Samsungが自動車部品、オーディオ機器のHarmanを80億ドルで買収すると発表した。Samsungが今後コネクテッドカー(IT化されたクルマ)に注力していくという意志の表れだろう。
Harmanという名前を聞くと、オーディオ機器を浮かべるという読者も多いとは思うが、同社は自動車部品の大手でもある。今回買収は、Samsungの買収案件としては過去最大級のものであり、同社がもつ自動車分野への野望がうかがえる。Harmanの昨年の売上高は70億ドルで、その65%は自動車関連部品からの売上だ。今回の買収により、コネクテッドカー向けのデバイスやオーディオ・システムといったHarmanの製品が、世界中で3000万台とも言われるサムスン製のクルマに搭載されることになる。
Samsungはクルマ向けのエンターテイメントやソフトウェア・システム分野でGoogleやAppleに遅れをとってきた(GoogleにはAndroid Autoが、AppleにはApple CarPlayがある)。そのため、今回の買収はSamsungがライバル企業に追いつくための手段だと言えるだろう。
Samsung Electronicsの副会長兼CEOであるOh-Hyun Kwonは、「テクノロジー、プロダクト、ソリューションという点において、Harmanは当社を完全に補完する存在です。私たちがこれまで注力してきた自動運転車という分野を拡大するためには、今回の買収は自然の流れだったと言えるでしょう」と買収を伝えるプレスリリースの中で話している。
買収金額は1株につき112ドルで、総額は80億ドルとなる。記事執筆時点でのHarmanの株価が87.65ドルだということを考えれば、健全なプレミアムが付与された買収価格だと言える。買収が完了するのは2017年中旬を予定しており、それ以降HarmanはSamsungの子会社となる。しかし、Harmanの運営はこれまで通り現経営陣が行う。HarmanとSamsungの両社によれば、Harmanの会長、プレジデント、CEOを務めるDinesh Paliwalは今後も続投する予定だ。
今回の買収についてPaliwalは、「SamsungはHarmanにとって理想的なパートナーであり、私たちの顧客である自動車メーカーや消費者は、今回の買収によって大きな恩恵を受けることになるでしょう」とコメントしている。
Googleが自動車関連のテクノロジー開発を急速に進め、Appleも電気自動車を開発しているのではないかと報じられるなか(そうではないとも報じられているが)、Samsungが今年2016年に自動車向け事業の基盤構築に動いたことは当然の流れだと言えるかもしれない。
今年の夏、SamsungはWarren BuffettのBerkshire Hathaway Inc.も投資する中国の電気自動車企業、BYDに4億5000万ドルを出資している。また、同社がFiat Chryslerの製造子会社であるMagneti Marelliにも目をつけていると報じられたこともあった。
しかし、今回の買収から受ける恩恵は自動車分野だけに限られたものではないとSamsungは話している。同社はSamsungの電子機器事業とHarmanがもつオーディオ分野の専門知識を組み合わせようとしているのだ。両社ともに消費者向け、ビジネス向けのオーディオ事業を抱えているだけでなく、HarmanはIoTデバイスに関する知識も持ち合わせているからだ。
IoTという言葉は今でもバズワードとなっているが、SamsungはHarmanが抱える8000人のディベロッパーを活用して「消費者、そして企業に次世代のクラウドベースの顧客体験を提供し、デザイン、データ、デバイスを組み合わせたエンドツーエンドの自動車向けサービスを提供する」と話している。
他のSamsungによる買収の中で特出すべきものとしては、AppleのSiriを生み出したメンバーが経営するバーチャル・アシスタントのViv、そしてクラウド・コンピューティングのJoyentなどが挙げられる。
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