IonQがIBMの量子コンピュータ開発キット「Qiskit」をサポート

先にSPACを通じて上場したイオントラップによる量子コンピューティング企業のIonQが米国時間4月12日、同社の量子コンピューティングプラットフォームをオープンソースのソフトウェア開発キットであるQiskitと統合すると発表した。つまりQiskitのユーザーはコードに大きな変更を加えることなく、自分のプログラムをIonQのプラットフォームに持ち込むことができる。

これは一見大したことはないように思えるが、QiskitはIBM Researchによって設立されたIBMの量子コンピュータ用デフォルトツールであることは注目に値する。IBMとIonQ(公平を期すためにいうと、この分野の他の多くの企業も)の間には健全な競争関係があり、その理由の1つは両社がそれぞれのプラットフォームの中核で非常に異なる技術を採用しているからだ。IonQはイオントラップに賭けており、これによりそのマシンは室温で稼働できるが、IBMの技術ではマシンを過冷却する必要がある。

IonQは今回、Qiskit用の新しいプロバイダライブラリをリリースし、GitHub上のQiskitパートナーリポジトリの一部として、またはPython Package Index経由で利用可能な、Qiskit用の新しいプロバイダライブラリをリリースした。

IonQのCEO兼社長のPeter Chapman(ピーター・チャップマン)は「IonQは当社の量子コンピュータとAPIをQiskitコミュニティが簡単に利用できるようにすることに興奮しています。オープンソースはすでに、従来のソフトウェア開発に革命を起こしています。今回の統合により、広く適用可能な第一世代の量子アプリケーションに世界が一歩近づくことになります」。

一方で、これはIonQがIBMを少しいじめているようにも見えるが、Qiskitが量子コンピュータを扱うデベロッパーの標準になったことも認めているともいえる。しかしこのようなライバル関係を別にすれば、私たちは量子コンピューティングの初期段階にあり、まだ明確なリーダーがいないため、量子コンピュータ向けのアプリケーションを開発したいと考えている開発者にとっては大きなメリットとなる。

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タグ:IonQIBMQiskit量子コンピュータ

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:塚本直樹 / Twitter

IonQ、2023年にデータセンター向けラックマウント型量子コンピューターを発売予定

量子コンピューティングのスタートアップIonQ(イオンキュー)は12月9日、今後数年間のロードマップを発表した。9月のIBM(アイビーエム)からの同様の動きに続くものだが、その内容は控えめに言っても、かなり意欲的なものだ。

今年初めのTechCrunch Disruptイベントで、イオンキューのCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、わずか5年後にはデスクトップ型の量子コンピューターが手に入ることを示唆した。これは、全く異なる方式の量子テクノロジーを使用していることも多い同社の競合企業からは聞ける話ではないだろう。しかし、イオンキューは、2023年にはデータセンター向けにモジュラー型のラックマウント量子コンピューターを販売できるようになり、2025年までに同社のシステムは、さまざまなユースケースで量子の幅広い優位性を実現できるほど強力なものになるだろうと言う。

今日の発表に先立って行われたインタビューで、チャップマン氏は、同社が2021年に向けて取り組んでいるハードウェアのプロトタイプを見せてくれたが、それはワークベンチに収まるものだった。実際の量子チップの大きさは、現在50セント硬貨の大きさだ。同社は、システムを動作させるすべての光学系を統合した1つのチップに、実質上、同社のコアテクノロジーを実装しようと試みている。

画像クレジット:イオンキュー

 

「それが目標だ」と同氏はチップについて語る。「2023年になればすぐに、別の方法でスケールアップすることができる。そして、台湾の誰かに量産を頼んで1万個作ってもらえばいい。製造でもスケールアップが可能になる。当社が開発しているハードウェアの中にあるもので量子的なものは何もない」と同氏は述べたが、イオンキューの共同設立者でチーフサイエンティストのChris Monroe(クリス・モンロー)氏はすぐにそれに割って入り、「原子を除いてはそうだ」と付け加えた。

これは重要なポイントだ。同社のマシンのコアテクノロジーとしてイオントラップ型量子コンピューティングに賭けたおかげで、イオンキューは、アイビーエムなどがマシンを機能させるために必要とする、低温度に悩まされる必要がないからだ。一部の懐疑論者は、イオンキューのテクノロジーはスケールアップが難しいと主張しているが、チャップマン氏とモンロー氏はそれをあっさりと否定している。事実、イオンキューの新しいロードマップでは、2028年までに数千のアルゴリズム量子ビット(algorithmic qubit、誤り訂正処理のために、10倍から20倍の物理量子ビットで構成されるイオンキュー独自の指標)を持つシステムを目指している。

