酵素ベースの独自技術でプラスチック汚染の終結を目指す豪Samsara Eco

世界中で使用されるプラスチックの量は、2040年までに倍増すると予想されている。そのほとんどが廃棄される際には埋立地に送られ、リサイクルされるのはわずか13%に過ぎない。CIEL(国際環境法センター)によると、プラスチックの生産と焼却は、2050年まで毎年2.8ギガトンの二酸化炭素を発生させる可能性があるという。

世界的なプラスチック汚染をなくすために、オーストラリアの環境技術スタートアップ企業であるSamsara Eco(サムサラ・エコ)は、プラスチック(ポリマー)を分解して、その分子構成要素(モノマー)に分解する酵素ベースの技術を開発した。この技術を活用すれば、再び(何度も)新品のプラスチックに作り直したり、より価値のある商品にアップサイクルすることが可能になるとSamsara Ecoの創業者でCEOのPaul Riley(ポール・ライリー)氏は語る。

Samsaraの技術によって、プラスチックはもはや化石燃料や植物(どちらも環境に大きな影響を与える)から作られる必要はなくなり、埋立地や海に行き着くこともなくなると、ライリー氏はいう。

「この研究の動機となったのは、環境、特に炭素排出とプラスチック廃棄物に関する懸念と、我々の酵素工学に対する愛着です。これを製造技術に適用することで、地球規模の問題を解決し、システムを変え、真の循環経済を生み出すことができます」と、ライリー氏はインタビューで語っている。

今回、600万ドル(約7億3000万円)の資金を調達したSamsaraは、2022年末に最初のリサイクル工場を建設し、2023年に本格的な生産を開始する予定だ。

同社の投資家には、Clean Energy Finance Corporation(クリーン・エナジー・ファイナンス・コーポレーション)や、シドニーに拠点を置くスーパーマーケット大手Woolworths(ウールワース)のベンチャーキャピタルファンドで以前から出資していたW23、そしてMain Sequence(メイン・シーケンス)が含まれる。

「このプロセスでプラスチック1トンをリサイクルするごとに、推定3トンの二酸化炭素排出量が削減されることになります」と、ライリー氏は語っている。

酵素を使ってプラスチックを分解する企業は他にも世界中にあるが、Samsaraは異なるプロセスと酵素を使っていると主張する。ライリー氏の説明によると、他のほとんどの酵素プロセスは12時間以上かかるのに対し、同社は1時間でプラスチックの完全な解重合を行うことができるという。

「現在のリサイクルの方法は、単純に非効率的で、私たちが現在直面しているプラスチック汚染の危機に対応するには不十分です」と、ライリー氏は声明で述べている。「新しいプラスチックを作るために化石燃料を採掘したり、実際にリサイクルされるのは9%だけという現在のリサイクル方法に頼るのではなく、私たちはすでに存在するプラスチックを、無限にリサイクルすることができるのです」。

他の代替リサイクルソリューションとは異なり、Samsaraのプロセスは室温で行われ、真にカーボンニュートラルで、持続可能な方法で運用されていると、ライリー氏は同社の声明で述べている。

ライリー氏がTechCrunchに語ったところによると、Samsaraはさらなる資金調達も視野に入れており、年間2万トンの廃棄プラスチックをリサイクルする最初の商業規模の生産を行うために、2022年後半にはオーストラリアや海外の投資家から約5000万ドル(約6億1000万円)の資金を調達することを目指しているという。

Samsaraの潜在的な顧客は、小売業者、FMCG(Fast-Moving Consumer、日用消費財)ブランド、リサイクル業者など、基本的にプラスチックに関わるすべての人であると、ライリー氏は述べている。

同社はWoolworthsグループと提携しており、Samsaraが最初にリサイクルする5000トンの再生プラスチックを、Woolworthsは自社ブランド商品のパッケージに使用すると約束し、2022年末までにその在庫を確保することを目指している。さらにSamsaraは、Tennis Australia(テニス・オーストラリア)とも提携し、全豪オープンで使用されたペットボトル5000本をリサイクルすることになっている。

