TechCrunch Japanでは2017年3月から4回にわたり、イベント「TechCrunch School」でHR Techサービスのトレンドや働き方、人材戦略といった人材領域をテーマとした講演やパネルディスカッションを展開してきた(過去のイベント一覧)。HR Techシリーズ第4弾として2017年12月7日に開催された「TechCrunch School #12 HR Tech最前線(4) presented by エン・ジャパン」では「スタートアップ採用のリアル」をテーマに、キーノート講演とパネルディスカッションが行われた。この記事では、パネルディスカッションの模様をお届けする(キーノート講演のレポートはこちら)。
パネルディスカッションの登壇者はプレイド代表取締役の倉橋健太氏、dely代表取締役の堀江裕介氏、ジラフ代表取締役の麻生輝明氏、エン・ジャパン執行役員の寺田輝之氏の4人。創業者、あるいはHRサービスの提供者の立場から、それぞれが体験した「スタートアップ採用のリアル」について話を聞いた。モデレーターはTechCrunch Japan副編集長の岩本有平が務めた。
始めに各社から、自己紹介も兼ねて事業の内容や現在の体制について簡単に説明してもらった。
まずは倉橋氏が2011年に設立したプレイドの紹介から。プレイドは従業員数約70人。ユーザーを「知る・合わせる」をコンセプトに、ウェブサイトの訪問者のリアルタイムな解析とアクションを可能にするカスタマーアナリティクスサービス「KARTE」を提供している。倉橋氏は楽天に2005年に入社、2011年まで約7年間在籍し、Webディレクション、マーケティングなどさまざまな領域を担当してきた。その倉橋氏が独立し、KARTEをリリースしたのはなぜか。
ウェブサイトでは、ユーザーがいて、何らかのプロダクトやサービスを提供した結果、パフォーマンスが生まれる。倉橋氏は「残念ながら、インターネットのビジネスでは、ユーザーはトラフィック、サービスはサイトと捉えられていて、パフォーマンスから考える傾向が強い。この方法では『いかに高転換なサイトに人をたくさん流し込むか』ということだけ重視され、いろいろなところで疲弊してきているし、運営していても面白くない、ということになる」と述べる。
「昨日新規ユーザーが100人来た、と言っても、その100人は誰なのか。そういうことをしっかり可視化しながら、プロダクトやユーザー体験を良くしていきましょう、ということで、KARTEを提供している」(倉橋氏)
人の可視化が重要、と話す倉橋氏は、イベントの前の週にリリースしたKARTEの新サービス「K∀RT3 GARDEN(カルテガーデン)」を動画で紹介。これまでは、平面の管理画面で人を可視化していたところを、オンラインに来ているユーザーの行動をリアルタイムにVR空間で描画する試みだ(TechCrunch Japanの記事でも詳しく紹介している)。
カルテガーデンでは、人が商品を「手に取って」見ているところや売場を歩き回っている様子を、VRで見ることができる。「データを数字として見ることが多くの人は苦手なので、難しい。それを“人”として見ると、身近に感じて一気に簡単になる。(分かりにくい)データや数字はマーケティングから退けていきたいとの思いから、事業をやっている」と倉橋氏は話す。
続いて堀江氏から、delyの設立から今までの歩みについて紹介してもらった。堀江氏がdelyを立ち上げたのは2014年。2014年から2016年までは、現在とは違うサービスを提供していたがうまくいかず、2016年にピボットして、レシピ動画の「kurashiru」を作った。
delyの従業員数は、現在130人ぐらい。うち社員は内定者を含めて60人だ。「昨年は十数人だったので、一気に増えた」と堀江氏は言う。「直近の四半期では50人採用した。このスピードで採用していると、相当失敗もしている。いい採用だけでなく、悪い採用もしているし、どういう採用チャネルがあるのか、どういった採用ハック方法があるのか、いろいろ試しているので、今日は参考にしてもらえると思う」(堀江氏)
