READYFORの経営陣および投資家陣。前列中央が代表取締役CEOの米良はるか氏
「今は変化するタイミングだと思っている。小規模な団体から国の機関まで、さまざまな資金調達のニーズが生まれていて、毎月何千件という相談が来るようになった。そこに対してどのようにお金を流していくのか。新たなチャレンジをするためにも資金調達をした」——そう話すのはクラウドファンディングサービス「Readyfor」を展開するREADYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏だ。
これまでもCAMPFIREやMakuakeといった日本発のクラウドファンディングサービスを紹介してきたけれど、Readyforのローンチはもっとも早い2011年の3月。今年で7周年を迎えた同サービスは、日本のクラウドファンディング領域におけるパイオニア的な存在とも言えるだろう。
そんなReadyforを運営するREADYFORは10月17日、同社にとって初となる外部からの資金調達を実施したことを明らかにした。調達先はグロービス・キャピタル・パートナーズ、Mistletoe、石川康晴氏(ストライプインターナショナル代表取締役社長兼CEO)、小泉文明氏(メルカリ取締役社長兼COO)。調達額は約5.3億円だ。
また今回の資金調達に伴い今年7月に参画した弁護士の草原敦夫氏が執行役員CLOに、グロービス・キャピタル・パートナーズの今野穣氏が社外取締役に就任。石川氏、小泉氏、Mistletoeの孫泰蔵氏、東京大学の松尾豊氏がアドバイザーとして、電通の菅野薫氏がクリエーティブアドバイザーとして加わったことも明かしている。
READYFORでは調達した資金も活用しながら、既存事業の強化に向けた人材採用やシステム強化を進める方針。また同社が取り組んできた「既存の金融サービスではお金が流れにくかった分野へ、お金を流通させるための仕組みづくり」をさらに加速させるべく、新規事業にも着手するという。
ここ数年で変わってきた日本のクラウドファンディング市場
Readyforはもともと東大発ベンチャーであるオーマの1事業として2011年3月にスタートしたサービスだ。
約3年後の2014年7月に会社化する形でREADYFORを創業。同年11月にオーマから事業を譲受し、それ以来READYFORが母体となって運営してきた。現在はサービスローンチから7年半が経過、会社としても5期目を迎えている。
初期のReadyfor
ローンチ当初は日本に同様のサービスがなかっただけでなく、そもそもクラウドファンディングという概念がほとんど知られていなかったこともあり「サービスのマーケティングというよりも、クラウドファンディング自体の世界観や認知を広げる感覚だった」(米良氏)という。
それから代表的なサービスが着々と実績を積み上げるとともに、国内で同種のサービスが次々と立ち上がったことも重なって、クラウドファンディングへの注目度も上昇。特に直近1〜2年ほどで状況が大きく変わってきたようだ。
「自社のデータではクラウドファングの認知率が60%くらいに上がってきている。実際、創業期の事業者や社会的な事業に取り組む団体など、“お金が必要だけど、金融機関から借り入れるのが簡単ではない人たち”にとっては、クラウドファンディングが1つの選択肢として検討されるようになってきた」(米良氏)
この仕組みが徐々に浸透してきたことは、いろいろなメディアで「クラウドファンディング」という言葉が詳しい説明書きもなく、さらっと使われるようになってきたことからも感じられるだろう。
また認知度の拡大と合わせて、クラウドファンディングを含むテクノロジーを使った資金調達手段の幅も広がった。たとえば国内のスタートアップが投資型クラウドファンディングを使って数千万規模の調達をするニュースも見かけるようになったし、賛否両論あるICOのような仕組みも生まれている。
そのような状況の中で、主要なクラウドファンディング事業者はそれぞれの強みや特色が際立つようになってきた。READYFORにとってのそれは、冒頭でも触れた「既存の金融サービスではお金が流れにくい領域」にお金を流すことだ。
「担保がなくてお金がなかなか借りられない創業期の事業者、ビジネスモデル的には難しいけれど社会にとって必要な事業に取り組む団体、あるいは公的な資金だけではサポートが十分ではない公共のニーズ。そこに対して民間のお金が直接流れるテクノロジーが生まれることで、しっかりお金が行き届いていく。Readyforではそういった世界観を作っていきたい」(米良氏)
ローンチから数年間がマーケット自体の認知を広げる期間だったとすれば、ここ2年ほどは今後作っていきたい世界の下地を作るための期間だったと言えるのかもしれない。
READYFORはNPOや医療機関、大学、自治体や地域の事業者など約200件のパートナーと連携し、お金を流通させる仕組みを広げてきた。
