【FounderStory #3】法律の知識とITで「国境をなくす」友人の強制送還を経験したone visa岡村氏の挑戦

Founder Story #3
one visa
代表取締役CEO
岡村アルベルト
Albert Okamura

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はone visaで代表取締役CEOを務める岡村アルベルト氏だ。

岡村アルベルト
one visa 代表取締役CEO
  • 1991年 ペルーで生まれる。
  • 2010年 甲南大学マネジメント創造学部 入学。
  • 2014年 入国管理局で働き始める。
  • 2015年 one visaを設立。
  • 2017年 ビザ取得サービス「one visa」をリリース。
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

友人の強制送還を経験した少年時代

ある日突然、仲の良い友達と離れ離れになってしまったら、どれほど辛いだろうか。

one visa代表取締役CEOの岡村アルベルト氏の原体験は、少年時代に経験したそのような悲しい思い出だ。

岡村氏が2015年に設立したone visaは、2017年よりビザ申請・管理の法人向けウェブサービス「one visa」を提供している。

one visaでは「ワンクリック申請書類作成」「メンバー管理」「代理申請」の3つの機能により、外国籍社員のビザ申請、更新タイミングの管理、従業員からの問い合わせ対応までワンストップで対応。外国籍社員のビザ申請にかかる工数を大幅に削減できるほか、コストを業界平均の半額以下に抑えることを可能とする。

岡村氏は南米ペルー生まれで、ペルー人の母と日本人の父を持つ。

来日したのは8歳のとき。通っていた大阪の小学校には日本語を教える制度はなく、外国籍を持つ他の生徒たちと共に特別学級で学んだ。

当時、遠くに住んでいて、数ヶ月に一度だけ会えるのを楽しみにしている友人がいた。南米コミュニティを通じて知り合い、会えた時にはお泊まり会などをして、全力で遊んだ。


岡村氏僕たちは顔がよく似ていて、『まるでドッペルゲンガーだ』と話していた。それくらい仲が良く、よく遊んでいた


ところが、10歳のころ、異変は訪れた。ある日を境に、その友人家族がコミュニティの集まりに参加しなくなってしまったのだ。


岡村氏親からは、『もう来れなくなった』『ビザが許可されなかったみたいだ』と説明された。残念だったが、その時は知識もなく、あまり深く考えずにいた。だが、中学生になり、『あれは強制送還だったんだ』と気付き、ショックを覚えた


「課題を解決したい」という気持ちはすでにあったが、当時は唇を噛むことしかできなかった。

入国管理局での経験から得たone visaの構想

甲南大学マネジメント創造学部を卒業した後、入国管理局の窓口業務を委託されていた民間業者に就職。IT企業からも内定を貰っていたが、「強制送還された友達のこと」や「帰化した際に経験したこと」を思い出し、高額な初任給を蹴り、入管で働くこととなる。

現場の責任者に持てめられていたスキルは、4、5時間ほどの待ち時間をできるだけ短くすること。品川の東京入国管理局にて2万件以上の書類に対応した経験が、one visaの開発に繋がった。


岡村氏入国管理局しかり、公的機関に出す書類は自由度の高い編集ができない。法律や規定などの基づいて、フォーマットが決まっている。中でも入国管理局の書類は難しい部類だ。当時、混雑していた理由は、申請書類の分かりにくさにあった。数パーセントくらいの人しか、完璧なものを用意できなかった。それをわかりやすくするだけで、(申請者は)行列に並ばずに済むのにな、と思っていた

起業をしたいという気持ちは小学生のころからずっとあった。

ペルーでは旅行代理店を経営していた母親から、「自分の会社を持つために勉強しなさい」と常々言われていたからだ。

事業に関するビジョンはなかったが、「こんなオフィスを構えたい」、売り上げが空や宇宙を超えるように「会社名はスカイコスモスコーポレーション」、などと想像し、楽しんだ。

岡村氏が実際にone visaを設立したのは2015年のこと。当時の会社名はResidence。TechCrunch Japanで初めて紹介したのは2016年のIBM BlueHubのデモデイの時だ。その時の編集長、Ken Nishimuraが記事にしている。

翌年2017年の6月、one visaのオープンベータ版をリリースし、併せてプライマルキャピタルとSkyland Venturesを引受先とする、総額3600万円の第三者割当増資を発表した。

改正入管法の施行、one visaのこれから

2019年4月1日、改正入管法が施行され、外国籍人材の就業に関する制約が緩和。「特定技能」という新しい在留資格が制定された。

one visaでは、その特定技能ビザを活用した海外人材への学習機会提供からビザ取得、安住支援までをサポートする“海外人材の来日・安住支援サービス”を提供する。外国籍人材にとって必要なサポートを一気通貫で提供していくのが同社の狙いだ。

“海外人材来日・安住支援サービス”のスキームには「one visa work」、「one visa」、「one visa connect」の3つのサービスが存在する。one visa workでは日本語習得や採用、one visaではビザ取得、one visa connectでは生活・定着を支援する。

