に考える必要があると思っている。人種という差別だけでなく、性別なども含めたさまざまな差別に対抗し、企業のダイバーシティを追求するという高い視座を持てば、日本でも今回のムーブメントをきっかけに何か新しいアイデアが生まれるかもしれない。今週の特集「テック業界と人種差別」では、米国を中心とするテック業界が人種差別やダイバーシティに対してどう向き合っているのか、そして彼らがこれからどう変化するのかを追った。

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特集:再考、コロナ後の世界

新型コロナウイルスの影響で、僕たちの生活は一変した。学校の授業はオンラインに置き換えられ、オフィスへの通勤は制限され、多くの娯楽施設の門は閉ざされた。しかし、緊急事態宣言の解除を受け、今ではそれらの門も少しづつ開かれつつある。

コロナの猛威が絶頂期を迎えたころ、僕たちは「コロナ後の世界」がどうなるのかを真剣に考えていた。第2波の恐れはあるが少しずつ終息に向けて動き出しているいま、そんな世界についてもう一度考えてみよう。

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【FounderStory #5】17万人のコインロッカー難民を救うecboのチームワーク

Founder Story #5
ecbo

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はecbo(エクボ)代表取締役社長の工藤慎一氏とecbo共同創業者でCCO(チーフクリエイティブオフィサー)のワラガイケン氏だ。

工藤慎一
ecbo 代表取締役社長

1990年生まれ マカオ出身 日本大学卒。Uber Japan株式会社を経て、2015年、ecboを設立。2017年、カフェや美容室、郵便局など多種多様な店舗の空きスペースを荷物の一 時預かり所にする世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak」の運営を開始。ベンチャー企業の登竜門「IVS Launch Pad 2017 Fall」で優勝。

ワラガイケン
ecbo 共同創業者 CCO

1990年生まれ、イギリス出身。父はイギリス人、母は日本人。中学から日本で生活し、日英 の2カ国語を操る。慶應義塾大学SFC卒業後、外資系広告代理店 W+K Tokyo を経て、2015 年に工藤慎一と共にecboを創業。CCO(チーフクリエイティブオフィサー)としてデザイン、クリエイティブ全般、プロダクト周りを担当する。

Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

毎日17万6000人ほど存在するコインロッカー難民

2020年には東京オリンピックが開催され、4000万人もの外国人が訪日する見込みだが、日本のコインロッカー不足は深刻だ。

コインロッカーは数が少ない上、大きな荷物が入るサイズのものはあまりなく、国際イベントが開催される際には利用できなくなることも。

「『コインロッカー難民』が毎日17万6000人ほど存在する」

そう話すのはecbo代表取締役社長の工藤慎一氏。

工藤氏が率いるecboは、そんなコインロッカー難民を救済するための「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐシェアリングサービス、「ecbo cloak(エクボクローク)」を展開している。

ecbo cloakを利用すればカフェや美容院などの店舗に手荷物を預けることができる。ecboいわく、荷物を預けられるまでに要する時間は平均で24.9分だが、ecbo cloakでは事前予約により「確実に」預けることが可能だ。

工藤氏は日本大学を卒業後、Uber Japanでのインターンを経て、2015年6月にecboを設立した。ecbo cloakがローンチしたのは2017年1月。サービスを思いついたきっかけは、ある偶然の出来事だった。


工藤氏2016年8月の中旬に僕が渋谷を歩いていたら、訪日外国人に声をかけられ、「スーツケースが入るロッカーを一緒に探してほしい」と言われた。一緒に探したが、いくら探しても見つからなかった


そこで工藤氏が考えたのが、店舗の遊休スペースを活用し荷物預かりができるプラットフォーム。


工藤氏それさえあれば、ニーズを大きく満たすことができる。そして、店舗にもメリットがあると考えた


店舗オーナーにとって、ecbo cloakの導入には訪日外国人などの「集客」や「副収入」などのメリットがある。

Uber Japanに勤めていた工藤氏は、同社のライドシェアサービス「Uber」のような「普遍となるインフラを作りたい」と常に考えていた。クロークサービスは「普遍となるインフラ」になると確信し、ecbo cloakの開発に踏み切った。

2人の共同創業者から成るecboのチームワーク

取材中もアイディアを絞り出し、可能な限りの情報をアウトプットしているように見えた工藤氏。その多くの情報を集約し要点を解説してくれたのは、ecbo共同創業でCCOのワラガイケン氏だった。ワラガイ氏は慶應SFCを卒業後、外資系広告代理店のW+K Tokyoを経て、ecboを共同創業した人物だ。

工藤氏とワラガイ氏が出会ったのは、工藤氏がUber、ワラガイ氏がW+K Tokyoに勤めていた、4年ほど前のこと。クリスマスの友人の集まりで出会い、後日、お互いのオフィスの中間地点にあるカフェで再会。ワラガイ氏は当時工藤氏が考えていたストレージのサービスに興味を持ち、そこからecbo設立に向かう。

工藤氏は自身のことを「アイディアを多く出すタイプの人間」と説明するが、「それを形にする、絵にするのはすごく苦手」と加えた。その工藤氏の「苦手」を補うのがワラガイ氏だ。


工藤氏ワラガイは細かい部分を全部拾って絵にしてくれる。工藤がやりたいことはこういうことなんじゃない?という感じに。アイディアは形にならないと意味がない。ワラガイはそれを形にする能力が異常に高い。だから「2人で1人だ」という部分もあるのだと思う。ただ、お互いのキャラが違うので、結構、毎日のように喧嘩していた。その時はシェアオフィスだったが、シェアオフィス中に響くかのような喧嘩で、他の人たちは仕事しているのに、ちょっと来てくださいと、仲介役を他の起業家にやってもらったこともあった

ワラガイ氏に「ecboにとってのターニングポイント」を尋ねると、強いて言うのならば、2017年12月に開催されたInfinity Ventures Summit 2017 Fall in Kanazawa内のピッチコンテストLaunchPadでの優勝だと話した。


ワラガイ氏色々なピッチイベントに出場したが、IVSで花開いて、そこから色々なメディアに取り上げられるようになった


B Dash Camp内のピッチコンテストPitch Arenaは予選落ち。INDUSTRY CO-CREATION(ICC)のスタートアップ・カタパルトは書類審査落ち。TechCrunch Tokyoのスタートアップバトルはファイナルラウンド進出ならず。だが、その次に出場したIVSでは見事に優勝を果たした。

