Fortniteを削除されたEpic Gamesが反アップルキャンペーンを全力展開、提訴も準備

Epic Gamesは全力でアップルとApp Store のガイドラインに反対するキャンペーンを開始した。

米国時間8月13日の朝、Epic GamesはFortnite(フォートナイト)のサーバー側のソフトをアップデートして新しい支払い方法を導入した。これによりプレイヤーはApp Storeを経由することなくEpic Gamesから直接ゲーム内通貨でFortniteのバーチャルグッズを購入できるようになった。新しいゲーム内課金システムはAppleに手数料を支払う必要がない。このためアップルは直ちにApp Store から Fortniteを削除した。

アップルはすぐに以下の声明を発表した。

Epic Gamesがアプリに導入した機能は、アップルの審査ないし承認を受けておらず、かつApp Store利用上のガイドラインに違反するという明確な認識があったものと認められる。このガイドラインはApp Storeでデジタルグッズないしサービスを販売するすべてのデベロッパーが遵守している。

しかしEpic GamesはFortniteがApp Storeから追放されることを十分予期していた。

Epicはすぐに「アップルは市場における優越的な地位を不当に利用している」として、アップルに対して法的措置をとる(PDF文書)ことを発表した。同社は声明で「アップルによるFortniteの削除は他者に対して不合理な拘束を加えるために同社が巨大な市場支配力を利用した新たな例だ。アップルはiOSアプリにおけるアプリ内課金において100%独占しており、不当な手段でこの状態の維持を図っている」とした。

さらにそのあとすぐ、Epic GamesはFortnite内フォーラム「Fortnite Party Royale」に短いビデオを発表した。これは アップルがIBMの独占を打ち破ろうとして公開した有名なCM「1984」をモチーフにしたものだ。ビデオの最後には「Epic GamesはApp Storeの独占に挑戦した。アップルは報復として10億ものデバイスにインストールされている FortniteをApp Storeから排除した。2020年が「1984年」になるのをストップさせる戦いに参加しよう。#FreeFortnite」というテロップが流れる。

独占を理由にアップルを訴えることは、たとえ特定の目的に絞った訴訟であっても、難しい戦いになる。アップルのCEOであるティム・クック氏はすでに下院司法委員会で証言している。このとき議会でアップルに対し反トラスト法を根拠とした措置を取ろうとする動きはなかったことを考えれば、なおさらだ。しかし法廷闘争が困難であっても、Epic Gamesは3億5000万人のFortniteユーザーに絶大な影響力を持っている。反企業キャンペーン、特にその分野のトップ企業を攻撃するキャンペーンに動員するためにゲーマーはまさに理想的なターゲットだ。

実はこのドラマは、アップルがクラウドゲームストリーミングアプリ「Microsoft xCloud」のApp Storeへの登録を拒否し、非難を集めた数日後に起きている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

アップルのクックCEOが他社のスクリーンタイムアプリを排除した理由を米独禁公聴会で弁明

昨年Apple(アップル)は、iOS 12の公開(未訳記事)に合わせて、初の自社製スクリーンタイム監視機能をリリースした。その直後、サードパーティー製のスクリーンタイム監視アプリとペアレンタルコントロールアプリをApp Storeから大量に排除した。米国時間7月29日に開催された米連邦議会による独占禁止法公聴会で同社のCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏は、競争の制限が疑われるとしてその判断について問われた。

アップルが自社開発した一連のスクリーンタイム機能が発表されて間もなく、複数のサードパーティーのアプリ開発業者は、スクリーンタイム監視アプリをApp Storeで販売するための審査が突然厳しくなったことに気がついた。更新が認められなかったり、アプリ自体がApp Storeから削除される例も少なくなかった。この影響を受けたのは、公式な方法が存在しないため、いろいろな工夫をしてスクリーンタイムの監視を行ってきた開発業者だ。そこでは、バックグラウンドでの位置情報、VPN、MDM(モバイルデバイス管理)を利用したソリューションが用いられていた。これらを複数組み合わせたものもあった。