昨年9月には関西大学の監修のもと、カンボジアに「one visa Education Center」を設立。3ヵ月で特定技能ビザに必要なレベルの日本語能力検定試験N4レベルを取得できる日本語学習の機会を提供している。

また、セブン銀行ならびにクレディセゾンと協業することで、来日直後の銀行口座開設とクレジットカード発行を可能にし、富士ゼロックスシステムサービスとの協業により、外国籍人材がスムーズに役所への各種届出が行える環境を構築する。

そんなone visaが実現を目指すのは「国境のない世界」だ。

one visaでは国境を大きく分けて2つ定義している。


岡村氏1つは、国を跨いで移動する際にある障壁。日本人がアメリカに行く際にはスムーズに行ける。しかし、ペルーの人には面接などのプロセスがあり、様々な書類を書き、行けるか行けないかはわからないが、やっと申請することができる。国の与信に紐づいて、自分が行ける国、行きやすい国が変わってしまう

もう1つは、複雑なプロセスを乗り越えた後にやっと移住した国で、定住するために色々なハードルが存在する、という意味での国境。自分の国であれば、銀行口座やクレジットカードや家、仕事などへスムーズにアクセスできたのに、移住したことによって一気にハードルが上がってしまうこともある

one visaとしては、この2つの国境をなくしていき、フラットな世界を作っていきたい。法律の知識とITを活かし、極力フラットな世の中を作ろうとしている

<取材を終えて>

岡村氏はone visaが提供するような「外国籍人材を対象としたサービス」は日本人向けと比べると圧倒的に母数が少ないため、極めて包括的に一社で様々なソリューションを展開していく必要があると話していた。“海外人材来日・安住支援サービス”のスキームが今後、どのような広がりを見せるのか、目が離せない。(Daisuke Kikuchi)

( 取材・構成・執筆:Daisuke Kikuchi  / 撮影:田中振一 / ディレクション:平泉佑真 )

目の当たりにした法務格差、GVA TECH山本氏がリーガルテックで目指す「法律業務の民主化」

Founder Story #1
GVA TECH
代表取締役
山本 俊
Shun Yamamoto

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はリーガルテック・スタートアップGVA TECHで代表取締役を務める山本俊氏だ。

山本俊氏
GVA TECH代表取締役・GVA法律事務所 代表弁護士)
  • 1983年 三重県生まれ
  • 2005年 岡山大学法学部卒業
  • 2008年 山梨学院大学法科大学院卒業。同年、司法試験に合格
  • 弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にGVA法律事務所を設立(現在グループで日本法弁護士24名、顧問先250社以上)。
  • 創業時のマネーフォワードやアカツキ等の上場も含め顧問弁護士としてサポートしている。
  • 2017年1月GVA TECH株式会社を創業。AI契約サービス「AI-CON」、契約書自動作成支援「AI-CONドラフト」をはじめとしたリーガルテックを用いたプロダクト開発の指揮を執る。
  • 最近自宅に酸素カプセルを購入。良質な意思決定を効率的に行うためのコンディション作りに励む。
  • 趣味は中学生より続けている麻雀、競馬。
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

法務面における「格差の解消」、GVA TECH誕生の秘話

『この契約条件では、明らかにこちらが不利じゃないか』

2011年頃、山本俊氏は企業法務を手がける弁護士として、主にスタートアップ企業の支援を行っていた。大企業との取引が始まり、契約書を取り交わす段階で、山本氏は数多くの「理不尽」を目の当たりにする。大企業側は「これが当たり前ですよ」という顔を見せながら、自社が技術や知的財産を吸い上げる方向へ運ぼうとすることもあった。


山本氏自分が弁護士として付いたことで、契約条件の交渉・修正ができたケースがたくさんあった。そのまま進んだら、スタートアップ企業がやがて行き詰まってしまうような事態を防ぐことができた。そんな役割を担うことで、企業の成長、起業家たちの夢の実現を支援できることに喜びを感じたんです。以来、法務面における『格差の解消』が私のテーマとなりました


山本氏が代表を務めるGVA TECHは、2017年に創業したリーガルテック企業だ。

リーガルテックとは法務面の課題を技術で解決する新分野。AI(人工知能)の進化に伴い、多様なサービスが登場している。

GVA TECHのサービスは主にベンチャー・中小企業が対象。企業同士の契約においては法務知識が必要となるが、ベンチャーでは自社内に専門人材を抱えることができず、専門家に依頼するコストもかけられない。そんなベンチャー・中小企業でも契約業務が円滑に行えるように、AI契約サービス「AI-CON」、契約書自動作成支援「AI-CONドラフト」などを開発・提供している。


山本氏『リーガルテック』というと、大手企業の法務部の業務フローを効率化したり、判例検索をスピードアップしたりと、範囲が広い。その中で私が目指すのは、法律業務をテクノロジーによって『民主化』することです。法務はこれまで、専門知識を持つ一部の人だけが扱えるものでした。けれど法務知識がない人が当たり前に活用できるようになってこそ、リーガルテックが生まれた意味があると思っています

