【スタートアップバトルへの道】「登竜門として、試すにはいい舞台」2016 Winner / Kids Public #2

例年11月に実施される、スタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo」。通算9回目となる今年も11月14日(木)、15日(金)に東京・渋谷ヒカリエでの開催が決定している。そのTC Tokyoで毎年最大の目玉となる催しは、設立3年未満のスタートアップ企業が競うピッチイベント「スタートアップバトル」だ。

連載「スタートアップバトルへの道」では、2016年、2017年のスタートアップバトル最優秀賞受賞者と昨年の決勝に勝ち残ったスタートアップ計8社に取材。バトル出場までの道のりや出場してからの変化について、登壇者に話を聞いている。

連載のトップバッターはTC Tokyo 2016 スタートアップバトルで最優秀賞を獲得したKids Public(キッズパブリック)代表の橋本直也氏。2回に分けてお送りするインタビューの後半では、Kids Publicが見据える医療サービスの近未来と同社の今後の展望、そしてこれからスタートアップバトル出場を目指す起業家たちへのメッセージをお伝えする。
(出場までの経緯や準備、出場後の社内外の変化について橋本氏が語ったインタビュー前半はこちらから)

これからの医療でスマホは重要な接点になる

TC Tokyo 2016のスタートアップバトルに出場、小児科に特化した遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」で優勝を果たした後、Kids Publicでは小児科オンラインに続くプロダクトとして、「産婦人科オンライン」を2018年11月に立ち上げた

小児科医でもある橋本氏は「子育て期の悩みは、妊娠期から兆候が現れることがよくある」と述べている。「妊産婦死亡の原因の中で、妊娠中から産後にかけての自殺が今、最も多くなっている。妊娠中から産後、子育て期にかけて、オンラインで切れ目なく妊産婦さんと子どもに関われる仕組みを用意すべきだと考えた」(橋本氏)。

切れ目のないケアの必要性を感じていた一方、小児科医だけでは実現が困難であった。そんな中、現在産婦人科オンラインのサービス代表を務める産婦人科医の重見大介氏と出会う。「同じ考え、想いを持った彼との出会いは最高の幸運だった」と橋本氏は語る。

産婦人科オンラインは、企業の福利厚生の一環として従業員向けに導入されたり、住民サービスの一環として自治体により導入されたりしてきたが、今年6月には学校を通じて、高校生・大学生向けにも展開されるようになった。

「欧米では、産婦人科のかかりつけ医を持つことが一般的で、母親が自分のかかりつけ医に娘を思春期のうちに紹介することもよくある。日本では妊娠や出産についての情報が、海外に比べて早めに伝えることができていない。妊娠・出産に関する知識を持つことは大切なこと。避妊など、大事なことなのに伝えることがタブー視されているが、知識を持つなら早い方がいい。健康について主体的に考え始める学生の時期から、情報を伝えられるようにしたい。学生の場合はLINEが接点になるということもあって、オンライン相談サービスは親和性が高いと考えている」(橋本氏)。

TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルでも語られたことだが、橋本氏は「患者が来るのをクリニックで待っているだけでは解決できない課題、届かない孤立や不安がある。小児科医がいる場所に子どもたちが来るのではなく、子どもたちがいる場所に小児科医がいる、それがこれからの小児医療において重」との考えを持っている。そのとき、毎度医師が出向くというわけではなく「接点になるのはスマホだ」と橋本氏はいう。

日本の小児科を取り巻く環境でいえば「基本的に子どもたちの身体の健康は良好な状態だ」と橋本氏は述べる。昔に比べれば栄養状態もよく、衛生管理や予防接種の普及などにより、致命的な感染症などはほとんど見られなくなっている。一方で「より生活に根付く問題、例えば発達が気になるとか、不登校やアレルギー、それに親の育児不安や虐待などの割合は大きくなってきている」と橋本氏。「そうした新しい課題に対して、従来の医療のアプローチでは限界がある。それには違ったアプローチが必要だ。患者の生活、日常の中にヒントがあり、医師がそこにリーチしなければ、問題は解決しない」と語る。

「日本は平均寿命も高く、世界的にも健康と見られている国だが、一方で今の疾患構造に合ったアプローチが必要になってきた。そのためには接点を増やすべきだが、その接点として、一つの解決策になり得るのは、やはりスマートフォンになるだろう」(橋本氏)。

