スマホVRのハコスコがKDDIとアイ・マーキュリーから資金調達、業務提携も拡大

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現地時間の5月18日に開催されたGoogle I/OでGoogleがスマートフォンVRのプロジェクト「Daydream」を発表したばかりだが、日本でもスマートフォンVRに関する動きがあったようだ。段ボール製の筐体を組み立ててスマートフォンを差し込めば、簡単にVRコンテンツを体験できる「ハコスコ」。このハコスコとVR動画共有プラットフォームの「ハコスコストア」を提供するスタートアップのハコスコが5月19日、KDDIの運営するファンド「KDDI Open Innovation Fund」およびミクシィ傘下のマーキュリーキャピタルから合計約5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

ハコスコの創業は2014年7月。代表取締役を務める藤井直敬氏は、MITの研究員を経て、独立行政法人理化学研究所(理研)の脳科学総合研究センター適応知性研究チームのリーダーとして「SR(Substitutional Reality:代替現実技術)システム」の開発に携わってきた。現在は、VRコンソーシアムの代表理事も務めている。2014年にはANRIがシードマネーとして3000万円の出資を行っている。

以前の取材でも聞いたのだが、ハコスコは初月から単月黒字を達成している。ビジネスはハコスコの販売や、アプリを通じたVRコンテンツ配信チャンネルの販売、VRコンテンツの製作など。企業のプロモーションなどで利用されるケースが多く、これまでに約50件の導入事例があるという。その内容は音楽アーティストの映像特典やアート、博物館の企画展と連動したコンテンツなど。筐体の荷台数は17万個。ハコスコストアのアプリダウンロード数はiOS、Android合わせて7万件。特定ユーザーへの限定公開も含めて、約5000本のVR動画がクライアント企業やユーザーからアップされた。

「ハコスコ本体も販売しているが、それだけでは価値を出せない。プラットフォームからコンテンツの提供までワンストップで実現できるのが強み」(藤井氏)。3D表示機能(左右の目それぞれに視差のある映像を表示することでe映像を立体的に見せること)についてはGoogleよりも早く対応している。

今回の資金調達はいずれもCVCからだが、これは事業提携の意味合いも強いためだそう。KDDIは今後VRプラットフォームの営業および集客⽀支援、同社のAR事業「SATCH」との連携を進める。またミクシィとは、先日発表されたばかりの「きみだけ360°チャンネル」を始めとしたVR エンタメコンテンツの開発で提携する。その他にも、エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ、グリー、アマナ凸版印刷、ポニーキャニオン、博報堂/博報堂プロダクツとの業務提携を進める。また、不動産、旅行、冠婚葬祭といった領域での提携も拡大。筐体はこれまでEC限定で販売していたが、今後は大手家電量販店でも販売していく。

ハコスコでは今後、段ボール筐体にこだわらず、スマートフォンだけでVR、ARなどを楽しめるプロダクトも開発していくという。「過去・現在、CG・リアルという4象限で言えば、今までは過去、CGの組み合わせのコンテンツが中心だった。それを現在、リアルなものであっても、(過去、CGと)あまり変わりのない体験にしたい」(ハコスコCOOの太田良恵子氏)。KDDIとの連携でARエンジンを組み込むほか、位置情報などをもとに「ある地点である方向を向いた際にだけ特定の体験をさせる」という、位置ゲー(位置情報ゲーム)のような体験を提供していくとしている。

2016年はVR元年となるか——普及のカギは「コンテンツ」にあり

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「2016年はVR元年になる」——業界関係者が期待する声は大きい。すでに発表されているOculus RiftPlayStation VRといったコンシューマー用のVR機器が発売されることもその後押しになると考えられている。11月17〜18日に東京・渋谷で開催された「TechCrunch Tokyo 2015」でも、そんなVRに関するセッション「VR最戦前:360度動画が開く新しい世界とビジネス」が開催された。

セッションに登壇したのは1000円のダンボール製VRデバイスとコンテンツプラットフォームを提供するハコスコ代表取締役の藤井直敬氏と、VR向けの「360度動画」を制作しているHOME360代表取締役の中谷孔明氏。いずれも国内VR業界のキーパーソンだ。VR専門メディア「PANORA」編集長の広田稔氏がモデレーターを務めた。

VRはまだアーリーアダプターも食いつくせていない

ハコスコ代表取締役の藤井直敬氏

ハコスコ代表取締役の藤井直敬氏

「VRはもう体験した? あれはすごいよね」—そんな声が新しいモノ好きの間で聞こえはじめてから2年ほど経った。しかし、実際にデバイスを持ち、日常的にVRを体験している人はごくわずかだ。

ハコスコの藤井氏も「未だにアーリーアダプターさえ食いつくせていない」と現状を語る。エベレット・M・ロジャーズが掲げた「イノベーター理論」でいうところのイノベーター(全体の2.5%)には波及しているが、アーリーアダプターと呼ばれる比較的流行に敏感な層(全体の13.5%)までは届いていないという。

