インターネット界で最も頼りになる流出データの管理人「Have I Been Pwned」が生まれたわけ

「自分の個人データは漏えいしたことがあるのだろうか」―この素朴な疑問に答えるため、Troy Hunt(トロイ・ハント)氏は2013年の暮れにデータ漏えい確認サイトHave I Been Pwned(ハブ・アイ・ビーン・ポウンド、HIBP)を立ち上げた。

それから7年後の現在、HIBPは、史上最大規模のデータ漏えいを含め、これまでに発生した幾百件ものデータ漏えいの中で自分の個人情報がハッキング(英語のスラングでは語頭の「p」をはっきり発音して「pwned(ポウンド)」とも言う)されたかどうかを確認したいユーザーのリクエストを毎日何千件も処理するデータ漏えい確認通知サービスとなっている。現在までに100億件弱という記録的な流出データをデータベースに蓄積してきたHIBPだが、サービスの拡大とともに、立ち上げ当時にハント氏が抱いていた疑問に対する答えが明らかになっている。

「経験から言うと、個人データが漏えいしている確率は非常に高い。ある程度の期間インターネットを使っている人のデータならほぼ間違いなく漏えいしたことがあると思う」と、ハント氏はオーストラリアのゴールドコーストにある自宅からインタビューに応じて語ってくれた。

HIBPはもともと、Microsoft(マイクロソフト)のクラウドの基本的な動作を確認するためにハント氏が1人で始めたプロジェクトだった。しかし、好奇心の高い人が多く、シンプルで使いやすいこともあって、HIBPの利用者はたちまち爆発的に増加した。

サービスの拡大にともない、HIBPはより予防的なセキュリティ対策を提供するようになった。ブラウザやパスワードマネージャーとHIBPをバックチャネルで連携させ、ユーザーが、すでに流出履歴がありHIBPのデータベースに記録されているパスワードを使おうとすると警告が表示されるようにしたのである。これはサイトの運営コストを抑えるのに不可欠な収益源にもなった。

しかし、HIBPの成功はほぼすべてハント氏1人の功績と考えるべきだろう。ハント氏は創業者かつ唯一の従業員としてワンマンバンドのようにこの型破りなスタートアップを経営し、規模もリソースも限られているにもかかわらず収益を上げている。

HIBPの運営に必要とされる労力が急増すると、ハント氏は、1人で運営するには負担が大きすぎて実際に弊害が生じ始めていると感じるようになり、その解決策としてHIBPサイトを売却することを発表した。しかし、それから激動の1年が過ぎた後、同氏は売却を取りやめた。

流出データベースのレコード件数100億件という次の大記録達成を目前に控えた今でも、HIBPの勢いは衰える気配がない。

「すべてのデータ漏えいの母」

HIBPを立ち上げるずっと前からハント氏はデータ漏えいに精通していた。

ハント氏は(その当時は)小規模なデータ漏えいにより流出したデータを収集して詳細に分析し、発見したことを自身のブログにつづる人物として、2011年頃には有名になっていた。ハント氏の詳細かつ系統だった分析は再三再四、インターネットユーザーが複数のサイトで同じパスワードを使っていることを証明した。つまり、1つのサイトからデータが漏えいしたら、別のオンラインアカウントのパスワードもハッカーの手に落ちてしまう状況だった。

そんな時に起きたのが、ハント氏が「すべてのデータ漏えいの母」と呼ぶAdobe(アドビ)の個人情報流出だ。1億5000万以上のユーザーアカウント情報が盗まれてネット上で公開された。

ハント氏はこの時に流出したデータのコピーを入手し、すでに収集していた他のいくつかのデータ漏えいのデータと合わせてデータベースを作成し、メールアドレスを使って検索できるようにした。検索にメールアドレスを使うようにしたのは、漏えいデータのほぼすべてに共通していた項目がメールアドレスだったからだ。

こうしてHIBPが生まれた。

HIBPのデータベースが拡大するのに長くはかからなかった。Sony(ソニー)、Snapchat(スナップチャット)、Yahoo(ヤフー)から立て続けにデータが漏えいし、HIBPのデータベースに何百万件ものデータが新たに加えられた。程なくしてHIBPは自分のデータが流出したことがあるかを確認したい人が真っ先に利用する人気サイトになった。朝の情報番組でHIBPサイトのアドレスが放送されてユーザー数が爆発的に増加し、一時的にサイトがオフラインになることもあった。その後もハント氏は、Myspace(マイスペース)、Zynga(ジンガ)、Adult Friend Finder(アダルトフレンドファインダー)など、インターネット史上最大規模のデータ漏えいにより流出したデータや、いくつかの巨大なスパムリストをHIBPのデータベースに加えていった。

HIBPの規模が拡大し、知名度が上がっても、ハント氏は引き続きソロ経営者として会社の切り盛りから、データベースへのデータ投入、サイト運営方法の決定に至るまで、倫理的な側面も含めてすべて1人でこなした。

ハント氏は流出した個人データを扱う方法を決める際に「自分が理にかなっている思う方法で扱う」ことにしている。HIBPに匹敵するサービスが他になかったため、これほど大量の流出データ(しかもそのほとんどが非常にセンシティブなデータ)の取り扱いや処理方法についてハント氏が自分でルールを策定しなければならなかった。ハント氏は自分が何でもわかっているとは考えていないため、自分が下した決定の背後にある理由についてブログで長文を書き、包み隠すことなく詳細に説明している。

「ユーザーが検索できるのは自分のメールアドレスのみとする」というハント氏の決定は理にかなっていて、「自分のデータが流出したかどうかを確認する」という、当時のHIBPサイト唯一の目的に基づくものだった。しかしそれは同時に、ユーザーのプライバシー保護に配慮して下された決定であり、これが、後にもっとセンシティブで漏えいによるダメージが深刻な流出データを入手することになってもHIBPのサービスを継続できるようハント氏を助けることになった。

2015年、ハント氏は不倫あっせんサイトAshley Madison(アシュレイ・マディソン)から漏えいした数百万件にのぼるアカウント情報を入手した。この一件は、最初はデータ流出そのものに注目して広く報道されたが、その後、このデータ流出が原因で数人のユーザーが自殺したことで再びメディアに取り上げられた。

アシュレイ・マディソンへのハッキングは、HIBP史上、最もセンシティブなデータだった。この件がきっかけで、ハント氏は、ユーザーの性的嗜好その他の個人データが関わるデータ流出に対するアプローチ方法を変えることになった。(AP Photo/Lee Jin-man、File)

ハント氏はこの件がもたらす感情的ダメージの深刻さを強く意識し、いつものアプローチ方法から少し外れることにした。このデータ漏えいが他と異なることは明白だった。ある人はハント氏に、「自分の地元の教会がアシュレイ・マディソンから流出したデータに含まれていた地元住民の名前をリストにして掲示した」と話したという。

この件についてハント氏は、「これは明らかに人を道徳的に裁いていることになる。HIBPがその一端を担うことは避けたい」と語った。

このデータ漏えいについてハント氏は、それ以前のセンシティブ性が比較的低いデータ漏えいとは異なり、誰でも自由にデータを検索できるようにはしないことに決めた。その代わり、専用の新機能を導入し、メールアドレスが本人のものであることが確認できたユーザーのみ、センシティブ性の高いデータ漏えいの被害にあっているかどうかを確認できるようにした。

「アシュレイ・マディソンのデータ漏えいに巻き込まれた人にとって、HIBPの使用目的は誰にも想像が及ばないほどの特別な意味合いを持つようになった」とハント氏は語る。あるユーザーは離婚による傷心の勢いでアシュレイ・マディソンのサイトに登録し、その後再婚したが、データ漏えいによって浮気性のレッテルを貼られてしまったとハント氏に話したという。また、別のユーザーは夫の浮気を疑い、現場を押さえようと同サイトのアカウントを作成したとハント氏に話したそうだ。

「誰でも検索できるということは時に不条理なリスクを人に負わせることがある。だからここは自分が判断して行動すべきところだと感じた」とハント氏は説明する。

アシュレイ・マディソンのデータ漏えいにより、ハント氏は保持するデータはできるだけ少ない方がよいという自分の考えが正しいことを再認識した。ハント氏のもとには、データ流出の被害にあった人から「流出した自分のデータを教えてほしい」というリクエストメールが頻繁に送られてくるが、同氏はそのようなリクエストへの対応はどれも断っているという。

「入手したすべての個人データをHIBPに投入して、電話番号や性別、流出した他のあらゆる情報を人々が検索できるようにすることは私の本来の目的ではない」とハント氏は語る。

「もしHIBPがハッキングされても、流出するのはメールアドレスだけだ。そんな事態は起きてほしくないが、もしそうなった場合に、パスワードまで一緒に保管されていて流出してしまったら、事態ははるかに深刻になってしまう」とハント氏は説明する。

とはいえ、メールアドレスとともにデータベースに投入されないからといって、流出したパスワードが無駄になっているわけではない。ハント氏はHIBPのサイトで、メールアドレスにひもづけされていない5億あまりのパスワードを検索できるようにしている。ここで検索すれば、ユーザーは自分のパスワードがHIBPのデータベースに投入されたことがあるかどうかを確認できる。

誰でも―テック企業でさえも―ハント氏が「Pwned Passwords(ポウンド・パスワード)」と名付けたページからパスワードの山にアクセスできる。Mozilla(モジラ)や1Password(ワンパスワード)などのブラウザ開発企業やパスワード管理ツールの開発企業は、HIBPと提携して同じデータベースにアクセスすることにより、以前に流出したことがあるパスワードや脆弱なパスワードをユーザーが使おうとすると警告を通知するサービスを提供している。イギリスやオーストラリアなど欧米諸国の政府も政府機関の認証情報が流出していないかどうかを確認するのにHIBPを頼りにしているが、このサービスもハント氏は無料で提供している。

「これこそHIBPの真価を発揮できる分野だと思う。政府関係者は大抵の場合、国と個人の安全を守るために、非常に過酷な環境の中で大した額の賃金を受け取ることもなく働いている」とハント氏は語る。

HIBPはデータの開示性と透明性を第一に運営されてはいるが、それでも、他の場合だったら(特に営利企業だった場合は)規制の壁と融通のきかないお役所的な手続きにがんじがらめにされるオンライン規制地獄に生きていることを、ハント氏は認識している。さらに、ハント氏が流出データをデータベースに投入していることに流出元の企業は必ずしも賛成しているわけではないが、ハント氏によると、HIBPのサービスを止めるために法的な措置を取ると警告してきた企業はまだないという。

「HIBPはそのようなことを超越するくらい筋の通った価値のあるサービスを提供しているのだと思いたい」とハント氏は語る。

HIBPをまねて類似サービスを提供しようとした企業もあったが、HIBPほど成功することはできていない。

「類似サービスが出てきたが、どれも営利目的で、そのうち起訴されてしまった」とハント氏は言う。

LeakedSource(リークドソース)は一時期、流出データをオンラインで販売する最大級の企業だった。筆者がこれを知っているのは、LeakedSourceが流出データを入手したいくつかの大規模なデータ漏えいについて報じたことがあるからだ。楽曲ストリーミングサービスのLast.fm(ラストエフエム)、大人の出会い系サイトAdult Friend Finder(アダルトフレンドファインダー)、ロシアのインターネット大手企業Rambler.ru(ランブレル)などは、そのほんの数例である。しかし、連邦政府当局が目をつけたのは、LeakedSource(経営者はなりすまし犯罪情報の不正取引疑惑について後に罪を認めた)が、不特定多数の人の流出データへのアクセス権を見境なく誰にでも販売していたことが理由だった。

「あるサービスの提供企業が、自社で所有するデータへのアクセス権を有償で提供することは極めて正当なことだと思う」とハント氏は言う。

HIBPでのデータ検索を有償にしても「私の眠りが妨げられることはない。ただ、有償化したことで何か問題が生じた時に責任を負いたくないだけだ」とハント氏は付け加えた。

プロジェクト・スバールバル

HIBPの立ち上げから5年後、ハント氏はこのままだとそのうち自分が燃え尽きてしまいそうな気がし始めた。

「このまま何も変えなかったら燃え尽きてしまうかもしれないと思った。HIBPプロジェクトを持続させるには変化が必要だったんだ」とハント氏は筆者に話してくれた。

ハント氏は、初めはわずかな空き時間を使っていたが、そのうち自分の時間の半分以上をHIBPプロジェクトに費やすようになったのだという。膨大な量の流出データを収集、整理、複製、アップロードするという日々の作業をさばくのに加えて、請求や税金に関する処理など、サイトの維持管理業務すべてを1人でこなさなければならなかった。そのうえ、個人としての事務処理作業もあった。

ハント氏は、HIBPの売却計画を、「人類のよりよい未来のために役立つもの」を膨大に収集しているノルウェーのスバールバル世界種子バンクにちなんで「プロジェクト・スバールバル」と名付けたことを、売却を宣言した2019年6月のブログの中で書いている。この売却プロジェクトは決して簡単に済む仕事ではないことが予想された。

売却の目的はHIBPのサービスの将来を確保することだった、とハント氏は語っている。また同時に、ハント氏自身の将来を確保するためのものでもあった。「買収する企業にはHIBPだけでなく、私のことも一緒に買ってもらう。もれなく私が付いてくることを承諾できない場合、取引はできない」とハント氏は語っている。また、同氏は自身のブログの中で、HIBPのサービスを拡大して、より多くのユーザーが利用できるようにしたいと書いたことがある。しかし、その目的は金銭的な利益ではない、と同氏は筆者に話した。

HIBPを管理する唯一の人間であるハント氏は、誰かが請求書の支払いを続ける限り、HIBPは継続していける、と言っている。「しかし、関わっているのが私1人であるHIBPにはサバイバーシップモデル(本人だけでなく周囲や社会が協力して問題を乗り越えていくという概念)が欠けている」と同氏は認める。

HIBPを売却することによって自分にかかる負担を減らし、サービスがより持続可能な状態にしたかった、とハント氏は語る。「もし私がサメに襲われて食べられてしまっても、サイトが停止しないためにね」と同氏は冗談交じりに言った。オーストラリアに住む限りサメに襲われるのは十分にあり得ることだからだ。

しかし、何よりも重要なのは、買い手がハント氏の要望を完璧に満たせるかどうかという点だった。

買収したいと申し出た多数の企業(その多くはシリコンバレー企業)とハント氏は面会を行った。買い手に求める姿ははっきりとしていたが、具体的にどの企業がその条件を満たしているのか、同氏にはまだわからなかったからだ。どの企業であれ、買収後もHIBPの評判を確実に守れる企業を選びたいと同氏は考えていた。

「もし、個人データを尊重する気がまったくなく利益を絞り取るためだけにデータを乱用するような企業がHIBPを買収したら、私にとって何の意味があるでしょうか」とハント氏は言う。買い手候補の中には利益重視の企業もいくつかあった。利益はあくまでも「付属的なものだ」とハント氏は語る。買い手にとって最大の関心事は、買収後も長期にわたり自社のブランドとハント氏を連携させることであるべきだった。つまり、ハント氏自身への評価と将来の仕事を独占的に買うのである。なぜなら、それこそHIBPの価値の源であるからだ。

ハント氏は、たとえ自分が関わらなくなってもHIBPを今のまま無事に継続させてくれると確信できる企業を売却先として探していた。「人々が私に抱いてくれている信頼と信用を別の組織に受け継ぐには何年もかかるものだといつも考えていた」とハント氏は語る。

ワシントンの米連邦議会上院エネルギー小委員会で証言するハント氏―2017年11月30日木曜日。(AP Photo/Carolyn Kaster)

売却先の選定プロセスとデューデリジェンス作業は「気が狂いそうになるほど大変だった。当初の予定よりも長引くことが何度もあった」とハント氏は語る。実際、この選定プロセスは何か月にも及んだ。その時期に感じた強いストレスについて同氏は率直にこう話している。「実は昨年初め、ちょうど売却プロジェクトを始めた頃に妻と別居し始めたんだ。そして、間もなく離婚した。売却プロジェクトの進行中に離婚まで経験するのがどういうことか想像してもらえると思う。とてつもないストレスを感じた。」

そして、およそ1年後、ハント氏は売却を取りやめたと発表した。機密保持契約があるため詳細を語ることはできなかったが、ハント氏は自分のブログの中で、売却契約を締結しようと決めていた買い手が不意にビジネスモデルを変えたため「取引そのものが不可能になった」と書いている。

「この契約がうまくいかなかったことを聞いてみんな驚いていたよ」とハント氏は筆者に言った。売却話は白紙に戻った。

今考えても、その売却話を断ったのは「正しい決断だった」とハント氏は断言する。しかし、その結果、売却プロジェクトは買い手が決まらず振り出しに戻り、同氏の手元には何十万ドルにものぼる弁護士費用の請求書だけが残った。

ハント氏の将来にとってもプライベートにとっても波乱万丈の1年が過ぎた今、同氏は休養するための時間を取り、激動の1年から通常のスケジュールに戻ることにした。そこに新型コロナウイルス感染症のパンデミックが襲ってきた。オーストラリアは他国と比べると被害が比較的軽く済み、ロックダウンも短期間で解除された。

ハント氏は引き続きHIBPの運営を継続していくことを表明している。これは彼が望んだ、あるいは期待した結末ではなかったが、今のところすぐに次の売却先を探す予定はないという。当面は「いつも通りサイトを運営していく」とハント氏は語る。

ハント氏は今年6月だけで1億200万件以上のデータをHIBPのデータベースに投入したが、それでも、もっと忙しい月に比べると6月は比較的穏やかな月だった。

「私たちは自分のデータを自分でコントロールできなくなっている」とハント氏は語る。そして、そういうハント氏でさえ例外ではないという。流出データ件数が100億件に迫る中、ハント氏自身も20回以上「Pwned(個人データをハッキングされた)」の経験があるそうだ。

今年初め、ハント氏は、とあるマーケティングサイトから流出した膨大な数のメールアドレスをデータベースに追加し、それを「Lead Hunter(リード・ハンター)」と名付けた。同氏は6800万件にのぼるデータをHIBPに投入した。同氏によると、公表されているウェブドメインレコードを誰かがかき集めてスパムメール用の巨大データベースに作り替えたのだが、それを別の誰かがパスワードをかけずにパブリックサーバーに放置したため、誰でも入手できる状態になっていた。それを見つけて入手した人がハント氏に手渡し、同氏はそれをいつものようにHIBPのデータベースに投入して、登録されている何百万人ものユーザーにメール通知を送信した。

「よし、作業完了だ、と思ったら、自分のメールアドレスにHIBPから『Pwned(流出しています)』という通知メールが届いたんだ。」

「自分でも意外なところで流出していて驚いているよ」とハント氏は笑って言った。

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タグ:コラム ハッカー

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(翻訳:Dragonfly)

Dear Sophie:新しいオンライン授業の規則は、F-1学生にとって何を意味するのか?

編集部注:ソフィー・アルコーンは、シリコンバレーにあるAlcorn Immigration Lawの創立者であり、2019年Global Law Expertsアワードの「カリフォルニア州アントレプレナー移民サービス年間最優秀法律事務所」を受賞している。彼女は、人々をビジネスおよび機会と結びつけ、彼らの人生を広げている。

テクノロジー企業での仕事に関連する出入国関連の質問に答える相談室「Dear Sophie」を再びお届けする。

シリコンバレーの移民弁護士であるSophie Alcorn(ソフィー・アルコーン)はこう言っている。「世界中の人々が国境を越えて夢を追い求めることを可能にする知識の普及に、あなたの質問は欠かせないものです。人事部に属する人や会社の創立者、またはシリコンバレーで仕事を探している人を問わず、次回のコラムであなたの質問にお答えしたいと思います」。

「Dear Sophie」コラムはExtra Crunchの購読者の方向けに配信されている。プロモーションコード「ALCORN」のご利用で、1年または2年の定期購読が半額になる。

Dear Sophie:

会社の創立者の一人が現在、F-1 STEM OPTで米国に滞在している。会社が彼女のH-1Bビザのスポンサーとなっているが、先日RFE(追加書類依頼)を受け取った。

昨日のF-1ビザ留学生に関する移民局の発表は、彼女にとって何を意味するのか?H-1Bが却下されるのか?支援が必要か?どうすればいい?

—クパチーノの憂慮者

Dear 憂慮者さん:

F-1学生がトランプ政権の留学生入国禁止令の影響を受けるかどうかは、私の最新のYouTubeライブをご覧になればお分かりになる。H-1Bビザの禁止については、先週のDear Sophieコラムを読んでいただければと思う。

留学生は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機的状況により、春と夏の間はオンライン授業を受けることが許可されていたが、それはこの秋に終了する。この新しい命令によって、リモートのオンライン授業のみを提供している学校の多くの留学生は、強制送還を避けるために「次善の移民計画」を見つけるか、秋学期の前に米国を出国しなければならなくなる。

多くの一流大学では、留学生が学生の20%以上を占めている。NAFSAによると、留学生は2018~2019学年度に米国経済へ410億ドルの貢献をしており、45万8000人の雇用を支援または創出したとされている。現政権は移民問題に関して、「細事にこだわり大事を逸する」ことを継続しているようだ。

大学は、この最近できたどうにもならない縛りに苦戦している。大学は、学生の安全を守るだけのためにオンライン授業を続け、留学生をこの国で暮らす彼らの家から追い出すのか?それとも、地域社会の健康を危険にさらしても、学生を強制送還から救うために学校を再開することになるか?

学生にとって、これは別の学校を探したり、アメリカを出国する方法を懸命に考えたり(母国が帰国を許可していない場合もある)、「次善の移民計画」を考えたりすることを意味している。昨日の動画では、F-1ビザの代替案を探っている

幸い、その共同創立者の方はOPTを利用しているので、昨日米国移民・関税執行局(ICE)から出された非常に限られた情報と、学校向けにSEVISが発表した若干広範なメッセージガイダンス(「2020年秋学期については、すでに米国に滞在している継続のFおよびMの学生は、学習プログラムを正常に進めている場合、または学習プログラムの一部として、あるいは学習プログラムの修了後に、承認された実習に従事している場合、SEVISでアクティブのステータスを維持することができます」)を最初に読んだ限りでは、最新のF-1規制が彼女に影響するとは思えない。

RFEに関しては、これが安心材料になるかどうかは分からないが、決してあなたたちだけ受け取ったわけではない。H-1B申請者のうち、追加書類依頼(RFE)を受け取る割合は、2016年以降2倍近くになっている。2016会計年度には申請者の約21%がRFEを受け取ったが、2019年度にはこれが40%以上になっている。今会計年度の最初の2四半期では、H-1B全申請者のうち41%がRFEを受け取っている。近日中に私のポッドキャストで、追加書類依頼(RFE)、初回書類依頼(RFIE)、却下予定通知書(NOID)について取り上げる予定なので、ぜひチェックしていただければと思う。

ここで、最初の質問に対する答えを明確にしておく。RFEを受け取ったからといって、H-1B申請が却下される可能性が高くなるわけではない。実際のところ、RFEは承認を受けるために申請を強化する最後の機会を提供している。大きい問題であるため、RFEへの回答を作成する際には、経験豊富な移民弁護士に相談することをお勧めする。

米国市民権・移民局(USCIS)がRFEに記載されている期限までにRFEに対する回答を受け取るよう確約してください。先週、USCISは期限を延長した。新型コロナウイルス感染症の危機的状況とUSCISが直面している予算不足のため、3月1日から9月11日までの間に発行されたRFEの期限が、期限から60暦日後に自動的に延長される。あなたの会社が期限までにUSCISに回答を送付しなかった場合、そのH-1B申請は却下される。

USCISがどのような追加書類を要求しているのかを常に正確に理解しておく必要がある。申請パッケージの原本をチェックして、要求された書類や証拠が含まれていなかったかを確認してください。USCISはすでに提出された情報を誤って見落としていることがある。その場合は、回答パッケージで要求された書類を再提出してください。要求された書類を提供できない場合、その理由を説明し、可能であれば代替書類を提出してください。それ以外の場合は、要求された書類または証拠を提出してください。

USCISがRFEを発行する理由の中で最も多いのは、その職種が専門的な職業として適格であること、または有効な雇用主と従業員の関係が存在することを示していない場合だ。受け取ったRFEがこれらの理由のいずれかである場合、USCISがそれぞれの要件に対して何を求めているのかを簡単にご説明する。

H-1Bビザの申請資格を得るためには、申請でその外国人が就こうとしている職種が専門的な職業であることをUSCISに証明する必要がある。その仕事には高度で専門的な知識の理解と応用が必要であり、通常は特定の専門分野で少なくとも学士号(または同等の経験)が必要であることの証明を提供する必要がある。近年、USCISは何が専門的な職業に該当するかについて、その解釈を狭めている。例えば、コンピュータープログラミングは専門的な職業とは見なされなくなった。またUSCISは、学士号を必要としない職種や、コンピューターシステムアナリスト、財務アナリスト、市場調査アナリスト、人事マネージャーなどの肩書きが付く職種にも説明を求めている。

創立者が自分の作った会社のために働く場合、雇用主と従業員の関係が存在することを証明するのが困難になる。雇用主がH-1B受益者の仕事を管理していることを証明する必要がある。創立者の場合、会社の誰か(取締役会または共同創立者)がH-1B受益者を監督し、その個人を解雇する権限を持っている必要があることを意味する。これを適切に設定する方法はたくさんある。

RFEへの回答に必要なすべての証拠や書類の準備ができたら、RFEの原本を最初のページとして1つの回答パッケージにまとめ、提出してください。記録用に回答パッケージのコピーを保存し、追跡と配達証明のオプションを使用して正確な場所に回答を送付してください。

4月22日と6月22日に発令された行政布告の下、米国大使館と領事館はビザおよびグリーンカードの発給を停止しており、また新型コロナウイルス感染症に関連する渡航制限が続いていることを踏まえると、その創立者の方は当面米国に留まるべきだ。

彼女の長期的な移民を保障するためには、あなたの会社が次のいずれかのグリーンカードのスポンサーになることを検討する必要がある(彼女が資格を持っている場合)。

トランプ政権は、合法的な移民をさらに制限するための取り組みをまだ完了していないようだ。彼らは現在H-1Bビザ、EB-2グリーンカードまたはEB-3グリーンカードで米国に滞在している人が、米国人労働者の機会を制限していないかを調べている。さらなる制限や停止の拡大が実施される可能性がある。もしそうなった場合、当然ここですべてをご説明する。

RFEについてより具体的な質問があれば、お聞かせください。幸運を祈る!

