TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はecbo(エクボ)代表取締役社長の工藤慎一氏とecbo共同創業者でCCO(チーフクリエイティブオフィサー)のワラガイケン氏だ。
1990年生まれ マカオ出身 日本大学卒。Uber Japan株式会社を経て、2015年、ecboを設立。2017年、カフェや美容室、郵便局など多種多様な店舗の空きスペースを荷物の一 時預かり所にする世界初のシェアリングサービス「ecbo cloak」の運営を開始。ベンチャー企業の登竜門「IVS Launch Pad 2017 Fall」で優勝。
1990年生まれ、イギリス出身。父はイギリス人、母は日本人。中学から日本で生活し、日英 の2カ国語を操る。慶應義塾大学SFC卒業後、外資系広告代理店 W+K Tokyo を経て、2015 年に工藤慎一と共にecboを創業。CCO(チーフクリエイティブオフィサー)としてデザイン、クリエイティブ全般、プロダクト周りを担当する。
毎日17万6000人ほど存在するコインロッカー難民
2020年には東京オリンピックが開催され、4000万人もの外国人が訪日する見込みだが、日本のコインロッカー不足は深刻だ。
コインロッカーは数が少ない上、大きな荷物が入るサイズのものはあまりなく、国際イベントが開催される際には利用できなくなることも。
「『コインロッカー難民』が毎日17万6000人ほど存在する」
そう話すのはecbo代表取締役社長の工藤慎一氏。
工藤氏が率いるecboは、そんなコインロッカー難民を救済するための「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐシェアリングサービス、「ecbo cloak(エクボクローク)」を展開している。
ecbo cloakを利用すればカフェや美容院などの店舗に手荷物を預けることができる。ecboいわく、荷物を預けられるまでに要する時間は平均で24.9分だが、ecbo cloakでは事前予約により「確実に」預けることが可能だ。
工藤氏は日本大学を卒業後、Uber Japanでのインターンを経て、2015年6月にecboを設立した。ecbo cloakがローンチしたのは2017年1月。サービスを思いついたきっかけは、ある偶然の出来事だった。
工藤氏「2016年8月の中旬に僕が渋谷を歩いていたら、訪日外国人に声をかけられ、「スーツケースが入るロッカーを一緒に探してほしい」と言われた。一緒に探したが、いくら探しても見つからなかった」
そこで工藤氏が考えたのが、店舗の遊休スペースを活用し荷物預かりができるプラットフォーム。
工藤氏「それさえあれば、ニーズを大きく満たすことができる。そして、店舗にもメリットがあると考えた」
店舗オーナーにとって、ecbo cloakの導入には訪日外国人などの「集客」や「副収入」などのメリットがある。
Uber Japanに勤めていた工藤氏は、同社のライドシェアサービス「Uber」のような「普遍となるインフラを作りたい」と常に考えていた。クロークサービスは「普遍となるインフラ」になると確信し、ecbo cloakの開発に踏み切った。
2人の共同創業者から成るecboのチームワーク
取材中もアイディアを絞り出し、可能な限りの情報をアウトプットしているように見えた工藤氏。その多くの情報を集約し要点を解説してくれたのは、ecbo共同創業でCCOのワラガイケン氏だった。ワラガイ氏は慶應SFCを卒業後、外資系広告代理店のW+K Tokyoを経て、ecboを共同創業した人物だ。
工藤氏とワラガイ氏が出会ったのは、工藤氏がUber、ワラガイ氏がW+K Tokyoに勤めていた、4年ほど前のこと。クリスマスの友人の集まりで出会い、後日、お互いのオフィスの中間地点にあるカフェで再会。ワラガイ氏は当時工藤氏が考えていたストレージのサービスに興味を持ち、そこからecbo設立に向かう。
工藤氏は自身のことを「アイディアを多く出すタイプの人間」と説明するが、「それを形にする、絵にするのはすごく苦手」と加えた。その工藤氏の「苦手」を補うのがワラガイ氏だ。