工藤氏は「うちのサービスはピッチ向けじゃないから」と自分に言い訳をしたこともあった、と話した。だが、「ちゃんと自分たちの魅力を伝えきれなかった」と辞任し、IVS前日までワラガイ氏と共に資料を作成した。


工藤氏最初は、あまり(ecbo cloakを)魅力的に伝えたくなかった。魅力的に伝えすぎた結果、(類似サービスを)始める人が増えたら嫌だと考えていたからだ。だが、「自分たちはこれだけやっているぞ」「今から入っても遅い」と言えるくらいのシチュエーションを作った。プレゼンの仕方もそうだが、自分たちだからこそ独占できる、自分たちだからこそこの市場を勝ちきれる、他社が入ってきても遅い、というようなプレゼンをすれば、結果的にそれは評価される

2020年東京オリンピック、そしてその先のecbo

ecbo cloakの需要は2020年東京オリンピック開催時、過去最大になると考えられる。同年、4000万人もの外国人が訪日する見込みだからだ。だが、工藤氏、ワラガイ氏の両氏は「オリンピックが決まったのは偶然であり、良いことだが、僕たちにとっては通過点にしか過ぎない」と口を揃えた。

ecbo cloakは、当初から国際展開を狙ったサービス。サービスを開始した当初から5言語に対応していた。「ユニバーサルデザイン」であるとも言えるため、結果、外国人の利用者にも愛されるサービスとなった。ecbo cloakの利用者の7割は外国人だ。

2025年までに世界500都市への展開を宣言しているecbo。工藤氏は「自分がUberにいた時のノウハウはヒントになると思っている」と話した。


工藤氏自分が(Uberに)入った時には、世界での展開はまだ東京で70都市くらいだった。それが、1年半働いて出た時には400都市くらいになっていた。そのような「組織の作り方」を参考にして、やっていこうと思う


現在、1000以上もの店舗での手荷物の預かりを可能としているecbo cloak。毎月のように、続々と導入に関するプレスリリースを目にする上、1月には待望のスマホアプリが登場した。だが、工藤氏は「まだまだ僕らのクロークサービスは使われていない」と言う。ecbo cloakは預かった荷物の手数料を得るビジネスモデル。利用料はバッグサイズの荷物で300円、スーツケースサイズの荷物で600円。収益を上げるには、店舗と荷物を預けたいユーザーのマッチング数を伸ばし続けていくことが重要となる。


工藤氏海外展開に関しては、正直、まだまだわからない。国内に関しても、まだまだのところ。毎日17.6万人のコインロッカー難民がいるので、そういう人たちの大きな割合を無くせるように、積極的にコミュニケーションをとっていきたい

( 取材・構成・執筆:Daisuke Kikuchi / 撮影:田中振一 / ディレクション:平泉佑真 )

GIFの生存戦略ー芸術、エンタメコンテンツ編:大野謙介「GIF文化史」連載〜第3弾〜

「GIF文化史」/ 大野謙介 – 全3回連載概要

大野謙介/GIFMAGAZINE(GIFの人)

1987年に誕生し、インターネットのビジュアルコンテンツを支えた1990年代。FLASHによりミームとしての役割が弱まった2000年代。そして2011年、スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1) 次世代ビジュアル言語」また「2) 芸術、エンタメコンテンツ」として復活します。ファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつある「GIF文化」についてデータや事例と共に全3回で考察をします。

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

第3回1分要約

サクッと手軽に楽しめる映像体験である「GIF」は芸術、政治、広告、エンタメでも活用されるようになります。その理由を世界中の事例と共に考察します。

以下、GIFアニメーションを中心に述べますが簡略化のため「GIF」という言葉を用います。

第1回、第2回の振り返り

第1回では、本当に「GIF」が流行っているのかを定量的に見てみました。そしてGIFが復活した理由は2011年以降のスマホ&SNSの爆発的普及であり、その背景には各国にそれを支えるカルチャライズされたGIFプラットフォームの存在がありました。

第2回は次世代ビジュアル言語としてのGIFについて解説しました。世界各国で送られるGIFの違い、そしてコミュニケーションツールが移り変わる理由を 1) 速さと距離、2) 保存、3) 伝達できる情報の量の3つと仮説を立てました。また5G時代に向かい、より誤解なく情報量多く伝達するために「短尺、ループ、クリックレス再生」する体験をもつコンテンツが重要性が高いことを解説しました。

GIFの2つの役割

GIFの役割は大きく2つあります。

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF

2) メディアコンテンツとしてのGIF

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF、これは人に送るからこそ楽しいというスタンプと同じ楽しみ方で、超短尺動画ならではの楽しみ方の1つです。
2) メディアコンテンツとしてのGIF、これは芸術や新たなエンタメコンテンツとして、作品を見て楽しむという超短尺動画の楽しみ方の1つです。

第3回は、2) のメディアコンテンツとしてのGIFについて様々な事例を見ていきましょう。

国内・海外におけるGIF活用事例
・政治としてのGIF
・芸術としてのGIF
・広告としてのGIF
・ハイライトエンタメとしてのGIF

政治としてのGIF

・LIVE-GIFFING THE 2012 DEBATE

世界中が注目するアメリカ大統領選挙。2012年は、オバマ大統領と共和党のロムニー候補の争いでした。2012年10月22日、大統領討論会をLIVE配信しながら、6人の有名GIFクリエイターが大統領のGIFを即興で作ってリアルタイムに公開していくイベント「LIVE GIFFING」が開催されました。

出典:LIVE-GIFFING THE 2012 DEBATE

政治を視覚的に楽しく、多くの方に興味をもってもらう方法としてGIFが活用されました。この場合イラストであっても写真でもあってもよかったかもしれません。しかし他のコンテンツ体験に比べ、「GIF」はインターネットミームとしての性質やデジタルアートとしての性質をもっています。だからこそにじみ出る親しみやすさ、俗っぽさが醸し出されます。政治という多くの人にとって堅苦しい場面を親しみやすく変える素晴らしいメディアコンテンツとしてのGIFの活用方法と言えます。

芸術としてのGIF

一般的に「GIF」というと、ミームとしての性質が強く、芸術と捉えている人は少ないと思います。ところが2012年以降、デジタルサイネージやタブレットが普及することでGIFを絵画のように鑑賞できる状況ができました。GIFが芸術としての役割を得るようになった世界的な出来事を紹介します。

