役員が自社を批判する?マーク・ザッカーバーグはピーター・ティールを恐れるべきか?書評「The Contrarian」

億万長者の投資家、Peter Thiel(ピーター・ティール)氏について書かれた「The Contrarian(逆張り投資家)」。Bloomberg Businessweekの特集編集者で、技術系の記者でもあるMax Chafkin(マックス・チャフキン)氏が著し、9月に発売されたばかりのこの新書に関するレビューや議論を目にした人も多いだろう。

それも当然のことだ。ピーター・ティール氏は米国でますます存在感を増し、チャフキン氏は魅力的なストーリーテラーである。謝辞には、15年間の取材を元にこの書籍をまとめ「何百もの情報源」から情報を集めた、と書かれている。

詳細を知るために、TechCrunchは先に、チャフキン氏に取材を申し込んだ。取材では、ティール氏(チャフキン氏はティール氏とオフレコで話をしている)が私生活をどの程度明かしているか、チャフキン氏が「トランプという人物が過小評価されていた、つまりイデオロギー的な部分もあるが、商売上手でもあった」とする理由、チャフキン氏のレポートがティール氏の信念を「極めて矛盾している」とするのはなぜか、など、活発な議論が行われた。また、ティール氏とMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏との関係(Facebookの最初の投資家はティール氏であり、それ以来、良くも悪くもティール氏との関係を維持している)についても議論があった。

興味があれば、約30分のインタビュー(抜粋)を観て欲しい。TechCrunchは、Facebookがアメリカ社会や人類に与えた影響を鑑みるに、ザッカーバーグ氏とティール氏の関係は非常に興味深く、重要であると考えている。ここでは、ザッカーバーグ氏について語られたパートを抜粋、編集の上紹介したい。

TC(TechCrunch):ティール氏の最大かつ最も重要な賭けはFacebookだったということですが、本の中で、ティール氏は2005年から取締役としての立場を利用して、ザッカーバーグ氏に誤報も含めて何でもありの姿勢をとるように説得したと示唆していますね。また、ティール氏とザッカーバーグ氏の間には以前から摩擦があり、特にティール氏がトランプ主義を取るようになってからは、そのような状況が続いているとも指摘しています。ティール氏は今後もFacebookの役員を続けていくと思いますか?それとも彼は一歩下がった立場にあるのでしょうか?

MC(マックス・チャフキン):この本には、Facebookにまつわる話が出てきます。Facebookが上場したとき、株価が暴落し、ティールはすぐに株を売却しましたが取締役にとどまりました。本の中で、Facebookの社内で行われた、社員を活気づけるためのミーティングのことを書いています。自分が働いている会社の株価が下がるということは、(その人にとって)世界で最も憂鬱なことなのですから。当時は誰もが毎日損をしていました。マスコミにも叩かれる。消防士や教師からも訴えられる。とにかく悪いニュースのオンパレードでした。そこで、皆を励まそうと講演者を呼び、ピーター・ティールが講演を行いました。講演の中で、ティールは「空飛ぶ車が実現するはずだったのに、Facebookしか実現しなかった」と話しました。彼はいつも「空飛ぶ車が実現するはずだったのに、140文字しか手に入らなかった」と言ってTwitter(ツイッター)を攻撃しています。聴衆も、ザッカーバーグも「最も長く役員を務め、メンターであり、私のビジネス哲学を導いてくれた人にお前は最低だと言われた」ようなものです。

ザッカーバーグは実はティールのそういうところを尊敬しているのではないかと思っています。ザッカーバーグの立場にあれば、正直なフィードバックを得ることは非常に難しい。ティール以外に「あんたは最低だよ」という人はいないでしょう。あなたがいうように、ティールはここ数年、何度も、慎重に、このようなことをしています。

ティールは技術の独占や技術力について、Google(グーグル)を攻撃することがよくあります。Facebookはそれで安心するかもしれませんが、たいして役には立たないでしょう。なぜなら、FacebookとGoogleは非常によく似た企業であり、一方を規制するならば、もう一方も規制されることになるからです。ザッカーバーグがそのことを喜んでいるとは思えません。

