クックパッドとパナソニックが食の領域でタッグ、“新しい料理体験”の創出目指す

クックパッドが展開するスマートキッチンサービス「OiCy」と、パナソニックが手がけるくらしの統合プラットフォーム「HomeX」。この両者が“新しい料理体験”の創出を目指してタッグを組むようだ。

クックパッドとパナソニックは12月6日、OiCyとHomeXが食・料理領域における戦略的パートナーとして共同開発を開始することを明らかにした。

以前詳しく紹介しているOiCyは「人と機器とレシピをつなぐ」スマートキッチンサービスだ。クックパッドに投稿されたレシピを機器が読み取れる形式(MRR: Machine Readable Recipe)に変換してキッチン家電に提供することで、レシピに合わせて機器を自動で制御できる仕組みを提供。

人と機器が協調することで“楽”と“美味しい”を両立し、かつ流れを止めないスムーズな料理体験の実現に取り組んでいる。

一方のHomeXは10月から本格始動した、くらしの統合プラットフォーム。家全体と生活シーンを総合的にとらえ、そこにインターネットやソフトウェア技術を融合することで「くらしのアップデート」を目指したプロジェクトだ。

今回のパートナーシップは料理に関するノウハウやデータを持つクックパッド(OiCy)と、家電から住宅設備まで「くらし」に関するさまざまな事業を手がけてきたパナソニック(HomeX)が、それぞれのアセットを活用して共同開発を進めるというもの。

具体的には『くらしの中で人と家が寄り添う「新しい料理体験」』の創出に向けて、HomeX対応住宅向けのサービスや新機能の開発に取り組む計画だという。

そういえば前回取材した際にクックパッドのスマートキッチングループでグループ長を務める金子晃久氏は「スマートキッチンの構想はクックパッド単体では実現できない」という話をしていた。

8月にはすでに10社とのパートナーシップを発表していたけれど、HomeXとのタッグでは今後どのようなサービスが生まれるのか、気になるところだ。

クックパッドの考えるスマートキッチンの未来――人と機器の協調で豊かな料理体験を

「これまでクックパッドではレシピを提供することで献立の意思決定の支援をしてきたが、レシピを見つけた先にある“物理的な料理”の部分は十分に支援できていなかった。その物理的な料理が抱える課題を、ハードウェアとレシピを組み合わせて解決していく」――クックパッドの金子晃久氏は、同社が実現しようとしているスマートキッチンの構想についてそう話す。

以前TechCrunchでも紹介したように、クックパッドでは5月に“人と機器とレシピ”をつなぐサービス「OiCy」を発表した。これはクックパッドに投稿されたレシピを機器が読み取れる形式(MRR: Machine Readable Recipe)に変換してキッチン家電に提供することで、レシピに合わせて機器を自動で制御できるというもの。将来的には「人と機器が協調する」ことで、手料理をもっと楽しくしようという試みだ。

この取り組みを担っているのが、2018年の初めにクックパッドで発足したスマートキッチングループ。今回は同グループでグループ長を務める金子氏に、クックパッドのスマートキッチン構想の背景から、今後の展望について聞いた。

スマートキッチンでは人と機器が協調する

クックパッドのスマートキッチン構想の世界観を掴むには、同社が公開しているレシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」の動画を見るのが手っ取り早いかもしれない。

OiCy Tasteはレシピとつながった調理機の一例(コンセプトモデル)として開発されたもの。クックパッドのレシピを選ぶだけで必要な分量の調味料を自動で計量でき、人数の変更や味つけのアレンジにも対応する。

スマートキッチングループでは、チーム内で試すのはもちろん、ユーザーテストも実施。そこで見えてきたのが、レシピと機器がつながることで「“楽”と“美味しい”を両立できること」と「流れを止めない料理体験を実現できること」だったという。

「一般的に料理は楽をしようとすると上手くいかなくて失敗したり、美味しく作ろうとすると楽じゃなかったりする。そこに(OiCy Tasteのような)機械があることで、“ラクにおいしく”を両立することができた。またデータの世界に持ってくることによって、人数変換や味付けのアレンジも自在にできる」(金子氏)

楽と美味しいの両立は、もともと開発前から実現したい目標だったという金子氏。一方の「流れを止めない料理体験」については、実際に試した際に初めて発見したものなのだそうだ。

「人間と機械が分担して作業することで、野菜を切ったり炒めたりしている間に調味料が出てきて、混ぜるだけで完成するという新しい料理体験が実現できた」(金子氏)