オンライン医療相談は生産性の向上にもつながる

橋本氏は今後Kids Publicの目指すところを、次のように語っている。「日本では年間91万人の子どもが生まれ、同じだけ妊婦さんがいる。その数に対して医師や助産師はリソースが限られているが、提供できる知識やスキルを最大限に広く届けたい」。

現在の小児科オンライン、産婦人科オンラインのサービスは、医師や助産師と相談者が1対1で対応するようになっており、そのことが好評を得ている。だが「いつかは1対1対応では、対応する医療者が不足するようになる」として、「今のクオリティを落とさずにサービスを届けることを、実現したい」という。

そのために利用できると橋本氏が考えているのが、現在の各サービスでの回答データだ。相談に対する回答データの蓄積は着実に進んでいるとのことで、「それを生かして次のステップへ行きたい」と話している。

またKids Publicでは「小児科オンラインジャーナル」「産婦人科オンラインジャーナル」といった、医師・助産師が執筆し、監修にも別の医師・助産師がついた、プロによる医療メディアも展開している。これらも子育て世代や妊産婦へ情報を届けるためのアプローチのひとつ、と橋本氏は述べる。ジャーナルでは、相談サービスでよく寄せられる相談をピックアップして記事化も行っているという。妊婦では特に近年、インターネットが情報源になっている部分が大きいが、必ずしも正しい情報を得られていないことから、「正しい情報を提供していく」ことはジャーナルでも強く意識されている。

サービス、メディア展開の目的について「一番は不安の解消」と橋本氏は説明する。「学生さんには、婦人科の悩みで『こんなことをお医者さんに聞いてもいいんだろうか』と考えてなかなか受診せず、症状が悪くなっていく人も多い。『これはクリニックに行って聞いていいことなんだよ』という啓発をしていく。逆に子どもが生まれると今度は、不安に駆られて外来へすぐに訪れてしまうという人が多い。だから『こういう状況なら、明日の朝まで様子を見ても大丈夫ですよ、安心していいんですよ』という情報を伝えたい。これは、小児科外来の医師の負担の解消にもつながる」(橋本氏)。

小児科オンライン、産婦人科オンラインに共通しているのは「LINEだから言えた」という相談者が多いことだと橋本氏はいう。「対面では相談しにくいことも、オンラインだと聞きやすいという人は多い。医療者との間に新しいコミュニケーションを引き出すきっかけにもなっている」(橋本氏)。

ビジネス面では「顧客企業の社員からも評判はよく、企業から従業員への健康や子育てに対する応援メッセージとして受け止められている」ということだ。育児休暇明けの不安の解消、自信につながるというほかに、子どもの看病で「夜中に病院に行かずに済んだ」「会社を休まなくて済んだ」といった声もあるそうで、「導入企業の生産性の向上にもつながっている」と橋本氏は話している。

自治体においても、同様に住民への自治体のメッセージとして受け止められているとのこと。「無医村でなくとも、専門医はいない、という地域はあり、いても距離が離れている、という地域もあって、そうした地方ではオンラインで相談が受けられるという点が評価されている。また都市部には都市部で『人のつながりが希薄で相談ができない』といった悩みがあり、それを解消できると思う」(橋本氏)。

バトル出場を目指す起業家へのメッセージ

Kids Public代表 橋本直也氏

今後スタートアップバトル出場を目指すスタートアップには、橋本氏から「出場は、社会にサービスを知ってもらうにはいい機会だ。起業家には社会を変えたいという人が多いと思うが、まずは知ってもらわないと始まらない」とメッセージを寄せてもらった。

「どんな人に事業のアイデアが響いて、共感が生まれるかどうかは、訴えて見てもらわなければ分からない。審査員やオーディエンスの評価が分かるので、バトルはスタートアップの登竜門として、知ってもらうきっかけとして試すにはいい舞台ではないかと思う」(橋本氏)。

 

TC Tokyo 2019 スタートアップバトルの詳細はこちら。2019年9月30日までエントリーを受け付けているので、我こそはというスタートアップからの応募を心よりお待ちしている。

 