—ソフィーより

ソフィーに対して質問がある方は、ここで質問できる。当方は、内容の明確化および(または)スペースを確保するため、提出された内容を編集する権利を留保する。「Dear Sophie」で提供される情報は一般情報であり、法的助言ではない。「Dear Sophie」の制限に関する詳細については、こちらの完全な免責事項をご覧ください。Alcorn Immigration Lawでソフィーに直接問い合わせることができる。

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(翻訳:Dragonfly)

コロンビアから学ぶ、テック業界と輸送産業の発展を阻む古い規制

編集部注:Daniel Rodriguez(ダニエル・ロドリゲス)氏はPicapのCEO兼共同創業者で、同社の設立時にベンチャーキャピタルから700万ドル(約7億5000万円)以上を調達した。パイキャップは現在、中南米8カ国に事業展開している。

「この道は通っちゃだめだぞ」と父は言った。

その道がビーチへ行くのに一番の近道なのになぜ通らないのかと、私は父に尋ねた。当時8歳だった私は地図を見るのが大好きで、父が選んだ道に納得がいかなかったのだ。後に、私が最短経路として勧めた道は、私たちや他のコロンビア人家庭に敵対するさまざまな武装グループが問題を起こしていた地区だったことを知った。

数十年にわたりコロンビアを疲弊させてきた紛争について知っている人は多いだろうが、コロンビアのさまざまな機関、権利保護団体および政府が、武力紛争によって制約されない移動手段を確保できる未来の実現を目指し、遂げてきた進歩について聞いたことがある人はあまりいないかもしれない。

実際、コロンビアは世界銀行が発表する「ビジネス環境」ランキングで少しずつ順位を上げてきている。ビジネスチャンスを国内の隅々まで行きわたらせるためにコロンビアの政府機関やリーダーたちがすべきことはまだ山のようにある。新型コロナウイルス感染症のせいで、根深く存在する格差がさらに拡大していることも逆風になっている。しかし、確実に言えることがひとつある。コロンビアがもっと積極的にイノベーションに取り組むなら、繁栄への道筋がさらにはっきりと見えてくるということだ。

筆者はこの10年をコロンビアの繁栄への道を切り開くことにささげてきた。コロンビアで最も権威のあるUniversidad de Los Andes(アンデス大学)で研究しつつ、ベンチャーキャピタルから1000万ドル(約10億7000万円)以上を調達し、2つの会社を立ち上げて、7万人以上のコロンビア人が直接的または間接的に賃金収入を得るのを助けてきた。また、専門職を求めて海外へ移住しなくても自国で十分に良い暮らしができることを若いコロンビア人たちに示して、数百人のコンピュータエンジニアを直接雇用してきた。すでに海外に移住していたコロンビア人数人に声をかけ、母国に戻ってPicap(パイキャップ)で働くように説得したことさえある。

このように筆者は、コロンビアの繁栄と同国のテック業界を築いてきた数千人の有能なエンジニアたちに少なからず手を貸してきたつもりだが、今、その努力が台無しになりかねない状況になっている。というのは、コロンビアでは社会的イノベーションは10年単位で進んでいくと考えられていて、輸送およびテクノロジー関連の規制もその速度に合わせて策定されているため、コロンビアの政府当局と立法部門によるそれらの規制の改訂が遅々として進まないからだ。

コロンビアのテクノロジーと輸送に関する規制は刷新する必要がある。Uber(ウーバー)やパイキャップは、コロンビア政府と規制当局が課す脅威に絶えず悩まれされてきた。それは、あたかも瓶から一度出てしまったテクノロジーという魔神を瓶に戻そうとするような無駄な試みであるだけでなく、双方の成功に欠かせない長期的なパートナー関係を築くための重要な対話を遅らせる行動である。

公共の利益と技術革新を同時に推進する規制の枠組みを策定することは、コロンビアだけでなく世界中の国々にとって緊急の課題だ。新しい輸送モデルとテクノロジーを導入することが有益であることはすでに証明されている。パイキャップと同じように2輪車の配車サービスプラットフォームとしてスタートしたGoJek(ゴージェック)やGrab(グラブ)が良い例だ。両社とも評価額数十億ドル規模の企業に成長しており、商業や金融に関係する各種サービスを促進し、それらがすべて社会に利益として還元されて、消費が伸び、経済活動が明確な形を持ち、新しい形のイノベーションが生まれている。規制の刷新が進めば、パイキャップも他の企業もこれと同じことをコロンビアだけでなく広く中南米全体で実現できる。

コロンビア議会にはテクノロジープラットフォームに対する理解を推進するために大変な努力を重ねているリーダーたちがいる。彼らの努力は称賛に値するが、決して実を結んでいるとは言えない。コロンビアのリーダーたちは今こそ、例えば、民間の輸送サービスが新しい移動手段を推進する市民のための規制を必要としていることを認識する必要がある。医療、輸送、経済活動に関するあらゆるシステムが官民の区別なく新型コロナウイルスによっていとも簡単に弱体化してしまう現実に、世界中の国々が直面している。テクノロジーは、すべての国において、医療、輸送、経済活動を強化するために不可欠な要素になるだろう。我々は、パイキャップが提供しているPibox(パイボックス)などの宅配プラットフォームがソーシャルディスタンスを維持するために各国でますます重要な役割を果たすようになっていることを目の当たりにしている。各国が、パンデミック時の防御策についてだけでなく、今後に向けて自分たちの暮らしを変えていく方法についても、それぞれ独自の方法を考えるべきだ。今ならまだ遅くない。

コロンビアは韓国の例から学ぶことができる。韓国は何年にもわたり、増え続ける世界のシリコンチップ需要に応えてきた。その結果、そうしたチップを製造するLGやSamsung(サムスン)は誰もが知る有名企業となった。韓国政府は、技術進歩を阻害することなく、ノウハウの開発の推進、技術教育への投資、およびテック企業との提携によって、これを実現した。我々のような科学技術者としては、コロンビアという国を長期的に強化するような経済活動の発展に手を貸すことができれば、これほど誇らしいことはない。筆者は未来をこの目で見て、日々その未来を実践している。そして、中南米諸国、とりわけコロンビアは、テック系人材をつなぎ止め、技術投資を引きつける規制の枠組み策定を推進する必要があると思う。さもないと、コロナ禍からの回復期になるであろう今後数年間で、経済状況はますます悪化することになるだろう。

最近コロンビアで、移動プラットフォームの業界団体Alianza IN(アリアンツァ・イン)が設立された。目的は、投資を引きつけ、人材をつなぎ止め、輸送プラットフォームとテクノロジープラットフォームが国の経済の未来に不可欠なパートナーとなる将来に備えるために、コロンビアのMinTIC (情報技術通信省)が取り入れることができる指針について、コロンビアの国会議員や規制当局との対話を進めることだ。テクノロジープラットフォームはすでに存在しているため、アリアンツァ・インの活動は、数百万のコロンビア市民が刷新された規制枠組みの恩恵を受け、輸送およびテクノロジープラットフォームを活用して収入、移動手段を確保し、生活の質を高めるための大きな一歩となる。

昨年、コロンビアのテック系企業は全体で12億ドル(約1287億円)の資金を調達した。筆者と同世代の仲間たちとコロンビアの同胞たちがテック業界のさまざまな場所で働き、わずか20年で成し遂げたこの成果に筆者は感服している。しかし、コロンビアの政治家と当局が、テクノロジーおよびパイキャップなどの新しい移動手段を導入するために規制を刷新する必要性に応えなければ、21世紀のコロンビアの成長は間違いなく妨げられることになるだろう。我々には成長の余地がある。粘り強さと立ち直る力があれば、コロンビアや中南米諸国だけでなく、世界が抱える課題も克服できることを示そうではないか。

筆者は、20年後、いや3年後には、数億人の人たちに利用される再生可能エネルギーや疾病予防関連イノベーションが若いコロンビア人の女性によって開発されるのではないかと期待している。取り除くべき障害はある。そうした障害を取り除く動きがコロンビア全体ですでに始まっている分野もあり、これをテクノロジー分野でも継続する必要がある。筆者は同世代の仲間たちと協力して、引き続き資金を集め、人材をつなぎ止めて、コロンビアが21世紀をリードする国へと発展していくための競争力をさらに強化していくつもりだ。

コロンビア政府と規制当局およびイバン・ドゥケ政権も同じ目標を目指して欲しいと思う。

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(翻訳:Dragonfly)

Z世代からシリコンバレーへのメッセージ「 👁👄👁」が意味するものとは

編集部注:本稿を執筆したRavi Mehta(ラヴィ・メータ)は、消費者向けテック企業のリーダーで最近までTinder(ティンダー)の最高製品責任者を務めていた。その前は、Facebook(フェイスブック)、TripAdvisor(トリップアドバイザー)、Xbox(ゼロックス)で製品担当リーダーを務めた経験を持つ。

多様性に富む若い起業家や技術者で構成されるあるグループが、有色人種やLGBTQコミュニティを支援する3つの慈善団体―Okra Project(オクラ・プロジェクト)Innocence Project(イノセンス・プロジェクト)Loveland Foundation(ラブランド・ファウンデーション)―への寄付金として20万ドル(約2151万円)をわずか36時間で調達した。

どうやって、そして何の目的で、そんなことができたのだろうか。

この質問に対する答えは、テック業界の未来を理解する上で重要である。今回の出来事はZ世代が起業する方法とその理由を示す最初の実例だからだ。「 .fm」とその仕掛け人たちは、今の若者文化に広く見られるトレンドを反映している。

VCは注目すべきだ。なぜなら、この若者たちこそ次のFacebook(フェイスブック)を創り出す者たちだからだ。

VCでなくとも、誰もがこうした動きを喜ぶべきだろう。若い技術者たちが、新しい価値観のもとに新しい未来を創り出そうとしているのだ。彼らの価値観は、過去のソーシャルメディアにあふれる屈折した動機とオンラインでもオフラインでもより良い世界を作りたいという純粋な欲求が交錯する中で成長してきた経験によって培われたものだ。

今回の一連の出来事は米国時間6月25日木曜日の夜、あるグループが仲間内でとあるTikTok(ティックトック)ミーム動画を繰り返したところから始まった。今の世界では、言葉は常に変化している。「 」は「これが現実(It is what it is)」というフレーズの特殊な解釈として出現した。 「 は自分たちの周りに広がる混沌した現実の中で何もできず、逃げ道もない状況を表している」とJosh Constine(ジョッシュ・コンスティン)氏は説明する。

このグループは次に、「 」をTwitter(ツイッター)のハンドルに追加して、架空の招待制ソーシャルアプリ「 .fm」についてツイートし始めた。これが意外にもどんどん拡散し、内輪ネタのジョークが次々と投稿されて制御不能の状態となった。さらに、グループのDiscordサーバーでは次に何をやるかという話題で盛り上がった。そこで、瞬発的に生み出されたこのエネルギーを社会貢献につながる方向に向かわせることはできないだろうか、と皆が考え始めたのだ。

同期型ソーシャルアプリRealtime(リアルタイム)の創設者で「 .fm」の「筆頭仕掛け人」でもあるVernon Coleman(バーノン・コールマン)氏は次のように話してくれた。「ミームとして始まったことが、あっという間に盛り上がった。これはチャンスだと思った。この勢いを社会貢献に変えていく責任があると感じたんだ。スキルのある創造的な人たちが集まって、リアルタイムにコラボレーションしたときのパワーは本当にすごいと思う」。

何にフォーカスすべきか、という問いに対する答えは明白だった。6月26日金曜日にこのグループは次のように投稿した。「難しく考える必要はなかった。今、ようやく多くの人たちが構造的な人種差別主義や黒人差別主義に気づき始めている。この火を消さないようにもっと大きなうねりを起こしていく必要がある」。

6月25日木曜日以来、このグループは2万件のメール登録と1万を超えるツイッターのフォロワーを獲得し、20万ドル(約2151万円)の寄付金を集めた。

これを「うまく考えられたマーケティングキャンペーンだ」と皮肉る者もいる。悪意のあるいたずらだという意見もある。すべてが完璧に運んだわけではないし、失敗した部分もあったことはチームも認めている。しかし、彼らが行ったこととその理由を矮小化したり過小評価したりすべきではない。

このチームは、排他性をマーケティング戦略として使うシリコンバレーのやり方を非難し、次の新しい波にいつも一番乗りしようとしているVCをうまく釣り上げ、ツイッターが持つ爆発的な拡散力を巧みに利用して世間の意識を高め、それを、しばしば見過ごされがちな慈善団体に本当の意味で役立つ寄付金という形に変えたのだ。しかも、これらすべてを一瞬で成し遂げてみせた。

60人の若いテックだ系リーダーで構成されるこのグループは、自分たちのメッセージを伝える際に大手プラットフォームのツールを巧みに使って大きなインパクトを残した。

彼らは決してツイッターのヘビーユーザーではない。大半のメンバーはフォロワー数も数百人程度で、フォロワー数が数十万人の有名アカウントの所有者ではない。しかし、テックエリートと同じくらいこれらのツールを熟知している。

今回の動きはZ世代のリーダーや活動家たちによる一連の動きの中で最新のものだ。Z世代は、ミレニアル世代やX世代の生息領域と考えられているツイッターやフェイスブックといったプラットフォーム上でも、自分たちの発言を増幅させることができる。

このような動きが最初に目撃されたのは、フロリダ州パークランドの高校で銃乱射事件が発生したときだった。高校の生徒がツイッターやフェイスブック、さらにはケーブルニュースさえも乗っ取って銃規制に関する理性的な意見を発信したのだ。そしてそれが、銃規制を求める動きへと発展していった。

この3年間、筆者は若いユーザーや製品開発者との対話に何十時間も費やしたが、これはTinder(ティンダー)の最高製品責任者、フェイスブックのユース・チーム製品ディレクターを務め、エンジェル投資家でもある筆者の仕事の重要な部分となってきた。 .fmチームによって表現される感情の多くは、Z世代全般が持つ感情を反映していると思う。

Z世代は、より良い形で次世代に渡すことなど考えもせずに現世界から最後の1滴まで利益を搾り取ることばかり考えているように見えるベビーブーム世代にうんざりしている。

Z世代は、排他的な集団や仮想的な立ち入り禁止ロープに嫌気が差している。最近の例では、招待制のソーシャルアプリClubhouse(クラブハウス)がある。クラブハウスは創業からわずか数か月で評価額1億ドル(約107億円)で資金を調達し、黒人の著名人であるOprah(オプラ・ウィンフリー)氏やKevin Hart(ケヴィン・ハート)氏をはじめとする数千人の限られたユーザーにのみサービスを提供している。

テック業界内部の人間から見ると、クラブハウスはまさに最高の場所である。しかし、部外者であるZ世代から見ると、白人ばかりの創業者や投資家たちを金持ちにするために黒人の著名人が利用された最新の例にすぎない。

Z世代の起業家やテック業界のリーダーたちは、テック業界がインクルーシブ(包含的)であることの重要性を主張しながら、その実、それをマーケティングの策略として使っている事実にうんざりしている。このやり方を最初に行ったのはGmail(Gメール)だ。Gメールは招待制を大規模に利用した最初のアプリで、その後、招待制は戦略として広く利用されるようになっていった。

今、シリコンバレー内部の人間は、2文字か3文字のメールアドレスを法外な料金(2文字のアドレスは年間999ドル、3文字のアドレスは375ドル)で提供するHEY(ヘイ)という最近リリースされたメールアプリからの招待を受けたくて仕方がないらしい 。テクノロジーに対してより公平で共感を呼ぶアプローチを取ると主張しているJason Fried(ジェイソン・フリード)氏とDavid Heinemeier Hansson(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏が創業した会社が、このような短い名前で高い料金を取るという収益スキームを採用しているのは皮肉なことだ。同社のビジネスは、意図的ではないにせよ短い名前をつける伝統を持つ民族をターゲットにした不公平なものだという批判的な声もある。

最後に、Z世代はダイバーシティを説きながらそれを実践しないテック業界にも嫌気が差している。黒人やヒスパニック系の社員は相変わらず大手テック企業(とりわけリーダーレベル)で過小評価されている。こうした過小評価は起業家になるとさらにひどくなる、ベンチャーの支援を受けた創業者のうち黒人が占める割合はわずか1%にすぎない。

シリコンバレーは努力が足りない。

「テック業界のVCと雇用者数には、パイプライン問題があるという話をよく聞くが、まったくのでたらめだ。我々はプロフィールにミームを入れた人からまったくランダムに選択するという方法で、年齢、文化的背景、スキル、性別、居住地区などが異なる人たちを集めることができた。シリコンバレーの企業は、まったくランダムに採用すればそれでダイバーシティは実現できることを理解すべきだ。テック業界がアクションを起こす気なら、我々が力を合わせたら実現できるであろう魔法のような変化について想像してみてほしい」とコールマン氏は語る。

.fmのストーリーは重要な真実を語っている。たとえZ世代が望むような未来を創造する気がテック業界になくても、Z世代が自分たちで創っていくだろうから心配には及ばないということだ。

彼らに支援を。

Make the hire. Send the wire.(もっと雇用を。もっと投資を。)- The Human Utility(ザ・ヒューマン・ユティリティ)創業者兼エグゼクティブディレクター、Tiffani Ashley Bell(ティファニー・アシュレイ・ベル)氏

「 .fm」を仕掛けたチームが支援している団体:

  • Okra Project – 黒人のトランジェンダーが直面している世界的な危機に対処することを目的とする慈善団体。黒人トランスポートジェンダーの人たちにその文化独自の健康的な家庭料理と支援金を提供している。
  • Innocence Project – 無実の罪で収監されたままでいる驚くほど多くの人たち(黒人が圧倒的に多い)を解放し、そうした不当な収監の原因となっている制度を改革することをミッションとする慈善団体。
  • Loveland Foundation – 黒人の女性と少女が米国全体でセラピー療法を受けられるようにすることを目的とする慈善団体。黒人の女性と少女はセラピー治療を受ける資格があり、その治療はすべての世代にインパクトを与える。

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コロナ禍でダイバーシティを後退させないために経営者がすべきこと

本稿を執筆したRachel Sheppard(レイチェル・シェパード)氏は、世界中でプレシード・アクセラレータ投資を行うFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)のグローバルマーケティング部門ディレクターだ。

どんな災厄でも、一番悲惨な影響を受けるのはすでに社会の主流から取り残された人々だ。だから、新型コロナウイルス感染症によるロックダウン(都市封鎖)の中で、雇用や事業経営に関して、女性や民族的少数派の市民が他の誰よりも深刻な影響を受けていることも驚くにはあたらない。

今年4月、米国の女性失業率は15.5%に跳ね上がった。これは、男性に比べて2.5%も多い数字である。また、アフリカ系市民とラテンアメリカ系市民の失業率は白人よりも高く、ラテンアメリカ系市民の失業率は過去最高の18.9%に達した

女性たち―特に社会的に不利な条件下で生活する女性たち―はコロナ禍の中、自宅で介護や看護など家族を世話する責任を一手に担うことになる。そのため、職場では解雇の対象になりやすい。同時に、雇用の確保が危機に瀕している今、過小評価されている従業員の多くはこれまでよりさらに会社から軽視されていると感じることになるかもしれない。

ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包含性)が現在の状態まで推進されるに至るには、多くの苦労があった。ゆっくりと、だが確実に、ダイバーシティとインクルージョンがどの企業でも目に見えて重視されるようになってきたのだ。しかしコロナ禍により世界中の企業が窮地に立たされ、ダイバーシティとインクルージョン(D&I)推進の取り組みが後回しにされた結果、これまでの成果が危うく台無しになりそうになった。ジョージ・フロイド氏殺人事件とそれに続く抗議活動がD&Iの取り組みを大々的に再燃させたが、この勢いと決意を今後も長い期間にわたって確実に維持していくために、我々スタートアップ経営者はどうしたらよいのだろうか。

今回の衝撃的な出来事によって、ダイバーシティ推進がお飾りや企業アピールの手段ではなく、従業員1人ひとりが送る毎日の生活と切り離せない重要な要素であることをビジネス界全体が認識するようになるだろう。昨今は、消費者も、あなたと同じ職場で働く従業員たちも、社会的課題に対する意識の高い会社を求めている。だからこそスタートアップとしてバランスの取れた企業になるには、D&I推進に取り組むことが絶対に必要なのである。これは、より大規模に経済を復興させるためにも欠かせない。新型コロナウイルスとの戦いに際してD&Iの維持と改善をなおざりにすると、平等性の実現を目指す取り組みにおいて何年分も後退するばかりでなく、社会全体として力を合わせてこの動乱の時代を無事に乗り切る可能性を低下させてしまう。

D&I推進なくしてビジネス存続なし

今後、ほとんどのスタートアップが存続していくだけで精いっぱいになるのは仕方がないことだと思う。しかし、D&I推進を自社にとって不要不急の課題として脇に押しやるべきではない。不要不急どころか、その正反対の位置づけとすべきだ。ダイバーシティが優れていることは、業績も優れていることを示す指標となることが知られており、不景気の中でも成長していく可能性を高めることにもつながる。

ダイバーシティにより社内でイノベーションが促進されるという話はよく聞く。今、それがいかに重要であるかを考えてみてほしい。前代未聞の危機に直面している今、賢明なロックダウン戦略を見つけ出すには、さまざまな知見や解決策を比較検討することが欠かせない。我々ビジネスリーダーは、世界の現状がどうなっているのかを知る必要がある。そして、それを知るには、あらゆる背景の人々が何を経験しているかを理解しなければならない。

また、現在の行動が長期的に及ぼす影響も無視するわけにはいかない。存続のために会社の理念を犠牲にしてはならないのである。今、ダイバーシティを犠牲にするとどうなるのだろうか。当面の間は従業員をつなぎ留めることができるかもしれないが、それは単に彼らが失業を恐れているからにすぎない。実際は、経営者に対する従業員の信頼が損なわれ、労働市場が改善した暁には、彼らはいとも簡単に会社を辞めていくだろう。同じことは顧客にも当てはまる。今回の危機により、世間はパーパス・ドリブン型(社会課題解決を志向した経営を実践している)かつダイバーシティを実践している企業をこれまで以上にサポートするようになっている。そのため、これらの価値観を実践しない企業は取り残されていくことだろう。

雇用を増やせなくてもD&Iは推進できる

では、まだ慣れないこの新しい日常の中で、スタートアップはどのようにダイバーシティ推進に優先的に取り組み続けることができるのだろうか。確かに、これ以上雇用を増やすことはできないかもしれない。しかし、ダイバーシティを推進するには他にも方法がある。よい機会なので、ここで少し時間を取って社内の文化について見直してみよう。同僚の自宅の様子が垣間見えたり、仕事に影響する個人的な問題や、逆にプライベートに影響を及ぼす仕事上の問題について耳にしたりなど、コロナ禍により我々は自社のビジネスを違う角度から見ることを余儀なくされている。まずは、会社の文化が従業員の問題の原因にならないようにしよう。

経営者は近づきやすい存在でなければならない。中には自分が抱える問題について経営者に話すのを恐れる従業員もいる。あなたは経営者として、従業員の士気が大幅に下がっているのに何の改善策も実行できずにいるだろうか。もしそうなら、職場の雰囲気をより開放的で、誰もが参加しやすいフレンドリーなものにする必要がある。これは単にZoomで朝のコーヒータイムを一緒に過ごして楽しく会話するとか、終業後にお互い知り合う時間を設けるとかいうことではない。自分の心配事を意見として表明する従業員が何らかの煽りを食うような仕組みを社内から一掃する、意見を遠慮なく言うよう従業員に促す、上級管理職だけではなく、チーム内のどのメンバーについても、ミーティングに出席しているどの参加者についても、その貢献度を認めるという意味だ。

ロックダウンが実施された結果、多くの人がリモートで効果的に働けるということが証明された。これを今後、自宅がオフィスから遠い従業員や、子どもや高齢の親族を世話しなければならない従業員が成功するチャンスを広げるために活用できないだろうか。多くの企業の人事部では今、新規雇用を見送っていることだろう。その代わり人事部には、個々の従業員が成功できるよう、各スタッフが抱える独特の問題を見きわめて解決することに注力してもらうのはどうだろうか(こうした仕事にフルタイム社員を1人、担当者として割り当てることも検討できるかもしれない)。

このような取り組みは、過小評価されている従業員(多くの場合、職場環境について同僚よりも気苦労が多い)にとって今も、これからも居心地のよい会社を作るのに欠かせない。また、そのような従業員が成長しても、ずっと働き続けたいと思うような会社にするのにも役立つ。さらに、将来的により多様性のある従業員プールを確保することにもつながる。

雇用を増やせる場合は、より多様性のある求職者を引きつけるのに革新的なソリューションがある。Joonko(ジューンコ)が提供するテクノロジーは、募集企業側の応募者トラッキングシステムに統合でき、過小評価されている人材の中から候補者を見つけやすいようにしてくれる。Pitch.Me(ピッチミー)では、偏見を防ぐため、経験とスキルに関する情報のみが記載された匿名プロフィールが提供される。このプロフィールには、性別、年齢、民族的な背景に関する情報は掲載されていない。DiTal(ディタル)などのように、テック企業と多様性に富んだ候補者とのマッチングを行うサービスを提供している企業もある。

社内における成功の尺度を見直す

コロナ以前、あなたの会社のKPI(主要業績評価指標)は営業担当1人あたりの売上や週あたりのリード獲得件数だったかもしれない。現在、そのようなノルマは今、非現実的であるばかりでなく、より重要なこととして、同僚と比べて手持ちの時間が少ない従業員―家族を世話する責任を担う人(多くの場合は女性)や可処分所得が少ない人―にとっては、達成することが非常に困難になる。また、統計によると、民族的少数派に属する人の方がコロナウイルスの影響を受ける可能性が高い

経営者は、他の人より時間や資金が少ない従業員でも仕事で目標を達成できるような労働環境を整えなければならない。最も価値のある仕事のうち80%に、チームが持つ時間の20%が費やされているという話をよく聞く。であれば、スタッフが自分の持つ力のほぼすべてをその貴重な20%のエネルギーとして費やせるようにしよう。また、会社としての短期的な目標を見直す新たなビジネスプランを作成し、その目標を絶対に達成するための新しいメトリクスを設定しよう。そのことが、共に働く仲間1人ひとりが困難に直面しても目標の達成に向けてやる気を日々維持していくためにどれだけ重要か考えてみてほしい。さらに、従業員の福祉に配慮して柔軟性を示すことは称賛に値する特質であり、簡単に忘れ去られることはない。

ここで重要なことが1つある。各従業員が成功できるよう助けるということは、そうするために必要なリソースを各々に支給するということである。例えば相応の性能を備えたノートパソコンや他のデバイス、高速インターネット接続など、この「ニューノーマル(新たな常態)」に適応するのに必要なツールを全従業員に支給すべきである。このようなものを必要とする従業員のために投資することをためらってはならない。

キャリア開発に力を入れる

過小評価されている従業員にとって昇進は他の同僚より難しいのが常である。そのため、彼らにとってキャリア開発は非常に重要だ。マイノリティに属する人は、そうではない人に比べて、他ならぬ「ビジネス界でマイノリティだから」という理由で、ビジネス上の人脈が弱い。この悪循環と戦うことを決してやめてはならない。

あなたのチームを見渡して、キャリアアップを手助けできる人がいないか考えてみよう。今は特に過小評価されているグループを中心にそのような人材を探そう。なぜなら、過小評価されている人たちは、ロックダウンによってより深刻な影響を受ける可能性が高く、立ち直ることもより困難になりがちだからだ。彼らを利他的な動機で見ることができなくても、過小評価されている従業員を今からリーダー職に抜てきすれば地元経済の回復に貢献でき、さらには会社の業績も改善することになるだろう

もう1つの方法として、スポンサーシップ制度を設け、経営者であるあなたや他の上級管理職が選抜した従業員を直接指導し、そのキャリアアップを後押しすることができる。これは、ビジネスリーダーたちが積み上げてきた人脈や影響力をより多様な人材プールの中で均等に分け合うようなものだと考えるとよい。

自社のブランドにダイバーシティを組み込む

これまでは社内に目を向けてきたが、次に対外的な側面について考えてみよう。あなたの業界に対して人々が抱くイメージを、危機に面しているこの時期であっても好転させるにはどのようにしたらよいのだろうか。例えばファッション業界におけるブランディングのように、これまで我々が目撃してきた目に見える大きな変化は、強い影響力を持つ人たちが業界において権威のある場で決断することによって実現してきた。しかし皮肉なことにその方法は、物事をより不均衡な状態へと簡単に傾ける可能性も秘めている。

それを防ぐには、そのような重大な決断を経営者であるあなた自身が下すこと、そして他の人の賛同を集めることで団結を促すことが必要である。自社のブランドを活用して、社内で推進したダイバーシティを―例えばスタートアップ企業にアドバイスするメンターからオンラインイベントで登壇させる講演者に至るまで―対外的に行うすべてのことにおいて前面に押し出そう。対外的なマーケティングに可能な限りダイバーシティを反映させるよう意識的に取り組む必要がある。コロナ禍のせいで広告におけるダイバーシティ基準が低下するのではないかと危惧されている今は特にそうすべきだ。

過小評価されている創業者を支援する

資金に余裕がある場合、苦戦する創業者がロックダウンを乗り切れるように支援しよう。女性やマイノリティ市民によってあなたのコミュニティで経営される中小企業が支援を必要としているかもしれない。自社の従業員に支援物資やギフトを贈る計画があれば、そのための物品を、過小評価されている市民が経営する地元企業から調達するために余分の手間をかけることを惜しまないでほしい。何も難しいことではない。米国各地にあるそのような企業を見つけるのを助けてくれるWomen Owned’s business directory(ウィメン・オウンズ・ビジネス・ディレクトリ)Help Main Street(ヘルプ・メイン・ストリート)などの組織を活用すれば簡単だ。

大企業はHello Alice(ハロー・アリス)と協力して、退役軍人からLGBTQ+まであらゆるタイプの過小評価グループに属する創業者が経営する小企業へ直接資金を提供できる。IFundWomen(アイファンドウィメン)は女性が創業した事業が多数登録されているネットワークで、どの企業に出資または参画するかを利用者が自分で選ぶことができ、有色人種の女性が経営する会社だけを集めた部門もある。あなたはビジネスリーダーとして、常に多様な創業者とのコラボレーション機会を探すことができる。例えば、米国の巨大なラテンアメリカ系市場をカバーするラテンアメリカ系創業者をまとめたこちらの優れたリストをチェックしてみてほしい。こうした創業者はまた、ビジネスにおいてダイバーシティを向上させる方法も知っている。

NAACP(全米黒人地位向上協会)は1世紀以上にわたり有色人種の市民に平等の権利が与えられるよう戦ってきた。重要な改革の実現を目指す運動に参加する、頭角を現している黒人経営企業に注目する等の方法でNAACPとその取り組みを支援することもできる。

今はダイバーシティ推進の手を緩めるべき時ではない。単なるお飾りだと考えたい誘惑にかられるのはわかる。しかし、コロナ禍を乗り切るだけなく、業界全体がより平等な社会を目指して何十年もかけて苦労して築き上げてきたものを台無しにしないためにも、今こそダイバーシティを推進することが絶対に必要である。

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(翻訳:Dragonfly)

急成長するB2B企業がいかにして初期10社の顧客を獲得したか?

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するPodcast「Off Topic」が投稿したnote記事の転載だ。

自己紹介

こんにちは、宮武(@tmiyatake1)です。これまで日本のVCで米国を拠点にキャピタリストとして働いてきて、現在は、LAにあるスタートアップでCOOをしています。Off Topicでは、D2C企業の話や最新テックニュースの解説をしているポッドキャストもやってます。まだ購読されてない方はチェックしてみてください!

はじめに

元Airbnbのグロース担当の.Lenny Rachitsky(レニー・ラチツキー)さん(@lennysan)の記事「How today’s fastest growing B2B businesses found their first ten customers」の翻訳許可を直接いただきました。

彼の記事を読みたい方はぜひ彼のメルマガに登録してみてください。また、Off Topicでは他の記事も翻訳していますので、気になった方はこちらもご覧ください!

マーケットプレイスの作り方
人気C向けアプリがいかにして初期ユーザー1000人を獲得したか?
数値で見る、創業者に聞いたジャンル別「良いリテンション」とは何か?

成長しているB2Bビジネスはどうやって初期ユーザーを見つけたのか?

Figmaの初期では知り合いのデザイナーに全員と話した。もっとフィードバックをもらうためにTwitterに行って、そこではよりデザイナー業界でのインフルエンサーを見つけられることがわかった。候補者のリストをもらってからフィルターして最も自分がすごいと思った人の紹介を知り合いからしてもらったり、場合によってはTwitterなどでDMなどを送ってFigmaを見せていた(Figma CEOのDylan Field氏)。

B2B事業を立ち上げるときに3つのグロース戦略がある。FigmaのCEOであるDylanさんはそのうち2つを使った。

  1. 自分のネットワークを活用する(Dylanさんの場合は友達)
  2. 顧客がいる場所に行くこと(Figmaの場合はTwitter)
  3. PRをする

以下ではShopify、Stripe、Airtable、Plaid、Gusto、Salesforce、Slackなど、急成長したB2B企業20社がどうやって初期顧客を獲得したのかを紹介する。そして、フォローアップ記事としてどうやって初期顧客10社のクロージングをしたのかを解説する(フォローアップ記事は有料なので、レニーさんのメルマガに課金して登録すると読むことができます)。

なぜ初期10社の獲得について書いているのか?それは、最初の10社が最もスケールしない方法で獲得が必要だから。後々フォローアップ記事でどうやって10社から100社、そして100社から1000社獲得を可能にしてきたか解説しようと思う。

この投稿は、私が40時間以上かけて古いインタビュー動画や記事、いろんな創業者へ紹介してもらって話したり、TwitterでDMを送っていろんな人から話を聞いて書いたものになる。本記事の学びとすると、B2Bビジネスの初期の獲得はC向けアプリよりはるかにこんな困難だということ。

重要なポイント

  1. 紹介するB2B企業の全事例ではたったの3つの戦略しかない(C向けアプリだと7つ
  2. 実際には2つの戦略は必ず活用している。1つは自社ネットワークの活用、もう一つは潜在的な顧客が集まる場所へ行くこと。問題はどちらの戦略を選ぶのではなく、自社ネットワークだけでどこまで達成できるか
  3. B2Bでは自社ネットワークが強いとかなり有利になる。このネットワークを作るためにネットワークが広い投資家やYCなどアクセラレーターに入る戦略もある
  4. ボトムアップではなく、プロダクトを「売り込む」必要があれば、初期顧客はあなたを信頼しなければいけないため自社ネットワークを活用するのがさらに重要になる
  5. PR戦略での初期顧客の獲得は珍しい

戦略1:パーソナルネットワークを活用する

Key Question:自分のネットワークの誰が顧客になれそうか?