「2024年の初めに約40量子ビット(アルゴリズム量子ビット)に達した時点で、おそらく機械学習において量子の優位性が見られるようになるだろう」とチャップマン氏は説明する。「ある程度広範な分野で量子の優位性が得られるのは、大体72量子ビットに到達した時ではないかというのが共通認識だろう。つまり、2025年だ。2027年に入れば、数百量子ビットに達するだろう。もしかしたら[2028]年には数千量子ビットに達するかもしれない。そして今や、完全なフォールト・トレランスに乗り出しつつある」。

イオンキューは量子アルゴリズムの実行に使用できる量子ビットをアルゴリズム量子ビットと呼んでいるが、その増加数は、徐々に大きくなっていくだろう。業界の人間は「論理量子ビット」について話す傾向があるが、イオンキューの定義は少し異なる。

異なる量子システムを比較する方法について話していると、チャップマン氏は「忠実度は十分ではない」と指摘する。搭載するのが72量子ビットであろうと7200万量子ビットであろうと、そのうちの3量子ビットしか使えないのであれば意味がない、と同氏は言う。「『1000量子ビットに達する予定』と書かれたロードマップを見ても、『それで?』となるだけだ。当社であれば、個々の原子を使っているので、ガスの小瓶を見せて、『見てくれ、1兆量子ビットある、すぐに計算に取り掛かれるぞ!』と言うことができる。しかし、それではあまり実用的ではない。そこで、当社のロードマップでは使用できる量子ビットについて説明しようと試みたわけだ」。

同氏はまた、アイビーエムや量子エコシステムに参加する他の企業が支持している量子ボリュームは、あるポイントでの数値が高くなりすぎるため、特に有用ではないと主張する。しかしイオンキューは、基本的にはまだ量子ボリュームを使用しているものの、アルゴリズム量子ビットを特定のシステムの量子ボリュームの二進対数として定義している。

イオンキューが32アルゴリズム量子ビット(現在のシステムは22)を達成できれば、現在のシステムでの400万量子ボリュームに代わり、42億量子ボリュームを達成することが可能になるという

モンロー氏が言及したように、同社のアルゴリズム量子ビットの定義には、可変誤り訂正も考慮されている。誤り訂正は量子コンピューティングの主要な研究分野であることに変わりはないが、当面はゲートの忠実度を高く保つことができるため、まだ心配する必要はないとイオンキューは主張する。そして、既に初めてのフォールトトレラントな誤り訂正処理を13対1のオーバーヘッドで実証している。

「当社の方式のエラー率は、もともと非常に低いため、現時点の22アルゴリズム量子ビットであれば誤り訂正を行う必要はない。しかし、[99.99%]の忠実度を得るために、多少の誤り訂正を含めるつもりだ。それはいつでもできる。簡単な調整のようなものだ。どの程度の誤り訂正が必要かというと、オールオア・ナッシングではない」とモンロー氏は説明する。

イオンキューは、「他の方式では、ゲートの忠実度や量子ビットの接続性が低いため、1つの量子ビットの誤り訂正を行うには、1000、1万、あるいは10億量子ビットが必要になるかもしれない」との考えを率直に話す。

イオンキューは同日、これらすべてを実践し、システムの比較が容易になるとするAlgorithmic Qubit Calculator(アルゴリズム量子ビット計算機)を公開した。

近い将来、イオンキューは、誤り訂正のために16対1のオーバーヘッドを使用する予定だ。つまり、1つの高忠実度のアルゴリズム量子ビットを確保するために16の物理量子ビットを使用するということだ。そして、約1000論理量子ビットに達する時には、32対1のオーバーヘッドを使用する予定だ。「量子ビットを追加すると、忠実度を上げる必要がある」とチャップマン氏は説明する。つまりイオンキューは、2028年の1000量子ビットマシンのためには、3万2000物理量子ビットを制御する必要があるということだ。

イオンキューは、自社方式のスケールアップに技術的なブレークスルーは必要ないと長い間公言してきた。実際、同社は、1つのチップに多くのテクノロジーを搭載することで、特別なことをしなくてもそのシステムは、より安定したものになると主張する(結局のところ、ノイズは量子ビットの大敵だ)。また、レーザービームを遠くまで飛ばす必要がなくなることも、安定する理由の1つだ。

