フォードの新型EV「マスタング・マックE」に初試乗、第一印象はがっかり

これは2021年型Ford Mustang Mach-E(フォード・マスタング・マックE)スポーツSUVのレビューではない

数週間前、私はこのフォードが間もなく発売するEVに、2時間という短い時間のみ乗ることができた。わずか数時間ほど運転しただけで結論を出すのは気が引ける。マックEにはもっと時間が必要だし、フォードがこの記事を読んだ後、私はおそらく長期テストの列の最後に並ぶことになるだろう。

私がマックEと短い時間を過ごしている間に、1つのことが明らかになった。マックEはマスタングと呼ばれるべきではないし、SUVと呼ばれるべきではない。

マックEをマスタングのSUVと呼ぶことで、フォードは実体のない体験を顧客に売り込もうとしている。これは意味論による議論ではない。マックEは、伝統的な作法に則ったスポーティSUVではない。それはAudi E-Tron Sportback(アウディ・イートロン・スポーツバック)やTesla Model X(テスラ・モデルX)を見ればわかるだろう。これらはマックEに欠落しているいくつかの重要な特性を備えている。マックEが小さく、ゆるく、締まりがなく感じるのに対し、これらのSUVは頑丈で、骨太で、パワフルだ。

気になる点はいくつかある。私はヴィークルダイナミクス(車両の運動性能)に疑問を感じた。スロットルは不快感を覚えるし、リアエンドはトラクションを維持するのに苦労している。航続距離(一度の満充電で走れる距離)はライバル車に比べて劣っており、AWD(4輪駆動)バージョンはテスラの競合モデルより80kmも短い。電気自動車において、運動性能や航続距離よりも重要なことが他にあるだろうか?

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初期の印象

数週間前、私は2021年式マスタング・マックE AWDに乗って、ミシガン州南部の慣れ親しんだルートを回った。自動車ジャーナリストなら、誰もがこの地域をミシガン州の地獄と呼ぶことを知っている。だが、そんな名前とは裏腹に、原生林の広葉樹が並び、クルマが息を吹き返すような緩やかなワインディングロードが続く素敵なエリアだ。幹線道路を降りて、砂利道でちょっとしたスリルを味わうのも楽しい。しかし、このエリアはマックEには優しくなかった。

短時間のテストだったが、いくつかの印象が残っている。

マックEは、安物のクロスオーバーのようにガタガタと走る。乗り心地やハンドリングに自信も安心も感じられない。「マスタング」という名前がついていても、マックEはマスタングのようには走らない(冗談は置いといて、最新型のマスタングは素晴らしいクルマだ)。マックEは、コーナーに飛び込んで安全に立ち上がることを期待できるようなクルマではない。ボディは大きく傾き、後輪はだらしなく滑り、マスタングという名前に対する敬意は失われてしまう。

アクセルは過敏で微妙な調整がやりづらい。ペダルに足を乗せるだけで、マックEは前方に飛び出す。アクセルペダルを戻すと積極的に作動する回生ブレーキと相まって、マックEの運転には慣れが必要だ。パワートレインは気力が感じられない。電気自動車には洗練させるための修練が必要だ。電気モーターは滑らかに、そしてドライバーの予想どおりにパワーを供給する必要がある。威圧することなく、ドライバーに興奮と自信を感じさせなければならない。難しい公式であり、最初から正解を導き出せる自動車メーカーはほとんどない。

運転してすぐに、AWDのマックEのハンドリングの酷さに困惑させられた。最近のEVは、運転しても安定しているが退屈なものが多い。しかしマックEは違う。リアエンドは乗用車にしては元気が良すぎる。かといってスポーティな性格というわけでもない。これでは単に粗雑で無頓着なだけだ。普通の交差点を曲がるだけで簡単にタイヤが滑ってしまう。アクセルペダルを踏み込んで車輪を回転させようとすると、後輪が空転しないように頻繁にトラクションコントロールが作動する。

マックEをスポーティなクルマと言い張ることで、フォードは自らの技術力以上のものを顧客に期待させようとしているのだ。だが、ドライバーがマックEの性能面に向き合うと、緩みが生じてしまう。私がマックEに試乗していた時、普通にコーナーを回っているのに後輪が予想外の挙動をしたり、車幅が広すぎると感じることが何度かあった。これはスピードが上がるとさらに誇張される。AWDシステムが雪や氷にどれだけ対応できるかも気がかりだ。私が試乗中に、砂利の上で何度か苦労したからだ。

試乗後、フォードのエンジニアにオーバーステアがあまりにも強いことについて尋ねると、彼は「ああ、そんな運転をした場合にはね」と答えた。それが引っかかったのは、私は自分のせいではないと思うからだ。私はミシガン州アナーバー周辺で、マックEを特にアグレッシブに走らせたわけではない。しかも路面は乾いていた。それなのに、私の短いドライブの間に、何度かトラクションコントロールが作動した。そんなことはあってはならないはずだ。

マックEは、真っ直ぐ走る分にはずっと良かった。加速は速い。アクセルペダルを床まで踏み込むと、マックEは後ろ足で路面を蹴り、勢いよく前方に飛び出す。テスラより速いかって?それはない。だが、それでもこの価格帯のクルマの中では一番速いし、信号が変わって発進する際に隣車線のクルマを置き去りにすることは容易だろう。