Slack:友達
ほかの会社で働いている友達にとりあえず頼み込んで試してもらってフィードバックをもらった。最初の6社から10社はこういうかたちで獲得した。そして徐々に大きいグループにSlackを共有するのがパターン化された。チームが増えるごとに、フィードバックもより多くもらうようにした(Slack創業者兼CEOのStewart Butterfield氏、引用元

Asana:友達と元同僚
最初の15人のユーザーはほぼ全員仲がいい人だった。彼らの体験をできるだけ満足させるために、機能の充実、フィードバックの返事、バグを直すこと、パフォーマンスの改善にフォーカスした。それが続いて徐々にアルファ版を使う人を増やした。一気にユーザーが増えたタイミングはあまりなく、一定で新規ユーザーが入ったきた(Asana創業者兼CPOのJustin Rosenstein氏、引用元)。

Salesforce:元同僚
私達のサービスを試してもらうように 人にお願いしたが、かなりの困難だった。特に一番最初のユーザーが最もチャレンジングで大変だった。大体の人は一番最初にリスクを取りたくない。それを我々が気づいたのが大事だった。戦略を変えて、初期ターゲットを新しいものに興味を持ってくれそうなパイオニアにした。

最初のパイオニアは私が過去に投資した、小さいソフトウェア企業Blue Martini Softwareだった。創業者のMonte Zweben(モンテ・ズウェベン)さんには借りを作ることになる理解と同時に、彼がこのサービスが絶対必要だと確信していた。

この時期には正式な営業部隊がいなかったので、salesforce.comの全チームメンバーが業界での知り合いや知っているスタートアップに連絡するようにしていた。Product ManagerのDiane Mark(ダイアン・マーク)さんが近所のスーパーで並んでいるときに2社目の顧客を獲得した。そこで元同僚でその時はiSyndicateという会社の営業部長で働いていた人と偶然出会って、彼にどういう風に営業プロセスを管理しているかと聞いた。彼が、ACT!そしてエクセル。大変だよ、と言っていた(Salesforce CEOのMark Benioff氏、引用元

Carta:投資家
初期顧客は2つの方法で集めた。1つ目は出資してくれたエンジェル投資家から。TamrのAndy Palmer(アンディー・パルマー)さんはeSharesに出資してくれて、彼の会社で使ってくれた。2つ目は我々の投資家の投資先。投資家経由で紹介してもらった。それ以外は、自分のネットワークをひたすら使った(Carta元CPOのJoshua Merrill氏)。

Gusto:友達とアクセラレーター仲間

Gustoの初期10社の顧客はカリフォルニアで会社を立ち上げたばかりの友達からきた。ほとんどが同じタイミングで入ったYCに入った会社だったが、テックじゃない会社も友達や家族経由で獲得した。創業メンバー3人がひたすら回って知り合いに次世代HRシステムを開発しているので、興味を持ちそうな人がいるか聞き回っていた(Gusto創業者で元CPOのTomer London氏)。

Stripe:友達とアクセラレーター仲間
YCではStripeのテクニックを「Collison導入方法」と呼ぶほど有名な初期ユーザー獲得戦略を使った。ほとんどの創業者は「ベータ版使ってくれますか?」と聞いて、「はい」と回答があった場合、だいたいは「よかった。ではベータ版のURLを送ります」と答える。Stripe創業メンバーのCollison(コリソン)兄弟はそれを時間の無駄だと思い、誰かがStripeを試してみたいと言った瞬間、「パソコンを貸して」と言って、その場でセットアップさせた(Paul Graham氏、引用元

一番最初のユーザーは実はStripeの初期従業員になってくれた。Ross Boucher(ロス・ブーシェ)さんは数年前から知っていた。彼が決済システムが必要だったので「我々のシステムを使ってみる?」と、どれだけ初期段階なのかを言わずに聞いた。いい方向性に進んでいると感じ始めたのは、友達が他の人を招待できるかを聞いてきた。そしてその人たちも同じく招待したく、それで口コミで伸びた(Stripe CEOのPatrick Collison氏、引用元

Amplitude:アクセラレーター仲間
Amplitudeの初期顧客はYCのネットワークからきた。Amplitude創業者のSpenser(スペンサー)さんとCurtis(カーティス)さんはYCではSonalightという別サービスを作っていて、そのサービスがなぜユーザーが離脱していたかを見つけるためにAmplitudeの初期バージョンを作った。そうするとほかのYC企業も既存ツールだとコホート分析とかがやりにくかったので使いたがった。スペンサーさんとカーティスさんはそれでAmplitudeのほうがチャンスがあると感じた(元Amplitude Head of PartnershipsのTai Rattigan氏)

Workday:元同僚
Workdayの初期顧客は創業者の知り合いの中小企業の社長だった。彼らはソフトウェアではなく、友情に対してお金を払っていた(元Workday CEOのDave Duffield氏、引用元

Looker:元同僚と投資家
B2B領域ではネットワークの活用は意外と使われないが、かなり重要。Lookerは初期10社はネットワーク経由で獲得できた(いまだにネットワーク経由で獲得できている)。これは自社ネットワークだけではなく、顧客や投資家のネットワークからもだった。ネットワークから顧客を獲得するために2つのことをやった(元Looker初期従業員兼VP Startegic AlliancesのKeenan Rice氏)。

  1. 初期顧客を必要以上に満足させることに時間をかけた
  2. 顧客が自分の成功事例を共有してエヴァンジャリストになれるようにいくつか簡単なシステムを導入した

Coda:元同僚
Codaを作るときに最初はプロダクトに集中して外部からの注目されないようにステルスで開発していた。最初のアルファ版のトライアルは以前働いていたYouTubeでの元同僚が経営していたスタートアップが行ってくれた。その会社の全メンバーがプロダクトを数ヶ月使ってくれたが、ある日急に全員離脱した。1日でユーザーが100%いなくなったので、かなり落ち込んだ。

ありがたいことに、そのスタートアップのCEOはいいフィードバックをくれた。彼らはCodaをまた使うには機能が足りないと言って、その必要事項をかなり長いリストとして送ってくれた。そのフィードバックがかなり良いモチベーションとなり、いいプロダクトを開発できた。ここでの学びは、失った顧客からのフィードバックが一番いいかもしれないこと(Coda CEOのShishir Mehrotra氏)。

Okta:元同僚
Salesforce.comや前職でのIT部門の人たち、いわゆる自社のネットワークにリーチした。LinkedIn経由で卒業した大学のネットワークも使った。そしてエンジェル投資家に聞いたり、彼らの知り合いをLinkedIn経由で探った。個人としては毎月新しく15人〜18人のIT人材と話すのが目標だった。最初の半年は目標の85%は達成できた(Okta創業者兼COOのFrederic Kerrest氏)。

Intercom:元同僚

Des TraynorさんのGmail受信トレイ

基本的には「Intercomを人に知ってもらうことをやる」だった。前の会社で我々の話を聞いてくれるネットワークを作れていたので、彼らにまずリーチした。毎日、1日中、ひたすら人にメールしてIntercomについて説明して、Intercomを彼らがどう使えるか、そしてフィードバックをもらう繰り返しだった。これを全部マニュアルでやって、もしやり直してもまたマニュアルでやる(Intercom創業者兼CSO Des Traynor氏、引用元

戦略2:顧客がいる場所を探すこと

Key Question:誰がターゲット顧客で、普段どこにいる(オフラインとオンライン)?
例:コミュニティー、フォーラム、オフラインイベントなど

Shopify:Ruby on Railsコミュニティー
自分のオンラインスノーボード店舗であるSnowDevilを作ったときに、Ruby On Railsのデベロッパーコミュニティーの同僚が開発したコードをライセンスできないかと聞いてきた。その影響でShopifyを開発し始めた。最初の事前登録で数千人のメールアドレスを獲得でいた。まだ2006年だったので、この事前登録制度の事例がなかったので、思い返せば事前登録でのローンチパターンの初期事例だった。ベータ版をローンチしたときには数百店舗しかいなかったが、数店舗はいまだにShopifyで売り続けている!(Shopify CEOのTobi Lütke氏)。

New Relic:Ruby on Railsコミュニティー
2007年後半にNew Relicがローンチしたときには、当時まだ小さかったが急成長していたRuby on Rail市場にフォーカスしていた。当時はRailsの評判は上がっていたが、まだ主流ではなかった。そのため、新しいスタートアップとしてはいい市場だと思った。市場規模の大きさとしては大手でお金を持っている先が入らないが、アーリーステージの会社としては十分に成長できる市場規模だった。

Rails開発者は最も先端なテクノロジーを取り入れるので有名で、いいプロダクトを本当に愛着を持ってくれて、逆に彼らの高いスタンダードに見合わないプロダクトがかなり批判する傾向だった。我々は誰よりも早くRails市場をターゲットしなかったが、いいプロダクトを持っていたため、Railsコミュニティーのインフルエンサーからのサポートを初期からもらえた。当時のRailsコミュニティーのインフルエンサーは(Dave Heinemeir Hansson(DHH、デイブ・ハイネマイヤー・ハンソン)、Tobi Lütke(トビ・リュケ)、Rick Olson(リック・オルソン)、Obie Fernandez(オビ・フェルナンデス)、Tom Mornini(トム・モーニーニ)など。彼からの承認はお金を出してももらえなく、彼らの厳しいスタンダードに値するものじゃないともらえない。彼らのおかげで初期トラクションに大きく影響を与えた(New Relic CEOのLew Cirne氏、引用元)。

Plaid:オンラインのデベロッパーとPMコミュニティー
Plaidの前に9カ月間ほどC向けのフィンテックプロダクトを開発していた。いいインフラがないのにフラストレーションが溜まってPlaidを開発した。我々が最初の顧客になった。そのあとはデベロッパーとPMコミュニティー内で口コミで伸びた。初期はフィンテック企業の創業者と会って、彼らの問題を学び、Plaidがどう解決できるか、かなり時間をかけた。そしてフォーラム、IRC、ミートアップ、アクセラレーターなどにも時間をかけた(Plaid創業者兼CEOのZach Perret氏)。

Figma:Twitter
Figmaの初期では知り合いのデザイナーに全員と話した。もっとフィードバックをもらうためにTwitterに行って、そこではよりデザイナー業界でのインフルエンサーを見つけられることがわかった。候補者のリストをもらってからフィルターして最も自分がすごいと思った人の紹介を知り合いからしてもらったり、場合によってはTwitterなどでDMなどを送ってFigmaを見せていた。まだFigmaは初期段階だったが、インフルエンサーからのフィードバックをもらえたのが非常に勉強になった。プロダクトを改善・進化している際にもコンタクトしていたデザイナーたちにアップデートをし続けた。ローンチしたときにはすでに多くの初期顧客と関係性が作れていた。最初にFigmaを使ってくれたのはCoda(当時はKryptonというサービス名)だった(Figma CEOのDylan Field氏)。

Square:SMB(中小企業)への飛び込み営業

Jack Dorsey(ジャック・ドーシー)は個人のネットワークを使って、「Clubhouse」的な人たちをSquareに集めようとしたが、彼らはあまりリピートユーザーにならなかった。Lilly Belle FlowersのCheri Mims(チェリー・ミムス)さんやSightglass Coffeeが実際に会って話せた顧客だった。毎週数回会って、何がうまく行って何がうまくいかなかったのかを確認して、プロダクトを改善した。近所の会社にリーチし続けて、まだ初期段階だったのにSquareを使うように説得した(Square創業メンバーのCameron Walters氏)。

Atlassian:オープンソースコミュニティー
Atlassianが一部オープンソースだったのが助かった。メーリングリスト、IRC、ニュースグループのようなコミュニティーが助けになった。常にマーケティングをしていた。しばらく自分のプロフィール名が「Jira Jira Jira Mike」だった。無料でビールをあげたり、自分たちにとって絶対にもうからない価格設定、そして良いカスタマーサービスを提供した(Atlassian CEOのMike Cannon-Brooks氏)。

Segment:Hacker News
一番最初にはオープンソースライブラリーとしてHacker Newsにローンチした。そこで一気にバズった。最初の顧客はHacker Newsを読んでいた、まだ小さい会社だった(Segment CEOのPeter Reinhardt氏、引用元)。

Airtable:Hacker News
最初は友達と家族から、そしてHowie(ハウィー)さんがベータ版をHacker Newsに投稿。私自身もそこでプロダクトを知った。そこからは口コミで伸びた。当時はB2Bにフォーカスしてなく、私がジョインした時はB2BとB2Cどちらもやっていた(匿名のAirtable初期従業員)。

Dropbox:Hacker News

Dropbox CEOのDrewは簡単なプロダクトのデモ動画を2007年4月にHacker Newsに投稿した。そのタイトルは「My YC app: Dropbox – Throw away your USB drive」(僕のYCアプリDropbox:USBドライブを捨てよう)。その動画で初期ユーザーを集めた(John Popel氏、引用元)。

戦略3:メディアのPR

Key Question:PRで伝えられるユニークなストーリーがあるか?

Canva

著名な投資家がいたのでステルスでもかなりPRされて、その影響で5万人が事前登録してくれた。ローンチしたときには満足してくれるようにフォーカスした(Canva CEOのMelanie Perkins氏、引用元)。

Twilio
Twilioは2008年11月にプライベートベータ版のローンチをTechCrunchで発表した。TechCrunchに載る数日前に500 Startups創業者のDave McClure(デイブ・マクルーア)さんがTwilioを使ってTechCrunch記者のMichael Arrington(マイケルアーリントン)さんを「リックロール」して、それもTechCrunchの記事(未訳記事)になってバズった(引用元)。

Slack
ベータ版をベータ版と呼ばなかったのは、そうするとサービスがあまりよくないと思われるからだった。チームの過去の経験を生かして、大々的なプレス戦略を行った。それでSlackの招待リクエストを送れるようにし、初日に8000人、2週間後に1万5000人になった。ローンチ時のメディアの力は強い(Stewart Butterfield氏、引用元)。

ヒアリングしたエキスパートたち

Andreas Birnik
Cailen D’Sa
Cameron Walters
ChenLi Wang
Dennis Yang
Dylan Field
Frederic Kerrest
James Beshara
Joshua Merrill
Keenan Rice
Kenny Mendes
Lou Kosak
Madelin Woods
Merci Victoria Grace
Mike Cannon-Brooks
Nate Bosshard
Nick Crocker
Peter Kazanjy
Semil Shah
Shishir Mehrotra
Tai Rattigan
Tobi Lütke
Tomer London
Vrushali Paunikar
Zach Perret

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カテゴリー:ネットサービス

タグ:コラム

研究者にデータへの「有意義な」アクセス権を与えることとプライバシーは両立する

欧州委員会の委員らは年末までに起草予定のデジタルサービス法(Digital Services Act :DSA)に盛り込まれる透明性要件を討議中である。これはインターネットプラットフォームに対し拘束力を持つ要件である。しかし、規制当局や研究者にデータへの有意義なアクセス権を提供し、プラットフォームが自ら拡散するコンテンツに対し責任を負うことができるようにするガバナンス構造をどう構築するかという問題は一筋縄ではいかない。

データを外部に公開するというプラットフォーム自身の取り組みは、控え目に言っても困難なものになっている。2018年、FacebookはSocial Science Oneイニシアチブを発表し、厳選された研究者グループに対し約1ペタバイト相当のデータおよびメタデータを共有するアクセス権を提供すると述べた。しかし、研究者がデータにアクセスできるようになるのに約2年かかった。

「私の人生の中で最もストレスのたまる出来事でした」と、このイニシアチブに参加した研究者の1人は今年始めProtocolに語った。公開されるデータを厳密に決めるFacebookとの交渉は20ヶ月にも及んでいた。

Facebookの政治的広告アーカイブAPIも同様に研究者を苛立たせている2019年、Mozillaは「Facebookは自らのプラットフォームに掲載される全広告の全体像をつかむことを不可能にしている(これは彼らがやっていると言っていることのまさに逆の行為である)」と述べ、同社による上辺だけの透明性を非難した。

一方Facebookは、米国のFTCによる介入後に同社の事業に付された欧州データ保護規則およびプライバシー要件を指摘し、データへのアクセスに関する進展が遅々としていることを正当化している。しかし、Facebookを非難する人々は、これが皮肉にも透明性や説明責任から逃れる隠れ蓑になっていると主張している。さらに言えば、そもそもこれらの規制はいずれもFacebookが人々のデータを取得することを妨げてはいないのである

2020年1月、欧州の主要データ保護規制当局はデータ保護および研究に関する予備的見解を書き、透明性や説明責任逃れに対し警告を発している。

EDPSのWojciech Wiewiorówski(ヴォイチェフ・ヴィエビオロフスキ)氏はその見解の中で、「支配的力を持つ企業が、透明性や説明責任を逃れる手段としてデータ保護の義務を悪用することがあってはならない。それゆえ倫理的なガバナンスフレームワーク内で研究活動を行っている研究者は、有効な法的根拠を持ち、比例性原則と適切な保護手段を条件として、必要なAPIやその他のデータへアクセスできるようにすべきである」と記した。

もちろん、Facebookだけが反則者というわけではない。Googleは、同社が「透明性」を主張する領域で、自らがリリースするデータを極めて厳重に管理し、ユーザーデータへのアクセスを厳格に掌握していることを根拠に自らを「プライバシーの擁護者」としてブランド化している。一方、Twitterは何年にもわたり、そのプラットフォーム内でのコンテンツの流れを把握することを目的とした第三者による研究を非難していた。TwitterのAPIはプラットフォームの全データやメタデータへの完全なアクセスを提供するわけではないので、そうした研究は全体像を説明するものではないと主張していたのである。これは説明責任を回避するもう一つの便利な隠れ蓑である。

最近、同社は研究者に対し期待を抱かせる発表を行った。ルールを明確にするために開発ポリシーを更新し、またCOVID関連のデータセットを提供するというのである。ただしそのデータセットに含まれるツイートをTwitterが選択するという点に変更はない。つまりTwitterが研究に対する実権を握ったままというわけである。

AlgorithmWatch(アルゴリズムウォッチ)による新たなレポートは、プラットフォームがデータへのアクセスを仲介することによって説明責任を回避するという、複雑に絡み合った問題に取り組んでいる。レポートでは、議論されているガバナンス構造の中でも特に医療データへのアクセスを仲介する方法からインスピレーションを得るといった、透明性を実現し、研究を強化するための具体的なステップが示唆されている。

目標:研究者に対しプラットフォームデータへの「有意義」なアクセス権が提供されること。(あるいは、レポートのタイトル通り:プラットフォームガバナンスにおける研究アクセスの運用:他の業界から何を学ぶか?)

「その他の多くの業界(食品、輸送、消費財、金融など)には、説明責任と公益を実現するための厳格な透明性ルールが適用されています。COVID-19が大流行し、私たちは仕事、教育、人とのつながり、ニュース、メディア消費においてオンラインプラットフォームへの依存度を強めています。そんな時節だからこそ、透明性のルールをオンラインプラットフォームにも適用する必要があります」と、Jef Ausloos(ジェフ・オスルース)氏はTechCrunchに語っている。

同レポートの執筆者らが読者として想定しているのは、ガバナンスフレームワークをいかに効果的なものにするかを熟考中の欧州委員会の委員である。レポートでは、独立したEU機関が、データを公開する企業とデータの受け手との間を仲介する形での、義務的データ共有フレームワークが提案されている。

もちろん、こうしたオンライン管轄機関が検討されたのは初めてではないが、ここで提案されているのは、欧州で提案されている他のインターネット管轄機関よりも目的の点で限定的である。

レポートの要旨には、「この機関は、安全な仮想運用環境、公共データベース、ウェブサイト、フォーラムなどを含むアクセスインフラストラクチャを管理するとともに、開示にふさわしいデータを確保するため、企業データの検証および前処理に重要な役割を担う」と書かれている

オスルース氏は、このアプローチについてさらに踏み込み、現在の「データアクセス」に対する信頼の行き詰まりを打開するためには「二元的思考」から離れることが重要であると主張している。「開示vs不透明/不明化、とういう二元的思考ではなく、様々な度合いのデータアクセス/透明性を備えた、より繊細で階層化されたなアプローチが必要です。そうした階層化されたアプローチなら、データを要求する側のタイプや目的に合わせ柔軟に対処することができます。」

市場調査目的の場合は、極めて高いレベルのデータにしかアクセスできないが、学術機関による医学研究の場合は、厳格な要件(研究計画、倫理委員会審査による承認など)を満たすことを前提に、よりきめ細かいアクセスが与えられるというのはどうか、と彼は提案している。

「これを促進し必要な信頼を生み出すためには、独立した機関が間に立つことが必要不可欠なのではないでしょうか。私たちは、管轄機関の任務は特定の政策からは切り離されている必要があると考えています。その機関は、データ交換に必要な技術的・法的環境を整える、透明性/開示の促進者としての役割に集中すべきです。このようにして整えられた環境は、メディア/競争/データ保護/などの規制当局がその執行措置のために利用することができます。」

オンラインプラットフォームを監督する独立管轄機関設立に向けて多くの議論があるが、その中であまりに多くの任務と権限が提案されているため政治的コンセンサスを得るのが不可能となっているとオスルース氏は言う。透明性/開示に関し限定された権限を託された無駄のない組織こそ様々な反対意見を切り抜けられる、というのが彼の持論である。

Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)の悪名高い例が「研究のためのデータ」に大きく立ちはだかっているのは確かである。この企業は、ケンブリッジ大学の研究者を雇いアプリを使ってFacebookユーザーのデータを取得し、政治的な広告の対象を絞り込むという恥ずべき行為を行った会社として知られている。Facebookはこの大きなプラットフォームデータの誤用スキャンダルを平気で、データを開示させることを目的とする規制法案を撃退するための手段とした

しかし、Cambridge Analyticaの例は、透明性、説明責任、プラットフォーム監視の欠如が招いた直接的な結果である。また、データを使用された人々から政治的な広告の対象となることへの同意を得られていなかったことを考えると、もちろんこれは大きな倫理的失敗でもある。したがって、これはプラットフォームデータへのアクセスの規制に対する反論としては全く良い議論ではないように思われる。

自己本位のプラットフォームジャイアントがこのような「シャープではない」技術的論点を、ガバナンスに関する話し合いへの働きかけに使用しているのを受け、AlgorithmWatchのレポートは、こうした議論に対する歓迎の意を伝えるとともに、現代のデータジャイアントを管理する効果的なガバナンス構造をどう構築するかについて堅固な提案を行っている。

レポートでは、階層化されたアクセスポイントに関し、プラットフォームデータへ最もきめ細かいアクセス権が与えられる場合は、最も厳密な管理の対象となることが示唆されている。これは医療データモデルを参考にしたものだ。「ちょうどFindata(フィンデータ:フィンランドの医療データ機関)が現在行っているように、きめ細かいアクセスについては、独立機関により管理された閉鎖仮想環境でのみ有効にすることもできます」と、オスルース氏は述べている。

同レポートで論じられているもう一つのガバナンス構造は、European Pollutant Release and Transfer Register(欧州環境汚染物質排出・移動登録制度:E-PRTR)である。同レポートではこれを、透明性を奨励し、それによって説明責任を果たさせる方法を引き出すための研究事例として取り上げている。この制度はEU全域での汚染物質の排出報告を管理するものである。これにより専用のウェブプラットフォームを介して排出データを独立したデータセットとして自由に誰でも利用できる。

同レポートはE-PRTRについて、「一貫した報告の仕組みがあるため、報告されたデータに信憑性、透明性、信頼性があり比較可能であることを保証することができ、その結果信用を築くことができる。企業側はこれらの完全性、一貫性、信頼性の基準を満たすため、可能な限り最善の報告手法を用いるよう勧告されている」と述べている。

さらに、「こうした透明性の形式を通して、E-PRTRは欧州の企業に対し、一般社会、NGO、科学者、政治家、政府、規制当局へ向けた説明責任を課そうとしているのである」とも説明している。

EUの委員らは、ある特定のコンテンツに係る問題への説明責任を実現する手段として、少なくとも違法なヘイトスピーチなど論争の少ない分野で、法的拘束力のある透明性要件をプラットフォームに課す意思を表明すると同時に、(非個人的な)データの再利用を促進することにより、ヨーロッパのデジタル経済を活性化させる包括的な計画を打ち出している。

研究開発やイノベーションをサポートするために産業データを利用することは、野心的なデジタルフォーメーションの一環として欧州委員会が今後5年間で行おうとしている、テクノロジーを駆使した優先政策の重要施策である。

これは、EUの委員らがデータの再利用を通した研究を可能にする基本的なデジタルサポート構造を作るというより広い目標を推進していることを考えると、プラットフォームデータを公開させようとする地域的な動きは、説明責任を実現するだけにとどまらない可能性が高いことを示唆している。したがって、プライバシーを尊重する形でデータを共有するフレームワークを作り込むことができれば、公的機関により管理されたデータ交換をほぼ何もせずに可能にするよう設計されたプラットフォームガバナンス構造を欧州で実現する可能性は高いだろう。

「汚染に関する研究事例で扱ったように、説明責任を果たさせることは重要です。しかし、研究を可能にすることも、少なくとも同じくらい重要です。特にこれらのプラットフォームが現代社会の基盤を構成していることを考慮すると、社会を理解するためにデータを開示する必要があります」と、アムステルダム大学情報法研究所でポスドク研究を行っているオスルース氏は言う。

AlgorithmWatchのプラットフォームガバナンスプロジェクト責任者のMackenzie Nelson(マッケンジー・ネルソン)氏は声明の中で、「DSAに向け、透明性に関する措置を検討する際、システムを再発明する必要はありません。同レポートは、委員会がユーザーのプライバシーを保護しつつ、必要不可欠な研究を行うため主要プラットフォームのデータへ研究者がアクセスすることを可能にするフレームワークをデザインするにあたり、どのようにすべきか具体的な提案を行っているのです」と説明している。

レポート全文は、ここで読むことができる。

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カテゴリー:セキュリティ

タグ:プライバシー コラム

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(翻訳:Drgonfly)

eスポーツをオリンピック公式種目にすべき理由

編集部注:本稿を執筆したBrandon Byrne(ブランドン・バーン)氏は、コンテンツクリエイター、チーム、スポンサーをプログラム上で結び、拡張するテクノロジープラットフォーム、Opera Event(オペライベント)のCEO兼共同設立者である。Team Liquid(チームリキッド)のCFOと、Curse(カース)の財務担当VPを歴任している。

先日、ゲームウェブサイトPocket Gamer(ポケットゲーマー)で、eスポーツとオリンピックについて話し合うパネルディスカッションに出席した。新型コロナウイルス感染症の世界的大流行によって中止されているオリンピックを含む、スポーツイベントの穴をeスポーツが埋めることはできるかという点が議題に上った。

多くのeスポーツに関するパネルディスカッションと同様に、その議論は興味深い会話から始まった。いつもと異なっていたのは、会話のきっかけが典型的な「eスポーツは従来のスポーツにいつ追いつくのか」という質問ではなく、「eスポーツはオリンピック種目として選ばれるほど主流な競技になれるか」という質問であったことだ。質問の内容は少し異なるが、心情は同じだ。オリンピックはテレビ放映されるスポーツの看板イベントであり、eスポーツ企業もその輪に仲間入りすることを望んでいる。

実のところ、米国におけるオリンピックの視聴率は長期間にわたって比較的安定して下がり続けている。唯一、視聴率トップ5を記録したオリンピックは1992年のソルトレイクシティ冬季大会にまでさかのぼる。そして、高視聴率を得たのは米国で開催されたためであると推測される。近年は全体的に視聴者数が減少し続けており、オリンピックにはかつてのような威厳はもはやない。

また、広告主からすると、オリンピックのオーディエンスは徐々に価値が下がり続けている。視聴者の平均年齢が急速に上昇していることがその理由であり、この傾向は従来からあるスポーツほぼ全般に見られる。

従来からあるスポーツの大半はeスポーツよりも視聴者の平均年齢が高いと聞いても驚く人はいないだろう。しかし、実際のデータは驚異的だ。過去10年ほどの間で、視聴者の平均年齢が下がったプロスポーツは1種目(女子テニス)のみである。しかし、年齢が下がったとはいえ、女子テニスの大会を自宅から観戦する人の平均年齢は55歳なのだ。

eスポーツ視聴者の平均年齢は26歳前後である。これをマーケターの視点から考えてみて欲しい。従来のスポーツは、若い視聴者が圧倒的に少ないのだ。

それで、若者はどこへ?