チャップマン氏は、些細なことでもためらわず宣伝するが、同社は近日中に量子コンピューターの1台を小型飛行機で飛ばして、システムの安定性のデモンストレーションを計画しているとさえ述べている。しかし、注目に値するのは、イオンキューが短期間でシステムをスケールアップすることに、競合企業よりもはるかに強気であるということだ。モンロー氏も同様の認識だが、現時点では基本的な物理学の話だと主張する。

「特にソリッドステートプラットフォームでは、物理学の面で素晴らしい仕事をしている」とモンロー氏は言う。「毎年少しずつ進歩しているが、10年後のロードマップは、ソリッドステート(固体)量子ビットをベースにしたもので、物質科学のブレークスルーに依存している。達成は可能かもしれないが、確証はない。しかし、原子の物理は上手くまとめられているし、当社は工学的な進路に非常に自信を持っている。なぜなら、実績のあるプロトコルと実績のあるデバイスに基づいているからだ」。

「当社には製造の問題がない。100万個の量子ビットが欲しいって?問題ない。すぐにやってみせるさ」とチャップマン氏は冗談交じりに話した。

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(翻訳:Dragonfly)

米国のIonQが史上最強の量子コンピュータを開発したと発表、IBMの量子ボリュームの記録を2桁も上回ると主張

イオントラップ型量子コンピュータの開発で注目を集めているスタートアップ、IonQが米国時間10月1日に「完全な32キュービット(qubit)で低ゲートエラーのコンピューターを開発した」と発表した。

IBMが用いるベンチマークでIonQは400万量子ボリュームを達成するものと期待している。これはIBM自身が記録した量子ボリュームを2桁も上回るもの(IBMリリース)で驚くべき飛躍だ。事実であれば、これが史上最も強力な量子コンピュータであることは間違いない。

スタートアップとして豊富な資金調達に成功している(未訳記事)同社だが、これまで量子ボリュームという指標を使ったことはなかった。同社の広報担当者によれば、IonQは量子ボリュームが必ずしもマシンの性能を表す最適の指標とは考えていなかったという。しかし業界全体がこの指標を使うようになったため、同社としても量子ボリュームの数字を発表したという。同社は キュービット相互作用の信頼性が99.9%であることがこの成果を生んだとしている。

IonQのCEOでプレジデントのPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は「単一世代のハードウェアの中で、IonQは11キュービットから32キュービットへの進化に成功しました。さらに重要な点は、32キュービットすべてを高い信頼性で動作させることに成功した点です。カスタマーやそのアプリケーションによって違ってきますが、量子コンピュータで80キュービットから150キュービットで高信頼性の論理ゲートを実現し、さらに毎年キュービット数を倍増ないしはそれ以上に増加させたいと考えています。2つの新世代ハードウェアをを開発中です。現在、量子テクノロジーを手がけていないコンピュータ企業は時代に取り残される危険性があります」と述べている。

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

IonQのイオントラップというアプローチは、これまでIBM(D-Waveもそうだ)が採用している方式とは大きく異なる。量子コンピューティングでは異なるメーカー、特に異なるテクノロジーを用いている場合におけるキュービット数の比較は難しい。しかし量子コンピュータのおおよその能力を測るものさしとして便利なために、広く用いられている。

IonQ共同創業者兼最高化学責任者のChris Monroe(クリス・モンロー)氏は「今回発表したシステムはこれまでの量子コンピュータでは不可能だったタスクを可能にします。さらに重要なのは新しい(イオントラップ)テクノロジーが、さらに処理能力を拡大していくことを可能にする方法に見極めがついた点です。新しいIonQシステムは量子コンピューティングの実用化における聖杯ともいうべき『複数キュービットを用いて耐障害性が高いシステムを構築する』という目標の達成に道筋を開いたものです」と述べた。

新しい誤り訂正技術を開発したことによりIonQでは「ほぼ完璧な」理論キュービットを実現するために13キュービットしか必要しないとしている。

現在、IonQの新しいシステムはプライベートなベータとして提供されている。こうした初期ユーザーからのフィードバックが同社の主張を裏づけるものであるかどうか興味深い(IonQの発表した数字が飛躍的な進歩を意味するため、量子コンピューティング関係者からも懐疑的な意見がいくつか出ている)。将来はパートナーであるAmazon(アマゾン)のAmazon BraketやMicrosoft Azureの量子クラウド、Quantum Cloudサービスを通じて提供していく考えだ。