正社員の採用チャネルは「基本的にリファラルとWantedlyで、7割近くを占める」そうだ。今のところまだ、エージェントと媒体を利用した採用は、それぞれ約10%で「社員の満足度が高いときには、やっぱりリファラルでの採用がガンガン効く」と堀江氏は話している。「Wantedlyの運用も、今は人事担当を1人つけて、がんばっている。あと、SNS経由については、僕が毎日どんどん発信しているので、これがかなり効いているかな、と思っている」(堀江氏)
次に紹介があったのは、ジラフの麻生氏だ。ジラフは2014年の創業。麻生氏が大学在学中に、買取価格の比較サイト「ヒカカク!」を始めたのが創業事業だ。その後、別のサービスもリリースしているが、会社として大きく人を増やし、組織も拡大するきっかけとなったのは、2017年3月にポケラボを売却したシリアルアントレプレナー・佐々木俊介氏が参画し、同時にポケラボのリードエンジニアだった岡本浩治氏がCTOとして参画したことだ、と麻生氏は言う。
「そこからビジネス側、開発側で人を一気に拡大し、だいたい8カ月ぐらいで2.5倍ぐらいの規模になった」と麻生氏は話している。現在は従業員全体で60人ぐらい、社員が30人ぐらいだという。
直近では、2017年10月に「スマホのマーケット」をリリース、11月には資金調達も行ったジラフ。資金調達については「組織面が強化されていることも評価された」と麻生氏は言う。今後、スマホ即金買取サービスの「スママDASH」の公開も予定しているとのことだった(イベント後の12月21日、ジラフはTwitter経由の匿名質問サービス「Peing(ペイング)質問箱」を買収、さらに2018年1月15日にはスママDASHをリリースしている)。
エン・ジャパンの寺田氏は今回、スタートアップへ人材サービスを提供する側としての登壇だが、寺田氏自身もエン・ジャパンがスタートアップだった頃に入社している。現在はエン・ジャパンの執行役員を務める寺田氏の持論は「スタートアップは、成功するまではプロダクトづくりに専念しろ」というもの。自身がかつて直面した採用の課題に対して、先回りして解決できれば、ということで提供しているのが、クラウド採用ツールの「engage(エンゲージ)」だ。
engageでは「採用からエンゲージメントを意識してほしい」ということで、基本的に無料でサービスを提供。2016年8月のローンチから1年3カ月で5万7000社に導入され、「HRアワード 2017」では優秀賞も受賞した。
engageで提供する主要サービスのひとつが、スマホ対応の採用HP作成。寺田氏は「媒体やWantedlyで企業からの採用メッセージを発信することは絶対やった方がいい。その上で、メッセージを見た人は必ず企業のホームページも見に来る。これはエージェントを使っても一緒。そこで、事業内容やサービス内容に加えて、採用のページも充実させておくことで、面談や面接で会う前の魅力付けをすることが必要だ」と採用HPを用意することの意義について説明する。
「採用ページを個別に用意するのは結構コストがかかる。だったら僕たちの方で作ってしまって、ばらまいてしまおうと。さらに『エンジニアやデザイナーはプロダクトに集中すべき』という考えから、応募者管理のためのCMSや、ノンエンジニアがページを更新できるような機能も入れている」(寺田氏)
また、エン転職会員や提携するindeedなどを対象にした、採用のマーケティング支援もengageで実施。さらに性格・価値観テストと知的能力が測定できる「タレントアナリティクス」も月に3人分まで無料で提供している。
「スタートアップ採用あるあるとして、候補者のスキルは分かるが、カルチャーフィット、その人たちがどういう性格や価値観を持っているのかが、なかなか分からない、というのがある。特に創業初期の段階で、それが合わない人たちを入れてしまうと、結構苦労する。だから、カルチャーフィットの部分もしっかり見ていこう、というのがタレントアナリティクスのサービスだ」(寺田氏)
もうひとつ、寺田氏が紹介したサービスが、退職予測をアラートする「HR OnBoard」。入社して何年も経てば退職理由もいろいろ出てくるものだが、入社後1年以内に退職する人については傾向があると寺田氏は言う。エン・ジャパンでは3000社以上の企業の状況を分析した結果をもとに、「HR OnBoard」をリリースした。