9000件超えの案件を掲載、約50万人から70億円以上が集まる
たとえば2016年12月には自治体向けの「Readyfor ふるさと納税」をローンチ。県や新聞社、地銀とタッグを組んだ「山形サポート」のような特定の地域にフォーカスした事業も始めた。
2017年1月に立ち上げた「Readyfor Colledge」は大学や研究室がプロジェクト実行者となる大学向けのサービスだ。筑波大学准教授の落合陽一氏のプロジェクトが話題になったが、同大学を含む国立6大学との包括提携を実施している。
これらに加えて、米良氏によると最近では国立がん研究センターや国立成育医療研究センターのような国の研究機関からの問い合わせが増えているそう。イノベーションの種となる研究や、長期的に人々の生活を支えるような機関をバックアップするシステムとして、クラウドファンディングが使われるようになってきたというのは面白い流れだ。
このように少しずつ対象を広げていった結果、Readyforには7年で9000件を超えるプロジェクトが掲載。約50万人から70億円以上の資金が集まるプラットフォームへと成長した。
実行者と支援者双方に良いユーザー体験を提供するため、初期から重視していたという達成率は約75%ほど。全てのプロジェクトにキュレーターがついて伴走する仕組みを整えることで、規模が拡大しても高い達成率をキープしてきた。
それが良いサイクルに繋がったのか、支援金の約40%を既存支援者によるリピート支援が占める。個人的にもすごく驚いたのだけど、もっとも多い人は1人で800回以上もプロジェクトを支援しているそう。
支援回数が500回を超えるようなユーザーは他にも複数いるようで、一部の人にとってはクラウドファンディングサイトが日常的に訪れるコミュニティのような位置付けになってきているのかもしれない。
7月からは料金プランをリニューアルし、12%という手数料率の低さが特徴の「シンプルプラン」とキュレーターが伴走する「フルサポートプラン」の2タイプに分ける試みも実施した。
「これまで膨大なプロジェクトをサポートしてきた中で、どうやったら成功するかといったデータやノウハウが蓄積されてきた。その中には(ずっとキュレーターが伴走せずとも)サービスレベルでサポートできる部分もある。2つのプランを展開することで、より多くのチャレンジを支援していきたい」(米良氏)
これからREADYFORはどこへ向かうのか
1期目から4期目までは自己資金で経営を続けてきたREADYFOR。プロジェクトの数も規模も拡大してきているタイミングであえて資金調達を実施したのは、一層ギアを上げるためだ。
では具体的にはどこに力を入れていくのか。米良氏は「パートナーシッププログラムの強化を中心とした既存事業の強化と、これまで培ってきたリソースやナレッジを活用した法人向けの新規事業の2つが軸になる」という。
既存事業についてはシステム強化やプロモーション強化に加え、ローカルパートナーシップをさらに加速させる。
これまでもREADYFORは地域金融機関65行との提携を始め、自治体や新聞社といった地域を支えるプレイヤーとタッグを組んできた。この取り組みを進めることで、地域の活動に流れるお金の量を増加させるのが目標だ。
山形新聞社や山形銀行、山形県などと一緒に取り組む「山形サポート」
新規事業に関しては、現時点で2つの事業を見据えているそう。1つはプロジェクト実行者がより継続的に支援者を獲得できるSaaSの開発だ。こちらはまだ具体的な内容を明かせる段階ではないが、実行者と支援者が継続的な関係性を築けるような「ファンリレーションマネジメント」ツールを検討しているという。
そしてもう1つの新規事業としてSDGs(持続可能な開発のための2030アジェンダ)に関する事業も始める。READYFORではすでに社会性の高いプロジェクトを実施する団体と企業のCSR支援金をマッチングする「マッチングギフトプログラム」を整備。アサヒグループやJ-COMなどと連携を図ってきた。
今後社内で「ソーシャルインパクト事業部」を立ち上げ、企業とSDGs達成に寄与する活動を行う団体やビジネスとのマッチングなど、Readyforのデータを活用した事業に取り組む計画だ。
同社の言葉をそのまま借りると、READYFORのこれからのテーマは「社会を持続可能にする新たな資金流通メカニズム」を確立すること。既存の仕組みでは富が偏ってしまうがゆえに、本当に何かを実現したい人たちに対して十分なお金が流れていないので、その仕組みをアップデートしていこうというスタンスだ。
「今は自分たちのことを『本当に必要なところにお金が流れる仕組み』をいろいろな形で実装する会社と考えているので、クラウドファンディングというものを広義に捉えていきたい。お金を流すという役割を果たすべく、新しいやり方にもチャレンジしていく」(米良氏)