2021年に設立されたこのスタートアップ企業は、科学者やエンジニア、そしてキャンベラにあるオーストラリア国立大学の研究者を中心に、13人のチームで構成されている。

「私たちの長期的なビジョンは、当社の技術力を拡張して、ポリエステルやナイロンでできた衣服のような他の石油由来のプラスチック製品を無限にリサイクルし、二度と化石燃料を使用して新しいプラスチックを作らないようにすることです」とライリー氏は語る。

画像クレジット:Samsara Eco

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

化学製品製造をコストを1桁削減する高速な酵素工学プラットフォームで変革するAllozymes

原材料を洗剤、化粧品、香料のような最終製品に変える複雑なプロセスの一端は、化学変換を促進する酵素に依存している。しかし、新規または開発中の薬剤や添加物に適した酵素を見つけるには、時間のかかる、ほとんどランダムなプロセスが必要となる。Allozymesは、業界に新たな基準を打ち立てる可能性の高い画期的な新システムでこのプロセスを変えようとしており、商用展開を見据えて500万ドル(約5億5000万円)のシード資金を調達した。

アミノ酸が鎖状に連結している酵素は、DNAにコードされている数多くの情報を含む「生命の構成要素」である。この大きく複雑な分子は、他の物質と結合して化学反応を促進する。例えば、細胞内の糖をより有用なエネルギーに変換する。

また、製造業の世界でも酵素発見のアプローチがなされている。大手企業は、安価な成分を取り込んでより有用なかたちに化学結合させるといった価値ある仕事をする酵素を特定し、単離している。自然界に豊富に存在しない特定の化学物質を大量に販売したり、必要とする企業は、おそらく、より多くの化学物質を作り出すのに役立つ酵素プロセスを有しているだろう。

しかし、すべてのものに対応する酵素があるわけではない。新薬や香料のような新しい分子をゼロから作り出そうとするとき、それらに反応したり、それらを生成したりする天然の酵素が存在すべき理由はない。アレルギー薬を細胞内で合成する動物は存在しないため、企業は必要なことを行う新しい酵素を見つけたり、生成したりする必要がある。問題は、酵素は一般に少なくとも100単位の長さがあり、その単位は20種類のアミノ酸から選ぶことができるという点にある。これは、最も単純な新規酵素を求めたとしても、数え切れないほど多くのバリエーションがあることを意味する。

既知の酵素を出発点として、直感的に有効であると思われるバリエーションを系統的に研究するという方法で、研究者は新しい有用な酵素を見つけるに至ってきた。しかし、そのプロセスは複雑で、完全に自動化されている場合でも時間を要する。最高レベルのロボット研究室を持っていても、1日に多くて数百程度である。

このことから、Allozymesが1日に最大1000万件のスクリーニングが可能だと主張するのを聞くと、その変革のレベルを想像できるだろう。

画像クレジット:Allozymes

Allozymesは2人のイラン人化学エンジニア、Peyman Salehian(ペイマン・サレヒアン)氏とAkbar Vahidi(アクバル・ヴァヒディ)氏によって設立された。サレヒアン氏はCEO、ヴァヒディ氏はCTOを務める。両氏はシンガポール国立大学(National University of Singapore、NUS)でPhD取得を目指す中で知り合った。商用製品に至るまでの3年間の研究は、特許を保有し同社に独占的にライセンスしているNUSでも行われた。

「この20年間、当技術の最高水準は変わっていません」とサレヒアン氏はいう。「大手の製薬会社と話をしてみると、製薬会社はこのための部署をたくさん有し、200万ドル(約2億2000万円)相当のロボットを抱えていながら、新しい酵素を手に入れるのに1年もの歳月がかかっているという現状があります」。

サレヒアン氏によると、Allozymesのプラットフォームはプロセスを数桁高速化し、コストを1桁削減するという。これらの推定が立証されれば、酵素の探索は効果的に矮小化し、数十億ドル(数千億円)もの投資やインフラは無効なものとなる。さらにお金をかけることで得られるメリットとはいかなるであろうか。

