コンピュータビジョンを利用して動画の特定部分のみにエフェクトをかけられるスマホ向け編集アプリ「Vochi」

ベラルーシを拠点とするスタートアップのVochiが、150万ドル(約1億6000万円)のシード資金の調達に成功した。同社は、スマートフォン向けにコンピュータービジョンベースのビデオ編集・エフェクトアプリを開発している。

今回のラウンドは、Genesis Investmentsがリードした。ウクライナ拠点のこのベンチャーキャピタルは、ダイエットアプリなどを開発するBetterMeや、アフリカでオンラインクラシファイド広告サービスを運営するJijiなどに出資している。なお今回の調達は、2019年4月のBulba Venturesからのプレシード時の資金調達に続くものだ。ちなみにVochiの創業者でCEOのIlya Lesun(イリヤ・レスン)氏は、創業以前にBulba Venturesでプロダクトアナリストして働いていた。

TikTokのようなショートムービープラットフォームが急成長している中でレスン氏は、クリエイターが差別化を図るのに役立つ簡単に動画編集ができるモバイルアプリ開発に乗り出した。

Vochiはコンピュータービジョン・テクノロジーをベースにした独自のアルゴリズムでビデオ内の単一の対象を切り出し、その部分だけに各種のエフェクトを適用できる。これによりスタイルやシナオリの組み合わせをリアルタイムで試せるので、ユニークな動画を作るチャンスの幅がかなり拡がる。高度なデスクトップソフトを使って精細度の高い動画処理をするには多くの時間とコンピューティングパワーを必要とする。モバイルデバイスでこの効果が簡単に得られ、公開前にプレビューもできるのはクリエイターにとって非常に有用だ。

レスン氏はTechCrunchの取材に対して「モバイルコンテンツの制作、視聴が拡大するにつれ、作成ツールの需要も高まっている。多様な機能を備えたビデオ編集ツールははプロ、アマ、ホビイストを問わずコンテンツのクリエーターに価値をもたらすことができる。Vochiはユーザーのポケットに収まるコンテンツ編集スタジオだ」と語る。

「Vochiのプロダクトとライバルの最も大きな差は、ビデオ内のオブジェクトに適用するエフェクトやフィルタなどにコンピュータ・ビジョンを使っていることだ。Vochはアルゴリズムによって動画内の特定のオブジェクトに分類できるので、その部分だけを編集できる。1080pのビデオのオブジェクトにリアルタイムでエフェクトを与えることができる」と同氏。

ターゲットに想定しているのはコンテンツクリエイター、つまり動画をスマートフォンに保存して終わりにするのではなく、ソーシャルメディアに頻繁に動画を投稿するユーザーだ。

「ビデオブロガーやインフルエンサーは視聴者の目を引きつけるような意外性のある動画を必要としている。面白い動画を作って友達と共有したいクリエイティブなユーザーもいるだろう。しかしもちろんスマートフォンのユーザーなら誰でも簡単にこのアプリを使うことができる」と同社は説明する。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook

VCファームPartechが100億円規模のシード期投資専門ファンドを立ち上げ

VCファームのPartech(パーテック)がシード期の投資を専門とする新たなファンドを立ち上げた。Partech Entrepreneur IIIという名称の新ファンドは同社にとって3つめのシード投資ファンドとなる。前のファンドのクロージングを発表したのは2016年12月のことだ。

PartechはプレシードからプレシリーズAまで、かなりアーリーステージにある企業を投資している。スタートアップのステージに応じて、わずか数十万ドル(数千万円)から最大数百万ドル(数億円)までの投資に応じる。そして同社は好調なスタートアップについては、その後に訪れるシリーズA、シリーズBでの再投資に積極的だ。

Partechは特に6つの分野にフォーカスしている。健康、労働、商業、金融、モビリティ、コンピューティングだ。かなり大雑把な分類だが、Partechはシード投資を専門とする投資家10人で構成するチームを有する。投資家らはパリ、サンフランシスコ、ベルリンに拠点を置いている。

過去にPartechは3つのシード投資を通じて22カ国で投資160件をクローズした。同社はフィードバックや紹介を行なったりポートフォリオの拡大を手伝ったりすることができる400人もの創業者のコミュニティを抱えている。そうした創業者たちの3分の1がシード投資のリミテッドパートナーだ。

