【ロボティクス】パンデミックの影響、看護支援ロボットDiligent Robotics CEOとの興味深い話

筆者はここ数日、大きなプロジェクトに関わっていた(詳細については近日公開予定)ため、残念ながら最新ニュースにしばらく目を通しておらず、ロボティクスに関する今週の大きなニュースについてまったく把握していなかった。そこで、このコラムでその遅れを少し取り戻したいと思う。

そのニュースを取り上げる前に、少し別の話を紹介しよう。筆者は、パンデミックの期間中にユニークな経験をした興味深いロボティクス企業と対談する機会があった。

Diligent Robotics(ディリジェント・ロボティクス)がシリーズAを発表したとき、世界はそれまでとはまったく違ってしまったと言っていいだろう。2020年3月は今からそれほど遠い昔ではないが、現在に至るまでパンデミックによって世界中の医療機関は非常に大きな負担を強いられ続けており、その影響がこれほどまでに広範囲かつ長期間に及ぶとはほとんど誰も予想していなかった。病院スタッフの過労と人手不足の傾向は、新型コロナウイルス感染症の流行以前にも見られたが、流行後にはその傾向が顕著になり、同社の看護支援ロボットMoxi(モキシー)の需要が急激に増加した。

2020年実施された1000万ドル(約11億円)の資金投入がディリジェントの成長に貢献したことは間違いないが、同社は在宅勤務に移行する際に誰もが遭遇する課題に対処しながら、生産能力を高めるという難しいタスクに取り組んでいた。

2017年にVivian Chu(ヴィヴィアン・チュー)氏とともにディリジェントを設立した、Interactive Computing at Georgia Tech(ジョージア工科大学インタラクティブ・コンピューティング学部)のAndrea Thomaz(アンドレア・トマス)准教授は筆者たちと今週会い、2020年経験したユニークな課題と機会について話してくれた。

ロボティクス業界とディリジェントが、パンデミックによって受けた影響の度合いは?

さまざまな業界で労働市場が実に劇的に変化した。これはロボティクス業界とディリジェントの両方に言えることだが、この劇的な変化は、多くの従業員が退職しようとしていること、すなわち何か別のことを始めようとしていることと関係しているように思える。そして実際、多くの人が職を変えている。この傾向はあらゆる技術的な職業に見られ、我々の業界や医療業界で多くの事例が上がっている。とにかく、多くの人が何か別のことを始めようと考えている。パンデミックが始まる前も労働力に関する課題はあったが、今やそれが危機的なレベルになりつつある。

技術的な仕事に就きたいと思う人は常に少ないが、技術的な仕事の需要は常に高い。これはある意味、危機的な状況と言えるだろう。

この傾向はパンデミック前から始まっていた。パンデミックでそれが顕著になったに過ぎない。この傾向は、医療保険改革法(オバマケア)に端を発している。より多くの人が医療を受けられるようになったということは、病院に行って医療を受けられる人が増えたことを意味する。これが高齢化と相まって、必要な医療を提供するスタッフのさらなる不足を引き起こしている。

パンデミック発生の時点でロボットを採用していた病院の件数と、需要がその後どのように急増したかという観点から、需要を把握することはできるか?

我々はまだその情報を公開していない。来年の前半までには、その規模についてより具体的な数値を発表できるだろう。ただし、四半期ごとにロボットの出荷台数を2倍に増やしていることは確かだ。

そのようなロボットの運用に至るプロセスはどのようなものか?

これは、病院市場に関して非常に興味深いテーマであると考えている。このプロセスは、倉庫や製造における従来の自動化とは異なる。ロボットを運用する環境では、看護師や臨床医が働いている。ロボットは、そのような環境で人と一緒に作業をしなければならない。我々は、まず初めにワークフローを評価する。つまり、その環境で現在どのように業務が行われているかを評価するのだ。

画像クレジット:Diligent Robotics

パンデミックは企業の成長にどのような影響を与えたか?

パンデミック前は、製品の市場適合性が満たされていた。我々の研究開発チームの作業は、製品に変更をわずかに加えるだけの非常に小規模なものだった。製品を顧客に見せて価値を示すだけでよかった。しかし現在は契約の締結と納入が重要で、最短期間で導入し、耐久性を最大限高めることを考えることが必要だ。特にハードウェアの面では、製造プロセスと信頼性に関してどのように設計すべきかが大切だ。現在、当社のロボットが現場で1年以上稼働しており、以前と比べて信頼性が高まっている。今や、ロボティクスのロングテール現象が起こりつつあり、今後が楽しみだ。

パンデミックによって、ロボティクスの分野で驚くべき機能や需要が生まれたか?