ゲームやエンタメから始まり、さまざまな領域で利用できると考えればVRのマーケットは巨大だと言える。しかし果たして本当にVR浸透していくのか? 今回のセッションではその一般化に向けた「キー」はVRの「コンテンツ」だという話が強調されていた。

「10カ月視聴され続けるコンテンツ」に普及の可能性

ハコスコで1月にリリースされたコンテンツで、未だに人気を博している動画がある。男性3人組アイドルグループ「Lead」のプロモーションビデオだ。動画を撮影したのはありきたりな普通のスタジオ。演出も凝っているわけではなく、ただひたすら3人が360度から自分に歌いかけているように見えるという動画だ。藤井氏は、この動画にVRが普及する可能性があると語った。

HOME360代表取締役の中谷孔明氏

HOME360代表取締役の中谷孔明氏

「普通、アーティストのプロモーションビデオは続けて見られることは少ない。それが実際に今でも見られ、視聴者からは『出勤前に見て元気を貰ったと』いうコメントがきている。この動画のヒットには、一般化に向けた可能性があると感じ、深堀していきたいと考えている」(藤井氏)

また、アーリーアダプターやイノベーターではなく、Leadのファンというセグメントにリーチすることができたこと。そしてVRの最大の魅力である没入感のみで感情を動かすができたことは、一般の人々にどのようにコンテンツをしかけていくべきかのヒントになるだろう。

4分の動画で1TBに……高品質化に課題

VRコンテンツでは、実写動画の場合360度動画が必要となる。この360度動画は実際にヘッドマウントディスプレイを通すと、中心以外は解像度が下がって見えてしまうという特徴がある。没入感や臨場感を高めるためには、より高い解像度の動画が求められるわけだが、高品質化には大きな課題があるとHOME360の中谷氏は指摘する。

VRコンテンツの、あくまで「現状」最適なフォーマット

セッション中に提示された、VRコンテンツの(あくまで“現状”)最適なフォーマット

 

「普段4Kや8Kで撮影、編集をするが、これらを再生するにはハイスペックなPCが必要となる。また、8Kの360度動画の場合、1分の動画でデータ容量が250GB程度あるため、編集作業に時間がかかる。そもそもまだAdobeの編集ソフトが対応していなかったりする」(中谷氏)

1分で250GB、つまり4分動画で1TBということだ。このデータ容量の大きさは、編集だけでなく配信するときにも大きな障壁となることは間違いない。ただ中谷氏もVR普及のために重要なのはコンテンツの解像度より内容のほうが重要であると語った。

「一番大事なのはコンテンツの内容だ。いくら8Kでも単に撮りっぱなしのコンテンツはつまらないですから」(中谷氏)

TechCrunch Tokyo 2015内でデモを行ったH2Lの「UnlimitedHand」は、筋肉への電気刺激でユーザーに触覚を与える、VRとの連携を想定したデバイスであった。そんな周辺機器の開発も進むなど、VRの波はそこまで来ている。2016年のVR元年からはじまる産業が数年で廃れてしまうことのないようにまずはコンテンツの発展に期待したい。

ダンボールとスマホでVR体験ができるハコスコ、パノラマ動画の共有サイトをオープン

ダンボール製の筐体にスマートフォンを差し込んでVRコンテンツを楽しめる「ハコスコ」。12月にANRIからの資金調達や博報堂との提携を報じたが、その記事内にもあったVR・パノラマ動画の共有サイト「ハコスコストア」を1月22日にオープンした。開発は、パノラマ動画システムを開発するカディンチェが協力している(カディンチェのパノラマ動画についてはこちらも参照して欲しい)。

ハコスコストアでは、最大500MBまでのVR・パノラマ動画を共有できる。視聴モードはハコスコなどVR用端末での閲覧に適した「Normal Virew」のほか、PCでの閲覧がしやすいように、パノラマ動画を展開して表示する「Flat View」など複数を備えている。もちろん誰でも動画のアップロードが可能。ただし、パノラマ動画に対応するカメラでの撮影は必須だ。自作したカメラで撮影した画像をソフトで加工して…ということもできるが、リコーのTHETA m15などを購入するのが一番手っ取り早いと思う。

ハコスコを使ったVRは、「たった1000円のダンボールキットとスマホだけでこんな体験ができるのか!」と僕も驚いたのだけれども、やっぱり課題となるのはコンテンツ。同社でも公式のコンテンツを用意したりしているが、正直なところ数が足りないと思っていた。

ハコスコでは、観光地やレジャー施設のプロモーション動画やイベントのプロモーション、ライブ会場の様子やその舞台裏、メモリアルイベントなどをストアにアップして欲しいとしている。


1000円ですごいVRを体験できるハコスコ――ANRIが出資、博報堂と提携

 

FacebookのOculus VR買収以降、VR(仮想現実)を取り扱うプロダクトに今まで以上の注目が集まるようになった。同社のOculus Riftもそうだし、Oculusと同じく南カリフォルニア大学の混成現実研究所から生まれたSurviosもそう。サムスンはGalaxy Note 4をセットして使う「Samsung Gear VR」を発表しているし、日本でもFOVEのような製品が登場している。Kickstarterなんかを見るとまだまだ新しいプロダクトは登場しそうだ。