投資160件のうち、スタートアップの17%で共同創業者の少なくとも1人が女性となっている。過去2年間でPartechが支援したスタートアップの29%のシード期に女性の共同創業者がいた。

Partechはここしばらく今回のファンドの立ち上げを展開していて、つまりファンドの一部を既に投資している。同社は新たなファンドを通じてスタートアップ40社以上に投資し、ここには新型コロナウイルス(COVID-19)による経済危機が始まってから投資を開始した10社が含まれる。

Partechが以前投資した企業には、Aiden.ai、Dejbox、Frontier Car Group、Pricematch、Streamroot、Alanなどがある。

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(翻訳:Mizoguchi

注目が集まるオンラインイベントのプラットフォームを提供するRun The Wolrd

このところ毎日、イベントがキャンセルされたニュースを聞く。もちろん新型コロナウイルスに対する懸念が原因だ。Microsoftはゲーム開発者のカンファレンス、GDCへの参加を取り止めたと発表した。Facebookも5月に予定されていたF8 2020の開催をキャンセルした。

F8はFacebook最大のイベントであり、毎年大勢の参加者を集めてきただけにキャンセルの影響は極めて大きい。 Facebookはイベントのオフラインで行うものを中止したものの、他はオンラインでストリーミングする計画だ。

Facebookであれば、こうした大規模イベントのオンライン化は社内のテクノロジーを利用して行えるだろう。しかしそうしたリソースを社内にもたない場合、新しいオプションがある。社員18人、創立1年半になるRun The Worldは台湾と中国にもエンジニアのチームを持つマウンテンビューのスタートアップだ。

Run The Wolrdはオンラインイベントの組織、運営に必要な参加登録、チケット販売、ビデオカンファレンス、ソーシャルネットワークなどを含むプラットフォームを提供する。パンデミックに対する懸念からイベントのオンライン化を考えている主催者には理想的なサービスだ。

このスタートアップに対する最大の投資家はシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタル、a16nとして知られるAndreessen Horowitzで、すでに430万ドル(約4億6500万円)のシード資金を投じている。株主にはGSR Ventures、Pear Ventures、122 West Ventures、Unanimous Capitalに加え、エンジェル投資家でFacebookグループのCalibraのバイスプレジデントであるKevin Weil(ケビン・ワイル)氏、Patreonの共同ファウンダー、Sam Yam(サム・ヤン)氏、Jetblue Airwaysの会長であるJoel Peterson(ジョエル・ピーターソン)氏らが参加している。

写真左のRun The Worldの共同ファウンダー、CEOのXiaoyin Qu(シャオイン・ク)氏はFacebookとInstagramでエンタテインメント関係のプロダクトのリーダーを務めた。ク氏によれば「エンタテインメント分野のインフルエンサーやクリエーターに関係あるすべて」を扱ったという。

ク氏はスタンフォード大学のMBAを中退して、写真右のXuan Jiang(スアン・チアン)氏とともにこのスタートアップを始めた。チアン氏はFacebookでク氏の元同僚でジョージア工科大学のコンピュータ科学の修士だ。Facebookではイベント、広告、ストーリーの上級エンジニアだった。

Andreessen Horowitzのジェネラル・パートナーのひとりででこの投資をまとめたConnie Chan(コニー・チャン)氏にク氏について教えられ、私はク氏に2月27日にインタビューすることができた。

ク氏によれば、このスタートアップを始めたきっかけは中国で医師、医療研究者として働く母親の体験だった。2018年に髄膜炎の専門家としてシカゴのカンファレンスに参加したとき、やはり髄膜炎を研究しているドバイの医師と知り合い、貴重な知見を交換することができた。

シリコンバレーの起業家やジャーナリストのようにいつも世界を飛び歩いている人間にはさほど特別な経験には思えないが、ク氏の母親にとっては大事件だった。中国からの出国手続き、アメリカのビザ取得の煩雑さはいうまでもなく、チケットの購入や宿泊にはひと財産が必要で、旅行時間も非常に長い。しかもこの旅は35年の医師生活で初めての海外出張だったという。

ク氏は「スタンフォードだったら毎日のようにカンファレンスが開かれているので、キャンパスを歩いていれば避けるのが難しいくらいだ」とジョークを言う。

多くのファウンダーと同様、ク氏も自分自身や身近な人々が現実に遭遇した「痛点」を解決するために創業した。ク氏の場合は、母親が中国にいながらリモートワークで参加し、髄膜炎の研究に役立つ情報を得られるオンラインで行われるカンファレンスのプラットフォームを作ろうとした。