当社の顧客のどの現場でも「そのロボットはコーヒーを持ってこられるようになるか」と看護師は口を揃えていう。モキシーがロビーのStarbucks(スターバックス)に行き、みんなのためにコーヒーを買ってくることを看護師たちは期待している。自分たちはスターバックスに行って並ぶ時間がないから、時間の節約になるというわけだ。実現できないわけではないが、積極的に試してみようとは考えていない。

つまり、モキシーにエスプレッソマシンを搭載する計画はないということか?

その計画が来年のうちに実現することはないだろう。

近い将来、資金をさらに調達する予定はあるか?

現在、増資の計画中だ。今のところ順調だが、顧客からの需要が非常に高まっているため、チームを増強してロボットの出荷台数を増やすのは、やぶさかではない。

現時点では米国市場に注力するつもりか?

当面はその予定だ。当社では、世界的に展開する戦略について検討を始めている。2022年中に当社の製品が世界中に行き渡るとは考えていないが、すでに多くの引き合いが来ている。現在、販売パートナーを選定中だ。世界各地のクライアントから、1カ月に何件も問い合わせが来ている。今のところ、それらのクライアントと積極的に進めているプロジェクトはない。

画像クレジット:Tortoise / Albertsons

資金調達とコーヒーの配達については、別の機会に取り上げよう。今週は、配送関連で注目の話題がいくつかあるので紹介しよう。まず、過去に何度も取り上げたTortoise(トータス)だが、同社のリモート制御による配達ロボットのチームに追い風が吹いてきた。米国アイダホ州を拠点とするKing Retail Solutions(キングリテールソリューションズ)との取引によって、ラストワンマイル配送用に500台を超えるトータスのロボットが米国内の歩道に導入される。

CEOのDmitry Shevelenko(ドミトリー・シェベレンコ)氏は「未来の姿がニューノーマルになるというこの新しい現実に、誰もが気づき始めている。ラストワンマイル配送で時給20ドル(約2300円)稼ぐスタッフを動員しても、想定されるどんな状況でも消費者の期待に応え続けるということはできない。単純計算は通用しないのだ」と語る。

先に、Google(グーグル)のWing(ウィング)は、同社による提携を発表した。ウィングは、オーストラリアの小売店舗不動産グループであるVicinity Centres(ビシニティ・センターズ)と提携し、ドローンを使用した配達プログラムの範囲をさらに拡大する。ウィングは、10万件の配達を達成したという先日の発表に続き、オーストラリアのローガン市にあるグランドプラザショッピングセンターの屋上からの配達件数が、過去1カ月間に2500件に達したと発表した。

ローガン市の住民は、タピオカティー、ジュース、寿司を受け取ることができる。今や美容と健康に関する製品まで配達できるようになった。ウィングは「一般的な企業の建物には屋上があるため、当社の新しい屋上配達モデルによって、ほんの少しの出費とインフラ整備だけで、さらに多くの企業がドローン配達サービスを提供できるようになる」と語る。

画像クレジット:Jamba / Blendid

ジュースといえば(といっても、まとめ記事で筆者がよく使う前振りではない)、米国サンフランシスコのベイエリアを拠点とするスムージーロボットメーカーのBlendid(ブレンディド)は先に、Jamba(ジャンバ)のモールキオスク2号店に同社の製品を導入すると発表した。このキオスクは、米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡のダウニー市のモールに今週オープンした。ちなみにダウニー市は、現在営業しているMcDonald’s(マクドナルド)の最も古い店舗がある都市でもある(Wikipediaより)。

これは時代の波だろうか。それとも何かのトリックだろうか。答えはどちらも「イエス」だ。

ジャンバの社長であるGeoff Henry(ジェフ・ヘンリー)氏はプレスリリースで「Jamba by Blendid(ジャンバ・バイ・ブレンディド)のキオスク1号店オープン後に、Stonewood Center(ストーンウッド・センター)に試験的にキオスク2号店をオープンして、モールの買い物客に新鮮なブレンドスムージーを販売できることをうれしく思います。ジャンバ・バイ・ブレンディドでは最新の非接触式食品提供技術を採用しているため、当社の現地フランチャイズ店は、ジャンバ好きのファンにスムージーを簡単に提供できます」と述べている。

画像クレジット:Abundant Robotics

ここで、フルーツに関するビジネスの果樹園サイドに注目しよう。Robot Report(ロボットレポート)に今週掲載された記事には、Wavemaker Labs(ウェーブメーカーラボ)が今夏に廃業したAbundant Robotics(アバンダント・ロボティクス)のIPを取得したことが紹介されている。残念ながら、アバンダントのリンゴ収穫ロボットが復活するわけではなさそうだ。どうやら、ウェーブメーカーのポートフォリオスタートアップ企業であるFuture Acres(フューチャー・エーカーズ)のロボティクスシステムに、このIPが組み込まれるようだ。