当時アップルは削除したアプリについて「デバイスの位置情報、アプリの利用状況、電子メールアカウント、カメラの使用権限などにアクセスする必要があり、ユーザーのプライバシーとセキュリティーを危険にさらす恐れがあった」と弁明していた。

だが米議会議員たちは、その多くのアプリが何年も前から市場に存在していたにも関わらず、なぜ突然、ユーザーのプライバシーに気を配るかのように見える態度に出たのかを同社に尋ねた。

ジョージア州選出で民主党のLucy McBath(ルーシー・マックバス)下院議員は質問の冒頭で、ある母親がアプリの削除を残念に思う気持ちをアップルに伝えた電子メールの一文を読み上げた。それには、同社の処置で「子どもたちの安全を守り、精神的な健康を保つために極めて重要なサービスの利用が制限される」と書かれていた。そしてマックバス議員はアップルに対して、独自のスクリーンタイム監視ソリューションをリリースした途端にライバルのアプリを削除した理由を尋ねた。

クック氏は「アップルは『子供のプライバシーとセキュリティー』を重視しており、それらのアプリに使われていた技術には問題があった」と昨年とほぼ同じ答弁を繰り返した。

「その当時使われていた技術はMDMと呼ばれるもので、子供が見ている画面を乗っ取り、第三者が覗くことができる。そのため、子供の安全に心を痛めていました」とクック氏は話す。

MDMを、ユーザーに知られずに遠隔操作ができる機能だと説明するのは、MDMの仕組みを正確に表現しているとは言えない。実際、MDM技術はモバイルエコシステムで合法的に使われており、今も変わらず利用されている。ただし、これは業務用として開発されたもので、一般消費者のスマートフォンではなく、例えば会社の従業員のデバイスを一括管理するといった用途に用いられる。MDMツールは、企業が従業員のデバイスの安全を守るための対策のひとつとして、デバイスの位置情報、アプリ使用の制限、電子メール、数々の認可にアクセスできるようになっている。

子供のデバイスの管理やロックを行いたい保護者にもこれが応用できると考えるのは、ある意味理解できる。一般向けの技術ではないのだが、アプリ開発者は市場の空白を見つけ、そこを自由に手に入るツールで埋める方法を編み出す。市場はそのようにして回るものだ。

アップルの主張は間違ってはいない。問題のアプリのMDMの使い方にはプライバシー上のリスクがあった。しかし、それらのアプリを完全に閉め出してしまうのではなく、代替策を提案してやるべきだったのではないか。つまり、ライバルをただ追放して済ませるのではなく、純正のiOSスクリーンタイム管理ソリューションのための開発者向けAPIを消費者向け製品とは別に準備すべきだった。

そんなAPIがあれば、アプリ開発者はアップルの純正スクリーンタイム管理とペアレンタルコントロールの機能を借りてアプリを製作できる。同社は、彼らのビジネスに引導を渡すのではなく、期限を区切って作り直させるべきだったのだ。そうすれば、開発者もその利用者も傷つけることはなかった。そうすることでサードパーティーのアプリで心配されるプライバシー問題にも対処できたに違いない。

「削除は、まったく同じタイミングだったように思えます」とマックバス議員は指摘した。「もしアップルが自社製アプリを売り込むためにライバルを傷つけようとしたのではないと言うならば、App Storeを運営するPhil Schiller(フィル・シラー)氏は、なぜライバルのペアレンタルコントロールアプリの削除を嘆くユーザーにスクリーンタイムアプリを勧めたのですか?」と同議員は質問した。

クック氏は、現在App Storeには30種類のスクリーンタイム管理アプリがあり「ペアレンタルコントロールの活気ある競争が展開されている」と答えた。しかしマックバス議員は、6カ月後には、プライバシー上の目立った変更もないままApp Storeに復活したアプリもあると指摘している。なお2019年6月、MDMアプリに関するアップルの新しい規約(アップル開発者サイト資料)が発効されている。