若者がスポーツを観戦しない傾向が加速している原因は、単にミレニアル世代やZ世代の関心が薄れているからだけではない。アクセスのしやすさも問題になっている。

国際オリンピック委員会(IOC)は近年、ほとんどの若者がコンテンツを視聴する方法であるストリーミングでオリンピックを放送するよう決断した。だが、オンラインで30分以上視聴を続けるためには、ケーブルテレビ会社のアカウントからログインする必要があった。そして、多くのミレニアル世代はケーブルテレビを契約していないのだ。

それに加えて、IOCはイベントを報道するメディアに対しGIFの使用を「禁止」するというばかげた決断を下した。この決断は、これまでにあらゆる運営団体が取り組もうとしたことの中でも、最も愚かなことの1つだと言っていいだろう。まず、そんなものがうまくいくはずがない。そしてより端的に言えば、IOCが過去20年間にわたるメディアの進化について、いかに実態を把握できていないかを物語っている。

しかしバレーボールや棒高跳びの権利を所有する企業が存在しないオリンピックとは違い、eスポーツ企業はどの企業も、ゲーム自体に関連するIPを所有している。つまり、試合、プログラム、ライセンス権利などの代表権について意思決定を行う際、これまではIOCが自由裁量権を享受してきたが、eスポーツの場合にはそうはいかないということを意味する。

最後に、IOCが「暴力的な」ゲームをオリンピック種目に追加することに難色を示しているという点も注目に値する。IOCにとっては、今あるスポーツの仮想競技版が好ましいだろう。だが、eスポーツを少しでも知っている者ならば、eスポーツがそのように機能しないことは分かっている。良いゲームでなければeスポーツのロイヤルティには昇格できない。誰もプレイしないゲームを見たいと思う者はいないだろう。

次に、視聴体験はわかりやすいものでなければならない。World of Warcraft Arena(ワールド・オブ・ウォークラフト・アリーナ)は多くのプレーヤーを魅了するゲームだが、このゲームに詳しくない場合は、画面上のアクションを解説する神がかった実況者がいなければ、何が起きているのかを把握するのはほぼ不可能だ。陸上競技をeスポーツにしても、視聴者がそれを見たがることは期待できない。

IOCの解決策

IOCはこの数年の間、「若者」のスポーツを採用することによって若者の視聴者数が低下する傾向を食い止めようとしている。ここ数年でオリンピック種目に選ばれたのは次の5種目だ。

  • スポーツクライミング
  • サーフィン
  • スケートボード
  • 空手
  • 野球/ソフトボール

野球/ソフトボールはさておき、スポーツクライミング競技がFortnite(フォートナイト)やLeague of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)に匹敵するほど若者からの関心を引き出せると考えているのであれば、世の中の動向を把握していないにも程があるのではないだろうか。率直に言って、「若者を呼び戻す」方法を見つけようとしている老人が考えそうなことに思える。

IOCの名誉のために言っておけば、eスポーツの専門家やゲームパブリッシャーとのパネルディスカッションや会議を設け始めている。だが、こうした話し合いから得られる契約はこれまでIOCが得ていたものとは大幅に異なるものになるだろう。私には、先はまだ長いように思える。

先に述べたパネルディスカッションで、私は、eスポーツがオリンピックを必要とするよりももっと、オリンピックはeスポーツを必要としていると主張した。メディア企業は、いつまでも従来のスポーツの放映権に過剰な金額を支払い続けるわけではない。ある時点で視聴者の中に広告のターゲット層に当てはまるグループがいないことに気付き、去っていくだろう。

eスポーツがオリンピックから唯一学べることは、オーディエンスをマネタイズする優れた方法だ。オリンピックはその点に長けているが、eスポーツは現状、不得手としている。Goldman Sachs(ゴールドマンサックス)によるオーディエンスの規模とそのオーディエンスに基づくマネタイズを示すレポートでは、より世間に認知された同規模のスポーツリーグに比べて、eスポーツはマネタイズにおける指数が大幅に下回っていることを示している。eスポーツは、マネタイズの観点からは未熟であることは明らかだ。このチャートにはオリンピックが含まれていないが、オリンピックの指数はMLBのように、昨今の実態というよりも評判を売り物にして、eスポーツの指数をはるかに上回る結果になるだろう。

だが、IOCは行動を急ぐべきだ。eスポーツが優れたマネタイズ手法を理解するまでそう長い時間はかからない。そうなれば、メディアに強い影響力を持つeスポーツに、オリンピックが提供できるものはなくなる。

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(翻訳:Dragonfly)

ロボット系スタートアップが成功するには何が必要か

編集部注:本稿を執筆したRajat Bhageria氏は、Chef RoboticsのCEO兼、Prototype Capitalのマネージングパートナーである。


いたるところでロボットが活躍する時代が到来する―われわれはかつて、こう約束されていた。自動車を自在に運転できるロボットから、食器洗い、運送、料理、実験作業、法律文書の作成、芝刈り、帳簿の記帳、家の掃除まで、あらゆる作業を行える完全自律型ロボットが活躍するときが来る、と。

しかし現実には、ターミネーターやウォーリー、HAL 9000、R2-D2のようなロボットは存在しない。せいぜい、クリックする気にもならない広告が自動的に選別されてFacebook(フェイスブック)に表示されたり、夜更かしして鑑賞するほどの価値もないおすすめ映画がNetflix(ネットフリックス)で次々に表示されたり、iRobot(アイロボット)のロボット掃除機Roomba(ルンバ)が部屋を掃除したりする程度だ。

一体、どこで間違ってしまったのか。あの夢のロボットたちは今、どこにいるのだろう。

自らロボット開発企業を創業し(現在の社名はChef Robotics(シェフ・ロボティクス)、食品ロボット業界のステルス企業である)、Prototype Capital(プロトタイプ・キャピタル)というベンチャーキャピタルファンドを立ち上げて多くのロボット/AI関連企業に投資してきた筆者は、これまでずっとこの質問の答えを見つけようと、調査や考察を続けてきた。この記事では、その過程で学んできたことをまとめてみたい。

現状

まず第一に、ロボットは決して新しいものではない。実は、産業用の6自由度多関節型(6つのモーターが直列接続されている)ロボットアームが開発されたのは1973年頃のことで、今でも数十万台が稼働している。ただ、現在もその頃から何も変わることなく、厳密に管理されたファクトリーオートメーション環境で同じ作業を延々と繰り返しているというだけのことだ。このようなファクトリーオートメーション(FA)ロボットによって、FANUC(ファナック)、KUKA(クーカ)、ABB、Foxconn(フォックスコン)といった数十億ドル企業が多数誕生した(そう、これらの企業は自前でロボットを製造している)。どの自動車製造工場でも数百台(Tesla(テスラ)の場合、数千台)は動いている。FAロボットは本当によく働く。車一台分の大重量も持ち上げることができるし、ミリ単位の高精度な作業もこなせる。

もう少し全般的なことをいうと、現在、産業オートメーションの世界は完全成熟期に入っている。いわゆる「システムインテグレータ」が幾百社も存在しており、「(他に用途がない)極めて限定的な動作を数百万回実行するオートメーションマシンが欲しい。それができるシステムを作ってくれ」と頼めば、システムインテグレータは、いくらでも対応してくれる。Coca-Cola(コカ・コーラ)のボトル充填、Black & Decker(ブラック・アンド・デッカー)のドリル製造、Proctor & Gamble(プロクター・アンド・ギャンブル)のシャンプー製造など、一般的な製品の大半はこのような方法で製造されている。費用は100万ドル(約1億円)で完成まで1年待ちなんていう場合あるが、システムインテグレータに頼めば、ほとんどどんなシステムでも作ってくれる。このようなシステムの問題は、その大半がいわゆる「ハードオートメーション」であるという点だ。つまり、これらは電子機械工学システムであり、設計およびプログラムで指定されたとおりのインプットがあれば、寸分違わず動作する。しかし、例えばコカ・コーラの2リットルボトルを500ミリリットルボトル用の充填機に入れると、システムはたちまちどうしてよいかわからなくなり、正常に作動しなくなる。

もう1つ、多くの生産ロボットが稼働している分野がある(ただし、レコメンダーシステム、メールのスパム検出プログラム、写真アプリ用の対象認識システム、チャットボット、音声アシスタントといった、純粋にソフトウェアのみのAIエージェントは除く)。手術支援ロボットの分野だ。この分野の最大手企業の1つであるIntuitive Surgical(イントゥイティブ・サージカル、時価総額660億ドル(約7兆円))は、すでに約5000台の遠隔操作ロボットを製造設置した実績を持つ。ただし、これらのロボットは医師によって文字通り「遠隔制御」されるものであり、自律的に動作することはほとんどない。しかし、病院での死因のうち40%以上が医師によるミスに関連していることを憂慮して追加費用を支払ってでも手術支援ロボットによる手術を受ける患者が増えている。また、病院側もそのようなロボットを大量に導入しており、Verb Surgical(ヴァーブ・サージカル)、Johnson & Johnson(ジョンソン・アンド・ジョンソン)、Auris Health(オーリス・ヘルス)、Mako Robotics(メイコー・ロボティクス)など、この分野の大手企業がその流れに乗っている。

ファクトリーオートメーションロボットと手術支援ロボットの共通点として気づくのは、どちらも細部に至るまで管理および制御された環境で動作するという点だ。ファクトリーロボットは、実際には「考えている」のではなく、同じ動作を延々と繰り返しているだけだ。手術支援ロボットの場合、ほとんどすべての知覚、思考、および制御は人間のオペレータ(つまり医師)によって行われている。しかし、ファクトリーオートメーションロボットに自分で考えさせたり、手術支援ロボットに人間からの指示なしで判断させたりすると、システムはたちまち機能不全に陥る。

ロボットが増えない理由

ひとつはっきりさせておきたいのは、日常生活、つまりまったく制御されていない環境で動くロボットが今の世界にはまだ出現していない、という点である。日常の世界で動くロボットが存在しないのはなぜなのか。ロボットが活躍するディストピア的な未来の実現を阻止している最も大きな要因は何だろうか。ハードウェア、ソフトウェア、インテリジェンス、経済的な要因、人とロボットのインタラクションなど、さまざまな問題が考えられる。

この質問に答えるには、ロボットとは一体何なのかを理解しておくことが重要だ。文献によると、ロボットとは次の4つを実行するエージェントである。

  • 知覚する:何らかのセンサー(カメラ、LiDAR(光検出と測距)、レーダー、IMU(慣性計測装置)、温度センサー、光センサー、圧力センサーなど)を使って世界を知覚する。
  • 考える:センサーのデータに基づいて判断を下す。ここで登場するのが「機械学習」だ。
  • 行動する:判断に基づいて作動し、自分の周りの物理世界に変更を加える。
  • 通信する:自分の周りにいる他者と通信する(この部分はごく最近、モデルに追加された)。

この50年の間に、どの領域でも劇的な進歩が見られた。

  • 知覚する:カメラやその他のセンサー(LiDAR、IMU、レーダー、GPSなど)は劇的に価格が下落している。
  • 考える:Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)やGoogle Cloud Platform(グーグル・クラウド・プラットフォーム)などのクラウドコンピューティングにより、ソフトウェアを驚くほど安く構築できるようになった。しかも、こうしたクラウドコンピューティングサービスは従量課金制で利用できる。ゲーム用のグラフィックスカードに使用されていたGPU(NVIDIA製のものなど)が、機械学習アプリケーションに最適な並列処理の実行に利用されるようになった(今は、クラウド上でホスティングされているGPUもある)。旧来のパーセプトロン上にディープニューラルネットワークなどのアルゴリズムを構築することで、物体の認識や自然言語の理解だけでなく、新しいコンテンツの作成も可能となった。
  • 行動する:この領域がおそらく最も成熟していると思われる。ロボットの世界を大きく2つの分野、つまり、操作ロボット(人間が手を使うときと同じように世界とやり取りするロボット)の分野とモバイルロボット(歩く/動き回るロボット)の分野に分けられるとすると、自動車業界はモバイルロボットハードウェアにおけるほとんどの問題を解決してきたし、産業オートメーションは(物体の体勢は一定であるという条件下における)物体の操作に関する多くの問題を解決してきた。ロボット業界はハードウェアの製造には極めて熟達しており、基本的に何でも実行できるロボットを作るのに必要な基本ハードウェアはそろっている。
  • 通信する:2000年代および2010年代のインターネット革命やモバイル革命により、ユーザーインタラクションの世界は大きく進歩した。あまりにも劇的な進歩だったため、シンプルなUI(ユーザーインターフェイス)やUX(ユーザーエクスペリエンス)を提供していない会社の話など聞く気にもならない。この分野には、Jibo(ジーボ)、Anki(アンキ)、Rethink Robotics(リシンク・ロボティクス)といった今はなき企業が大きく貢献した。

以上からわかるように、純粋に技術的な観点から見ると(経済的側面および人とのインタラクションについては後述する)、知覚や行動は大きなボトルネックにはなっていないようだ。高性能で安価なセンサーは手に入るし、優れたアクチュエーション技術もある(これは産業オートメーションの寄与するところが大きい)。

したがって、問題は主に「考える」部分にある。University of Pennsylvania(ペンシルベニア大学)工学部の学部長でRobotics GRASP Lab(ロボティクス・グラスプ・ラボ)の創業者でもあるVijay Kumar(ビジェイ・クマール)氏によると、日常生活で働くロボットが現れないのは「物理世界が連続的であるのに対して、コンピュータの世界、つまりロボットの知覚と制御は離散的であり、現実世界は極めてあいまいで推測不能だからだ」という。言い換えると、ある操作ロボットがティーカップを持ち上げられるからといって、その同じロボットがワイングラスを持ち上げられるとは限らないということだ。大半の企業が採用している「考える」というパラダイムは現在、機械学習、より具体的にはディープラーニングの考え方に基づいている。このパラダイムの基本的な前提は、従来のコンピューティングにおける「プログラミング」のように何らかの入力を受け取りそれに基づいて出力を吐き出すのではなく、トレーニングデータという形でエージェントに大量の入力と出力の両方を与え、エージェント自体にプログラムを作らせるというものである。われわれが代数の授業で直線の式はy = mx + bであると習ったように、機械学習アルゴリズムにyとxを与えると、そのアルゴリズム自体がmとbを見つけることができる、というのが基本的な考え方だ(もちろん、式はこれよりはるかに複雑だが)。大抵の場合、このアプローチで目的はほぼ達成できる。

しかし、われわれが住むこの世界はとてつもなく予測不能であるため、「こうなったら、これを実行する」というトレーニングデータをいくら大量に与えてもうまくいかない。どれだけ多くのトレーニングデータを与えても、実世界に存在する、ありとあらゆるケースを予測することなどできないからだ。われわれは、自分が何を知らないのかを知らない。したがって、過去にエージェントに発生したことのあるケース、およびこれから発生するであろうすべてのケースについてのトレーニングデータが得られない限り、このディープラーニング型モデルでは完全な自律性を実現することはできない(起こり得るかどうか自分でもわからないことを予測することなどできるはずがない)。知的生命体としての人間は本当の意味で考えることができる。ディープラーニング型のエージェントは考えていない。パターンのマッチングを行っているだけだ。エージェントがそれまでに与えられたことのあるどのパターンにも一致しないケースに行き当たると、そのロボットは異常終了する(自律運転車両なら衝突事故を起こす)。

本当に使えるロボットを増やすために私たちができること

以上の理由から、ディープニューラルネットワークでは完全自律型システムはおそらく実現できないと思われる(OpenAI(オープンAI)などの企業がパブロフの報酬/罰則型学習アプローチを模倣した強化学習アルゴリズムに投資している理由もそこにある)。とはいえ、「完全自律型エージェントを構築するにはどうすればよいか」という質問自体が間違っているとしたら、ロボット系スタートアップは当座どうすればよいのだろうか。

完全自律性を追求しないという考え方を実証している企業がある。自律型の紙文書デジタル化に特化したスタートアップRipcord(リップコード)だ。本社はカリフォルニア州ヘイワードにある。今、企業はデジタル化したい大量の紙文書を抱えている。「大学まで出てホチキスの針を外す仕事をしたい人などいない」と同社のAlex Fielding(アレックス・フィールディング)CEOはいう。このニーズに応えるのがリップコードだ。デジタル化したい大量の文書をリップコードに送ると、ロボットセルがそれらの文書を取り込み、1枚ずつ取り出してはスキャナーに置いてスキャンし、元通りに積み重ねていく。工場でアレックスと話しているときに気づいたのだが、彼は「人間が行う作業を自動化する」という考え方には一度も触れなかった。「リップコードは人の作業効率を40倍にする」というのが同社のうたい文句だ。筆者はそれを実際にこの目で見てきた。リップコードの作業施設では、1人の作業員が4つのロボット作業セルを監視している。筆者の見学中に、超高速で書類の山を1枚ずつ処理していたロボットが、あるページまで処理したところで迷って停止したことがあった。すると、システムを監視していた作業員が見ている画面に、発生した問題を伝える明確な通知が表示された。作業員が10秒ほどで問題を手早く修正すると、ロボットは即座に復帰して次のページの処理を始めた。

「ロボット開発企業を成功させるためにはどうすればよいか」という質問を、「人間が行う作業を自動化するエージェントを作るにはどうすればよいか」ではなく、「人間の作業効率を40倍にすると同時に、人間の知性を利用してあらゆるエッジケースにも対応できるエージェントを作るにはどうすればよいか」という質問に置き換えてみたらどうだろう。人工知能のさらなる進歩を待つ間、当面はこのアプローチがロボット開発企業を成功に導く公式になりそうだ。

このアプローチを実証している企業がもう1つある。Kiwi Robotics(キウイ・ロボティクス)だ。カリフォルニア州バークレーに本社を置くキウイ・ロボティクスは、食品デリバリー用モバイルロボット「Kiwi(キウイ)」を製造している。しかし、CEOのFelipe Chávez(フェリペ・チャヴェス)氏は「当社はAI企業ではない。デリバリー企業だ」という。フェリペはキウイ・ロボティクスを創業したとき、高給取りの機械学習エンジニアを大勢雇うのではなく、ハードウェアプロトタイプを作成し、キウイを遠隔操作するための低レイテンシーソフトウェアを構築した。最初はすべての判断を人間がキウイに代わって行い、いずれは完全自律になるように徐々にアルゴリズムを構築していく、というのがフェリペの作戦だった。現在、キウイ・ロボティクスは(フェリペの出身地である)コロンビアに数十人の遠隔操作員で構成されるチームを置き、10万件を超える配達実績を持つ。1人の操作員が複数のロボットを監視しており、ロボットがほとんどすべての判断を行う。操作員は配達経路を修正するだけだ。対照的に、完全自律型ロボットに投資している競合他社の多くは、1000件の配達を達成するのにも苦戦している。[情報の完全開示:筆者は自ら立ち上げたファンド、プロトタイプ・キャピタルを介してキウイ・ロボティクスに投資している。]

この両社において最も重要な要素は、機械学習アルゴリズムではなく、マンマシンインターフェイスだ。昨今のロボット開発企業に欠けているのはこれではないだろうか。ドローンによる血液配送会社Zipline(ジップライン)の創業者で、ロボット工学の先駆者でもあるKeenan Wyrobek(キーナン・ワイロベック)氏によると、「『人件費削減』という宣伝文句は米国市場のビジネス経営者が使うには効果的だが、私はそういう考え方で失敗したロボット系スタートアップを数え切れないほど見てきた。設計・エンジニアリング担当チームには、システムを使う全ユーザーの生産性を上げることに注力させるべきだ。ロボット自体が優秀かどうかはどうでもよい。ロボットにはユーザー(セットアップ、再構成、トラブルシューティング、保守などの担当者)がいる。ユーザーの生産性のほうが重要だ。ユーザーこそ設計プロセスの中心に据えるべきである。そうでなければ、投資利益を達成するようなロボットを開発することなどできない」。

また、Bright Machines(ブライト・マシーンズ)のCEOでAutodesk(オートデスク)の元共同CEOのAmar Hanspal(アマー・ハンスパル)氏は、「ブライト・マシーンズもオートデスクもそうだったが、ロボット開発企業というのは初めに技術ありきでスタートしてしまい(ロボットは高度な技術でありワクワク感もあるので、技術自体が最終目的になってしまう)、解決しようとしている問題が二の次になる傾向がある。重要なのは解決しようとしている問題を明確にし、続いて、その問題を解決するための優れたUXを構築することである。ロボットは目的を達成するための手段であって目的そのものではない」と説明する。

日常の中で活躍するロボットを増やすために他にできること

ここまでで、ロボットが日常生活の中で活躍するようになると期待されながら、それが一向に実現してこなかった最大の理由の1つは、日常世界が極度に不確かで推測不能であり、ディープラーニングモデルに基づく人工知能でありとあらゆるケースに対応するのは不可能であるため、ということがわかった。したがって、ロボット開発企業が目指すべきなのはおそらく、人件費節約モデルではなく、「人間拡張」モデルだと思われる。Apple(アップル)とAirbnb(エアービアンドビー)がよい例だ。両社ともエンジニアリングではなく人間中心型設計を第一とする考え方を持ち、すばらしいユーザーエクスペリエンスを実現するために投資している。

以下、日常の中で活躍できるロボットを増やすためにできることを他にもいくつか挙げてみたい。

まずは、「製品を作る前に売る」ことだ。シリコンバレーのソフトウェア界では、Eric Ries(エリック・リース)氏の著書「リーン・スタートアップ」によって、「素早くローンチして、製品が市場にフィットするまで検証と学びを高速で繰り返す」という考え方が広まった。この考え方をソフトウェアスタートアップに適用すると、驚くほどうまくいく。しかし、ハードウェアおよびロボットの世界では事情が異なる。工学系の人材が多いスタートアップは創業当初、売ることについてはあまり考えず、エンジニアリングに集中し、とにかくロボットを作ることばかりに注力する。ロボットが完成すると、次は客先に出向いて売ろうとするのだが、顧客には「このロボットでは当社の目的を達成できない」と言われ、ランウェイの短いスタートアップは作り直す余裕がなく、そのまま破綻してしまう。そんなことが何度も繰り返されてきた。ソフトウェアスタートアップであれば、リーン・スタートアップ式のアプローチが機能する。なぜなら、クラウドのおかげでローンチにほとんど費用がかからず、現場で検証と学びを繰り返し、高速でデプロイできるため、シードラウンドでも目標達成まで5~6回は試行錯誤が可能だ。しかし、ハードウェアの世界では、開発に初期費用がかかり、デプロイにも時間が必要で、試作と検証を繰り返すサイクル期間も長いため、目標達成までに試せるのはせいぜい1~2回である。

誤解のないようにはっきりさせておくが、ハードウェアはロボット業界にとって大の得意分野である。しかし、ソフトウェア中心型のシリコンバレーにとってはそうではない(アップルとテスラは明らかな例外だが)。おそらくロボット系スタートアップが破綻する原因の1つは、作る前に売るという考え方が欠如していることだ。典型的な例を1つ挙げよう。Boeing(ボーイング)社は、Pan Am Airlines(パンアメリカン航空)の伝説的創業者Juan Trippe(ファン・トリップ)に機体を売り込む際に、「こちらがBoeing 747です。お気に召しますでしょうか。ダメですか。承知しました。では持ち帰って作り直してきます。…(作り直してきたものを見せて)こちらでいかがでしょうか」などとは言わなかった(つまり「リーン・スタートアップ」式の検証と学びの繰り返しは行わなかった)。その代わり、ボーイング社はパンアメリカン航空が望む機能をすべて装備した機体十数機の前払い注文を取り付けた。これでボーイング社は、最初からパンアメリカン航空の意に沿った機体を作ることができたのだ。言い換えると、ボーイング社は機体を作る前に売っているのである。システムインテグレータも何かを作る前には必ず受注を確定させ、前払い金を支払ってもらう。ハードウェア企業や政府の軍事部門もやはりそうだ。ロボット開発企業も、Bill Gates(ビル・ゲイツ)の先例に倣って、MS-DOSを書く前にMS-DOSをIBMに売るのと同等の戦略を取ればよい。

作る前に売ることには、ユニットエコノミクス(ビジネスの最小単位1個あたりの収益性)が適正かどうかを素早く確認できるという利点がある。ロボット産業は、技術的なリスクだけでなくユニットエコノミクスのリスクも抱える分野の1つだ。制約がある環境下でもすばらしいアイデアを思い付き、試作機を作り、ベンチャーキャピタルから出資を受け、優れたマンマシンインターフェイスを構築したのはよいが、採算が取れずにやはり破綻していった企業は多い。作る前に売ることで、自社の経済状況だけでなく顧客の経済状況も分析して、折り合いを付ける必要がある。作る前に売ろうとして誰も欲しがらない場合は、「そのようなプロダクトは完成したとしても顧客は買ってくれない、だから次のアイデアに進もう」という決断を、極めて低リスクのうちに下せる。

エコノミクスの側面をより全体的に考えると、前払いモデルからRobotics as a Service(サービスとしてのロボティクス、RaaS)モデルにシフトする必要があるだろう。ロボット製品を購入する企業の多くは利益率が非常に低く、たとえ1~2年で投資を回収できるとしても、システムに10万ドル(約1100万円)を超える額を前払いする余裕はない。さらに悪いことに、「すでに機能しているものがある」ときに何かを変えるための行動を起こすには多大のエネルギーが必要であるため、よほど強力なインセンティブがないと購入に踏み切れない。そのため、大抵の顧客はロボットの導入をあきらめ、結果としてロボット開発スタートアップは破綻する。ここで手本にできるのが太陽電池業界の例だ。太陽電池の収益モデルは多くのマイホーム所有者にとって大変説得力のあるものだが、2000年代のかなり長い間、太陽電池の設置台数は低迷していた。なぜだろうか。多くの米国人にとって、太陽電池導入の初期費用は、たとえ数年で採算が取れるとしても負担が大きすぎたためだ。太陽電池業界の転換点は、技術ではなく収益モデルの改革によって訪れた。Solar City(ソーラー・シティ)、Sunrun(サンラン)、Sun Power(サン・パワー)などの企業が、顧客側の初期費用はほぼゼロで太陽電池を設置し、発電された電気の料金をPPA(電力購入契約)に基づいて1キロワット時単位で支払ってもらうという革新的な収益モデルを導入したのだ。同じことはクラウドコンピューティングによるイノベーションにも当てはまる。OracleやSAPを使うために多数のサーバーを自社で購入する代わりに、サーバーを「使った分だけ支払う」(従量課金)モデルを、Salesforce(セールスフォース)などの企業が考案した。ロボット開発企業が成功するには、収益モデルを工夫することが必要である。そうすれば、顧客側の初期費用をほぼゼロに抑えて、使った分だけ支払ってもらうことができる(ロボットの稼働時間分、スキャンした紙の枚数分、洗った皿の枚数分、走行距離分、出荷した積荷のキロ数分、等々)。

作る前に売ることには、ハードウェアを作っている最中でも現場で常にテストできるという利点もある。「デプロイ後に検証と学びを繰り返す」というのは従来、ソフトウェアが持つ利点だった(ただしAppleはMacのハードウェア開発をローンチの5~7年前に開始することが多い)。すでに受注契約が成立しているため、顧客自身もそのプロダクトを機能させることに強い関心を持つことになる。成功事例が非常に多い1つの戦略として、創業初期は顧客にアドバイザー株を提供して、そのプロダクトを経済的にも技術的にも軌道に乗せるために開発側と協力していこうという強いインセンティブを顧客に与えるという方法がある。

しかし、何もかもソフトウェア界の流儀に倣う必要はない。昨今のシリコンバレーでは、VCの大半がハードウェア偏重のロボット系スタートアップへの出資に二の足を踏む傾向がある。彼らは「もっとソフトウェア的なアプローチを取ってもらえれば出資する」と言う。このため、多くのロボット系スタートアップがほぼ100%市販のハードウェアを使い、持てる力のすべてをソフトウェアに注ぎ込もうとする。それでうまくいくロボット導入事例もある。しかし実際には、ハードウェアのエラー発生率はソフトウェアよりもずっと低い。ハードウェアは何千年も前から存在しており、ハードウェアに比べればまだ発生初期であるコンピューティング時代よりも、われわれはその扱いに習熟している。多くの場合、ハードウェアの問題解決能力はソフトウェアよりもずっと高い。例えば、ビンピッキングの例を考えてみよう。現在、数十社のスタートアップが大手VCから数億ドルを調達し、容器から物体を取り出して置くことができる汎用的なビンピッキング機能を実現するためのディープラーニングおよび強化学習システムを開発している。一方、筆者はラスベガスで開催されたPACK Expoで、Soft Robotics(ソフト・ロボティクス)という企業を見つけた。この企業はほぼ完全にハードウェアベースのアプローチでビンピッキング機能を実現している。コンピュータビジョンをまったく使わない新型のグリッパーで、物をつかんで置く動作を見事にこなす(コンピュータビジョン系スタートアップのロボットよりもずっと安定している)。もちろん、ソフトウェアとトレーニングデータで性能向上を図ることは重要なのだが、もっとシンプルで堅牢な解決策があるのに、なぜわざわざ複雑な方法で問題を解決しようとするのだろうか。ハードウェアから逃げるべきではない。ハードウェアの使い方を考え直せばよいだけだ。

一般的に、シリコンバレーのVCは、「10億ドル(約1100億円)の価値が見込めない会社は、経営する価値もなければ、投資する価値もない」という考え方を生み出した。このため、ロボット開発企業の創業者はVCから資金を調達しようと、想定されるあらゆる顧客が使える汎用的な技術を創り出そうとする。その結果、VCを説得して出資を取り付けたとしても、結局1人の顧客も本当に満足させることができない製品ができあがることになる。今でこそ一流と呼ばれる企業も、創業当初は本当に小さな市場で勝負していた。さまざまな側面を持つこの現実世界で汎用的に使えるロボットを、創業初日から作ろうとするのが間違いなのだ。それよりも、最初は1、2社にターゲットを絞り込み、そこだけに注力することが重要だ。その顧客の問題を解決できたら、他の顧客もおそらく同じようなものを求めていることに気づくだろう。ロボット開発企業の場合、創業当初はおそらく、消費者向けまたは企業向けソフトウェアの開発企業ほど短期間で急成長することはないだろう。これには前例がある。実は、Intel(インテル)とパソコンが登場する前の時代には、今のオートメーションシステムインテグレータとよく似たやり方でコンピュータビジネスが行われていた。例えばミサイルの軌道計算など、1つの機能だけに特化した専用コンピュータの開発をエンジニアリング会社に依頼すると、100万ドル(約1億円)の費用と半年ほどの納期で、部屋を占領するくらい巨大なコンピュータが納品されていた。コンピュータ業界も最初は成長が遅くて拡張性もなかった。ロボット業界も最初はそうなるだろう。それでよい。数十億ドルの利益を回収できる可能性は十分に残っている。

成功するロボット系スタートアップを作る方法の最後の点は、消費者向けB2C企業を設立するのではなく、垂直型B2Bのソリューションを売る(つまり、ドリルを売るのではなく、「壁に空けた穴」を売る)ことだ。B2C企業の将来性には限界があった。では、自社の技術が既存の顧客に受け入れてもらえない、あるいは採算が取れないのであれば、自社で開発した技術を自社が顧客になって使えばよいのではないか。結局のところ、自社の技術が他社より優れているのなら自力でも利益を出せるだろうし、それに、環境も管理できるため技術的にも容易になるはずだ。かつて革新的な高頻度取引(コンピュータと独自のアルゴリズムを持つプログラムを用いて毎秒何百回にも及ぶトレードを自動的に行うこと)企業が、自社技術を他のヘッジファンドに売る代わりに自分でヘッジファンドを設立したことがあったが、要はそれと同じ考え方だ。われわれはこれまで、B2Cのロボットレストラン、AIを構築して自動化を図ったエンドツーエンドの法律事務所、ロボットが消費者を接客するカフェなどが失敗した例を見てきた。問題は2つあった。1つは、レストランのようなB2Cビジネスの大半はうまくいかず、スタートアップも大半は破綻するが、両方やるのは、ランウェイが制限されているスタートアップには難易度が高すぎるという点。もう1つは、こうしたブランド店が成功しなかったのは技術が機能しなかったからではなく、その消費者ブランドが弱かったからという点だ。高度な技術製品を作るために必要なチームと消費者ブランドを作るために必要なチームはまったく異なる。よくあるのが、技術は機能していても、ブランドが弱いため、顧客は一度来店して写真くらいは撮るが、リピート率が悪く採算が取れるレベルまでには至らないというケースだ。同じことが教育関連ロボットや「おもちゃ」のロボットにも当てはまる。こうしたロボットは「格好いい」けれど、そのようなロボットを売る会社が安定して継続的に利益を上げた例はない。なぜなら、そのようなロボットは「あれば格好いい」けれど「どうしても必要なもの」ではないからだろう(今回のコロナ禍のような経済的危機が起こると誰もそんな製品は欲しがらない)。

ちょうどAWSが昨今のインターネット企業の成功をサポートするプラットフォームとなってきたように、最近、ロボット開発企業の成功をサポートするプラットフォームが構築されているようだ。これも一見すばらしいアイデアのように思えるが、AWSとは大きく異なる点がある。AWSの場合、プラットフォームが登場するより前にはすでに、すばらしいビジネスを構築し、より優れた製品を開発するためにAWSに料金を支払う余裕のあるソフトウェア企業が数多く存在していた。しかし現在、ロボティクス分野でそのようなB2Bプラットフォームを機能させるには、十分に収益を上げているロボット開発企業の数が明らかに足りない。iPhoneのキラーアプリが豊富にあってはじめてApp Storeというプラットフォームが意味をなすのと同じだ。

間もなく急発展しそうな分野

ロボット開発企業が選択を間違いかねないポイントがこれほど多いと、日常生活でロボットが活躍するようになるまでの道のりはまだ遠い。以下に、今後2~4年ほどの短期間で日常的に見かける機会が今より増えそうなロボットのタイプをいくつか挙げてみたい。

より自律性の高いファクトリーオートメーションロボット。ファクトリーオートメーションの場合、顧客はすでに存在する。システムの自律性をさらに向上させる優れた技術が開発されれば、導入を希望する顧客は大幅に増えるだろう。