「多いのは『思っていたのと違う』というギャップ、直属の上司とのリレーションのズレ、そして業務量が多すぎる、または少なすぎるというズレ。これらをずっと分析して『このタイミングで社員からこういう回答が出るときは、退職の危険性が非常に高い』『こういう回答なら大丈夫』というパターンを出し、ビッグデータからアルゴリズムを作って提供している」(寺田氏)
何もないところから日常的にコミュニケーションを取って、採用した人が退職しないようにフォローするのはなかなか難しいものだが、アラートが出て「このまま行けば辞められてしまう」となれば、一生懸命止めることができる。そのためのツールとして用意した、と寺田氏は説明する。
「私自身の経験も含めて、スタートアップでこれから起こりうるトラブルは絶対あるはず。そこに先回りできるツールを提供していく。さらにこうしたツールはこれまで、結構なコストを投入しなければ導入できなかったが、SaaSとして提供することで民主化した。ミスマッチのない、エンゲージメントの高い対応が実現できるように、ということで提供しているので、良ければ使ってみてほしい」(寺田氏)
「最初の5人」採用はやはり知人・リファラルが中心
各社紹介の後、話題は「創業して最初の5人はどうやって集めたか」へ移った。
ジラフの麻生氏が1人目の社員を入れたのは、創業1年ぐらいのタイミング。それまでは全業務の統括をひとりでやっていたという。「No.2が欲しい、ということで探していたが、そこにハードルがあった。COOを務められるNo.2人材は、起業しようという気力がある人でなければいけない。けれども、そういう気力のある人は、代表をやりたいわけで、ちょうど良い感じの人がなかなか見つからなかった。結果的に、VCから紹介してもらった人と会ったところ、その日に入社を決めてくれた」(麻生氏)
次に入社したのはエンジニア2人で、1人は業務委託で手伝ってくれていたメガベンチャー出身者。もう1人は「4月1日に会ったら、東大を卒業したところだけど就職が決まっていない、というちょっと変わった子で、その日のうちに採用を決めた」のだそうだ。
その後、現在は執行役員 兼 営業部長を務める人を採用。「彼は大手商社の出身で転職してきてくれたのだが、元々、大学時代にインターンが同じだったのが縁。最初の5人については、いずれも紹介や縁で入社してもらっている」(麻生氏)
delyの堀江氏は、サービスをピボットして実質2回の創業を経験しているが、1回目のサービスがうまくいかなかった際には、20人ぐらい一気に辞めたという。「唯一残っている最初からのメンバーは、現CTOの大竹(大竹雅登氏。TechCrunch Tokyo 2017でCTOオブ・ザ・イヤーにも選ばれた)。自分は『プライベートの友だちは絶対に誘わない』と決めていた。またエンジニアの友人もいないので、Facebookのプロフィールに『エンジニア』と書いてある人に片っ端から連絡を取った。100人ぐらいに声をかけたのだが、一番最初に引っかかってしまった(笑)のが彼だ」(堀江氏)
その後、第2創業期のメンバー集めでは「一度チームが崩壊してしまったので、チームメイキングができる人間が欲しいと考えた」という堀江氏。「大学時代に一度、VCのピッチの場で会った人が、起業をやめて大手消費財メーカーに就職したと聞いていた。彼に久しぶりに連絡をしたところ、話して3日後に辞表を出して、2分の1の給料で入社してくれることになった」と次のメンバー入社のいきさつを話してくれた。
「彼も大竹も一度起業を目指した起業家で、その後のメンバーも10人ぐらいまでは元起業家。タフなメンバーが今でも活躍している」と言う堀江氏に、元起業家を口説くときの方法を聞いた。「『自分で事業をやるより、俺とやった方が勉強できるだろう?』という謎の雰囲気を出す(笑)。本当は何も教えることなどなくて、自分が教えてもらってばかりですが」(堀江氏)