【スタートアップバトルへの道】「どうせなら多くの人に訴えたい」2016 Winner / Kids Public #1

例年11月に実施される、スタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo」。通算9回目となる今年も11月14日(木)、15日(金)に東京・渋谷ヒカリエでの開催が決定している。そのTC Tokyoで毎年最大の目玉となる催しは、設立3年未満のスタートアップ企業が競うピッチイベント「スタートアップバトル」だ。

連載「スタートアップバトルへの道」では、2016年、2017年のスタートアップバトル最優秀賞受賞者と昨年の決勝に勝ち残ったスタートアップ計8社に取材。バトル出場までの道のりや出場してからの変化について、登壇者に話を聞く。

初回に登場するのは、TC Tokyo 2016 スタートアップバトルで最優秀賞を獲得したKids Public(キッズパブリック)代表の橋本直也氏。2回に分けてお送りするインタビューの前半では、出場までの経緯や準備、登壇時の感想などについて聞いた。

出場のきっかけ

Kids Public代表 橋本直也氏

Kids Publicは2015年12月に小児科医の橋本氏が創業した、遠隔医療相談サービスを提供するスタートアップだ。現在は小児科に特化したオンライン医療相談の「小児科オンライン」や、産婦人科医・助産師にスマホで相談できる「産婦人科オンライン」などのサービスを提供している。

Kids Publicはデジタルガレージが主催するアクセラレータープログラム「Open Network Lab」(以下、Onlab)の第12期に参加しており、「プログラム終了後にスタートアップバトルへの出場を勧められたことが、応募のきっかけだった」と橋本氏が振り返る。

Onlabには、2015年のバトル勝者となったSmartHRが第10期に参加していた経緯もあり、「Onlabから、TC Tokyoへという流れがあった」とのこと。橋本氏も「ぜひチャレンジしたい」と応募を決めた。

また橋本氏が現役の小児科医で、エンジニアや経営者と普段接点がなかったことも、出場のひとつの理由になったという。「医師同士のネットワークはあり、医師仲間はいるが、開発やビジネス面でのネットワークはゼロから構築しなければならない。TechCrunchはそういう人たちに見られているメディアだ。出場によって事業チャンスや人とのつながりがつくれると考えたことも、応募への大きな動機となった」(橋本氏)。

資料づくりにはプロの力も借りて

橋本氏は「出場準備には時間をかけた」と話している。「全体としては2週間ぐらいのことだったが、その間、かなりの時間を資料づくりや練習に費やした。Onlabの人にも見てもらいながら、準備を進めた」(橋本氏)。

当時Kids Publicが提供していたプロダクトは、リリースから約半年の小児科オンライン。バトルの審査員やTC Tokyoの来場者のほとんどは、小児科の現場の実態を知らない人たちだ。橋本氏は「プレゼンでは、小児科医療の世界を知らない人の目線に合わせて、話の最初の方で聞き手の心をつかめるよう心がけた」と述べている。

スタートアップバトルでは、イベント初日に書類選考を経て選ばれた20社のファイナリストたちが、それぞれ3分の持ち時間でプレゼンを行い、2日目にはその中から選ばれた6社が、5分間のピッチで競い合う。

「持ち時間が長くなる決勝では、より詳しく伝えられるように準備はしていた。また、初日はちょっと早口で詰め込み気味にしゃべってしまったので、2日目はハッキリゆっくりしゃべるように心がけた」(橋本氏)。

資料については、1スライド1メッセージで、煩雑になりすぎず、かといって削りすぎず、スライドの中でどの数字が一番訴えたいかを考えて構成するなど、「当たり前と言えば当たり前のことをやった」という橋本氏。最後の仕上げには「プロの力を借りた」と明かす。「同級生にデザイナーがいて、休みの日に手伝ってもらった。ビジュアルの統一感や視覚的な分かりやすさは、それをどうすれば実現できるか分かるプロにお願いしてよかった」(橋本氏)

エンジニア採用や商談で優勝の効果を実感

「下見やリハーサルの時点で大きな会場だと感じた。バトル当日はそれに加えて『結構人が入っているんだな』と思った」というのが登壇した際の橋本氏の感想だ。聴衆が多いことで「やりがいがあった」とのことで、緊張したというよりは「どうせなら多くの人に訴えたいという思いが強くて、楽しかった」という。共に出場するスタートアップについても「周りも本気で出場しているな、と感じ、大変刺激になった」と話している。