・ロンドンの現代美術館サーチ・ギャラリーでのGIFコンテンスト

2014年、ロンドンの現代美術館サーチ・ギャラリーが、GIF動画のコンテストを開催。52カ国から4,000以上の作品の応募があり、最終的に6作品が受賞しました。

作者:GerardoJuarez 出典:Saatchi Gallery MOTION PHOTOGRAPHY PRIZE https://www.saatchigallery.com/mpp/

作者:Jaime Travezan 出典:Saatchi Gallery MOTION PHOTOGRAPHY PRIZE https://www.saatchigallery.com/mpp/

GIFが1つの芸術スタイルであることを認め、GIFならではの超短尺、ループをうまく活かした作品が表彰されました。

ただ、当時表彰された作品はシネマグラフという動く写真のような表現や、ミニマルな作品が多く、現在の幅広いGIFアートの表現からすると非常に偏ったものであると私は感じています。

現在では多くのGIFアートが誕生しており、「GIF」に対する鑑賞や解釈のレベルが世界的に向上していると同時に、新たな表現が創られています。

・GIFアートとして代表的な作家:Sholim

Sholimはセルビア ベオグラード出身のデジタルアーティストです。頭部をモチーフにし、グロテスクさと、それに反する小気味の良いループを両立させた独特のGIF作品を制作しています。Sholimの作品はGIFクリエイターの中でも特に際立って独特な世界観を表現しています。

出典:Ars Longa by Sholim © Sholim -GIFMAGAZINE

シャネルなどのハイブランドのGIF制作を手がけ、オリジナルの「GIFアート」を確立しているクリエイターの一人です。

・theGIFs2013~2018

日本でもGIFの芸術性を評価するコンテストは開催されています。手前味噌ではありますが、GIFMAGAZINEとアドビで主催する「theGIFs」です。毎年夏頃応募が開始され、年末に表彰式が開催されます。私は毎年審査員として関わっており、昨年はSholimも同じく審査員としてセルビアから来日しました。

そして今年は国際芸術祭である「あいちトリエンナーレ2019」より招待を受け、GIFMAGAZINEプロデュースでSholimの作品展示を実施します。PCやスマホ上では感じることのできないSholimの作品をぜひ見に来てください。

画像:Sholimと筆者(大野) theGIFs2018にて

・シンガポール開催するGIFの祭典”GIFFEST”

シンガポールでもGIFを芸術として楽しむ活動が行われています。GIFFESTとはNational Arts Council(シンガポール国家芸術評議会)が支援して実施している芸術祭典です。芸術,エンタメ,コミュニケーションのテーマでアーティストトークや展示を実施しました。私もご招待いただきシンガポールに行ってきました。

世界各国から選出されたGIF150作品を世界中のGIFerと共に楽しむことのできる壮大なイベントでした。GIFFEST主催者の2人、Tanya WilsonさんとSteve LawlerさんとGIFについて会場で様々お話を伺いました。

超短尺ループというGIFの性質から、現代に最も合ったストーリーテリングの手法として、芸術・マーケティングの両方の観点で、とても重要な表現と考えているそうです。いつか日本で一緒にGIFFESTを開催したいですね。

広告としてのGIF

政治、芸術としてだけでなく企業のマーケティング活動としてもGIFアニメが活用されています。

・海外:Netflix (フランス)

映画には雨、雷、くもりなど天気が重要なシーンがあります。Netflixがフランスに進出する際に、その場所の様々な天候に合わせた映画のGIFアニメをデジタルサイネージに表示するプロモーションを実施しました。

出典:Ogilvy Paris – NETFLIX GIF Campaign

現実と連動したGIFアニメはNetflixのコンテンツを知らせると共に、通行人に驚きを与える秀逸なプロモーションであったと言えます。

・国内:宝酒造(日本)

若い世代のへの認知向上やブランドへの興味や好感の向上を目的としてGIFを活用する例もあります。様々なGIFerの作品群を通して、カジュアル・フォーマル両方で楽しめる商品の魅力を伝えています。

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作:APO

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作:平岡 政展

出典:スパークリング清酒「澪」(Twitterより) 作者:まめ太郎

ハイライトエンタメとしてのGIF

スポーツのハイライトや映画,アニメの名シーンなどはメディア・コンテンツとしてのGIFが活躍する最たる例です。サッカーのスーパーシュートや体操の技、柔道の決まり手など、スポーツでは約3秒で決する場面が多いのでGIFアニメに適していると言えます。実際に2018年平昌オリンピックでは多くの試合のハイライトをGIFで投稿していました。

出典:Olympic Channel [公式](GIPHYより)

出典:映画『3D彼女 リアルガール』GIFMAGAZINE公式チャンネル

出典:「映画 クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~」GIFMAGAZINE公式チャンネル

まとめ:ファイルフォーマットの「GIF」からポップカルチャーの「GIF」へ

第1回から第3回を通して、主に2011年のスマートフォン登場以降のGIFの文化的役割と歴史について解説をしました。スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1)次世代ビジュアル言語」また「2)芸術,エンタメコンテンツ」としてアメリカ、中国、インドを始め様々な国で再注目されています。

「1) 次世代ビジュアル言語」という役割では、GIPHY(アメリカ)、闪萌-weshine(中国)、GIFSKEY(インド)、GIFMAGAZINE(日本)それぞれの国のGIFプラットフォームが、各国の自然言語として歴史的価値のある重要な分析データを蓄積しています。

GIF検索はGoogle検索に現れない、感情検索エンジンとなります。朝には「おはよう」のGIFを探します。昼には「ランチ」に関わるGIFを探します。告白したい人は「好き」のGIFを探します。GIFを探すということは、Google検索ではわからない、毎日74億人が行う感情表現に貢献することにつながっていくでしょう。

また、「2) 芸術,エンタメコンテンツ」という観点では、政治、芸術、広告、エンタメなどあらゆる場面で「超短尺」「ループ」というGIFアニメの性質が生かされたコンテンツ体験が今後5Gの通信環境になるに従い広がっていくと考えています。

ファイルフォーマットとしての「GIF」には取扱にいくつかの難点があり、いつかAPNGやWebPにとって変わるかもしれません。2000年頃の特許問題や、様々な困難を乗り越え復活しているGIFだからこそストーリーが生まれ世界中に愛されています。

ついにファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつあることによって、ファイルフォーマットに関わらず超短尺アニメーションの体験そのものを「GIF」と呼ぶ状況は世界各国で起こっています。2030年に振り返った時に「GIF文化」がどのような姿になっているかとても楽しみです。10年後も「ギフと間違えて読む人」がゼロになることは無いかもしれませんね。

Twitter(@sekai_seifuku)でご意見ご感想お待ちしています。DMもお待ちしています。では10年後にお会いしましょう。

筆者

大野謙介 / GIFMAGAZINE 代表取締役社長 CEO

GIFの人。1989年、福島生まれ。2012年、横浜国立大学工学部卒。リクルート入社。2013年7月に「株式会社GIFMAGAZINE」を大学後輩の中坂雄平(CTO)と創業し、GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」をリリース。世界中のチャットやSNSで頻繁に送り合われている「GIF」を通じて、絵文字やスタンプに続く「次世代ビジュアル言語の創造」を目指す。また「GIF」の芸術的側面とマスエンタメ側面(映画,アニメ)を両立した「新しいポップカルチャー」を創ることを目指している。Twitter(@sekai_seifuku)

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

(編集:Daisuke Kikuchi / TechCrunch Japan編集記者)

【FounderStory #4】SmartHR宮田氏が「労務管理」領域からスタートした“社会の非合理を、ハックする”

Founder Story #4
SmartHR
代表取締役
宮田昇始
Shoji Miyata

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はSmartHRで代表取締役を務める宮田昇始氏だ。

宮田昇始
SmartHR 代表取締役
熊本県で生まれ育ち、大学進学を機に上京。ITベンチャー、フリーランスなどを経て、医療系Webサイト開発会社でWebディレクターを務める。2013年にSmartHRの前身となるKUFUを設立。2015年にはTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルで最優秀賞を受賞。今なお事業を急成長させ続けている。
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

中高生時代から強かった「古い慣習」への反骨心

「起業当初は、プロダクトの作り方というものをまったくわかっていなかった」

――株式会社SmartHR代表取締役、宮田昇始氏は創業からの迷走期をそう振り返る。

「自分たちに何ができるか」を起点として2つのサービスを作り、いずれも失敗。次に「ユーザーのニーズ」に目を向け、いくつものアイデアを出したが、「自分たちがやる意味」を打ち出せるものが見つからない。しかし、自身の生活での実体験から社会課題を発見したとき、ようやくヒットプロダクト「SmartHR」が生まれたのだという。

SmartHRとは「クラウド人事労務ソフト」。雇用契約や入社手続きをペーパーレスで行い、従業員情報を自動で蓄積して一元管理する。年末調整の手続きやWeb給与明細の発行機能も備える。つまりは、「面倒な労務関連業務を楽にする」サービスだ。

利用企業は中小から大手まで2万社を超え、労務管理クラウドとしてシェアNo.1を誇る。

熊本県で生まれ育った宮田氏。中学・高校時代は私立の進学校に通い、寮生活を送っていた。寮の規則は厳しく、夜は早い時間に電源が落とされ、外出も当然禁止。そこで仲間たちと画策し、トイレの換気扇から電源を引っ張ってきてTVを観たり、カーテンをつなぎ合わせて雨どいをつたって抜け出したりしていたという。


宮田氏その頃から、古い規則や慣習に縛られるのがすごく嫌だったんですよね。そこを皆で工夫してハックするのが楽しかった。今も当社で掲げるキャッチフレーズは『社会の非合理を、ハックする』です

難病に苦しんで決意した「好きなことをして生きていく」

大学進学を機に上京。ITベンチャー、フリーランスなどを経て、医療系Webサイト開発会社でWebディレクターを務めていた27歳のとき、のちの起業につながる転機が訪れた。
「10万人に1人」と言われる難病「ハント症候群」を発症。三半規管に水ぼうそうができ、顔面まひ、聴覚障害、味覚障害などを引き起こす病だ。医師からは「完治の見込みは20%」と宣告された。


宮田氏自分の将来どうなっていくのか……って真剣に考えたとき、今の会社で働くよりも好きなことをやりたいと思った。この頃には、ずっとインターネット業界で食っていくという意志を固めていたので、『自分たちのWebサービスをつくろう』と。現・副社長兼CIOの内藤研介を誘って、2013年に立ち上げたのが株式会社KUFUです


社名の由来は、ジャパニーズヒップホップの先駆者Rhymesterの楽曲「K.U.F.U.」。メンバーから提案されたときはピンと来なかったが、歌詞の意味を知って納得した。


宮田氏K.U.F.U.とはそのまま『工夫』。持ってない奴が持っている奴に勝つための武器は工夫だ、という意味の歌詞なんです。下剋上感、スタートアップ感があっていいな、と思って。メルカリさんの社名が最初はコウゾウだったように、一見意味のなさそうな社名でも、サービスをヒットさせて社名を変えるのがかっこいいと思ってたんですよね(笑)


しかし、創業からしばらくは苦戦が続く。

まずは自分たちが得意とする領域から着手し、Webクリエイターと企業のマッチングサイトを立ち上げた。採用成立時の仲介手数料で稼ぐことを目論んだが、双方のニーズが合わずマッチングが成立しない。1年ほどで閉鎖を決めた

次に生み出したのは、法人向けクラウドサービスを比較できるクチコミサイト。滑り出しは順調に見えたが、3ヵ月ほどで成長が止まってしまう。何がだめなのか、わからなかった。

このタイミングで、スタートアップ育成を目的としたアクセラレータープログラム「Open Network Lab」に応募した。そこで受けた指摘により、宮田氏は自らの課題に気付く。


宮田氏『ユーザーのニーズに刺さっていないのではないか。ユーザーヒアリングから始めなさい』と言われて。そこで初めてユーザーの声を探り始めたら、ニーズがない、というか『あれば使ってみるけど、これで意思決定はしない』というものだったことがわかったんです。これまで自分たちは机上の空論だけでサービスをつくってたんだな、と思い知らされました

自分たちがやるからこそ意味があることって、何だ?