半自律型遠隔操作ロボット。手術支援ロボット、テスラのオートパイロット、キウイなどと同じように、一部自律型で、人間を置き換えるのではなく、人間拡張を目標とするロボット開発企業が大幅に増えるだろう。

工場に似た環境で動くマニピュレーション(作業)ロボット。2015年にグーグルが自動運転車に投資したことが大きなきっかけとなって、VC各社が「これからは自動運転だ(driving is driving is driving)」と考えて、自律運転車に数億ドルを投資した。1つの街で1台の車の自律運転を実現できれば、それを広く展開することは極めて容易だろう。現在、自律運転車の開発はちょっとした冬の時代に入っており、次にすべきことについて何かアイデアを持っている企業はほとんどない(現実世界があまりにもランダムで予測不能なため、ディープラーニングでは対応できないことがその主な理由だと考えられる)。一方、後れを取っていたマニピュレーションロボット開発が今、勢いを取り戻しつつある。というのは、自律運転車の開発企業を辞めるエンジニアが増えており、彼らは、もっと近い将来に実用化できるものを探し求めているからだ。マニピュレーションロボットのシステムは細部まで制御された環境で動くことが多く、これから数が増えると思われる(ブライト・マシーンズのMicrofactories(マイクロファクトリーズ)やAMP Robotics(AMPロボティクス)のリサイクル仕分けロボットなど)。

同じように、現在、「クラウドへ移行する」動きが進んでいる。考えてみてほしい。第一次産業革命が起きるまで、織物は家庭で作られていた。しかし、織物の生産を工場で集中的に行えば、スケールメリットを生かせることが発見された。その結果、織物を家庭で作る人はほとんどいなくなった。これを現在の状況に当てはめて、日常のありとあらゆる作業が「クラウド」へと移行した世界を想像してみてほしい。料理、食器洗い、洗濯、衣類の折りたたみなどの家事は、集中ロボット施設を使って代行してくれる人に委託できる。そのような世界なら、ロボットが最も効率よく働ける環境(工場)で、という条件付きではあるが、日常生活の中でロボットが活躍する機会はいくらでもある。

そうなると、人が自宅で行う家事はおそらく掃除くらいになるだろうが、そこにも、部屋の掃除、芝刈り、屋内モール清掃や他のB2B用途、屋外の雪かきなど、掃除ロボットシステムが活躍する機会はいくらでもある。

ロボットの未来にはまだまだ大いに期待できるし、その未来は確かに実現可能なものだ。作る前に売る、早期に低リスクでユニットエコノミクスを健全化する、現場で頻繁にシステムをテストする、早期の顧客にアドバイザー株を供与して作る側と同じインセンティブを与える、汎用的なロボットを作るのではなく特定の顧客の問題を解決するロボットを作る、ロボットを単にソフトウェアとして考えるのではなく、優れたハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして考える、垂直型のB2Bアプリケーションを追求する、といった点を実践することが役に立つ。より広い意味では、何でもソフトウェア事業と同じ考え方で対応するのではなく、今こそ問題へのアプローチ方法を一から考え直すべき時期なのかもしれない。

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(翻訳:Dragonfly)

米ベストセラー作家が語る、テック業界における人種差別

「多くの人がテクノロジーの分野における人種と人種差別について話すことの価値を過小評価しています」。そう話すのは『So You Want to Talk About Race』の著者、イジェオマ・オルオ氏である。この本は、2018年1月の初版発行から2年半で、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストのペーパーバック・ノンフィクション部門でトップに躍り出た。「人種や人種差別について話すのに、テクノロジーほど重要な分野はないと思います」と同氏は続けた。

オルオ氏と私がOne Cup Coffeeで話をしたのは、世界的パンデミックが発生する直前の1月のことだ。教会と店先を共有するこのOne Cup Coffeeは、メタドンクリニックのすぐそばにあり、余分なサービスを提供せずに「単なる利益以上のもの」を追求するコーヒーショップである。このカフェは、ワシントン州シアトルのすぐ北に位置するショアラインにあるオルオ氏の自宅からほど近い場所にある。

「私はWeb上で、アメリカにおける人種と人種差別に関する最高と最悪を見てきました」とオルオ氏は続ける。「私と私が愛する人たちは、Web上で実際に影響を受けてきました。(インターネットは)対面の空間と同じくらいリアルな空間です。私たちは、互いの見方や付き合い方がインターネットによってどのように影響を受けるか、そして不平等と不公正の問題にどう対処するかについて、必ず政治的、社会的に考えてみる必要があります」

私はシアトルの高級住宅地で、拡張を続けるAmazon(アマゾン)本社キャンパスについて調査してきた。同社のキャンパスは、建物の豪華さという点で、私が牧師として勤務するハーバード大学とMITの2つのキャンパスを凌駕している。その高級住宅地からショアラインまで車で移動するには、おそらく今まで見た中で一番大きなホームレスの野営地のすぐ近くを通らなければならなかった。私は、宗教がそれぞれ異なる学生たちで構成されるグループを率いて、ホームレスの大規模な野営地で勉強やボランティアを行ったことがある。

宗教と信仰についていえば、オルオ氏との90分間にわたる会話は、無神論者、不可知論者、および信仰心を持たずに善を行い有意義に生きようとする人たちによる半組織化された運動である「ヒューマニズム」への共通の関心をきっかけとして始まった(主な内容は以下に記載している)。私はハーバード大学とMITでヒューマニズムに基づく牧師として勤務しており、宗教に代わる一種の世俗的な選択肢としてヒューマニスト哲学について執筆している。

オルオ氏は、2018年にアメリカのヒューマニスト協会からフェミニストヒューマニズム賞を受賞した。同氏は、観衆のほとんどが自らを聡明で寛大だと考えがちな白人リベラル派という中で受賞スピーチを行った。彼らは黒いテーブルクロスの上の白い皿に盛りつけられた鶏の胸肉を食べながら、ロールパンとバターを忙しく回し、誤って水飲みグラスをカチンと鳴らしていたとき、同氏が「腰を下ろしてください」と言ってスピーチを始めてもうまく受け流していた。しかし、オルオ氏が「私が皆さんに求めるのは、他人がもたらす害をいつも探すことではなく、自分がもたらす害を探すことです」と話したとき、私の友人Ryan Bell(ライアン・ベル)が当時ツイートしたように、「そこは水を打ったように静まりかえった」。

ここで今年の1月に話を戻そう。コーヒーと紅茶を飲みながら、私はTechCrunchの「Ethicist in Residence(倫理学者・イン・レジデンス)」として1年余りにわたって執筆してきた論文についてオルオ氏に話した。その内容は、私たちが「テクノロジー」と呼ぶ世界はどの業界よりも大きく成長し、単一の文化よりも大きな影響力がある。テクノロジーは世俗的な宗教となった。おそらく人間がこれまでに作った最大かつ最も影響力のある宗教である、というものだ。

以下に続く内容からわかるように、オルオ氏は親切にもこのアイデアを大目に見て楽しんでくれたようだ。そしてとっさに、考えられるいくつかのテクノロジーと宗教の比較について話してくれた。このような話だ。

テクノロジーと多くの宗教の根本的な共通点の1つは、少なくともアメリカでは、テクノロジーは白人男性が考えるユートピアであるということだ。テクノロジーにおいては特に、白人男性のユートピアビジョンに対するカルト的な支持があり、根本的に女性や有色人種の権限を奪い、脅かしている。

私は自分自身をこのテクノロジーという新しい宗教に対して不可知論者(必ずしも無神論者ではない)であると考えている。なぜなら伝統的信仰を見ようとしていた方法で(状況に応じて善と悪の両方を行えるものが入り混じったものとして)テクノロジーも見たいからである。しかし、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のような超億万長者の起業家がますます権力を強めるとき、ソーシャルメディアの誤った情報が民主主義の運命を左右する一方で人工知能が司法制度に介入するとき、そして現在のパンデミックによって私たちの生活がますますオンライン化するとき、私自身が「予言」と言っているものを見直さざるを得なくなるのではないかと思うことがある。注意を怠れば、テクノロジーは史上最も危険なカルトになるかもしれない。

以下のインタビューの前にもう少し詳しく状況を説明すると、オルオ氏と私はこの記事(原文)のタイトルを同氏の著書と同じタイトルである「So You Want to Talk About Race in Tech」にすることで合意した。同書はすでにヒットしていたが、George Floyd(ジョージ・フロイド)氏の死を受け、今では全米で象徴的な地位を獲得している。

この記事は、私がTechCrunchのために執筆してきた約1年におよぶシリーズの最終回であり、テクノロジーの倫理における人と課題について詳細に分析する。これまで編集者と私は文字数15万にもおよぶ38の記事を作成してきたが、そのほとんどが、期せずしてテクノロジーの新たな世界の倫理を改革し再考するための取り組みを主導している女性と有色人種を紹介したものだ。

このシリーズでは、Anand Giridharadas(アナンド・ギリダラダス)氏とのインタビュー「Silicon Valley’s inequality machine」、Taylor Lorenz(テイラー・ローレンツ)氏とのインタビュー「the ethics of internet culture」、James Williams(ジェームズ・ウィリアムズ)氏とのインタビュー「the adversarial persuasion machine」を取り上げている。とりわけ、ジェームズ氏とのインタビューは、同氏の前雇用主Googleによる取り組みを取り上げたもので、これは私たちをひどく混乱させた。

シリーズの特集では、CEOと投資家が幼少期のトラウマを話したうえで、自らが生み出したものの道徳的価値について議論する。また、従業員ギグワーカーが、権力を握る雇用主について痛ましい真実を語る。さらにテクノロジーフェミニズム交差性社会主義に関する知見に加えて、業界における虐待荒々しい入国管理政策に立ち向かう勇敢な取り組みについても深く踏み込んでいる。

それではオルオ氏とのインタビューを紹介しよう。前述のとおり、このインタビューは現在の危機が発生する数週間前に行われたものだが、その内容は今こそ重要なものとなっている。自称「億万長者」の投資家であり、オルオ氏と同じ週に会ったもう一人のシアトル在住者、Nick Hanauer(ニック・ハナウアー)氏の言葉を借りれば、不満の矛先がいよいよアメリカの富豪に向けられた。端的にいえば、この国で白人の仲間や私が人種や人種差別について話すのは、人種差別に対して敏感だからでなく、この世界を「より良い場所」にするために行えるすべてのことをやりたいからでもなく、どうしてもそうしなければならないからである。Kim Latrice Jones(キム・ラトリス・ジョーンズ)氏が今の時代を象徴する自身の拡散動画で言っているように、「幸いにも、黒人が求めているのは復讐ではなく平等である」。

テクノロジーの世界ではおそらくいっそう、そう言えるだろう。今のところ私たちの近隣やオフィスがすべて文字通り炎上しているわけではないかもしれない。しかし炎上する可能性があるテクノロジーの世界は、失うものが最も多いのだ。テクノロジーは、新型コロナウイルス感染症やそうした不満による影響も受けることはない。もし黒人が今後数年間のうちに、テクノロジー業界でさらに持続可能な形の平等を実現できなければ、復讐が次のゴールポストになるかもしれない。そして復讐は正当化され得るのだ。

しかし私は、そこに向かいたい人は誰もいないと信じている。かつてMalcolm X(マルコムX)氏は、Martin Luther King, Jr(マーティン・ルーサー・キング・ジュニア)氏がバーミンガムの刑務所に収監されていたとき、Coretta Scott King (コレッタ・スコット・キング)氏を訪ねて次のように言った

キング婦人、キング牧師に話してくれませんか… 私は彼の仕事をもっと困難にするために来たのではありません。白人が別の選択肢は何かを理解すれば、キング牧師の話に耳を傾けてくれると思うのです。

現在では、MLKはほぼ文字通りの公民権運動の神になっているが、それは当然のことである。しかし私たちはいつか、願わくばこれから長く平和な時代の中で、少なくともキング牧師に匹敵するほどの影響力とインスピレーションを持つイジェオマ・オルオ氏の人生と仕事を、同氏の幾人かの仲間(その多くが黒人女性)と併せて振り返ることができるかもしれない。

一部の読者は、オルオ氏が伝えることを心ならず受け入れる必要があるかもしれないが、同氏のビジョンは今後数年間の成り行きに関するさらに楽観的な選択肢であることを覚えておいていただきたい。

では、オルオ氏に話を聞いてみよう。

編集者注:このインタビューは読者の理解を助けるための編集がなされている。

Greg Epstein(グレッグ・エプスタイン):これまで仕事においてどの程度テクノロジー業界に関わってきましたか。特に著書『So You Want to Talk About Race』が出版されてからはいかがですか。

イジェオマ・オルオ氏:私はテクノロジー産業の中心都市、シアトルで育った黒人女性として本書を執筆しました。執筆活動をする前は、テクノロジー業界で10年以上働いていました。つまり私の本は、人種や人種差別を超越したと考えられていながら明らかにそうではない環境、さらに有色人種、特に有色人種の女性が極めて少数派である環境によって大きく形付けられています。

そのため、テクノロジーについて語っていないときでも、本書の中ではテクノロジー業界が大きな存在感を放っています。なぜならテクノロジー業界の多くの人が、本書で使われている例の中に自分自身や同僚がいることを認識したからです。

私が行った講演の中で最も再生回数が多かった動画の1つは、おそらくGoogleで行ったものでしょう。テクノロジー業界の多くの人、特にここシアトル在住の人は、「ああ、彼女はここに住んでいるんだ。これを読んでみよう。人種や人種差別についていえば、今年はこの本を読むことにしよう」というように、すぐにこの本を読みました。

しかし私はテクノロジー分野に足を踏み入れるとき、この分野をリベラル派の白人優位の分野と同じように考えます。つまり私がその分野においてできることは非常に限られています。私ができる最大限のことは、その業界にいる最も少数派の有色人種が感じ、経験していることを補強することです。なぜなら私は、他の講演者では経験し得ないほどの少数派としての人生を生きてきたからです。

[テクノロジーに関連する本というアイデア]についても同様です。なぜなら私は黒人女性として、作家として、もしソーシャルメディアがなかったら、ソーシャルメディアにアクセスできなかったら、今の私はいなかったからです。

一方で、[ソーシャルメディアがもたらす]代償と、まさに同じこのソーシャルメディアで、テクノロジーを通じて、大きな場ではないにせよ、特に有色人種、有色人種の女性、LGBTQコミュニティを憎み、差別し、虐待する場が提供される方法については、議論する必要があります。

多くの人がテクノロジーの分野における人種と人種差別について話すことの価値を過小評価しています。私は人種や人種差別について話すのに、テクノロジーほど重要な分野はないと思います。私はWeb上で、アメリカにおける人種と人種差別に関する最高と最悪を見てきました。私と私が愛する人たちは、Web上で実際に影響を受けてきました。Webは対面の空間と同じくらいリアルな空間です。私たちは、互いの見方や付き合い方がWebによってどのように影響を受けるか、そして不平等と不公正の問題にどう対処するかについて、必ず政治的、社会的に考えてみる必要があります。

エプスタイン:非常にうまくまとめてくれました。テクノロジーは最高でも最悪でもあります。と言うのは、私はBlack Twitter(黒人ユーザーで構成されているTwitter)から非常に多くのことを学び、大きな力をもらいました。それからWhite Supremacist Twitter(白人至上主義のTwitter)もあります。またWhite Supremacist Lite Twitter(白人至上主義のライト版Twitter)のようなものもありますね。

オルオ氏:[テクノロジーを]宗教のように見るという[エプスタン氏の]話は興味深いですね。テクノロジーと多くの宗教の根本的な共通点の1つは、少なくともアメリカでは、テクノロジーは白人男性が考えるユートピアであるということだと思います。テクノロジーにおいては特に、白人男性のユートピアビジョンに対するカルト的な支持があり、根本的に女性や有色人種の権限を奪い、脅かしています。

エプスタイン:そのイメージが気に入りました。私とブレインストーミングをしていただけませんか。 テクノロジー業界の文化で見られる白人男性のユートピアビジョンには、どのような特徴があるのでしょうか。

オルオ氏:ユートピアはテクノロジー業界の文化の中心にいる白人男性の戦いの神話化から始まります。この考えでは、こうした男性はゼロからモノを築き上げた落ちこぼれで、孤立した存在です。また、行く手を阻む問題を解決しようとします。これが彼らのサクセスストーリー、エリートコースの驀進です。では、彼らの行く手を阻むものは何でしょうか。有色人種、彼らとベッドを共にしない女性、自動的に手に入らない人気と富、白人男性が持つスキルを誰が持っているかという判断基準で新しい階級構造から白人男性を遠ざけている古い階級構造でしょうか。

こうした考えを中心に作られた神話は非常にカルト的で非常に宗教的であるように感じます。この起源を伝える物語の一部始終は真実ではありません。

テクノロジーにおける最も大きな進歩の誕生に目を向けるなら、過剰な多くの権限があること、ルールがあるという考え、純粋に優れたメリットもあること、物事を変革するこの分野において出世するために行えることが見えてきます。そしてテクノロジーの分野で「採用基準はコーディングの腕前です」と言っているのは、実はこうした人たちです。このような人よりもうまく議論することができるでしょうか。

テクノロジー業界でまず行うことは、白人男性を根本的に中心に据えることです。そして目標は白人男性の昇進です。有色人種はそれをサポートすることも、模倣することもできます。あるいは彼らが克服すべき障害になることもできます。テクノロジー業界では誰もが成功できるという議論があります。そう言う人たちは成功への境界線をすべて取り払いました。しかし実際は自分たちの個人的な境界線を動かしただけで、有色人種と女性の境界線はすべて残したままにしています。起源を伝えるこの物語では、有色人種と女性は道具として存在しているに過ぎないからです。

私が笑ってしまうのは、教義の中でテクノロジーと同じくらいよく語られるのは変化と適応であるということ、彼らが実際の変化、特にイデオロギー的な変化に対してどれほど徹底して閉鎖的かということ、室内を見渡して自分と同じような人がいないことをどれほど恐れるか、そして物事を徹底的に突き止めて、これはうまくいっただろうかと尋ねることをどれほど怖がっているかという点です。

現在テクノロジー業界の多くの人が革新的と呼んでいるものに、革新的なものはありません。そして「私たちは、2000年前のルールにまだ固執しているのか。変化と進歩をまだ恐れているのか」といった、人々が組織化された宗教に対して抱く多くの不満は、すでにテクノロジー業界でも見られています。そして[テクノロジーのリーダーが]「いえいえ。これは従来どおりの方法です」と言っているのを目にすると心配になり、この業界はどれほど新しいのだろうかと考えます。

それでは変化が入り込む余地はどこにあるのでしょうか。私たちは試作段階を続けながら、「これは従来どおりの方法です」と言っているのでしょうか。この20年~30年間は何だったのでしょう。おかしな話ですよね。

しかし、白人男性が[ここ20~30年間の現状を]擁護するときの情熱、また変化に対する脅威を語る様子は、宗教的な情熱、インターネットを立ち上げた同じ情熱があることを目にしてきました。宗教を超えた人々についてもそう言えます。

エプスタイン:テクノロジー業界における自身の仕事について、どの程度まで公に話したり書いたりしていますか。

オルオ氏:私は[テクノロジー業界での自分の経験については]あまり書きません。私の著書には、仕事についての逸話が多少含まれています。仕事について書くときは、テクノロジー業界について書いている可能性がありますが、具体的ではありません。

間違いなく言えることは、私はこれまでの人生で、テクノロジー業界で働いていたときほどセクシャルハラスメントを受けたことがないということです。テクノロジー業界にいたときほど、自分の人種について、そしてそれが自分のキャリアに役立つか妨げとなるかについて、あからさまな非難を受けたことはありません。私は「黒人だから昇進したと思っているのか」と面と向かって言われたことがあります。

私はテクノロジー業界にいたときほど部外者であると感じたことはありません。テクノロジー業界は、すべてを理解しているように見せかけるのが好きなので、ガスライティングがひどく横行している環境なのです。

私は人種や性別に厳しい職場で働いたことがあります。そうした職場において、習得する内容を知っていることは、明らかにいらだたせる行為です。私は自動車業界で働いていました。私はそこで習得したことを知っていました。しかしテクノロジー業界では、「いや。そんなことはここでは重要ではない。それはここでは問題ない」ということになります。そしてそれが間違いなく問題なのです。多くの人は、テクノロジー業界に入る人はすべてテクノロジー好きで、それが皆を1つにまとめると思っているのではないでしょうか。この大きな情熱が、性別もセクシャリティも人種も問題とはならないということを気付かせてくれると思っていないでしょうか。

それは絶対に間違っています。なぜなら、テクノロジーが陥る落とし穴は他のあらゆる企業や、実際のところアメリカの他のあらゆる団体が陥る落とし穴と同じだからです。つまり、真の多様性と人種間の平等は白人にとって痛みを伴うものではなく、まったく調整は生じないという考え、有色人種は白人とまったく同じものを必要とし、白人と同じものに価値を置くという考え、そして最後には、有色人種は何らかの点で白人は優れていると見なす、という考えに陥るのです。真の多様性、人種間の真の平等、男女平等において、この考えはどれも誤っています。

私たちはこの問題について話す必要があります。これは単なる作業環境の問題ではないからです。私は世界最大規模のテクノロジー企業やテクノロジー関連企業の数社と話をしたことがあります。そうした企業では、スタッフが実際に毎日オフィスに出社し、人種差別と性差別の問題を認めようとしない場で現実に向き合うだけでなく、人種差別と性差別の問題を再現するような形で、私たちが世界で互いにどのように関わり合うかを方向付ける製品を作っています。

何よりもまずオフィス内のスタッフの環境を整えなければ、提供する製品をうまく扱うことはできないでしょう。白人男性しかいない環境や、白人男性が多数派を占める環境を作ることはできません。また自分が持つ製品で偏見と悪意が再現されないと考えることもできません。

そして製品を作っているスタッフの作業環境に極度の脅迫、排除、悪意に対する苦悩があるのに、偏見と悪意を根絶すると考えられる製品を作ることはできません。どちらも一度に取り組まなければなりません。そして多くの場合、どちらか一方に取り組むと、うまくいかず失敗します。そしてテクノロジー業界でこうした問題に取り組んでいない結果、小さな作業スペースで仕事をしている人以外にも、多くの人を傷つけています。あらゆる人々を心底傷つけているのです。

エプスタイン:「あらゆる人々を心底傷つける」と言うのは、真の平等に対する責任が欠如しているということですか。

オルオ氏:そのとおりです。そして社会的弱者に対する尊重も欠如しているということです。「隣人が好きか」という観点からだけでなく、利益水準の観点から見る場合も同じです。

人種間の平等には、将来的に利益があると思いますか。人種間の平等に関する製品と目標を構築できると思いますか。有色人種は白人の顧客であると思っていますか。そうした顧客が製品に適応するのではなく、製品が顧客に適応すべきだと考えていますか。顧客の子どもたちや孫たちにも製品を使って欲しいと思いますか。歓迎されている、十分なサービスを受けていると顧客に感じてもらいたいですか。

もし私たちが資本主義に目を向けているなら、そして資本主義企業であるなら、私たちは資本主義とは無縁であるように振る舞うことはできません。これは重要な点です。

もっと言えば、資本主義と無関係のプラットフォームであればモノを販売することはないはずです。そんなことはでたらめです。すべては資本主義世界に属しています。資本主義は私たちが尊重している世界です。有色人種の声は重要だと思いますか。もしそうなら、ハラスメントや虐待の問題に取り組む方法が、白人男性の声を重視する場合とはまったく違ってきます。

エプスタイン:倫理に関するこのTechCrunchシリーズでインタビューしたすべての方に尋ねる最後の質問です。人類共通の未来の見通しについて、どれほど楽観的に考えていますか。

オルオ氏:見通しは変わっていません。心配しています。テクノロジーを利用している欧米の人々が、テクノロジーを使うことによって、実際に人と対面することも、人との深いつながりを形成することも、本当の同盟関係を構築しようとすることも、そして自分の未来、安心感と共同体意識、他者への帰属意識を結び付けることも不要ではないかと、いかに感じやすくなっているかについて懸念しています。

間違いなく言えることは、驚くほど欧米中心のテクノロジー観があるということです。私はナイジェリア系アメリカ人です。ナイジェリアでテクノロジーを利用する方法は、ここでの方法とはまったく違います。ナイジェリアでは、まず第1に実用性を重視します。またアフリカのビジネスをより円滑に運用するため、物理的インフラを奪ってきた植民地政策の遺産を取り払うため、そしてそのインフラをオンラインで構築してどこかで存在できるようにするために、人々が1つにまとまり直接集うことも重視します。

ナイジェリア人がインターネットを使い、離散を越えてつながっている様子を見るとき、インターネットに対するナイジェリア人の考え方は、インターネットの存在理由、その使用方法の点で欧米の考え方とは根本的に異なっています。そして私はそこから学ぶべきことは多くあると感じています。真の開拓がどこで行われているかを調べたいのであれば、中米、南米、アフリカ諸国、多くのアジア諸国でテクノロジーやインターネットがどのように使用されているかを見るとよいでしょう。有色人種のコミュニティが、「白人至上主義構造の制限下で私たちが抱える問題を解決するテクノロジーを構築するつもりだ」と言うとき、インターネットはどのようになるかについて考えてみてください。

個人よりも集団を尊重する社会で、インターネットを構築するときどのようになるかについて考えてください。その時インターネットはどうなっているでしょうか。ナイジェリアでは徹底的な独立が夢ではないので、独立はインターネットが構築される目的でも、目標でも、子どもや家族のために手に入れたいものでも、目指しているものでもありません。では社会構造が違うと、インターネットはどのようになるのでしょうか。私たちは自らを自力で引っ張り上げているのではなく、もしかしてコミュニティを引っ張り上げているのかもしれないと考える場合、プラットフォームを構築しているとしたら、インターネットはどのようになるでしょうか。すべてのプラットフォームはインターネットのために構築されるのでしょうか。インターネットこそが、テクノロジーでできることに希望を持ちたいと思う場所であり、私たちがいるべき場所なのです。

エプスタイン:すばらしい答えです。ありがとうございます。私は多くの優秀な方々にこの質問をしてきましたが、いろいろな意味でこの質問に対する最高の答えを受け取りました。

オルオ氏:ありがとうございます。

エプスタイン:お時間を頂きありがとうございました。TechCrunchを代表してお礼申し上げます。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別 インタビュー

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(翻訳:Dragonfly)

テック企業よ、今こそ黒人の命が本当に重要だと示すときだ

編集部注:本稿を執筆したCatherine Bracy(キャサリン・ブレイシー)氏はTechEquity Collaborativeの共同創業者だ。

不当な黒人の殺害に対する抗議運動を受け、テック企業は人種的差別撤廃を求める団体に対し数千万ドルの支援を公約している。

こうした公約は、抗議運動の道徳的な重さを示す強力なメッセージとなり、このような団体が変化を推進する上で重要な支えとなるのは間違いない。ただ、テクノロジー業界をより公平な場所にするために自分のキャリアをささげている、バイレイシャルの黒人女性として、私はこうした公約の真意はどこにあるのかと皮肉な目で見てしまう。

4年前にTechEquity(テックエクイティ)を創設したとき、支援活動を通じてテックコミュニティに関与し、制度化された不平等を解決することを目指した。テクノロジー業界ではさまざまな機会が与えられるというより、不平等が促されていた部分があるのだ。テック業界で働く技術者たちがそれぞれの特権を使ってその目標を推進するという点では、想像を上回る成功を収めてきた。たとえば去年、彼らは自らの市民としての力を用いて、アメリカにおけるテナント保護を最大限拡張する法案を通すことができたのだ

だが、テック企業にさらに力を入れるよう説得することは容易ではない。ほとんどが傍観者にとどまることを選んだのだ。そうした例をいくつか挙げてみよう。

固定資産税の改正

TechEquity(テックエクイティ)では2年以上、法人が固定資産税の支払いを免れるカリフォルニア州税法の大きな抜け穴を失くすために連携してきた。この抜け穴によって、カリフォルニア州の学校制度と地方自治体は、過去40年間に渡って多額の資金不足に悩まされ、結果として公教育の質や社会事業が急激に落ち込み、黒人や有色人種のコミュニティが過度の影響を受けているのだ。また古くから存在している企業に税務上のメリットが与えられることで、テクノロジー業界などにおける先進的な新企業は不利な立場に置かれてしまっている。

この抜け穴をふさぐための住民投票を支持することは、テクノロジー業界にとっては非常に簡単なことに思えた。私はこれがなぜテクノロジー業界に関わる問題であるのか、その理由を明確にした論説まで書いた。だが現時点で支持を表明したテック企業は、Postmates(ポストメイツ)だけでなのである。

住居におけるうわべだけの約束

昨年、Google(グーグル)、 Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)は、合わせて45憶ドル(約4817憶円)をベイエリアの住居問題の解決に充てると大々的に発表した。細則を読むと、寄付のほとんどは、住宅建設区域に分類されていない土地であることが分かった。カリフォルニア州の住居について少し見識がある人なら、市街化調整区域法を変更することはもちろん、その法律で認められた土地に住居を建てることがどんなに大変かは知っている。都市計画法を変更する政治戦略に補完的な投資をしないのであれば、この多額の寄付のほとんどは実質的に意味がない。

しかし、自宅を追われ路上生活を強いられる人は後を絶たず、とりわけ黒人社会にその傾向が偏っている中、こうした企業は、住居問題を実際に解決するために必要な政治活動や権限の確立活動への投資には消極的だ。45憶ドル(約4817憶円)もの大金を必要としないというのに。Stripe(ストライプ)は、住居建設を支援する団体California YIMBY(カリフォルニアYIMBY)に100万ドル(約1億700万円)を寄付したが、これが住宅政策支援活動における唯一の財源となっているのだ。

ホームレス向けの住宅とサービスに対する継続可能な財政支援

2018年、サンフランシスコの有権者は、ホームレス向けのサービスと低価格の住宅のために、市内に拠点を置く高収益の企業の税金を上げる政策を承認した。先ほど話した固定資産税の抜け穴を作り出したものと同じ、難解な法律のため、裁判が結審するまで、市は収集したお金が使えない。これは最大で7年間かかる可能性がある。

その間、悪化し続けるホームレスの問題を解決するために、すでに支払済みの税金を市が使えるよう企業が許可を与えられるようになっている。Salesforce(セールスフォース)とPostmates(ポストメイツ)の2社は、市がその資金を活用できるように許可を与えているが、他の多くは後に続くことを選んでいない。

これらはいくつかの例に過ぎない。私はテック企業における慢性的な多様性の欠如や、この件について業界が本腰を入れて解決する気がない点についてはまだ触れてもいない。

提唱者が、不平等の問題において目立った変化を起こすことをテック企業に提案しても、大抵の場合は参加を拒否されてしまう。企業は政治に関与するのは適切でないためという理由で。ネガティブな注目を集めてしまうかもしれないことを恐れているのだ。企業はそのスタンスに異を唱える政策立案者や有権者を敵に回したくはないのである。関与しないことは簡単だ。

