長年にわたり、WeWork(ウィーワーク)はテック企業と不動産企業のどちらに分類されるかという議論があった。WeWorkについて大部分の人々は当初、テック系スタートアップを装った不動産系スタートアップだと考えていた。
WeWorkが多くの不動産を手に入れることで、その分類は曖昧になっていった。そしてご存じのとおり会社の評価額が急落したため、IPO計画が白紙となった。現在、SPACで株式を公開することがうわさされているWeWorkの評価額は100億ドル(約1兆894億円)だが、2019年1月にSoftBank(ソフトバンク)によるシリーズHラウンドで10億ドル(約1089億円)を調達後の470億ドル(約5兆1204億円)という評価額と比べると、評価が大幅に下がっている。
Adam Neumann(アダム・ニューマン)氏は、傲慢でお粗末な経営について批判を受けた共同創業者で当時のCEOだったが、その年の後半に辞任したことで有名だ。それ以来、WeWorkは名誉を挽回し、投資家や一般の人々の印象を良くしようと努力してきたことはよく知られている。
Marcelo Claure(マルセロ・クラウレ)会長は、5年にわたる戦略的再建計画を2020年2月に作成した。窮地に立つ同社は同じ月に、新しいCEOにテック系ではなく不動産を担当する幹部を指名したことで話題になっている。
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WeWorkはその後、評価額の引き上げと投資家の信頼回復を目指した計画の一環として、2022年までにフリーキャッシュフローの黒字化という目標を再設定した。
ライバルのKnotel(ノテル)が経営が悪化したため破産申請し、投資家に資産を売却するのを目の当たりにし、ノテルの失敗から教訓を得るべきだとWeWorkは気づいたようだ。
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ここでふと、WeWorkは本当に危機を脱したのかという疑問がよぎる。
オープンしていないロケーションや採算がとれないロケーションからWeWorkが撤退した件数は、再建計画の策定以降で100件を超えるという(同社のウェブサイトによると、世界中に800件以上のロケーションが残っている)。さらに、WeWorkの純損失は、2019年第3四半期の12億ドル(約1308億円)から2020年第3四半期には5億1700万ドル(約563億円)に減少した。
一方で収益が悪化した原因は、新型コロナウイルス感染症の影響と思われる。2019年第3四半期に9億3400万ドル(約1018億円)だった収益が、2020年第3四半期には8億1100万ドル(約884億円)に減少した。
WeWorkはパンデミックで苦戦を強いられているが、これはチャンスであるという意見もある。
テレワークでの業務により、人との距離を保たなければならないため、ほとんどのオフィススペースは苦戦している。WeWorkもこの状況を乗り切らなければ、評価額や収益に大きな打撃を受ける可能性が高い。
世界中の不動産会社と同じように、WeWorkも頭を抱えている。テレワークが一時的なものではなく、多くの企業が今後も継続していく方向性を検討している状況であるため、物件の所有者も対応しなければならない。
たとえばMcKinsey(マッキンゼー)が最近指摘したように、物件の所有者には柔軟性がさらに求められ、テナントのリース契約を考え直すことを余儀なくされている。つまり、商業不動産スペースの経営者には、WeWorkのような柔軟性が必要であるということだ。
状況に適応しようとすでに動き出しているWeWorkは、同社の会員専用プランがうまくいっていなかったことに気づいた。会員数が減少していることからそれは明らかだ。そのため同社は、On Demand(オンデマンド)オプションとAll Access(オールアクセス)オプションを新設することで、多くのユーザーに建物を開放することにした。例えばテレワークにうんざりしている人に対して週に1回、仕事をする場所を提供することが目的だ。さらにWeWorkは企業や大学と協力し、オールアクセスの特典としてオフィススペースを提供するチャンスや、学生に学習場所を提供するチャンスを見いだした。
たとえばジョージタウン大学は、WeWorkとかなりユニークなパートナーシップを結んだ。WeWorkのロケーションの1つを「ジョージタウン大学の代替図書館および共用スペース」として提供している。Brandwatch(ブランドウォッチ)などの企業も最近、これまで使用してきたWeWorkのスペースの代わりにオールアクセスのパスを従業員に渡して、世界中にあるWeWorkのロケーションを利用するようにしている。
WeWorkは2021年初めに、週末と営業時間外にスペースを使用する予約サービスも新たに始めた。
スペースのバラ売り
筆者はWeWorkの新戦略について、Prabhdeep Singh(プラッブディープ・シン)氏から話を聞いた。同氏はWeWorkのマーケットプレイスグローバル責任者で、新しいサービスを統括し、WeWorkのオンライン化に向けて指揮をとっている。