このプラットフォームの提供は図らずも絶好のタイミングとなっている。現在、多くの人々が集まるイベントを計画している主催者はRun The Worldが提供するようなオンラインイベントへの切り替えを真剣に検討しているところだ。

ク氏のスタートアップが実際にサービスの提供を始めたのは4カ月前に過ぎないが、すでに数十回のイベントをホストしており、予定されているイベントは数百にも上る。ク氏によれば、ユーザーの1社は wuhan2020という武漢のオープンソースコミュニティーで、新型コロナウイルス対策に役立つソリューションを求めて3000人以上のデベロッパーがリモートワークによるハッカソンを実施している。

このプラットフォームはラオスにおけるゾウの保護に関するカンファレンスを実施し、2週間で15カ国から3万ドル(約324万円)の寄付を集めることができた。主催者は乏しい予算しかなかったが、まったくムダのない低予算でオンラインイベントを開催し、経済的に余裕ある人をはじめとした多くの人々から寄付をつのることができた。

Run The Worldはこうした小型、低予算のイベントを効率的にホストできるのも強みだ。たとえばエンジニア向けにデートのテクニックをコーチするというイベントではわずか40人を対象にしたワークショップを開催することができた。ク氏によれば主催者は1300ドル(約14万円)の収入を得ることができた。

このスタートアップのビジネスモデルはごく単純で、カンファレンスのチケット販売額の25%を得るのと引き換えにイベントの主催に必要なサービス一切を提供する。これにはカンファレンスの紹介、告知のテンプレートから参加登録、チケットの販売と支払い(Stripeを利用)、カンファレンスのストリーミング、専用のソーシャルネットワーク、イベント終了後のフォローアップなどが含まれる。さらに現実のカンファレンスにおけるカクテルパーティーをオンライン化した参加者同志をマッチングして数分間親しく会話できる機能も含まれる。

【略】

Run The Worldが規模を拡大すれば「(副作用を取り除くための)新しい方法を考えねばならないだろう」とク氏は言う。

FacebookとInstagramにおける経験が、プラットフォームの構造や成長を勢いをづけるビジネスモデルについての洞察を与えたことは間違いない。ともあれク氏は「200万人を集めるイベントを扱いたいとは思わない。むしろ50人が集まるイベントを200万回扱いたい」と述べた。

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滑川海彦@Facebook

ウォンテッドリーがAIやロボティクス分野でシード投資、「Wantedly AI/Robot Fund」立ち上げ

ビジネスSNS「Wantedly」などを展開するウォンテッドリーは1月15日、AIやロボティクス分野のスタートアップに出資するプロジェクト「Wantedly AI/Robot Fund」を開始することを明らかにした。

出資の対象となるのは主にAIおよびロボティクス分野において技術や事業の研究、開発、提供を行うシードステージのスタートアップ。出資規模は1件あたり数百万円から数千万円程度の予定だ。ファンドという名称ではあるが、投資事業有限責任組合によるファンド組成や子会社設立はなく、ウォンテッドリー本体から直接投資をするスタイル。この点についてはメルカリの「メルカリファンド」と同様だ。

今回ウォンテッドリーがAIおよびロボティクス分野向けのシード投資を開始する背景には、技術主導型のスタートアップが事業化前の段階で「死の谷」を越えられず、なかなか前に進めない例が多い現状があるという。

同社の場合も創業・経営経験を持つ経営者、投資家からの助言や支援が事業の拡大に繋がったことから、Wantedly AI/Robot Fundを発足。シード期の出資に加えて次ラウンド以降の資金調達支援、プロダクト開発や組織開発などのノウハウ提供やメンタリングを通じてスタートアップの成長をサポートする。また支援内容にはウォンテッドリーが提供するサービスの割引や無料提供、サービス間の連携なども含まれる。

 

“打率”5%も当たり前―、9割のVCに断わられる前提で資金調達を効率的にクローズするには?

moneygrowth

【編集部注】執筆者のNathan Beckordは、VCの投資を受けたスタートアップFoundersuiteのCEO。同社は資金調達を行う起業家向けに、CRMや投資家とのコミュニケーションを促進するツールを開発している。

年の変わり目は、起業家の間にも新しい風を吹かせる。新しい会社を設立したり、新たなプロダクトを開発したり、資金調達したりと、彼らに何か新しいことへチャレンジさせる力が新年にはあるようだ。

