AIがSNSから“現場の映像”を収集、「Newsdeck」にフジテレビが出資

  • spectee人工知能(AI)で事件や事故、災害の画像・動画をネット上から自動収集し、投稿者の許諾を得て報道機関に提供するサービス「Newsdeck」に、テレビ局からの注目が集まっている。

今年3月にアルファ版をリリースしたばかりだが、すでにNHKに加えてフジテレビやテレビ朝日などの民放キー局が導入。地方のテレビ局やウェブメディアも合わせて15社が報道で利用している。

運営会社のSpecteeは7月26日、フジテレビ系列のVC「フジ・スタートアップ・ベンチャーズ」をリードインベスターとする資金調達を実施したことを発表。金額は非公表だが、関係者によれば1億円前後とみられる。

Newsdeckのダッシュボード画面

Newsdeckのダッシュボード画面。報道機関は「事件」「事故」「自然災害などの項目から画像や映像を検索し、ニュースで利用できる

AIで「火事」と「焚き火」を識別

Newsdeckは、TwitterをはじめとするSNSから事件や事故、災害に関する画像・動画をリアルタイムに収集し、AIが「火災」や「人身事故」「爆発」といった項目に分類する。

例えば、火災の画像を収集するにあたっては、あらかじめ「燃えている画像」「煙が出ている画像」「消防車の画像」などを学習させ、収集した画像が「火事」らしいかどうかを判定。火事と焚き火の画像もAIで識別できると、Specteeの村上建治郎社長は説明する。

「火を囲んで談笑しているか、火から離れて見ているのか、といった複数の要素と、過去の学習成果をかけあわることで、AIが一瞬で判断する。」

SNSの投稿を使う報道機関は通常、投稿者から個別に許可を得るが、Newsdeckも同じ。アルファ版公開当初はボットで定型文を送って許諾を求めていたが、「返信率が上がらなかった」ため、現在は人力でメッセージを送っている。

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新宿・ゴールデン街の火災で注目

Newsdeckが報道機関から熱視線を送られるきっかけとなったのは、4月12日に発生した東京・新宿ゴールデン街の火災だった。

ゴールデン街の火災では、現場に居合わせた一般人がTwitterに動画を投稿。その動画を番組で使用するために、多くのテレビ局が投稿者へ利用許諾を求めた。

その模様をまとめたTogetterによれば、最も早く利用許諾を求めたのはSpectee。Twitterに火災動画が投稿されてから、わずか3分後の出来事だった。

Specteeに続いたのはテレビ朝日で、動画投稿から10分後、TBSは20分後、フジテレビは2時間26分後と、AIと人力による収集能力の差が如実に表れた形だ。

スタッフをネットに貼り付けて動画や画像を探し、その都度、投稿者に許可を得るのは手間とコストがかかるーーそう考える報道機関がNewsdeckに依頼するケースが増えているようだ。

デマ投稿にどう対応する?

Twitterに事故や災害の第一報が投稿されるのは珍しくなくなったが、中には「デマ」が出回ることもある。

4月の熊本地震では「ショッピングモールが火災」といったデマ写真がTwitterで拡散。この情報に惑わされたフジテレビが震災特番の中で報道し、番組中に訂正したこともあった。

こうしたデマ投稿に対応するために、Newsdeckは過去に同じ画像や動画が投稿されていないかをフィルタリングする。「ネタ画像」の使い回しかどうかをチェックするためだ。

熊本地震では「ライオンが動物園から脱走した」というデマ写真もTwitterで拡散したが、これはヨハネスブルグの画像を使い回したものだった。

「自動収集した画像や映像は最終的にスタッフが目視する。それでもデマかどうか判断できないものは消防や警察の情報にも当たっている。」(村上氏)

報道機関に変わって画像の収集から権利処理までを肩代わりする

報道機関に変わって画像の収集から権利処理、情報の裏取りまでを肩代わりする

フジテレビと動画・画像キュレーションで提携

VCを通じて出資したフジテレビは、7月に「ネット取材部」を新設。同部署のコア機能として、Newsdeckの利用を見込んでいる。フジテレビ報道局での導入も進める。

子会社のフジテレビラボとも提携。視聴者投稿型サービス「FNNビデオポスト」とNewsdeckを統合して、動画・画像のキュレーション事業を年内に開始する。

「アジアでは勝てる」

今回の出資を受けてSpecteeは、台湾や香港、韓国、シンガポールの報道機関にもNewsdeckを売り込む。アジア進出にあたっては、フジテレビとともに出資したCBCのネットワークを活用し、その後は欧州と米国にも進出する。

国内に競合はないというが、海外に目を向けると、2015年7月にソフトバンクなどが1億ドルを出資したことでも話題になった米BanjoYouTubeと共同で報道映像を配信する米Storyfulなどがある。これら海外勢への優位点について、村上氏は次のように語る。

「権利処理や現場状況の聞き込みなど、投稿者との丁寧なやり取りが強み。この点は海外プレイヤーが抜けている部分。日本でもテレビ局をはじめ既存の顧客からは、AIの技術以上に、その点を評価いただいている。」

アジアの報道機関には「米大手テレビで採用されている」というよりも、「NHKで採用されている」という方が説得力があると村上氏は言い、アジアでは勝てると踏んでいる。「小資本でもレバレッジが効き、小さくても勝てるエリアを探してそこから欧州、米国を攻めていきたい。」