これらの製品の幾つかは僕も体験したことがあって、そのリアルさには驚かされた。Oculusをセットし、イヤフォンをつけてジェットコースターの映像を流すと、急降下のタイミングで思わず叫び声が出そうになってしまった。

ただこれらの製品、まだまだ日本では買えなかったり、買えてもそれなりのお値段だったりと、普及という点では難しい。VRをマーケティングに使いたいなんて声は聞くが、実際に端末を配るわけにも行かず、展示会などでは複数の端末を並べるも、「30分待ちのアトラクション」のようにみんなが順番を待って利用しなければならない。

そんな経験をスマートフォンとたった1000円のキットで実現してくれるのがハコスコの手掛ける「ハコスコ」だ。

プロダクトの素材はダンボール

ハコスコの素材はなんとダンボール。それにレンズが1枚付いているだけというシンプルなもの。折りたたまれた状態で販売されているので、利用するにはダンボールを組み立て、レンズをはめればOK。5分とかからずに完成する。完成したハコスコのスリットに対応アプリ(パノラマ写真、動画、CGなど)を立ち上げたスマートフォンを挿入すれば、VRコンテンツを体験できる。

単眼と二眼(視差を利用した立体視に対応)、スマートフォンのサイズに合わせて複数のバージョンが用意されている。それに加えてダンボール製ということで、ユーザーがいろいろとカスタマイズして使っているそうだ。なお、現在はより簡単なしくみで、かつ視野角の確保できる単眼モデルに注力している。

ほかのVR関連プロダクトを幾つか体験してきた僕なので、正直「ダンボールとスマホだけではたしてどんな体験ができるのか?」と思っていたのだけれど、いざ使ってみるとこれが驚くほどのクオリティだった。視野が覆われ、頭の動きとほぼリアルタイムに画像が追随する。もちろん単眼なので立体映像ではないし、音声まで連動するわけではない。そのあたりの是非はあるかも知れないが、そもそもOculusなんかと比較する意味のあるプロダクトではないと思う。単眼ならスマホで広い角度の画像を見れるし、あまり「VR酔い」をしにくそうなので僕としてはこれで十分だと思う。

ハコスコ代表取締役の藤井直敬氏は、MITの研究員を経て独立行政法人理化学研究所(理研)に務める人物。脳科学総合研究センター適応知性研究チームPIとして、SR(Substitutional Reality:代替現実技術)システムの開発に携わってきた。そんな藤井氏は「工学の人はスペックに向かってしまう。だがSRの研究で分かったのは、スペックではなくて、(脳科学的な観点で)利用者が『本物だ』と信じれるかどうか。Oculusと同じ文脈で考えても仕方ない」と語る。ダンボールというとGoogleも同様のプロダクトを作っていたが、こちらは藤井氏曰く、Oculusをどれだけ安価に再現するかという方向性を持っており「我々とはまた違う」とのことだった。

理研発のベンチャー

藤井氏がもともと手がけていたSRシステムも、これはこれですごい体験ができるそうだが、実際に体験するには最低でも数十万円の機材が必要になる。部屋ごとシステムに対応しようものなら数百万円と普及するような価格ではない。この研究の成果を最大限に簡素化して作ったのが、ハコスコなのだという。

実は理研には「理研ベンチャー認定・支援制度」と呼ぶ制度がある。研究の中で生み出した技術のライセンスを使って起業することを許可しているそうで、藤井氏もこの制度を使ってハコスコを創業した(余談だが、わかめスープで有名な理研ビタミンやコピー機、光学機器メーカーのリコーなど、僕らに身近な製品を出しているメーカーも理研にルーツがあったりする)。

同社の創業は2014年7月。メンバーは藤井氏とその妻でCOOを務める太田良恵子氏の2人で、外部に複数の協力者がいる。ビジネスモデルは(1)ハコスコの販売、(2)配信チャンネルの販売、(3)コンテンツ製作――の3点。すでに企業やブランドとのタイアップが進んでおり、「2人でやっているとは言え、初月から黒字の状況」なのだそう。出荷数もすでに4万台(個?)を超えた。今後は専用アプリの配信チャンネルを拡大するほか、コンテンツの拡大を進める。

ANRIが出資。博報堂との提携も

同社は11月にANRIから3000万円の資金を調達しており、今後はエンジニアをはじめとした人員拡大を進める。「今までも外部に協力者がいたが、一緒に考えてくれる、一緒に作れるという人が欲しい」(藤井氏)。

また12月19日には、博報堂および博報堂プロダクツとマーケティング向けソリューションの共同開発についても発表した。すでに企業のマーケティングなどでマネタイズしているハコスコだが、今回の提携によってその動きを強化する。スマホと1000円のキットでVRを体験できるのだ。前述のとおり展示会で「30分待ちのアトラクション」になっていた体験を、ハコスコを配布して一斉に体験するなんてことができたりするというわけだ。