もしもあなたも、新たに資金調達を行おうと思っているならば、是非この記事を参考にしてほしい。それでは、早速はじめよう。

ステップ1:投資家候補をかき集める

資金調達は数のゲームだ。設立した会社がSnapchatくらいのレベルで成長していたり、これまでに複数の企業を上場させた経験があったりしない限り、起業家はたくさんの投資家にアプローチしなければならない。

「たくさん」の投資家にだ。

そのため、資金調達における最初のステップは、150〜200人ほどの投資家リストを作ることからはじまる。

資金調達の一般的な「打率」(プレゼンの数に対するコミットメントの割合)は、5%と言われている。ここから逆算すると、10人のエンジェル投資家にシードラウンドへ参加してもらいたいとすれば、まず200人をリストアップしなければいけない。

AngelListやFoundersuiteなどの無料サービスを使えば、投資家を分野や所在地から検索することができる。またCrunchbaseを使えば、自分たちのスタートアップに似た(競合ではない)企業を検索でき、そこから投資家情報も確認できる。関連キーワード・フレーズを使って(例:SaaS企業への投資で有名なVC/エンジェル投資家は?)、Quoraから投資家を探すというのも手だろう。

PitchBookMattermarkCB Insightsといった有料データベースには、さまざまな検索・フィルタリング機能が搭載されている。他にもTechCrunchPE HubTerm SheetInside Venture CapitalVenture Pulseといった、資金調達関連の情報を掲載しているニュースサイトやウェブマガジンも参考になる。

ステップ2:候補を絞る

資金調達は営業プロセスそのものだ。そして優秀な営業マンは、誰にどのくらいの時間を使うかというのを強く意識している。

この考え方は、営業と同じくらい(もしくはそれ以上に)資金調達でも重要になってくる。サンフランシスコからメンローパークまで1時間半かけて移動したのに、会いに行った「シード投資家」は20万ドルのMRR(マンスリーランレート)を求めていたり、そもそも新規の取引をやっていなかったりすると目も当てられない。

無駄になった半日という時間は、スタートアップ界では永遠に感じられるほど長い時間だ。

だからこそ、時間の無駄や頭痛や不安の種を減らすために、ステップ1で集めた投資家候補をしっかりと評価し、絞り込んでいかなければいけない。リストから候補者を外す際には、以下のような基準を参考にしてほしい。

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もともとのリストから、大体25〜30%くらいの数まで投資家候補を絞りこめれば、まずまずといったところ。きちんと候補を絞ることで、実際に投資家へコンタクトしだしたときの打率がかなり上がるようになる。

ステップ3:アプローチ方法を考える

このステップの目的は、ステップ2で絞り込んだ各投資家へのアプローチ方法を考え出すことだ。

最も有効なのは、共通の知人を通じた紹介だ(さらにその知り合いによって、投資家が過去に儲けを出していればベスト)。

ある投資家との繋がりを確認するためには、その投資家の名前をLinkedInの検索欄に入力し、1次もしくは2次コンタクトの中にその人がいないか確認すればいい。

もしも共通の知人がいないときは、アプローチしたい投資家のポートフォリオに含まれている企業のファウンダーにメールを送ってみるという「攻略法」もある。その際は、まず信頼関係を築くために、投資家がどんな人だったかや、どんな手助けをしてくれたかといった話をして、その後に紹介をお願いした方が良い。

最後の手段が、紹介無しで直接投資家にメールを送るという方法だ。この方法をとっているスタートアップを多く見かけるが、返信が来る確率が1%以下というのもザラだ。

ステップ4:進捗管理のためのシステムとプレゼン資料を準備する

これまでのステップで、投資家のリストを作って、その絞り込みを行い、各投資家へのアプローチ方法を考えだした。次は、実際に資金調達を行うための準備だ。

各スタートアップには、進捗管理システムを構築することを私は強く勧めたい。アプローチしようとしている投資家の数が多いため、投資家の名前や交渉の段階、会話の内容、確認事項やToDoといった事項の管理がかなり複雑になってくる。

ミーティング1回当たりに3つ、4つ確認事項が出てくるとして、100〜150人/社の投資家を相手にすると考えると、その複雑さがわかるだろう。

投資家候補や彼らとの膨大な数のやりとりを管理するためのシステムが必要だ。

多くのスタートアップがExcelやGoogle Docsを使って進捗を管理しているが、1週間もすればスプレッドシートがさまざまな情報で溢れかえってしまうことがよくある。