それからは「ユーザーニーズ」に目を向け、世の中の課題を探った。しかし、課題とソリューションを思いついても、仮説を立てて検証してみると「やはりだめだ」という結論に至るケースが続く。つくってみたものの、世に出すことなく終わったサービスは10個に及ぶ。


宮田氏中には『まぁまぁいけそう』というものもあったんです。でも、結果的にやらなかった。
当時、アイデアを思いつくと、メンターのような存在の方々に壁打ちをさせてもらっていたんですが『それ、あなたたちがやる意味は何?』と問われて答えられなかったからです


それでも、試行錯誤を繰り返すうちに、社会課題への嗅覚は鋭くなっていった。「誰か、何か困っていることはないか」――。そしてある日、宮田氏は一つの「可能性」を嗅ぎ付ける。

それは自宅でのこと。当時、妊娠9ヵ月だった妻が産休・育休の申請手続きをしていた。テーブルに広げられたたくさんの書類をのぞき込むと、いかにも複雑そうな内容。妻はそれらを一つひとつ手書きで記入している。

「社会保険の手続きって、どんな企業もやっている。かなり面倒な作業なのに、これを便利にするソリューションって聞いたことないな」。これは普遍的な課題だ、と感じた。

そして、宮田氏はこのジャンルに「自分がやる意味」を見出す。


宮田氏難病を患って2ヵ月間働けなかったとき、社会保険制度の一つである傷病手当金を受給した。このおかけで生活費を確保でき、リハビリに専念して完治できたんです。社会保険制度のありがたみを知っている自分が、このジャンルの課題を解決する――そんなストーリーは、今後の資金調達、広報、採用などにも活かせるのではないかと考えました


しかし、当時は収益源となる製品がなく、会社の残高も個人残高も10万円を切る寸前。開発を始めていいものか悩んだ。

そんな折、Open Network Labの「DemoDay」で優勝。開発資金を獲得する。

こうして、2015年11月、クラウド人事労務ソフトSmartHRの提供開始にこぎ着けた。その後、数々のスタートアップイベントで優勝を勝ち取ることになる。
こうしたイベントは、現・CTOである芹澤雅人氏との縁ももたらした。「TechCrunch Tokyo 2015」の会場を訪れ、「今日出ている会社で、一番ビビッときた会社に転職する」と決めていた芹澤氏が、「エンジニア募集中」という宮田氏の呼びかけに応えたのだ。

HRテックを盛り上げた後、HR以外への領域に挑戦したい

ローンチから3年にして、導入企業は2万社を超えた。この成長の裏側には、ローンチ後の「2つの決断」があったという。


宮田氏実はサービス出して半年後くらいに、ターゲットユーザーをがらっと変えたんです。当初は10人未満の企業を想定していたんですが、数十~数百名規模の企業からの引き合いが多かった。それに対応するため、根幹の仕組みをリプレイスしたんです。組織体制が固まっていない時期だったので大変でしたが、初期に対応しておけたのはよかったと思います。そして1年半くらい経つと
『1000名以上規模の顧客を狙っていくべきかどうか』という議論が持ち上がった。その規模になると全国に拠点があり、拠点ごとに社会保険制度の『事業者番号』が割り当てられている。これに対応するには大きなシステム改修が必要になるので迷いはあったんですが、メンバーの『攻めましょう』の声に後押しされ、決断しました。その2つの転機が、今につながっています


現在は、アップセルプロダクトの開発にも注力。『SmartHR Plus』としてプラットホーム化を目指す。


宮田氏昨年夏には雇用契約書締結のアプリを出しましたが、本体の初期の伸びよりも2倍ぐらい速いスピードで成長しています。ゆくゆくは当社の仕組みを外部に開放し、HR系のSaaSの会社さんがSmartHRに乗っかれるようにしていきたい。そうすれば、彼らは製品づくりに集中できて、SmartHRを利用している会社さんは製品を簡単に導入できる。そんなプラットホームを提供し、HRテック分野を活性化させたいですね。そしていずれはHR領域にとどまらず、テクノロジーを使って社会全体の非合理をハックしていきたいと思います

( 取材・構成:Daisuke Kikuchi / 執筆:青木典子 / 撮影:田中振一 / ディレクション:平泉佑真)

GIFの生存戦略ー次世代ビジュアル言語編:大野謙介「GIF文化史」連載〜第2弾〜

「GIF文化史」/ 大野謙介 – 全3回連載概要

大野謙介/GIFMAGAZINE(GIFの人)

1987年に誕生し、インターネットのビジュアルコンテンツを支えた1990年代。FLASHによりミームとしての役割が弱まった2000年代。そして2011年、スマホ&SNSの爆発的普及によってサクッと手軽に楽しめるGIFは 「1) 次世代ビジュアル言語」また「2) 芸術、エンタメコンテンツ」として復活します。ファイルフォーマットの次元を超え、新たなポップカルチャーに変化しつつある「GIF文化」についてデータや事例と共に全3回で考察をします。

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

第2回 1分要約

世界中のチャットやSNSでGIFが送り合われています。スタンプや絵文字と共に表意文字として世界中に送られるようになった理由を、1to1のコミュニケーションツールの歴史と共に考察します。

以下、GIFアニメーションを中心に述べますが簡略化のため「GIF」という言葉を用います。

第1回の振り返り

第1回では、本当に「GIF」が流行っているのかを定量的に見てみました。そしてGIFが復活した理由は2011年以降のスマホ&SNSの爆発的普及であり、その背景には各国にそれを支えるカルチャライズされたGIFプラットフォームの存在がありました。

GIFの2つの役割

GIFの役割は大きく2つあります。

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF

2) メディアコンテンツとしてのGIF

1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIF、これは人に送るからこそ楽しいというスタンプと同じ楽しみ方で、超短尺動画ならではの楽しみ方の1つです。

2) メディアコンテンツとしてのGIF、これは芸術や新たなエンタメコンテンツとして、作品を見て楽しむという超短尺動画の楽しみ方の1つです。

第2回は、1) のコミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて様々な事例やデータを元に見ていきましょう。

実際、世界では何人がコミュニケーションとしてGIFを送り合っているのか?

アメリカのGIPHYやTenor、中国の闪萌-weshine、インドのGIFSKEY、Googleなどが公表しているデータを元に算出すると、毎月約10億人がGIFを送り合っている可能性があります。

もちろん、複数ツールの利用による重複はあるかと思いますが。地球の人口が74億人、スマホ人口が約40億台とすると、世界のスマホを持つ4人に1人はGIFを送り合っていることになります。

しかしスタンプの台頭する日本においては、世界で10億人が送っているという実感が無いのが正直なところかなと思います。

世界の10億人がどのようなGIFを送っているのか?

実際にどのようなGIFを送っているのか、各プラットフォームが公表しているデータから見てみましょう。

◯アメリカで送られているGIFとは?

