MFS創業者の中山田明CEO
住宅ローン借換サービスを提供するFintechスタートアップのMFSが今日、グロービス・キャピタル・パートナーズからシリーズAラウンドとして、8.5億円のバリュエーションで総額2億円の資金調達をしたことを発表した。
MFSは2015年6月に住宅ローンの借換メリットをカンタンに計算してくれるアプリ「モゲチェック」をローンチし、その後の2015年9月にマネックス、電通デジタル・ホールディングス、電通国際情報サービス(ISID)の3社から総額9000万円の資金調達。2016年3月には専門家が借り換えのコンサルティングと、ローン申請代行をしてくれるリアル店舗窓口の「モーゲージ・ネクスト」を東京・京橋に開設している。
今回の資金調達では、前回のCVCからの調達ラウンドと違って独立系VCがリードしている。これにはギアチェンジの意味もある。MFS創業者の中山田明CEOによれば、「明確に(エグジットのタイムリミットとなる)おしりが切られている。われわれは3年後の上場を目指します。2022年に上場のめどが立たなければ事業売却に同意するという投資契約になっている。独立系VCには経営的なサポートも期待している」と話している。
対人コンサルで借り換えのCVRは6〜7割
MFSのビジネスモデルはローンチ時から変化している。
もともとはアプリによる銀行へのローン申し込み顧客の送客により銀行側からフィーを受け取るビジネスモデルでスタートしたが、現在はリアル店舗へ収益モデルを変えている。以前TechCrunch Japanでも書いたことがあるが、住宅ローンにおける最も有利な借り換え条件の発見というのは面倒なシミュレーションを必要とする話。MFSでは随時金融機関の住宅ローン商品の情報を更新しているデータベースを使ったシミュレーションツールを自社開発して、このツールを見ながら借り換え希望者の相談に乗る窓口業務のモーゲージ・ネクストを3カ月ほど前に開始している。申請は複数行に対してMFSが代理で行ってくれるので、利用者は審査が通った最も条件の良い住宅ローンを選択できる。MFSのマネタイズは実際に借り換えをした顧客ごとに一律20万円のフィーを受け取るというもの。
中山田CEOによれば、4月から業務を開始した京橋店では、毎月50件前後の面談予約が入っていて、来店者で借り換えメリットがある人のうち6〜7割が実際に借り換えをしているという。来店者は日時を設定して専門家の話を聞きに来るくらいなので借り換える気があるのだ。コンバージョン率はかなり高い。残り3〜4割の離脱している人というのはローン審査に通らなかったか、自分で申請をする人ではないかという。
1件20万円、コンサル1人が5件やれば単店舗イーブン
京橋の相談スペース
京橋の店舗では黒字化が見えている。
1カ月に50面接で30成約とすると600万円の売り上げになる。現在モーゲージ・ネクストの京橋店には、元銀行融資担当者など7人の専属コンサルがいる。人件費と店舗賃貸料で恒常的に月750万円ほどのコストがかかっている。つまり、1カ月で35件の成約が取れるとブレークイーブンだ。コンサル個々人で成約率に差はあるものの、コンサル1人あたり月5件という収益化ラインは、もう見えてきてるという。
第1号店の黒字化が見えていることもあり、調達した資金を使ってまずは東京各地、それから地方都市への店舗展開を進めていくという。「住宅ローンは地域性があります。各地の金融機関と密に連携していく」(中山田CEO)。支払いを残す住宅ローンは現在市場で1200万件あり、このうち600万件ほどが100万円以上の借換メリットがある潜在顧客層とMFSでは計算している。
アプリ収益化からリアル店舗へと軸足は移ったが、来店を促すのに一番効率的なのはモバイルアプリのモゲチェックであるため、今後も接客ボット搭載など機能強化を計画しているという。
個人の信用情報や審査ノウハウが蓄積
興味深いのは、銀行ローンの審査ロジックの知見や統計といったデータがMFSに蓄積しはじめていることだ。「これは実はどこも持ってないデータなんです」(中山田CEO)。年収や職業形態、勤続年数など「外形」によって審査に通りそう、通らないというのは、だいたい分かる。例えば、会社員で勤続5年で年収が600〜700万円のレンジなら変動金利で0.5%で、いくら借りられるといったように。
ただ、銀行によってローンの審査ロジックは結構ちがう。「無担保ローンが3つ」など一発で審査がアウトというのもあるそうだ。MFSは各銀行と話をしているうちに、そうした条件がだんだん分かって来たという。審査時に家族の構成を書かせる銀行もあれば、そうでないところもある。配偶者(多くは妻)の就業状況や子どもの年齢を聞いて家庭のキャッシュフローを推定しているところもある。
こうした審査基準に関する知見の蓄積があると、例えば60歳でローンを組む人が難しい人であっても、どういう条件を揃えると、どの銀行のどのローンの審査に通るといった「銀行への見せ方がより分かってくる」(中山田CEO)。これは結構おもしろいことで、MFSの顧客からみれば受験の合否判定のように、あらかじめ自分が通りそうな最も有利なローンが分かるということ。銀行からしても審査基準を満たさない申し込みが減って審査に受かる申込者が増えるのは良いことだ。借り換え申し込みの精度が上がっていくので、MFSは10月には借換だけでなく、新規借入時のコンサルへも業容を広げる予定という。いったんどこかの金融機関の審査にパスしている人に借り換えさせるのに比べると、新規借入のほうがずっと緻密な精度が必要。ハードルが高いそうだ。
ところでローン審査時に個人の信用情報を照会する先として、信用情報を扱うJICCやCIC、KSCなどが従来からある。これらの機関は、カード、銀行など業界ごとに企業らが顧客情報を持ち寄って作ってきたデータベースと照会サービスを提供している。ただ、総量規制順守のために貸付総額上限を企業間でクロスチェックするためのデータ共有こそ一部で行っているものの、こうした機関が業界の壁を超えて情報を共有しあうインセンティブはない。一方、もしMFSのように独立した立場で個人の信用情報を蓄積していけるとすると、例えば顧客のクレジットに応じたプライシングなど将来的には違った価値を提供できる可能性がある。これはこれでFintech企業らしい発展もありそうだ。
(情報開示:MFS中山田明代表と、この記事を書いたTechCrunch Japanの西村賢は子どもを介した数年来の友人)