戦争は終わった。米国軍は、多くの兵士が複数回の軍務を経て帰還した。帰還すると、次の段階の職務が始まる。子どもの世話や親の介護などの家族に対する奉仕や、学校に戻ったり新しい仕事を始めたりする地域社会への奉仕だ。
しかし、多くの戦士にとって戦いは続く。43万人以上の米軍兵士がイラク戦争とアフガニスタン戦争の代表的な負傷とされる外傷性脳損傷(TBI)を負っている。TBIの中で最も多いのは「軽度」TBI(mTBI、または脳震盪)というやや誤解を招きやすい名称のもので、TBIと診断された米軍兵士の82%以上が罹患している。
多くの人は負傷から回復したが、何千人もの人が、負傷してから何年も経っているにもかかわらず、思考の速さ、注意力、記憶力などに影響を及ぼす持続的な認知機能の問題に悩まされており、仕事や学校、家族としての役割への復帰が困難になっている。また、TBIの既往歴がある人は、特に認知症予備軍や認知症などの他の疾患を併発するリスクが高いと言われている。
これは軍人やその家族にとって負担であると同時に、米国軍人の才能や経験が十分に生かされていないため、国にとっても負担となっている。
米国防総省は10年以上前にこの問題を認識し、この新しい種類の戦傷に対する新しい種類の治療法を見つけるために、学界や産業界の研究者に呼びかけた。多くの研究グループがこの要請に応えた。私がCEOを務めるPosit Science(ポジット・サイエンス)では、全米の軍病院や退役軍人医療センターから一流の臨床医を集めたチームを結成し、新しいタイプのコンピューターによる脳トレーニングをテストする提案をした。
TBIを罹患する軍人たちを支援するためには、2つの問題を解決しなければならないことがわかった。
まず、脳トレーニングのプログラムが機能する必要があった。幸いなことに私たちは、米国国立衛生研究所が資金提供した複数の研究により高齢者の認知機能を向上させることが示された脳トレプログラム「BrainHQ」を構築できたが、これを若い軍人にも使えるようにする必要があった。BrainHQの脳トレは、従来の認知機能トレーニングとは異なり、脳の可塑性(学習や経験によって脳が脳自身を再構築する能力)を利用して、脳の情報処理機能の基礎を向上させるように設計されている。
第二にこの脳トレプログラムは、彼らの生活圏内で実施する必要があった。現役の軍人や退役軍人の多くは、派兵を控えていたり、学校や仕事に復帰したり、一流のクリニックがある大都市以外の地域に住んでいたりするため、週に数回、数カ月にわたってクリニックに通い、対面で治療を受けることができない。そんなときに役立つのが、コンピューターを使った脳トレだ。インターネットを介して配信されるため、自宅で自分のスケジュールに合わせて、どこにいても、時間のあるときにいつでも使用できる。
この夏、Brain誌に掲載されたBRAVE研究では、5つの軍人病院と退役軍人病院で、認知障害とmTBIの既往歴があると診断された83人の患者を二重盲検法による無作為化対照試験に登録した。この研究に参加した平均的な患者は、この介入の前に、7年以上にわたって持続的な認知機能の問題を抱えていた。
BRAVE研究では、可塑性を利用したBrainHQのエクササイズの介入に対し、注意力を必要とするビデオゲームを対照した。その結果BrainHQを使用した患者は、ビデオゲームを使用した患者と比較して総合的な認知能力が大幅に向上したことがわかった。この介入によって、各患者が天才になったわけではないが、平均して約24パーセンタイルポイント(50番目のパーセンタイルから74番目のパーセンタイルへ移動するようなものだ)の改善が見られた。これは、mTBIのゴールドスタンダード研究において、スケーラブルな介入が有意な向上を達成した初めての例だ。
この結果は、ニューヨーク大学で行われた2つ目の研究でも正しいことが確認され、さらに拡張されて学術誌NeuroRehabilitationに掲載された。この研究は、軽度、中等度、重度のTBIを罹患している48人の一般人を対象としたものだ。その結果、BrainHQを使用した患者では、客観的計測値による認知機能の向上が認められた。また、認知機能の自己評価を行ったところ、患者自身が認知機能の有意な向上を実感していることがわかった。
成功を収めたのは私たちだけではない。訓練を受けた臨床医が対面で認知機能補償技術を用いて研究を行った他のいくつかの学術研究グループや軍の研究グループ(特にテキサス大学ダラス校のCenter for Brain Healthで開発されたSMARTトレーニングや、UCSDとVAサンディエゴヘルスケアシステムで開発されたCogSMARTトレーニング)が良い結果を収めた。
しかし、現在、これらの科学技術の多くは棚上げされている。議会と国防総省は、TBIの基礎科学と臨床試験に何億ドルも費やしてきたが、私が軍人病院や退役軍人医療センターを訪れると、献身的に人々を助けようとしている医療従事者がいる一方で、研究結果を実践するためのスタッフやスペース、技術などが不足していることが分かる。国防総省と退役軍人省が一丸となって、実証された科学技術を研究室から世の中に送り出し、必要としている人々を助けることが必要だ。
海外での戦争が終結しても、私たちは、自国の戦士のために、戦士に代わって行われた研究から利益を得られるようにする義務を忘れてはならない。私たちは、軍人そして米国全体が、研究が提供するすべてのものから恩恵を受けることができるように、研究の成果を解き放つ必要がある。
編集部注:本稿の著者Henry Mahncke(ヘンリー・マンケ)氏はUCSFで神経科学の博士号を取得。脳トレプログラム「BrainHQ」を開発したPosit ScienceのCEO。
画像クレジット:bubaone / Getty Images
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(文:Henry Mahncke、翻訳:Dragonfly)