当日会場には、会社から1人だけ橋本氏の登壇を見に来たそうだ。「当時は4人ほどの組織だったので、ほかのメンバーは淡々と仕事をしていた」とのことで、社内的にはバトル出場・入賞でそれほど大きな変化はなかったと思う、と橋本氏はいう。ただ「投資家を含む審査員や来場者に、優勝というかたちで評価されたことは、チームにとっても良かったのではないか」と振り返っている。

一方で社外・対外的には大きな変化があり、「バトルで優勝したことの効果を実感した」という。特にエンジニアについては、面談すると「TCで見ました」と言われるようになり、テック領域での知名度の向上を実感したそうだ。出場してから商談が進み、導入に至ったところもあるということで、事業面でも「メリットをすごく感じた」という橋本氏。「TC Tokyoでの優勝がステータス、評価になった」と語る。

 

インタビュー後半では、出場後の事業のアップデートやKids Publicが見据える今後の展望、そしてこれからバトル出場を目指す起業家へのメッセージを橋本氏に聞く。

 

スマホで産婦人科医に相談できる「産婦人科オンライン」、学生向けを新渡戸文化短期大学が導入

小児科に特化した遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」などを提供するKids Publicは6月26日、産婦人科領域に特化した遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」を新渡戸文化短期大学の学生を対象に提供を開始したと発表。Kids Publicが産婦人科オンラインを学校法人に提供するのはこれが初となる。

産婦人科オンラインでは、平日の18時から22時の間、10分間の予約制で産婦人科医・助産師に相談でき、妊婦は自身が抱える不安やストレスを解消する。LINEを使ったチャット、音声通話、ビデオ通話、電話を使って相談できる。

2018年11月のサービス開始以降、産婦人科オンラインは妊娠中から産後2年以内の女性向けのサービスだった。だが、新渡戸文化短期大学への提供開始を皮切りに、今後は「女子高大生のための産婦人科オンライン」として、高校生・大学生向けの「女性の健康を相談できるサービス」としても展開される。

同サービスでは「毎月、月経が辛くて学校に行くのもしんどい。我慢するしかないの?」「 月経不順かも?産婦人科に行ったほうがいいの?」「 自分の身体と友達の身体の違いが気になる」など、多くの若い女性が抱える心身の悩みの相談に産婦人科医がLINEなどで対応する。

Kids Publicは「未成年や学生の女性において、自身の健康状態や婦人科疾患、子宮がん検診に関する適切な知識を持つことや、将来における妊娠や避妊についての正しい情報を得ておくことは、主体的に健康を守ることにとって非常に大切です」と説明。しかし、「現在の日本において、若年女性にとって産婦人科医療はまだまだ身近なものではない現状があります」。

女子大学生を対象に実施された月経と鎮痛剤に関する調査研究では、83%の学生が月経痛を感じ、月経痛のある学生の80%以上が痛みのために日常生活に支障があったと回答。同時に、40%の学生は鎮痛剤への依存性を心配している。これは、適切な情報のもとで月経痛をコントロールできておらず、日常生活に支障をきたしていることを示している。

また、約800名の女子大学生を対象とした国内の調査研究では、大学入学までに受けた月経のセルフケア教育の程度について、「しっかり教わった」と回答した者は約2割のみと、かなり少ないことが示されている。

Kids Publicで産婦人科オンラインの代表を務める重見大介氏は上記のような状況であることを説明し、同社のサービスで学校法人に対し「将来へ向けた主体的なプレコンセプションケア」、「産婦人科受診へのハードル低減」、「適切な性教育の一助」などとしての価値提供ができると説明した。

なお、導入経緯に関し、新渡戸文化学園の理事長室 室長、平岩国泰氏は以下のようにコメントしている。

「新渡戸文化学園は女性の学生がとても多いです。色々と心や体の悩みの多い年ごろに一人で悩まずに相談できる窓口が増えることは学生の支援に繋がります。今の時代に合わせ、自主的にオンラインで専門の先生へ相談できる環境を提供できると良いのではないかと思い、このサービスの導入を決定しました。産婦人科は妊娠した人だけが対象ではなくて、広く女性の体について相談が出来る、ということももっと学生たちに知ってほしくその啓発の意義も感じています。学生がより主体的に健康的な生活を送る一助になれたらと思っています」