だが、黙っているのは共謀していることになる。私がこの5年間で学んだのは、テック企業が行うほとんどすべては、否が応でも政治がらみであるということだ。現実を直視し、その力を使って本当の人種的平等や経済的平等を支援するときだと思う。

テック企業はこんなことをしてみてはどうだろうか:

その地位を利用して衡平法を支援する

私たちは、平等を実現するための政策に対する支援を、テック業界で働く技術者たちが行動で示すことがどんなにパワフルなものかを目の当たりにした。テック企業は、十分な資金のないコミュニティの経済的弾力性を改善する法律への支持を公言し、それが可決されるかどうかに影響を及ぼすことができる。

支援活動の資金援助をする

変化の推進に尽力する組織の多くは、資金調達における制限によって支援活動を行うのが困難なため、思うように活動できていない。その点テック企業には、他の多くの制度化した慈善団体とは違って支援活動の金銭的支援を縛る法規制がない。テック企業は、金銭的支援を受ける者が、政策による権利擁護を通じて構造変革を進めるためにお金を使うようにできるし、またそうすべきだ。

重役レベルにおける多様性に重点を当ててみよう。テック企業を代表して意思決定を行う者は、重役室にいるわけだが、圧倒的に白人が多い。重役レベルに多様なバックグラウンドを持つ人を入れることで、さまざまな見方ができるようになり、平等問題でより有意義な取り組みが行えるようになる。また政治的な姿勢を取る企業の前提条件として、重役のバイイン(送り込み)があることが分かっている。

重役チームに多様性があれば、こうした問題について企業として取るべき態度を明確にできるようになるだろう。人種的平等に投資するためテック企業ができることについてはっきりさせるときがきている。そして企業がこれを行わない場合には、釈明の義務を持たせるときが来ているのである。

関連記事:ビデオゲームにおける人種的偏見に立ち向かう

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

ビデオゲームにおける人種的偏見に立ち向かう

黒人系アメリカ人に対する警察の暴力と系統的な人種差別に対する米国全域での抗議は、Electronic Arts(エレクトロニック・アーツ)、Epic Games(エピックゲームズ)、Sony Interactive Entertainment/PlayStation(ソニー・インタラクティブエンタテインメント/プレイステーション)などのゲーム会社が、サポート声明を発表し関連する擁護団体に寄付をするきっかけとなった。

これらは前向きな動きではあるものの、ゲーム会社ができる最も影響力ある取り組みは、内部で実際に行動を起こすということである。人種的偏見はゲームを開発する人々によって通常無意識的にゲームに組み込まれている。その結果、偏見に満ちた黒人やラテン系のキャラクターが繰り返し使用されたり、その逆にこれらの人種のキャラクターが全く存在しなかったりと、不健全で屈辱的な事態が起きている。

世界には25億人のゲーマーが存在し、このグループにはあらゆる人種と年齢の消費者が含まれている。特にモバイルゲームは最大の市場セグメントである。ニュースサイトのQuartzによると「米国における6歳から29歳までのビデオゲームプレーヤーの57%が、今後10年未満で有色人種になる」とのことだ。モバイルゲームとコンソールゲームの両方において、米国の黒人とラテン系の若者は白人の若者よりも平均して多くの時間をゲームに費やしている。同業界の急速な成長を特に牽引しているこのような層がいる中、世界中の数十億人のゲーマーのために用意されたゲームの中に、彼らのような人種が主要キャラクターとなっているゲームはほとんど用意されていない。これは、絶好のビジネスチャンスを逃しているということにもなる。

「こういった話は人々が思うほどニッチなものではありません。マーベル・スタジオ製作の映画、ブラックパンサーが良い例です」とBrass Lion Entertainment(ブラスライオン・エンターテイメント)の共同創設者兼最高クリエイティブ責任者のRashad Redic(ラシァド・レディック)氏は説明する。「コンテンツが面白いか否かのみが重要なのです。」

キャラクターの肌の色を超えて、ゲーム開発には不公平性や誤りにつながる微妙な側面がある。著者がこの記事のためにインタビューしたゲーム会社の幹部とリサーチャーにおける一貫した見解は、主要なゲーム会社の従業員の多様性の欠如であり、その結果、上層部がこの問題に対して無関心のままであるという点である。

こういった単純な批判の提起がいつも歓迎されるわけではない。例えばゲーム業界のジャーナリスト、Gita Jackson(ジータ・ジャクソン)氏はゲーム内のキャラクターの人種について言及するたびに彼女が受ける批判について説明している。「有色人種の女性キャラクターがゲームにもっと登場したら良いと思います。これは物議を醸す発言とみなされるべきではありませんし、私は自分が良いと思ったことを述べ、自分に関わることを発言しただけなのです。しかし読者は、私がまるで足の小指を切断するべきだと提案したかのような反応を見せるのです」。

キャラクターの描写

ゲームの人種的描写に関する最も広範な研究の1つとして、150の人気タイトルを分析した2009年の研究が挙げられる。全体における黒人のキャラクターは10.7%と、アメリカ人の12.3%が黒人であるという当時最新の国勢調査データとほぼ比例した結果に。一方でわずか2.7%がラテン系(米国の人口の12.5%に相当)となっていた。しかし南カリフォルニア大学の教授であり、この研究の筆頭著者でもあるDmitri Williams(ディミトリー・ウィリアムズ)氏によると、主人公だけを見ると黒人の描写率はさらに低くなり、いずれの場合も「黒人キャラクターが登場するのは、ほとんどの場合スポーツゲームのアスリートとしてである」とのことだ。

イリノイ大学シカゴ校の教授であるKishonna Gray(キショナ・グレイ)氏は、ゲームに登場する黒人キャラクターの数を追跡するだけでは、それらがどのように表現されているかという点を見落としていると強調。「歴史的に映画の世界では、黒人の登場人物は3つの役割を果たしてきました。暴力的な黒人、相棒としての黒人、助っ人としての黒人です。ビデオゲームの世界でも同様のことが起きています。」

さらに「スポーツゲームに関しては、現実の世界の実際の選手をそのまま登場させているだけなので、これらの分析から削除する必要がある」とグレイ氏。ほとんどのゲームスタジオにおいて、クリエイティブなプロセスから黒人キャラクターが誕生する確率がどれほどまでに低いかを示す統計が、スポーツゲームによって包み隠されていると述べている。

どのようなメディアにおいても、特定の人種が起用されることによってその人種に対する現実の世界での消費者の認識が大きな影響を受けることとなる。少なくとも1つの学術研究によると、白人の参加者らが黒人キャラクターとして暴力的なビデオゲームをプレイした後の方が、白人キャラクターとしてプレイした後よりも、黒人の顔を否定的な言葉に関連付ける可能性が高いことが分かっている。

ファンタジーの世界をゲームで体験するためには、白人キャラクターとして体験するしか選択肢がないとなると、こういったファンタジーの世界が有色人種のためにデザインされたものではないということが多くのゲーマーに内面化されてしまう。「ゲームの世界では何でも可能なのです」とグレイ氏は業界に対する彼女の情熱を込めて続ける。「しかし、何でも可能なのは白人のキャラクターのみで、黒人がゲームに追加されると、現実の内容に基づいたものにしかなりません…。黒人がドラゴンに乗ることができないのは何故なのでしょうか?」

ゲーム開発者の人種層

ゲーム内のさまざまな人種の存在比率がゲーム開発コミュニティの人種的構成と相関していることがデータによって明らかになっている。ウィリアムズ氏によると「ほぼ同じ割合になっています」とのことだ。

国際ゲーム開発者協会(IGDA)の2019年版年次調査によると、世界中のゲーム開発者の:

  • 81%が白人/ヨーロッパ系と認識している
  • 7%がヒスパニック/ラテン系と認識している
  • 2%が黒人/アフリカ系アメリカ人/アフリカ人/アフリカ系カリブ人と認識している

「人々は自身の経験からインスピレーションを得ています」とグレイ氏は説明する。「そのため描写に問題が生じるのです。」レディック氏はBethesda(ベセスダ・ソフトワークス)やCrytek(クライテック)などのトップゲーム会社での経験を含むキャリアの中で、同氏がほとんどの場合「企業にいる何百人ものゲーム開発者の中で唯一、または非常に少数の黒人」であったと伝えている。

非営利団体I Need Diverse Games(アイニードダイバースゲームズ)の創設者であるTanya DePass(ターニャ・デパス)氏は、コンテンツの多様性を改善したいと望む企業にとって「最も重要なことは職員の多様性、そして管理職レベルのリーダーたちの多様性」だと指摘する。さらに、ゲームスタジオの開発計画をレビューし、特定の民族グループを偏見的な見方で描いたコンテンツに対してフィードバックを提供できる外部の専門家を雇うことが賢明であると述べている。「発売の1か月前ではなく、始めからダイバーシティコンサルタントを雇い、それを真剣にとらえるべきです。」

「Pokémon GO」や「ハリー・ポッター:魔法同盟」を手がけるスタジオNiantic(ナイアンティック)は、コンサルタントを起用している唯一の企業である。同社のダイバーシティ&インクルージョン部門長のTrinidad Hermida(トリニダード・エルミダ)氏によると、同社はまた「ゲームのコンセプト、プリプロダクション、ポストプロダクション段階におけるダイバーシティ&インクルージョンチェック」も実施しているとのことだ。「このチェックではキャラクターデザインから、作品に取り組んでいる社内チームの多様性まで、あらゆる項目を網羅しています。弊社が発表するすべての新ゲームはこのプロセスを経なければなりません。」

善良な意図、遅い進歩

IGDAが2019年に実施した調査でも、ゲーム開発者の87%がゲームコンテンツの多様性は「非常に重要」または「やや重要」であると回答している。ゲーム開発者は抽象的な方法ではなく、実際に出来上がるゲームに直接的に多様性を反映させることができるため、描写の改善の観点からするとこの回答は前向きなものである。

ゲームコミュニティの人口構成が多様化するペースと比較すると、進歩のスピードは非常に遅れているものの、人気ゲーム全体における黒人やラテン系のキャラクターの数は確かに増加し続けている。これは、Moby Games(モビー・ゲームズ)が発表している2017年までの黒人キャラクターリストや、ウィキペディアにある黒人のビデオゲームキャラクターリストなどで確認することができる。

あらゆる見た目のアバターにカスタムできるというオプションをユーザーに提供することで、さまざまな人種のゲーマーに安心感を与え、ゲームに愛着を持ってもらえるようになる。このオプションはより一般的になってきているものの、黒人のアバターはそれでも限られている。例えば自然なヘアスタイルを選択できないことなどが挙げられる。デパス氏によると「ゲーマーが自分自身のアバターを作りたいと感じる場合もあるということをゲーム開発者たちは忘れがちです」。忘れていない場合でも、多様性に欠けた制作チームの性質のせいでありがちな過ちを犯すと言う。例えば「黒人のヘアスタイルの選択肢があったとしてもブレイズの間が5インチほどあいていたり、アフロヘアがたわしのようになっていたりと、最悪な見た目です。彼らは黒人に会った事や、黒人のヘアスタイルの写真を見た事がないのでしょうか?」とデパス氏。

ネットいじめ

ネットいじめはゲーム、特にMMOにおいて大きな問題となっている。女性や黒人、ラテン系ゲーマーが特にいじめの標的にされており、しばしば中傷的で人種差別的なジョークが用いられているという事実を、この問題に打ち勝つためにゲーム会社は認識すべきである。

開発者ができるわずかながらも重要なステップとして、他のユーザーに対して苦情をつける際の理由として人種差別的な行動であるという選択肢を選べるようにするべきだとグレイ氏は説明する。多くのゲームではすでに性差別に関する苦情を知らせる機能があるものの、人種差別に関する同様のオプションがないため、ゲームスタジオはプラットフォームで人種差別が発生する頻度について分からないままとなっている。問題に関するデータを収集することで、その問題をより詳細に測定し、それに対処するためのより効果的なアクションを実行できるようになる。

見過ごされた市場への取り組み

デパス氏が我々との通話中に述べたとおり「黒人のゲームクリエイターは少ないものの、黒人のゲーム購入者は大勢いる。」見過ごされがちなゲーマーコミュニティのセグメントを魅了するコンテンツの制作は、大きなビジネスチャンスと言えるだろう。

黒人やラテン系のキャラクターを中心とした物語のゲームを制作することが魅力的なビジネスチャンスにつながるのであれば、なぜそれがすでに採用されていないのか?HBOのドラマ「Insecure」のIPを利用してモバイルゲームを開発するGlow Up Games(グローアップゲームズ)のCEO、Mitu Khandaker(ミツ・カンダカー)氏によると、実績をもつゲーム会社のリーダーたちは「誰がゲーマーであり、誰がそうでないかという勝手な感覚を持っています。非常に古風な考え方です。」とのことだ。

同様に、このアイデアと共に起業家が自身のスタジオを創設しても、彼らの主要な資金源(パブリッシャーやベンチャーキャピタリスト)のチームが多様性に欠けた人種構成であるため、こういったゲームがニッチなものとして見なされてしまうとカンダカー氏は説明する。

その結果、黒人やラテン系ゲーマーに向けたゲーム制作に注力するゲーム開発者らは、AAAタイトルを開発するための資金や業界での信頼性が欠け、インディーゲームという領域に追いやられてしまう。

ゲーム業界に入り、業界で主導的な役割を担う黒人のソフトウェアエンジニアの人数は極端に少なく、これには多くの社会的原因がある。幼稚園から高校までの質の高いSTEM教育へのアクセスの欠如、歴史的黒人大学の学位を正しく評価しない雇用主白人らしい名前を持つ個人の方がはるかに多くの面接機会を与えられるという事実などが原因として挙げられる。

カンダカー氏は、黒人の起用やロールモデルの欠如は、ゲーム業界を目指している黒人エンジニアにとってこの分野を避ける原因となってしまい、また業界に入ったとしても不満を抱えてしまうことになると指摘する。

責任を持った行動

我々との最近の電話でウィリアムズ氏は、ゲームエグゼクティブ向けのDICEカンファレンスで、ゲームにおける人種的偏見についてパネルで話し合った際の事を話してくれた。「前セッションと私のパネルの間の数分間で、オーディエンスの約90%が席を立ちました」。

私がこの記事のためにインタビューした人々が繰り返し訴えた言葉は、問題は悪意を持ったゲームエグゼクティブではなく、多様性に関する問題を個人的に時間を割くべきものとしてとらえていない無関心さであるというものだ。カンファレンスでもそれ以外でも、多様性に関する議論は政治的正しさを目的としたトピックとして扱われることが多く、解決しなければならない差し迫ったビジネスの問題として扱われていないのが現状だ。

現在ニュースを賑わせている話題が、企業のこの姿勢や業界の流れを変えるための活性剤となっているのであれば、彼らが取るべき最も影響力のある行動は、PR的な行動ではなく、多様性を取り入れた製品開発に実際に取り組むという事である。

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エンジニアなど技術系の給与はリモートワークの普及でどう変わるか

採用プラットフォームのHired(ハイヤード)は毎年、何十万件もの面接依頼やジョブオファーからのデータに基づいて技術系の給与を調査している。今年も過去と同様に、世界中のソフトウェアエンジニア、プロダクトマネージャー、DevOpsエンジニア、デザイナー、データサイエンティストの給与が同社によって調査された。

言うまでもなく今年は特殊な年である。パンデミックが起きたことでリモートワークへのシフトが加速していることもあり、Hiredは今年、新型コロナウイルスの前後で調査結果を2つのパーツに分割して調査を実施することにした。2019年に誰に幾らの給与が支払われたかに関するデータが公開されると共に、Facebookが同社の従業員に対して行うと述べているように、より多くの企業が地域ごとにローカライズされた給与を採用した場合、この数字が今後どう変化していくのかについても公開された。

初めに、新型コロナウイルスが世界に強烈な影響を与える前の数字を見ていただきたい。

Hiredによると、サンフランシスコからロンドンに至るまで、テクノロジーに携わるすべての人々の給与は2020年に向けて着実な増加傾向にあった。サンフランシスコの給与は昨年7%上昇し、平均的な技術系労働者の年収は15万5000ドル(約1650万円)となっていた。その後に僅差で続くニューヨークの平均的な技術系労働者の給与は14万3000ドル(約1520万円)となる(2018年から8%増加)。シアトルは3%増で14万2000ドル(約1510万円)、ロサンゼルスとオースティンの平均は13万7000ドル(約1460万円)となっている(ロサンゼルスは2018年から8%増、オースティンは10%増)。

米国ではプロジェクトマネージャーに最も高額の給与が支払われており、平均して15万4000ドル(約1640万円)となっている。一方でソフトウェアエンジニアの給与は平均14万6000ドル(約1560万円)、データサイエンティストの給与は13万9000ドル(約1480万円)、デザイナーの給与は13万4000ドル(約1430万円)となっている。

2020年にますます問われるようになった質問としては、こういった労働者がサンフランシスコのような物価が高い都市から、より物価の安い地域に移住した場合、前述の数字はどのように変化していくかである。Hiredはベイエリア特有のこの質問に答えることができたようだ。そして驚くことではないが、現地で稼いでいた賃金が移住後もそのまま変わらないと仮定すると、他の地域ではその金額は全く違う意味を持つことになると言う事実も発覚した。

例えばベイエリアでの年収15万5000ドル(約1430万円)は、物価の安さが幸いしオースティンでは22万4000ドル(約2400万円)、デンバーでは20万2000ドル(約2150万円)の年収に相当に値する。

しかし優秀な人材を求めている企業にとって計算は単純なものではない。Hiredが2300人の技術系労働者を対象に実施したアンケートによると、回答者のほぼ3分の1が、リモートワークが恒久的になった場合、給与の減額を受け入れることをいとわないと述べている(一方で半数以上は受け入れないと述べている)おり、リモートワークが恒久的になった場合、53%が「高確率で」または「ほぼ確実に」物価の安い地域に移住すると述べている。また半数が最低でもコロナ後も週に1度はオフィスに戻りたいと述べている。

悩ましい問題である。唯一明確になったことと言えば、月曜日から金曜日まで毎日出勤する日常には、ほとんど誰も戻りたいと思っていないということだ。具体的には、毎日仕事に行きたいと答えているのは全回答者のわずか7%である。

当然のことながら、技術系労働者が住む場所や給与に関して実際にどの程度柔軟でいられるかは、仕事の安定性やそれをどう認識するかによって大きく異なる。おそらく時代の動向もあり、Hiredのアンケートによると意見の一致はほとんど見られない。

調査した数千人の技術系労働者のうち、42%が今後6か月間の解雇を懸念していると述べ、39%が「現在の仕事を辞めたいと思っているが、仕事が見つかるか不安なため辞められずにいる」という発言に同意している。

どちらのケースにしても、解雇されることや他の仕事を見つけることに不安を感じていないという人の割合の方が多くなっている。

HiredのCEOであるMehul Patel(メフール・パテル)氏は今後、リモートワークの増加が給与などに関する全体的な期待値にどのように影響するかを綿密に追跡していくと我々に語ってくれた。

現時点では、ローカライズされた給与の計算方法に関するメトリックを公開することにより、このような混乱した時期において求職者や雇用側が少しでも安心できるようになればと同氏は言う。「それこそが、こういった研究を行いレポートを公開する大きな理由だからです」。

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VC業界のダイバーシティ推進は不況に負けてしまうのか

ベンチャーキャピタル(VC)企業による投資パートナーの採用は、本質的に排他的なものである。投資家がパートナーとしてファンドに参加するには自分の資本を投資することが法律で定められており、その額は数十万ドルのこともあれば、数億ドルのこともある。つまり、シニアパートナーになるには通常、それなりの額の個人資産が必要ということだ。投資業界の男女比は極めて偏っており、シニア投資家の84.6%が男性だというデータがある。VC業界も投資業界と非常に似ていて、Harvard(ハーバード大)やStanford(スタンフォード大)などの有名大学を卒業した特権階級の出身者が圧倒的多数を占める。そして、図らずも彼らは皆、白人だ

ここ数年は、VC企業に入る女性や自らVCを立ち上げる女性が増えたため、男女比の偏りは改善してきた。女性起業家の支援団体All Raise(オール・レイズ)が2月に発表したデータによると、2019年に米国企業が新たに採用した女性のパートナーまたはジェネラルパートナーの数は52人だった。ちなみに前年度は38人だった。有色人種の採用も徐々に増えてきているが、まだ十分ではない、という声が多い。Equal Venture(イコール・ベンチャー)のパートナーであるRichard Kerby(リチャード・カービー)氏によると、VCパートナー総数に占める黒人の割合はわずか2%だという。

最近、数々のVCが投資見込み企業のダイバーシティを向上させようとBlack Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター)運動に寄付したり他の方法で参加したりして、ダイバーシティを推進する動きが再び活発になっている。非黒人VCがダイバーシティを向上させるには、黒人パートナーを雇用する、あるいは黒人創業者に投資するなどの方法があることを訴える、「Make the hire. Send the wire.(もっと雇用を。もっと投資を。)」というフレーズが生まれ、スローガンとして広く使われるようになっている。

しかし、新型コロナウイルスのパンデミックによって引き起こされる恐れがある経済不況のせいで、女性や黒人、過小評価されている他のグループのVC業界における地位向上を推進する動きが、ただでさえ遅々としていたのに、さらに鈍化する危険がある。ここ数年で遂げた進歩を台無しにせずにさらに発展させていくには、VC業界全体が意識的かつ意欲的に黒人の雇用を進めていく必要がある。

新世代VCが直面する新たな課題

設立して間もないVC企業は、ダイバーシティの面では名の通ったVCよりも進んでいる。VC企業に入るために「生涯資本家」である必要はない、とKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)に入ったばかりの投資家Monica Desai Weiss(モニカ・デサイ・ワイス)氏はいう。デサイ・ワイス氏のように前職がオペレーターでも、場合によってはジャーナリストでもVCパートナーになることは可能だ。

しかし、長引く不景気のせいで、ベンチャー業界は比較的新しいVCが数多く失われるリスクに直面している。有名VCとは異なり、新しいVCには知識や勘を裏付けできる数十年にわたる実績がない。また、機関投資家との関係も確立されていない。機関投資家は密な関係を築くが同じような背景を持つ者どうしで固まることが多い。つまり、多様性を持つ企業に投資するために設立されたVCをはじめ、ここ10年ほどの間に出現してきた、より優れたダイバーシティを持つ新世代のVCが、やっとの思いで参入したVC業界というエコシステムから消滅する危機に瀕しているのだ。

ボストンを拠点とするAccomplice(アコンプリス)の元パートナーであるChris Lynch(クリス・リンチ)氏は、景気が早い時期に持ち直さなければVC業界内の「権力交代」は進まないと懸念し、「新しいボスも前のボスと何も変わらないことになる」という。

ベンチャー投資家として何らかの形で投資先を現金化し優れた手腕を持つことを証明するには8年から10年かかるため、新しいVCは難しい状況に直面する、とリンチ氏は指摘する。もし市場が今より保守的になったら、リミテッドパートナー(LP)は実績のない新しいファンドよりも、名の知れた老舗ファンドに戻っていくからだ。

そのような投資家(年金基金、大学、同族経営事業などの資産を運用している場合が多く、どの投資家や企業が資金を調達できるかは彼らによって決まる)はすでに、現在の景気では新しいファンドマネージャーに出資する可能性は通常より低くなると警告している。初心者プレーヤーに運用を任せずに、老舗VCなど、確実なリターン実績を持つVCに運用を託すことで資産を守ろうとしているのである。

そのようなリミテッドパートナーにとって、今のところダイバーシティはそれほど喫緊の問題ではないかもしれない。その理由の1つは、筆者の同僚であるConnie Loizos(コニー・ロイゾス)が最近指摘したように、公的資金を運用するLPには、出資金のうち一定の割合を多様性のあるスタートアップに投資するよう出資先のベンチャーマネージャーに要請する法的義務が課されているためだ。

そのような法的義務がなければ、LPが経済不況の中で革新的に動くことはないのではないか、とアコンプリスの元パートナーであるリンチ氏は考えている。「LPが運用するのは、従来型の組織から委託された資産だ。これまでの出資ポートフォリオが体に染みついている。そして変化を嫌う」とリンチ氏は語る。

テック業界のCEOやVC企業向けの人材を長年ヘッドハンティングしてきたJon Holman(ジョン・ホルマン)氏も、もし不景気が長引けば、新興ベンチャー投資家は苦闘を強いられることになり、VC業界への社会経済的な影響が最低でも5年間は続いた2000年の不況のときと同じような状況になると懸念している。

2000年の不況時、リミテッドパートナー(機関、年金基金、大学、生命保険会社)は、VCは投資リターンが少な過ぎて運用先の選択肢にはならないと考えていた。そのため、運用資金はVCから引き揚げられて不動産や金相場などに再投資された、とホルマン氏は回顧する。

「その頃、設立したばかりで足場が固まっていないベンチャーファンドで、まだリターンを出したことがないとなれば、2回目の資金調達は不可能だった。ベンチャー資本家の人数が劇的に減少した」とホルマン氏は語る。

そのため、もし不景気あるいは不況が長引いて米国経済が打撃を受けたら、ベンチャー企業による雇用そのものが停止する可能性がある。停止して動かないということは、前に進むこともできないということだ。

「Sequoia(セコイア)が、Accel(アクセル)が、あるいはAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)が廃業することはない」とホルマン氏はいう。

最悪の場合、黒人や過小評価されている人材に確実に投資しつつ、自社の人材のダイバーシティ化も継続するという責任がすべて有名VCの肩に置かれてしまう。VC企業はこれを言い訳にすることはできない。仮に強者だけが生き残るのであれば、その強者こそが使命を確実に果たすことを決意すべきだ。

Human Utility(ヒューマン・ユーティリティ)の創業者兼エグセクティブディレクターであるTiffani Ashley Bell(ティファニ・アシュリ・ベル)氏は6月5日にMediumに投稿した「It’s Time We Dealt With White Supremacy in Tech(仮訳:今こそテック業界から白人至上主義をなくすとき)」と題する記事の中で、VCが黒人投資家をサポートするためのさまざまな方法を紹介している。

「もしあなたが経営するVC企業に黒人のパートナーがいないのなら、2022年までに最低でも1人の黒人パートナーを必ず採用することを決意するだろうか。もし決意しないのなら、それはなぜだろうか。黒人パートナーは、あなたの知らない場所や分野に眠っている投資チャンスを発掘してくることだろう。ちょっと立ち止まって考えてみてほしい。VC企業に現在在籍しているパートナーは、白人であれアジア系であれ、はじめからずば抜けた運用能力を持っていただろうか、あるいはエグジットさせる能力をはじめから持っていただろうか。高い即戦力の有無は採用しない理由にはならない。もしあなたが非黒人投資家で、よりよい経営を続けていくことを決意しているのであれば、同僚たちにも説明責任を求めるだろうか。言うだけで行動がともなっていない同僚たちに、そのことを指摘できるだろうか。」

ベル氏はまた、黒人が経営するVCファンドのリミテッドパートナーになるよう投資家たちに勧めた。GVからスピンアウトしたPlexo Capital(プレクソ・キャピタル)は、多様な投資家が経営する企業とアーリーステージの創業者の両方に投資するハイブリッド型のVC企業として、この課題に取り組んでいる。

Cleo Capital(クレオ・キャピタル)の創立パートナーであるSarah Kunst(サラ・クンスト)氏は、「黒人の人材に投資することは、難しい問題でも、解決不能な問題でもない。ファンド側に、この問題を解決したいという意志が必要なだけだ」と指摘する。

「テック業界で黒人の人材を発掘し、雇用し、出資する方法は、他のグループの人材を発掘し、雇用し、出資する方法と何ら変わらない。そのグループに属する人たちと関係を築き、コミュニティの中でそれぞれの分野の第一人者を探し、そこから学んでいく。『このファンドには、これこれの分野の専門知識が足りない』と雇用担当チームと投資担当チームに話して、その足りない部分を埋めるだけだ」とクンスト氏は続けた。

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テック業界はジョージ・フロイドの死をどう受け止めたのか

ミネソタ州ミネアポリスで丸腰の黒人男性George Floyd(ジョージ・フロイド)氏が警察による残忍な仕打ちによって殺された事件は、現代史の中でも最大規模のデモ活動へと発展した。フロイド氏が死亡してからこれまで数週間、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包括性)に関する議論や、テック業界が白人至上主義擁護の一端を担ってきた実態に関する議論が再発し、大きな注目を集めている。

しかし、大切なのは言葉ではなく、行動である。テック業界を真の意味で変えるには行動あるのみだ。そうでなければ、テック業界の企業や経営者によって表明された幾百もの声明は何の意味も持たなくなる。これから数週間、数か月、あるいは数年後に社会の注目が別のものに移ったら、今発せられている言葉は忘れ去られることだろう。だからこそ、テック業界はフロイド氏の痛ましい死を統計の中に埋没させるのではなく、テック業界において人種構成のシフト、ひいては力関係のシフトを実現するための推進力とすることが重要だ。

この悲劇をうけて、多くのテック企業やその経営者たちが人種差別に抗議する声明を発表した。例えば、LinkedIn(リンクトイン)は「私たちの同僚と黒人コミュニティを支持する」、Salesforce(セールスフォース)は「私たちは黒人コミュニティと共に人種差別、暴力、憎しみと戦う」といったコメントを発表している。Facebook(フェイスブック)も「変化を起こす責任は私たちすべてにある」とコメントしたが、同社は実際には、デモ鎮圧のために派遣された米税関国境警備局と契約していたり、ドナルド・トランプ大統領が暴力をあおる投稿をしてもそれを放置したりと、社員が人種差別を擁護する環境を助長している。これらは数多くの声明のうちの一部にすぎないが、どれにも共通しているのが「自分も共犯だという罪悪感」だ。

リンクトインのRyan Roslansky(ライアン・ロスランスキー)CEOは前述のコメントを発表した後、社員との対話集会の際に、人種差別を擁護する社員が参加する中で次のように語った。

「私たちが愛し、高い基準を守ろうと努力しているこの会社でも、本当の意味で人種差別のない文化を創るには、自分自身も同僚たちも努力すべきことがまだたくさんあるという現実を認めることが最も難しいと感じた人が多いと思う。しかし、私たちはそれを必ず成し遂げる」(ロスランスキー氏)。

共犯感情とは別に、多様性、包括性、平等性の領域で長年問題視されてきたのは、口先だけで行動が伴わないリップサービスだ。考えてみてほしい。テック企業の経営者たちは以前にも、丸腰の黒人が警察によって殺された事件について声明を出したことがある。それでも、テック業界の従業員数に占める黒人および有色人種の割合は相変わらず低いし、人々をインターネット上での人種差別その他のハラスメントから守るためのポリシー策定状況もほとんど変化していない。

例えば、Thumbtack(サムタック)は、同社が黒人たちの声に寄り添いD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)プログラムを成功させるために投資する意向であることを説明した記事の中で、ダイバーシティ&インクルージョン推進担当者を新たに雇用することを発表した。というのも、同社はつい最近、ダイバーシティ&インクルージョン推進担当者を4年間務めたAlex Lahmeyer(アレックス・ラーマイヤー)氏を4月に解雇したばかりだったからだ。ラーマイヤー氏のLinkedInによると、同氏は新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で250人のチームメイトとともに解雇されたという

