「金融サービスにこそデザインが必要」グッドパッチが4億円を調達し、FinTech領域のUI/UXに特化したチームを立ち上げ

アプリをはじめとしたUI/UXデザインを手がけるほか、プロトタイピングツール「Prott」、フィードバックツール「Balto」といった自社プロダクトを展開するグッドパッチ。同社は4月26日、SBIインベストメント、三井住友海上キャピタルを引受先とする総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。今回の資金調達は2016年2月に実施した4億円の増資に続き、3度目の実施となる。

同社は今回の調達を契機に、FinTech領域を中心にIoT、ヘルスケアなどの成長領域におけるクライアントやパートナーとの連携を強化する。また、ProttやBaltoといった自社プロダクトの販促強化を実施。さらに新規プロダクト開発を加速するとしている。

金融サービスにこそデザインが必要

その中でも特に注力していくのはFinTech領域のクライアントワークだ。グッドパッチでは今回の調達にともない、FinTech領域に特化したUX/UIデザインチームを発足。第1弾として、今月よりSBI証券とのプロジェクトを開始しており、SBI証券のネット証券事業におけるUX/UIデザインの改善から組織へのデザイン文化の浸透にも取り組み始めた。

グッドパッチによると、海外では、UX/UIデザインに初期から注力したFinTech企業が成長したり、大手金融機関がデザイン会社の買収するといった事例が相次いでいるのだそう。米大手金融のCapital OneによるAdaptive Path買収や欧州BBVAのSpring Studio買収などがその例だという。またグッドパッチ自身も、マネーフォワードやMYDCをはじめとしたFinTech領域の実績が増えていることもあり、明確にFinTech領域に注力することを決めた。

「日本ではデザインと金融の親和性が一見ないように感じますが、海外ではいち早く金融サービスを使ってもらうためにデザインが必要という認識が広がっています。一方で日本ではまだそのような事例は聞かれません。ですがFinTech領域でスマホを通じたサービスがさらに増えていくと仮定すると、よりユーザーにとって使いやすく、使い心地の良いサービスが使われ続けるのは当然です。また、オープンAPIなどの環境が整いはじめると様々な形でのサービス提供が増えるのでサービスデザインの観点でもデザインに力を入れていくのは当然の流れと言えます。 この領域でUI/UXデザインの会社としてFinTechにコミットをする会社はまだ日本にないので私達がいち早く挑戦し、他のFinTechサービス企業とは違う切り口で価値提供をしていきたいと思っています」(グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏)

今後は新規サービス創出や既存サービス改修を検討しているFinTech関連企業に対し、顧客視点に立ったUX/UI デザインや開発手法までを一貫して提供するほか、FinTech 領域でのデザイン・開発ノウハウの発信・共有をするラボを設けるとしている。

なお同社のクライアントワークと自社プロダクトの売上およびその比率などは非公開。クライアントワークでは、NTTデータのような大企業から、チケットキャンプ、FiNC、VEGERYのようなスタートップまでを支援。またProttは4月時点でユーザー数10万人を突破しているという。「1年前と比べると自社プロダクトは成長しています。Prottは有料課金ユーザーについても、C向けのプロダクトのような派手さはないものの増え続けています。1月に新プロダクトのBaltoもローンチし、もう1つ新プロダクトのリリースを控えています。今回の調達でさらにリソース強化をしていきたいですね」(土屋氏)

1年ほど前の資金調達の際には、50人規模の組織を作る「壁」にぶつかり、そして乗り越えたばかりだと語っていた土屋氏。この1年を振り返って、「今度は100人の壁にぶつかっていました」と笑いながら語る。「どこまで行っても組織課題はついてくるもの。この1年もかなり大変でしたが、やっとグッドパッチは組織としての形ができつつあると感じており、既存事業の強化と新しい挑戦を推し進めていきたいと思います」(土屋氏)

組織化に苦しんだ1年——4億円を調達して自社プロダクト開発を強化するグッドパッチ

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏

ユーザーインターフェースデザインに特化したデザインスタートアップのグッドパッチ。同社は2月19日、DG インキュベーション、Salesforce Ventures、SMBC ベンチャーキャピタル、SBI インベストメント、FiNCを引受先とする総額4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。また資本参加した各社との事業連携も進める。

今回の資金調達をもとにプロトタイピングツール「Prott」のさらなる開発を行うほか、新サービスの提供を進める。また同社が拠点を持つドイツ・ベルリンを中心としたヨーロッパをはじめとして、Prottを世界展開していくという。

ニュースアプリの「Gunosy」や家計簿アプリ「Money Forward」、キュレーションアプリ「MERY」をはじめとしたユーザーインターフェースのクライアントワークを手がけつつ、自社プロダクトのProttの開発を進めてきたグッドパッチ。inVisionなど海外発のプロトタイピングツールがある中、Prottは現在世界140カ国・5万人以上が利用するまでになった。クライアントにはリクルートやヤフー、ディー・エヌ・エー、グリー、IDEOなどの名前が並ぶ。

「Prott」

「Prott」

会社は順風満帆、さらに調達して一気に自社プロダクト開発を進めるといった状況かとも思ったのだが、グッドパッチ代表取締役社長の土屋尚史氏いわく、この1年は「組織化に苦しんだ1年」だったという。

「フラットな環境」作れず、4カ月で10人が退社

「去年の今頃は社員50人がいたものの、役員は自分だけ。給与振り込みすら僕がやっていた。『伝言ゲーム』でなく、社長と直接話し合えるフラットな環境でいたいと思ったから。だがよかれと思ってやっていたことは、お互い不幸なだけだった」(土屋氏)