このキッチン体験がさらに進むとどうなるのか。まずは時間や場所を超えて料理を再現できるようになる、というのが金子氏の考えだ。

たとえばお母さんやおばあちゃんの味をレシピとして残しておくと、いつでも再現できるようになる。もしくはレストランで美味しいものを食べた際、仮にそのレシピをダウンロードすることができれば、自宅で簡単に再現できるようになる。

この“再現”という考え方は、クックパッドが目指すスマートキッチンにおける重要な鍵だ。

「再現が土台になると、人間の好奇心やクリエイティビティが復帰して創意工夫ができるようになる。創意工夫のように人間が得意とする部分と、レシピの忠実な再現や正確な温度管理など機械が得意とする部分を持ち寄り協調することで、豊かな料理体験を創る。これがクックパッドの目指しているスマートキッチンだ」(金子氏)

家事をするようになって気づいた料理の面倒くさい部分

そもそもこのスマートキッチンの構想やOiCy Tasteのアイデアは、どういう背景で生まれたものなのだろうか。金子氏に聞いてみたところ、どうやら前職のソニー時代に「個人的な理由」で立ち上げようとしていたプロジェクトが発端のようだ。

「家事分担で週に4日間料理をすることになり、そこでいろいろな課題に気づいた。もともと料理が好きでも得意でもなかったのでレシピを忠実に再現しようとすると、すごい面倒なことが多くて。その典型が調味料を取り出して計る作業。機械がやっても同じような結果になるのであれば、自分ではなく機械に任せてもいいのではないかなと思った」(金子氏)

ここ数年の間に“レシピを見つける”ことはクックパッドなどレシピサイトによって簡単になったけれど、その先の“料理をする”部分は未だにアナログな要素が多い。「せっかく簡単にレシピが見つかるのだから、そのままシームレスに機械を動かせればもっと簡単に料理ができるはず」(金子氏)だと考え、まずはプロトタイプ作りにとりかかった。

プロトタイプに使ったのは洗面所で見かけた時にひらめいたというハンドソープディスペンサー。新しく購入してきたものを分解し、Arduino(ハードウェアのプロトタイプ作りなどによく活用されるマイコンボード)とつなぎハックすることで、OiCy Tasteの原型を作ったという。

クックパッドとの出会いは「周りにも話をしてみて『行けるんじゃないか』と思い、本格的に事業としての立ち上げを検討していた」時のこと。事業を立ち上げるにはレシピが必要になるため、クックパッドの担当者と会ったのが最初だ。

その時の担当者が、現在は事業開発部Cookpad Venturesグループ長の住朋享氏。1年〜1年半ほど情報交換をする中で、最終的には同社のレシピやユーザー基盤といった資産を活用して「その立場で周りのメーカーの協力を仰ぎながら進めるのが1番の近道」(金子氏)だと判断し、2018年1月にクックパッドに加わった。

楽しいところしかない料理体験の実現目指す

クックパッド 研究開発部 スマートキッチングループ グループ長の金子晃久氏 (写真提供:SKS Japan)

金子氏によると、プロトタイプを作っていた当初から人と機器の協調というイメージが合ったわけではないそう。最初は「目の前の自分の料理を楽にしたい、とにかく面倒な作業を機械にやってもらって、料理が楽しくなれば」と思っていたという。

それならば完全に機械によって自動化された方が楽な気もするのだけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。

「自分の場合は家族のために料理を作る。その際に自分で作った場合とそうではない場合で明確な違いがあった。自分で作った時は料理を通じて子どもとつながっている感覚があって、仮に多少味付けを失敗したとしても、それがコミュニケーションの要素になる」(金子氏)

特にその“つながり”を強く感じるようになったのが、家事代行を頼んだ時だったそう。金子氏は「結果として自分で作るよりも美味しい料理を食べられたが、その一方で家族とのコミュニケーションやつながりをなくしてしまった感覚になった」と当時の心境を振り返る。

「完全に自動化するのではなく、何かしら自分がやっている部分が絶対に必要なのだと思った。システム的にはOicyのテーマは人と機械の協調。でもユーザー体験としては、たとえば日々忙しくて料理の時間があまりないけれど家族のために手料理を作りたい人が、機械の力を借りながら自分で料理をした感覚を味わえるようなものにしたい」(金子氏)

クックパッドでは料理の楽しさを“新発見”と“再発見”に分解して考えているそう。「料理にはもともと楽しい要素があるが、忙しい中で義務としてやっていると、それが薄れてしまう。機械のサポートで、その楽しさを再発見できるようにする」(金子氏)