産婦人科オンラインは社会サービスとして「全ての利用者に無料で届ける」ことを目標としているため、法人へ提供し、法人が費用を支払うことで利用者(自治体の住民や企業の社員、学生)は無料で利用できるというスキームでサービスを提供する。

【FounderStory #2】「妊娠中・育児中の母親を孤独にさせない」Kids Public橋本氏が展開する遠隔相談サービス

Founder Story #2
Kids Public
代表取締役社長
橋本直也
Naoya Hashimoto

TechCrunch Japanでは起業家の「原体験」に焦点を当てた、記事と動画のコンテンツからなる「Founder Story」シリーズを展開している。スタートアップ起業家はどのような社会課題を解決していくため、または世の中をどのように変えていくため、「起業」という選択肢を選んだのだろうか。普段のニュース記事とは異なるカタチで、起業家たちの物語を「図鑑」のように記録として残していきたいと思っている。今回の主人公はKids Publicで代表取締役社長を務める橋本直也氏だ。

橋本直也
Kids Public代表取締役社長)
  • 2009年 日本大学医学部卒。
  • 2009-2011年 聖路加国際病院にて初期研修。
  • 2011-2014年 国立成育医療研究センターにて小児科研修。
  • 2014-2016年 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻 修士課程。
  • 2015年-現在 都内小児科クリニック勤務。
  • 2015年 Kids Public設立。
  • 2016年 TechCrunch Tokyo 2016のスタートアップバトルで優勝
Interviewer:Daisuke Kikuchi
TechCrunch Japan 編集記者
東京生まれで米国カリフォルニア州サンディエゴ育ち。英字新聞を発行する新聞社で政治・社会を担当の記者として活動後、2018年よりTechCrunch Japanに加入。

「不本意な虐待」の現実に直面し、取り組むべき課題を認識

「小児科医」。

Kids Public代表取締役社長・橋本直也氏のもう一つの肩書だ。

産婦人科医院を開業する医師の父のもとに生まれた橋本氏。「いずれは医師に」という周囲の雰囲気に流され、医学部へ進んだ。

橋本氏「研修で医療現場に入ってから、『いい職業だな』と思うようになりました。そして医学部5年のとき、小児科を専門にしようと決めたんです。子どもたちが健康になって退院していく姿を見て、これから何十年も続く未来へ送り出せる仕事って素敵だな、このやりがいは他の診療科にはないな、と

こうして小児科医となった橋本氏が、なぜビジネスの世界で起業するに至ったのか。そのきっかけは、「親の虐待」を目の当たりにした経験だった。

小児科には、虐待が疑われるケガを負った子どもが度々運ばれてくる。しかし真相はわからないままのケースが多い。

そんな中、橋本氏はある母子に出会う。夜中に3歳の女の子が救急車で運ばれてきた。脚がひどく腫れており、レントゲンを撮ると大腿骨が骨折していた。

「私がやりました」。

「とんでもないことをしてしまった」そんな表情で母親は娘の横に寄り添っていた。


橋本氏その母親は孤独な育児環境に置かれていた。仕事も育児も頑張ってきた結果、ストレスが爆発してしまったのでしょう。社会のサポートがあれば、この母親がここまで追い詰められることはなかったんじゃないか……そう考えるようになりました。ケガを負った子を治療するのが医療者の役割ですが、そんな事態になるのを防ぐことが先決。医師も社会の仕組みにまで介入しなければ、この課題は解決できない。病院で待っているだけでなく、家庭や社会にリーチしていくべきだと思ったんです


社会構造が子どもに与える影響を体系的に理解し、対策を研究するため、東京大学大学院へ。公衆衛生学を2年間学んだ後、2015年、Kids Publicを設立した。

病院に行く前に、不安を解決できる仕組みをつくる

「子育てにおいて誰も孤立しない社会の実現」を理念に掲げるKids Publicは、インターネットを通じて子どもの健康や子育てに寄り添うサービスを展開している。

LINE・電話を使った遠隔健康医療相談サービス「小児科オンライン」「産婦人科オンライン」を運営。現在、医療スタッフ65名が相談に対応している。法人に導入しており、法人が費用を支払うことで利用者(自治体の住民や企業の社員)は無料で利用できるシステムだ。

