アルゴリズムで学習者の理解度に合ったSTEM教育を行うNumeradeのショート動画サービス

現在、注目を集めるEdTech分野の起業家たちは、テストの技術や情報保持の在り方など、現代の学習に関連するほぼすべての要素について、その構造や影響を再定義しようとしている。しかし、最も人気のある製品は、一見シンプルなもの、つまり、オールマイティな個別指導なのかもしれない。2018年に設立されたEdTech企業、Numerade(ヌーマレイド)は、拡張可能かつ高品質な個別指導に挑戦し、1億ドル(約110億円)の評価を受けたばかりだ。

方程式や実験の仕組みを解説する短編動画のサブスクリプションを販売するNumeradeは、アルゴリズムを使って学習者の理解の仕方に合わせた説明を行う。共同設立者であるCEOのNhon Ma(エヌホン・マ)氏によると、コンテキストで説明する非同期型のコンテンツに焦点を当てることで、高品質な個別指導を手頃な価格で提供することが可能になるという。

「本当の教育には、視覚と聴覚だけでなく、生徒が実際に学習する際の言葉で伝えるというコンテキストも含まれます」とマ氏。Numeradeは、Wolfram AlphaのようなロボットQ&Aやステップバイステップの回答プラットフォームではなく、実際に科学をソリューションに統合してユーザーに伝えるプラットフォームにしたいと考えている。

7月下旬、NumeradeはIDG Capital(アイデージーキャピタル)、General Catalyst(ゼネラルカタリスト)、Mucker Capital(マッカーキャピタル)、Kapor Capital(カパーキャピタル)、Interplay Ventures(インタープレイベンチャーズ)などの投資家や、Margo Georgiadis(マーゴ・ジョージアディス、Ancestry(アンセストリー)の元CEO)、Khaled Helioui(ハレド・ヒリオリ、Bigpoint Games(ビッグポイントゲームズ)の元CEOでUber(ウーバー)のエンジェル投資家)、Taavet Hinrikus(ターベット・ヒンリクス、Wise(ワイズ)の創業者)などの戦略的投資家が参加するラウンドで、評価額1億ドル(約110億円)で2600万ドル(約28億7000万円)を調達したことを発表した。

マ氏は「同期型の個別指導には需要と供給のメカニズムの縛りがあります。優秀な家庭教師の時間は限られていて、割増料金を要求されることもあり、全体的に市場の供給側の制約になっています」と説明する。一部の企業では、効率化のために複数の生徒を1人の教師に割り当てるグループレッスンオプションも採用されているが、マ氏は「これは本当に時代遅れで、教師の質を損なうものだ」と考えている。

ライブ授業やWolfram Alphaのような答えを教えるだけのシステムを避けてきたNumeradeだが、第3の選択肢として動画を採用した。動画はEdTechの分野では目新しいものではなく、現在は主に、CourseraやUdemyなどの大規模オープンオンラインコースのプロバイダーや、MasterClassやOutschoolなどの「エデュテインメント(エデュケーションとエンターテインメントを合わせた造語)」プラットフォームが動画を利用している。Numeradeは、教師または教育者主導で「Fundamentals of Physics(物理学の基礎)」の第2章にある問題を中心に動画を作成しようと考えている。

Numeradeの動画で学ぶ学生(画像クレジット:Numerade)

Numeradeには、基礎的な知識を得るためのブートキャンプの動画、手順に焦点を当ててその知識をスキルに変えるステップバイステップの動画、これらの情報がどれだけ理解できたかを評価するクイズという3つの主要製品がある。

しかし、このスタートアップの真の狙いは、どの学生にどの動画を見せるかを決定するアルゴリズムにある。マ氏は「深層学習」や「コンピュータビジョン」「オントロジー」といった言葉を使ってアルゴリズムの仕組みを説明するが、つまりは教育動画にTikTok並みの特殊性を持たせ、ユーザーの過去の行動を利用して、学習スタイルに合うコンテンツを適切に提供したい、ということだ。

Numeradeは、ステップ・バイ・ステップの動画で脳が問題のパターンや多様性を理解することで、最終的には答えをよりよく理解できるようになると考えている。同社のアルゴリズムは主にクイズで利用され、あるトピックに対する学生の成績を確認し、その結果をモデルに入力して、新しいブートキャンプやクイズをより適切に提供できるようにする。