次世代システムの筐体はどちらかというと平凡な印象を与える。しかし極めて高度なレベルで安定した環境(温度、振動、湿度など)を必要とするようだ。

画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

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画像クレジット:Kai Hudek, IonQ

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

「あと5年でデスクトップ型量子コンピューターが登場する」と量子コンピューター企業CEOが発言

米国時間9月14日、TechCrunch Disrupt 2020で量子コンピューター系スタートアップのリーダー3名が、TechCrunchの編集者であるFrederic Lardinois(フレデリック・ラーディノイス)との座談会に出席し、量子コンピューター技術の将来について話し合った。そこでIonQ(アイオンキュー)のCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、現在からわずか5年でデスクトップ型の量子コンピューターを実現できると発言したが、この楽観的なタイムラインに他の参加者からの同意は得られなかった。

「今後数年以内、5年かそこらで(デスクトップ量子コンピューターを)見かけるようになります。私たちの目標はラックマウント式の量子コンピューターです」とチャップマン氏。

だがそれは、 D-Wave Systems(ディーウエイブ・システムズ)のCEOであるAlan Baratz(アラン・バラツ)氏にはやや楽観的に聞こえた。バラツ氏の企業が開発に取り組んでいる超伝導技術には、希釈冷凍機と呼ばれる特殊な大型の量子冷蔵ユニットが必要となるが、その点から見ても5年間でデスクトップ型にするというゴールは実現性が乏しいという。

Quantum Machines(クオンタム・マシンズ)のCEOであるItamar Sivan(イータマー・シバン)氏も、そうした技術を手にするまでには数多くのステップを踏む必要があり、実現には数多くの難関を越えなければならないと考えている。

「この挑戦は、決まった適切な素材を1つ見つければよいとか、特定の方程式を解けばよいといった性質のものではないのです。解決すべき問題は学際的なもので、まさにチャレンジなのです」とシバン氏。

チャップマン氏は、特殊な量子マシンが現れる可能性も想定している。例えばクラウドを通じて量子コンピューターに効率的なアクセスができない軍用機などに搭載されるものだ。

「クラウド内に組み込まれたシステムに依存できないのです。そうなれば、飛行機にそれを積むしかない。量子コンピューターを軍事利用するためには、辺境で使える量子コンピューターが必要になります」と彼は話す。

1つ指摘しておくが、IonQの量子コンピューターへのアプローチは、D-WavesやQuantum Machinesのものとは異なっている。

IonQでは、原子時計における先進的な技術がその量子コンピューター技術の中核となっている。Quantum Machinesは、量子プロセッサーの開発は行わず、そうしたマシンを制御するハードウェアとソフトウェアのレイヤーを開発している。それらは、従来型のコンピューターでは不可能なレベルに到達しつつある。

一方、D-Waveは「量子焼きなまし法」と呼ばれる方法を採用している。何千ものキュービットを生成できるが、その代償としてエラー率が高くなるというものだ。

今後数十年、技術がさらに進歩する過程で、これらの企業はみなパワフルなコンピューティングのスタート地点を顧客に提供することで、価値を提供できると考えている。そのパワーを制御すれば、昔ながらのコンピューティングという観念は一変する。しかしシバン氏は、そこに至るまでにたくさんのステップがあると語る。

「これは大変な挑戦です。しかも、量子コンピューティングのスタック内の各レイヤーごとに、そこに特化した高度に専門的なチームを必要とします」と彼は話す。その問題を解決する1つの方法として、こうした根本的問題のそれぞれを解決する幅広い協力関係の構築がある。今すぐ多くの人たちのために作ろうと決めたにしても、クラウド企業と協力しなければ、量子コンピューターは実現できない。

「この点において、2020年はとても興味深い提携関係がいくつか見られました。これは、量子コンピューターの実現に欠かせないものです。IonQとD-Wave、そしてその他の企業は、他の企業のクラウドサービスを通じて独自の量子コンピューターを提供するクラウドプロバイダーと提携しました」とシバン氏。彼の会社も、数週間以内に独自のパートナーシップを発表すると語っていた。

これら3つの企業の最終目標は、本当の量子パワーを発揮できる汎用量子コンピューターをいずれ完成させることだ。「私たちは、これまでのコンピューターではできなかったことを可能にするために、汎用量子コンピューターへの前進を続けることができ、また続けるべきなのです」とバラツ氏は話す。しかしバラツ氏も他の2人も、このゲームのラストに至る道程の、まだまだ序盤のステージにいるという認識は持ち合わせている。

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タグ:量子コンピューター IonQ D-Wave Systems Quantum Machines Disrupt 2020

画像クレジット:solarseven / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)