伝統的に、酵素は細胞にDNA鋳型を導入することを含む多段階プロセスを経て単離および選択される。細胞を培養して標的酵素を産生し、特定の増殖状態が達成されると、ロボットを用いた分析が行われる。有望な結果があれば、より多くのバリエーションでその道を進み、そうでなければ最初からやり直す。小さな培養皿を採集したり設置したりする作業を頻繁に行い、細胞が十分な量の素材を産生するのを待つ必要がある。

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ヴァヒディ氏の他、NUSの研究者たちが設計したプロセスは、ベンチトップデバイスに完全に組み込まれており、無駄をほとんど発生させない。このデバイスは、培養皿を使用する代わりに、必要な細胞、基質、その他の成分をマイクロ流体システム内の小さな液滴に入れる。反応はこの小さな液滴の中で起こり、この液滴を培養し、追跡する。そして最終的に、より大きなサンプルが必要とする時間の何分の1かで採取され、試験される。

ただしAllozymesはこのデバイスの販売は行っていない。それはサービスとしての酵素工学であり、今のところパートナーや顧客はそのことに満足しているようだ。主なサービスは、プロジェクトのニーズに応じてサイズを調整できることにある。例えば、ある企業はすでに有効な酵素を保有しており、合成が容易であるか、特定の高価な添加物に依存しない変異体を望んでいるかもしれない。出発点はしっかりしていて、目標には柔軟性があり、小規模なプロジェクトになる可能性もある。また別の企業は、製造過程におけるハードな化学プロセスを完全に置き換えたいと考えており、そのプロセスの始点と終点を把握している一方で、ギャップを埋めるための酵素を必要としているかもしれない。より広範囲で費用のかかるプロジェクトになることも想定される。

左からペイマン・サレヒアン氏、アクバル・ヴァヒディ氏

目標は酵素工学を「民主化」することではない、とヴァヒディ氏は説明する。酵素工学は依然として、主に大企業が行うことになるような高価かつ大規模なものであるが、今や投入した研究開発費から10万倍に相当する成果をもたらし得る。Allozymesが提供するスピードと価値は競合他社よりも優れているとサレヒアン氏は語る。Codexis、Arzeda、Ginkgo Bioworksなども酵素バイオエンジニアリングを手がけているが、速度は劣り、優先順位も異なるという。

同社は、時には知的財産や製品の所有権を一部取得する契約を結ぶこともあるが、それは真のビジネスモデルではないとサレヒアン氏は語っている。初期の段階では実際に最終化合物を作ることもあったが、最終的にはコア製品はサービスであると目されている。(とはいえ、100万ドル[約1億円]の注文は侮れない)。

仕事をする過程で、Allozymesが何億もの酵素を選別する可能性もある、と思われたかもしれない。ご安心を、同社はそれらがもたらす価値を十分に認識している。このサービスは、必然的なデータ処理にシームレスに移行する。

「『このアミノ酸を変えれば、この機能が実現する』ということを示すビッグデータセットがあれば、工学的に解析する必要もなく、それを(検討事項から)排除できます。十分な情報を持ち合わせていれば、酵素を設計することさえ可能です」とサレヒアン氏はいう。

今回の500万ドルのシードラウンドは、Xora Innovation(シンガポールのソブリン・ファンドTemasekによる)が主導し、SOSVのHAX、Entrepreneur First、TI Platform Managementが参加した。サレヒアン氏によると、同社は米国のベンチャー企業の関心を受けて米国での法人化を計画したが、Temasekのアーリーステージの投資家が同社にそれをとどまるよう説得したという。

「バイオトランスフォーメーションは、世界のこちら側で大きな需要があるということです」とサレヒアン氏。「化学、農業、食品企業はこれを行う必要がありますが、そのためのサービスを提供できるプラットフォーム企業は存在しません。そこで、私たちはそのギャップを埋めることに取り組んだのです」。

画像クレジット:Allozymes

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)