最終的には「楽しいところしかない料理体験」を提供したいと話す金子氏。自身の場合は「親子丼で最後に卵をふわっと固めるところだけをやりたい」らしく、野菜を切ったり味付けをする部分は機械に任せたいそうだ。

もちろん人によってこだわりのポイントは違えど、本当に自分がやりたいことやアレンジしたい工程だけを人力でやって、あとは機械にお任せする。金子氏はグランピング(グラマラスとキャンピングを掛け合わせた言葉。重い荷物を持参したりテントを設営したりといった負担のない、贅沢なキャンプ)を例に、同じような世界観を料理においても実現したいという。

メーカーや機器を超えて繋がるレシピ

クックパッドは8月に開催されたスマートキッチン・サミット・ジャパン 2018内で、スマートキッチンの方向性と目標を示す「スマートキッチンレベル」を発表している。

クックパッドが発表した「スマートキッチンレベル」。今後はメーカーと協力しながら、自動運転における「自動運転レベル」のように業界全体で共通の目標となるような指標を作っていきたいという

このレベルに沿って考えると、現在はいくつかのメーカーの製品がレベル2に差し掛かっている段階だろうか。たとえばシャープの場合、ヘルシオなど一部の製品はレシピアプリ「COCORO KITCHEN」と繋がることで、アプリで気になったレシピを家電に送ったりすることが可能だ。

ただし現在は各メーカーがそれぞれ規格を持って各々で開発を進めている状況。これが加速するとユーザーは調理機器を同一メーカーの同一シリーズで揃えていない限り、機器が変わるごとに別々のレシピを立ち上げる必要が出てきてしまう。

OiCyが直近で目指しているのは、この「メーカーや機器の壁」を取っ払い、複数の機器が“同じレシピ”を参照して調理を実行できる「レベル3」のプラットフォームだ。海外も合わせると約400万レシピを保有するクックパッドの基盤を生かし、それらのレシピを機器が読み取れる形式に変換して提供する。

豊富なレシピという資産があるからこそできる取り組みではあるものの、もちろん簡単なことではない。これはクックパッドがCGM(ユーザー投稿型のメディア)であるがゆえの課題でもあるが、各ユーザーごとにレシピの書き方や表現も異なるため、それをきちんと機械が読み取れるように変換するのには時間を要する。

「まずは関係ない情報を除き、レシピだけの情報を抽出する。その上で漢字やカタカナ、ひらがなの表記の揺れや文法の違いなども含めてどのように対応していくかが1番のハードルだ。今は(人間が作った)ルールベースと機械学習ベースの2つのアプローチを考えているが、どちらにせよ最初は人力でやっていく必要がある。まずは数百レベルから、そこにルールを入れることでレシピが一桁増えるイメージ」(金子氏)

クックパッドでは2019年のスマートキッチン・サミット・ジャパンまでを目処に「国内向けにMRR提供サービスの開始」「海外展開」「さらなるコンセプトモデルの公開」を目標としている。

まずはレシピ数を絞ってもいいので着実に繋いでいくことを目指し、徐々に対応機器の拡大や海外展開も進めていく方針だ。8月にはパートナー企業10社を発表していて、対応製品の開発の話も始まっているという。

「スマートキッチンの構想はクックパッド単体ではできない。OiCyが『Open integration, Cooking with you』の略であるように、パートナーと一緒になって新しい料理体験を作っていければと考えている。クックパッドはハードウェアメーカーではないので、機械が読み取れるレシピをしっかりと提供することで、パートナーのモノづくりやコトづくりをサポートしていきたい」(金子氏)

8月に発表されたパートナー企業10社

スマートキッチン・サミット・ジャパン 2018開催――デモスペースは大混雑、飛び入りプレゼンも

デジタル事業のコンサルティング企業、シグマクシスと食産業のスペシャリスト、シアトルのNextMarket Insightsがミッドタウン日比谷でスマートキッチン・サミット・ジャパン 2018を開催した。8月9日の2日目に参加できたので簡単にご紹介したい。昨年のスマートキッチン・サミットに比べ講演者、参加者、デモ、いずれも倍以上に増え、食のデジタル化、スマート化がメインストリームになりつつあると実感した。

クックパッドはAWS、SHARP、LIXILなどパートナー企業10社を発表しOiCy事業を本格化させることを発表した。OiCyはクックパッドに集まった膨大なレシピをアルゴリズムによって標準化し、スマートキッチン家電と連携させていく試みだという。パナソニックも社内ベンチャー、「ゲームチェンジャー・カタパルト」がさらに前進していることを発表した。

