ネイティブ広告に関する記事を連投してきたSEO Japan、最後はネイティブ広告が批判される理由でもあるその倫理性について深く考えた記事を。コンテンツか広告か区別がつきにくく、受け手の混乱を招く、場合によっては騙す手法として批判もあるネイティブ広告、日本でも有名人ブログのステマが一時問題になりましたが、昔から米国以上に使われている雑誌のPR記事なども一読して広告やコンテンツか判断出来ないような内容が多いのもまた事実です。そんなネイティブ広告の倫理性に関する様々な議論を。 — SEO Japan
早速、検証していこう。
ある日曜日、怪しげな6ページの折り込み広告がDenver Postに掲載されていた。
広告をめくると、「埋め立ては環境のバランス、そして、エネルギーのニーズを改善する」や「コロラド州の環境の規制は、全米の模範となっている」等の記事が現れる。
このセクションは「Advertising Supplement to the Denver Post」(Denver Postの広告付録)と記されていた。見た目、そして、デザインにおいては、Denver Postの他のセクションとは若干異なっているものの、通常の記事に似せようとする意図は明白であった。
しかし、実際には記事ではない。
これは、コロラド州を拠点に活動する2つのエネルギー供給会社によって設立された団体、Coloradans for Responsible Energy Development(CRED)の広告である。
皆さんなら、どのような反応を示すだろうか?
コロラド州の大勢の市民(Denver Postの大勢の職員を含む)は、激怒した。
抗議を受けて、CREDの広報は、「これほどの嬉しいニュースは滅多にありません。この朗報を皆さまと分かち合う機会だと私達は考えています。賛否両論があるから語られないのではなく、純粋に良いストーリーなのです」と主張している。
そのストーリーを伝える最適な方法と言えば、当然、PR記事(日本語)が真っ先に思い浮かぶ。
と言うことで、ネイティブ広告シリーズを締めくくる今回の投稿では、「ネイティブ広告に関する一般的な懸念」を取り上げる。
懸念その1: 消費者が混乱する
ネイティブ広告において最も厄介な点は、詐欺を連想させてしまうことだ — 広告が実際には編集コンテンツ(メディアが自主的に作成した記事)だと、巧みに思わせる意図を持つためである。
これが、冒頭で紹介した件で、「広告」と明記されているにも関わらず、大勢のコロラドの市民を怒らせた原因であった(のではないだろうか)。
ここで、「無害の団体(キルト作りの団体等)が見開き広告を買ったなら、ここまで批判されていたのだろうか?」と言う疑問が浮かぶ。
恐らく、これほど大勢の人達が、目くじらを立てることはなかっただろう。
広告と明記されているか否かに関わらず、「私達の自然」をスローガンに掲げる州では、エネルギー開発はデリケートなトピックに該当する。
しかし、「表記」が問題ではないことを示唆する証拠が、増え続けている。
サンフランシスコ大学で法律を教えるデビッド・フランクリン教授が実施した調査では、大半の読者が、「スポンサー」と言う表示を見ていない点が判明した。単純に飛ばしているのだ。
その上、大半の参加者 — 過半数 — は「スポンサー」の意味すら理解していない。「スポンサー」の意味を理解する人達は、この表示を重要視しているのだろうか?フランクリン教授は、否定的な考えを持っている。
また、この調査で、同教授は、60%以上がコンテンツを気に入っていることも発見していた。
「読者は、マーケッターが仕掛けた刺激を楽しみ、「People Magazine」を読むように、好みのページを読むだけだ」とフランクリン教授は指摘している。
BuzzFeedのジョン・スターンバーグ社長による消費者の混乱は作り話に過ぎないと言う主張は、あながち的外れではないのかもしれない。
また、スポンサードコンテンツを楽しんでもらえるかどうかは、コンテンツの質にも左右される。
しかし、Buzzfeedのオーディエンスに受け入れられることが、New York Timesのオーディエンスにも受け入れられるとは限らない。この件に関しては、ネイティブ広告の現状を把握する意識調査(日本語)の中で説明した。この調査では、BuzzFeedと比べ、The Timesがブランデッドコンテンツを配信した場合、懸念を持つ人が多いことが判明していた:
ニューヨークタイムズは「真面目なジャーナリズム」、一方のBuzzFeedは全く毛色の異なる存在と見られているためだ。
教訓: 意図を徹底して明白に記し、ネイティブ広告計画(PDF)の開示の推奨事項を学び、常に、質の高いコンテンツを作成する。
懸念その2: Googleはネイティブ広告を嫌う
状況に左右される。
約1年前、Googleのスパム対策を統括するマット・カッツ氏がPR記事に関する動画を投稿していた。カッツ氏は、紛らわしい広告を掲載する行為、もしくは、売買したリンクを介してページランクを渡す行為を糾弾していた。
カッツ氏の発言を以下に掲載する:
また、PR記事 — ネイティブ広告の一種 — にも注目している。この手の広告は、品質ガイドラインに違反している。従って、取り上げる代わりに、もしくは、広告等を行う代わりに金銭を受け取っているなら、この広告にページランクを循環させるべきではない。
Googleのルールを違反すれば、検索ランキングにペナルティーが科される。
しかし、この動画から1ヶ月も経過しないうちにGoogleは、DoubleClick Digitalにネイティブ機能を加えていた。Facebookが広告で大儲けしていると言う噂を耳にしたのかもしれない:
J.P Morganは、ネイティブ広告の長所として、支出に対して大きな利益をもたらす点を挙げている。同社によると、ネイティブ広告は、2013年にはFacebookのインプレッションの5-10%に過ぎなかったものの、収益の60%以上を占めていたようだ。
ネイティブ広告から60%以上の収益を得た、と聞けば、誰だってこの広告ユニットに対する立場を見直すはずである。
教訓: ペナルティーの対象になる行為は慎む必要がある。要するに、インターネットユーザーが求める有益なコンテンツを作ろう。
懸念その3: 利害の対立
このタイミングで、ネイティブ広告業界は、二分されていることを伝えておく(ネイティブ広告の例を紹介した記事(日本語)のハーフタイムで示唆した)。
スポンサーやブランドによるコンテンツ、および、PR記事等の編集コンテンツを持つグループ、そして、スポンサー記事、プロモツイート、推奨ウィジェット、モバイルアプリ広告等のコンテンツを持つグループが存在する。
後者に関しては、異なる定義が存在する。
AppsFireのオーリエル・オハヨンCEOは、「ネイティブ広告とは、製品の購入、アプリのインストール、サービスの利用、登録、ニュースレターの購読等、直接的な反応をベースにしている」と指摘している。
オハヨンCEOは、さらに次のように述べていた:
広告を読んだ後なら、もしくは、双方向的なやり取りを行った後なら、全てを計測することが可能だ。例えば、恐らく、ネイティブ広告の中では最も進歩した部類に入るモバイルにおいては、特定のソースからアプリをダウンロードしたユーザーのLTV(障害顧客価値)まで把握することが出来る。経験上、ネイティブ広告のCTR(クリックスルー率)とCVR(コンバージョン率)は、通常の割り込む広告形式よりも、5-20倍高い。これは、多くのスポンサーにポジティブな印象をもたらす。
つまり、このタイプのネイティブ広告(日本語)は、割と容易に計測することが出来る。
この広告ユニットは、利益の対立に関する懸念を呼び起こす可能性は低いだろう。媒体の流れから逸脱していないためだ。
利害の対立に関する懸念が生じるのは、例えば、Forbes、New York Times、Gawker、あるいは、Denvor Postに代表されるような、編集コンテンツである。
その前に、利害の対立とは、何のことを言っているのだろうか?「利害の対立とは、一次的な利益に関する仕事上の判断や行動が、過度に二次的な利益による影響を受ける状況を指す」。
例えば、CNET(NBCの子会社)が、競合する製品に賞を与えることをCBSが禁じる行為に代表される。
教訓: 良質なブランデッドコンテンツは、混乱を招くことを意図しているわけではない。商業的な動機を明確に公表し、顧客候補に対して、適切な背景で有益なコンテンツを提供することを重視するべきである。
懸念その4: 人材不足
コンテンツマーケティングにおいては、規模が課題となる。
一般的に、大量のコンテンツを作成する取り組みは、中小企業には向いていない。誰もがこの点を心得ている。薄っぺらいコンテンツを作成するのとは、大いに異なる。中身のあるコンテンツを作るには、遥かに多くの人的資源が必要になる。