GIPHY(アメリカ)が公表しているデータによれば、2018年に最も閲覧されたGIFのベスト3は下記です。英語圏の芸能人やスラングを理解していないと送りづらいコンテンツです。日本の女子高生がこのGIFを送るようなイメージはありません。

GIPHY 2018年1位:Cardi B “Okurrrrr” by The Tonight Show Starring Jimmy Fallon

GIPHY 2018年2位:Colombia Futbol by Alkilados

GIPHY 2018年3位: Happy Party Gnome by Sherlock Gnomes, 268M Views

出典:GIPHY’s Top 25 GIFs of 2018

また、具体的な感情、挨拶で見てみると、例えば「Happy」は月間800万回、「Dance」は月間1290万回送られているそうです

送信回数が多く、好意的な会話で使われる「Happy」や「Dance」の場合、Amazonなどの大手企業もGIFを用意しています。広告色が強いと使いづらいですが、シーンにきちんと合っていて、コンテンツとして成立していれば送り合うことがあるでしょう。

Amazonの「Happy」GIF(GIPHYより)

Amazonの「Dance」GIF(GIPHYより)

◯インドで送られているGIFとは?

インドではどのようなGIFがコミュニケーションで送られているのか、事情を聞くためにインドのGIFプラットフォーム「GIFSKEY」の社長であるMahesh Gogineni(マヘシュ)さんにお話を聞きました。

右がGIFSKEY代表のマヘシュさん

第1回でも触れましたが、インドでは国内に多数の公用語が存在します。インドのGIFSKEYはヒンディー語やベンガル語などインドならではの9言語でGIFが探せるようになっています。

英語をメインの検索キーワードとしたGIPHYやTenorでは対応しきれないGIFを見つけることできます。また、宗教や独特なインド映画産業など、GIFSKEYは地元インドに好まれるGIFを提供しており、トップページの主要カテゴリには「Gods(神)」が存在しています。

マヘシュさんによると、インドで最も送られているのは「नमस्ते(ナマステ)」だそうです。ナマステは、おはよう、こんにちは、こんばんは、さよならといった、非常に沢山の意味を持つ単語なので、様々なシーンでナマステGIFが送られているのは想像ができます。

「ナマステ」GIF(GIFSKEYより)

また、マヘシュさんによると「Gods(神)」が重要なトップページのカテゴリとして存在している理由にはヒンドゥー教の習慣が関係しているそうです。

ヒンドゥー教では、月曜日は「シヴァ」、火曜日は「ハヌマーン」と曜日ごとに神様が決まっています。そのため、インドの方は曜日ごとの神様GIFをコミュニケーションで頻繁に送り合っているそうです。

「シヴァ神」GIF(GIFSKEYより)

◯日本で送られているGIFとは?

日本ではGIFMAGAZINEが、LINEのトークの「+」メニューの中からGIFを送れる機能「ジフマガ」を2019年2月に提供開始しました。日本のアニメ、映画、芸能事務所、クリエイターなどの公式GIFコンテンツがLINEの中で送れるようになっています。

第1回と繰り返しになりますが、アメリカのGIFではフェアユースという考えが比較的浸透しています。ディズニーを始め多くの大手コンテンツホルダーが自社の映像コンテンツをGIFにして世界中の人に送り合ってもらったり、二次創作を許容しています。アメリカも日本もコンテンツに対する愛や、クリエイターに対するリスペクトは非常に強い国だと思います。しかし、日本ではフェアユースという考えは浸透していません。

GIFMAGAZINEは、様々なクリエイターやアニメ、映画、芸能事務所の方々と共に、公式のGIFコンテンツを日本の方が楽しめるようにGIFを制作・配信しています。日本でGIFが日常的に送られるようになるのはこれからと言えそうです。

実際に日本では次の感情、あいさつのカテゴリのGIFが多く送信されています。

GIF送信カテゴリランキング(日本)

1位:OK

2位:うれしい

3位:ラブ(いいね)

4位:ダンス

5位:(笑)

© uwabami – GIFMAGAZINE

「Dance(ダンス)」のカテゴリは英語圏と共通しています。わたし自身が友人に「ダンス」のGIFカテゴリを送ってみて実感をしたことが1つあります。

同意したい時も、喜ぶ時も、「いいね」と伝えたい時も、会話を切りたいときも「ダンス」のGIFを送っておけば、テキストを送らなくても、ある程度どんな文脈でもポジティブな雰囲気で会話が成立してしまう点です。

時間や場所などの詳細情報をやり取りしたい場合は不向きですが、コミュニケーションをすること自体が目的になっている、信頼関係を確認することが目的になっている時のコミュニケーションにおいては「ダンス」は使いやすいのかもしれません。

ここまでアメリカ、インド、日本など国によって異なるGIFが送り合われていることを確認しました。

第1回では、GIFが、世界的に送り合われている理由として、2011年のスマホ&SNS、チャットの爆発的普及を挙げました。

それでは、いつまでGIFは送り合われるのでしょうか?

この連載を読まれている方はおそらくGIFになんらかしらの思い入れがある方だと思います。

ファイルフォーマットとしてのGIFは、Googleが開発を進めるWebPなどに取って代わる可能性はあるかもしれません。しかし超短尺のループ動画、体験としてのGIFが100年、1000年、愛くるしいインターネットのポップカルチャーとして存在し続けて欲しいと思っているのは、私だけでは無いと思います。

そこで、コミュニケーションにおいてGIFという表意文字がチャットアプリで送り合われるようになった理由をもう少し掘り下げてみながら、将来のGIFについて考察してみたいと思います。

そもそも、GIFという表意文字はどうしてスマホのチャットで送り合われるのか?