工藤氏「ワラガイは細かい部分を全部拾って絵にしてくれる。工藤がやりたいことはこういうことなんじゃない?という感じに。アイディアは形にならないと意味がない。ワラガイはそれを形にする能力が異常に高い。だから「2人で1人だ」という部分もあるのだと思う。ただ、お互いのキャラが違うので、結構、毎日のように喧嘩していた。その時はシェアオフィスだったが、シェアオフィス中に響くかのような喧嘩で、他の人たちは仕事しているのに、ちょっと来てくださいと、仲介役を他の起業家にやってもらったこともあった」
ワラガイ氏に「ecboにとってのターニングポイント」を尋ねると、強いて言うのならば、2017年12月に開催されたInfinity Ventures Summit 2017 Fall in Kanazawa内のピッチコンテストLaunchPadでの優勝だと話した。
ワラガイ氏「色々なピッチイベントに出場したが、IVSで花開いて、そこから色々なメディアに取り上げられるようになった」
B Dash Camp内のピッチコンテストPitch Arenaは予選落ち。INDUSTRY CO-CREATION(ICC)のスタートアップ・カタパルトは書類審査落ち。TechCrunch Tokyoのスタートアップバトルはファイナルラウンド進出ならず。だが、その次に出場したIVSでは見事に優勝を果たした。
工藤氏は「うちのサービスはピッチ向けじゃないから」と自分に言い訳をしたこともあった、と話した。だが、「ちゃんと自分たちの魅力を伝えきれなかった」と辞任し、IVS前日までワラガイ氏と共に資料を作成した。
工藤氏「最初は、あまり(ecbo cloakを)魅力的に伝えたくなかった。魅力的に伝えすぎた結果、(類似サービスを)始める人が増えたら嫌だと考えていたからだ。だが、「自分たちはこれだけやっているぞ」「今から入っても遅い」と言えるくらいのシチュエーションを作った。プレゼンの仕方もそうだが、自分たちだからこそ独占できる、自分たちだからこそこの市場を勝ちきれる、他社が入ってきても遅い、というようなプレゼンをすれば、結果的にそれは評価される」
2020年東京オリンピック、そしてその先のecbo
ecbo cloakの需要は2020年東京オリンピック開催時、過去最大になると考えられる。同年、4000万人もの外国人が訪日する見込みだからだ。だが、工藤氏、ワラガイ氏の両氏は「オリンピックが決まったのは偶然であり、良いことだが、僕たちにとっては通過点にしか過ぎない」と口を揃えた。
ecbo cloakは、当初から国際展開を狙ったサービス。サービスを開始した当初から5言語に対応していた。「ユニバーサルデザイン」であるとも言えるため、結果、外国人の利用者にも愛されるサービスとなった。ecbo cloakの利用者の7割は外国人だ。
2025年までに世界500都市への展開を宣言しているecbo。工藤氏は「自分がUberにいた時のノウハウはヒントになると思っている」と話した。
工藤氏「自分が(Uberに)入った時には、世界での展開はまだ東京で70都市くらいだった。それが、1年半働いて出た時には400都市くらいになっていた。そのような「組織の作り方」を参考にして、やっていこうと思う」
現在、1000以上もの店舗での手荷物の預かりを可能としているecbo cloak。毎月のように、続々と導入に関するプレスリリースを目にする上、1月には待望のスマホアプリが登場した。だが、工藤氏は「まだまだ僕らのクロークサービスは使われていない」と言う。ecbo cloakは預かった荷物の手数料を得るビジネスモデル。利用料はバッグサイズの荷物で300円、スーツケースサイズの荷物で600円。収益を上げるには、店舗と荷物を預けたいユーザーのマッチング数を伸ばし続けていくことが重要となる。
工藤氏「海外展開に関しては、正直、まだまだわからない。国内に関しても、まだまだのところ。毎日17.6万人のコインロッカー難民がいるので、そういう人たちの大きな割合を無くせるように、積極的にコミュニケーションをとっていきたい」
( 取材・構成・執筆:Daisuke Kikuchi / 撮影:田中振一 / ディレクション:平泉佑真 )