そこで最近流行っているのが、「かんばんボード」メソッドだ。各投資家を「カード」にして、新規→プレゼン済み→デューデリジェンス→コミット(または交渉決裂)と、交渉の段階に応じてカードを動かしていくというのがこの管理方法の概要だ。ファウンダーに人気のかんばんボードを利用した管理ツールとしては、FoundersuiteやPipedriveTrelloなどがある。

他にもSalesforceなどのCRMを、投資家情報管理の目的で使っている企業もある。どのサービスであれ、投資家候補や彼らとの膨大な数のやりとりを管理するためのシステムを導入すべきだ。

もうひとつこのステップで準備するのが、10〜20ページのプレゼン資料だ。別途1、2ページで、エグゼクティブ・サマリーと予測財務諸表を入れておくことも忘れないように。

プレゼン資料は、交渉時の「主力」として常に必要になる重要なアイテムだ。アドバイスが必要な人は、このガイドが参考になる。またインスピレーションが必要であれば、ここで有名スタートアップのプレゼン資料を見ることもできる。

ここまで準備ができたら、ステップ5へ進む前に、友人やアドバイザー、弁護士、知り合いの投資家を相手に、最低5回は通しでプレゼンを行ってほしい。資金調達中はプレゼン資料を絶えず調整していくことになるので、フィードバックを集めて資料を改良するという習慣をこの段階で身に付けておいた方が良い。

ステップ5:投資家とのミーティング(複数を同時並行で)

投資家候補のリストと管理システムが整い、ようやく本格的に資金調達をはじめる準備ができた。

このステップでは実際に投資家へアプローチし、契約獲得に向けて勢いをつけていく。

まずは、投資家の紹介に応じてくれた知人へメールを送るところからはじめよう。参考メールが以下だ。

題名:投資家紹介のお願い

本文:Jeffへ

自分で立ち上げたスタートアップの資金調達を今やっていて、Jeffが<Xさん、Yさん、Zさん>とLinkedInで繋がってるのを見たんだけど、簡単に紹介してもらえない?

次に、Jeffが紹介できると答えた投資家ひとりひとりについて、新しく簡潔なメールで紹介をお願いする。<>で囲われたところには、自分の会社の情報を入れて使ってほしい。

題名:<Felicis Ventures>の<Aydin Senkut>紹介のお願い|<Acme Analytics シードラウンド:毎月28%成長中>

本文:Jeffへ

現在Acmeで<100万ドル>のシード資金を調達しています。私たちは<商業用ドローンのための解析・支払ソフトを開発しています>。既に<69社の法人顧客>がいて、売上は毎月<28%>伸びています。

<Aydin>のアプローチやポートフォリオ(<例:Flexport>)は、私たちの会社と関連性が高く、是非一度お話したいと考えています。

Acmeの資料はこちらからご覧頂けます。
以上、宜しくお願い致します。

Jennifer

上記のように、会社概要に加えて、投資家にとって魅力的だと思われる指標やアピールになりそうな情報、さらにその投資家と話がしたい理由を3つのセクションに別けて書けば十分だ。

このメールを受け取ったJeffは、転送ボタンを押して、投資家に実際に会いたいか(オプトインのアプローチ)聞くだけでいい。こうすることで、Jeffはほとんど時間をかけず、かつ彼の大事なソーシャル・キャピタルを無駄遣いすることなく、Jenniferを投資家に紹介できる。

紹介者の忙しさと人脈の広さには相関関係があるため、紹介者の負担を減らすというのは極めて重要なことなのだ。

そして、リストに含まれている投資家全員分、上記のプロセスを繰り返す。これまでのステップの各項目をしっかりと行い、投資家が求めるものとプレゼン内容がある程度合致していれば、カレンダーはすぐに投資家とのミーティングで埋まっていくだろう。

ステップ6:ミーティングを繰り返しながら前進あるのみ

ここからが資金調達の本番だ。このステップでは、さらに勢いをつけていかなければならず、そうするための1番の方法は、ミーティングをたくさん行うことだ。毎日、毎週、資金が調達できるまで投資家とミーティングを重ねよう。