このカンファレンスはNextMarket Insightsがスタートさせたもので、アメリカ発のカンファレンスらしくグローバルな視点が特長だ。今年も機械学習を利用した生鮮食品トラッキングサービスのChefling、オンライン・レシピ・アシスタントのSideChefのファウンダーとクックパッドの吉岡忠佑氏によるパネルではNext MarketのCEO、Mechael Wolf氏がモデレーターとなってさまざまな意見を聞き出していた。SideChefのKevin Yu氏が「データ処理はもちろん重要だがさらに重要なのはユーザーのエンゲージメント」だとして吉岡氏らも賛同した。

Yu氏によればEU市場は日米市場よりセグメントが細かく、いっそうきめ細かいローカライズが必要だという。われわれ日本人はヨーロッパが言語、文化とも非常に多様であることを忘れがちだが、現実にビジネスをする上では重要なポイントになるはず。

しかし今年のSKSでは日本の大企業、ベンチャーのスマートキッチン事業が大きく勢いを増していると感じた。ランチブレークのデモスペースは朝の電車なみに混み合っていて、デモの手元を見るには頭上に流されたライブ映像を見るしかないほどだった。デモではパナソニックの社内ベンチャーで開発された「おにぎりロボット」が面白い。パナソニックで「ごはんひとすじ」で来たという担当者の説明によれば「外はしっかり、中がふわり」というおむすびの理想形を作れる装置だという。

 

ちなみにライブストリーミング用のデジタル一眼のプラットフォームにTechCrunch Japanでも最近紹介したDJI Roninジンバルが使われていた。

セッションの合間に飛び入りのプレゼンを募ったところ、主催者の予想を超えてたちまち5、6チームが登場した。「ひっこみ思案で黙り込んでいる」という日本人のステレオタイプはスマートキッチンに関しては過去のもののようだ。とかく後向きといわれがちな行政からも農水省、経産省、総務省から若手官僚が登壇した。総務省の岸氏が「数字だけみていくのではダメ。まず明るい未来のビジョンを作り、そこに到達するためにどういう具体的な方策があり得るか考えるのでなければ」と力説していたのが印象に残った。

 

最後に昨年に続いて、外村仁氏が登壇。外村氏は元Apple Japan、元Evernote Japan会長などを歴任したシリコンバレーの連続起業家であるだけでなく食のエバンジェリストでもあるというスーパーマン。外村氏はAnovaの低温調理ヒーターの最新版を会場で紹介しながら、食がますますスマート化、サイエンス化しているグローバルなトレンドに日本が遅れかけていることに注意を促し、「これはやっていけないコトなのかもしれないと、自己規制してしまうのが一番いけない。最初から明示的に禁止されたこと以外は全部やっていいんです。どんどんやりましょう」とベンチャー・スピリットを力強く応援した。

 

カンファレンスの詳しい内容についてはシグマクシスのサイトFacebookページに詳しく紹介されている。Facebookページにはスピーカー、参加者全員の写真も掲載されている。

クックパッド、調理機器とレシピをつなぐスマートキッチンサービス「OiCy」公開

「人と機器とレシピをつなぐことで、手料理が、人生が、もっと豊かになることを目指すスマートキッチンサービス」ーークックパッドが本日公開した新サービス「OiCy」のサイトには、そんな説明文がある。

これまでクックパッドが提供してきたレシピ関連サービスは人とレシピをつないできたが、今回リリースしたOiCyはレシピと調理機器(そしてそれらを使って調理する人)をつなぐものだ。

OiCyではクックパッドに投稿されたレシピを、機器が読み取れる形式(MRR: Machine Readable Recipe)に変換して提供。機器をOiCyに対応させておけば、クックパッドのレシピ内容に合わせた調理やアレンジが自動でできるようになる。

主にキッチン家電を取り扱う企業に提供する予定で、同社ではサービス公開に合わせてOiCyに対応する製品開発に取り組むパートナー企業の募集も始めた。

コンセプトモデルとしてレシピ連動調味料サーバー「OiCy Taste」も開発(現時点で発売の予定はないとのこと)。OiCy Tasteではレシピを選ぶだけで必要な分量の調味料を自動で計量できるため、料理の途中で調味料を計る手間から解放されるほか、好みに合わせてアレンジすることも可能だ。

僕自身は大雑把な性格だから調味料を目分量で計ることがほとんど。その結果ついつい味が濃くなってしまうこともよくあるから、調理機器が勝手に最適な量を計ってくれるなら使ってみたいと思った。

クックパッドでは「レシピとキッチン家電が連携することで料理をする人の悩みや負担が軽減され、毎日の料理が楽しくなる、そんなスマートキッチンを目指します」としている。