最後に、アームに搭載されたRFアンテナとカメラを使用して紛失物を探す、MITが研究しているロボットを簡単に紹介しよう。以下はMITの発表からの引用文だ。

このロボットアームは、機械学習を使用して対象物の正確な位置を自動で特定し、対象物の上にある物を移動させ、対象物をつかみ、目標とする物体を拾い上げたかどうかを確認する。RFusionにはカメラ、アンテナ、ロボットアーム、AIが包括的に統合されており、どんな環境でも的確に機能する。特別な設定は不要だ。

画像クレジット:Diligent Robotics

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

遠隔操作ロボでの商品配達テストをグローサリー大手Albertsonsが開始、店舗から約4.8km以内の顧客が対象

Safeway(セーフウェイ)やJewel-Osco(ジュエル・オスコ)を展開するグローサリー大手のAlbertsons Companies(アルバートソンズ・カンパニーズ)は、シリコンバレースタートアップTortoise(トートイズ)が開発したリモート操作の配達ロボットを使ったグローサリー配達パイロットプログラムを立ち上げた。

配達試験は北カリフォルニアにあるSafeway2店舗で開始するが、もし成功すれば他の店舗にも拡大し、西海岸全域で試験を行うかもしれない、とTortoiseの共同創業者で会長のDmitry Shevelenko(ドミトリー・シェべレンコ)氏は述べている。

Tortoiseのセンサーとソフトウェアを搭載するSafewayブランドの配達カートは店舗から3マイル(約4.8km)内の顧客に商品を届けることができる。何千マイルも離れたところから遠隔操作するオペレーターが配達カートを目的地まで誘導する。

ロック可能な4つのコンテナに最大120ポンド(約54kg)のグローサリーを載せることができる配達カートは、まずは人間のエスコートつきで展開される。試験がうまくいけば、そうしたガイドを排除することを目指す。配達ロボットが到着すると、顧客は外に出てグローサリーをピックアップするようテキストメッセージを受け取る。

今回の試験は大規模小売店が顧客により早く商品を届けようとテクノロジーを導入する最新の事例だ。Amazon(アマゾン)、Kroger(クローガー)、Walmart(ウォルマート)なども配達ロボットを実験し、また顧客への配達あるいは配送ネットワーク内で商品を動かすのに自動走行車両を使っている。

「当社のチームは、顧客にさらなる利便性を提供できる革新的なテクノロジーを試すことに夢中です」と副社長で最高顧客・デジタル担当責任者のChris Rupp(クリス・ラップ)氏は声明で述べた。「業界で最も簡単で便利な買い物エクスペリエンスを提供すべく、画期的なイノベーションをすばやくテストして学習し、導入することに前向きです」。

この配達試験はまた、Tortoiseの配達カートへの参入の証でもある。同社が1年弱前に参入した分野だ。

「4月までこうした考えはありませんでした」とシェべレンコ氏は最近のインタビューで話した。同氏によると、2020年10月にロサンゼルスで最初の配達カートを立ち上げた

関連記事:遠隔操縦宅配カートがロサンゼルスの食料品店で活躍中

Tortoiseは、遠くにいる遠隔オペレーターが電動スクーターやバイクをライダーの元へと動かしたり、正しい駐輪スポットに戻したりできるよう、電動スクーターにカメラやエレクトロニクス、ファームウェアを装備して事業を開始した。2020年春、新型コロナウイルスパンデミックによって配達サービス需要が生まれ、Tortoiseは同社のテクノロジーをグローサリー運搬カートに適用した。

「Amazon Primeのサービス開始後、多くの人が2日での配達を期待するようになった後では、7日というのは『一生』のように感じられます」。現在、同日配達が期待されるようになり、2日での配達も「一生」のように感じてしまいます、ともシェべレンコ氏は付け加えた。

Tortoiseはまず、オンライングローサリープラットフォームとの提携を通じて近所の店や専門ブランド店にフォーカスした。シェべレンコ氏の戦略は、小規模で独立した店舗にリーチできるオンラインコマースプラットフォームとの提携を維持しながら大手小売店と提携を結ぶというものだ。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:AlbertsonsTortoise

画像クレジット:Tortoise/Albertsons

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

遠隔操縦宅配カートがロサンゼルスの食料品店で活躍中

ロボットはもはや、大学の研究室やeコマース大手やシリコンバレーでイケイケのスタートアップ御用達のハイテクツールではない。街の食料品店でも使えるようになった。

電動スクーターの遠隔回送で知られる設立1年目のシリコンバレーのスタートアップTortoise(トータス)は、その技術を宅配カートに応用した。同社は、地域の店舗や高級ブランドショップに電動カートを提供する目的で、オンライン食料品販売プラットフォームSelf Point(セルフ・ポイント)と提携した。地元の消費者に、遠隔操縦オペレーターの手で商品を届けるというものだ。

これら2つの企業は、すでにロサンゼルスの3社の顧客に製品を提供している。Kosher Express(コーシャー・エクスプレス)をはじめとする各顧客には、店から半径3マイル(約4.8km)以内の範囲で配達ができるカートを2台または3台が割り当てられている。歩道を自律走行する車両を運用する宅配業者のネットワークモデルとは異なり、食料品店は宅配カートをリース契約で借り受け、保管、充電、注文された商品の積み込みなどは自身で行うことになっている。

Self PointとTortoiseの初の事業は小規模なものだ。しかしこれには、ロサンゼルスの外に拡大できる素質がある。Tortoiseにとってこれは、遠隔操縦式の回送技術をさまざまに応用して水平的に事業展開するという大きなビジョンの検証するという重要な意味を持つものだ。

Tortoiseは、電動スクーターにカメラと電子回路とファームウェアを組み込み、遠く離れた場所からオペレーターがそのマイクロモビリティーを操縦して利用者の元へ届けたり、正規の保管場所に戻すという事業からスタートしている。その同じハードウェアとソフトウェアを利用して、今度は独自の宅配カートを作り上げたのだ。

Tortoiseの共同創設者で社長のDmitry Shevelenko(ドミトリー・シェベレンコ)氏は、同社の遠隔回送キットは、警備ロボットや掃除ロボット、さらに電動車椅子やその他の生活支援デバイスに応用できると話している。彼はまた、遠隔回送スクーターを作物の監視用に使えないかと農家から相談も受けている。

「現実的な観点から、一夜にしてあらゆる分野に乗り込むべきではないと考えていますが、技術的制約は1つもありません」とシェベレンコ氏は最近のインタビューに応えて話していた。

新型コロナウイルスの流行と、それが顧客の行動に及ぼした影響に動かされたTortoiseの第2幕は、宅配カートに決まった。

「現在は顧客の行動が変化する一世一代の時期なのだと、私たちは咄嗟に悟りました。あらゆるものがオンラインに移行し、人々はそれが自宅に配達されることを望んでいます」とシェベレンコ氏。Tortoiseは2020年5月にこの事業に着手してから、第4四半期には宅配カートの展開に漕ぎ着けた。それは、ハードウェアとソフトウェアと従業員の目的を変更できる、同社のリパーパス能力の賜物だ。

同社はいまも、マイクロモビリティーへの最初の技術適用に関して強気の姿勢を保っている。2020年初め、Tortoise、 電動スクーター配車サービスGoX(ゴーエックス)、技術系インキュベーターCuriosity Labs(クリオシティー・ラボズ)は、ジョージア州ピーチツリーコーナーズにて、ユーザーがアプリでスクーターを呼び出せるという6カ月間のパイロット事業を開始した。スクーターにはTortoiseの技術が搭載されている。利用者がスクーターを呼ぶと、何百マイルも離れた場所にいるTortoiseの従業員がスクーターを遠隔操縦してその人の元に届けるという内容だ。利用後、スクーターは安全な駐車場へ自動的に戻る。そこで、GoXの従業員がスクーターの充電と消毒を行い、適正に消毒されたことを示すステッカーを貼る。

Self Pointとの提携はTortoiseの次なる大きなプロジェクトだが、同社はオンデマンド宅配市場のほんの一切れに集中するだけだと、シェベレンコ氏は釘を刺した。

「速度が遅いので、温かい食事の配達には適しません」と彼はいう。Kiwibot(キウィボット)やStarship(スターシップ)などのスタートアップは、その市場に特化した小型ロボットを提供しているとシェレベンコ氏は補足した。Tortoiseの宅配カートは、大量の食品や酒などの商品の配達に特化している。

「食品産業には大きな間口があります」と話す彼は、自動化技術がいまだ開発途中である現在、遠隔操縦オペレーターと同社のキットの組み合わせを採用すれば、コストが削減できると指摘している。

カテゴリー:ロボティクス
タグ:Tortoise配達食品配達

画像クレジット:Tortoise

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(翻訳:金井哲夫)