富士通、東急不動産、リクルート、三井住友海上、小田急電鉄など、導入企業が広がっている。


橋本氏親やママ友など、近くに相談相手がいない母親は多い。ちょっとしたことを不安に感じ、鼻水が垂れている、蚊に刺されて腫れているといったことで病院に駆け込んでくるほど。孤独からの不安がエスカレートすれば、子への虐待や産後鬱、自殺といった悲劇にもつながります。早い段階で不安を解決する手段の一つとして、活用が広がればと思います


学生時代には映画製作に取り組み、映像編集を経験するほか、WordPressを使ってWebメディアの記事も執筆していたという橋本氏。IT・ネットを活用するのは、ごく自然な発想だった。

そして、強くこだわるのは「無料で利用できる」ということだ。


橋本氏日本の医療体制は素晴らしい。国民皆保険の仕組みにより、家庭の経済格差に関わらず、平等に医療にアクセスできます。次は『病院に行く前の相談』においても、皆が平等にサービスを受けられるようにしたい。今は利用契約を結んでいる法人の社員や自治体の住民で、スマホを持っている人、LINEを使える人が対象となっていますが、なるべく利用の壁を取っ払っていきたいと思います


また、利用者に不安が生じたときに相談を受け付けるだけでなく、こちらから伝えたい情報やメッセージを定期的に発信していきたいと考え、「小児科オンラインジャーナル」「産婦人科オンラインジャーナル」も発行している。医療者が執筆し、医療者が編集するメディアだ。

想いを同じくするパートナーと手を結び、これから目指すもの

起業に踏み切れた背景には、さまざまな人との出会いがあった。

大学院で学び始めた頃は、自分がビジネスをするイメージはまだ持っていなかった。そんなとき、Webメディアを立ち上げた経営者に出会う。


橋本氏彼は専門知識を社会にわかりやすく伝えていくことに、社会的な使命感を持って取り組んでいた。『社会を変えるために起業する人がいるのか』と、衝撃を受けました。サービスを開発し、マネタイズし、スケールさせ、サスティナブル(持続可能)経営を行う。そうしたノウハウを学んでビジネス化することは、自分の想いを叶え、目指す社会を実現させるためのエンジンになる、と思ったんです


こうして起業を決意。創業パートナーとなったのは、女性小児科医の千先園子氏だ。

橋本氏と千先氏が初めて会ったのは大学1年の頃。大学は別だったが、国際医学生連盟で活動を共にした。国際問題・医療問題への意識が高い医学生が集まる、世界各国に支部を置く団体だ。その後、国立成育医療研究センターでの小児科研修で再会した。

以前から社会課題への認識が合致していたこともあり、橋本氏のビジョンに賛同。夫も起業家であり、フレキシブルな思考力を持つ千先氏は、心強いパートナーだ。

また、「育児の孤立を防ぐには、妊娠期からのサポートが必要」と考え、産婦人科領域の知人に相談。紹介により、産婦人科医の重見大介氏と出会った。もともと同じ構想を持っていた重見氏と意気投合。重見氏は現在、産婦人科オンラインの代表を務める。


橋本氏『子どもに投資する社会であるべき』。そんな共通認識を持っている人とパートナーシップを結んでいます


今後は、女性の健康全般、思春期の子どもたちの悩みなどにも接点を持っていきたいと考えている。婦人科も巻き込んだ女性の健康サポート体制の構築、子どもとドクターがオンラインで対話できる場などを設けていく構想を練っている。


橋本氏もっと多くの人にとって『医療』を身近なものにする役割を担っていきたいですね

<取材を終えて>

国立成育医療研究センターなどのチームは2018年9月、2015年から2016年に102人の女性が妊娠中から産後にかけて自殺しており、妊産婦死亡の原因の中で最も多いと発表。また、日本労働組合総連合会による「働きながら妊娠をした経験がある20歳〜49歳の女性」への調査(2015年)によると、過度の就労が早産などのトラブルのリスクを高めることについて「自分も職場の人も十分な知識がなかった」と回答した割合が4人に1人。

