3Dプリントの家を建設するICONが228億円獲得、月や火星の基地建設も計画

3Dプリンティングロボットを使ってホームレスの人々のための1世帯住宅を作る。米航空宇宙局(NASA)と協力して月面、ひいては火星にインフラや居住環境を構築するための建設システムを開発し、北米最大の3Dプリント建築物になるとみられるテキサス州の軍事部門の兵舎を納入する。

これらは、テキサス州オースティンに拠点を置く建設テックスタートアップICONが取り組んできたことのごく一部だ。

そして同社は2021年8月下旬、シリーズBで2億700万ドル(約228億円)という巨額の資金調達を達成した。

筆者はICONについて、2018年10月に同社がシードラウンドで900万ドル(約9億9000万円)を調達して以来取り上げてきた。3年も経たないうちにこのマイルストーンに到達したことを見るのはかなりクールだ。

シリーズBラウンドを主導したのはNorwest Venture Partnersで、他に8VC、Bjarke Ingels Group(BIG)、BOND、Citi Crosstimbers、Ensemble、Fifth Wall、LENX、Moderne Ventures、Oakhouse Partnersが参加している。この資金調達により、ICONの純資産合計は2億6600万ドル(約293億円)に達した。同社は評価額を明らかにしていない。

ICONは2017年後半に設立され、2018年3月のSXSW(サウスバイサウスウエスト)の際、米国で初めて認可された3Dプリント住宅をもってローンチした。その350平方フィート(約32.5平方メートル)の家のプリントに要した時間は、約48時間(25%のスピード)であった。ICONは意図的にコンクリートを材料に選んでいる。それは、共同創業者でCEOのJason Ballard(ジェイソン・バラード)氏が語ったところによると「コンクリートは地球上で最もレジリエンスに優れた材料の1つ」だからだ。

それ以来同社は、米国とメキシコに20を超える3Dプリントの住宅や建築物を届けてきた。これらの住宅の半数以上は、ホームレスや慢性的貧困状態にある人々のためのものである。例えば、ICONは2020年、非営利パートナーのNew Storyと提携してメキシコに3Dプリント住宅を建設した。またテキサス州オースティンで、慢性的なホームレスに提供する一連の住宅を非営利団体Mobile Loaves&Fishesと協働して完成させた。

同社は2021年初めにメインストリームの住宅市場に参入し、テキサス州オースティンのデベロッパー3Strands向けに米国初になるという3Dプリント住宅販売を行った。4軒のうち2軒は契約が結ばれている。残りの2軒は8月31日に発売予定である。

そして先頃、ICONは「次世代」Vulcan建設システムを公開し、住宅の新たな探求シリーズを披露した。シリーズ第1弾となる「House Zero」は、3Dプリンティングに特化して最適化設計されている。

ICONによると、同社独自のVulcan技術は、従来の工法より迅速で、無駄が少なく、設計の自由度が高い「レジリエンスとエネルギー効率に優れた」住宅を実現するという。新しいVulcan建設システムは、最大3000平方フィート(約278.7平方メートル)の住宅や建築物を3Dプリントすることができ、以前のVulcan 3Dプリンターより1.5倍大きく、2倍高速になっているとバラード氏は説明している。

ICONは世界的な住宅危機とそれに対処する解決策の欠如に突き動かされている、と同氏は会社設立当初から主張してきた。3Dプリンターやロボット、そして先進的な材料を利用することは、手頃な価格の住宅の不足に取り組む1つの方法である。この問題は、全国的に、そしてオースティンにおいて、悪化の一途をたどっている。

ICONの将来計画のリストには、社会、災害救援、そしてよりメインストリームの住宅を提供することなどが盛り込まれており、さらにはNASAと共同で、月、やがては火星にインフラや居住地を作るための建設システムを開発することも含まれている、とバラード氏は語る。

ICONはまた、NASAと2つのプロジェクトを進めている。先にNASA、ICON、BIGによるMars Dune Alphaの発表が行われた。ICONはこれまでのところ、壁システムの印刷を完了し、現在は屋根に取りかかっている。また、NASAは、ICONの3Dプリントで作られる火星の最初のシミュレーション居住地に住むミッションのクルーを募集中だ。このミッションは2022年秋に開始される予定である。

プロジェクトOlympusは、未来の月探査のための宇宙ベースの建設システムを開発し「別の世界に人類の住まいを想像する」ICONの取り組みを象徴するものとなっている。

「私たちの目標は、次の10年のうちにICONテックを月に届けることです」とバラード氏は語る。

バラード氏はTechCrunchの質問に対して「2020年8月の3500万ドル(約38億5700万円)のシリーズA以降で起きている最も重要なことは、3Dプリント住宅や建物に対する需要の急激な増加です」と答えている。

「この単一の指標は、私たちにとって大きな意味を持ちます」とバラード氏はTechCrunchに語った。「人々がこうした家を求めることは必然的なことなのです」。

「住宅不足に取り組むためには、世界は供給を増やし、コストを削減し、スピードを上げ、レジリエンスを上げ、持続可能性を高める必要があります【略】これらはすべて、質と美しさを損なうことなく行うことが必要です」とバラード氏は付け加えた。

「そのようなことを可能にするアプローチはいくつかあるかもしれませんが、それらすべてを実現できる可能性を秘めているのは、建設スケールの3Dプリントだけです」。

バラード氏によると、ICONは創業以来ほぼ毎年400%の売上増を記録し、目覚ましい財務成長を遂げている。同社のチームは2020年の3倍になり、現在100人以上の従業員を擁している。来年中には規模が倍増する見込みだ。

共同創業者たちと次世代Vulcan建設システム(画像クレジット:ICON)

シリーズBの資金は、3Dプリント住宅の建設の促進「急速なスケールアップと研究開発」、さらなる宇宙ベースの技術の発展、そして「住宅問題に対する持続的な社会的インパクト」の創出に充てられる、とバラード氏は語っている。

「私たちはすでに初期段階の製造を立ち上げており、3Dプリント住宅の需要を満たすために、その取り組みをアップグレードし、加速しているところです」とバラード氏。「今後5年間で年間数千世帯の住宅供給を実現し、将来的には年間数万世帯の住宅を供給できるようになると考えています」。

今回の資金調達の一環としてICONの取締役会に加わるNorwest Venture PartnersのマネージングパートナーJeff Crowe(ジェフ・クロウ)氏は、ICONの3Dプリンティング建設技術が「米国および世界中の住宅不足に多大なインパクトをもたらす」と考えていると語った。

クロウ氏によると、先進的なロボティクス、材料科学、ソフトウェアを組み合わせて堅牢な3Dプリント建設技術を開発することは、そもそも「非常に難しい」ことだという。

同氏はEメールで次のように述べている。「制御された環境で1台か2台のデモユニットを製造するだけではなく、さまざまな地域で、信頼性と予測可能性を備えた、美しく、手頃な価格で、快適で、エネルギー効率に優れた住宅を何百、何千台も生産できるような技術を開発することは、さらに困難です。ICONはこれらすべてを実現しており【略】ブレイクアウト、世代間の成功につながるすべての要素を備えています」。

画像クレジット:ICON, Lake/FLATO Architects

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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