オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ」をはじめ、リモートワークを軸とした人材事業を展開するキャスターは4月9日、STRIVEと山口キャピタルを引受先とする第三者割当増資により総額6億円を調達したことを明らかにした。
キャスターは昨年5月に3.6億円を調達するなど過去に複数のVCから資金調達をしているほか、直近では今年1月にディップを引受先とした第三者割当増資も実施。今回を含めると累計調達額は約15億円となる。
今後はコロナウイルス(COVID-19)の影響もあり国内で急速にリモートワークが広がっていることを受け、そこで必要とされるセキュリティシステムやリモートワーカー向けの業務管理システムの開発などに投資をしていく計画だという。
オンライン秘書から領域拡張、利用企業数は1300社超え
キャスターは2014年の設立。同年に秘書や人事、経理、翻訳、Webサイト運用などの幅広い業務を遠隔にいるオンラインアシスタントに依頼できるCASTER BIZをスタートした。
代表取締役の中川祥太氏によると以前は「オンライン秘書の会社」として捉えられることも多かったが、創業6年目を迎えた現在では同社がカバーする領域はかなり広がっている。運営するサービスの数も10個を超え、会社全体の売上を見てもCASTER BIZ単体が占める割合はかなり減ってきているそうだ。
具体的には経理(CASTER BIZ accounting)、採用(CASTER BIZ recruiting)、労務(CASTER BIZ HR)など各業務領域ごとにCASTER BIZシリーズのサービスを展開すると共に、全国のリモートワーカーをオンラインで派遣する「在宅派遣」やリモート・複業など新しい働き方に特化した求人メディア「Reworker」なども手がける。
昨年からの取り組みとしてはソーシャル募集サービス「bosyu」を分社化してサービス成長に向けて舵を切ったほか、500円から使える個人向けのオンラインアシスタント「My Assistant」など新規事業も始めた。11月にはキャスター自体が700人以上のリモートワーク組織を運営してきた知見を活用して、リモートワーク組織の構築を支援する「Caster Anywhere」もスタートしている。
「『リモートワークにおける総合人材サービス』に近い。領域や契約形態ごとでも提供できるサービスが異なるので、クライアントからのニーズを踏まえて事業を広げてきた」(中川氏)
サービスのラインナップが拡充された効果もあり、累計のサービス導入企業は累計で1300社を突破。社数だけでなく導入企業の幅も広がっていて、エンタープライズ企業の利用も増えているという。たとえば在宅派遣の場合は中小企業のバックオフィスをリモート人員でサポートするといったケースが多かったが、この半年ほどでコールセンターなど大型の取引も増えた。
クライアント企業のリモートワーク導入をハンズオンで支援するCaster Anywhereでも同様だ。これからさまざまな業界・企業で人材不足が加速すると予想される中で、場所の制約を取っ払うリモートワークを取り入れることが候補者の幅を一気に広げる有効な打ち手になり得る。
また介護離職など、家庭の事情で退職せざるをえないメンバーが継続して働けるようにもなるかもしれない。中川氏の話では、実際にそういった点を危惧してリモートワークの制度を作りたいとキャスターに問い合わせをしてくる企業もあるそう。スタートアップでは以前からリモートワークを取り入れていた企業も多いかもしれないが、近年は大企業でも少しずつ浸透し始めている。
ただしリモートワークを導入するとなると、それまでの業務内容や業務フロー、人事制度・評価制度、組織設計などを把握した上で、必要に応じてアップデートする必要がある。各メンバーが自宅で不自由なく仕事ができる環境が整っているのか、コワーキングスペースを用意した方がいいのかなど、リモートワーク特有のチェックポイントも多い。社員数や部署の数が多い大手企業はなおさらだ。
「特に大手企業がリモートワークを導入したいと思った場合、(既存の働き方から移行するための)クッションとなる準備期間が必要になる。時間をかけて洗い出しながら検討するべきことはたくさんあり、そこを一緒に整理しながら企業ごとに最適な打ち手を提案するということをやってきた」(中川氏)
リモートワークの支援に向け、社内ツールの提供も視野に
今回の資金調達も当初は既存事業の拡大に向けて必要な資金を集めることを主な目的としていた。
Caster Anywhereのニーズが高まっていることに加え、CASTER BIZシリーズや在宅派遣を中心に事業基盤が整ってきた中で、そこにもっと投資をしていこうと考えていたという。
ただ冒頭でも触れたコロナウイルスの影響でキャスターの事業にも大きな変化があり、大きく状況が変わったようだ。
中川氏によると直近で急激にリモートワークの問い合わせが増加しているそうで、多い時には1日で数百件に及ぶ場合もあった。「明日から急遽リモートワークを導入することになったのですがどうすればいいでしょうか、社員は1.5万人です」といったように急を要するものも多く、今はリモートワークの基本的なノウハウを整理したホワイトペーパーなどを提供しつつ、順次サポートを進めているという。
「既存事業への積極投資というよりは、(コロナウイルスやそれに伴う緊急事態宣言の影響などで)世の中で止まってしまうオペレーションやインフラ維持のためにどこまで貢献できるか。ノウハウの提供であれ、人材の提供であれ、必要とされるところに投資をしていくことになる」(中川氏)
現在計画しているのが、キャスター社内で使っている内製ツールの提供だ。同社では700人以上のメンバーがリモート環境で働いているため、そこに最適化したセキュリティシステムや業務管理システムなどを自分たちで開発している。
中川氏いわく「社員全員、ないし少なくとも大多数のメンバーがリモートで働く環境でしか役にたたないツール」のためあくまで社内用として作ったものだが、急遽リモートワークを取り入れる会社が増えてくる中で「社内ツールが世の中の企業にとっても、非常に役に立つことがわかってきた」。
昨年2月にローンチしたクラウド型デスクトップ仮想化サービス「Caster Entry」も、最初は社内ツールとして開発したものだ。同じような形で、今後は社内の課題を解決するために作ったツールを外部企業にも提供していく方針。それにあたって必要となる開発にも投資をしていくという。
「『リモートワークを当たり前にすること』をミッションとして会社を立ち上げて以来、社内外でリモートワークを推進してきた。今はコロナウイルスの対応策として急激にリモートワークを導入する企業が増えている中で、導入や運用にあたって課題や悩みを抱えている企業も多い。これまで自分たちが培ってきたノウハウを基に、必要な仕組みやサービスを提供していきたい」(中川氏)