弁護士から起業家へ、AI技術の進展に感じた「可能性」

山本氏が法律分野に目を向けたのは高校3年生の頃。当時は麻雀と競馬に夢中で、将来は「プロ雀士になるかJRA職員になるか」と想像しつつも、大学受験という現実に向き合い、「潰しが利きそう」という理由で法学部に進んだ。


山本氏勉強してみると、面白くて、興味が深まった。高校時代は数学の証明問題などが得意でしたが、それに通じるものがあって。ロジカルに物事を考える部分が性に合っていたんです


学びを深めるため、大学と併行して司法試験予備校に通おうと考えた。ラーメン屋での時給700円のアルバイトで100万円の学費を貯め、予備校入学後はひたすら勉強に打ち込んだ。

大学卒業後は法科大学院に進み、2008年、卒業と同時に司法試験に合格。弁護士として法律事務所に所属し、大手企業の法務を手がけるようになる。

そのかたわら、個人でスタートアップ企業からの依頼も請け負っていた。その案件が増えたことから、2012年に独立し、GVA法律事務所を設立。ベンチャー・スタートアップ企業のクライアントに特化し、1000社以上を支援してきた。


山本氏ビジネスを生み出すことにも興味があったんですよね。弁護士になって上京した頃から、いろいろなビジネスセミナーや交流会に通ううちに、ビジネスの世界に惹かれるようになって。その世界で勝負する人たちを手助けしたいと思ったんです」


とはいえ、自分はあくまでも法律家。ビジネス分野での起業の道は考えていなかった。

しかし2016年、社会に変化の波が訪れる。AIの進展に伴って、金融業界ではフィンテック、農業分野ではアグリテック、教育分野ではエドテックなど、さまざまな分野で「xxTech」が注目を集めるようになった。法律分野も例外ではない。これまでは課題を抱えながらも限界を感じていた法務業務の効率化を、一気に進められると考えた。


山本氏法務業務を効率化できれば、コストも下げられる。つまり、顧問弁護士を雇う余裕がないスタートアップ企業、ひいてはフリーランスや個人事業主まで、幅広い人が法務サービスを活用できるようになる。これは、5年前から課題として意識していた『法務格差』を解消するチャンスだ、と思いました


もともとITを活用したビジネスモデルに興味があり、トレンド情報の収集を続けていたという山本氏。2016年よりプログラミングやAIについて本格的に勉強を開始し、2017年1月、GVA TECHを創業した。

苦労したのは人材採用。何人かと面接したが、「この人なら」という確信が持てず、採用を見送ってきた。サービスの設計ができても実行するエンジニアを獲得できず、外注せざるを得ない状況が約半年続いた。

CTO本田勝寛氏との出会い、GVA TECHの「これから」

しかし創業から8ヵ月後、信頼できる知人からの紹介により、CTOを獲得する。ソーシャルゲーム・アドテク・シェアリングエコノミー領域で実績を持つ本田勝寛氏だ。GVA TECHのプロダクト開発の内製化を実現させた本田氏は、入社翌年、最も輝くCTOを選出する「CTO of the year 2018」のファイナリストとなった。


山本氏私とは逆のタイプです。私はプロダクトを増やそうと、つい突っ走ってしまいそうになるのですが、ほどよくブレーキをかけてくれる。エンジニアの立場から適切な判断をしてくれるんです。トップ2人がブレーキを外した状態で暴走したら、マズイですからね(笑)。冷静さを持ったパートナーを得られてよかったです


創業から2年。現在はエンジニア10名強、リーガルスタッフ10名ほか、デザイナーや管理部門スタッフなど、約30名体制となっている。

2018年には多くのピッチイベントに参加し、手応えを得た。2019年はこれまで開発したプロダクトをブラッシュアップすると同時に、セールス部隊も強化し、ユーザーへ届ける。そしてユーザーからのフィードバックを受け、さらに使いやすく改善していく。


山本氏まずは、法務面においての大企業・中小企業・スタートアップ企業の格差をなくし、どんな企業も手軽に法務サービスを活用できるようにします。そしていずれは、専門知識を持たない個人も、法律をうまく使いこなせる社会になればいい。それを実現できるよう、プロダクトを進化させていきたいと思います」

<取材を終えて>

山本氏の話すとおり、これまで法務は専門知識を持つ一部の人だけが扱えるものだった。AI-CONシリーズは法務格差を解消し、起業家がよりサービス開発に集中できるようにするため、開発された。GVA TECHは1月、法人登記に必要な書類を自動作成する「AI-CON 登記」を新たにリリースしたが、今後は各プロダクトのブラッシュアップに注力するそうだ。その後のAI-CONシリーズの更なる広がりに関しても期待したい。(Daisuke Kikuchi)

【動画】GVA TECH 代表取締役 山本俊氏に聞く20の質問

( 取材・構成:Daisuke Kikuchi / 執筆:青木典子 / 撮影:田中振一 / ディレクション・動画:平泉佑真 )