© HattoriGraphics – GIFMAGAZINE

人類は誕生以来、さまざまなツールを使ってコミュニケーションをしてきました。コミュニケーションをするデバイス次第で文字を送ったり音を送ったりと、送るコンテンツは大きく変わってしまいます。

ある時代では鳴声で味方にエサが良く取れる場所を伝え、ある時代では狼煙を上げて敵の襲来を伝えます。

馬に乗る時代では、手紙を届けて愛を伝え、車に乗る時代では、ブレーキランプを5回点滅させて愛を伝えることができます。

それではコミュニケーションに用いられたデバイスやツールの歴史の一部をみてみましょう。

・鳴声(発話)

・パピルス(紙)

・飛脚

・狼煙

・電話

・留守電

・LINE

コミュニケーションのツールが移り変わる理由は

音声、身振り手振り、狼煙など、そのツールの進化の歴史を調べていくと、次の3つの性質に変化が生じた時に、次のコミュニケーションのツールへ移り変わるのではないかと考えています。

1) 速さと距離

2) 保存(非同期コミュニケーションができる)

3) 伝達できる情報の量

1) 速さと距離の性質では、例えば鳴声よりも電話の方が地球の離れた場所でもコミュニケーションすることができます。

2) 保存の性質では、鳴声は受信者と時間を同期しなければ伝えることはできませんが、紙に文字を書くことで1時間後でも2時間後でも時間をずらして非同期的にコミュニケーションすることができます。

3) 伝達できる情報の量の性質では、紙に文字だけを書くと誤解が増えるから、絵文字やスタンプ、GIFなどで感情を付与して、単位時間あたりに受け取る情報量を増やしてコミュニケーションすることができます。

1) 速さと距離

2) 保存(非同期コミュニケーションができる)

3) 伝達できる情報の量

これらのいずれか1つの性質が著しく上回った時、または3つ全ての要素がわずかでも上回った時、次のツールに移りかわっていくのではないかと考えています。

もし仮に「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」という仮説が正しいとするのならば、未来のコミュニケーションツールを予測することができるかもしれません。

数年後のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?

「速さと距離」「保存」「伝達できる情報の量」の3つの性質を現在のスマホのコミュニケーションから著しく成長させるとどうなるでしょうか?

伝えたい人に一瞬で誤解なく伝えることができる。それはまるでテレパシーのようなコミュニケーションかもしれません。

いちいち視覚情報に変換して電気信号に変換し直すのではなく、BMI(ブレインマシーンインターフェース)のように脳に直接送り届けるとするならば、その時、GIFは「見るもの」というよりは、「送り合われるデータ」としての役割を担っているかもしれません。

テレパシーの1歩手前のコミュニケーションツールは?そこでGIFは送られるのか?

テレパシーのような体験が将来的な理想の1つとした時に、テレパシーに至る途中のコミュニケーションツールについて先ほど説明した3つの性質を元に考えてみます。

「1) 速さと距離」は地球上ではLINEを使って日本とブラジル間を一瞬で伝えることができます。なのでこれ以上の改善は今すぐは難しそうです。「2) 保存=非同期」は紙からサーバーに変わり半永久的な保存は十分できています。しかし、「3) 伝達できる情報の量」つまり相手に誤解なく文脈や感情を伝えるという点では改良の余地がまだまだあるかもしれません。

現在、LINEなどのチャットでは文字とスタンプなどの静止画像を中心にやり取りをしています。しかし、自分自身の感情をより豊かに、楽しく伝えていくには動画コンテンツの方がリッチそうだと感じます。

しかし10秒〜15秒の尺ほどになってしまうと、情報量は確かに増えるのですが、今度は伝えたい内容を理解するまでに「速さ」を大きく阻害してしまい文字や画像に勝ることはできません。

改めてコミュニケーションコンテンツを歴史を追って見ていくと、静止画でない動きのある「動画」のコンテンツが1to1のコミュニケーションにスムーズに入ることができたのは、ガラケーの「デコメール」や「動く絵文字」、LINEの「動くスタンプ」の体験が挙げられます。それは短編、ループ、クリックレス再生する映像体験です。まさにGIF動画が満たす体験です。

デコメールの例(デコっち★えもっち webサイトより)

人類が視覚(目)を利用する限りは、超短尺の動画をコミュニケーションコンテンツとして利用し続けるかもしれません。

まとめ

第2回は「GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編」と題して1) コミュニケーションコンテンツとしてのGIFについて触れました。世界各国で送られるGIFの違い、そしてコミュニケーションツールが移り変わる理由を 1) 速さと距離、2) 保存、3) 伝達できる情報の量の3つと仮設を立てました。また5G時代に向かい、より誤解なく情報量多く伝達するために「短尺、ループ、クリックレス再生」する体験をもつコンテンツが重要性が高まりました。

中国語、英語、日本語あらゆる言語を話す人が、たった一つの同じGIFを見ることで、「こんにちは」「好き」「具合悪い」という気持ちを伝えることができます。世界中のGIF作家やGIFプラットフォームによって新たな次世代のビジュアル言語が創られ、「ねこ」「楽しい」「素敵」といった名詞、形容詞、形容動詞にどのようなGIFがあてはまるかという壮大なGIFの辞書が創られていると言えそうです。

 

第3回は「GIFの生存戦略 – 芸術,エンタメコンテンツ編」です。2) メディアコンテンツとして、実際に芸術として評価されているGIFや政治、広告、エンタメに活用されるGIFについて、その理由を世界中の事例と共に考察してみましょう。Twitter(@sekai_seifuku)で感想やご意見いただけたら嬉しいです。DMもお待ちしています。ではまた次回お会いしましょう。

筆者

大野謙介 / GIFMAGAZINE 代表取締役社長 CEO

GIFの人。1989年、福島生まれ。2012年、横浜国立大学工学部卒。リクルート入社。2013年7月に「株式会社GIFMAGAZINE」を大学後輩の中坂雄平(CTO)と創業し、GIFプラットフォーム「GIFMAGAZINE」をリリース。世界中のチャットやSNSで頻繁に送り合われている「GIF」を通じて、絵文字やスタンプに続く「次世代ビジュアル言語の創造」を目指す。また「GIF」の芸術的側面とマスエンタメ側面(映画,アニメ)を両立した「新しいポップカルチャー」を創ることを目指している。Twitter(@sekai_seifuku)

 

第1回 “1度死んだGIFが復活した理由”
第2回 “GIFの生存戦略 – 次世代ビジュアル言語編”
第3回 “GIFの生存戦略 – 芸術、エンタメコンテンツ編”

(編集:Daisuke Kikuchi / TechCrunch Japan編集記者)

【FounderStory #3】法律の知識とITで「国境をなくす」友人の強制送還を経験したone visa岡村氏の挑戦

Founder Story #3
one visa
代表取締役CEO
岡村アルベルト
Albert Okamura

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はone visaで代表取締役CEOを務める岡村アルベルト氏だ。

岡村アルベルト
one visa 代表取締役CEO
  • 1991年 ペルーで生まれる。
  • 2010年 甲南大学マネジメント創造学部 入学。
  • 2014年 入国管理局で働き始める。
  • 2015年 one visaを設立。
  • 2017年 ビザ取得サービス「one visa」をリリース。
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