プレイドの倉橋氏は、ビジネスマンを7年弱経験してからの起業だ。楽天を辞め、初めはコンシューマー向けのアプリ提供やECコンサルを行っていた。最初のメンバーは役員4人。すべて知人、リファラルでの採用だった。
「取りあえずやりたいことをやるために会社を作ったが、会社ってそんなにうまくいくわけがない。他の仕事を持ちながら4人が集まったということもあり、サービスをローンチした後、初動は良かったが、なかなか伸ばすことができなかった」(倉橋氏)
そのため1年目に一度切り替えよう、ということでメンバーもリセット。同じ会社を器として使いながら、今のCTOと楽天時代の同期の紹介で知り合い、現在に至っているという。
「だから僕も2回創業があって、1年目はウォーミングアップだったと捉えている。その後、役員以外の社員が入りはじめてから20人弱ぐらいまでは、全員リファラル採用を行ってきた」(倉橋氏)
「スキル」よりは「学習能力」「フィットネス」を重視
では「最初の5人」のフェーズを終え、そこから拡大していくときに、各社はどういう基準・指標で人を採用していったのだろうか。
従業員70人、うち社員として60人を抱えるプレイドの倉橋氏は、社員の採用チャネルについて「まだリファラルが半分強。残りの半分のうちの半分がWantedly経由で、もう半分がエージェント」と概観を説明。「つまり信頼できる人を確実に誘っていく、ということをやってきた。社会人経験があることから、人を介して人につながる、ということはやりやすかった」と話している。
倉橋氏は「役割ごとの人数を(採用)計画に落とし込むということは、これまでほとんどやってきていない」と言う。「僕らの事業はまだまだ、これから立ち上がるフェーズだと思っている。だから人材を(初めから)見極めて採るという市場感ではなく、いい人をできる限り採る、それだけでやってきた。エンジニアかビジネスか、ぐらいの区分はあるが(細かい)役割を決めて採用するということは、いまだにほとんどしていない」(倉橋氏)
人材のフィット感を確かめる方法として「全員にアルバイトか契約社員で入社してもらい、3カ月見る」ということもやってきた、という倉橋氏。「中には9カ月ぐらいアルバイトしてから社員になった人もいる。そこで妥協しなかったことが、今の(企業)文化構築につながったと考えている」とのことだ。
採用基準については倉橋氏はこう語る。「新しい価値観を提供していくときに、一番重要なのは学習だ。個々人として、組織として、またプロダクトとして学習していく、という中では個人の役割なんて簡単に変わる。だから変化への許容度が高い人をいかに採るか、ということを優先してきている」(倉橋氏)
人の良し悪しの判断については「社内でも、CTOなどと話しているのは『能力は誤差だ』ということ」と言う倉橋氏。「そもそも新しいことをやっているのだから、その人の経験が100%ダイレクトに生きる、なんていうことは、まずない。経験や成功体験を疑える人にまず来て欲しい、というのが前提だ。だから『人間として好きかどうか、人間性が信頼できるか、真面目か』といったところを見ているのと、自分の言葉として事業に共感してくれているかどうか、能力よりも『一緒にやりたいかどうか』といった“人”っぽいところを基準に見ている」(倉橋氏)
採用チャネルの3割がリファラル、というdelyの堀江氏は「採用の基準は超簡単」と面白い視点を紹介してくれた。「会ったときに『この人とサシで飲みに行く約束をした1時間前に、イヤにならないか』ということを見ている。カルチャーフィットする人なら、気軽に飲みに誘える。定性的ではあるけれども、採用してからの感覚ともだいたい合っている」と堀江氏は言う。
「能力に関して言うと、見てはいるが、入社してから半年も経てば、そのジャンルに対する知見などは周りと変わらなくなってくる。だから過去の経験よりは、学習意欲の高さや学習スピードの速さを重視している」(堀江氏)
ここで寺田氏が「Googleでは『エアポートテスト』、つまり採用基準として『次に乗る飛行機が飛ばなくなり、空港の近くのホテルで泊まらなければならなくなったときに、一緒に泊まって会話ができるか』というテストを、科学的に行っている」と紹介。堀江氏に「イヤになるかならないか」を判断するときには、何を見ているのか尋ねた。
