テスラの経験からクルマとヒトの接点となるサービスを着想、Drivemode上田北斗氏

米Drivemode共同創業者の上田北斗氏は、11月16〜17日開催のTechCrunch Tokyo2017のFireside ChatでTechCrunch Japan編集長の西村賢と対談し、「Drivemodeが見つめる近未来のクルマとヒトの関係」について語った。

Drivemodeはクルマの運転中にスマートフォンを使えるようにするサービス(関連記事)。ユーザーとの接点となるのは車載機器として考えられたUIを備えるスマートフォンアプリだ(デモ動画)。Google Mapなど普段使っているアプリを、運転中に操作することを考慮したUIで使うことができる。本田技研工業との共同研究で、クルマのハンドルに設置した操作用パッドからスマートフォンアプリを使う取り組みも進めている(デモ動画)。

「テスラはUXの積み重ねが『ガジェット』として評価された」

Drivemode共同創業者の上田氏はワシントン大学で機械工学を学んだ後、ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得し、2011年にテスラモーターズに入社する。在学中にインターン志望でテスラを訪問するが「MBAは要らない」と言われてしまう。「エンジニアリング専攻です。MBAは忘れてください」と食い下がり、そのときまでのテスラでは前例がなかったインターンとして働き始めた。

そんな上田氏は日本の観客のために日本語でセッションに参加してくれたのだが、実は日本滞在経験は最長3カ月。中身はアメリカ人だが日本語が喋れるのは「家では英語だと親に話を聞いてもらえない」環境だったからとのこと。

テスラでは「Model S」のローンチマネージャーを務めた。テスラが成功した理由のひとつは「クルマではなくガジェットして認識されたこと」と語る。シリコンバレーには、クルマに興味がなくガジェット好きな人が多い。タッチスクリーン付きディスプレイパネルや、ドライバーや乗客がクルマに近づくとドアハンドルが突き出す仕組みなど、ガジェットに興味がある人を引きつける細かなUXの積み重ねが評価された。UXが重要との知見は、Drivemodeに引き継がれていると見ることもできるだろう。

「テクノロジーとヒトの接点をおさえたい」

2014年、上田氏は4年働いたテスラを離れ、Drivemodeの共同創業者となる。クルマとスマートフォンの組み合わせはネガティブなイメージがある。「スマートフォン操作による不注意運転で事故が起きる。ここは誰かがなんとかしないといけない」。クルマを運転する動きの中で自然にスマートフォンを使えるUXを作る。そこがDrivemodeが目指すところだ。「一度使って便利だと分かっているテクノロジーはどうしても使ってしまう。(アメリカには)クルマのナビゲーションの方法がスマホしかない人も多い」。

上田氏はテスラ時代を振り返り、Drivemodeの構想について次のように語る。「それまでのクルマは古くなる一方だが、テスラはソフトウェアのアップデートでどんどん良くなっていく」。ここがテスラ車のユーザーにとって驚きだった部分だ。「ここで引いて考えると、アップデートで良くなるのはスマホと同じ」。クルマのパフォーマンスの評価尺度は、以前は加速や乗り心地だった。テスラ車ではそれに加えてテクノロジーとの触れあい、インターフェースの要素が強い。「今はクルマと人の関係の変化の時期。テクノロジーと運転者の接点をおさえることが大事だ。新しいスマホの使い方が出てくるなら、いち早くキャッチアップできる立場に立ちたい」。このような考え方がDrivemodeの背景にはある。

Drivemodeにはパナソニックが出資しているし、前述したように本田技研との取り組みも進めている。「日本の大企業と一緒に仕事をしていてやりづらいことは?」との質問に対しては、「『できない』前提で話が始まる。カルチャーが違う」と返した。「日本の会社はミーティングで『難しい』という言葉を多用するのでアメリカ人も「ムズカシイ」と音で覚えてしまう。意味を聞かれて”difficult”と訳したら、アメリカ人は『difficultは不可能ではない。OKだ。いける!』と受け取る。Noという意味だと説明すると驚く」。

セッションの最後、会場へのメッセージを聞かれた上田氏は次のようにコメントした。「やらないリスクを考えます。新しいことをやるか、現状維持か。やらないことで自分の中の可能性が下がる場合が多い。失敗する可能性が高いことをやらない理由にはしない。やればゴールに近づけるなら、やる」。

シリコンバレーのガレージで起業、米Drivemode共同創業者に聞くクルマとヒトの間にあるべきもの

もう来週の木金、11月16日、17日に開催が迫ったテックイベント「TechCrunch Tokyo 2017」の登壇者をお知らせしたい。2014年にシリコンバレーのガレージで創業したクルマ関連スタートアップDrivemodeの共同創業者の上田北斗氏だ。