友人の強制送還を経験した少年時代

ある日突然、仲の良い友達と離れ離れになってしまったら、どれほど辛いだろうか。

one visa代表取締役CEOの岡村アルベルト氏の原体験は、少年時代に経験したそのような悲しい思い出だ。

岡村氏が2015年に設立したone visaは、2017年よりビザ申請・管理の法人向けウェブサービス「one visa」を提供している。

one visaでは「ワンクリック申請書類作成」「メンバー管理」「代理申請」の3つの機能により、外国籍社員のビザ申請、更新タイミングの管理、従業員からの問い合わせ対応までワンストップで対応。外国籍社員のビザ申請にかかる工数を大幅に削減できるほか、コストを業界平均の半額以下に抑えることを可能とする。

岡村氏は南米ペルー生まれで、ペルー人の母と日本人の父を持つ。

来日したのは8歳のとき。通っていた大阪の小学校には日本語を教える制度はなく、外国籍を持つ他の生徒たちと共に特別学級で学んだ。

当時、遠くに住んでいて、数ヶ月に一度だけ会えるのを楽しみにしている友人がいた。南米コミュニティを通じて知り合い、会えた時にはお泊まり会などをして、全力で遊んだ。


岡村氏僕たちは顔がよく似ていて、『まるでドッペルゲンガーだ』と話していた。それくらい仲が良く、よく遊んでいた


ところが、10歳のころ、異変は訪れた。ある日を境に、その友人家族がコミュニティの集まりに参加しなくなってしまったのだ。


岡村氏親からは、『もう来れなくなった』『ビザが許可されなかったみたいだ』と説明された。残念だったが、その時は知識もなく、あまり深く考えずにいた。だが、中学生になり、『あれは強制送還だったんだ』と気付き、ショックを覚えた


「課題を解決したい」という気持ちはすでにあったが、当時は唇を噛むことしかできなかった。

入国管理局での経験から得たone visaの構想

甲南大学マネジメント創造学部を卒業した後、入国管理局の窓口業務を委託されていた民間業者に就職。IT企業からも内定を貰っていたが、「強制送還された友達のこと」や「帰化した際に経験したこと」を思い出し、高額な初任給を蹴り、入管で働くこととなる。

現場の責任者に持てめられていたスキルは、4、5時間ほどの待ち時間をできるだけ短くすること。品川の東京入国管理局にて2万件以上の書類に対応した経験が、one visaの開発に繋がった。


岡村氏入国管理局しかり、公的機関に出す書類は自由度の高い編集ができない。法律や規定などの基づいて、フォーマットが決まっている。中でも入国管理局の書類は難しい部類だ。当時、混雑していた理由は、申請書類の分かりにくさにあった。数パーセントくらいの人しか、完璧なものを用意できなかった。それをわかりやすくするだけで、(申請者は)行列に並ばずに済むのにな、と思っていた

起業をしたいという気持ちは小学生のころからずっとあった。

ペルーでは旅行代理店を経営していた母親から、「自分の会社を持つために勉強しなさい」と常々言われていたからだ。

事業に関するビジョンはなかったが、「こんなオフィスを構えたい」、売り上げが空や宇宙を超えるように「会社名はスカイコスモスコーポレーション」、などと想像し、楽しんだ。

岡村氏が実際にone visaを設立したのは2015年のこと。当時の会社名はResidence。TechCrunch Japanで初めて紹介したのは2016年のIBM BlueHubのデモデイの時だ。その時の編集長、Ken Nishimuraが記事にしている。

翌年2017年の6月、one visaのオープンベータ版をリリースし、併せてプライマルキャピタルとSkyland Venturesを引受先とする、総額3600万円の第三者割当増資を発表した。

改正入管法の施行、one visaのこれから

2019年4月1日、改正入管法が施行され、外国籍人材の就業に関する制約が緩和。「特定技能」という新しい在留資格が制定された。

one visaでは、その特定技能ビザを活用した海外人材への学習機会提供からビザ取得、安住支援までをサポートする“海外人材の来日・安住支援サービス”を提供する。外国籍人材にとって必要なサポートを一気通貫で提供していくのが同社の狙いだ。

“海外人材来日・安住支援サービス”のスキームには「one visa work」、「one visa」、「one visa connect」の3つのサービスが存在する。one visa workでは日本語習得や採用、one visaではビザ取得、one visa connectでは生活・定着を支援する。

昨年9月には関西大学の監修のもと、カンボジアに「one visa Education Center」を設立。3ヵ月で特定技能ビザに必要なレベルの日本語能力検定試験N4レベルを取得できる日本語学習の機会を提供している。

また、セブン銀行ならびにクレディセゾンと協業することで、来日直後の銀行口座開設とクレジットカード発行を可能にし、富士ゼロックスシステムサービスとの協業により、外国籍人材がスムーズに役所への各種届出が行える環境を構築する。

そんなone visaが実現を目指すのは「国境のない世界」だ。

one visaでは国境を大きく分けて2つ定義している。


岡村氏1つは、国を跨いで移動する際にある障壁。日本人がアメリカに行く際にはスムーズに行ける。しかし、ペルーの人には面接などのプロセスがあり、様々な書類を書き、行けるか行けないかはわからないが、やっと申請することができる。国の与信に紐づいて、自分が行ける国、行きやすい国が変わってしまう

もう1つは、複雑なプロセスを乗り越えた後にやっと移住した国で、定住するために色々なハードルが存在する、という意味での国境。自分の国であれば、銀行口座やクレジットカードや家、仕事などへスムーズにアクセスできたのに、移住したことによって一気にハードルが上がってしまうこともある

one visaとしては、この2つの国境をなくしていき、フラットな世界を作っていきたい。法律の知識とITを活かし、極力フラットな世の中を作ろうとしている

<取材を終えて>

岡村氏はone visaが提供するような「外国籍人材を対象としたサービス」は日本人向けと比べると圧倒的に母数が少ないため、極めて包括的に一社で様々なソリューションを展開していく必要があると話していた。“海外人材来日・安住支援サービス”のスキームが今後、どのような広がりを見せるのか、目が離せない。(Daisuke Kikuchi)

( 取材・構成・執筆:Daisuke Kikuchi  / 撮影:田中振一 / ディレクション:平泉佑真 )