「量子オーケストレーション・プラットフォーム」でニッチな分野を開拓するQuantum Machinesが55億円調達

イスラエルのスタートアップであるQuantum Machines(クォンタムマシーンズ)は、量子マシンを動かすための古典的なハードウェアとソフトウェアのインフラを構築しており、現地時間9月5日、5000万ドル(約55億円)のシリーズBラウンドを発表した。

今回のラウンドはRed Dot Capital Partnersがリードし、Exor、Claridge Israel、Samsung NEXT、Valor Equity Partners、Atreides Management LPの他、TLV Partners、Battery Ventures、2i Ventures、その他の既存投資家の協力を得て実施された。Crunchbaseのデータによると、同社はこれまで約8300万ドル(約91億円)を調達した。

一般的に量子コンピューティングはまだ始まったばかりだが、Quantum Machinesは「Quantum Orchestration Platform(量子オーケストレーション・プラットフォーム)」と呼ばれるハードウェアとソフトウェアのシステムを構築することで、ニッチな分野を開拓している。

確かに、Quantum Machinesの共同創業者でありCEOのItamar Sivan(イタマール・シバン)氏は、これまでずっと量子分野の仕事に携わり、この技術の大きな可能性を感じている。「量子コンピューターは、古典コンピューターが合理的な時間内に完了することが不可能な計算を極めて高速化する可能性を秘めており、この分野への関心は現在、最高の水準に達しています。Quantum Machinesのビジョンは、量子コンピューターをユビキタスなものにし、すべての産業に革命をもたらすことです」と同氏は語る。

そのために、同社は古典コンピューターが量子コンピューターの発展に力を与えるシステムを開発した。同社はこの目的のために独自のシリコンを設計しているが、量子チップを作っているわけではないことに注意が必要だ。シバン氏の説明によると、古典コンピューターにはソフトウェアとハードウェアの層があるが、量子マシンには3つの層があるという。「心臓部である量子ハードウェア、その上に古典的なハードウェアがあり、さらにその上にソフトウェアがあります」と同氏はいう。

「我々が注目しているのは、後者の2層です。つまり、古典的なハードウェアとそれを動かすソフトウェアです。我々のハードウェアの核心は、実は古典的なプロセッサーです。これが量子スタックの最も興味深い点だと思います」と説明している。

同氏は、古典的なコンピューティングと量子コンピューティングの間のこの相互作用は、テクノロジーの基本であり、将来にわたり、あるいは永遠に続くものであるという。Quantum Machinesが構築しているのは、基本的には、量子コンピューターを稼働させるために必要な古典的なクラウドインフラだ。

Quantum Machinesの創業チーム。イタマール・シバン氏、ニシム・オフェク氏、ヨナハン・コーエン氏(画像クレジット:Quantum Machines)

これまでのところ、このアプローチは非常にうまくいっている。シバン氏によると、政府、研究者、大学、そしてハイパースケーラー事業者(Amazon、Netflix、Googleなどの企業が含まれる可能性があるが、同社は顧客であるとは述べていない)が、いずれも同社の技術に興味を持っているという。具体的な数字については言及していないが、同社は現時点で15カ国に顧客を持ち、名前を明かせない大企業とも協力関係にある。

今回の資金調達は、同社の活動を裏づけるもので、ソリューションの開発継続を可能にする。同社は研究開発にも多額の投資を行っている。開発の初期段階にあり、この先ずっと大きな変化が起こるこの産業では重要なことだ。

このソリューションは、わずか60人の従業員でここまで完成させることができた。今回の資金調達により、今後数年間でチームを大幅に増強することができる。シバン氏は多様性に関して、それが当然とされるアカデミックなバックグラウンドの出身であり、それを会社に持ち込み新しい人材を採用しているという。さらに、パンデミックのおかげで、どこからでも採用できるようになり、同社はこの機会を活用しているという。

「まず第一に、我々はイスラエルだけではなく、世界中で採用活動を行っており、特定の地域での採用に限定していません。当社には多くの国から人が集まっています」と話す。また「私個人にとっての多様性とは、できるだけ多くの人を採用プロセスに参加させることです。それが多様性を確保するための唯一の方法です」。

パンデミック期間中も、ハードウェアチームは、許可されている場合は必要な注意を払い、オフィスで対面のミーティングを行ってきたが、ほとんどの社員は自宅で仕事を続けていた。これは、定期的にオフィスに行くことが安全になったとしても続けていくアプローチだという。

「もちろん、ポストコロナ時代には、相当の仕事量がリモートワークによって行われます。【略】ですから、当社の本社でも(希望者には)リモートワークを認めることを想定しています」。

関連記事
東京大学とIBMがゲート型商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」の日本初始動を発表
2023年までに1000量子ビットの量子処理ユニット(QPU)完成を目指すフランスPasqalが約32億円のシリーズA調達
ソフトバンクが2030年代の「Beyond 5G」「6G」のコンセプトと12の挑戦を公開
画像クレジット:Quantum Machines