Drivemodeは車内でスマホを使うためのUIを開発している。「車内でスマホを使う」というと、危険だし止めるべきと考える人が多いだろう。それはその通り。運転中のスマホ操作による事故は日本でも米国でも問題となっている。

Drivemodeが挑戦しているのは、以下の動画にあるように、いかにドライバーの認知的負荷を下げて運転しながらスマホアプリが使えるかを徹底して追求すること。Google Playから入手可能なこのAndroidアプリは、車内での利用に最も人気のあるアプリの1つだ。すでに100万ダウンロードを超え、アクティブな利用者は180カ国に広がっている。アプリは、ドライバーの邪魔にならないように、スマートフォンのさまざまな機能、例えばナビゲーション、メッセージング、通話などを声や簡単なジェスチャーでアクセスできるようにデザインされている。

Drivemodeの上田氏は、既存の大手企業が挑戦できない領域だからこそ、スタートアップ企業がやるべきだし、勝ち目があるのだとぼくに話してくれた。現実問題としてスマホのながら運転は法で禁じようが、良いスローガンを考えようが、なくならない。かといって大手企業がこの課題に取り組むことは難しい。企業イメージや一般社会からの反発が必至だからだ。

スタートアップ企業としてDrivemodeは2017年3月にシリーズAラウンドで650万ドル(約7.4億円)の資金調達を行っている。このとき、車載機器サプライヤーのパナソニックが戦略的投資家としてラウンドをリードしているほか、Innovative Venture Fund Investment、みやこキャピタルに加えて保険会社の三井住友海上(VC子会社経由)も投資家の顔ぶれに含まれている。

Drivemodeの共同創業者の上田北斗氏

上田氏はロサンゼルス生まれの日系アメリカ人。日本のコンテンツを見て育ったそうで、少し話をしただけだと日本人と信じて疑わない感じだ。ワシントン大学で機械工学を学び、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。Drivemode創業前の2011年からはテスラ・モーターズでModel Sセダンのローンチ・マネージャーとして活躍していた経歴をもつ。シリコンバレーのCarTech動向には断然明るい人物だし、イーロン・マスクのそばで仕事をしていたことから、イベントでは「マスク伝説」もちょっとご披露いただけそうだ。

ぼくが聞いたなかで感銘を受けたのは、前にせり出すテスラのドアハンドル機構の話。工学的に実装ハードルが高く、現場のエンジニアが実現コストに対して提供価値が見合わないと匙を投げたくなっていたとき、こうしたハンドルこそがドライバー(ヒト)とクルマのユーザーインターフェイスで、ここは一切妥協してはいけないのだと言い張ったという話だ。

なんだ、そんなことかというヒトもいるかもしれない。もしかしたらDrivemodeが取り組む領域も「なんだUIか」というヒトもいるかもしれない。でも、「そんなことか」と鼻で笑う態度こそ、テレビの本分は画質なのだとハードウェアばかりにこだわって、ソフトウェアやサービス、UXを軽視した日本のテレビ産業と業界、あるいはケータイ業界の失敗の根底にある態度だったのではないだろうか。クルマはいま、複雑で高度なすり合わせを必要とし、日本企業群が得意だったアナログなマニュファクチャリングから、デジタル化され、モジュール化され、イノベーションや要素技術を採り入れて統合するソフトウェア産業に近いものに生まれ変わろうとしているようにぼくには思えてならない。

ヒトとクルマの間にあるべきもの、あるいは今後車内空間にあるべきものを考え続け、作り続けているDrivemodeの上田氏。スタートアップと大手企業、日本と米国、テクノロジーとビジネスと多面的にクルマの未来を見つめる上田氏の話をぜひTechCrunch Tokyoに聞きに来ていただければと思う。チケットは絶賛販売中だ。5枚以上の申し込みで1人あたり半額の2万円(税込)で購入することができる団体割引も用意している。また、創業3年未満のスタートアップ企業の従業員であれば、引き続きチケット価格は1万5000円だ。

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日経BPのA3コンテスト大賞受賞のDrivemodeが200万ドルを調達―見ないでAndroidアプリを操作するアプリ

本来、運転中にスマートフォンを使うべきではない。しかし実際には多くのドライバーが運転中にスマートフォンを操作しようとして自分や他人を危険にさらしている。これまでステルスモードで活動してきたスタートアップ、 Drivemodeは、200万ドルのシード資金の調達に成功した。Drivemodeは「画面を見ずに既存のアプリを操作できるAndroidアプリ」だ。

Drivemodeアプリはよく使われる機能、通話、メッセージ、カーナビ、音楽などのアプリを画期的なUIによって画面を見ずに操作できるようにする。このUIはメニューのどの位置にいるかを合成音声で伝える上に、それぞれのアプリに原色のオーバーレイを表示するため周辺視野だけで確認できる。