“現場の映像”の通信社

今後は、SNSの投稿を提供するだけでなく、ドローンで自ら映像を撮影したり、タクシーのドライブレコーダー(事件の現場近くに止まっていたタクシーで撮影した映像が役に立つことがあるらしい)などの映像も収集する考え。

収益源は報道機関が支払う月額料金。将来的にイメージしているのは、国内外の報道機関にニュースを配信する「通信社」の画像・動画版だ。

「日本では共同通信社がテレビ局と年間億単位で契約している。Specteeは国内外の報道機関と契約し、2018年までに売上高10億円を目指す。」

YouTubeがNewswireをスタート―ビデオの信頼性を専門家が検証して配信するニュースチャンネル

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今日(米国時間6/18)、YouTubeはビデオ共有とジャーナリズムのあり方に新しい風を吹き込むべく3つの新サービスをスタートさせた。そのメインとなるのは事実だと検証ずみのビデオを配信するYouTube Newswireという新しいニュース・チャンネルだ。このチャンネルはYouTubeにアップロードされたビデオから報道する価値があるものを選び、ジャーナリストが事実性を検証するソーシャル通信社Storyfulとの提携によって生まれた。

YouTubeのブログ記事によると、2011年のエジプト革命の発端となったタハリール広場での抗議集会を機に、YouTubeはその前年からYouTubeビデオの事実検証と背景情報の収集を始めたStoryfulと提携するようになったという。Storyfulのチームはこれまでに10万本以上のYouTubeビデオを検証してきた。

GoogleのYouTubeとNews Corpの子会社、StoryfulはこれまでもCitizenTube、YouTube Politics、YouTube Human Rights Channelなどのチャンネルで提携している。

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今回のYouTube Newswireでは、提携をさらに一歩進め、 そのビデオに関連ある情報に詳しい世界中のジャーナリストやビデオの目撃者に直接連絡を取って証言を求めることとしている。

Storyfulのファウンダー、イノベーション担当ディレクターのMark Littleは新サービスのスタートを告げる声明の中で「インターネット上のノイズはますます大量になっており、それにともなって適切なキュレーションの必要性もこれまでになく強まっている。われわれのチームは最良のソーシャル・ジャーナリズムを目指して献身的に努力していく」と 述べている。Littleによれば、Storyfulが2011年にYouTubeとの協力を始めたときには48時間分のビデオが毎分アップロードされていたが、現在は毎分300時間にもなっているという。.

YouTube Newswireは世界的なニュースだけでなく、ローカルニュースも扱う。またTwitterメール・ニュースレターでもビデオを配信する。テーマとしては最新ニュースの他に政治と天気が扱われる。

Storyfulは昨年FacebookがFB Newswireをローンチしたときに、Facebookとも同様の協力をしている。FB NewswireはFacebookに投稿された記事のうち、情報源に信頼がおけて社会的に価値が高いものを選んで掲載するキュレーション・ページだ。

Storyfulの重要な役割は、単に記事を選んで見やすく整理するだけではなく、信頼性を検証し他のニュースメディアやジャーナリストが安心して引用できるようにする点にある。ソーシャルネットワークが普及した後のいわゆるリアルタイム・ジャーナリズムの時代にはTwitter、Facebook、 YouTubeへの投稿がメディアやジャーナリストによって引用され、事実化どうか確認される前に瞬時にニュースとして世界に拡散してしまう。Storyfulは話題のビデオがインチキであることを何度も暴いてきた。 この中にはトワーキング・ダンスしている女性がロウソクの上に倒れて火に包まれるというビデオトリック撮影によるものだという検証も含まれる。

リアルタイムニュースメディアとしてYouTubeに最近手強いライバルが現れている。TwitterはPeriscopeというニュースのライブストリーミングを開始したし、Meerkatにもかなりのファンがいる。どちらもユーザー投稿のニュースビデオを公開しており、最近はAmtrakの脱線事故、ニューヨークのビル崩壊ロサンゼルスのカーチェイス 政治論争の内幕などが話題になっている。

こうした動きに対抗して「信頼できるニュース」の提供によって差別化を図ろうとしたのがYouTube Newswireだといえる。YouTubeは投稿ビデオの信頼性を向上させるためにさらに2つのサービスをスタートさせた。

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その一つがThe First Draft Collectionで、これはソーシャルメディア・ジャーナリストのグループがこの秋に立ち上げを目指しているサービスで、ビデオの信頼性を検証するさまざまなリソースの提供を目指している。これには報道倫理の学習、検証のツールとノウハウの提供、詳細なケーススタディーの紹介などが含まれる。このチームにはEyewitness Media HubStoryfulBellingcat、First Look MediaのReported.lyMeedanEmergentSAM DeskVerification Junkieなどのサイトから検証のエキスパートが参加している。たとえばBellingcatのEliot Higginsはトレーラーで輸送される軍用車両の写真をGoogleストリートビューと付きあわせてロシアからウクライナに向けて送られる途中であることを突き止めた過程を説明している。

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またYouTubeはWITNESS Media Labと協力して公民権や政治的権利への侵害の問題を深く掘り下げた情報を掲載するWITNESSというサイトをスタートさせた。 新しいサイトはすでに公開されており、Twitterフィードも配信中だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+