直接やりとりをするつもりが、スタッフの人数が増えすぎて結局1人1人とコミュニケーションを取ることができなくなった。採用を優先すると今度は現場のコミュニケーションができない状況になっていた。人材コンサルを入れて改めて組織作りを進めたが、昨年8月頃から4カ月で——転職や引き抜き、デザイナーとしての独立など様々な理由で——10人の社員が退社した。退職した社員の中には創業期からグッドパッチを支えたメンバーもいた。

前年比での成長はキープできたものの、スタッフが抜けたことで売上も下がった。だが苦しい時期だったが人材採用に関しては好調だった。経営陣を強化氏、事業責任者を置き、組織作りを進めて、80人規模の強い組織作りができているという。

「一番変わったのは『人に任せる』ということがやっとできるようになったということ。今までフラットさについて勘違いをしていた。たとえ組織が階層化されていたとしても、マインドセットがフラットであればそれでよかった」(土屋氏)。土屋氏はこれまでにFailconなどでも自身の創業期の苦悩を語ってきたが、昨年から今年のこの時期を越えて、「起業家」から「経営者」としての道を歩み出したと語る。このあたりの心境は土屋氏のブログで詳細に書かれている。

クライアントワークは継続、新サービスも開発

組織作りで苦労した1年だが、きっちりと成果も出した。例えばMERYなどは、日時利用者数ではブラウザのほうがユーザー数は多い一方、記事閲覧数では圧倒的にアプリが増えているのだという。グッドパッチがデザインしたアプリは、ウェブより回遊率の高い構造になっているというわけだ(ディー・エヌ・エーの決算資料より)。そのほか、コミュニティサービスの「ガールズちゃんねる」では、UI改善により1セッションあたりのPVで約124%増、PV数は約134%増という結果を残した。

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

「MERY」の成長(DeNA決算資料より)

調達では今後Prottの開発や世界展開に加えて、新サービスの提供も進める。新サービスはプロダクトマネジメントツール。プロトタイピングツールだけでなく、今後あらゆる開発工程を一気通貫で管理できるシステムの開発を目指す。「いわばAtlassian方式。BtoBのプロダクトは時間が掛かると思うが、3年後、5年後のインパクトは大きい。そのための調達だ」(土屋氏)

では今後、クライアントワークを捨てて自社プロダクトに注力するのかというと、そういうわけではないらしい。クライアントワークでデザインの価値を上げていきたいと土屋氏は語る。

「グッドパッチののミッションは『デザインの力を証明する』ということ。日本ではデザインが勘違いされてきた。ビジネスサイドが企画を立ててワイヤーフレームを書き、それをデザイナーがデザインして、エンジニアが実装するという世界だった。だがデザインへの投資を促さないといけない。海外では事業会社がデザイン会社を買収する流れが増えているが、日本ではやっとスタートアップで重要視されてきたというところ。『デザイン会社』という立場は捨てない。いかにプロダクトを主体的に作るデザイナーを育てるかは重要だ」(土屋氏)

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている

海外ではデザイン企業のM&Aも増えている

グッドパッチ、スマホ対応のプロトタイピングツール「Prott」を正式に公開


ニュースアプリ「Gunosy」をはじめとして、ユーザーインターフェース(UI)デザインに特化したウェブ制作会社グッドパッチ。同社は10月1日、プロトタイピングツール「Prott」の正式に公開した。

Prottは、プロトタイプを素早く作る「ラピッドプロトタイピング」と、必要なコミュニケーションを的確に行う「ラディカルコミュニケーション」をコンセプトにしたプロトタイピングツールだ。スケッチ画像や写真をアップロードし、左右へのフリックといった操作によって画面がどう遷移するかを設定していくことで、コードを書くことなくプロトタイプを作ることができる。また、ビジネス向けのコミュニケーションツールであるSlackやHipchatと連携することで、プロトタイプの更新情報も共有できる。

Prott – Rapid Prototyping for Mobile Apps from Goodpatch on Vimeo.

2014年4月にベータ版を開始したが、これまでに7000人のユーザーを獲得。デザインコンサルティングファームのIDEOをはじめ、ヤフー、ディー・エヌ・エー、イグニスなどの企業が利用している。今回の正式提供にあ
わせてiOS、Mac、Windows向けのアプリを提供している。実際にiOSアプリのデモを見せてもらったが、写真を取り込み、画面遷移時の動作を選択するだけで、手軽にプロトタイプを作ることができた。

料金は1プロジェクトであれば無料。複数プロジェクトを利用する場合には、1400円のスタータープランから大規模向けのエンタープライズプランまで複数のプランを用意する。

自身のブログ(現在は移転)にあるように、これまで務めていた製作会社を辞めて米国西海岸に行き、働いていた経験もあるグッドパッチ代表取締役の土屋尚史氏。同氏はシリコンバレーから生まれるサービスについて「ベータ版からUIのクオリティが高いものが多い」と説明する。日本だと、スマートフォンアプリを作る際、PCのウェブでの経験を詰め込みすぎる傾向にあるため、機能はすごくても、ゴテゴテしたUIになりがちなのだという。一方でシリコンバレー発のアプリは体験に重きをおいており、「いらない機能は落とす」というものが中心。「(デザイナーだけでなく)CEOからしてデザインに対する意識、考え方が違う。日本は遅れていると思う」(土屋氏)

土屋氏に教えてもらったのだけれども、Prottのようなプロトタイピングツールの競合は、日本企業ではまだいないのだそうだ。ただ海外を見てみると、「POP」や「invision」、「axura」(こちらはNTTデータが国内での販売を担当)など多い。invisionなどは直近も2000万ドルの資金調達をするなど、「ニッチだけれどもマーケットはある」(土屋氏)のだそうだ。

グッドパッチでは今後、Prottにワイヤーフレーム作成をはじめとしたさまざまな機能を追加するほか、外部連携なども進めていくとしている。