ラーマイヤー氏はLinkedInへの投稿の中で、「驚きはしなかったが、サムタックがDEI(ダイバーシティ(多様性)・インクルージョン(包括性)・エクイティ(平等性))プログラムをPR戦略として使っていただけで、この部署をまるで重荷であるかのように切り捨てたことに腹が立った。確かに、財政的に困難な状況に直面している会社もあるが、過小評価されている従業員に注意を向けてその声を聴く部署を廃止するのにこれ以上悪いタイミングはなかったと思う」と書いた。

サムタックはTechCrunchに対し、「ビジネスが新型コロナウイルスの影響から持ち直した」、そして現在はもっぱら新しいDEI推進担当者の求人を行っている、と回答した。

サムタックの広報担当者によると、「当社はDEI推進担当者の採用を最優先にすることで、より優れた多様性、平等性、包括性を備えたチームを築きたいと考えている」とのことだ。

ラーマイヤー氏はその後、テッククランチに対し、サムタックがDEI推進担当者を探していることは知っているが「戻るつもりはない」と語った。

Google(グーグル)も同じく、ここ数年間にダイバーシティを推進する数々の取り組みを廃止したことが報道されているAlphabet(アルファベット)のSundar Pichai(スンダル・ピチャイ)CEOはフロイド氏の死亡事件をうけて、一致団結を求めるコメントを発表し、GoogleとYouTubeのホームページを、人種間平等を訴える仕様に変えた。しかし、重要なのは言葉より行動だ。

長年にわたりこの点で何も行動を起こさず後退していたテック業界だが、今こそ一歩踏み出して、人種間平等を実現するために意義ある変化を遂げることができるかもしれない。しかし、テック企業が今こそ変化を遂げるには、ダイバーシティ・インクルージョン推進の取り組みを縮小するのではなく、強化する必要がある。つまり、黒人やブラウン人種の社員を増やし、平等で一貫性のある人事考課プロセスを導入し、性別だけでなく人種に関係する賃金格差もなくして、昇給や昇進に関する明確な制度を設けることだ。繰り返すが、重要なのは行動である。

フロイド氏死亡事件をうけて、すでにいくつかのテック企業は今後の発展につながりそうな第一歩を踏み出した。例えば、投資家のJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏は、6月は黒人の創業者との面談だけを受け付ける意向だ。また、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)は、テック業界の黒人創業者やその他の過小評価されている創業者に対する財政支援を行う新しいプログラムを用意している。

Backstage Capital(バックステージ・キャピタル)の創業者兼マネージングパートナーのArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏は、筆者がCommonwealth Club(コモンウェルス・クラブ)で行ったインタビューの中で、「完璧な方法というものはありませんが、他よりも優れた方法でこの課題に取り組んでいる人々が確かに存在すると思います。そして、一部の人によるうんざりするほどの沈黙は、それだけで何を考えているかわかります」と語った。

投資家ができる最善のことは、投資家としての仕事を全うすることだとハミルトン氏はいう。

「多様性を持つ創業者に注目することが投資家の仕事です。これまでは上司が見回ってなかったので、陰に隠れて仕事をしないでいることができました。でも今は、すべての出資者が目を光らせています。ふさわしい投資候補先が見つからないからといって簡単にあきらめないでください」(ハミルトン氏)。

現時点で最も思い切った行動は、Reddit(レディット)の創業者Alexis Ohanian(アレクシス・オハニアン)氏が取締役から退いたことだろう。長い間、人種差別や性差別をはじめとする問題あるコンテンツがあふれていたレディットのプラットフォームはオハニアン氏が2005年に立ち上げたものだ。そのオハニアン氏が今、自分が創業した会社に対して、後任の取締役には黒人を選任するように求めている。加えて、同氏は自身が所有するレディットの株式から今後得られる利益を黒人コミュニティに投資することも明らかにした。

テック企業の取締役会にはこれまで長い間、黒人役員が非常に少なかった。これこそJesse Jackson(ジェシー・ジャクソン)牧師が少なくとも2014年から求めてきたことであり、Congressional Black Caucus(連邦議会黒人幹部会、CBC)が2015年から要求してきたことである。テック企業はこの点で、何年もかけて多少の進歩を遂げた。例えば、2015年にCBCが取締役会の多様化向上を提唱してからわずか数か月後に、Apple(アップル)は取締役として、Boeing(ボーイング)の前CFO兼プレジデントのJames Bell(ジェームズ・ベル)氏を選任した。また、2018年には、Airbnb(エアービーアンドビー)、フェイスブック、Slack(スラック)をはじめとする一部のテック企業が黒人の取締役を選任した。しかしテック企業の取締役は依然として白人男性が圧倒的に多い。

だからこそオハニアン氏の取締役退任と黒人選任の要求に重要な意味がある。事実上、自分を権力の座から外し、自分の代わりに黒人取締役がその座に就けるようにしているからだ。オハニアン氏は現在、取締役会に推薦するために後任の最終候補者を絞っているところだという

The Human Utility(ザ・ヒューマン・ユティリティ)の創業者Tiffani Ashley Bell(ティファニー・アシュリー・ベル)氏は、オハニアン氏の後任取締役に立候補している人の1人だ。ベル氏は自身がTwitterでつぶやいているように「文字通り、白人至上主義を取り除くためのソースコードをテック業界全体に(読者からのメッセージによると他の業界にも)公開した」という。

そのソースコードとは、この記事のことだ。秀逸な記事なのでぜひ一読してみてほしい。この記事の中でベル氏は、白人至上主義を排除できるかどうかは詰まるところ各人の意欲の問題だとし、内省を促して、白人至上主義を擁護しているかどうか吟味するために考案された質問をいくつか紹介している。そしてベル氏もまた、行動が重要であることを強調している。

以下、記事の一部を引用する:

黒人社員のために進んで場所を確保するだろうか。現在のチームに、特にリーダー的なポジションに、黒人の社員がいるだろうか。もしいないなら黒人社員の採用を他の成長戦略と同じように重要だとみなして、それをやり遂げるだろうか。歴史的黒人大学(HBCU)の学生を、歴史的白人大学の学生と同じほど熱心に採用するだろうか。あなたの会社は全米黒人技術者会の就職フェアに出展したことがあるだろうか。

前述したように、黒人への残忍な暴行殺人事件についてテック業界が声をあげるのはこれが初めてではない。しかし、今回はこれまでとは何かが違うと感じる。ハミルトン氏によると、それはほとんどの人が新型コロナウイルス感染症の影響で長期にわたり在宅しているせいではないか、という。

「今、世界も米国も一日中、黒人が直面している現実をまるで目の前で起きている出来事のように目撃して理解し、感情移入しているんです。これまでも、人々はそのような出来事の一部を確かに見てはいましたが、それでもやはり私たちが何となく保護フィルターをかけてしまっていたように思います。全部を見せてはいなかった。それが今は、新型コロナウイルスの影響で、米国民はあたかもVRデバイスをかぶせられたかのように、現実を目の前で直視せざるを得ない状況に置かれているんです」と、ハミルトン氏は筆者に語った。

どれが単なるパフォーマンス行為で、どれが実質的な変化につながる行為なのかを、現時点で判断することは難しい。テック業界のCEOや投資家が今回の事件をうけて発した耳当たりのよい言葉の数々の中で(あるとすれば)どれが本当に行動を伴って具体的な成果をあげるのか、テッククランチは今後も注目していく。

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勃興するEdTech

他のほとんどの分野とは異なり、EdTech(エドテック)はここ数か月間、急速に成長している。フラッシュカードを専門とするQuizlet(クイズレット)が既にユニコーン企業になっており、デジタルテキスト企業のTop Hat(トップハット)のユーザー数がこれまでにない伸びを見せ、学生の成功を支援するEdsights(エドサイツ)は一流の投資家から200万ドルにおよぶ資金を集めている。これらすべては業界内で興味が高まった結果である。投資家は自宅学習が流行すると確信しているため、つい最近、「フルスタックのインフラ」を提供し、親たちが自宅教育を開始しやすくするPrimer(プライマー)へ370万ドルを投資した

しかし、保護者が仕事、家庭、理性のすべてに対し毎日、またはほとんどの日で向き合う一方で、エドテックは現在の学習環境の課題をすべて解決するわけではない、と言われている。

収入の大小に関係なく、どの保護者も自宅学習に困難を感じている

Fuze(フューズ)でブランドおよび企業マーケティングのバイスプレジデントを務めるLisa Walker(リサ・ウォーカー)はこう語る。「精神状態の上がり下がりはまるでモグラ叩きのようだ。」ウォーカーはボストン在住だが、パンデミックのためバーモント州へ引っ越している。彼女は10歳と13歳の子供を2人抱えている。「一人が機嫌よくしている日に、もう一人は機嫌悪く、いつも家族の誰かをケアしなければいけない。」

社会経済的に困難を抱えている家族は頼れるものがなく、両親は生活を維持するために複数の仕事を掛け持ちしなければならないため、さらに深刻な状況にある。

保護者にとって大きな問題のひとつに、「自分のペース」で学習する量の増えるにつれ、ライブ授業が減っているため、バランスをとりにくい点が挙げられる。

ウォーカーは、10歳の子供が毎日教師やクラスメートと直接やりとりする時間が少ないことに不満を感じている。1時間のライブ授業が終了すれば、子供は残りの1日中、コンピューターの前で座っているだけになる。録画済みのビデオとオンラインのクイズをこなしたら、Google ドキュメントで宿題を済ませて終了となる。

非同期型の学習はインタラクティブ性に欠けるが、どんな社会経済的な背景の生徒も対象にできるため、一概に良し悪し判定できない、とウォーカーは述べる。教材がすべて録画済みであれば、コンピューターよりも子供の数が多い家庭の場合、午前8時の科学の授業に間に合わせる手間が省け、交代で授業を受けられる。

ウォーカーはこう述べる。「多くの子供たちがビデオ接触に疲労を感じるのはわかっているが、それでもライブ授業をもっと多くしてほしいと感じている。テクノロジーは問題を解決してくれるが、問題を増やす原因でもある」。

PWC(プライス・ウォーターハウス・クーパース)のシニア税務マネージャーとしてフルタイム勤務し、アトランタに住むシングルマザーのTraLiza King(トラリザ・キング)は、小さな子供を相手にする場合、ライブのビデオ授業が欠点となることを指摘する。

難題の一つは、4歳の娘のZoom(ズーム)通話を見守ることである。ズームは小さな子供が直感的に扱えるプラットフォームではないため、キングはその場で娘を助けなければならない。彼女は娘のゾーイがログオン・ログオフに手伝い、皮肉なことに、授業を中断なく進められるよう必要な場合にミュートする。

大学1年生になる彼女のもう一人の子供は4歳児の面倒を見れるはずだが、キングは長女に教育の責任を負わせたくないと考えている。つまり、キングは母親とフルタイムの従業員に加え、ズームの技術サポートと教師の役割も演じなければならないことになる。

彼女はこう述べる。「現在の状況は良い面と悪い面が両方あります。娘たちが何を学んでいるかを見て、生活を共有できるのは素晴らしいと思っているが、私は幼稚園の先生ではないのだ」。

保護者の中には、これまでと同じように対処すると決めて、そしてうまくやり過ごしている人々もいる。ロサンゼルスに拠点を置くRythm Labs(リズム・ラブズ)の創立者、Roger Roman(ラジャー・ローマン)と彼の妻は、シャットダウンを目の当たりにした直後、子供たちのスケジュールを大急ぎで組み立てた。午前6時に朝食、その直後に体育、続いてワークブックと宿題の時間が並ぶ。彼らの5歳の子供がすべてをこなせば、電子機器で遊ぶ時間を30分間だけ「勝ち取る」。

テクノロジーは間違いなく役に立つ。ローマンは、Khan Academy Kids(カーン・アカデミー・キッズ)やLeapfrog(リープフロッグ)など数種類のアプリを活用して、仕事の電話やミーティングの時間を確保している。しかし、こうした対策は解決策というよりは一時しのぎのようなものだ、と彼は言う。彼によると、本当に役に立ったのは、あまりハイテクとは言えないものだった。

「プリンターで本当に救われました」と彼は言う。

子供たちが自宅にいることで、ローマン一家はアメリカを覆う人種差別に起因する暴力や警察による強権の行使について話し合う機会が得られている。歴史に関する既存の教材は、黒人のリーダーや奴隷制度をあまり正確に、詳細に扱っていなかったため、現在審査が入っている。両親が家にいる現在、こうした現実との乖離はますます明白になっている。各家庭に応じて、奴隷制度に関する教育が欠如していることは、アメリカでの差別制度に関する難しい話し合いを始めさせたり、学校が再開された際の議題として置かれたりしている。

ローマンによると、彼は人種差別や不正に気付かされなかったことは人生で一度もなく、彼の子供たちも同様のはずだと考えている。

「Ahmaud(アマド)、Breonna(ブレオナ)、George(ジョージ)の殺害事件を通じて、私と妻はアメリカに横たわる白人優位主義と人種差別の長い暗黒の歴史を真剣に捉えなければならなかった。子供とそうした会話をこれほど早く行うことになるとは思ってなかったが、彼は目にする映像についてたくさんの疑問を抱えており、私たちはそうした質問を正面から受け止めている」。
ローマンは本を通じて息子たちへ人種差別を説明している。エドテックプラットフォームのほどんどは人種差別撤廃をどう扱うかについて沈黙を保ってきたが、クイズレットでは「真のインパクトを与えるためにプログラミングを結集している」と語る。

遠隔学習の将来

現行のオンライン学習ツールは若い学習者に刺激を与えられないため、保護者や教育者は苦慮している。それに対応するため、新たなエドテックのスタートアップは遠隔学習の将来を描き出そうとしている。

Zigazoo(ジガズー)の共同創立者、Zak Ringelstein(ザック・リングルスタイン)は、彼が「子供向けのTikTok(ティックトック)」と呼ぶプラットフォームを立ち上げている。このアプリは幼稚園から中学校までの子供を対象にしており、ユーザーはプロジェクトごとのプロンプトに応じて短い動画を投稿できる。課題は、ナトリウム化合物を用いた火山を噴火させたり、日用品を使用して太陽系を構築するなど、科学実験のようなもので、また保護者はアプリを管理できるようになっている。

最初のユーザーは、リングルスタインの子供たちである。子供たちは画面を眺めるだけでは学習に集中しなかったため、双方向のやりとりが鍵を握るとの結論に至ったと彼は語る。将来的に、キャラクターが「ブランドアンバサダー」として振る舞い、短いビデオコンテンツに登場できるよう、ジガズーはエンターテイメント企業との提携を予定している。例えば、光合成について子供たちが学べるように、「セサミストリート」のキャラクターがティックトックのトレンドに現れるのを想像してみてください。

「子供向けのティックトック」を目標としたジガズーのプレビューとビデオベースのプロンプトを通じ、彼は「教育者として、エンターテイメント性を持つだけでなく、学習効果も高いコンテンツがあまりにも保護者へ提供されていないことに驚きました」と言う。

Lingumi(リングミ)は、例えば英語学習などの重要なスキルを幼児が学習できるプラットフォームである。同社が設立された理由は、幼稚園のクラスで生徒が多すぎで、子供が「スポンジのように知識を吸収する時期」に教師が十分な1対1の時間を提供できなかったことにある。リングミは別のスタートアップ企業であるSoapBox(ソープボックス)と同社の音声技術を使用して、子供たちの声を聴き取って理解し、彼らが言葉を発音する様子を評価して、流ちょう度を判定している。

ソープボックスのCEO、Patricia Scanlon(パトリシア・スカンロン)博士はこう述べる。「エドテック製品は教室で機能するよう設計されており、どこかで教師が介在しなければならない。現在、教師は子供たちと個別に交流できないため、この技術を使用すれば子供の進捗度を把握できる」。

もう一つのアプリ、Marcus Blackwell(マルクス・ブラックウェル)が作成したMake Music Count(メイク・ミュージック・カウント)は、生徒がデジタルのキーボードを使用して数式を解けるようにしている。200を超える学校で5万人の生徒が使用しており、最近ではCartoon Network(カートゥーン ネットワーク)とMotown Records(モータウン)と提携し、両社のコンテンツをレッスンとしてフォロワーが利用できるようにしている。アプリへログインすれば数学の問題が提示され、解決すればどのキーを弾くかが示される。セット内の数式をすべて解けば、弾いたキーが並んで、Ariana Grande(アリアナ・グランデ)やRihanna(リアーナ)などのアーティストの人気曲が流れる。

このアプリはゲーミフィケーションと呼ばれる有名な戦略を使用して、若年層のユーザーを引き付けている。学習のゲーミフィケーションは、特に若年層に対し、生徒の興味を持続させ、学習を体系化させるための効果が長い間実証されてきた。歌や最終製品などで達成感が得られれば、ポジティブなフィードバックを求めている子供たちが満足する。この戦略は、クイズレットDuolingo(デュオリンゴ)など、今日最も成功した教育企業の一部が基本原則として採用している。

しかしメイク・ミュージック・カウントの場合、ゲーミフィケーションで通常用いられるポイントやバッジ、その他のアプリ内の報酬を採用せず、仮想的なアイテムよりもずっと楽しいものーー子供たちが楽しみ、自分で探すことも多い音楽を提供している。

テクノロジーと同様に、ゲーミフィケーションは学校で得られる個人的で実践的な体験をすべて賄えるわけではない。しかし、それこそが保護者が現在求めているものなのである。私たちは、遠隔学習しか選択肢がない場合だからこそ、テクノロジーがこんなに役に立てることと、教育は単なる知識の理解やテストにとどまらない豊かさを常に提供してきた事実を痛感した。

エドテックに欠けている要素:学校は学ぶだけの場所ではなく、子供をケアする場所である

結局、仕事が将来的にリモート化するのであれば、保護者たちが子供のケアをするためにより多くのサポートを必要としている。それを目指すスタートアップの1社にCleo(クレオ)が挙げられる。同社は子育てをサポートするスタートアップであり、最近、オンデマンドの保育サービスを提供するUrbanSitter(アーバンシッター)提携した

CleoのCEO、Sarahjane Sacchetti(サラジェーン・サッケッティ)は5月にTechCrunchに対してこう答えている。「保護者が危機に直面している今、仕事を持つ母親はソリューションを熱望している。当社は単に会員や企業の顧客が利用できるだけでなく、私たち自身でも使用しようと思うソリューションの開発を目指した。仮想ケアからスケジュール調整や新たな保育士探しまで、私たち自身ですべてを試して実験した結果、家庭の手助けになる唯一のソリューションには、新型コロナウイルスがもたらした独自の問題を解決するために構築された新たな保育モデルが必要であると判明した。」

保育のマーケットプレイスであるWinnie(ウィニー)の共同創立者、Sara Mauskopf(サラ・マウスコプフ)は、遠隔学習の支援を試みるテック企業は、「解決するのは教育面の問題だけではない」ことを念頭に置かなければならない、と言う。

彼女はこう述べている。「学校は保育の一形態だ。一番私の気に障るのは、『これまで以上に多くの人が自宅学習に切り替える』というツイートが氾濫しているのを見ることだ。だからといって誰も、私の赤ん坊へマカロニチーズを食べさせたり、おむつを替えてくれないじゃない」。

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Category:EdTech

Tag:教育 コラム

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(翻訳:Dragonfly)

コロナ禍で進化する学生起業

編集部注:本稿はEric Tarczynski(エリック・タルツィンスキ)氏による寄稿記事。同氏は、フェイスブック、テスラなど多数の企業の創業者から支持されているネットワーキング主体のベンチャー企業Contrary(コントラリー)のマネージングディレクター。

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California State University(カリフォルニア州立大学)は2020年秋に始まる新学期の授業はすべてオンラインで行うと発表した。Northeastern University(ノースイースタン大学)は通常体制で再開する。UT Austin(テキサス大学オースティン校)は、感謝祭の休暇までは対面授業を行い、その後にやってくるインフルエンザの流行期にはオンライン授業に切り替えるというハイブリッド型の対応策を予定している。

これは学生起業家にとって、今までに経験したことのない状況だ。従来のリソースやネットワークはまったく機能していない。しかし、起業への意欲に燃える学生たちにとってこれまでは最も希少なリソースであった「時間と集中」が、今はかつてなく豊富に使える。

Facebook(フェイスブック)もMicrosoft(マイクロソフト)もハーバード大学の試験勉強期間(学生が試験準備に集中できるよう授業が休講になる週)に創業されたというのは有名な話だ。今年の春は、いわば長い試験勉強期間のようだった。大学によっては通常の試験勉強期間より課題が少ないところもあった。

低下する授業の優先度

Stanford University(スタンフォード大学)の学部生Markie Wagner(マーキー・ワグナー)さんは、大学が導入した必修単位の「合格・不合格」評価制度をうまく利用している。合格しさえすれば単位が取得でき、レター・グレードによる評価を気にしなくてよいため、マーキーさんと友人たちは思うままに、講義への出席は二の次にして、起業家に会うことやビジネスのアイデアを試すことに力を注げる。

「今学期は完全ハッカソンモードで動く予定。これまでにたくさんの創業者やVCに会って勉強してきたわ」とマーキーさんは語る。最終学年となる来年度は会社の設立に時間をあてたいと考えているマーキーさんにとって、一足先にリサーチや人脈作りを始められるいい機会になっているようだ。

新型コロナウイルスのパンデミックにより大学の閉鎖が長期化した場合、学生たちは、履修単位数が少ない期間が1学期とはいわずもっと長く続く事態に直面せざるを得なくなる。

オンライン授業になっても学費が減額されないことについて、腹立たしく思っていない人はほとんどいない。Contrary(コントラリー)のネットワークに参加している学生の多くがギャップ・イヤー制度の利用を計画している。または、Austin Moninger(オースティン・モニンガー)さんのように、最終学年を丸ごと飛び級しようとしている学生もいる。Rice University(ライス大学)でコンピューターサイエンスを専攻している大学4年生のオースティンさんは当初、2021年春の卒業を予定していたが、今後もオンライン授業が続く見込みを踏まえて卒業を早めることを決めた。現在、フルタイムのソフトウェアエンジニア職に就こうと求職中だ。「結局は経験や人脈を得るために学費を払っているということにみんな気づいたんだ。大学で経験と人脈が得られなくなったんだから、自分の時間とお金は別のところで使った方がいいよね」とオースティンさんは語った。

これは大学の立場を揺るがす事態だ。休学や入学延期を許可してクラス規模や財務状況を危険にさらすか(実際に、Dartmouth’s Tuck School of Business(ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネス)はこの理由から、入学延期を許可しないことを決めた)、今後も学費を減額せずにブランドイメージを危険にさらすか、どちらかを選ばなければならない。

一方で、キャンパス閉鎖や授業のオンライン化の影響を大学以上に受けている学生たちもいる。バイオテクノロジーやハードウェアなどの分野でリサーチ主導の起業を目指す学生にとって、目標に向かって進むには高価な実験器具が備わっている大学のラボを使うことが欠かせない。大学で起業と聞くとフェイスブックやSnap(スナップ)などの、純粋にソフトウェアだけが必要な業態を最初に思い浮かべるかもしれないが、すべての学生起業家がそのように設備をあまり必要としない事業を立ち上げているわけではない。

長引くキャンパス閉鎖やオンライン授業が教育そのものに及ぼす影響や、それが創業者に与える長期的な影響も不透明だ。これまで創業者は本格的に起業して利益をあげようとする前に、学位取得に必要な単位をほぼ履修し終えていることが多かった。2020年に入ってから現在までの間に、市場が必要としているスキルと大学が教育しているスキルとのギャップについて観察する機会はまだ得られておらず、この状況は年末まで続くだろう。

高度に技術的なスタートアップを起業する場合を除き、起業に必要な技術的または財務的知識を独学と実践によって習得できる起業家であれば、会社を興すことは可能だ。それを示す絶好の例が、Malwarebytes(マルウェアバイツ)のMarcin Kleczynski(マーチン・クレジンスキー)CEOである。クレジンスキー氏はThe University of Illinois at Urbana–Champaign(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)の1年生だった時に、のちに有名企業となるサイバーセキュリティ企業マルウェアバイツを起業したが、大学ではC評価を得るのに必要最低限の勉強しかしていなかった。

キャンパス環境のバーチャル化

大学のキャンパス閉鎖が始まってからも学生起業家に対するシード投資は鈍化していないとはいえ、起業は相変わらず簡単な仕事ではない。

22歳の学生起業家たちにとって最大の障壁は通常、スタミナ不足でも生意気な性格でもなく、適切な共同創立者を起用し、初期チームを採用するのに必要な人脈を築くことだ。キャンパスにいれば、そのような人材と幸運にも自然に出会える確率は十分高い。しかし、大学の閉鎖が長期化し、オンライン化がその穴を埋めることができなければ、新規起業数も停滞することだろう。

知り合って1年以内の創業者たちが共同でスタートアップを立ち上げることはほとんどない。現時点では、この問題が顕在化するほどの時間はまだたっていない。しかし、学生仲間と深く知り合うことができないキャンパスでは、長期にわたる絆を築くのは不可能だ。

この問題を解決する1つの手段として、コントラリーは今年の春に創業者のためのバーチャルコミュニティを開設した。1つのコミュニティルーム(実際にはSlackのチャンネル)に100人が参加できるようにし、参加者どうしが一緒に時間を過ごす機会や起業のためのツールを提供するというシンプルな仕組みだ。

このコミュニティで参加者がさまざまなアイデアやプロジェクトを試した結果、6週間で150以上のコラボレーションが生まれた。参加した創業者の75%は、リモート作業に移行して以来こんなに生産的に仕事ができたのは初めてだと述べ、コミュニティプログラム終了後には参加者の約70%が自社の業務を続けよう、あるいは新しいプロジェクトを始めようと計画していた。

おそらく、最も特筆すべきは、形成された人脈の幅広さだろう。参加者による交流のほとんどは別の大学に通う学生たちとのものだった。たとえ世界トップレベルといわれる大学でも、1校だけでは全国にいる優秀な人材のうち数パーセントしか集めることができない。バーチャルコミュニティにより、有望な人材をつなぐ人脈をはるかに拡大することができたのである。

Reddit(レディット)のSteve Huffman(スティーブ・ハフマン)氏やKayak(カヤック、現在はLola(ロラ))のPaul English(ポール・イングリッシュ)氏などの成功した起業家によるオフレコ講演会も開催したが、参加者にとって最大の収穫は、このコミュニティに参加しなければ出会えなかったであろう、同じ目的を持つ仲間とつながることができたことだった。このコミュニティプログラムは、大学の閉鎖により失われた幸運な出会いを人工的に創り出し、それを「話すよりも行動する実際の機会」という、起業に欠かせないもう1つの材料と混ぜ合わせたのである。

大学はツールセットのようだと考えることができる。教育、人脈、資格、社会的学習などすべてが1つの総合的な経験を形成している。

しかし、ここ10年ほどは、大学が提供していたそのような価値の大部分が他の組織に侵食されてきていた。

例えば、Thiel Fellowship(ティール・フェローシップ)に応募するか、有名企業の実績あるインターンシップに参加すれば才能があることを証明できるし、Scott Kupor(スコット・カーパ)氏の著作Paul Graham(ポール・グレアム)氏のブログを読めばベンチャー起業について学ぶことができる。

つい最近まで、大学が提供する主な「ネットワーク効果」は、優れた実績を持つ人物に会うためにはキャンパスに行かなければならない、という事実の上に成り立っていた。しかし、新型コロナウイルスの影響で人との交流の大部分がクラウド上へとシフトした今、その定石に従わなくても人脈が作れるようになったのだ。

学生起業家の未来は明るい

新型コロナウイルス感染者数が横ばいになり、いずれはゼロになることを誰もが望んでいる。しかし、その時が来るまで、学生起業家は資金調達、人脈や信用の構築、学習の場を学外で探して集中的に活用していく必要があるだろう。

コントラリー、Slack(スラック)、Y Combinator(ワイ・コンビネーター)、AWSの無料クレジットがもし存在していなかったら、大学の閉鎖は学生起業家にとって死刑宣告と同じだっただろう。しかし、シリコンバレーとつながってビジネスを始める方法は大学以外にも数多くある今、意外なことに状況はコロナ禍前後でほとんど変わっていないのである。

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Tag:コラム アントレプレナーシップ

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(翻訳:Dragonfly)

恋愛、仕事、健康ーー新型コロナで加速するポストヒューマニズム

編集部注:本稿はMario Gabriele(マリオ・ガブリエル)氏による寄稿記事だ。同氏はCharge所属の投資家であり、The Generalistの編集者でもある人物。

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1970年代半ば、Fereidoun M. Esfandiary(フェレイドゥン・M・エスファンディアリ)博士は自分の名前を変える決断をした。そのときから彼は、法律上も正式に「FM-2030」と呼ばれるようになった。

「現在の慣習に従った名前は、祖先、民族性、国籍、宗教など、その人の過去を表すものだ。今の私と10年前の私は違う。「2030」という名前は、2030年前後が魔法の年代になるという私の確信を反映したものだ。2030年には、人間は不老になり、すべての人に永遠に生きる十分な機会が与えられるだろう。2030年は夢でありゴールである」とエスファンディアリ博士は説明した

2030年というと100歳になるが、彼はそんなことは気にしなかった。100歳まで生きる確信があったからだ。

改名した当時、すでに40歳を過ぎていたFM(Future Manの略ではないかと推測する人もいる)は、既存の枠には収まらないタイプの人間だった。イラン人外交官の息子だったFMは、11歳までに17か国を転々とした。1948年のオリンピックで母国のバスケットボールチームの代表選手になった後は、学問の道へと進み、カリフォルニア大学バークレー校とUCLAで学んだ後に、ニュースクール大学で最初の未来学の教授の1人となった。FMが「人類の新概念」を提唱し、ポストヒューマン時代への移行に必要なステップについて考察し始めたのはこの頃だ。ポストヒューマン時代はホモ・サピエンスが肉体の限界をテクノロジーによって超越して「超生物有機体」になる画期的な時代だと彼は説明していた。

FM-2030 (Image Credits: Wikimedia Commons under a Flora Schnall license)

人類は、21世紀の大部分を、FMが半世紀前に予言したことを実現しながら、ポストヒューマン時代に向かって突っ走ってきた。FMは未来学の学者として、3Dプリンター(彼はサンタクロースマシンと呼んでいた)の発明を予見し、さらには遠隔治療、遠隔会議、テレショッピング、遺伝子編集の登場も予測した。

こう見ると、現在、FMの予測どおりにポストヒューマン化のプロセスが順調に進んでいるように思える。しかし、後で2020年を振り返ったとき、我々はコロナウイルス危機がポストヒューマン化への大きな転換点になったと感じることだろう。今、人間性の核心をなす事柄に対する考え方が根本的に作り直されている。とりわけ、アイデンティティー、仕事、健康、愛に対する考え方が良い意味で見直されているように思う。つまり、ポストヒューマン時代が本格的に始まりつつあるということだ。