「私たちが取り組んでいるのは、スペースをバラ売りにすることです。これまで当社のスペースを利用するには、サービスがまとめられたサブスクリプションと、月額制の会員サービスしかありませんでした。新型コロナウイルス感染症によって世界が変わりつつあるため、当社のプラットフォームをより多くの人々に開放し、できる限り柔軟に利用できるようにしました。例えば、部屋を30分だけ予約したり、1日利用券を購入したりできます。いろんなユースケースが可能です」と彼は述べた。
シン氏によると、2020年8月にニューヨーク市でオンデマンドサービスが試験的に開始されて以来、サービスの需要が着実に伸びており、2020年第4四半期と比べて予約数は65%、売上は70%増加している。ただし、これはまだ初期段階で、サービスは小規模に開始されたにすぎない。オンデマンドサービスの予約のほぼ3分の2はリピーターによるものだと、シン氏は付け加えた。
「私たちは1年半をかけて、注力するべきものとそうでないものを真剣に考えてきました。スペースを柔軟に提供する企業として、今後の状況を注視しています。商業オフィススペース業界で当社は小さな存在にすぎませんが、テクノロジーを駆使しつつアプリを改善しながらスペースのデジタル化を進め、柔軟にワークスペースを提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。
今のところ、わずかながら状況はよくなっているようだ。WeWorkによると、2月のアクティブユーザー数は1月の約2倍になった。勤務時間外に利用することを希望するユーザーが多いようで、週末の予約数が予約全体のおよそ14.5%を占める。
WeWorkによると、既存メンバーがパンデミック期間中に、すでに利用しているプライベートオフィススペースに加えて、2020年2月にオールアクセスパスを購入した件数は1月の2倍になった。
新型コロナウイルス感染症の流行が始まった頃、WeWorkの利用を中止する数が多かったのは大企業の会員よりも、中小企業(SMB)会員だった。SMBはその事業の性質上、キャッシュフローを迅速に管理することが必要であるというのが一因だが、2020年第3四半期には、SMB向けの売上高が第2四半期に比べ50%増加した。
WeWorkを使用する大企業の割合は、パンデミックの期間中にSMBの2倍近くになり、現在ではWeWorkの会員数の半分以上を大企業の会員が占めているのは興味深い。
WeWorkは特定の市場で不動産に新たに投資する速度を緩めるのと同時に、物件を売却することで規模の「適正化」に取り組んでいる。
WeWorkの財務状況に関して言えば、3月2日時点で、同社の債権は株式公開に失敗した2019年夏以来の高値で取引されているという。これは、下落率が約28%の52週安値から大幅に上昇している。
「利回り約10%に対して約92%となっており、債権者は明らかに肯定的に反応しています。ワークスペースを提供するWeWorkの柔軟なサービスが、不動産の将来において有望な役割を果たすという市場全体の信念を、債権者の反応が証明しています」とスポークスマンはTechCrunchに語った。
2020年の3月、WeWorkの債権1ドル(約110円)に対して43セント(約50円)で取引されており、S&P Global(S&Pグローバル)はWeWorkの信用格付けを「投資不適格」に引き下げ、さらなる格下げを警戒して同社に目を光らせている、とForbes(フォーブス)誌は報じた。
この状況にWeWorkは適応しきれていない。シン氏がTechCrunchに語ったところによると、WeWorkの価値提案をさらに拡充するために「Business in a Box(ビジネス・イン・ア・ボックス)」の提供に取り組んでいるという。2020年末、WeWorkは複数の企業と提携し、SMBやスタートアップに給与計算、ヘルスケア、ビジネス保険などのサービス提供を開始した。
「WeWorkを利用するユーザーの多くがビジネスを拡大させています。当社はビジネス面での主要サービスを提供し続けています。その一方で、中小企業で管理が煩雑になりやすく、コストがかかる人事などの重要な分野でも、サービスをさらに提供できるように取り組んでいます」とシン氏はいう。
さらにWeWorkは、オンデマンドのサービスをグローバルに提供することで、世界中のWeWorkのスペースでユーザーが仕事を進められるように尽力している。
「現在、テレワークの実験が最大規模で進められています。今後、職場に復帰する実験が最大規模で始まるでしょう。当社は非常に有利な位置にいると言えます」とシン氏は述べた。
WeWorkは、一歩先を行く不動産会社になろうとしているようだ。アダム・ニューマン氏が同社を率いていた頃ほどの派手さはないかもしれないが、需要がある安定した会社になりつつある。ただ、多くのことをあまりにも短い期間で進めようとしているのではないか?
今後の展開が楽しみだ。
画像クレジット:KAZUHIRO NOGI/AFP / Getty Images
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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)