「6カ月とは、倒産に瀕した中小企業にとっては永遠とも言える時間です。その間に、ライバルの大企業に顧客を奪われていたとすれば、なおさら事態は深刻です」とマックバス議員は言う。

しかしマックバス議員の質問が、アップルのiBooksの外で独自のアプリを使って電子書籍を販売しようとしたRandom House(ランダムハウス)の方法を拒否した問題に移ってしまったため、クック氏にはスクリーンタイム管理アプリに関する質問へのそれ以上の弁明の時間は与えられなかった。

クック氏はRandom Houseの質問を、技術的な問題の可能性があると指摘しつつ、「アプリがApp Storeの審査を1回で通過できない理由はたくさんある」とかわした。

米下院公聴会
画像クレジット:Graeme Jennings-Pool / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

新型コロナの影響で米国のApp Storeダウンロード数が中国超え、ビジネスアプリは133.3%成長

米国のApp Storeのダウンロード数が中国のダウンロード数を2014年以来初めて上回った。米国時間7月16日に公開されたSensor Towerの2020年Q2レポートによると、同四半期の米国App Storeのダウンロード数が前年比27.4%増だったのに対し、中国のApp Storeの成長率は2.1%だった。四半期中に米国では22.2億回の新規インストールがあり、中国では20.6億回だった。

変化に影響を与えたのは、中国と米国両方を襲った新型コロナウイルスのパンデミックだ。「米国が中国のダウンロードを超えたのは4月に始まり、6月までずっと続いた」と同社は伝えている。

第2四半期の中国は、新型コロナのためにダウンロードが異常に多かった3月と4月から減少した。そしてダウンロード数が平常に戻りつつある中、パンデミックが少し遅れて米国にやってきた。

この結果米国ではダウンロードが急増した。人口の大部分が突然在宅勤務を強いられ、家で授業を受け、エンターテイメントもアプリやゲームやストリーミングサービスを家で楽しんだからだ。

Sensor TowerがTechCrunchに伝えたところによると、米国で特に伸びが著しかったのがビジネスと教育のアプリだった。2つのカテゴリーは米国が中国を追い越す最大要因だった。Q2にビジネスアプリは133.3%成長し、教育(84.4%)と健康・フィットネス(57.7%)、ニュース(44.9%)、ソーシャルネットワーク(42.4%)が続いた。

ビデオ会議アプリのZoomにとっては大ブレイクの四半期で、9400万近いダウンロード数はApp Storeの四半期インストール数の新記録でもあった。それまでの最高はTikTokで、2020年Q1に6700万ダウンロードを記録した。「それ以外の非ゲームアプリで1四半期に5000万インストールを達成したものはない」とSensor Towerは伝えた。

TikTokのQ2も好調で、App Storeのダウンロード数は7100万回近くで前年比154%だった。同アプリの2大ダウンロード市場は米国と中国で、中国では Douyin(抖音)と呼ばれている。

モバイルゲームも米国では大ヒット。その原因は、政府による都市封鎖のために人々が家にいたためだった。App Storeのダウンロード数で上位のモバイルゲームは、Save The Girl、Roblox、Go Knots 3D、Coin Master、Tangle Master 3D、Fishdom、ASMR Slicing、Call of Duty: Mobileなど。

この中ではRoboxが華々しい四半期を過ごした。学校とも友達とも切り離されて家にいる子供たちがオンラインゲームに走った結果だ。Robloxのゲームアプリは2020年Q1に米国内で11位だったが、Q2には2位に躍進し、四半期中に新記録となる860万回ダウンロードされた。

Rollic Gamesは、Go Knots 3DとTangle Master 3Dという2つのヒット作品が、それぞれApp Storeで500万回以上ダウンロードされた。同社のRepair Master 3Dも20位に入った。

