米国時間1月20日の新大統領就任式での暴力の脅威がソーシャルメディアに長い影を落とす

米国は今、南北戦争以降最大の民主主義の危機に瀕している。その中でソーシャルメディア企業は、決して訪れないとこれまで考えていなかったような事態に対して、つぎはぎの守りを構築しようと苦戦している。

メジャープラットフォームの多くは1月第3週に緊急措置として、米国の大統領をプラットフォームから排除し、陰謀理論や暴力による脅し、および武装暴動の動きに対して突然厳しい規則を設けた。こういった暴力に関する動きや気配は、何年も前からこれらのソーシャルメディア上で増殖していた。しかし1週間も経たずしてAmazon(アマゾン)やFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、Apple(アップル)そしてGoogle(グーグル)などはすべて、米国の安定と体面のために、歴史的な意思決定をした。またSnapchatやTikTok、RedditさらにPinterestさえも、それぞれ自分たちなりのアクションで、各プラットフォーム上でテロ計画が孵化することを防ごうとした。

現在は待機モードだ。トランプ支持派の破壊的な暴徒たちが米国立法府を象徴する議席を襲ってから1週間以上にわたって、インターネットはずっと息を潜めていたが、強力に防備を固めた就任式セレモニーの日が迫ってきた。

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今もしぶとく残っているもの

先週、世界最大のソーシャルネットワーク上では、先の続きとなるイベントを示唆する画像が氾濫した。Facebook上のあるデジタルフライヤーは「国会とすべての州の議会を目指す武装行軍」をそそのかし、2020年の大統領選挙は盗まれたとする危険で偽りの陰謀論を強く主張した。

Facebookによると、同社はISISやアルカイダのテロリストのコンテンツを削除するときに使った同じデジタル指紋処理で、「Stop the Steal(盗みを止めろ)」と呼びかけるフライヤーの出どころを探っている。同社がこれまで見たフライヤーは、1月17日に全国的なイベントを呼びかけるものと、1月18日にバージニア州で、就任式当日にワシントンD.C.でイベントを起すことを呼びかけているものだ。

Facebookの新しい取り組みは、一部効果を上げている。同プラットフォーム上でTechCrunchが確認した人気フライヤーの1つは、今週某ユーザーのフィードから削除された。また、2020年12月に目にした複数の「Stop the Steal」グループも、同社のさらに強制的なアクションに続き、今週初めにいきなりオフラインにされた。しかし前兆のように多くのグループが大量の時間を投じて、自分たちの名前を宣伝したり、他のフォロワーを仲間に取り込もうとしたりしている。

大統領が代わる日はもう目の前に迫っているのに、極右グループであるQAnonを宣伝する頭字語だらけの長広舌や、トランプ支持派による常軌を逸した陰謀理論の主流派たちのコレクションは、そのまま残っており簡単に見つかる。2500のフォロワーがいるあるページでは、QAnonの信者が、国会議事堂を攻撃したのは反ファシストたちである、というすでに支持されていない説を強調し、(議会議事堂襲撃が行われた)米国時間1月6日は「罠だった」と主張している。

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別のQAnonグループは「この猿芝居を終わらせる方法を見つけた!あなたがたの命はもう終わりだ!」という議会に対して不吉なポストを投じている。この凝りに凝った陰謀説のフォロワーは、議会議事堂のすさまじい暴徒たちの中にもかなり存在していた。大きな「Q」の字とTシャツのマニアックなスローガンでわかった。

Facebook上の過激主義者たちについて同社は、現在、テロのエキスパートおよび法執行当局と協力して「公衆への直接的な脅威を防ごう」としていると述べた。またパートナー数社とも協力して、他のプラットフォームを起源とする暴力的コンテンツも注視している、と同社は述べている。

Facebookの取り組みは遅くてムラがあるが、これまでの同社に比べればマシだ。トランプ支持派にとっては、それは大手ソーシャルネットワークから受けた措置であり、しかも極右ソーシャルネットワークのParlerGabもなくなってしまったため、シリコンバレーに頼らずに別の道を探さざるをえない。

ソーシャルメディアの人口移動

プライバシーを保護することができるメッセージングアプリのTelegramやSignalへの、大移動が今週起こったが、それらのユーザー体験(UX)はFacebookやTwitterとかなり違っている。ソーシャルネットワークをウォッチしている一部のエキスパートによると、その移動は一時的であり永久ではないという。