マックEには3つのドライブモードが用意されている。標準モードとエコノミーモードでは、粗雑で扱いにくい印象のあるパフォーマンスモードよりも、より洗練された秩序に基づいてパワーが供給される。どのモードでも、積極的に回生ブレーキを利用して、いわゆる「ワンペダル走行」(ブレーキペダルを使わず、アクセルペダルの開閉だけで加減速をまかなう走り方)が可能だ。

航続距離もマックEで考慮すべき要素の1つだ。EPA(米国環境保護庁)による推定航続距離は、テスラ Model Y(モデルY)のAWDバージョンが326マイル(約524.6km)であるのに対し、マックEのAWD仕様は最大270マイル(約434.5km)に過ぎない。

今回のような短いテストでは、マックEのバッテリーが現実の路上でどのくらいの距離を走れるかについて、判断を下すことはできない。それにはもっと長い時間、日常的にマックEと過ごし、街中と長距離の両方を含む様々な状況で実際に走らせる必要がある。私が報告できるのは、2時間のドライブの結果だけだ。その際に私は、1kWの電力で平均2.7マイル(約4.3km)の距離を走行した。クルマを返却した時、あと112マイル(約180.2km)の距離が走行可能と表示されており、バッテリー残量は56%だった。私が試乗したのは、容量88kWhのエクステンド・レンジ・バッテリー(標準バッテリーは68kWh)を搭載したAWDモデルだったが、EPAとフォードによると、このバージョンのマックEは1度の充電で270マイル(約434.5km)の距離を走行できるとされている。

マックEの価格設定は、4万2895ドル(約444.2万円)からと競争力がある。AWD+エクステンド・レンジ・バッテリー搭載バージョンは5万4700ドル(約566.5万円)からで、オプションを付ければさらに高くなる。米国の購入者のほとんどは、7500ドル(約77.7万円)の税額控除を受けることができる。テスラ Model 3(モデル3)は3万7990ドル(約393.4万円)から。ロングレンジAWDのModel 3は4万6990ドル(約486.7万円)から、クロスオーバーのModel Y(モデルY)は4万9990ドル(約517.7万円)からだ。

競合他社にも不利な面がある。テスラのModel 3とModel Yは、クラストップの航続距離を誇る斬新なクルマだが、製造品質に疑問が残るなど、欠点がないわけではない。他にもPolestar 2(ポールスター2)のような素晴らしいクルマはあるが、航続距離が短く、価格も5万9900ドル(約620.4万円)からと高い。

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マックEのインテリアは素晴らしい。だが、それで驚くことはなかった。フォードはそのクラスで最も美しいインテリアをいくつか作っているからだ。マックEの車内もとても素敵だ。

ほとんどのEVと同様に、フォードは伝統的な自動車の部品を現代的な同等品に置き換えるという大きなステップに踏み出した。メーターパネルの代わりに、小さな細長い液晶画面がドライバーの前に装備されている。高級感があり効率的だ。センタースタックには、メディアの再生や空調コントロール用の大型LCDスクリーンが設置されている。スクリーンの下部には回転するノブが取り付けられており、物理的な操作で音量調節が可能だ。私はこのボリュームノブがとても気に入った

シートも問題なさそうだ。私は2時間しか座っていないが。

車内は少し窮屈だが、小型クロスオーバーとしては許容範囲。ドライバーはコマンダーポジションと呼ばれる高い位置に座るので、これがこのSUVを選ぶ理由になるかもしれない。大人2人が座れる後部座席は、街中を巡る小旅行には最適だが、足元のスペースが不足しているので、長時間座っていたいとは思わない。

マックEの車内にはいくつかの楽しい装備も見られるが、私にはそれよりも運動性能に対する不満の方が大きかった。オーナーは自分のスマートフォンをクルマのキーとして使用でき、よくできたロードトリップマップのアプリを使ってドライブ前にナビゲーションルートを設定しておくことができる。ドアはボタン操作で開閉可能。それによってドアノブのないすっきりしたエクステリアを実現している。フォードはさらに、無線アップデートでハンズフリー運転機能も追加するという。しかし、これらの項目はほとんど重要ではない。残念な味のケーキを食べたとき、誰がその飾り付けを気にするだろうか?

長すぎて読む気がしない人へ

私はマックEに乗れることに興奮し、楽観的な気分で短い試乗に臨んだ。だが、私のこのクルマに対する第一印象は悪かった。私にとって、このフォード・マックEは、電気自動車の楽しさを、慣れ親しんだ車名と伝統ある自動車メーカーを通じて、大衆に届ける存在であるはずだった。私はミシガンに住んでいるフォードファンであり、地元の誇りを持ってマックEの開発を見てきた。それなのに、がっかりだ。

現時点では、私は自分の第一印象に基づき、消費者がフォード・マスタング・マックEを購入する前に、競合他車を試すように勧めすることしかできない。私はこのクルマがテスラよりも十分に買う価値があるとは思えない。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:フォード電気自動車Mustang Mach-Eレビュー

画像クレジット:Matt Burns

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(翻訳:TechCrunch Japan)