例えば、本サイトが「ブログの記事に欠かせない11点の材料」を記したインフォグラフィックを作成した際は、2週間に渡って、1名のライター、1名のエディター、そして、1名のデザイナーが参加していた。
ブランデッドコンテンツやスポンサードコンテンツのようなネイティブ広告作品には、多くの労働力が求められる。Forbesは毎日400本の記事を配信しているが、それが出来るのは、400名の寄稿者が毎日記事を投稿しているからだ。
この大規模な労働力は、ブランドに代わってコンテンツを作成する、Studio@Gawker等の社内の代理店によって満たされる。当然、費用は要求される。また、CopyPress等のコンテンツマーケティングサービスを提供する会社も存在する。
直接反応広告ユニットによって、中小企業でもネイティブ広告を利用することが可能である。
キャンペーンを軌道に乗せ、管理するために必要な労力は、大規模なコンテンツマーケティングプログラムに比べれば、少なくて済む。もちろん、無数のアプローチから適切なものを選び、ある程度の予算を持っていることが前提となる(ちなみに、コンテンツマーケティングの代わりに、この取り組みを推奨しているわけではない)。
教訓: 予算を組み、(どれだけ規模が小さくても)コンテンツマーケティングプログラムに資金をつぎ込む。 オーディエンスを構築することが真の目標であり、そのためには、まず、ブログのようなメディアサイトの運営に着手する必要がある。その後、ネイティブ広告ユニットを用いて、このサイトにトラフィックを送り込み、拡大する取り組みを継続していくべきである。
懸念その5: 連邦取引委員会(FTC)
最後に、この類の広告をマークすると思われる米国政府の機関 — 連邦取引委員会(FTC)を取り上げる。
懸念としての唯一の問題点は、機能しているようには思えないことだ。
昨年末、FTCは1日限りのワークショップ「曖昧な境界線」を行い、「警戒していることを」印象づけようとしていた。しかし、広告を専門とするオーガスト T. ホーバス弁護士も指摘しているように、FTCはネイティブ広告が何かさえ理解していないようだ。
事実、主催したカンファレンスで認めてしまっている。
FTCは、スポンサードコンテンツ(曖昧な境界線と言っておきながら、ハッキリとスポンサードコンテンツと名指ししていた)に焦点を絞っているようだが、先程も説明した通り、これはネイティブ広告の半分でしかない。
FTCは、Google、Facebook等の広告ネットワークやモバイルアプリの広告をマークしているとは、私には思えない。なぜなら、単なる広告にしか見えていないためだ。また、ブランデッドコンテンツの領域において、消費者を保護する活動は、無意味だと考えられる。
先程紹介した、ネイティブ広告に対する意識調査を行ったサンフランシスコ大学のフランクリン教授は、このカンファレンスに参加していた。フランクリン教授は、調査結果(ほとんどの調査参加者が「スポンサー」を見ていなかった)を発表し、その後、「消費者を何から守ろうとしているのか?」と発言していた。
教訓: 明確に表記する。また、(まだ読んでいないなら)今のうちに.com Disclosures: デジタル広告で効果的に開示する方法(PDF)に目を通しておこう。
最後に
壊れたレコードのように聞こえるかもしれない — ネイティブ広告に関わる懸念を避けたいなら、明確に表記するべきである。意図が明白に伝わるように心掛けよう。
唯一の適切な表記は「広告」だと主張する消費者保護団体も存在する。パブリッシャーはこの考えを受け入れられないはずだ。しかし、全て正当な懸念である。New York Timesを見てみよう。このような表記には「注目しないで下さい」と合図する意図があるのだろうか?
しかし、Denver Postの件で発覚したように、気候変動、銃規制法、あるいは、性と生殖に関する権利等、デリケートなトピックにおいては、抗議問題に発展する可能性もある。
それでは、ネイティブ広告に対する最終的な結論を提供する。
PRのエキスパート、エリス・フリードマン氏の考え方は、個人的に気に入っている:
ネイティブ広告は、最悪、おとり商法になり得るが、最高のケースでは、役に立ち、有益なアイテムとなり、たまたま、金銭の享受が行われている、と言うことも出来る。
どのアプローチを私達が支持しているのかは、皆さんなら容易に判断することが出来るはずだ。
Google-Plusのディスカッションに参加し、意見を発表してもらいたい。