「当社のモデルでは、まず学生の強みと弱みを理解し、次に関連する概念的、実践的、評価的なコンテンツを表示して、主題に対する学生の知識を構築して学生の成長と学習をサポートします。アルゴリズムは、動画の構造化データを解析し、学生ごとのニーズに合わせた教育スタイルを提供することができます」とマ氏。

現在のところ、Numeradeのアルゴリズムは予備的なもののようだ。ユーザーが自分に合うコンテンツの恩恵を受けるためには、有料会員になって、十分な利用履歴を稼ぐ必要がある。それができたとしても、学生が前回のクイズで間違えたコンセプトを再表示する以外に、このアルゴリズムがどのようにその学生に合うコンテンツを提供できるのかは明らかではない。

Numeradeの計画も野心的な前提の上に成り立っている。すなわち、学生はコンセプトを学びたいのであって、先延ばしにしていた宿題を終わらせるために急いで答えを知りたいのではない、というものだ。マ氏は、Numeradeの動画の視聴時間はその動画の長さの2~3倍にもなり、これは学生が単にスキップして答えにたどり着くだけでなく、コンテンツと向き合っていることを意味している、と説明する。

Wolfram Alphaに対抗しようとしているのはNumeradeだけではない。過去1年間、Quizlet(クイズレット)やCourse Hero(コースヒーロー)といったEdTechのユニコーン企業は、AIを搭載したチャットボットやライブ電卓に多額の投資を行ってきたが、Course Heroの手法は主にNumeradeのような企業を買収することだった。これらのプラットフォームは、テクノロジーを駆使した個別指導のセッションでは、人間関係の構築や時間ではなく、スピードとシンプルさを優先すべきだという考えに基づいて構築されている。週に一度、数学の家庭教師のところに行くことを嫌がる学生でも、数学試験の数時間前の真夜中に、丁寧に答えを説明してくれるプラットフォームを利用するかもしれない、という考えだ。

アルゴリズムの進化があまり進んでいるとはいえず、競争も激しい分野にもかかわらず、Numeradeの新しい投資家と、収益をもたらす能力は期待がもてる。具体的な内容は明かされていないが、マ氏によると、同社は年間経常収益が8桁(日本円では10億円)目前だという。現在の加入者ベースで少なくとも1000万ドル(約11億5000万円)以上の年間収益を上げていることだ。マ氏は、Numeradeの最大の競争力は「視点」だと考えている。

「商業的なSTEM(Science:科学、Technology:技術、Engineering:工学、Mathematics:数学)教材に対するよくある批判は、モジュール化されすぎている、というものです。教科書では物理を単独で教えています」とマ氏は話す。「私たちのアルゴリズムはそうではありません。私たちはSTEMを連動したエコシステムとして扱います。数学、物理、化学、生物学の概念は全面的に関連しているのです」。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Dragonfly)

現実のHAL9000が開発される – その名はCASE

慌てないで! たしかに、現実は芸術を模倣するが、Cognitive Architecture for Space Exploration(宇宙探査のための認識アーキテクチャー):CASEの開発者たちは、映画『2001年宇宙の旅』から教訓を学んでいる。彼らが作るAIは人を殺さないし、人間を未知の物体に遭遇させて宇宙の涅槃の境地に導いたりはしない(たしか、そんな話だったと思うが)。
CASEは、数十年間にわたりAIやロボット工学に携わってきたPete Bonassoが行っている研究で、始まったのは、今のバーチャルアシスタントや自然言語処理が流行するずっと前のことだ。今では忘れられようとしているが、この分野の研究の発端は、1980年代1990年代のコンピューター科学とロボット工学が急速に発達してブームとなった時代に遡る。
問題は、宇宙ステーション、有人宇宙船、月や火星のコロニーといった複雑な環境を、いかにしてインテリジェントに観察し管理運営するかだ。このシンプルな問題には答えが出ているが、この数十年で変化し続けてきた。国際宇宙ステーション(20年目に入った)には、それを管理する複雑なシステムがあり、時とともにどんどん複雑化してきた。それでも、みんなが想像しているHAL9000には遠く及ばない。それを見て、Bonassoは研究を始めたのだ。

20歳を迎えた国際宇宙ステーション:重要な11の瞬間

「何をしているのかと聞かれたとき、いちばん簡単な答は『HAL9000を作ってる』というものだ」と、彼は本日(21日)公開のScience Robotics誌で語っている。現在、この研究は、ヒューストンの調査会社TRACLabsの後援のもとで進められている。
このプロジェクトには数々の難題が含まれているが、そのなかのひとつに、いくつもの認知度の層と行動の層を合体させることがある。たとえば、住環境の外にある物をロボットアームで動かすといった作業があるだろう。または、誰かが他のコロニーにビデオ通話を発信したいと思うときもある。ロボットとビデオ通話用のソフトウエアへの命令や制御を、ひとつのシステムで行わなければならない理由はないが、ある地点で、それら層の役割を知り、深く理解する包括的なエージェントが必要になる。

そのためCASEは、超越的な知能を持つ全能のAIではなく、いくつものシステムやエージェントを取りまとめるアーキテクチャーであり、それ自体がインテリジェントなエージェントという形になっている。Science Robotics誌の記事で、またその他の詳細な資料でもBonassoは解説しているが、CASEはいくつかの「層」から構成されていて、制御、ルーチン作業、計画を統括する仕組みだ。音声対応システムは、人間の言葉による質問や命令を、それぞれを担当する層が処理できるようにタスクに翻訳する。しかし、もっとも重要なのは「オントロジー」システムだ。
宇宙船やコロニーを管理するAIには、人や物、そしてうまうやっていく手段を直感的に理解することが求められる。つまり、初歩的なレベルで説明すると、たとえば部屋に人がいないときは、電力を節約するために照明を消したほうがよいが、減圧をしてはいけない、といった状況を理解することだ。または、誰かがローバーを車庫から出してソーラーパネルの近くに駐車したときは、AIは、ローバーが出払っていること、どれが今どこにあるか、ローバーの無い間のプランをどう立てるかを考えなければならない。
このような常識的な理屈は、一見簡単そうに思えるが、じつは大変に難解なものであり、今日、AI開発における最大の課題のひとつに数えられている。私たちは、原因と結果を何年もかけて学び、視覚的な手がかりをかき集めて、周囲の世界を頭の中に構築するなどしている。しかしロボットやAIの場合は、そうしたことは何も無いところから作り出さなければならない(彼らは即興的な行動が苦手だ)。その点、CASEは、いくつものピースを組み合わせることができる。

TRACLabsのもうひとつのオントロジー・システム PRONTOEの画面

Bonassoはこう書いている。「たとえば、利用者が『ローバーを車庫に戻してくれ』と言ったとする。するとCASEはこう答える。『ローバーは2台あります。ローバー1は充電中です。ローバー2を戻しますか?』と。ところが『ポッドベイのドアを開けろ』(居住区にポッドベイのドアがある場合)と言うと、HALとは違い、CASEは『わかりました、デイブ』と答える。システムに妄想をプログラムする予定ははいからだ」
なぜ彼は「ところが」と書いたのか、理由は定かではない。しかし、どんなに映画好きでも、生きたいという意欲に映画が勝ることがないのは確かだ。
もちろん、そんな問題はいずれ解決される。CASEはまだまだ発展途上なのだ。
「私たちは、シミュレーションの基地で4時間のデモンストレーションを行ったが、実際の基地で使用するまでには、やらなければならないことが山ほどある」とBonassoは書いている。「私たちは、NASAがアナログと呼ぶものと共同開発を行っている。それは、遠い他の惑星や月の環境を再現した居住空間だ。私たちは、ゆっくりと、ひとつひとつ、CASEをいろいろなアナログで活動させ、未来の宇宙探査におけるその価値を確実なものにしていきたいと考えている」
私は今、Bonassoに詳しい話を聞かせてくれるよう依頼している。返答があり次第、この記事を更新する予定だ。
CASEやHALのようなAIが宇宙基地を管理するようになることは、もはや確定した未来の姿だ。たくさんのシステムをまとめる極めて複雑なシステムになるであろうものを管理できる合理的な方法は、これしかないからだ。もちろん、言うまでもないが、それは一から作られるものであり、そこでとくに重要になるのが、安全性と信頼性、そして……正気だ。

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(翻訳:金井哲夫)