ティールは、シリコンバレーの右翼活動家たちのプロジェクトをさまざまな場面で支援してきました。保守活動家のJames O’Keefe(ジェームズ・オキーフ)などは、FacebookやGoogle、Apple(アップル)などの超大手ハイテク企業の偽善を暴こうとしていますが、ティールはそうした活動を陰でサポートしてきました。

しかし、ティールは公の場で右翼活動家たちを支援することも多くなっています。今、彼は米国上院議員選挙で2人の候補者を支援しています。アリゾナ州のBlake Masters(ブレイク・マスターズ)とオハイオ州のJD Vance(JD・ヴァンス)はどちらも共和党の予備選に出馬していますが、ティールはそれぞれの候補者を支援する特別政治行動委員会(super PAC)に1000万ドル(約11億1000万円)の寄付を行っています。彼らは常にFacebookを攻撃しています。知性的な攻撃や疑問の提起だけではありません。ザッカーバーグを個人的に攻撃しているのです。(ティールが資金提供した)JD ヴァンスの広告には、暗い色調で「この国には手に負えないエリート層がいる」とあり、そこにはマーク・ザッカーバーグの顔が載っています。もし私がザッカーバーグだったら、これは間違いなく頭痛の種ですね。

一例を挙げると、(2017年に)ザッカーバーグはティールの辞任について話し合っています。ティールは辞任せず、ザッカーバーグも彼を解雇しませんでしたが、少なくとも多少の緊張感はあったのでしょう。ティールの価値が下がったか?というのは実に鋭い質問です。Biden(バイデン)が大統領となり、民主党が大統領と両院を支配している状況では、ティールがもつ右派とのつながりの価値は下がっています。とはいえ、2022年に共和党が上院を奪還する可能性は非常に高く、その上院議員の中にティールと非常に近い人物が存在することになる可能性があります。そうなればティールの価値は飛躍的に高まるでしょう。

TC:本の中で、ティール氏と親しく、彼を尊敬している人たちの多くが、彼を恐れていると書いていますね。マーク・ザッカーバーグ氏はおそらく世界で最もパワフルな人物であるにもかかわらず、あなたの感覚では「ティール氏を恐れている」ということでしょうか?

MC:ザッカーバーグは(そうしたければ)ティールを解雇することができると思います。ザッカーバーグは手強く、大金を持っています。ザッカーバーグはティールと争う資金もありますし、反発する余裕もあるでしょう。しかし、彼がそうしたいかどうかは疑問です。というのも、現在もティールが役員であり、公然と批判を行うことができる理由は、ザッカーバーグが彼を解雇した場合、巨額の代償を払うことになるという事実に関係しているからです。おかしな話ですが。

ティールは、トランプ大統領時代、ザッカーバーグの重要なサポーターでした。保守層では、次のようなミーム(ネタ)が流行っていました。「Facebookはドナルド・トランプを憎むリベラルな従業員によって運営されているリベラルな企業で、組織的に右翼的な視点を差別している、社内では左翼の利益を促進している……」というものです。しかし、ザッカーバーグにはそれに対するすばらしい回答がありました。「うちの役員にはティールがいる。ただの共和党員じゃない、George Bush(ジョージ・ブッシュ)みたいな中道の保守派でもない。うちにいるのはピーター・ティールだ。根っからのトランプ主義者、Steve Bannon(スティーブ・バノン、トランプ政権時の元首席戦略官)も真っ青なクレイジーなやつだ」。Facebookが使える、まさしく強力な主張です。

ピーター・ティールが資金援助しているJosh Hawley(ジョシュ・ホーリー、共和党上院議員)や、Ted Cruz(テッド・クルーズ、同じく共和党上院議員)のような人物が現れて、Facebookを攻撃するとしたら?もし(ティールが)辞めてしまったら、もし彼が解雇されてしまったら、そしてそれが記事になってしまったら?Facebookは厳しい批判にさらされるでしょう。

ザッカーバーグにとって存亡に関わるような問題ではないとは思います。しかし、Facebookの価値について埋められない意見の相違があったとしても、友人であり、役員でもあるピーター・ティールを残しておいたほうが、ザッカーバーグにとっては快適なのだと思います。

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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