たとえばYonderのCEOであるJonathon Morgan(ジョナソン・モーガン)氏は「多くのユーザーがGabやMeWeやParlerのようなソーシャル体験に定住するだろうし、戻る先も移動する先もTwitterやFacebookである人が多い」と語る。

YonderはAIを使ってソーシャルグループのオンライン上の結びつきや、彼らの話題を分析している。中には暴力的な陰謀理論などもある。モーガン氏によると、プロパガンダをばらまく「行動的なインターネット戦士たち」が、ネット上で大量のノイズを発生させている。しかし彼らのパフォーマンスは、オーディエンスがいなければ成り立たない。もっとひっそり、もっと恐ろしい脅威を志向している者もいるという。

「議会議事堂の襲撃を見ると、そのエンゲージメントのタイプの違いから、これらのグループの分裂状況がよくわかる。過激派に対して歓呼している大集団は議会議事堂には入らない。パフォーマンスを目的とする行動的インターネット戦士たちは、自撮りに夢中だ。武装集団はフレックスカフ(簡易手錠)を携行している。多くのソーシャル会話でいわれていた「結束バンド」は間違いだ。簡易手錠は人質を拘束するためだろう」とモーガン氏はいう。

「ユーザー(大集団)の多くに行き先があるとすればParlerだ。また、TwitterやFacebookのソーシャル体験を模倣するMeWeのようなアプリへ行く者もいる」。

モーガン氏によると、調査では過激派や陰謀説拡散者にとって、それでもなおプラットフォームからの締め出しが効果的な手法だという。それにより「AirbnbやAWSなどテクノロジー企業は、今後暴力がのさばるチャンスを減らせるだろう」。

そうやってプラットフォームを掃除すれば、危険な考えを語るメッセージを追い払うことができるが、モーガン氏によると、この方法が過激派の狂信を強化することもあるという。最近のプラットフォームの変化で分断し多様化したグループが、あちこちに散らばっている。そして彼らの行動は、ますます自暴自棄で予測不可能なものになっていく。

プラットフォーム追い出しは有効だがリスクもある

Anti-Defamation League(名誉毀損防止同盟)のCEOであるJonathan Greenblatt(ジョナサン・グリーンブラット)氏によると、ソーシャルメディア企業はそれでもまだまだ、就任式の週には多くの備えが必要だという。「議会の暴動への対応として、ソーシャルメディアプラットフォームの懲罰的態度ぐらいでは全然効果がない」とグリーンブラット氏は述べる。

彼の警告によると、さまざまな変化は必要だが、我々が備えなければならないのは、オンラインの過激派がもっと分裂したエコシステムに進化していくことに対してだという。彼らのエコーチェンバーはますます小さく、声高になり、大規模で組織的な脅威は減少しても、小集団の脅威はむしろ激しくなる。

このような分裂によって、人びとが互いに暗号化アプリで通信するようになるだろうとグリーンブラット氏がいう。外部に漏れない閉じた通信で互いの結びつきが強化され、暴力的な考えも安全に話せるようになり、今後のイベントの組織化や暴動の計画なども立てやすくなる。

過去数週間、ソーシャルメディア企業は彼ら独自のスタンダードに基づいて重大な措置を取ってきたが、ソーシャルネットワークは、現在、米国では政治的暴力に関心をよせているが、海外で暴力のための便宜を提供してきた長い歴史がある。

グリーンブラット氏が何度も訴えるのは、各社がもっと多くの人間モデレーターを雇用することだ。過激主義対応の専門家も、しばしばこの提案をしてきた。グリーンブラット氏によると、ソーシャルメディアは就任式の週に備えて、ストリーミングを遅らせるといった対策をとることができる。緊急対応チームはそんな措置に助けられて、個々のコンテンツにその都度対応するのではなく、もっと多くのアカウントを停止することもできる。

「ソーシャルプラットフォームは先週の議会に対する暴力から学んだことに関する(外部、一般社会への)透明性を、まだ何も提供していない」とグリーンブラット氏はいう。

「彼らがやるべきことと、できることの最小限のことはわかっている。これらのプラットフォームがそれらを通じて得たことへの透明性と洞察を提供すれば、我々はおそらくもっと強力な、提案ができるだろう」。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:ソーシャルメディアSNSアメリカ米国大統領選挙FacebookTwitter

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

投稿者:

TechCrunch Japan

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