「われわれはユーザーインタフェースが車載に適するよう自動車メーカーと協力して開発をおこなって3いる」とDrivemodeの共同ファウンダー、古賀洋吉CEOは言う。ただし、まだ具体的な契約について明かせる段階ではないという。

「政府の車載ITシステムに関する安全ガイドラインによれば、1回の操作のための画面の注視が2秒以内ですむことが求められている。しかしわれわれはUIを根本的にシンプル化することにより、注視時間をゼロにしようとしている」と古賀CEOは付け加えた。

古賀氏は日本生まれ、日本育ちで、ハーバードビジネススクールでMBAを取得した後、ボストンでベンチャーキャピタリストとして活躍していた。彼はまたZipcarの国際展開の責任者を務めた。しかしあるスタートアップで働くためにカリフォルニアに引っ越してから、長時間の自動車運転に悩まされるようになった。

「スマートフォンのUIはデバイスを手に持って操作するようにデザインされている。そのため数多くの小さいボタンを探し、正確にタッチしなければ ならない。これは自動車を運転中に使うには向いていないインターフェイスだ」と古賀CEOは言う。

もちろん、Googleには“Car Home”がある。これは大きなボタンを利用しているので運転中でもタッチしやすい。またこれに似たアプリはいろいろ出回っている。また自動車メーカーもMyFordタッチやSyncなど運転中に操作しやすい車載デバイスを開発している。しかし、こうしたデバイスはブラインドタッチで操作できる域には達しておらず、インターフェイスの問題を完全に解決していないという点では古賀氏に同意せざるを得ない。

これにたいしてDrivemodeは「見ないで操作」できることを目標としている(下のデモビデオはその点を強調している)。

単にボタンやメニューなどの要素を大きくしたり、起動後はもっぱら音声で操作したりするのではなく、Drivemodeのユーザーは非常にシンプル化されたメニューを操作してアプリを選択、起動する。アプリやオプションが選択されると、それを合成音声が伝えてくれる。原色のカラーオーバーレイとアニメーションが用いられてるので、画面を注視しなくても周辺視野におくだけで操作が確認できる。またこのアプリはユーザーの日常の行動を学習し、それに応じてショートカットを提供する(たとえば、ホームと命じると自宅へのナビが表示される)。また通話の場合は、家族や同僚などよく連絡する相手を覚えて、簡単に呼び出せる。

ユーザーは音楽などのスマートフォン・アプリをDrivemode内から操作できる。またメッセージ・アプリの場合は、着信メッセージの読み上げ、自動返信なども可能だ。

200万ドルのシード資金、1万ドルはK From Blog Readers

Drivemodeチームは現在6人で、サンノゼと東京にオフィスがある。共同ファウンダーは、古賀CEOに加えて、上田北斗(フルタイムの本業はTesla)、 Jeff Standard(プロダクト責任者)、メカニカル・エンジニア)、中河宏文(メカニカル・エンジニア、Androidデベロッパー)の4氏だ。これに最近Joao Orui氏 (日本在住のブラジル人エンジニア)、横幕圭真氏 (エンジニア)の2人が加わった。

Drivemodeは東京のIncubate Fund が全面的に支援している。このベンチャーキャピタルは通常は日本のスタートアップを対象としているが、今回はグローバルな将来性を買ってシリコンバレーに本拠を置くDrivemodeに出資した。

「車載専用ナビシステムの代わりにスマートフォンを利用することはグローバルなトレンドだ。DrivemodeはAndroidスマートフォンが普及している多くの国で広く利用されるようになる可能性がある」とIncubate 赤浦徹ゼネラルパートナーは書いている。

Incubate Fundからのシード資金に加えて、古賀CEOは人気ブロガーでもあり、Globespan Capital Partnersを離れてDrivemodeをスタートさせると発表すると、その影響力で読者から1万ドルの寄付を集めることに成功したという。

限定ベータテスト中

Drivemodeは今日(米国時間12/11)、アメリカで限定ベータテストを開始した。参加希望社はDrivemodeのサイトを訪問してアプリをダウンロードする(Google Playではない)。インストールしてアプリを起動すると招待コードの入力を求められるのでTCMODEと入力する。外国のユーザーはメールアドレスを入力して招待希望のボタンを押す。Drivemodeで準備ができるとメールで招待コードが送られてくるはずだ。

〔日本版〕Drivemodeアプリは日本からもインストールできるが、TCMODEという招待コードではアクティベートできないようだ。やはりDrivemodeからの招待コードを待たねばならないらしい。なお、Drivemodeは2014年10月に開催されたAndroid Application Awardコンテスト(日経BP ITPro主催)で大賞を受賞している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+