堀江氏は「うさんくさくない人かどうか」が基準だと話す。「前年比1500%達成!といった経歴を書く人がいるが、そもそも前年の運用期間が少ない、とか、話を盛っちゃう人はうさんくさいので、飲みに行きたくなくなる。自分の失敗や弱みまで含めて語れるような人は、僕はいいな、と思っている。カルチャーフィットというのは、ある意味、自分の彼女に対して『性格も良くて料理もできて、謙虚で』といった全部の条件を求めているようなものだけど、別に『会社に合わせろ』ということではなくて、何か間違ったときに素直に認められるような能力というのを、僕らは見ている」(堀江氏)
ジラフの麻生氏は、スタートアップとしての「採用のフェーズが変わってきた」という実感があるようだ。「創業から1年半ぐらいまでは、精神論的だが(基準が)『頑張れる人』みたいな感じだった。起業家プラス5〜6人、というときには、その温度感を一緒に持ってやれる人かどうか、というところを見ていた」と言う麻生氏。
「そこから規模が大きくなるにつれて、不器用な人というか『必殺技は持っているんだけど、今いる会社では上司から好かれない』とか、ちょっと変わった人が入ってくるようになってきた。ジラフではそういう人が多いので、みんなお互いに認めあっている、という環境になってきた」(麻生氏)
フェーズが変わったタイミング、きっかけについては「資金調達をして、大きめのオフィスに移転して、人をどんどん採用していくという中で、業務を回すために『頑張れない人』、定時に来て定時で普通に帰る、という人を入れていく時期は来る。今はそういう時期だな、と思っている」と麻生氏は言う。
また、倉橋氏や堀江氏と共通する点として「ポテンシャルがある人、過去の経験にとらわれず、会社が求めていることの説明を素直に受け止めてもらえて、うまくいかなくてもすぐに違う挑戦ができる、試行錯誤できる人を採用するようにしている」と麻生氏は言い、「そういう人は若い人に多い。今は20代の人を採用させてもらっている」と話している。
「ただ、20代は能力差が結構あって。すごく優秀な人を1人採るのと『普通に仕事ができます』という人を2人採るのでは、優秀な人を1人採った方がいい。そういう人は他の人も連れてこられるし、正の循環が回るというイメージがある。そこの質をどう担保するのか、ということも同時に意識はしている」(麻生氏)
リファラル採用、それぞれの「巻き込み方」「口説き方」
続いては、リファラル採用について。それぞれ、知り合いをどう巻き込むのか、成功している事例を各社に聞いた。
堀江氏は「自分事として考えること」が大切だという。「経営者は自分事として考えないことが多いけれど、もし自分が社員だったとして、この会社に本気で親友を誘えるか、と考えると、それは『この会社が好きかどうか』にかかっている。あとは、業績・社風的に信頼できるかどうか。僕らは、業績を上げることはもちろんだが、サービスの魅力を上げることなどで、まずは社員に好きになってもらうように頑張ることが大事」(堀江氏)
好きになってもらったその後は、社員の中で紹介を頑張った人を積極的に表彰し、Slackなど全社員の見えるところで称賛する文化を作ったことで、リファラル採用が加速した、と堀江氏は説明する。
「僕は学生起業家だったので、(自分の周りには)まだそれほど人材がいない。社員経由のリファラル採用のほうが最終的には増えてくると思う。また、1人の知り合いよりも100人の知り合いを探した方が圧倒的によいので、自分の紹介での採用もあるが、社員の紹介もかなりある」(堀江氏)
麻生氏は、基本的には自分がつかまえてきた人材が多い、と言う。「僕の場合は、採用したい人は2年かけて追いかける、ということをやっていた。3カ月おき、半年おきに飲みに行ったり、ごはんを食べたりして、定期的に会う。これはDeNA(創業者)の南場さんが『SHOWROOM』プロデューサーの前田さん(現在はSHOWROOM代表取締役社長の前田裕二氏)を採用するときに数年かかった、という話を聞いたのだが、それを真に受けてやっている感じだ」(麻生氏)