原文へ

(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

「あと5年でデスクトップ型量子コンピューターが登場する」と量子コンピューター企業CEOが発言

米国時間9月14日、TechCrunch Disrupt 2020で量子コンピューター系スタートアップのリーダー3名が、TechCrunchの編集者であるFrederic Lardinois(フレデリック・ラーディノイス)との座談会に出席し、量子コンピューター技術の将来について話し合った。そこでIonQ(アイオンキュー)のCEO兼社長であるPeter Chapman(ピーター・チャップマン)氏は、現在からわずか5年でデスクトップ型の量子コンピューターを実現できると発言したが、この楽観的なタイムラインに他の参加者からの同意は得られなかった。

「今後数年以内、5年かそこらで(デスクトップ量子コンピューターを)見かけるようになります。私たちの目標はラックマウント式の量子コンピューターです」とチャップマン氏。

だがそれは、 D-Wave Systems(ディーウエイブ・システムズ)のCEOであるAlan Baratz(アラン・バラツ)氏にはやや楽観的に聞こえた。バラツ氏の企業が開発に取り組んでいる超伝導技術には、希釈冷凍機と呼ばれる特殊な大型の量子冷蔵ユニットが必要となるが、その点から見ても5年間でデスクトップ型にするというゴールは実現性が乏しいという。

Quantum Machines(クオンタム・マシンズ)のCEOであるItamar Sivan(イータマー・シバン)氏も、そうした技術を手にするまでには数多くのステップを踏む必要があり、実現には数多くの難関を越えなければならないと考えている。

「この挑戦は、決まった適切な素材を1つ見つければよいとか、特定の方程式を解けばよいといった性質のものではないのです。解決すべき問題は学際的なもので、まさにチャレンジなのです」とシバン氏。

チャップマン氏は、特殊な量子マシンが現れる可能性も想定している。例えばクラウドを通じて量子コンピューターに効率的なアクセスができない軍用機などに搭載されるものだ。

「クラウド内に組み込まれたシステムに依存できないのです。そうなれば、飛行機にそれを積むしかない。量子コンピューターを軍事利用するためには、辺境で使える量子コンピューターが必要になります」と彼は話す。

1つ指摘しておくが、IonQの量子コンピューターへのアプローチは、D-WavesやQuantum Machinesのものとは異なっている。

IonQでは、原子時計における先進的な技術がその量子コンピューター技術の中核となっている。Quantum Machinesは、量子プロセッサーの開発は行わず、そうしたマシンを制御するハードウェアとソフトウェアのレイヤーを開発している。それらは、従来型のコンピューターでは不可能なレベルに到達しつつある。

一方、D-Waveは「量子焼きなまし法」と呼ばれる方法を採用している。何千ものキュービットを生成できるが、その代償としてエラー率が高くなるというものだ。

今後数十年、技術がさらに進歩する過程で、これらの企業はみなパワフルなコンピューティングのスタート地点を顧客に提供することで、価値を提供できると考えている。そのパワーを制御すれば、昔ながらのコンピューティングという観念は一変する。しかしシバン氏は、そこに至るまでにたくさんのステップがあると語る。

「これは大変な挑戦です。しかも、量子コンピューティングのスタック内の各レイヤーごとに、そこに特化した高度に専門的なチームを必要とします」と彼は話す。その問題を解決する1つの方法として、こうした根本的問題のそれぞれを解決する幅広い協力関係の構築がある。今すぐ多くの人たちのために作ろうと決めたにしても、クラウド企業と協力しなければ、量子コンピューターは実現できない。

「この点において、2020年はとても興味深い提携関係がいくつか見られました。これは、量子コンピューターの実現に欠かせないものです。IonQとD-Wave、そしてその他の企業は、他の企業のクラウドサービスを通じて独自の量子コンピューターを提供するクラウドプロバイダーと提携しました」とシバン氏。彼の会社も、数週間以内に独自のパートナーシップを発表すると語っていた。

これら3つの企業の最終目標は、本当の量子パワーを発揮できる汎用量子コンピューターをいずれ完成させることだ。「私たちは、これまでのコンピューターではできなかったことを可能にするために、汎用量子コンピューターへの前進を続けることができ、また続けるべきなのです」とバラツ氏は話す。しかしバラツ氏も他の2人も、このゲームのラストに至る道程の、まだまだ序盤のステージにいるという認識は持ち合わせている。

関連記事:Q-CTRLとQuantum Machinesが提携、量子コンピューティング開発を加速

カテゴリー:ハードウェア

タグ:量子コンピューター IonQ D-Wave Systems Quantum Machines Disrupt 2020

画像クレジット:solarseven / Getty Images

原文へ
(翻訳:金井哲夫)