ZoomとRollic Gamesの2社は、トップメーカーとしてQ2に初めてApp Storeでトップ10入りした、とレポートに書かれている。

米国は中国を数年ぶりに四半期で上回ったが、残るトップ5は日本、英国、ロシアで変わらず、対前年比では成長した。新規ダウンロードの急増に関連して、米国は消費者がApp Storeで消費した金額でも、2018年Q4以来初めて中国を上回った。前回の差はわずか1.6%(約5300万ドル)だったが、2020年Q2に米国は中国を14%、約7.17億ドル上回った。

新型コロナ禍の中、米国は対前四半期の消費金額も大きく伸ばし、Q1とQ2の間で20%成長した。一方中国は、ウイルスの影響が最も大きかった2020年Q1のApp Storeの消費金額は2019年Q4と比べて5%増にとどまった。

画像クレジット:Sensor Tower

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

7月第1週に2500本超のiOS用ゲームが中国App Storeから削除される

7月の第1週に2500本超のモバイルゲームが中国のApp Store(アップストア)から削除された。アプリストア調査会社であるSensor Towerの最新レポートで明らかになった。ライセンスのないゲームに対する計画通りの取り締まりで削除は予想されていた。しかしこれはアプリ経済への影響を示すデータとしては初めてのものとなる。

比較材料として、7月に削除されたアプリの数は4月第1週の4倍、5月第1週の5倍、6月第1週の4倍超だ。アプリ削除は、中国のゲーミング規則へのApple(アップル)の新たなコンプライアンスと関係がある。

今年初め、アップルはアプリのデベロッパーに6月30日までにモバイルゲームに関する中国の法律に則るよう案内した。2016年に施行されたこの法律では、有料ゲームとアプリ内課金のゲームを提供しているゲームデベロッパーに、中国の検閲団体の1つ、広報出版総局からライセンスを取得することを義務付けている。

何年もの間、iPhoneゲームデベロッパーは、ゲームをリリースした後にライセンス承認を待つことで法律を回避してきた。ライセンス承認は時間がかかる退屈なプロセスで、2018年にあったように審査作業の一時停止があれば数カ月以上もかかる。中国当局がポルノやギャンブル、暴力、その他の政府が不適切とみなすコンテンツを含んでいるゲームをさらに取り締まるために業務を見直した時、ライセンス発行が9カ月間止まった。

メジャーなAndroidアプリストアはすでに2016年ルールを適用していたが、アップルでは抜け道があり、モバイルゲーム業界は中国のiPhoneプラットフォームで何年も生き延びていた。

画像クレジット:Sensor Tower

アップルの対応から、App Storeで何千ものゲーム削除が7月に始まることが予想されていた(Engadget記事)。Sensor Towerのデータはそのときがきたことを示している。しかしSensor Towerのデータは、サブカテゴリーチャートを含むApp Storeのチャートにランクインするほどダウンロードが多かったゲームのみをとらえている。

削除された2500本あまりのゲームのうち、2000本のゲーム(80%)は2012年以来のダウンロードが1万回以下だったとSensor Towerは推定している。それらのゲーム合わせて計1億3340万回のダウンロードがあった。削除されたゲームの総売上高は合計で3470万ドル(約37億円)で、うち1つのゲームが1000万ドル(約11億円)超、そして100万ドル(約1億1000万円)超を売り上げたゲームは6つあった。

削除されたゲームの中で有名なものには、GluのContract Killer Zombies 2、ZyngaのSolitaire、Crazy LabsのASMR Slicing、FlaregamesのNonstop Chuck Norrisがある。直近では、SupercellのHay Dayも削除された。

ゲームマーケットへの変更、そしてアプリ経済への新型コロナウイルスの影響により、第2四半期におけるiOS消費者の消費額においては米国が再びトップとなっている。App Annieによると、第2四半期の米国iOS消費者の消費額は前年同期比30%増だった。

中国は世界で最も儲かるモバイルゲームマーケットだっただけに「ゲーム削除による長期的な影響がアップルの収支に表れるかもしれない」とSensor Towerは指摘した。2019年に中国のApp Storeのゲームは推定126億ドル(約1超3500億円)を売り上げた。これはアップルのマーケットプレイスでの昨年のグローバルゲーム支出の33.2%を占めるという。

画像クレジット: Sensor Tower

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(翻訳:Mizoguchi

Apple上級副社長へインタビュー: 「HEYアプリへの対応もApp Storeのルールも変える予定はない」

TechCrunchは米国時間6月18日、Basecamp(ベースキャンプ)がiOS App Storeで販売しているHEY Emailアプリの件について、Apple(アップル)のPhil Shiller(フィル・シラー)上級副社長に電話取材を行った。取材の中でシラー氏は「問題のアプリが今のままApp Storeで販売を続けることを可能にするようなルール変更を行う予定はない」と語った。

「現時点で、App Storeに関して変更を検討しているルールはない。App Storeの現行ルールの範囲内でこのアプリを機能させるために開発者にできることはたくさんある。それをぜひ行っていただきたい」とシラー氏は言う。

HEY Emailアプリに対するAppleの対応に世界中が注目している。HEY Emailアプリの完全版の利用料金をアプリ内課金ではなくHEY(ヘイ)のウェブサイト経由で支払うようにしたことを理由に、App Store審査の初期承認をすでに受けていた同アプリのアップデートがApp Storeによって繰り返し拒否されていたことを、2人の創業者David Heinemeier Hansson(デヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏とJason Fried(ジェイソン・フリード)氏を含むベースキャンプの開発者たちがツイートしたためだ。

HEY Emailアプリは現在、App Storeからダウンロードするだけでは使うことができない。ヘイのウェブサイトでサブスクリプション料金を支払ってはじめて使えるようになる。

「ユーザーがアプリをダウンロードしただけではそのアプリが機能しないのは、われわれの望むことではない」とシラー氏は語り、アプリ外にあるのと同じ決済機能をアプリ内でも利用できるようにすることをApp Store登録の条件にしているのはそのためだ、と説明した。

誤解のないように言うと、HEY EmailはApp Storeに登録されている大半のアプリに課されているルールに違反している。このルールの例外は、音楽、書籍、映画など特定の外部コンテンツを表示するための「リーダー」と呼ばれるアプリと、エンドユーザーではなく組織や企業を対象とする一括購入料金オプションのみを提供しているアプリだけである。

シラー氏はTechCrunchの電話取材に対し、HEY Emailはそのような例外アプリではない、とはっきり答えた。

Nextflixをはじめとする「リーダー」タイプのアプリについてシラー氏は「例外アプリとしての扱いはすべてのソフトウェアを対象としたものではない」と語り、「メールアプリが例外として認められることはなく、これまでも認められた前例はない」と説明する。

実は、HEY EmailのMac用アプリは、現在iOS用アプリがApp Storeで警告されているのと同じ理由ですでに拒否されている。iOS用アプリのオリジナルバージョンは誤って承認されただけであり、そもそもApp Storeに公開すべきではなかった、とシラー氏は言う。

そうなると問題は、現行のApp Storeルールを専門的に分析すればHEY EmailがApp Storeから削除されずに済む方法が見つかるのか、ということではなく、そもそもアップルの対応が妥当なのかどうか、という点になる。

私はシラー氏に、アップルは、App Storeにアプリを公開しているすべての企業から、その企業がiOSファーストであるかどうかにかかわらず、収益の一部を受け取る権利があると考えているのか、と質問してみた。

「そう質問したくなる気持ちはわかるが、われわれはそのように考えているわけではない」とシラー氏は答えた。

現行ルールの範囲内でApp Storeでの公開を継続させるためにベースキャンプが導入できたであろう決済方法はいくつもある、とシラー氏は語り、実際に「アプリ内とウェブサイトで異なる料金を課金する」、「追加機能付きの無料版を提供する」などの方法を例として挙げてみせた。

とはいえ、ユーザーに課金するデジタルサービスを開発するのであれば、アプリのユーザー体験向上と決済システムの安全確保のために、アプリ内課金の仕組みとアップルの決済システムを使ってほしいと考えている、とシラー氏は語る。

シラー氏によると、HEY Emailは1つの方法として、まずは基本的なメール閲覧機能を持つアプリの無料版または有料版をApp Storeに公開した後で、そのiOS用HEY Emailアプリを使って利用できるアップグレードされたメールサービスをiOSまたはHEYのウェブサイトで提供することができたはずだという。さらに別の方法として、すべてのフィードを読み込むことも別サイトで課金できる有料フィードを読み込むこともできるRSSアプリを使う手もあった、とシラー氏は語る。いずれの場合でもApp Storeからダウンロードした時点ですぐに使えるアプリができたはずだ。

多くのユーザーにとってよりなじみ深い別の方法は、やはりアプリ内課金によって有料版にアップグレードできる無料版アプリである。

もちろん、残念なことに現行ルールの下では、ヘイはアプリ内で何らかのアップグレードサービスを宣伝することも、それに言及することさえもできないため、そのようなサービスはアプリ外のチャンネルで売り込むしか方法はない。

現在繰り広げられているこの議論についてTechCrunchのSarah Perez(サラ・ペレツ)が記事にまとめてTechCrunchウェブサイトに投稿したので、最新の情報を確認するためにぜひご一読いただきたい。そして、米国時間6月18日、Facebook(フェイスブック)のゲームアプリがルール違反を理由にApp Storeの公開承認を5回も拒否されていたことをThe New York Times(ニューヨーク・タイムズ)が報じた。こうしたニュースはすべて、アップルの開発者向けイベント「WWDC」が開催直前であるうえに独占禁止法違反の疑いでEU(欧州連合)がアップルの捜査を始めるのも目前という、まさに最悪のタイミングで飛び込んできた。

普段からアップルに関する記事を書く機会が非常に多く、App Storeに関するルールの個人的解釈のせいでアプリがアップルから拒否されるのではないかと舞台裏でいつも心配する開発者の姿をこれまで頻繁に目撃してきた者として、私はこの問題について自分なりに真剣に考えてきた。

個人的に、今回の件は、突き詰めるといくつかの明快な事実で成り立っていると思う。HEY EmailがApp Storeのルールに違反しているのは事実だ。つまり、問題は「HEYによる違反を正当化するためにはどのようにルールを歪曲あるいは拡大解釈すればよいか」ということではなく、「そもそもそのようなルールは存在すべきなのか」ということである。

アップルがこのような状況であえて地雷を踏むような対応をしているのは、自分たちは正しく公平なことを行っているという認識がアップル社内にあるからだと思う。App Storeというプラットフォームを作ったのはアップルなのだから、デジタル領域にも現実世界にも多大な経済的利益をもたらしているそのプラットフォームの収益を受け取る権利がアップルにはある。さらに、アップルが決済プラットフォームを管理することがセキュリティおよびプライバシー保護の観点から有益であることは疑う余地がない。

「でも確かにアップルは世間の反応を見て対応を変えている」と反応する人は、スケールの力を過小評価していると思う。アップルは毎週10万件ものアプリを承認しており、承認が拒否される理由のほとんどは簡単に修正可能な問題によるものだ。大海原に白く砕ける波がちらほら見えると、どうしても海より波の方に目が行ってしまう。それと同じように、メディアも承認が拒否されたアプリにばかり注目する。アップルが持つスケールの大きさが世間の見方を組織とそれをリードする人々に都合のよい方向に曲げてしまうことがしばしばある。

だが私はこの件について以下のように感じており、そこには世間一般で見落とされがちな点が含まれているように思う。

  1. App Storeに対する嫌悪感や苛立ちを自分の中に鬱積させる人が増えている気がする(私の情報筋のみならず他の記者の情報筋もこれが事実であることを裏付けている)。人々がその感情を表に出さない理由は、そうする度胸がないことと、App Storeには存続してもらう必要があるためだ。
  2. 誰に批判されるかによって反応が大きく異なる場合がある。ハンソン氏は声高に不満を叫ぶ面倒な人物かもしれないし、あんな意見の伝え方では言われた方も聞く気が失せるだろう。しかし、変化と自省のきっかけになるのは、何も友人や仲間からの言葉だけではない。そして、怒りに燃えて不親切に見える人から発せられた助言を当てはめて変化するのは、2倍辛い。しかし、そのような人の意見こそが正しい場合もある。

青臭いことを言っていると思われるかもしれないが、アップルはその偽りのない誠実な価値観を、大企業として他に類のない真に独特な方法でビジネスにおいて実践していると私は感じている。この意見に同意できない人がいくらかというよりも大勢いることはわかっている。しかしこれは、長年にわたってアップルへの取材を重ねる中で数えきれないほどの役員やあらゆる部署・役職の社員と公私にわたって実際に会って話してきた私が目撃してきたことである。John Gruber(ジョン・グルーバー)氏が書いているように、「われわれは正しいことをしている」という論点を「何が正しいことなのか」という論点にすり替える無駄な努力に意味があるとは思えない。

この電話取材の直前に、TechCrunchはアップルから1通のレターを受け取った。アップルがフリード氏とヘイに宛てて書いたレターと同じものだ。

このレターでは、ヘイがApp Storeの現行ポリシーに違反しているというアップルの主張が繰り返されていた。以下はその抜粋だ。

「iOS用Appを開発してくださり感謝いたします。App審査委員会は、ベースキャンプがこれまで長年にわたり数々のAppとその後継バージョンを開発してApp Storeで提供してくださり、そしてApp StoreがそうしたAppを幾百万ものiOSユーザーに配布してきたことを理解しています。これらのAppではApp内課金の機能が提供されていません。結果として、過去8年間にわたりApp Storeには何の収益ももたらされませんでした。現行の『App Store Reviewガイドライン』とすべての開発者に順守が義務付けられている条件を貴社が順守してくださる限り、App審査委員会は今後も貴社のAppビジネスを支援させていただきたいと考えており、貴社のサービスを無料で提供するためのソリューションを提案させていただく所存です。

この文面からわかるとおり、今のところアップルの姿勢が変わる気配はない。

以下がこのレターの全文である:

ジェイソン・フリード様

貴社のAppであるHEY Emailに関する申し立ての審査結果についてご報告いたします。

App Review Board(App審査委員会)は、貴社のAppについて審査を行った結果、先日の承認拒否は有効であると判断いたしました。貴社のAppは、下記に詳述するApp Store Reviewガイドラインに抵触しています。お気づきのとおり、HEY Emailが2020年6月11日にMac App Storeに提出された際に拒否されたのも同じ理由によるものです。

HEY EmailはApp Storeにおいてメール用Appとして提供されていますが、ユーザーが同Appをダウンロードしても使うことができません。ユーザーは、ベースキャンプのHEY Email用ウェブサイトでHEY Emailの使用ライセンスを購入するまでは、同Appを使うことができません。これは、App Store Reviewガイドラインに記載されている以下の条項に違反します。

ガイドライン 3.1.1 – ビジネス – 支払い – App内課金

Appのコンテンツまたは機能をリリースするには、App内課金を使用していただく必要があります。貴社のAppでは、ユーザーはコンテンツ、サブスクリプション、機能をアプリ外で購入することが必要ですが、そうしたアイテムをApp Store Reviewガイドラインに従ってApp内でApp内課金を使用して購入できるようになっていません。

ガイドライン 3.1. 3(a) – ビジネス – 支払い – 「リーダー」App

リーダーAppは、ユーザーがApp外ですでに購入したコンテンツやコンテンツのサブスクリプションにApp内からアクセスできるようにするものです。貴社のメール用Appは「リーダー」Appに関するこのガイドラインの下で許可されているコンテンツタイプ(具体的には、雑誌、新聞、書籍、オーディオ、音楽、動画、プロ向けデータベースへのアクセス、VoIP、クラウドストレージ、授業管理Appなどの承認済みサービス)には該当しません。そのため、貴社のApp内でApp内課金を使用してコンテンツまたは機能へのアクセスを購入するオプションをユーザーに提供する必要があります。

ガイドライン 3.1. 3(b) – ビジネス – 支払い – マルチプラットフォームサービス

複数のプラットフォームで動作するAppでは、ユーザーは別のプラットフォーム上または開発者のWebサイトで入手したコンテンツ、サブスクリプション、機能にアクセスできます。ただし、そうしたアイテムをApp内のApp内課金アイテムとしても購入できるようにする必要があります。貴社のHEY Email Appでは、コンテンツ、サブスクリプション、機能がApp内のApp内課金アイテムとして購入できるようになっていません。実際のところ同Appは、ユーザーがベースキャンプのHEY Email用ウェブサイトにアクセスして無料トライアルを開始するか、意図された用途で同Appを使用するための別途ライセンスを購入するまで、メールや他のいかなる用途でもAppとして機能しません。

対策

この問題を解決するために、App Store Reviewガイドラインのいかなる条項にも違反しないように貴社のAppを修正していただくようお願いします。

App Store Reviewガイドラインを順守するよう貴社のAppまたはサービスを修正する方法はいくつもあります。これまでにコンテンツ、サブスクリプション、機能をApp外で購入したユーザーは、App内でも引き続きこうしたアイテムを利用できます。ただし、App Store Reviewガイドラインに従って新規のiOSユーザーがApp内課金を使用してアクセスを購入するオプションが提供される場合に限ります。

貴社がユーザーにApp内課金のオプションを提供することを希望しない場合は、提示されているApp機能のとおりに、標準的なIMAPとPOPのメールアカウントを使用するメールクライアントとしてAppを提供し、ユーザーが任意でメールサービスプロバイダーとしてHEY Emailサービスを使う設定ができるようにすることも可能です。これにより、コンテンツや機能を使用するためにユーザーが追加の支払いを行わなくても、同Appはメールクライアントとして機能します。このアプローチでは、貴社が貴社のWebサイトで販売するメールサービスは、App Storeで提供されている貴社のAppとは明らかに別のメールサービスとなります。

App審査委員会は、貴社がこうした方法や別のアイデアを活用し、HEY Email AppをApp Store Reviewガイドラインに準じたものにするために役立つ情報を提供したいと考えています。

iOS用Appを開発してくださり感謝いたします。App審査委員会は、ベースキャンプがこれまで長年にわたり数々のAppとその後継バージョンを開発してApp Storeで提供してくださり、そしてApp StoreがそうしたAppを幾百万ものiOSユーザーに配布してきたことを理解しています。これらのAppではApp内課金の機能が提供されていません。結果として、過去 8 年間にわたりApp Storeには何の収益ももたらされませんでした。現行の『App Store Reviewガイドライン』とすべての開発者に順守が義務付けられている条件を貴社が順守してくださる限り、App審査委員会は今後も貴社のAppビジネスを支援させていただきたいと考えており、貴社のサービスを無料で提供するためのソリューションを提案させていただく所存です。

App審査委員会は、貴社がHEY Email AppをApp Storeで提供できるよう、今後もサポートさせていただきたいと考えております。

どうぞよろしくお願いいたします。

App審査委員会

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カテゴリー:ソフトウェア

タグ:Apple App Store インタビュー

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(翻訳:Dragonfly)