気軽に相談ができる産婦人科オンラインは母親たちのストレスや悩みを軽減する心強いサービスとなっている。

「近くに相談相手がいない母親は多い」と橋本氏は話していたが、“ICTのちから”を使い寄り添うことで孤独から救える対象はまだまだ多く存在すると思う。

僕はこれまでに“いじめ防止プラットフォーム”の「STOPit」などを紹介してきたが、子供たちには家族や友人に相談しにくい“健康”に関する悩みもあるだろう。そんな彼らを救うための遠隔相談サービスのローンチに期待したい。(Daisuke Kikuchi)

( 取材・構成:Daisuke Kikuchi / 執筆:青木典子 / 撮影:田中振一 / ディレクション・動画:平泉佑真 )

スマホで産婦人科医に相談できる「産婦人科オンライン」小田急電鉄に提供開始

小児科に特化した遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」などを提供するKids Publicは1月15日、産婦人科領域に特化した遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」を小田急電鉄に福利厚生制度として提供を開始したことを明かした。

小田急電鉄株式会社ではすでに姉妹サービスの小児科オンラインを導入済み。Kids Publicは産婦人科オンライン・小児科オンラインの両サービスの提供を通じ、小田急電鉄の社員が「安心して仕事と妊娠・出産・子育ての両立」ができるよう、出産前後から子供についての悩みまでICTの力を使ってシームレスにサポートする。

産婦人科オンラインでは、平日の18時から22時の間、10分間の予約制で産婦人科医・助産師に相談でき、妊婦は自身が抱える不安やストレスを解消する。対応担当には医師が10名、そして助産師が11名。LINEを使ったチャット、音声通話、ビデオ通話の3つを使って相談できる。

たとえば「妊娠中の食事や服薬について教えてほしい。ネットで調べてもいろんな情報があって分からない」「産後2か月になるけれど気分の落ち込みがひどく、泣き止まない子どもに無力感がある」などの質問に専門家が一対一で対応する。なお同サービスは遠隔健康医療相談サービスであり医療行為ではないため、診断や薬の処方は不可。だが、同サービスには簡単には医療機関に行けない利用者が「本当に受診する必要があるか」などといった相談ができるといったメリットがある。

2018年11月にローンチした産婦人科オンラインは社会サービスとして「全ての利用者に無料で届ける」ことを目標としているため、B向けサービスとして法人に導入し、法人が費用を支払うことで利用者(自治体の住民や企業の社員)は無料で利用できるというスキームでサービスを提供している。

同社は2018年12月に産婦人科オンラインの鹿児島県錦江町・埼玉県横瀬町・長野県白馬村への提供開始を発表していた。

日本労働組合総連合会による「働きながら妊娠をした経験がある20歳〜49歳の女性」への調査(2015年)によると、過度の就労が早産などのトラブルのリスクを高めることについて「自分も職場の人も十分な知識がなかった」と回答した割合が4人に1人。また、仕事内容について「立ったまま仕事をすることが多かった」「重い物を持ち上げる仕事が多かった」「ノルマや締め切りがあるなどストレスの強い仕事があった」と回答した割合が10〜30%程度。

Kids Publicは、一般的に妊娠しながら働く女性にとって「妊娠中に適切な知識を得ること」や「健康や勤務に関して不安がある場合の相談先」のさらなる充実が必要である、と説明している。

2016年に開催された「TechCrunch Tokyoスタートアップバトル」の優勝者でもあるKids Publicは小児科オンラインと産婦人科オンラインの他にも小児医療メディアの 「小児科オンラインジャーナル」や医療者向けメディアの「Kids Public Journal」を提供している。

出産前後の悩みを産婦人科医にスマホで相談できる「産婦人科オンライン」が11月1日よりサービス開始

国立成育医療研究センターなどのチームは9月、2015年から2016年に102人の女性が妊娠中から産後にかけて自殺しており、妊産婦死亡の原因の中で最も多いと発表した。妊産婦死亡の全国規模の調査はこれが初めてだ。共同通信などによる報道によると、子育てへの不安やストレスにより起きる“産後うつ”が原因の一つと考えられ、同チームは「身体だけでなく心の問題も気軽に周囲の医師や保健所などの行政機関に相談してほしい」と呼びかけている。