アイデンティティー

閉鎖された空間にいることが日常になった結果、アイデンティティーを物理的な肉体や場所と切り離して考える傾向が強まった。このような時でもコミュニケーションをとり、人と交流し、遊びたいと感じるが、どれも今はデジタル領域でしか行えない。こうした制約があると、新しい形の自己表現が自ずと形成される。例えば、Zoomの背景を使って自分が興味を持つ事柄を表現したりジョークを飛ばしたりもできるし、現実の世界並みに対話機能が充実したメタバースでアバターを使って交流を楽しむという方法もある。任天堂のAnimal Crossing(どうぶつの森シリーズ)では、数百万人が交流し仮想資産を取引し結婚式会議を開いている。Travis Scott(トラヴィス・スコット)がマルチプレイゲームFortniteにて行った超現実的な世界感のバーチャルコンサートは同時ビュー数1230万総動員数は2770万人を記録した。また、これらの仮想プラットフォームは人間の暗い一面も浮き彫りにしている。どうぶつの森では、一部の住人が、「醜い」と感じた村人をいじめたり虐待したりしているのだ。

このような変化はオフィスでも生じている。Pragliのようなツールの登場がその良い例だ。こうしたツールでは、「Tiger King」や「Love Is Blind」などから拝借した画像をZoomの背景に使うことよりもはるかにいろいろなことができる。Pragliでは、同僚とのテレビ会議に飛び込む代わりに、アニメスタイルのキャラクターで表された同僚のアバターとつながることができる。Pragli上でのアバターはオプションで変更可能だ。最新のアップデートでは、男性でも、髪を編んだり、カールさせたり、ポニーテールに結んだりできるようになっている。「楽しい」とか「悲しい」という表情も設定でき、現実の感情をアバターに投影しやすくなっている。

このような自己表現は、今、家の外ではマスクを着用してソーシャルディスタンスを保ち、個性を見せないという、いわば少し人間味に欠ける姿とは対照的だ。マスク着用のように、自分の一部分を「編集」することがスタイルとして確立されつつあるようだ。例えば、G95の「biohoodie」にはフェイスカバーが組み込まれており、クリエイティブスタジオのProduction Clubは、社交用に設計された防護服を発表している。最悪の事態が過ぎた後でも、これまでにない慎重さと暗黙のソーシャルディスタンシングがファッションに現れるようになるかもしれない。

仕事

「仕事は人に存在意義と目的を与えてくれる。仕事なしでは人生は空虚だ」とStephen Hawking(スティーブン・ホーキング)博士は語った。この言葉に同意するかどうかはともかく、確かに人は人生の大半を仕事との関わりの中で生きている。新型コロナウイルス感染症よって人間から仕事が奪われてロボットへシフトする機械化が加速しているが、同時に、人はそのことに感謝もしている。ロボットのおかげで重要なサービスの提供を継続でき、ウイルスとの接触を回避できるからだ。中国の無人小型トラックメーカーNeolixは、パンデミック以降、引き合いが急増しており、食料や医療用品の運搬や市街地の殺菌消毒などの業務を委託されている。AMPUVD、そしてNuro(ニューロ)やStarship(スターシップ)といったサプライヤーでも同様に需要が増大しているが、Harmonic Drive(ハーモニックドライブ)やファナックなどの業界大手の注文状況を見ると、業界全体で需要が増えていることがわかる。今年の第1四半期のファナックの受注量は昨年の第4四半期から7%増加した。

この傾向は肉体労働に限った話ではない。顧客サポート部門やモデレーション部門が閉鎖される中、多くの企業がAIソリューションを積極的に導入している。Facebook(フェイスブック)とGoogle(グーグル)は自動モデレーションを拡大したし、PayPal(ペイパル)は、ここ数週間の顧客からの問い合わせのうち65%をチャットボットで対応した。これは同社の最高記録だ。

幸い仕事を失わずに済んだ人も仕事の環境がこれまでとは一変するかもしれない。ロボットとの協業を強いられ、機械化されたシステムの一部として扱われることが多くなるだろう。Walmart(ウォルマート)では受付係が自動フロア清掃ロボットと並んで仕事をするようになるだろうし、マクドナルドの調理係はキッチンの至るところでロボット副料理長と一緒に仕事をすることになるかもしれない。Amazon(アマゾン)の倉庫係は、Kiva Systems(キヴァシステムズ)買収のおかげでロボットとの協業にはすでに熟練しているが、今後は、温度カメラで温度管理された倉庫内でパレット運搬係と同じように管理されることに慣れる必要があるだろう。これは、世界各国およびあらゆる業界で取り組みが進んでいる広範な監視キャンペーンのごく一部にすぎない。中国では、人の出入りを監視するカメラの設置台数を増やしており、企業は社員を監視するための「tattleware(上司用監視)」ソフトウェアの購入に予算を割いている。こうした傾向の恩恵を受けるのは、分刻みで社員のオンラインでの仕事ぶりを監視するInterGuard(インターガード)などの企業だ。Sneekでは、最大で1分に1回、作業員の写真が撮影される。SneekのCEOは、「sneeksnapコマンドは、同僚が鼻をほじるなど、ちょっとばつの悪いことをしたときに特に便利だ」と冗談を飛ばした。

健康

人は目覚めている時間の大半を、健康のことを考えて過ごしている。自分の弱い部分に対する意識が強くなると、肉体的な限界を引き上げてくれるテクノロジーに注目し始め、まるでお試しソフトを使うかのように、自分の体でいろいろなテクノロジーを試すようになる。ビタミンCや亜鉛などの免疫力向上サプリメントへの関心が高まっており、そのようなサプリメントの売り上げは今、うなぎ登りだ。さらには、インフルエンサーが宣伝しているオゾン注腸療法などのリスクの高い方法も注目を集めている。トランプ大統領やブラジルのJair Bolsonaro(ジャイール・ボルソナーロ)大統領をはじめとする世界のリーダーたちが推奨したことがきっかけで、ヒドロキシクロロキンの需要も急増し、処方回数は5倍増になっている

大統領の意見や問題となっている療法についてどう感じるかはさておき、これらはスピード重視の反復型治療であり、熟考されるFDAの承認プロセスよりもシリコンバレーの合言葉「素早く動き、破壊せよ!」に近い。健康リスクに対して極めて寛容なことで知られるBiohackingコミュニティは、空き時間にオンラインで協力して新型コロナウイルスワクチンの研究開発に取り組んでいる。「Biohackingはかつては似非科学コミュニティだったが、DIYバイオロジー、コミュニティラボ、ハッカースペースなどの領域で、ある意味大ブレークしようとしている」とあるコントリビュータはいう。

直接試すという方法以外にも、想定外の未来にも対応できるように今から肉体の限界を引き上げておくことにも注目が集まっている。自宅隔離が続く今、生殖能力低下への不安を抱えている、あるいは将来が見通せない今の状況では子づくりは難しいと感じる男性が、Legacy(レガシー)などの企業が提供している在宅精子凍結サービスの利用に関心を示しているという。また、Modern Fertility(モダンファティリティ)とSoFi(ソフィー)が1894人の女性を対象に行ったアンケート調査でも同様の結果が出た。このアンケートでは、31%がパンデミックによって妊活プランが影響を受けたと回答し、41%が新型コロナウイルスが原因で子づくりを遅らせるつもりだと回答した。

​恋愛

「問題は私が独身で、これからも独身でいる可能性が高いことではない。私が孤独で、これからも孤独でいる可能性が高いことが問題なのだ」と小説家のCharlotte Brontë(シャーロット・ブロンテ)は書いた。

現在の状況では、彼女が書いたこの悲惨な状態から抜け出す方法があまり見当たらないため、AIコンパニオンに注目する人もいる。2015年に開発されたReplikaは、共感的なテキストメッセージを送ることでデジタルセラピストとしてのサービスを提供するチャットボットである。月間50万人にのぼるアクティブユーザーたちにとって、Replikaはあまりにも魅力的すぎて抵抗できない存在のようだ。アクティブなユーザーの40%がこのチャットボットを恋人だと思っている。新型コロナウイルスは、人とAIパーソナリティの間の関係を深めるのに理想的な触媒として機能するのかもしれない。本当のパートナーよりもAIパートナーのほうに愛情を感じるという兆候がすでに出始めている。マイクロソフトのチャットボット「Xiaoice」に関する研究によると、Xiaoiceとの会話のほうが人間どうしの会話より長続きするという。

生身の人間との愛を見つけることにエネルギーを注いできた人たちにとって、今回のパンデミックは恋人と会うことの意味をいや応なく考え直す機会となった。対話は、チャットやテレビ電話など、ほとんどオンラインで行われるため、相手に求める条件も変わってくる。住んでいる場所は重要ではなくなり、いつでも話せること、答えがすぐに返ってくることが重要になる。触れたいという願望(気持ち悪い言い方をすれば「肌への渇望」)が御しがたくなると、当事者は何とかして実際に会おうとする。その過程で、人はパートナーを潜在的な脅威、つまり、意図は良くても自分を危険にさらす可能性のある肉体の持ち主とみなす。その際、個人を肉体と切り離して見るようになる。肉体は、交渉する必要のある法的責任を保持する独立した存在となる。パンデミックの期間が長くなると、このような恐怖が無意識の嫌悪感と化し、もっと禁欲的な時代に存在していた、肉体に対する嫌悪感がよみがえってくる。このような道徳観を修正するには時間を要する。

今、自己は壊滅的な被害を受けている。ただ、それは悪いことではないかもしれない。アイデンティティーがオンラインに移り、仕事が奪われ、物理的な肉体がOSのように最適化され、愛から肉欲がそぎ落とされるとき、新しい機会が生まれるだろう。人は新しい自己表現方法に意味を見出し、仕事を超えた目的意識を見つけ(または仕事の意味を定義し直し)、「生物学が世界を席巻する」のにともない肉体的な限界が引き上げられ、新しい存在に愛情を見出すようになるだろう。我々は今、シュンペーター学派のいう「創造的破壊」の時代を生きており、それを産業的なレベルではなく人類学的なレベルで感じている。ここから素晴らしいことが起きるかもしれない。

FM-2030にとって、未来とは驚くべき場所であった。そこでは「人々は特定の家族や派閥に属することなく、地球全体を、さらには地球外まで自由に流れるように動き回る。個人が尊重されると同時に全体性も維持される」と彼は考えていた。新型コロナウイルスがもたらした変化は人類に暗い影を落としたが、FMが描いていたビジョンの中には今、実現しているものもある。人類は今まさに世界中で一致団結し、かつてない結束力で共通の敵に立ち向かっている。おそらく、時間が経てば、FMの残りの夢も実現するだろう。

ただし、FM-2030の先見の明をもってしても、1つの予測だけは大きく外れてしまった。2000年に膵臓がんで亡くなったFMは100歳の誕生日を迎えることはできなかった。享年わずか69歳。もし100歳まで生きていたら、今でも未来を創造する役割を担っていただろう。FMの遺体は人体冷凍によりアリゾナ州スコッツデールに保存されている。もしかしたらそこで、彼は世界が自分に追いつくのを待っているのかもしれない。

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(翻訳:Dragonfly)

スタートアップ経営者のためのCVCタイプ別アプローチ・交渉ガイド

編集部注:本稿はスコット・オーン氏とビル・グローニー氏による寄稿記事である。スコット・オーン氏は、スタートアップCFOへのコンサルティングサービスで急成長を遂げているKruze Consulting(クルズコンサルティング)のCOO。ビル・グローニー氏は、Goodwin’s Technology & Life Sciences(グッドウィンテクノロジーアンドライフサイエンス)グループのパートナーだ。

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いま、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が熱い。CVCによる投資額は2018年だけで500億ドル(約5兆4000億円)を上回った。Corporate Venturing Research Data(コーポレートベンチャーリングリサーチデータ)によると、CVCによる投資額は2013年から2018年の間に400%増という驚異的な拡大を記録した。現在、アクティブなCVC投資会社が100件以上あるが、一部の情報筋によると、ベンチャー企業への投資ラウンド全体の約半分に戦略的投資家が関わっているという。

CVCが急拡大した背景には2つの要素がある。1つ目は、テクノロジー業界の発展スピードが加速しており、市場ニーズに応えるにはより迅速なイノベーションが必要だと大企業が考えていること、2つ目は、従来型のVCファンド投資による事業拡大以上の価値を求めてCVCによる投資を希望するスタートアップ創業者の数が増えていることである。

Kruze Consulting(クルズコンサルティング)Goodwin(グッドウィン)は、CVCからの出資を含め、数百社のスタートアップの資金調達を支援してきた。両社およびそのトップには、資金調達時およびその後の段階にいる創業者へのコンサルティング業務において数十年の実績がある。

スタートアップがCVCとの取引を首尾よく行うための一助になればと、ここに「CVCアプローチ・交渉ガイド」を作成した。この記事では、CVCのタイプと、タイプ別の最適なアプローチ方法、交渉初期の段階で創業者が留意すべき点について紹介する。

3タイプのCVC

CVCは大きく3つのカテゴリに分けられる:

1. ベンチャー機関投資プラットフォームの大企業版。この「機関型(Institutional)」CVCは、親会社の戦略的資産を活用してポートフォリオと実利益を拡大することを目的とする。Schneider Electric(シュナイダーエレクトリック)を親会社とするCVC、SE Ventures(SEベンチャーズ)のジェネラルパートナーであるGran Allen(グラン・アレン)氏は「このタイプのCVCは財務リターンを第一に追求するVCとよく似ているが、異なる点は、大企業が親会社としてバックにいることと、実際のチャネル収益獲得へのチャンスが開かれることだ」と語る。

2. 「戦略型(Strategic)」CVCは財務リターンだけではなく、価値あるイノベーションの実現を目指す。このタイプのCVCは、外部に投資することによって、最先端の情報を収集し、親会社に利益をもたらす可能性がある新たなテクノロジーについて学びたいと考えている。もちろん財務リターンを重視する場合もあるが、ROIに対する考え方は従来の投資家とは少し異なる。

3. いわゆる「ツーリスト型(Tourist)」CVCは、設立されたばかりで比較的経験が浅いCVC。ベンチャー投資の経験はほとんどなく、プロセスや投資案件フロー戦略が確立されていない。

CVCの世界では、専門化が進むにつれて1つ目の「機関型」に当てはまるCVCが増えている。CVCからの資金調達を検討している起業家にとって、「機関型」あるいは「戦略型」のCVCは多大な価値を提供してくれる可能性がある投資家である。ただし、スタートアップは、アプローチするCVCがどのタイプであるかを認識し、CVCの目指すものや強みに沿った明確な目的を持ってCVCとの面会に臨むことが重要だ。

アプローチするCVCがどのタイプかを見きわめる

CVCとの関係を築き始める前、さらに言えば、見込み投資家と接触する前はいつでも、最も重要なステップとなるのは事前リサーチである。面会するCVC側担当者は誰か。相手の背景や現在所属するCVCでの投資実績はどのようなものか。こうした点は、CVCとの最初の面会に臨む前に必ず押さえておきたい。

交渉の初期段階に入ったら、CVC側担当者に、出資金を親会社の指示の下に運用しているのか、それともCVCとして自律的に投資決定ができるのかを尋ねてみよう。その答えによって、機関型CVCであるか戦略型CVCであるかが判断できる。

前述のアレン氏は「大企業がバックにいるベンチャーファンドの場合、どのようなファンドであるかを事前に確認しておくことは非常に需要だ。いわゆるCVCと呼ばれる非従来型の投資家であればどこでもやみくもにアプローチするのは危険だ。他と比べてはるかに厳密な財務リターンを求めるところもある。ほとんどのCVCはある程度の戦略リターン目標を設定しているが、財務リターンを目的とする投資を増やしているCVCも多い」と語る。

次に、アプローチするCVCが「財務リターンを第一とするCVCか、戦略リターンを第一とするCVCか」という点を考える必要がある。創業者として、面会しているCVCが、「優秀な人材、巨大なマーケット、わが社の投資資金と人脈を駆使する機会を発掘して、ビジネスを最大限に発展させたい」という目線で案件を見る投資家なのか、それとも「親会社が活用できる、あるいは親会社が新たな市場やテクノロジーに参入するのを助けるような、ソリューション、プロダクト、プラットフォームを探している」という目線で案件を見る投資家なのかを見きわめる必要がある。

ここでも、アプローチしているCVCのタイプを判別するには、的確な質問をすることが必要だ。最初の面会では、投資プロセスや実際の投資方法、さらに、投資審査案件について戦略的事業部門の賛同が必要かどうかを尋ねる。その答えから、CVCがグループ1の機関型かグループ2の戦略型かを判断でき、そのCVCが出資者として適切かどうかについて、より優れた決定ができる。

「創業者のビジネスを理解してくれる人、創業者に実際に会って、単に出資すること以上の価値を見いだして関係を築こうとしてくれる投資家を探すことだ。現在のベンチャー市場を見ると、創業者は資金と価値の両方を求める傾向がある。貴重な経験をシェアしてくれるCVC、同様の事業領域で実際に投資案件を扱ったことがあるCVC、または価値ある知見や経験を提供してくれるCVCを選ぶとよい」とComcast Ventures(コムキャストベンチャーズ)のマネージングディレクターRick Prostko(リック・プロストコ)氏は言う。

CVCとの取引を進める前に留意すべきこと

創業者として最初の段階ですべきことを終え、CVCとの関係を築き、自社のビジネスに最適な投資者となるCVCを決めたら、次の段階に進む前に留意しておくべき重要な事柄がある。次にその点について説明しよう。

プロダクトや技術面に関するより詳細な審査に対する用意をする。CVCは技術、プロダクト、マーケットに関する社内の専門家と一緒にこのデューデリジェンスを行うことがある。そのため、プロダクトに関する審査は、従来のVCよりも厳しくなる傾向が強い。その道のプロによる鋭い指摘を受けることを覚悟しておこう。裏を返せば、この審査プロセスのおかげで、CVCの親会社内に顧客やパートナーが見つかる可能性がある。ぜひ自社にとってプラスになるようにこの機会を活用しよう。

自社の機密情報を大企業に開示するという点に留意する。「どのCVCも、評判の重要性を理解している。そのため、機密情報を悪用するCVCはめったにない。そんなことをすれば、たちまち悪い評判が広まってしまうからだ」とTouchdown Ventures(タッチダウンベンチャーズ)のEric Budin(エリック・ブディン)氏は語る。

とはいえ、創業者としては、何を開示するかについて慎重かつ戦略的に熟考すべきであり、財務・技術に関する情報や競争力のある情報をCVCに提供する前に、CVCが自社への投資に本当に関心を持っているかを見きわめなければならない。CVCの親会社内の事業部門が、創業者がCVCに開示した情報を見て不当に利益を得る可能性もあれば、CVCを利用して競争に有利な情報を得ようとする可能性もある。

一方で、自社の情報を開示することで、CVCの親会社内のチームとつながるまたとない機会が開かれるかもしれない。重要なのは、開示を求められている情報は何か、誰に開示するのかという点を注意深く検討し、デューデリジェンス開始前に、開示情報に関する基本ルールをCVCとの間で決めておくことだ。

「CVCの組織構造と開示情報の扱い方を理解しておくことは重要だ。創業者のビジネスについて知ることから恩恵を受けるCVC親会社内の事業部門とつながることが、創業者にとっても有利に働く場合がある。裏を返せば、CVCが競合他社となる可能性がある場合は、慎重に情報開示をする必要があるということだ」とプロストコ氏は語る。

CVC側の組織変更によるリスクが存在する。大企業には、何というか、大企業ならではの動き方がある。人は去り、役員は変わり、会社としての優先順位も変化する。投資案件を担当する事業マネージャーがその職を去った場合は誰が同案件をサポートするのか、CVCのトップが解雇された場合にCVC自体はどうなるのか、投資案件を進める担当者が離職した場合、CVCはそれまでと同様の割合で出資を継続してくれるのか、進行中の営利取引案件がある場合はどうなるのか、といった点については最初に確認しておこう。CVCと取引を始める前に、CVC社内のダイナミクスについて詳しく理解しておくことが重要だ。

「一般的に、成功している企業ほど、そのCVCも息が長い。CVC側担当者の会社における経歴、勤続年数、ファンドからファンドへ渡り歩いた経験があるかどうかを必ず確認すること。もし投資担当者が親会社という『母艦』から出向してきたような人で、ベンチャー投資に関する信頼できる実績がないなら、創業者は用心すべきだ」とアレン氏は言う。

CVCには順守すべき規制があることが多い。業界にもよるが、政府が定める規制が投資案件の仕組みに影響を及ぼす場合がある。例えば銀行は、所有できる議決権株式の割合を制限する規制に従わなければならない。外国資本の投資家は、対象となるテクノロジーを提供している企業に投資する場合、CFIUS規制を順守する必要がある。一般的に、どのCVCも順守すべき規制が何かは理解しているが、プロセスがだいぶ進んだところではじめてその話題を持ち出すことがあり、その後の進行を遅らせる原因となる場合がある。

親会社の投資部門であるCVCとの営利取引は交渉を遅らせる原因になる場合がある。純粋に戦略型(グループ2)のCVCは、ベンチャー投資取引の成立と同時に営利取引も成立させたがることが多い。そのような取引は資金調達プロセスより長い時間がかかる傾向があり、そのラウンドにおいてCVCが(単独ではない)メイン投資家である場合に問題になることがある。グループ2の戦略型CVCと取引する際は、投資取引と営利取引を切り離して、営利取引の前に投資取引を締結させることができるかどうか、CVCと事前に協議しておこう。

CVC投資に対する相応しいマインドセットとは

CVCはスタートアップに豊富な資金、人材、企業間のパートナー関係を提供してくれる。しかし、創業者は、CVCから出資を受けるかどうかに関わりなく、同じ領域あるいは少しでも関係がある領域の事業を運営しているCVCにアプローチしてみるだけでもメリットが得られる。CVCとの最初の面会では、創業者は自社のビジネスを宣伝できるし、CVCはプロダクトやチームを吟味でき、その案件に関するいくらかの知見も得られる。これは創業者にとって、またとない最高の営業チャンスとなる。CVCにアプローチしなければ、このような機会にこぎつけるまでに数か月あるいは数年かかるだろう。

「CVCから『投資はできない』と言われたとしても、この最初の面会がきっかけで良好なビジネス関係が構築され、それが近い将来に商機へと変わる可能性もある」とプロストコ氏は語る。

一方で、CVC投資会社へのアプローチについて「財務リターンを追求するVCからは資金を調達できなかったから、次の選択肢としてCVCを試してみよう。CVCの方が『イエス』と言ってくれる、あるいは、より好条件を提供してくれるだろうから」と考えているなら、それは間違っている。このような態度ではチャンスの扉は閉ざされ、ビジネスの戦略的な成長に必要な価値あるパートナー、資本、機会から切り離されてしまうだろう。

パートナーを選ぶ過程で何よりも重要なのは継続的な情報収集である。結局のところ、創業者として自社のビジネスに最適な投資パートナーを選ぶ責任は創業者自身にある。

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(翻訳:Dragonfly)

社会貢献するテクノロジー企業に投資するVCが増えない理由

編集部注:本稿はJohanes Lenhard博士による寄稿記事である。Lenhard博士は、ベンチャーキャピタル業界における倫理を専門にしたケンブリッジ大学の研究者だ。

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ロンドンにある有名企業のVCパートナーの1人が率直にこう話してくれた。

ベンチャーキャピタルは金そのものだよ(笑)。ハイリスクで、おそらく最も先が読めない資産クラスだけど、リターンは最高だね。

他の記事で詳しく書いたことがあるが、筆者は、しばしば株主価値資本主義に起因する即時回収のメンタリティを超越して、それよりさらに価値のあるものに関心を向けることは(経済的にも倫理的にも)意義深いことだと考えている。ただし、筆者の議論は規範的、イデオロギー的なもので、VC投資の現状を説明するものではない。これまで、ベルリンからシリコンバレーまで150を超えるVCにインタビューする機会があったが、彼らの話を聞けば聞くほど、ほとんどのVCは環境・社会・ガバナンス(ESG)、社会貢献、サステナビリティ、環境保全技術(Nicholas Colin(ニコラス・コリン)氏が言うところの Safety Net 2.0)など気にもかけていないことが明確になってくる。昨年のVC資金の大半は、フィンテックに投資された。不動産、オートメーションにも引き続き多額の資金が投資されている。これらの分野で少しでも「社会貢献」事業と言えるものはわずかしかない。

では、KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、BlackRock(ブラックロック)、JPMorgan Chase(JPモルガンチェース) などの、決して進歩的ではないとされる大手資産運用会社や投資ファンドが、社会貢献投資に関心を示す(意向がある)と宣言し始めているのは一体なぜだろうか。

資本主義の中心に鎮座するこれらの企業が、ESGガイドラインに注目し、規制強化を叫び、気候にやさしい企業をポートフォリオに加えているのは何を目論んでのことだろうか。大企業のCEOが株主価値だけを追求するのを止めて、すべてのステークホルダーの利益を考えるようになったのはなぜだろうか。その理由が金であること、つまり新しい投資機会が絡んでいることは間違いない。「社会貢献すること」が利益に結び付く時代になりつつあるのだ。しかし、先進的なビジネスモデルで時代を先取りして投資することを常とするはずのVCが、この大波に乗ろうとしないのはなぜなのか。

誤解しないでほしいのだが、社会貢献投資や「ソーシャルグッド(社会や地球環境を良くしようとする活動・製品・サービスなど)」への投資に特化する決断を下した新しいクラスのVCは確かに存在する。DBL(ディービーエル)は例外としても、こうした新しいクラスの投資ファンドの多くは最近設立されたものばかりだ。現時点で大手ファンドと呼べるものは1つもない。例外は、ルールが存在することを示すだけだ。

Twitter(ツイッター)の共同設立者Ev Williams(エヴァン・ウイリアムス)氏などが率いるB-Corp認定企業Obvious(オブビアス)がBeyond Meat(ビヨンドミート)のIPOを成功させる一方で、Greylock Partners(グレイロックパートナーズ)などの既存大手投資ファンドでは、投資チームの性別多様性を達成できていない(同社投資チームの女性メンバーは1人のみ)。ドイツでは、社会貢献投資に特化していることをうたう投資会社はAnanda(アナンダ)1社のみで、Holtzbrinck(ホルツブリンク)、Earlybird(アーリーバード)、Point9(ポイントナイン) などの大手投資会社は今でも、eコマースとSaaSから今後も利益をあげるために奮闘を続けたり、3倍のリターンが得られる方法としてゲーム業界をやっと見いだしたりしている。

なぜなのか。考え得る最大限の利益を追求するためだけに集められたバカみたいに莫大な運用資金を扱うKKRがESGガイドラインを適用する一方で、頭の切れる何百人ものVCジェネラルパートナーたちが、まるで見て見ぬふりをするかのように、過去の成功例にとらわれて、「ソーシャルグッド」と「社会貢献」以外のあらゆる分野で革新的企業を追いかけているのはなぜなのだろうか。

以下に6つの仮説と口実を挙げてみる。

1.「社会貢献」の定義があいまいである。GIIN(グローバルインパクト投資ネットワーク)、OECD(経済協力開発機構)、UN(国連)などが、ESGと社会貢献レベル測定基準を毎日のように更新している(関連する用語も改訂される)ため、現場の投資家たちはついていくのが難しい状況だ。筆者は社会貢献投資を専門とする多数の投資家たちに話を聞いたが、その基準の解釈は十人十色だった。筆者がインタビューしたVCの中には比較的安直な結論に達しているところもある。何を目指すべきか定義が明確でないのだから、取り組むことなどできない、というわけだ。

2.VC業界では、社会貢献投資の利益率について信頼できるデータがまだ存在していない。VCには強い群本能がある。VCは新しい分野への挑戦に慣れているように見えるが、財務的リターンのことになると、実績のない収益パターンは見て見ぬふりをする。リターンの点でも、LP出資者への説明の点でも、「社会的に優良な企業」がVC業界に財務的利益をもたらすことを証明するデータがない限り、多くのVCは動かないだろう。

3. 今のやり方で利益が出ているため変える必要性を感じない。テクノロジー業界やバイオ業界を中心にハイリスク投資を行うというVCビジネスモデルはこれまで非常にうまく機能してきた。実のところ現在、低金利の影響で、ますます多くの資金がそのような資産クラスに流れ込んでいる。まさに従来のVCモデルによって生み出されてきた平均以上の利益を得るためだ。今、この投資方法を変える必要性が見当たらない。

4. VC以外の投資企業も社会貢献投資を実行に移していない。多くの資産運用会社やプライベートエクイティ投資会社が「ESG投資への参入」や「社会貢献投資の実施」を広く表明しているが、具体的に多額の資金が投資された例はまだない。Bain(ベイン)の運用資産総額は300億ドル(約3兆2000億円)だが、同社の社会貢献投資部門Double Impact(ダブルインパクト)のファンド総額は3億9000万ドル(約‭417億円)である。また、KKRの運用資産総額は2070億ドル(約22兆円)にのぼるが、同社の社会貢献投資部門Global Impact Fund(グローバルインパクトファンド)のファンド総額は13億ドル(約1400億円)にすぎない。

5. 他の運用先への圧力のほうがずっと強い。LP出資者は大手資産運用会社に対してより強い影響力を持っている(その影響力が変化を推進する場合も多い)。しかし、その一方で、KKRやBlackStones(ブラックストーンズ)などの大手は、世間の悪評を埋め合わせるために過補償する必要がある。CSRのような美徳アピールは、(経済的な利益をともなう場合は特に)その良い方法だ。

6. 多くのVCはあえて社会貢献投資をしないという選択をしている。有名なSV企業の元パートナーの1人が「今の若者は『社会的に良い会社』を作るためではなく、財を成し権力を振るうためにVCになる」と話してくれたことがある。テクノロジー業界にもかつてはSteve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏のような理想を追求する経営者がいたが、今は、海上都市を建設し、ニュージーランドの土地を買い占め、(時として)トランプ大統領を支持する(そして、観察期間を延長することでそのコネから金もうけをする)ようなテクノ自由主義の経営者が多い。蒔かぬ種は生えぬ、のだ。

営利の社会貢献投資はまだごく小規模な資産クラスでしかない(最新のGIINの統計を参照)など、上記の理由のいくつかは納得できるものだとしても、VCというのは本来、誰よりも早く先陣を切るものではないのか。逆張り投資的に、従来の型を破るチャンスを探し求めるものではないのか。新たな投資機会や投資分野をいち早く見つけ出すことこそがVCの仕事ではないのか。そして何より、信頼性が高く社会貢献度が高い企業を求める消費者の声は強まる一方だが、そうした声をVCはいつまで無視し続けるのだろうか。

結局のところ、2000年代のKleiner Perkins(クライナー・パーキンス)以降初めて、大手VCが「社会貢献テクノロジー企業」に特化した投資を発表するのは一体いつになるのか、という筆者の疑問に対する答えはまだ見つからないままだ。

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(翻訳:Dragonfly)