実際に2年かけて採用したエンジニアや、半年以上かけて口説いて入社した人事責任者が、現在ジラフでは働いているそうだ。
面談からどう踏み込ませるかについては、社員に会わせることが強い武器として機能している、と麻生氏は説明する。「うちは現場に自信があるので、口説いた上で『じゃあ、実際働く人に会いに来てみなよ』と来てもらい、社員に会わせるとだいたい一緒に働きたいと思ってもらえる」(麻生氏)
またジラフでは比較的早い段階で、CxO経験者を採用している。その手法について麻生氏はこう話している。「優秀な人ほどキャリアアップを真剣に考える。スタートアップに挑戦したいが、考えた結果、不安が大きくなることも。そういう方に対しては、今のキャリアから次のキャリアに進むときに『ステップアップしてるよね』という状態をちゃんと作るために、ポストや部署を用意する。その代わり、『そのポストで、これ以上の人は採れない』というギリギリの一番いい人を採用する、ということは毎回やっている。そこは妥協しているつもりはない」(麻生氏)
スタートアップでは「今後それよりいい人を採れなくなる」ということを恐れて、ポストを用意しない起業家も多いが、麻生氏は「僕はちゃんとポストを用意し、ストックオプションなども提示して、僕らの会社に普通なら来ないような人を取り込む、ということを連続的に繰り返している」と言う。
倉橋氏はリファラル採用について「仕組み化するのが難しい」と述べている。「社員が少ないときは一通り候補に当たり終わると、どうしよう、みたいな話になるので、あまり効率的な仕組みではない。ただ、僕らの場合は社員の平均年齢がだいたい30〜32歳ぐらい。そこで『日本酒を飲みまくる会』など、お酒の力を借りて、ガードが弱くなったところで仲良くなるようにしている(笑)。月に1〜2回、外の人を気軽に呼んでこられるような場を用意する、これだけはちょっとした仕組みとしてやっている」(倉橋氏)
もうひとつリファラルに効くテクニックとして、倉橋氏は「今のフェーズまでは、現実的な話を社内でもあまりしない、というのを貫いてきた」と言う。「夢のある話の方が、みんな楽しそうに話すので、外にも伝播しやすい。いざその話が外に伝わって新しい仲間が増えたときにも、はじめに夢で共感している場合、現実化するところでも人はなかなかぶれない。だから入社した後も安定しやすい」(倉橋氏)
こうして、とにかく夢を社内全員で語るようにしている、というプレイドで、倉橋氏が「ここまで来たか!」と思ったエピソードがあるそうだ。「採用候補者に『みんなものすごいレベルで夢を語りますね。これって事前に準備しているんですか?』と質問された。それほど、気持ち悪いぐらいに、それぞれの口から夢が出てくる。そういう会社って強くなれるんじゃないかな、と信じている部分はある」(倉橋氏)
ここで寺田氏から「メンバーと一緒に採用にチームとして取り組んで動き、ありがたかったこと、うれしかったことは?」と質問があった。
麻生氏は「僕の場合は学生起業ということもあり、中途採用のときに『スタートアップに転職するのはいいですよ』と僕の口から言うと、ポジショントーク感が強くなる。それを大手企業から転職してきた人に説明してもらうと、説得力が変わる、ということはある。また、口説きに行く、というやり方は一般の従業員では難しいケースが多いが、僕以外でもCFOなど、目的意識が強い人間が説得して『逃さず採りに行く』という採用ができる人がいるのは、すごく助かっている」と言う。
また倉橋氏は、人事採用の責任者から日々聞いていた苦しみとして「求人票を作れない」という話を紹介。「要は『こういうことができる人が欲しい』という求人を一切出してきていないわけで、エージェントも困るだろうし、人事採用担当もこのギャップを埋めるのは大変だったと思う。けれども、会社の成長も含めて、時間をかけながら、採用責任者がエージェントとコミュニケーションをしっかり取ってきてくれたおかげで、『変だけど、めっちゃいい会社があります』という感じで紹介してもらえるようになった。難しかった部分ではあるが、突破できると逆に強みになるのではないか、という気が最近ではしている」(倉橋氏)
採用失敗エピソード、やっておけば良かったことは?
この後は、会場からの質問で「一番の採用失敗エピソード」を各社に教えてもらった。
麻生氏は「経験者を採りたい時期に中途採用をしたが、あまり一緒に頑張ろう、という気持ちでやってもらえなかった事例があった」ことを紹介。「今では明確な採用失敗というのは起こらなくなってきた。社内で選考フローも作り始め、『こういう項目を見ましょう』というのも体系化されてきている。あとは、必ずどんな人でも僕が面接に1回は入るようにし、自分で見て『この人なら』という人だけを採るようにしている」(麻生氏)
堀江氏からは、採用の失敗ではないが初期メンバーとそれ以外のメンバーとのギャップについての悩みが打ち明けられた。「最初の10人がものすごくファイタータイプというか、タフな人間が多かった。となると後半に入ってくる100人目、120人目とかが、それを見てビックリしてしまう。そういうわけで、あらかじめ『めっちゃ働いている人もいれば、18時に帰ってる人もいるよ』とある程度、現実とのすりあわせが僕らにも必要なのかな、とは思っている」(堀江氏)
倉橋氏も失敗ではないが、やっておけば良かったこととして、採用すべき人材の順序・時期について述べた。「僕のようなビジネス系、マーケティングやディレクション系人材の採用は、スタートアップでも比較的困らないケースが多いと思う。だが、難しいのがエンジニアやデザイナーの採用。特に僕たちのようなB2Bのプロダクトの場合、デザイナーが一番難しい。うちはエンジニアについては初期から良い人材がいて助かっているけれども、デザイナーとして中核になる人間を、社員数5人10人のフェーズで1人でも採れていたら、立ち上がりはもう少し早かったのではないか、という気はする」(倉橋氏)
最後に、寺田氏からの「採用PRとして、こういうことを発信すべき、また注意すべきという点は?」との問いにも各社に答えてもらった。
堀江氏は、四半期に50人を採用したときの話として「僕自身が一番、社内だけでなく社外にも夢を語りまくっていた」と話す。「社長の思い、ビジョンを元々知った状態で面接に来てもらう、ということをとにかく心がけている。採用の確度も高まるし、社長自身が発信することは大事だ」(堀江氏)
麻生氏からは「僕らはストレッチして、優秀な人を採っていくようにしている。けれども優秀な人ほど、いろいろなことがすぐにできてしまい『褒められるのが当たり前』という環境になって、仕事が面白くなくなっていくことが多い」と“良い人材”を採用することに対しての注意点を述べた。
「僕らの環境では『いろいろなところで褒められてきた人たちが真剣にやらないといけない』という状況にするようにしている。30歳になろうという人たちが、真剣にキャッチアップしていく、という環境を作っていこうと思っているし、そこに挑戦的な気持ちで参加できる人に来て欲しい」(麻生氏)
倉橋氏は「採用広報、PRは正しく伝えることだと思う」と言う。「採用広報、PRを考え始めると、伝え方を間違えそうになるというか、自分たちらしくない伝え方や、いいところを探そうとして、そんなに大した話ではないのに外に出そうとしてしまうなど、自分たち自身が迷い始めることがいろいろある。でも、プロダクトも採用も、自分たちの努力以上のものは外には伝わらない。だから良く思われたいんだとしたら、本当に努力するしかないかな、と思っている」(倉橋氏)