投資家はファウンダーの熱を感じることができ、それがファウンダーの自信に繋がり、さらにそれがスタートアップ自体の魅力を引き立たせる。逆に、資金調達が長引いてプレゼンの勢いが落ちると、投資家もそれを感じ取ってしまう。

ミーティングの形式は、カフェでのカジュアルなものから、オフィスでの正式なもの、スカイプを通じたものまでさまざまだ。ほとんどの場合、ミーティングの時間は30分から1時間くらいになる。挨拶を終えたら、まず忘れずに紹介者の話をして、もしも紹介者と親しい関係にあれば知り合ったきっかけについても触れるようにする。

プレゼンの流れはそのときどきで変わってくるが、重要な点はしっかりカバーできるように話を進めたい。

1、2分の間小話をしたら、いよいよプレゼンを開始する。私は投資家にどんな形でプレゼンを行えばいいか尋ねることが多い。「どのようにお話すればよいでしょうか?資料に沿ってお話するか、まずデモからお見せするか、このままお話をつづけましょうか?」といった感じで質問し、投資家をプレゼンに巻き込むのも手だ。

直接会わずにプレゼンを行うときは、画面共有ソフトをしっかりと準備し、ビデオ会議システムのソフトのアップデートに10分も浪費してしまうようなことがないようにする(実際にこれはよく起きる)。

プレゼンの流れはそのときどきで変わってくるが、重要な点はしっかりカバーできるように話を進めたい。さらに投資家からも、投資先企業にどのような価値を提供しているか(一般的な「付加価値」)や、投資が決まったら自分たちのスタートアップをどのようにサポートしてくれるかなどについて話を聞くことをオススメしたい。

そして「どのくらい興味を持って頂いていますか?」や「投資を決めるまでに、どのようなプロセスをとられていますか?これ以降のステップはどのようになっていますか?」といった質問でミーティングを締めくくる。

(この時点で、ステップ4で構築した進捗管理システムの存在に感謝することになるだろう。どういたしまして)

ステップ7:クロージングに向けて

20回もミーティングを繰り返せば、資金がすぐに集まりそう(約2ヶ月)か、時間がかかりそう(3〜6ヶ月)かなんとなく掴めてくるだろう。ほとんどの企業は後者のため、心配する必要はない。

ミーティングが上手く進めば、段々と投資家からも深い話がでてくるだろう。つまり彼らが興味を持っていれば、話題が評価額や投資条件へとシフトしていくはずだ。その後、プライスドラウンド(投資実行前の評価額が決まっている場合)であればタームシートを、コンバーチブルノートを発行する場合は、コミットメントレターを投資家から受け取ることになる。

一方で、15〜20回ミーティングを繰り返した後にタームシートをもらえなくても、諦めてはいけない。資金調達は数のゲームだ。ステップ1で触れた「打率」を覚えているだろうか?プレゼン数に対するコミットメント数が5〜10%であれば問題ないのだ。この数字を逆から見ると、90〜95%の確立で投資家に断られるということになる。だからこそ、断られるのもプロセスのうちだと割り切り、まだやりきっていないうちに諦めてはならない。

意思の弱いファウンダーはすぐに諦めてしまうが、賢いファウンダーは諦めどきを知っている。一般的に言って、最低でも50人/社の投資家と話し、それでも何の興味も持ってもらえないようであれば、一旦資金調達は諦めて、もっとトラクションを獲得してから再挑戦した方が良いかもしれない。

そうでなければ、パイプラインに残っている投資家と頻繁に連絡をとって、どうにか話を進めよう。自分の会社の最新情報や新機能を知らせるメールを送っても良い。ゴールは投資家から何らかの回答を受け取ることだ。もしも答えがNOであっても、パイプラインからその投資家の名前を消すことができる。粘り強さと少々の運があれば、きっと誰かが良さに気づいてくれるはずだ。

初めてのタームシートを受け取ったら、それを利用して他のファンド(やエンジェル投資家)に決定を急がせよう。口頭でのOKをもらったら、Paul Grahamのハンドシェイクディールの手順(The Handshake Deal Protocol)に従って、確約を得るようにする。コミットメントやタームシートの数が増えるにつれて契約力が強まり、クロージングは近づいてくる。

最後に

以上が資金調達のプロセスだ。無事クロージングを迎えたあとは、同僚や紹介者と祝杯をあげるなど「クローズ後の栄光」を楽しんでから仕事に戻ろう。次のラウンドは、もう12〜14ヶ月後に控えている。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter