ザンジバルの住民にブロックチェーンで構築されたモバイルネットワークを届けるWorld Mobile Group

インターネットの急激な普及により、世界が急速にグローバル・ヴィレッジ(地球村)へと移行する中、一部の人々は、遠隔地にいるために取り残されやすい状況に置かれている。例えば、東アフリカの自治島であるザンジバルの大半の地域では、地上ケーブルや衛星ネットワークによるサービスが不足しており、人口の大部分がカバーされていない。しかし、世界的な通信事業者であるWorld Mobile Group(ワールド・モバイル・グループ)の計画が具現化すれば、今後数カ月のうちにザンジバルの住民たちの多くが初めてインターネットに接続することになるだろう。

World Mobileは、自由空間光通信やその他の無線送信機などのスペクトルを使用して、ラストマイル接続のインフラストラクチャを構築している。こうしたスペクトルはライセンスを必要とせず、より低コストのインターネットアクセスを実現できる。

このスペクトルが複数のエアノードに接続してメッシュネットワークを形成し、遠く離れた村へのインターネットカバレッジにつながっていく。

「大陸全体に敷設された光ファイバーは数多くありますが、私たちは光ファイバーのラストワンマイルに着目し、自由空間光学やその他の無線帯域のような、ライセンス不要の代替スペクトルを使用しています」と、World Mobile GroupのCEOで創業者のMicky Watkins(ミッキー・ワトキンス)氏はTechCrunchに語った。

ワトキンス氏によると、ライセンスを必要としない代替スペクトルを利用することで、大幅な節税効果が得られ、ユーザーにとってより安価なインターネット環境を生み出すことができるという。

「これらの代替スペクトルを使用してバックホール(アクセスノードとコアネットワーク間の接続)を構築し、人々がそのバックホールから受信できるデバイス(ノード)を作成します」とワトキンス氏。

持続可能性に向けて、このエアノードは約7000ドル(約79万円)の一時費用で民間主体が所有することになる。人々がそのアクセスポイントを介してインターネットに接続することで、収入、あるいは同通信事業者の暗号資産であるWorld Mobile Token(WMT)の形で報酬を受け取り、その初期投資は経時的に回収されていく。またこのネットワーク事業者は小規模金融機関と協働しており、ノードを購入する起業家に資金の融資を提供する。

各エアノードは、500〜700人に信頼性の高いWi-Fiインターネットを供給する。また、統合された太陽電池式投光器による公共照明などの補助的なユーティリティも備えている。

シェアリングエコノミーの概念は、メンテナンス、セキュリティ、リースにかかる運用コストを削減すると同時に、自立したビジネスモデルを支えるものだとワトキンス氏は述べている。

「今では住民に選択の余地があります。家畜を所有するのか、それとも電気通信インフラの一部を所有して電気通信プラットフォームを運営する方が良いだろうか?この選択肢はかつてなかったものです。それゆえ私たちは、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)と同じように、シェアリングエコノミーモデルの下で運用を進めています」。

World Mobileは現在、5つのパイロットサイトで約3000の顧客にサービスを提供しているが、コネクティビティへの取り組みを加速させるため、2022年1月までに30サイトに拡大する計画だ。

ワトキンス氏によれば、現在のユーザーがインターネットの利用に費やす金額は月に4ドルほどだという。同事業者は、ユーザーがインターネットに接続するためにフィアット通貨の現金を投入したり、あるいは同社のデジタル通貨であるWMTを購入したりするベンダーのネットワークを有している。

World Mobileは、ザンジバルを5年以内にカバーするという野心的な計画を抱いている。150万人の全人口がインターネットを利用できるようにし、Zanlink(ザンリンク)のような従来のネットワーク企業や、通信ネットワーク拠点および通信事業者として知られるGlobalTT(グローバルTT)などの衛星インターネット企業との競争に乗り込む。

「海岸線全域、そして本土(タンザニア)とザンジバル境界との間を含む、ザンジバル全体でのコネクティビティを可能にするパイプラインを通じて、IoTの実装や人々のためのコネクティビティを確保する複数の取引が進んでいます」とワトキンス氏。

同社は、すでに操業を開始しているケニアとタンザニアで、今後数カ月のうちにこのネットワークを本格展開する予定だ。

ワトキンス氏はこう語る。「これは1つのムーブメントであり、住民たちが運営する世界最大のモバイルネットワークになる可能性があります。これまで誰も行ったことがないものです。それこそが、私たちの目指していることです」。

ザンジバルは東アフリカの自治島で、人気の観光地だ。World Mobile Groupは、接続されていないユーザーをオンラインにするためのラストマイル接続インフラを構築している(画像クレジット:World Mobile Group)

コネクティビティを活用したデジタル経済構築へのザンジバルの取り組み

インターネットに接続する市民の増加にともない、ザンジバル政府はデジタル経済のフレームワークの導入を開始した。この計画は10年余り棚上げされていたものである。

同政府が構想し現在進行中の数多くのアイデアの中には、コネクティビティを活用してブルーエコノミーを成長させること、そしてザンジバルのブルーエコノミーを違法な漁労者から守るソリューションを開発することが含まれている。

ザンジバルの海洋ベースの活動は、労働力の33%に雇用を提供し、島のGDPの29%超に貢献している。しかし、より優れたテクノロジーの力で、海洋ベースの富からさらに多くのことを実現できる可能性がある。

コネクティビティはまた、すべての管理タスクとプロセスの自動化につながるインフラストラクチャの構築にも寄与する。政府と市民、企業、従業員、政府機関との相互作用を可能にする電子政府システムが確立されることになる。この投資により、サービスや情報を求めて物理的にオフィスを訪れる必要がなくなった市民にとって、政府がよりアクセスしやすいものになるだろう。

「新政権はデジタル変革に真剣に取り組んでいます。そこに到達する必要があるのです。ただし、まず第一に、誰もが手頃な料金でインターネットにアクセスできるようにしていく所存です」と、E-Government Agency of Zanzibar(eGaz、ザンジバル電子政府機関)の事務局長Said Seif Said(サイード・シーフ・サイード)氏は語っている。

同機関は、公的機構全体におけるICTの普及を強化する政策、基準、その他の慣行を推進するために設立された。

「統合されたブルーエコノミーマネジメントシステムのような、新たなソリューションを導入する可能性があります。衛星自動識別システム、船舶マネジメントシステム、ドローンなどが含まれるものです。いずれの要素も、違法な未報告漁業や未登録漁業の問題の解決を目的としています。これらすべてのテクノロジーに、適切なコネクティビティが必要です」。

デジタル化の緊急性は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより部分的に拍車がかかり、ザンジバルのデジタル政府とデジタル経済の計画を加速させた。ザンジバルは現在、こうした移行に向けてペースを速め、失った時間を埋め合わせようとしている。

「新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、あらゆることを行う上での方法に大きな変化が生じました。市民が必要なことを自宅で行えるよう、支援する体制を整えなければなりません。ICTを適切に活用し、手の届きやすい、効果的かつ効率的な方法で、国全体の行政サービスにアクセスできるようにする必要があります。そこで、World Mobile GroupとInput Output Global(IOG、インプット・アウトプット・グローバル)との連携が重要な役割を担っています」とサイード氏は続けた。

今回の提携では、Cardano(カルダノ)ブロックチェーンを支えるブロックチェーンおよびデジタルID企業のIOGが「追跡可能なデジタル識別」を提供する。レジストリシステムにブロックチェーンテクノロジーを実装し、ザンジバルのシステムの自動化を進めていく。また、バックエンドの政府システムを統合して、ビジネスプロセスの自動化を可能にし、政府機関内のコミュニケーションフローの促進を図る。

World Mobileの加入者は、教育、銀行、医療などのサービスに向けたIOGのデジタル識別ソリューションAtala PRISM(アタラ・プリズム)にアクセス可能となる。

一方、ザンジバルはブロックチェーンアカデミーを立ち上げ、2022年の初めには、ブロックチェーンの未来の中心地となる観光地として自らを位置づけ、カンファレンスを開催する予定である。

画像クレジット:World Mobile Group

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(文:Annie Njanja、翻訳:Dragonfly)

NTT・東大・理研がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

日本電信電話(NTT)は12月22日、東京大学理化学研究所と共同で、ラックサイズで大規模光量子コンピューターを実現するための基幹技術となる光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)モジュールを開発したことを発表した。これは、冷凍装置や真空装置を必要とせず、実用的な小型化が可能な量子コンピューターとして期待される光量子コンピューターの実現に欠かせない技術だ。

光量子コンピューターは、時間的に連続的な量子もつれ状態を作ることで、集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができるというもの。光の広帯域性を活かした高速な計算処理が可能で、多数の光子で量子ビットを表す手法を使えば、理論的には光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正が可能になるという。

しかしこれまで、光量子コンピューターの実現に必要となる光ファイバー結合型の高性能な量子光源、つまりスクィーズ光源が存在しなかった。たとえば、大規模量子計算を実行できる時間領域多重の量子もつれ(2次元クラスター状態)の生成には、65%を超える量子ノイズ圧搾率が必要となる。

NTT・東京大学・理化学研究所がラックサイズの大規模光量子コンピューターを実現する基幹技術「光ファイバー結合型量子光源」開発

実際のサイズ感

そんな中、NTTなどからなる研究グループは、低損失な光ファイバー接続型量子光源モジュールを開発し、光ファイバー部品に閉じた系において、6THz(テラヘルツ)以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズ光の生成に世界で初めて成功した。これにより、光ファイバーと光通信デバイスを用いた安定的でメンテナンスフリーの「閉じた系におけるラックサイズの現実的な装置規模」での光量子コンピューターの開発が可能になるという。この方式は光通信技術と親和性が高く、通信波長帯の低損失な光ファイバーや光通信で培われた高機能な光デバイスを用いることができるため、飛躍的な発展が期待できるとのことだ。

今回の実験では、1つ目のモジュールでスクィーズ光を生成し、2つ目のモジュールで光量子情報を古典的な光の情報に変換するという新しい手法を用いた。量子信号を光のまま古典的な光信号に増幅変換できるため、非常に高速な測定が可能になった。これは将来の全光型量子コンピューターに適応が可能で、「テラヘルツクロック周波数で動作する圧倒的に高速」な全光型コンピューターの実現に大きく貢献するという。

国立がん研究センターが8K腹腔鏡手術システムによる遠隔手術支援の有用性を確認

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

国立がん研究センターは11月2日、8K映像システムを使った腹腔鏡手術のリアルタイム映像を送受信して手術指導を行う世界初の実証事件により、その医学的有用性が確認されたことを発表した。また、遠隔支援(指導)により外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮されることも確認できた。

これは、日本医療研究開発機構(AMED)「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援による、国立がん研究センターとNHKエンジニアリングシステムなどによる共同研究。実験では、NHKエンジニアリングシステムと池上通信機が共同開発した小型の8K内視鏡カメラと、オリンパスが開発した8K腹腔鏡手術システムが使われた。手術室を想定した千葉県の実験サイトで、動物の直腸切除手術を行い、その様子を光ファイバーや5Gなどによるブロードバンドで京都府の京阪奈オープンイノベーションセンターに送信。外科医3名で手術を行ったが、遠隔支援がある場合とない場合との手術技術の改善度を評価した。

超高精細映像の「本物に迫る立体感」で、遠隔地でも手術状況を詳細に把握でき、質の高い手術支援が提供できたことで、外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮された。また、映像伝送においては、転送レート80Mbps、遅延時間約600ミリ秒を達成し、十分な性能を確認できた。

これにより、少数の医師での治療が可能になり、若手育成、外科医の偏在の解消などが期待される。今後は、外科医を1名減らした場合の評価、「4K8K高度映像配信システム」への手術映像のアーカイブの開発などを進め、近い将来の社会実装に向けた具体的な計画を策定するとのことだ。

NEC・OCC・住友電気工業が世界初マルチコアファイバーを収容した海底ケーブルを開発、通信の大容量高速化に対応

NEC・OCC・住友電気工業が世界で初めてマルチコアファイバーを収容した海底ケーブルを開発、通信の大容量高速化に対応

日本電気(NEC)は10月4日、OCC住友電気工業と共同で、非結合型マルチコアファイバーを収容した海底ケーブルを、世界で初めて開発したと発表した。これは、ファーバーケーブルの外径を変えずに伝送容量を拡大する空間分割多重技術のひとつ。1本のファイバーケーブルに複数の光伝送路を設けることができるというもの。5Gの普及や各国での相次ぐデータセンターの建設に伴い、国際的なデータ流通量の継続的な増大が予想される。そんな中、この技術による国際データ通信網の拡充が期待されている。

光ファイバーは、光の通り道となるコアの周りを屈折率の違うクラッドという被膜で覆うことで、ファイバーを曲げても光が外に漏れずに効率的に伝わる二重構造になっている。通常、コアは1本(シングルコアファイバー)だが、今回開発されたマルチコアファイバーは、4本のコアがクラッドの中に収められている。ケーブルには、この非結合型4コアファイバーが32本収められるため、最大128コアによる伝送が可能となる。

使用される海底ケーブルは、OCCが製造するOCC-SC500シリーズのLWケーブルと呼ばれるもので、水深8000mに対応する直径17mmの小径ケーブルだ。シングルコアの場合、伝送容量を大きくするにはケーブルを太くしてファイバー収容数を増やすことになるが、今回開発された技術を用いることで、17mmの直径のままで容量が4倍になる。外径が細くて荷重も小さいため、コストが削減でき、敷設の際にはより長いケーブルを船に積み込めるなど、効率が上がる。

NECは、実際の利用を想定した水中の長距離伝送試験を行ったところ、ファイバー単体の試験結果と比較して、光信号パワーの減衰量と、コア間クロストーク(隣接するコア同士の光の漏れ)の光学的特性に大きな変化はなかったとのこと。

今回の開発では、NECは長距離伝送試験の実施、OCCは海底ケーブルの製造、住友電気工業は非結合型4コアファイバーの製造をそれぞれ担当している。このプロジェクトは、総務省の「ICT重点技術の研究開発プロジェクト」における研究開発課題「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発」の技術課題「マルチコア大容量光伝送システム技術」の取り組みの一環として行われている。