凧で風力エネルギーを得るMakaniにAlphabetが終結宣言

Alphabet(アルファベット)は米国時間2月18日、同社の風力エネルギー用凧であるMakaniの開発を中断すると発表した。凧を開発するMakaniは2006年に創業し、7年前にGoogle XのプロジェクトとしてGoogle/Alphabetの事業になった。2019年にX(エックス)の手を離れて、Alphabet傘下の独立企業になったが、Alphabetの「その他の事業」としてのMakaniの寿命もこれで終わりになる。しかし同社は、初期のパートナーの1つであるShellの協力を求めて、その技術の新たな用途を探ろうとしている。

Makaniの取締役会の会長Astro Teller(アストロ・テラー)氏は声明で「Makaniの商用化への道のりは、期待していたよりも長く険しいと思われるため、Alphabet傘下の企業であり続けることは困難である」と述べている。なおテラー氏は、Alphabetの「その他の事業」を統括していない。

「気候変動関連のアイデアは何でも投資に値すると思いがちだが、偉大なるアイデアのすべてにリソースを割きつづけることが良いビジネスなわけではない。気候変動と同じくらい緊急の対応を要する危機ではその考えは不可欠だ」とテラー氏は言っている。

X/AlphabetでMakaniのチームは、20kWのデモプロジェクトに成功し、最大出力600kWの拡張ユニットも作った。しかし、それでもAlphabetはMakaniを、十分な長期的商用化の可能性のあるプロジェクトとは認めなかった。

2015年にXでMakaniのリーダーになったFort Felker(フォート・フェルカー)氏は 「まったく新しい種類の風力エネルギー技術を生み出すことは、ビジネスとしてのチャレンジであると同時に、エンジニアリングのチャレンジでもある。技術開発は強力に進んだが、商用化への道のりは思った以上に長くてリスクも大きいので、本日をもってAlphabetにおけるMakaniの時間は終わりを迎える」と記している。

GoogleがMakaniを買収した当時は、事業としての可能性を真剣に検討しなかったと思われる。しかし、Googleのそんな自由気ままな社風は今や過去のものだ。前衛的であっても良さそうな「その他の事業」も、これからは個々の独立企業としての将来性を厳しく問われるだろう。

関連記事: Google X Acquires Makani Power And Its Airborne Wind Turbines…Google XがMakani Powerとその浮揚型風力タービンを買収(未訳)

[原文へ]
(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Disrupt キーノート―Google Xの責任者、Astro Tellerがテクノロジーの理想のあり方を語る

Astro TellerがTechCrunch Disrupt NYでキーノート講演を行った。TellerはGoogleのムーンショット・プロジェクト〔月旅行のような遠大な計画〕を進めるGoogle Xの責任者だ。このチームは自動走行車、Project LoonGoogle Glassなどを開発している。しかしTellerがキーノートで語ったビジョンは意外なものだった。

Tellerによると、テクノロジーにおける真のイノベーションというのはわれわれの生活の中でまったくそれと気づかづに使えるようなものでなくてはならないという。Tellerはその例として自動車のブレーキのABSシステムを取り上げた。ドライバーがABS装着車のブレーキを踏むとき、実はブレーキそのものを作動させているのではなく、ある種のロボットに指示を出しているのだ、という。

「これこそすばらしいテクノロジーだ。ユーザーは一切面倒なことをする必要がない。やりたいことするだけでよい。日常生活の中でテクノロジーにこのレベルの不可視性を獲得“させることがわれわれの最終的目標だ。それは生活に溶け込み、自らの存在を消してしまう。そのようなテクノロジーは『あなたがそれをする必要はない。私が代わってそれをする』と語る」とTellerは述べた。

いちいち持ちあるく必要がなくなったとき電話は素晴らしいものになる。

Tellerによれば、「現在われわれはテクノロジーといえば、スマートフォン、ノートパソコン、スマートウォッチなどのことだと考える。現在のテクノロジーは人間の認識力を強化するというより、むしろ妨げている。それは生活の中に無用な煩わしさを持ち込んでいる。電話というテクノロジーはデザインやバッテリー駆動時間が改良されたからといって本質的に良いものになるわけではない。いちいち持ちあるく必要がなくなったとき電話は素晴らしいものになる」という。

これがGoogle Xのさまざまなプロジェクトの背後にあるビジョンだ。ある意味、反テクノロジー的なアプローチといえる。Google Xチームは「テクノロジーは自らを背景に消し去ったときにもっとも効果的なものとなる」と考えている。

邪魔なテクノロジーを消し去るためにどのようにテクノロジーを利用したらよいかをわれわれは追求している。われわれはみなたいへんな労力をかけて自動車の運転を習う。そして運転しながらメッセージを入力したりブリトー食べたりメークを直したりする。その結果、アメリカでは交通事故で毎年3万人もの人々が死亡している。

自動車は将来、すべてGoogle Xが開発しているような自動走行車に置き換えられるはずだ。われわれは過去を振り返って、自動車をいちいち人間が操縦していたことを不思議に思うようになるに違いない。

次にTellerはウェアラブル・テクノロジーについて語った。Google Glassについては「ユーザーを現実から引き離し、上の空にさせる」という批判をよく聞く。ではTeller自身はどう考えているのか?

「理想的な世界ではユーザーはユーザーインターフェースを意識さえしないですむ。ユーザーがユーザーインターフェースを意識するのは何らかの事情でそれが作動を停止したときだけだ。そういうテクノロジーは人間性を減らすのではなく豊富にする」とTellerは主張する。

Google Xはそういう未来を探り、創りだすための活動だという。「しかしテクノロジーをそのような不可視性のレベルにまで高めるための前途はまだ遠い。われわれはテクノロジーを意識させないテクノロジーを生み出すことにはまだ成功していない」とTellerは結論した。

〔日本版:アストロ・テラーは本名Eric Teller。コンピュータ科学者、起業家、作家。2010年からGoogle Xの責任者を務めている。祖父は水爆開発やスターウォーズ計画に大きな貢献をしたハンガリー生まれの科学者エドワード・テラー。知性と人格を獲得したプログラムとプラグラマーの女性との心の交流を描いた異色のSF小説は日本語にも翻訳されている。〕

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+