そんな中、「産科医療の過疎地域を含む全ての地域で、妊娠期〜産後という心身の不安が大きい時期に適切な医療サポートを受け、安心して出産を迎え、育児ができる社会を目指す」という新たなミッションを掲げ、小児科に特化した遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」を提供するKids Publicは10月15日、産婦人科領域に特化した「産婦人科オンライン」を11月1日より開始すると発表した。Kids Publicは2016年に開催された「TechCrunch Tokyoスタートアップバトル」の優勝者だ。

同社は「医療リソースの地域格差が広がる中、地方における産科医師数の不足は深刻だ」と説明。政府は「一億総活躍社会」のなかで、産後うつの発症リスクを重要課題として挙げているが、Kids PublicはそれをICTのちからで解決しようとしている。

具体的には、月・水・金曜日の18時から22時の間、10分間の予約制で産婦人科医・助産師に相談できる環境をつくり、妊婦が抱える不安やストレスを解消する。

「妊娠中の食事や服薬について教えて欲しい。ネットで調べてもいろんな情報があって分からない」、「産後2か月になるけれど気分の落ち込みがひどく、泣き止まない子どもに無力感がある」など、妊娠・出産前後の幅広い質問に専門家が一対一で対応する。対応担当には医師が5名、そして助産師が4名。LINEを使ったチャット、音声通話、ビデオ通話の3つを使って相談できる。

産婦人科オンラインは社会サービスとして「全ての利用者に無料で届ける」ことを目標としているため、B向けサービスとして法人に導入し、法人が費用を支払うことで利用者(自治体の住民や企業の社員)は無料で利用できるというスキームでサービスを提供する。

重見大介氏

本サービスの代表を務める重見大介氏は現在も都内や千葉県内の総合病院や産科病院で臨床に従事しながら、東京大学大学院博士課程に進学・在籍中だ。同氏は産婦人科オンラインに関して「あくまで遠隔医療健康相談なので医療行為・診療行為ではない」と説明している。同氏が言うとおり、産婦人科オンラインはあくまで“相談サービス“であり、その場で病気を治療したり、健康状態を改善できるサービスではない。だが、同サービスは簡単には医療機関に行けない利用者が「本当に受診する必要があるか」などを相談できるといったメリットがあることは確かだ。

また、産婦人科オンラインは小児科オンラインとデータを連携することで、よりシームレスに利用者をサポートする。たとえば小児科オンラインを使う利用者に対し、産婦人科オンラインではどのような指導をしていたかを把握し社内で連携した上でアドバイスをすることができるようになるという。

「小児科オンライン」が医療情報の新メディア、全記事を医師が執筆・監修

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2016年末のWELQ騒動もあり、今まで以上に専門性や信頼性が求められるようになった医療系のウェブメディア。WELQ以外にも該当する記事を非公開にしたり、過去記事や方針の見直しをしている企業もあると聞く。

そのような状況の中、オンラインで小児科医に相談ができる遠隔医療相談サービス「小児科オンライン」を提供するKids Publicは2月23日、全記事を医師が執筆・監修するオウンドメディア「小児科オンラインジャーナル」をリリースした。

医師が署名や経歴付きで執筆・監修していることや、実際に保護者から相談された内容を吟味した上で情報発信していることに加え、小児科オンラインとリンクして、記事を執筆した医師に直接相談できる点も大きな特徴だ(一部の医師を除く)。

現役の小児科医であり、中心メンバーの一人として記事の執筆や監修を行うKids Publicの安藤友久氏によると、小児科オンラインを利用している保護者から「インターネットで調べれば調べるほど何が正しいのかわからず不安になった」「検索すれば情報はたくさん出てくるが、どれが自分の子供に対して良いのかがわからない」といった相談が多数寄せられていたという。

小児科オンラインを運営する中で相談件数も増え、保護者の悩みや本当に知りたいことが蓄積されてきたため、今回オウンドメディアを開設するに至った。

医師が執筆をするため記事を量産するというわけにはいかないが、地道に信頼できる記事を増やし「保護者の方が子供の体で悩んだ時に、まずはこのサイトを確認してみようと思ってもらえるメディア」を目指していくという。なお、Kids Publicの小児科オンラインはTechCrunchが開催するイベント「TechCrunch Tokyo 2016」のスタートアップ向けプレゼンコンテストである「スタートアップバトル」で最優秀賞を獲得している。